刀を持つ騎士(鬼神)   作:カンナム

48 / 48
第47話 初代対当代 剣士と魔族の狭間にて

ーーヴィンテージ屋敷・当主の間

 

 板張りの床の上でアルドは静かに床に腰かけ、陣太刀を右手に持って立てている。

 

 静かだった顔は面を上げ、目を見開いた。

 

「結界が消えたーーか、息子め。どこまでも甘い。かような小僧どもに後れを取るとは」

 

 ゆっくりと膝をついて立ち上がり、アルド・ヴィンテージは紫の瞳を見開いて目のまえに現れた自分と同じ顔をした青年とスキンヘッドの男を見る。

 

「現れたか、俺の子孫」

 

「初にお目にかかります、初代殿。私はアグニ。ヴィンテージ家の当代です」

 

 赤いジャケットを着た自分と同じ顔の男の名乗りにアルドは目を鋭く細める。

 

 その左肩から甲冑腕をしているのを見て、せせら笑った。

 

「貴様のような不具の者が当主? あのアスラとかいう男ーーつくづく俺の剣を馬鹿にしてくれる!!」

 

「……おいおい、初代だか何だか知らんが。ちょっと舐めすぎじゃないですか? うちの当主殿を」

 

 これにラボニが頭を撫でながら言うとアルドはニヤリと笑みを強める。

 

「貴様らのような雑魚が、俺をーーアルド・ヴィンテージの首を取れると? 笑わせてくれる!!」

 

「おやおやーー、好戦的な方だ。話し合うつもりとかは、ありません?」

 

 アルドは、その言葉になにも言わずに陣太刀を抜き放つと同時に斬りかかった。

 

 これにラボニは瞳を鋭くすると腰の刀を鞘越しに抜いて鍔で受け止める。

 

「ーーなに?」

 

「初代殿ーー。アンタは知らんかもしれんが、俺たちヴィンテージの剣士は常に技を磨いている。見え見えの唐竹なんぞ、あくびをしていても止めれますよ」

 

 瞬間、ラボニの強烈な回し蹴りがアルドの腹を打って吹き飛ばす。

 

 後方に宙返りしながらアルドは着地した。

 

「なるほど。今のヴィンテージの者は、足癖が悪いようだな」

 

 淡々と言いながら、アグニとラボニを見比べる。

 

「……ラボニ、すこし下がってくれ。初代殿と話がしたい」

 

「ええ。ですがーー」

 

「分かっている。大丈夫だ」

 

 そう言って下がらせるとアグニは前に出てアルドと向き合う。

 

「初代殿ーー私は、あなたのことを伝え聞いただけですが。あなたが居なければヴィンテージの家は生まれなかった。感謝申し上げます」

 

「……そのような戯言をほざきにきたのか? 民草を皆殺しにするような男の息子が、偉そうに吼えるではないか!!」

 

「……魔族に生まれ変わらせられた村の話をされているのか?」

 

「ほかに何がある? もしやーー数え切れん犠牲の果てに、あのような村はいくらでもあると言いたいか!?」

 

 強烈な紫のオーラを身にまといアルドは裂帛の気合いを放つ。

 

(なるほど。こいつは凄まじい気だ)

 

 気合は強烈な風となってアグニとラボニを襲うも、アグニはかすかに瞳を細めるのみ。

 

「初代殿、私は父のやり方がすべて正しいとは思っておりません。ですが、父や祖父が居なければヴィンテージの家は王の剣とは成りえませんでした」

 

「つくづく気に入らん。何がーー王の剣だ? 無辜の民を犠牲にして得られる平和など、犬の餌にも劣るわ!!」

 

「……それでも、救われるものも居るのです。いや、救われたのです。多くの民草が」

 

「小を犠牲にして大を救うというやつか? 俺の剣と名を受け継ぎながら、ずいぶんと器の小さい真似をしてくれたものだ」

 

「あなたは…! あなたは、何を救った!?」

 

