刀を持つ騎士(鬼神)   作:カンナム

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ヴィンテージ屋敷を取り戻したアグニ。
アブラとの別れに悲しみを背負うタハト。
しかし、感傷や勝利に浸る時間はなく、次々と問題は発生する。
若き剣士たちは、何を信じどう生きるのか……。


第50話 神の座 人の器

ーーヴィンテージ領争奪戦から一夜明け

 

 アグニは、ヴィンテージ領にどれだけの魔族やジャッジの残党が居るのか洗い出すため、影を放つ。

 

 影騎士たちは優秀で、諜報活動ならお手の物だ。

 

 同時にアグニは書面を鳩に送らせる。

 

 場所は、王都のヴィンテージ邸だ。

 

「……とんでもない話、ではあるか」

 

 アグニは思考を巡らせる。

 

 昨日、アバルが人知れず屋敷に帰ってきた。

 

 アグニとタハト、ラボニの前で彼は告げた。

 

「…アルドを討つのに失敗した」

 

「そうか。とはいえ、お前が無理だというのなら、それはこの場にいる誰がやっても同じだろうな」

 

 淡々とアグニが応えるとタハトが横から言う。

 

「でもさ、お前がミスするってことは。そんなヤバい奴が向こうにいる、てことなのか? それとも油断?」

 

「ーー油断ねぇ。タハトくん、お兄さんが思うにだ。アバルは、慢心はしても油断はしないと思うよ。だろ?」

 

 慢心しているからこそ、油断したんでは?と思うも、黙るタハト。

 

 その3人の目を受けてアバルは淡々と言った。

 

「魔王が出てきた。名をゼロスと言っていた」

 

「「「!!!」」」

 

 魔族の長である魔王ーー。

 

 伝説でしか聞いたことはないが、そんな存在が本当に存在していたのかとアグニとタハト、ラボニは目を見開く。

 

「魔族の長が、出てくるーーか。アルドもヴィンテージだけあって、王に仕える剣というのは変わらないのか?」

 

「魔王ーーじゃあ、勇者が来ないと世界が終わるんじゃないか!?」

 

「RPGでは、最強だからね。何らかのギミック解除しないと倒せないんじゃない? 魔王だし」

 

 伝説の魔王を相手にしても、3人はペースを乱すことはない。

 

 タハトはジッとラボニを見ているが。。。

 

「え、何? タハトくん、熱い視線でジッとみて?」

 

「ラボニさん、前から思ってたんですが。元の世界の知識ひけらかすのやめてもらって……」

 

「ええ~!?」

 

 ボケているのかなんなのか、いまいち伝わらないボケをするラボニにタハトがくぎを刺す。

 

「アバル。魔王はーーやはり、強いか?」

 

「ああ。強かったーー。それと、もう一つ。魔王の顔は、リア・オケアニデスに瓜二つだ」

 

「……ほぉ? 創生の女神とされるオケアニデスの姓を持つ娘…、気になって調べていたんだが。そもそも、そんな貴族は、この大陸の何処にも存在しない。父が排斥した貴族なら、名も権力もある有能な貴族のはずだ。しかし、名前こそは貴族の一覧にあるがーー実在していない」

 

 アグニは顎に手をやりながら告げるとアバルもうなずく。

 

「だろうな。あの娘は、おそらくオケアニデスそのものだ」

 

「……女神そのもの、か。どうりで化け物じみた強さだ」

 

「もっとも、器は人間だがな」

 

 淡々と進めていくアグニとアバルにタハトが立ち上がった。

 

「ま、待ってよ! リアさんが、女神? どういうことなんだ!? オケアニデス家って有力な貴族が存在するんじゃないのか?」

 

「オケアニデスは、この大陸を創生し人間や他の生命を生み出したとされる女神だ。このアドミニシア大陸のすべての国で信仰されている神でもある。とはいえ、その名前を姓で持つなど王家でも神官の家系でも、できないはずだ」

 

「で、でもさ、アグニ! 僕らはオケアニデス家があるって話を……」

 

