刀を持つ騎士(鬼神)   作:カンナム

6 / 46
第6話 吸血鬼

ーーラナ・メーティスの視点

 

 魔物の森。

 

 人間が暮らすにはあまりにも強い魔物が多く住む森。

 

 基本的に街道に出る魔物よりも森の中に住む魔物の方が強い。

 

 パジャ王国北東に位置する深く広大な森で、隣国のジャッジとの間に関所を設けている場所。

 

 その一角に傭兵となった元剣士たちが暮らしているというのは、貴族の間では常識だった。

 

 先の大戦で敗れた側の剣士たちをアブラ・ヴィンテージ卿が匿っているというのも。

 

 アドム様は、本当に何も知らない。

 

 タハトさんも、多分知らないのだろう。

 

 知っていたら、アドム様もタハトさんも真っ先に動いたと思う。

 

 奴隷に堕ちた見ず知らずの私たちを買い上げるほどのお人好し。

 

 剣を持てば、魔法も使わずにグールさえも身体能力で圧倒し、振るう刀で消滅させる。

 

 そのアドム様と竹刀での稽古とはいえ互角に立ち会えるタハトさん。

 

 それほどの力の持ち主達だから、国同士のいざこざや政に関わらせないようにアブラ様もアスラ卿もアドム様達を遠ざけているのだろうか。

 

 そんな取り留めもないことを考えていると、一晩で壊滅させられた傭兵の根城へと着いた。

 

「……間違いありません。これは瘴気。この地に残っている忌まわしい気配はアンデッドのものです」

 

 根城に一歩入るなり、リアさんが淡々と呟いて人差し指で埃を払う様に空間を撫でる。

 

 食料に武器、洞窟の中に造られた木材の棚も軒並み腐っている。

 

 アドム様は、周囲を物珍しそうに見回しながら言った。

 

「こりゃ、すごいな。見た目だと10年は放置されていた状態だ。アンデッドっていうのは、一夜でこんなことができるのか」

 

「なんだか、不気味だな。此処に入った瞬間に背筋にゾクッとするものがあったよ」

 

 タハトさんが両腕をさすりながら言うのをリアさんが頷く。

 

「そうでしょうね。辺りに濃い瘴気が残っています。エルダーリッチか、エルダーヴァンパイアが現れたのかもしれません」

 

 広間には錆びついた鎧や刀が放置されていた。

 

 人の死体は、全く見つからない。

 

 返り血も何一つ痕跡がない。

 

 けれど、確かに戦闘があったことは分かる。

 

「……グールを使うのならば、エルダーヴァンパイアでしょう」

 

 私が静かに呟くとリアさんは、ニコリと微笑んで頷いてくれた。

 

「そう。私もそう思います」

 

「…えっと。ヴァンパイアってアレだよね? 人の生き血を吸って生きている人間の姿をした化け物で、十字架とニンニクが嫌いで、ドラキュラで伯爵なんだよね?」

 

 なんだか微妙に合ってるのだけど、十字架とかニンニク? ドラキュラで伯爵って何だろう?

 

「魔族の中にも貴族のような階級があるのか。そのヴァンパイアってのは伯爵?」

 

「吸血鬼は、どちらかと言うと魔族よりも人間に近いのかもしれません。人間だったものが血を吸う鬼になると言われていますから」

 

 私の説明にアドム様がフムと頷くと目を上に上げた。

 

「鬼……か」

 

「ん? 鬼がどうした、アドム?」

 

 アドム様は少し考えると、私を見て聞いてきた。

 

「強いのか?」

 

 それは確認だった。

 

 だから私は応える。

 

「おそらく人間が挑める相手ではないと思います。強靭な身体能力に倒しても何度も復活すると言う不死身、雷や嵐を操る魔力に下級の魔物や人間の死体を自分の意思で操れるというのですから」

 

 私の言葉にアドム様は、静かに問いかける。

 

「雷を操り、不死身か。強靭な身体能力……。そいつは髪が紅くてやたら偉そうで見たことのない服を着ているとか、そんな特徴はないか?」

 

「え? い、いえ。そのような話は聞いていませんが、吸血鬼に心当たりが?」

 

 私が問いかけるとアドム様は、首を横に振った。

 

「多分、違うな。なんとなくだが、俺が思っているヤツと今回の吸血鬼とやらは別だ。しかし……」

 

 そう言いながら、アドム様は私に背を向ける。

 

 静かに、かすかに聞こえた声はーーどういう意味なのだろう。

 

「……鬼? その名を種族に付けているのならば半端は許さんぞ。吸血鬼とやら……!」

 

 私に背を向ける前ーーアドム様の瞳が青ではなく赤に見えたのは、私の気のせい……?