 その言葉にアグニは正面から問い返す。

 

「あなたがしたのは、自分の家族と同じ村の人間に剣を教えたことだけだ!! その結果救われたのは、あなたの周囲だけ。祖父は、剣を振るい国王を守った! 父は、汚名を着てでもヴィンテージを存続させ、その剣で国を守り続けた!!」

 

「目の前の人間すら救えぬ無能に、国や家名などを語る資格なし。まして貴様のような不具を当主に置くような節穴など、切って捨てるべきものだ」

 

「……ひとつ、ハッキリした。あなたは、殴り倒さないと分からんタイプのようだ」

 

「ようやく理解したか。おめでたい頭だな、当代殿」

 

「ま、一応は敬意を払わないとな。アンタは、開祖でもある…」

 

 口を少し開き、呼吸を新たに変える。

 

 ヴィンテージの剣士が使う身体強化の呼吸術ーー武神息吹。

 

 呼吸法によって全身に気をみなぎらせ、神のごとき力を得るというものだ。

 

 青いオーラを身にまとい、瞳は青く輝いている。

 

「ハァアアアアアアッ!!」

 

 裂帛の気合に、今度はアルドの肉体が震える。

 

 青と紫のオーラを身にまとって二人の剣士は互いに見合う。

 

「ゆくぞ、小童!!」

 

「来いよ、ロートル…」

 

 同時に中央へと駆けて唐竹と胴薙ぎがぶつかり合う。

 

 剣戟のぶつかり合いで、突風が発生し壁や板間の床にひびが入る。

 

「ほう。この剛剣を受け止めるか」

 

「いつまでも、のぼせてんじゃねえよ」

 

 互いに刀を押し合いながら、アグニは一転して受け流すと左脇に移動しながら右の斬り上げを見舞う。

 

 刀を逆さにして鍔で受け止めるアルド。

 

 陣太刀の身巾はアグニの兼貞に勝るとも劣らない剛刀である。

 

 ゆえに互いに競り負けはしない。

 

 秒間10を下らない剣戟がぶつかり合い、火花を散らして互いに横薙ぎを払い後方へ吹き飛ぶ。

 

 距離が離れた瞬間、お互いに袈裟懸けに空を斬って青と紫の光弾を放ちーー互いの中央で相殺した。

 

(なるほど。片腕の剣を主軸に使いつつ、義手も本来の手と変わらんほどに鍛えておるのか。肝心な決める時は左の義手も添えておるーーか)

 

(魔族ーーか。人間の状態よりも力が強いのは厄介だな。斬り合うたびに受け流さないと手が痺れる。おまけに祖父上殿とタイミングが違うから、慣れるまで時間がかかりそうだ)

 

 互いに無傷ではあるが、充分に実力は見れたと言ってよいだろう。

 

 左腕の義手は痛覚がないからこそ、積極的に受け太刀で使いたいが義手の強度の問題がある。

 

 ヴィンテージの本気に義手がどの程度耐えられるかは定かではないのだ。

 

 アグニは不確定要素を嫌う。

 

「ーーフン、なるほど。剣技といい、気の練度といい、確かに当主になるには相応しい力だ」

 

「それは、どうも」

 

 淡々と返すアグニにアルドは不敵な笑みを浮かべる。

 

「生前、この俺の剣と気に食らいつけた男は一人とて居ない。只の人の身で大したものだ。だがーーここから先は、どうかな?」

 

「……なに?」

 

 瞬間、アルドは太陽のような黄金の混ざった赤いオーラを身にまとい、その瞳も赤く染まった。

 

 これにラボニも目を細める。

 

「こいつはーーアドムと同じ力、か」

 

「ほぉ? この力と同じものを操るものが当代当主を差し置いて居るのか」

 

 揶揄するような笑みを浮かべるアルドに対して、アグニは不敵な笑みを返すと刀を正眼に構える。

 