「そう。父ーーアスラでさえ、調べる必要を感じなかった。俺たち全員が、オケアニデス家は確かに存在すると信じ込んでいたんだ。兄ーーアドムも、人の名前や生まれなどに一々、興味など持たんだろう」

 

「……調べなかったから、リア・オケアニデスさんが実在するか分からなかった……?」

 

「ーーいや。文献で調べただけだが、女神には『世界の支配力』というのがあるらしくてな。その力で、存在しない記憶を真実として認識させられていたのかもしれん」

 

 そう言いながらアグニは淡々と、貴族の名が書かれた一覧を見せる。

 

「こいつは王都を出る前に王城の書庫にあったヤツを魔法で複写してきたものだ」

 

 それは現存するものや、途中で断絶したものが分かる表であった。

 

「これを見ろ、タハト。欄外だ」

 

「ーーオケアニデス家。でも、系譜が何処にも派生していない……?」

 

「そもそも出生も、どこから流れてきた貴族なのかも分からん。パジャ王家も俺たちヴィンテージ家でさえ、農村から生まれたのに、オケアニデス家は何処の国から流れたのか、村落から出たのかさえ理解できない。急に生えてきた貴族ーーというわけだ。魔法による複写だが、王家の書庫に大事にしまわれていた書類をそのまま写したものだ。ーー誰かが、書き足したと思うか?」

 

「そんなことは……」

 

 不自然ではあるが、それでもこの文字の筆跡や筆の感じで言えば新しく書いたとも思えないし、アグニがそんな小細工をする必要もない。

 

 オケアニデス家が、本当に実存するのであれば由来がーー出生地や祖先などが、どこか記載にあるはずだが、それもない。

 

「アグニ、これってオケアニデス家のことはわからないってことなのか?」

 

「本気を出して調べれば、なにがしか分かるかもしれんが。そもそも、そんな時間はなかったのでな」

 

「……たしかに」

 

 青い髪の美女とは一緒に、旅をした。

 

 笑いあった。

 

 その記憶が、タハトの中でグルグルと渦巻いていた。

 

「ーー話をもう一つ」

 

「? 女神や魔王の話のほかに、まだあるのか?」

 

「アルドの肉体の中ーーいや、魂の中に居た」

 

「居た……?」

 

 アグニが目を見開く中ーータハトの口が勝手に開いた。

 

「鬼神『鍾鬼』ーーか」

 

「……ああ」

 

 ラボニが目をしばたたかせながら、3人を見る。

 

 これにアバルは、説明するのも面倒だと感じたのか立ち上がって告げた。

 

「目を閉じろ。魔法ーーだかよく分からんが、俺が見た記憶を伝える」

 

 素直にアグニ、タハトが従い、ラボニは顔を左右に振った後、目を閉じる。

 

 瘴気渦巻く魔界の城。

 

 アバルの目と対峙するアルドのオーラの中に現れたヴィンテージの顔をした鬼ーー。

 

 2メートルは、あろうかという巨体に美麗な顔をした美しさと逞しさを兼ねた凶暴そのものな鬼神。

 

「……こいつが、鍾鬼。あの鬼が言っていたーー俺たちの大本ってことか」

 

「そういうことだ……。とはいえ今更、奴に出張られても困る。いったん退いたが、何とかして封じる方法を考えねばならん……!」

 

 アグニの言葉にうなずき、アバルは静かに背を向ける。

 

「行くのか?」

 

「時間がない。魔王などはどうでもいいが、鬼神鍾鬼の復活だけは防がねば。奴は、なにもかもを滅ぼそうとする災害そのものだ。自分以外の強者の存在を決して許さない化け物だ……」

 

「やれやれ…。魔王とやらの復活だけでも勘弁してもらいたいんだが、まったくーー」

 

 そう言うアグニを置いてアバルは光の粒子に肉体を変えると消えた。

 

「マジでやばそうだな……。鬼神鍾鬼の復活? でもそれって、僕の中に居るアハトとか。アグニの力と同じなんだよな? なんで、アドムーーじゃない。アバルはあんな焦ってるんだろ?」

 