 

「ここで魔族が出てきますか……。まあ、吸血鬼は魔族とは少し違うものですから。いきなり魔王の眷属が動くとは思いませんが……。貴方の魂が、強大な力を呼び寄せるのでしょうか? まったく、折角記憶を失っているのにどうしてこう、次から次へと……!」

 

 リアさんもリアさんで、変なことを呟いているし。

 

 どうしましょう、とタハトさんを見るとタハトさんは真剣な表情で腐り切った果実の中から何かを取り出している。

 

「果実酒が出来てるよ!! コイツは美味しいぞ!!」

 

 思わずあきれる私の前をアドム様が通り過ぎる。

 

「お、マジか。一つもらおうか……」

 

 いつになく鼻歌でも歌いそうに上機嫌で近づいて手を伸ばすアドム様をタハトさんが乾いた音を立てて叩いた。

 

「ダメだ、これは僕が見つけたんだ! ラナさんとリアさんには僕から別け前を渡すけれど、お前の分は最後だぞ!!」

 

 ホント、タハトさんはアドム様の手を叩いたり怒ったり、立場を弁えない人だ。

 

 まあ、きっといつもどおりタハトさんに甘いアドム様が引いて話は終わるのだろうけど。

 

「……ふざけんな! 酒は寄越せ、この野郎!!」

 

 あれ?

 

「お前は、ある酒を全部飲み干すからダメだって言ってんだよ! この酒飲み主がぁああ!!」

 

「何が悪い!! 俺の楽しみの一つを奪うって言うなら、お前とて容赦はせんぞ!!」

 

 胸倉を掴んで揉め合う二人の横でリアさんが、優雅に小さな木組みの箱を取ると上品に両手で掬ってから飲み干して私に向かって手招きをしてきた。

 

「ふぅ、美味しい。さ、ラナさんも」

 

「え? いやでも、アドム様が……」

 

 私の戸惑いをよそにリアさんは木箱をもう一つ取り出して、私に果実酒を差し出してくる。

 

「このアホ主がぁああ!!」

 

「このバカ奴隷がぁあ!!」

 

 ボカスカと殴り合う二人を見ながら、なんか真面目に考えるのも馬鹿らしくなってきたので私もお酒を口にする。

 

 あ、美味しい。

 

 次はギルドに情報提供をした村に向かうんだろうなぁ、とボンヤリと考えていた。

 

ーーーー

 

 ヴィンテージ卿に情報共有してきたギルドがある村ーーレクリオ。

 

「領主の家から離れているのに大きめの村ですね」

 

「川が近くを流れているし、井戸も汲めるみたいだね」

 

 私の言葉にタハトさんが村の門をくぐってすぐの広場の井戸を指しながら応えてくれる。

 

 アドム様は建物の看板を見ながら何かを探しているようだ。

 

 リアさんは、私たちの後ろで村に入口門の手前で足を止めていた。

 

「……あの洞窟で感じた瘴気。気を付けてください」

 

 のどかな雰囲気の村には、洞窟で感じた不気味な気配はないけれど。

 

 リアさんの表情は真剣だった。

 

「ああ、確かに感じる」

 

「? ホントかぁ? 僕にはのどかな村にしか見えないなぁ。それに、今は真昼だよ? 吸血鬼は日光に弱いはずだろ? 大方リアさんに褒められたかったんだろ? 美人の前だとアドムは、テキトーなことしか言わないからなぁ」

 

 胡散臭そうな顔をしながらアドム様を見るタハトさん。

 

 すかさずアドム様は、タハトさんの後ろに回り込むと左右のこめかみの辺りに両拳をあてて挟むようにしてぐりぐりと押し込む。

 

「ぐぁあああああ……!」

 

「ギルドに行こう。何か知っているはずだ」

 

 うめき声を上げて自分の両手首を掴んで必死に離そうとしているタハトさんを無視してアドム様は言うと引きずりながら、冒険者ギルドと書かれた看板の建物へと向かった。

 

 あの態勢のまま行くんだ……。

 

 私が呆れている横でリアさんが静かに私に言ってきた。

 

「ちょっと、恥ずかしいですよね? あの二人についていくの」

 

「……はい」

 

 真顔で言ってくるリアさんに思わず私も真顔になって返した。

 

 全体的に木目調の建物である冒険者ギルドの中は、広いエントランスに受付が三つほどある。

 

 テーブルやソファも壁側に置かれていて、簡単な休憩が取れるようになっている。

 