「来いよ。アンタが兄とどれくらい差があるのか、俺が見てやる」

 

「ーーほえたな?」

 

 アルドが一歩踏み出すだけでアグニの着ているジャケットの袖や肩口が割ける。

 

 それほどの鬼気を前にしてもアグニは冷静に相手を見据える。

 

(アスラとやらのように、貴様もなにかを隠しておるようだなーー)

 

「まず、それを見せてみよ!!」

 

 踏み込んで刀を振りかぶるアルドにアグニも刀を正眼に構える。

 

 強烈な唐竹は、さきほどよりも早く踏み込みの速度さえも上がっている。

 

 脳天を割るつもりの唐竹を、アグニは紙一重で横に見切りーー返す刀で胴薙ぎを放とうとして横に吹き飛ぶ。

 

 紙一重で避けた斬撃の余波で肉体が後方へ吹き飛んだのだ。

 

「アグニ!!」

 

(アグニは完全に斬撃を見切った。なのに斬撃の剣風だけで人間が一人吹き飛ぶだと!?)

 

 焦ったようすのラボニを余所に、吹き飛ばされたアグニは空で身を翻して着地する。

 

 も、その背後に赤目となったアルドが移動している。

 

「ちぃ!!」

 

 振り返りながら刀を袈裟懸けに放つアグニに対し、アルドも下から刀をぶつける。

 

 瞬間、アグニは脳裏に受け太刀ごと胴が真っ二つになるところを想像して、ぶつかり合った瞬間とっさに斬撃を横に流す。

 

 同時に地面を後ろに蹴って衝撃を逃しながらバックステップすると、斬撃の余波を体が受け流しながら後方に着地する。

 

「ふぅ…、なかなか気疲れする剣戟だ」

 

(こやつ、俺の斬撃を完全に無効化して受け切ったというのか…?)

 

 それを試さんとアルドはさらに追撃の斬撃を三つ用意する。

 

 唐竹、右袈裟、逆胴の三つを放つも、唐竹は横に避けられ追撃の右袈裟は逆に踏み込まれて威力を殺され、逆胴にあっては自分の頭を跳び越えられて避けられる。

 

 同時にアルドの肩口から血が噴き出ていた。

 

 後方に着地したアグニをふり返ると同時に右肩口を斬られている。

 

「なるほど。まともに受け太刀をすると剣風でダメージを受ける。ゆえに受け流しつつ、カウンターを狙うように斬るーーか。アスラとやらの剣技だな?」

 

「そういえば、父とやり合っていたんだったな。どうりで、そんな浅い傷になるわけだ」

 

 余裕があるアグニに対して、アルドは不敵に笑みを強める。

 

「素晴らしい技と体術だ。赤眼になった俺の力を受け流し、カウンターを当てるとはな」

 

 だが、みるみるうちに肩口の出血は止まりーー裂かれた肉は元通りに戻っていく。

 

「…魔族ってのは、再生もできるのか」

 

「ただの人間の肉体では、俺には勝てんぞ? それにーー貴様の小手先の技術でーー」

 

 言葉を切ると同時にアルドはアグニの目の前に移動している。

 

 無数の紫の斬線が空に描かれて、景色をズタズタに切り裂いていく。

 

「この連撃を防ぎきれるか!?」

 

 同時、アグニは抜刀術を行い横薙ぎで斬撃の檻に触ると左手の義手を刀の柄にそえて無数の青い斬線をくり出す。

 

 すべて受け流せるはずはなく、受け太刀をするしかないーー。

 

 しかし、数度打ち合っただけでアグニの肉体は瞬く間に血飛沫を上げる。

 

 鬼神の斬撃にアグニのーー人間の力では受けきれないのだ。

 

 だが全身を血に塗れさせてもアグニの青い瞳は揺らがずに、アルドの赤目を睨み返すと柄頭での一撃をみぞおちに叩き込む。

 

「……フン」

 

「なに?」

 