「お兄さんが思うに、だ。さっきの映像を見てーー顔は似てるが中身は別物だったと思うよ。あんな純粋に殺気を放つなんてアバルにも似てないねぇ。災害と言ってたが、その域だ」

 

「ーーでもアドムなんだよね? なら話し合いできそうだけどな」

 

 難しそうに首をかしげるタハトにラボニは苦笑を返す。

 

 これにアグニが笑みを浮かべた後、声をかけようとしてーー。

 

「アグニ様、タハトさん!!」

 

 息切れをしながら当主の間に走りこんでくるラナの声に皆が表情を引き締める。

 

「ラナさん、どうした?」

 

 アグニが穏やかに問いかけると、ラナは胸を抑えながら息切れしつつ告げる。

 

「リアさんが。リアさんが、記憶をーー!!」

 

「記憶ーーって。分かった。アグニ、僕は、いったん宿に向かう!!」

 

「え? きゃ、タハトーーさん」

 

 そう言うとタハトはラナを横抱きにすると、一気に駆け抜けていった。

 

「ラボニーー頼めるか?」

 

「ええ。ほいじゃ、アグニ様。お暇します」

 

 ラボニもタハトを追うように高速移動で場を立ち去った。

 

 残されたアグニは、貴族の一覧を見つめていた。

 

ーー思い起こすのをやめ、目を見開く。

 

 アグニは、影からの報告を見ながらジッと考える。

 

 ヴィンテージ領内に他勢力の残党はない。

 

 完全に除去できたーーということらしい。

 

 父ーーアスラへの報告も鳩を飛ばしたから、問題はないだろう。

 

「鬼神鍾鬼と魔王の復活ーーか。それに女神の動向も気になる。ヴィンテージ家のことだけーーというわけにも行かないのかもしれないな」

 

 かすかにため息を吐いて、アグニは自分が吹き飛ばした屋敷の天井から覗く青空を見上げた。

 

 そこからーー確かに見下ろしているものが居ることを知った上で。

 

ーーーー

 

 水晶玉の中でこちらを見上げてくるアグニを見下ろして、彼女は白い世界の中で笑った。

 

「案ずることは、ありません。私の世界で、あなた方は生きればよいのです」

 

 そう微笑んだ後、白い机と椅子に座って水晶玉を見つめる。

 

 場面は変わり、魔界に飛んでいた。

 

「鬼神鍾鬼ーー。なんという生命力。完全に存在そのものを切り分けられたというのに、一部からでも。紛い物からでも復活を果たそうとしている。魔王ゼロス。あなた次第ーーということね」

 

 微笑みながら。

 

 女神は告げる。

 

「この世界でーー私の邪魔はできない。たとえーー私をも上回る神格であったとしても。私の管理する世界ならば等しく私には届かない。思い知りなさいーー異界の神々よ。旧き神よ、そして魔王よ」

 

 彼女は微笑みながら、世界を見つめている。

 

ーーーー

 

 ヴィンテージ領の酒場にて。

 

 タハトがラナを連れて走りこんでくると、件の女性陣たちはテーブルの1角にいた。

 

「タハトさん!」

 

「アリスさん、リアさんはーー!」

 

 青髪の美女は椅子に座って、テーブルで肘をつき頭を抱え込んでいた。

 

「彼女は、私たちのことさえも分からなくなっているようでーー」

 

 タハトが静かにリアに近づく。

 

「り、リアさんーー?」

 

「話しかけないで! 私は、リアじゃない!! リアなんて、私は知らない!!!」

 

 そう叫びながら彼女は涙を流す。

 

 その様は、力を持たない10代の少女そのものだった。

 

「……僕は、タハト。大陸最強のアドム・ヴィンテージの従者だ。覚えてる?」

 

 なるべく刺激をしないように穏やかに声をかけるタハトにリアが顔を上げてジッとタハトを見る。

 

 だがーーしばらくして首を横に振った。

 

「あなたは、僕とアドムにここに居る女性陣皆を引き連れて奴隷として購入するよう言ってきたんだよ」

 

「……それは、私じゃない。私の身体を使ったーーアイツの仕業よ」

 