「……これが、ギルド」

 

 私も入るのは初めてなので新鮮味がある。

 

 リアさんも興味深そうにギルドの室内を見ている。

 

 でもアドム様とタハトさんは、真剣な表情になっていた。

 

「なぁ、アドム。領地の外れにある村とはいえ、ギルドに冒険者が一組も居ないってあり得るか?」

 

「……無いとは言わない。だが、受付嬢さえも居ないのは明らかに妙だ」

 

 すると受付の奥にある扉から一人の中年の男性が現れた。

 

 白いシャツに茶色のエプロンのようなものを着けた男性は、アドム様を見ると淡々と頭を下げる。

 

「ようこそ、ヴィンテージ卿。私は、ここのギルド長をしております。マーカスと言います」

 

「マーカスさん。アドム・ヴィンテージだ。早速だが、魔物の森に居付いた山賊について詳しい話を聞きたいんだが、構わないか?」

 

「お話は伺っております。さ、どうぞ中へ」

 

 アドム様は首を縦に頷かせる。

 

「分かった」

 

 そう言いながら、腰に差した兼定という剛刀に左手を添える。

 

 思わず私は身構えるが、そのまま鞘を掴んで剣帯から引き抜くとタハトさんを振り返って渡した。

 

「? アドム?」

 

「ギルドの勤務者から話を聞くんだ。物騒なものを腰に差していては話ができん。しばらく預かってくれ」

 

「いや、それはいいけど……」

 

 兼定の鞘を両手で握って見下ろすタハトさんに頷くとアドム様は兼定の柄を触った。

 

「……俺の仲間を頼んだぞ、兼定」

 

 まるで信頼する相棒に告げるように、アドム様は兼定という刀に話しかけた。

 

 すると、兼定から鍔鳴りのような音が微かに聞こえた。

 

 え? 今、刀が返事をした?

 

「物に魂が宿る…ですか。異世界でも自分の理を通すとは、何という神通力ーー」

 

 ため息を吐きながら、リアさんはウットリとした表情でアドム様を見ている。

 

 その表情は美しいが、同時に恐ろしいものだった。

 

 この人は、どこか違う。

 

 人間離れした美しさもそうだが、何かが私とは根本的に違う。

 

 そんな気がしてならない。

 

「……そんなに怖がらないでください」

 

「え?」

 

 私を振り返って彼女はジッと私の眼を見て言ってくる。

 

「貴女には、何もしませんから……」

 

 その言葉を聞いて、その笑顔を見てーー何故だろう。

 

 この人には、関わってはいけないと私は強く感じた。

 

 ドアが閉まる音で私は現実に引き戻される。

 

 アドム様は、ギルド長と二人で奥の部屋に行ったようだ。

 

「……タハトさん?」

 

 その扉をジッと真剣な目で見送ったタハトさんは、自分の左の背へ兼定を斜めに背負って胸の前で紐を結んで固定している。

 

「気を付けて、ラナさん。リアさん」

 

 そう言いながら、背中の長い棍を抜いて両手で持つタハトさん。

 

 どういうことなのか?

 

「おかしいんだよ、このギルド」

 

「え?」

 

 私の疑問に応えるようにタハトさんが言ってくる。

 

「いや、この村……! 僕達、村の入口であれだけ騒いだのに誰もこちらを振り向かなかった。普通は誰かが来たら注目するし、あれだけ騒いでいたら誰かしら反応する。だけど、誰もまったく反応が無かった」

 

 言いながらギルドの入口を睨みつけている。

 

「村の入り口で騒いでいたのは、それが目的で……?」

 

「いや、アレは素だった!!」

 

 一瞬、見直しかけたのにコレなんだから……!

 

 そう思いながら私もヴィンテージ家から頂いた腰の刀に手をかけた。

 

ーーーー

 

 奥の扉に案内されたアドムは、淡々とギルド長の後ろをついていく。

 

 石の壁に石畳の長い廊下が其処にあった。

 

「客間一つ行くのに、こんな長い廊下があるのは初めてみた」

 

「ここのギルドは少し特殊でしてね。私がそのように改良したのです」

 

 廊下の突き当たりにある木製の扉を見据えながら言うギルド長にアドムは目を細める。

 

「ほぅ?」

 

「知っての通りここはヴィンテージ家から離れた場所にありますからな。アドム様のようなヴィンテージの剣士が来てくれることを頼れません。故に自分の身を守るために少々手を加えました」

 

 そう言いながら、石壁の一つに右手を付くとそのまま押し込む。

 