 まともに入った一撃に涼しい顔をされ、驚くアグニの腹をアルドは石ころのように蹴り飛ばす。

 

「ぐぁ!?」

 

 地面を両手で引っ搔きながら着地するアグニの前にアルドは踏み込み、陣太刀を振り上げる。

 

「それが限界ならばーー死ぬがいい!!」

 

「アグニ!!!」

 

 ラボニが小柄を指に挟んで投げようとするーーその時、アグニの全身を太陽のような赤い炎が包み込む。

 

「なに!?」

 

 無造作に振り下ろした刀は、あっさりと片手で横に構えられた刀に止められる。

 

 目を見開くアルドに、同じ色の目をした男がニヤリと笑みを浮かべている。

 

「切り札は最後まで見せるなーー。見せるならーー」

 

「き、さーーー!?」

 

 すれ違いざま、アグニの一閃がアルドの胸を斬り裂いた。

 

 仰向けに倒れるアルドを見下ろして、アグニは刀を払い鞘に戻す。

 

「確実に仕留めるときーー。父の教えだ、初代殿」

 

 黄金が混じった太陽のような赤いオーラを身にまとい、鬼神力をまとうアグニが立っていた。

 

 ラボニは、ポカンとした表情でアグニを見ながら言った。

 

「お、お前・・・それ、いつから?」

 

「つい、最近だ」

 

 あっさりと言いながらアグニは青いスパークを赤いオーラに走らせる。

 

 仰向けに倒れ伏したアルドに向かって剣先を突きつけた。

 

「これがーー俺の兄・アドム・ヴィンテージの力だ。格の差は理解できたか?」

 

 冷たい氷のような表情でアグニは淡々とアルドに告げるのだった。

 

 仰向けに横たわったまま、静かにアルドはアグニを見返す。

 

「貴様ーー。何故、とどめを刺しに来ない?」

 

「初代殿。アンタは、勝敗が着いた状態でも決着を望むのか?」

 

 ゆっくりと立ち上がり、アルドは鬼の形相でアグニを見据えた。

 

「剣士として決着をつけずに勝敗などーーあり得ぬわ!!」

 

「命を賭けた死闘だと?」

 

「無論だ。貴様のような甘い男が当主などーー俺は、断じて認めん!! 父の技に兄の力、貴様自身の剣はどこにある!?」

 

「……やれやれ。そんなに味わいたいなら、味あわせてやるさ。ーー後悔するなよ!!」

 

 熱い炎のようなオーラが、アグニの全身から激しく燃え上がる。

 

 それとは対照的に、その瞳は冷え切っていた。

 

 だが口許だけは耳まで裂けるように吊り上がり、剝き出しの牙が狂気を思わせる。

 

 ーーその冷徹な瞳は、圧倒的な鬼気に満ち々ちている。

 

(この迫力ーー。本気になったアドムとーーどっちが上だ…?)

 

 ラボニが、こめかみの冷たい汗をぬぐう。

 

 対峙するアルドも、その迫力に鬼の笑みを浮かべていた。

 

「ようやくーー赤目の俺とまともに対峙する強敵が現れたか。感謝するぞ、魔王陛下! これほどの得物を俺に与えてくれたことをな!!」

 

「……」

 

 興奮するアルドと淡々と不敵な笑みを浮かべて構えるアグニ。

 

 両者の態度は正反対だが同じ力をまとい、両者の表情は鏡合わせのようにーーまったく同じである。

 

 そのとき、板の間の入り口のほうに駆け寄る足音が響き渡り、全員がそちらにふり返るとーータハトとアバルが現れる。

 

「…この人が、アドムのご先祖様か。魔族の肉体でも鬼神力を使えるなんて……!」

 

「ーーすでに戦が始まっていたか」

 

 現れた二人に向かってアルドは、目を見開く。

 

「貴様ら、アブラはどうした?」

 

 その問いかけにタハトは悲しそうに目を伏せ、アバルは口許が割けるような笑みを浮かべて言った。

 