「そっか。でも、そのおかげでラナさん、アリスさんたちは助かった。そこだけは感謝してる」

 

 目を合わせてタハトは言うと、それからふざけたような態度になって続けた。

 

「まあ、アドムにいきなり有り金全部使われて、これだけの美女たちを買うと言われたときは、何事かともおもったけどさ」

 

「ーー私は、アイツの道具だった。暇つぶしの気まぐれに乗っ取られて、とんでもないことをさせられていた。おかげで両親に見捨てられてーー私は売られたわ。最後に記憶が戻ったのは、醜く太った侯爵に奴隷として買われて、慰み者にされようとしていたときだった」

 

「……」

 

「覚えてるわ。いいえ、思い出したわ。あなたとアドム様のことを」

 

「ーーほんと?」

 

 問いかけたときーー彼女は泣き笑いを浮かべていた。

 

「羨ましいと思ってたの、心から。ーー友人で、身分すら関係なく接するあなたたちが。美しくもたくましく、迷いを一切持たないアドム様がーー」

 

「……アドムに、会うかい?」

 

 これに彼女は顔を俯かせた。

 

「会いたい。でもーー今の私は、リアじゃない。アドム様の、お役に立てない」

 

「あいつは、そういうのは気にしないよ! 大丈夫さ」

 

「ーータハトさん。でもーー私、このアドム様に会いたいという気持ち、私のなのかーー分からない」

 

「それはーー会えば分かるさ。だろ?」

 

 タハトは立ち上がり、馬車の用意をしようと酒場の店主を振り返る。

 

 と、目の前にラボニが居た。

 

「タハトくぅん。どこへ行こうというのかね?」

 

 ぬらぁっと現れるラボニにタハトの身体がすくみ上った。

 

「い、いつの間に……!」

 

「あまり、お兄さんを困らせるんじゃあないよ? 君は~、アドムの影武者役でしょうがぁ?」

 

「いや、でもーー! アグニ様とアバルが居るんだし……!」

 

「やっかまし! 君はぁ~、アドム・ヴィンテージ役ができる唯一の人間でしょうがぁ?」

 

「……ねぇ、ラボニさん? できるんじゃないの?」

 

「ーーえ? 何? 何が?」

 

「ラボニさんが、アドム・ヴィンテージになればよくね? 普段から着てる服の色も同じだし」

 

 瞬間、ラボニの黒目が見開かれる。

 

「ばっかやろ! 僕は確かにナイスガイ(しゃべるキウイ)だがーー、アドムみたいなビジュアル系じゃないだろ、いい加減にしろ!!」

 

「魔法で顔を変えたらいいじゃん。人の髪の色を黒くするなら、できるんでしょ?」

 

 ラボニの表情が固まる。

 

 それかーーと顎に手をやりタハトは続ける。

 

「僕の中に居るアハトが、アドムとアバルみたいに別れられたら、早いのかな?」

 

ーー そんなこと簡単にできたら、やっとるわ!!

 

 胸の内からのツッコミに、だよなぁとうなずく。

 

「アバルに分身のやりかた、聞いとけば良かったなぁ」

 

 指を鳴らし舌打ちするタハトにラボニは半眼になって問いかける。

 

「ーーで、ほんとに僕を影武者にしてお前、行くの?」

 

「そりゃ、僕はアドムの相棒ですし。アグニとラボニさんが居れば、ヴィンテージは大丈夫でしょうし?」

 

「いやいや、やらさんよ? 何を勝手に僕に要らんことを押し付けようとしてるの、お前!!」

 

「そっちが、魔法の言い出しっぺでしょうが!!」

 

 などと言い合うとラボニがふむとうなずいて玄関を指さした。

 

「よし、表に出ようか。勝った方がアドムの方に行く。負けた奴は影武者。OK?」

 

「……異議なし」

 

「女性陣の皆さん! 一緒に来てもらえませんか、あと酒場の野郎どももだ!! どちらがアドム・ヴィンテージにふさわしいか、よく見ておいてくれ!!」

 

 そう言い合いながら、二人は酒場の外に出ていった。

 