 アドムの足元の地面が口を開き、慣性に従って身体が下へと落ちて姿が消える。

 

「……あっけないものだ。これが当代最強と謳われたヴィンテージの剣士とは」

 

 底の見えない落とし穴を見ながら、つまらなそうに吐き捨てるギルド長。

 

「ああ。俺をもてなすには、つまらん仕掛けだ」

 

 後の首元にチクリと冷たく鋭い何かを突き付けられると同時に聞こえた声は、アドムのもの。

 

「……貴様、どうやって!?」

 

 目を見開くギルド長の背後でアドムは剣帯の前に差していた小刀を抜いて突き出していた。

 

「落とし穴が開く寸前にヴィンテージの運足法で高速移動したのさ。お前のような間抜けの目には映らない速さでね」

 

 言いながらアドムは不敵に笑って言った。

 

「さあ。正体を見せたらどうだ? 貴様が、吸血鬼なんだろ?」

 

 するとギルド長は肩を揺らしながら笑い、アドムに振り返って向き直ると応えた。

 

「いつから気づいていたのかな?」

 

「最初からだ……。むしろ気付かせるつもりで、俺の前に姿を現したんだろ? お前の気配は山賊の根城で感じたものと同じだ」

 

 そう告げたアドムの目の前でーーギルド長の瞳が赤く輝いた。

 

ーーーー

 

 ふと、私はリアさんを見た。

 

 彼女は、素手だ。

 

 簡単な回復魔法や聖属性の魔法を使えると言っていたが、ここまでアドム様が強すぎて出番がまったくなくーー見ていない。

 

「タハトさん、リアさんにも何か武器を!」

 

 思わず私が叫ぶとタハトさんも気付いたようで慌てて自分の懐の辺りをまさぐりはじめた。

 

「っと、そうだ! リアさんってば素手じゃん!! えーっと、何かないか!?」

 

 慌てるタハトさんにリアさんがニコリと私たちに応える。

 

「大丈夫ですよ? 私は」

 

 謎の自信に満ち溢れているリアさんに、アドム様と似たような何かを感じたがタハトさんは聞いていなかったようだ。

 

「おおお、コレなんかどうかな!?」

 

 言いながら懐から出て来たのはーーどう見ても懐には収まらない長さの固くて丈夫そうな杖だった。

 

 杖の先に先が槍のように尖った金の輪があり、4枚の輪が通っていて音が鳴っている。

 

 一般的な僧侶や魔法使いが補助として使う杖とは用途が違うような気がするが、リアさんは興味深そうにその杖を手に取った。

 

「タハトさんのアイテムボックスは、懐にあるのですね。それにーーこの杖、中々面白い」

 

 手に取って微笑むリアさんは、問答無用の神々しさがあるように感じる。

 

 軽く一振りしてクルクルと回転させながら構えを取って見せるリアさんに、思わず私は問いかけた。

 

「僧侶って、槍や長柄の得物も使えるのですか!?」

 

「……細かいことを気にしなくていいのですよ?」

 

 そんな会話をしていると、次の瞬間には窓ガラスが割られて外に村人たちが無表情で立っている。

 

 身体の色は死人のように青白く瞳は赤い。

 

 首には二本の鋭い針で刺されたような跡が残っている。

 

 老若男女問わず、皆ーーグールになっていた。

 

 大人の男は長い木の丸棒の先に鉄の鍬や鎌や円匙などが取り付けられた農作業で使うものを。

 

 女は包丁を、子どもは小さな円匙や金槌を持っている。

 

「まだ幼い子どもまで、グールに堕とすなんて!!」

 

「吸血鬼に人間の道理を説いても無駄です。まともな人間の感性があるのなら、吸血鬼にはなりません」

 

 怒る私に淡々とリアさんが告げてくる。

 

 扉が開かれて、大量のグールと化した村人が中に入ってくる。

 

 リアさんに感じた憤りも、これだけ敵と味方の数が違えば言ってる余裕が無い。

 

「僕が前に出るから、二人は後ろに下がって!」

 

「私も前に出ます! 刀が扱えることはタハトさんも知っているはずです!!」

 

 隣に立つ私にタハトさんも頬に汗をかきながら言ってきた。

 

「数が違い過ぎる!! アテにしていい!?」

 

「勿論です。何よりグールは人間よりも身体能力が高いんですから、二人がかりでなければ……!!」

 

 扉や窓からなだれ込もうとする死人を私とタハトさんが同時に叩き出す。

 

 窓は4ヶ所、扉は一つ。

 