「この俺の糧となった。貴様の息子は、俺にとって最高の餌だったぞ……!!」

 

「……なんだと?」

 

 赤黒いオーラを燃え上がらせ、アバルはアルドに笑みを向ける。

 

 タハトは哀しげにアルドを見た。

 

「もう。やめませんか? こんなこと、なんの意味があるんですか?」

 

 その問いかけにラボニが目をかすかに伏せて苦笑を浮かべ、アバルが興ざめだと肩をすくめ、アグニは冷徹な表情ながらもジッとうつむいたアルドを見据える。

 

「ーー貴様ら如きに、俺の息子が。アブラが、負けただと!? ふざけるなぁああああっ!!!」

 

 強烈な赤いオーラを噴き上げてアルドは、さらに力を引き上げる。

 

「ゆるさんぞ、貴様ら! よくもーーよくも、俺の邪魔をしてくれたな!!」

 

「……邪魔、か。祖父上殿を体よく利用した下種(ゲス)が言いそうなことだ」

 

 冷徹な表情ーーしかし、その瞳は誰よりも怒れる鬼の瞳。

 

 祖父は、既に争いごとからは身を引いていた。

 

 それを、この男は引っ張り出したのだーー。

 

 よりにもよって、ヴィンテージの屋敷を奪ったうえで。

 

「小僧が、俺たち魔族の目的も知らずにーー!!」

 

「さっさと来い。祖父上殿のーーアブラ・ヴィンテージの誇りを穢した罪、その命で償ってもらう!!」

 

「ぬかせぇえええええっ!!!」

 

 激情に身を任せるアルドを前にアグニもまた、自身の怒りを爆発させた。

 

 互いの身にまとう赤いオーラは、その激情に応えるように激しく燃え上がってお互いが袈裟懸けを凄まじい音を立ててぶつけあった。

 

 鬼神と鬼神のぶつかり合いは、その余波だけで屋敷の壁をぶち抜いていく。

 

「……止められないのか?」

 

 その言葉を発するのは、この場でただ一人ーー戦いを好まぬものタハト。

 

 それを聞いた相手は隣にいる男ーー主の鬼(かげ)アバルである。

 

「止めてどうする? 誇りを穢した時点で、アグニが【アルド(あの男)】を許す道理はない」

 

 視線をかすかにタハトに返したあと、アバルは淡々としたーーアドムのような話し方で告げる。

 

 タハトは悲しそうに続ける。

 

「でもさ、この戦いはーーもう勝負がついているよ」

 

「それを決めるのは、俺でも貴様でもない」

 

「……」

 

 即時に切り捨てられた返事は、タハトも予想できていたものだ。

 

(それでもーー、同じヴィンテージなら手を取り合うこともできたかもしれないのに……)

 

 その心を読んだのか、アバルがタハトを振り返り言った。

 

「貴様の常識をーーあいつらに押し付けるな」

 

「……!?」

 

「貴様の世界では、どうだったかは知らん。だがーーここはヴィンテージ屋敷。鬼神の系譜に連なる武家屋敷だ」

 

 まっすぐな赤い瞳は、邪悪な羅刹でも傲慢な化け物でもない。

 

 アドム・ヴィンテージそのもの。

 

「貴様が望む理想と目の前の現実を混ぜるな。貴様が見るべきはーー現実(いま)だ」

 

「それをーー受け入れろっていうのか……」

 

「受け入れられなければ死ぬだけだ。ガキのころのようにな」

 

「……」

 

 それには何も言わずタハトは目の前の二人を見据える。

 

 自分の主アドムと同じ顔をしたーー二人の剣士を。

 

 二柱の鬼神は、同時に刀を弾くとすさまじいスピードで姿を消し、重力を無視して壁や空を駆け始める。

 

 無数の斬撃が繰り出され、景色に無数の斬閃が描かれていく。

 