「……影武者って、そんな大々的に決めるものですか?」

 

「フフフ、ほんと……!」

 

 思わずあきれたという表情でラナは呟くと、いつの間にか横にリアが立っており、笑っていた。

 

 その笑みが、オケアニデスのものではないことをラナは知っている。

 

 それは肉体を取り戻した少女が、自分の意志で浮かべた最初の笑顔だった。

 

ーーーー

 

 一方、シャインの国を後にしたアドム・ヴィンテージ一行は、無事に国境を越えて司の国ーーチャーチに来ていた。

 

「ーーまさか生きて再び、この国にこうして足を踏み入れることができるとはな」

 

「? ルーク、お前はチャーチの出身なのか?」

 

「……赤髪の殺戮者と呼ばれているーーシャロンが私の名を言っていたろ? 一応はチャーチで生まれた身ではあるからギルド登録はチャーチにしているんだ。もっとも、故郷を追われてビルドアの王女に拾われて今に至るわけだから、私としてはチャーチなど、どうでもいいのだが」

 

 言いながら関門を過ぎる。

 

 関門の門番は中身のない鎧だった。

 

 シャインと違い、通行料などは必要ではなく、アドムは特使の証を見せてルークとダッタを旅の連れだと言えば通された。

 

 しばらくは雑木林の続いた林道を歩いていくことになるのだが、アドムは立ち止まる。

 

「? どうした、アドム?」

 

 ダッタがアドムの意図に気付いたように木の一角を見据えた。

 

「……シャインの王城であったな。襲撃者」

 

 その言葉に応えるように、ふくらはぎまで長さのある黒いマントを羽織った金色のビキニアーマーを着た長い黒髪をポニーテールに結った褐色の美女が現れる。

 

「……アドム、こいつは?」

 

「たしか、シャロン・エスペランザーーだったな」

 

「ーーなに?」

 

 思わずルークは目の前の美女を見据えた。

 

 黒髪に赤い瞳、褐色の肌と記憶にあるシャロンとは明らかに違う。

 

 だがーーその顔立ちは、シャロンそのものだった。

 

「変装ーーしているのか?」

 

「ーー普段は、旧神の力を抑えている。私の本来の姿は、むしろこちらだ。お前のようにな、アドム」

 

 ルークの言葉にこたえるように言いながらもシャロンは熱い視線でアドムを見る。

 

 アドムは静かに瞳を細めると言った。

 

「俺に何の用だ?」

 

「お前に、会わせたい男が居る」

 

「ーーどういう意味だ?」

 

「お前は、クリューエル殿下を救った。なら、彼も救えるか?」

 

 質問に質問を返され、アドムは静かにシャロンを見据える。

 

 悪意は感じなかった。

 

 今回は敵意も殺意もない。

 

「ーー分かった、向かおう」

 

「すまん。助かる」

 

 王都に向かうのではなく、自分たちが居合わせただけとはいえ、襲ってきた襲撃者の話を真に受けるとは、とルークの眦が吊り上がる。

 

 ダッタがその前に止めた。

 

「参りますよ。もし、アドムが頷かなければ彼女と戦うことになっていたでしょう」

 

「ーーフン、今度こそねじ伏せてやったものを」

 

 そう悪態を吐きながら、シャロンを先導にアドムとダッタ、ルークは林道から雑木林に入っていった。

 

 アドムが案内されたのは、木と藁で作られた簡素な山小屋だった。

 

「……みんな、入るぞ」

 

 シャロンが、そう言いながら中に入る。

 

「シャロン? ほかに3人いるわね。誰を連れてきたの?」

 

 シャロンによく似た見た目のダークエルフーーペイトが問いかける。

 

「アドム・ヴィンテージだ。入ってくれ」

 

「ああ」

 

 淡々と告げるシャロンに、アドムも平坦な声で返すと中に入る。

 

 驚きで固まっている弓手ペイト、金髪の神官ミリア、灰髪に赤瞳のアサシンーーネイという3人の美女と共にいたのは、アドムと年の頃はそう変わらない青年。

 