 側面からは入って来れない、正面についてある窓と扉だけを見ればいい。

 

 身体能力は高いが、アドム様を襲ったグールと違って村人のグール達に思考はほとんどない。

 

 狭い扉や窓枠に挟まって動けなくなっているところを私は刀で首を刎ねて寝かせる。

 

 斬り捨てれば灰になって消えてくれるから、まだマシだ。

 

 人の姿をしたものを斬ることへの抵抗はあるけど消える寸前に人の顔になってホッとしたように微笑む彼らの表情を見て私は迷いを捨てた。

 

 男グールが円匙を振りかぶって斜めに振り下ろしてくるのを左に見切り、私は腕と腰を回転させながら刀を横薙ぎに払って首を斬り捨てる。

 

 しかし、5人目を斬り捨てた時点で一気に斬れ味が鈍ったのが分かった。

 

「…こんなに剣を酷使するのなら、街道や森の魔物は全てアドム様に任せれば良かった」

 

「確かにーーね!!」

 

 思い切り棍を横薙ぎに振って2、3人を吹き飛ばしているタハトさんだが、棍とグールでは相性が悪い。

 

「タハトさん! グールは首と胴を切り離さないと再生します!!」

 

 私が言ったことを肯定するように折れた腕や足を元通りに戻しながら立ち上がるグール達。

 

「……みたいだね。参ったな」

 

 見ればタハトさんは、グールを殴りつければつけるほどに顔色が悪くなっている。

 

 どうして?

 

「やめてくれ……。僕に、村人を攻撃させないでくれ……」

 

 その表情を見れば、タハトさんが人間の姿をしたものに攻撃をすることに抵抗があることは分かる。

 

「タハトさん! グールに堕ちた人間は、元には戻りません!! 吸血鬼に殺されたんです!! 彼らはもう人じゃない!!!」

 

「……僕、僕は……!!」

 

 明らかに動きが悪くなっているタハトさんに、私は彼を庇う様に刀を構える。

 

 するとリアさんが私とタハトさんに下がれと言わんばかりに前に出た。

 

「少し加減が難しいですが、行きます。聖なる光よーー」

 

 錫杖を右手に無造作に持ち、左足を前に出し半身に構えて左手を前に突き出すと強烈な閃光がリアさんの左掌から放たれ思わず私は目を伏せる。

 

 その圧倒的な光が数秒全てを白く染め上げた。

 

 目の前に無数にいたグール達は、黒い灰になって消し飛んでいく。

 

 光が瞼の向こうでおさまると、私はゆっくりと眼を開いた。

 

 ギルド内に居たグール達は、全て姿を消していた。

 

「い、今のはーー?」

 

 問いかける私に向かってリアさんは微笑む。

 

「簡単な聖の初期魔法です。確か、ホーリーでしたかね?」

 

「そ、そんな初期魔法で、あれだけ居たグール達を全て消せるのですか……?」

 

「フフ、グールやゾンビに聖魔法は相性が抜群に良いですから」

 

 さも当たり前と言う態度でリアさんは私に言ってくるが、魔法を知らない私でも今の桁外れの力はおかしいと分かる。

 

 この人は、いったい……。

 

 大きな物音がしたのでそちらを振り返るとタハトさんが膝をついてうずくまって震えていた。

 

「タハトさん!!」

 

 毒を受けたのか、とタハトさんを見るが外傷は特にない。

 

 私が彼の肩を抱きかかえると彼のたくましい体は、まるで紙のように軽く感じた。

 

「ご、ごめん、ラナさん。二人を守らなきゃいけないのに、僕……」

 

 唇まで青ざめて震え上がるタハトさんの様子は普通じゃない。

 

 私がリアさんを見ると彼女は首を横に振った。

 

「外傷はありません。原因は先の戦闘とは別にあると思います」

 

 震えをなんとかしておさめようとしているタハトさんの姿は、痛々しくて胸が締め付けられる。

 

 何も言えない私に向かってリアさんが言った。

 

「ひとまず、この建物を出て広場に向かいましょう。アドム様が扉の奥に行ったきり帰ってこないのも気になります」

 

「! そうか、アドム様!!」

 

 私が扉を振り返るのをリアさんが止めた。

 

「あの方は大丈夫です。あの程度の魔物に遅れは取りません。それよりも、此処にいると私たちが彼の足手まといになる可能性が高い。分かりますね?」

 

 その言葉に私は思わず唇を噛んでいた。

 

 反論ができない。

 

 それにタハトさんを、このままにはできない……。

 

 私は一つ頷いてギルドの入口から広場へと出ることを選択した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。