(なるほど。鬼神の力ってのは、アドムの赤目と同じ力のことか。それにしてもーーアグニが、その力を完全に使いこなしてるのは意外だったぜ。これがーーお前が選んだ【当主】ってことか。アスラ)

 

 世界が狭いと言わんばかりに空を、地面を駆け抜ける二人の剣士ーー鬼神。

 

 姿を現すのは同時ーー。

 

「……貴様……っ」

 

「ーーーー」

 

 アルドの肩口、右袖、左太ももなどが赤い筋が入っている。

 

 対してアグニの方は、完全に無傷ーー彼は霞に構えながら告げる。

 

「田舎侍にしては鋭い剣だが、俺たちは獣や藁を相手にしているんじゃないんでな?」

 

「つくづく、無礼な小僧だ。だがーーいいだろう。それでこそ、斬り甲斐があるというものよ!!」

 

「いつまでも、寝言ほざいてんじゃねえよ……!!」

 

 同時に二人の剣士に強烈な赤い炎のようなオーラが発生する。

 

「さきほど、許さないと言っていたな? それはーー俺のセリフだ」

 

「……なに?」

 

「【貴様を許さん】のは、俺のセリフだ。アルドォオオオオオオッ!! 」

 

 青い稲妻が走り、アグニの鬼神力が明らかにアルドを上回る出力で引き出される。

 

「ーーな!?」

 

 一瞬で、アグニはアルドの目の前に移動する。

 

 これまでと違うのは、アルドの目にも映らないほどのスピードであったということだ。

 

「くたばれーーー外道ぉおお!!!」

 

 裂帛の気合を吠えながら、右下から左上に斬り上げるアグニの一閃。

 

 咄嗟に反応し、アルドも刀を袈裟懸けに斬り下ろす。

 

 刀と刀がぶつかり合ったーーその時、アグニの兼貞が黄金色に輝いていた。

 

(な、なにぃ!?)

 

 気づいた時には手許から陣太刀が離れており、自身の肉体を黄金の刃が通り過ぎて行った。

 

「グハァッ!?」

 

 天に向かって血を吐きながら、アルドは斜めに斬り裂かれた自身の肉体を見る。

 

 人間の肉体ならーー間違いなく胴から肩口までを切断されていた。

 

(この赤のオーラをまとった肉体を、魔族となった肉体をーー、ここまで? いや、それ以前に。この俺が放った一撃を軽く吹き飛ばしたというのか、このーー小僧!?)

 

 ゆっくりと目の前の青年ーーアグニ・ヴィンテージは刀を振り切った姿勢から戻し、霞に構えなおす。

 

「き、きさまーー! もう一度、名乗れぃ!!」

 

「俺は当代ーーアグニ・ヴィンテージ」

 

「アグニーーか、見事だ。この俺が剣士として初めての敗北を得るとは。面白いものだ……!」

 

 下手に動けば、斬られた傷口から大量の血を流して行動不能になる。

 

 魔族の回復する肉体とはいえ、ここまでのダメージを想定していない。

 

 アグニは静かに霞に構えた刀身に青い光をまとわせ始めるーーやがて、刀身はアグニの胴ほどある身巾の青き光の刀身へと変化した。

 

「……いいだろう。ならばーーこちらも!!」

 

 同時にアルドも赤い炎のような気をまとい、肉体に負った傷を一気に塞ぎーー体力を回復させると同時に右手に陣太刀を左手に闇の霧を集めて十文字槍を生み出してつかむ。

 

「ゆくぞーーアグニ・ヴィンテージィイイイイ!!」

 

「消え失せろ、レギンレイヴ!!」

 

 アルドが右手の刀を青く光らせてアグニと同時に袈裟懸けに空を切る。

 

 すると両者の斬閃から高密度の青い光線が放たれる。

 

 両者の光線は、互いの中央でぶつかると互角に押し合う。

 

「ククク、俺の勝ちだ! アグニィイイイイ!!」

 