 額に鉢金を巻いた青年はーーリア・オケアニデスと同じ水色の瞳を持っていた。

 

「ーーあなたは。女神さまが、心から欲しているひとーーか」

 

「なんの話だ?」

 

 アドムを一目見て、呟く青年に問いかける。

 

「鬼神にしかなれないあなたが、なぜ女神さまの心を奪うのです? あなたは人間にはなれないのに」

 

 ジッと、こちらを覗き込んでくる水色の瞳は情念が揺らいでいる。

 

 それをアドムは瞳を閉じたあと、真っ直ぐに見返して告げた。

 

「……それを決めるのは、俺だ。ほかの誰が何と言おうと、俺は人間だ」

 

「力があるのにーーあなたは、力を持つ責任を果たそうとしないのですか? 利己的だ……!」

 

 嫌悪感を丸出しにして告げてくる青年にアドムは淡々と問い返す。

 

「なぜ、お前はそうしない?」

 

「それがーー俺の役割だからだ!! 俺には、その役割しかないんだ!!!」

 

「ーーお役目、か。それをお前は受け入れるのか? 誰かから言われたものを鵜吞みにしてーーお前は、誰かを傷つけるのか? それで、お前は正しいのか?」

 

 思い返すのはヴィンテージ家で父ーーアスラに言われるがまま、剣を振るった自分。

 

 クロードの罪を庇うために、己を犠牲にして得たものはーーただの罵倒。

 

「利いた風な口をきくな、アドム・ヴィンテージ……!!」

 

「……」

 

 アドムは、第三者の視線を感じて目を上にあげる。

 

(見られている……。誰だ?)

 

 その気配にアドムは覚えがある。

 

「ーーリア、さん?」

 

 そうつぶやいた瞬間、青年はアドムに獣のようにとびかかった。

 

(速いーー)

 

 とっさに左に見切り、青年は勢い余って小屋の外へ出ていく。

 

 それをアドムが静かに追いかけた。

 

「おい、シャロン! これは、どういうことだ!?」

 

「……女神の支配が強いのか。それともアドムが、女神に愛されすぎているのか……」

 

「一向に話が見えんぞ!!」

 

「……」

 

 シャロンはクールな表情のまま、アドムを追って外に出る。

 

 これにルークも舌打ちをしながら、続いた。

 

 小屋の中に居た人間は、全員がアドムと青年を追って外に出ている。

 

 向かい合う二人の青年を見据える。

 

「……女神さまは、お前が欲しくて欲しくて仕方がない。のにーーお前は、自分のことばかりだ!! ふざけやがって!!!」

 

「よく分からんが、先ほどからお前は何に対して怒っている?」

 

「女神さまに望まれているのに、なぜ応えない! その寵愛を受けながら、なぜ自分のためだけに生きられる!! 俺は全てを奪われた! 名前も、故郷も、自分の意志さえも! それでも女神さまのためだけに戦うしかない!! なのに、なぜお前だけが……!!」

 

 言いながら、水色の瞳は輝きはじめ金色のオーラが勇者を包み始める。

 

 圧倒的な力の顕現にシャロンやルークでさえも目を見開いていた。

 

「……これが、勇者の力か」

 

「な、なんだ。この力……? 神官の使う神聖魔法に似ているが、もっと根源的なーー!!」

 

 ダッタが静かに見据えて告げる。

 

「神通力。神のみが持ち合わせる超常の力。それをーー人に与えたというのか?」

 

 腰に差していたロングソードを抜き放ち、アドムに突きつける青年ーーいや、勇者。

 

「俺は女神さまの勇者。俺の名は、たった今ーー女神さまから授かった。ギフト、ギフト・オケアノスだ!! 構えろ、アドム・ヴィンテージ!!」

 

「……是非もない」

 

 そう言うとアドムは自分の腰から剛刀『兼定』を抜き放って霞に構えた。

 

 アドムは白い気を纏い、瞳は青く輝いた。

 

 そのまま気合を入れ、白い気は青く炎のようなオーラに変わる。

 

「ーー来い。お前の剣が、世界を守るほどのものか。俺が見てやる……!!」

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