 左手の十文字槍を宙に飛び上がりながら横薙ぎで黄色の雷光を放つ。

 

「ヴィンテージ流槍術ーーグンニグル!!」

 

 アルドの放った青い光に黄色の稲妻がまとわりーー一気にアグニへと押し返していく。

 

「アグニ!!」

 

 ラボニが思わず叫んで腰の刀を抜こうとするも、それよりもーーいや、誰よりも速くアグニはもう一度刀を両手持ちで振り上げていた。

 

「ーーえ?」

 

 ラボニがポカンとした表情になると同時、アグニは自分の放った光に向かってもう一度袈裟懸けに斬りこむ。

 

「デュアルーーレギンレイヴゥウウウウウ!!!」

 

 瞬間ーーアグニの放った光は倍以上の輝きとなって一気にアルドの光と雷を押し返していく。

 

「な、なんだとーーーー!?」

 

 そのままーー何の抵抗もできず、アルドは光に飲み込まれていったーー。

 

 アルドを飲み込んだ光は、ヴィンテージ屋敷の屋根を消し飛ばすだけに飽き足らずーー遥か上空の雲を打ち抜いていった。

 

 呆然とするラボニや、タハト、目を見開いてこちらを見てくるアバルを無視して、アグニは淡々と自分の剛刀兼貞を見る。

 

 その刀身を手でなぞるようにかざし、異常ないことを確認すると腰のさやに納めた。

 

「い、今のってーー奥義の二重打ち? そんな気の量があるのかよ……!?」

 

「すごい、アドムでも見たことない……!」

 

「鬼神ならできるーーだが、奴は人間のはず。人間の発想でーーあれが打てたっていうのか?」

 

 ラボニ、タハト、アバルの三者三様の驚きをした中、アグニは刀を納刀したまま、目を前方から切らさない。

 

 皆が訝しげにそちらを見るとーー。

 

「く……くくっ」

 

 全身から血を噴き出して満身創痍になりながら、槍の長柄を杖代わりにして立っているアルドが居た。

 

 彼は肩で息をしながら、必死にアグニをにらみつけている。

 

 その瞳の色は、すでに紫色に変わっていた。

 

「た、たった百年で、ここまで差が出来たというのか……!」

 

「そういうことだ。今更、過去の亡霊に出番などない。失せろ……!!」

 

 強烈な鬼気を放ちながら、アグニは納刀した兼貞の鯉口を切る。

 

(強い……! この圧倒的に有利な状況でも、一切気を緩めていない。まるでーーアスラだ)

 

「ライトーー!」

 

 その時、アグニが歩を進める瞬間に強烈な光が彼らの目を灼いた。

 

「な!?」

 

 まったく気配のない第三者からの魔法に全員が視力を失う。

 

「……牙狼烈蹴脚!!」

 

 強烈な蹴りがアルドのボロボロの肉体に叩き込まれると同時、後方へと吹き飛ばされる。

 

「ネクロさまぁあああああ!!」

 

「ーーうん!!」

 

 その声が響くのとアルドたちの気配が消えるのは同時。

 

 空間転移でウルフとネクロというアルドの仲間たちが彼を救ったのだ。

 

「……逃がしたか」

 

 完全に姿と気配が消えたことを理解して、アグニは赤い炎のようなオーラを身のうちに納めた。

 

 ラボニは、ポカンとした表情でアグニを見る。

 

「途中の魔族はともかく、なんて強さだ。あの坊ちゃんが……!」

 

「さすが、アグニ様! アドムと互角の戦いを繰り広げただけあるな。でもアルドさんとは分かり合えなかったか……」

 

「……ま、上々だな」

 

 タハト、アバルの言葉に振り返りながらアグニは、天井がなくなった当主の間を見渡した。

 

「フゥー、なんとか取り返せたーーか」

 

 目の前には、青い空に浮かぶ先ほど鬼神力をまとった自分と同じ光を放つ太陽があった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。