刀を持つ騎士(鬼神)   作:カンナム

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第8話 刀を振るう鬼と血を吸う鬼

レクリオ村。

 

つい数日前まではのどかで笑顔の絶えない村だった。

 

全身黒ずくめの黒と赤のマントを羽織ったタキシードの男が現れるまでは。

 

強烈な蒼い光が薄暗い石壁の通路に縦一閃される。

 

アドムの短刀が目の前の男を断ち切った証である。

 

小太りの中年の男は、どろりとした黒い血を流しながら頭から左右真っ二つになって地面に転がる。

 

それを見据えながらアドムの眼は怒りに見開かれていた。

 

「……貴様、よくも俺の領民を!!」

 

牙を剥き出しにするアドム。

 

その牙は比喩ではなく、普通の人間にしては鋭く見える。

 

もっとも、目の前の存在は些末なことだと感じているようだ。

 

二つに切り裂かれた男の断面から赤い霧が生まれてアドムの目の前に固まっていく。

 

そこに現れたのは2メートルに迫る細く青い肌の長身の男。

 

瞳は赤く頬はこけ、顎は剃刀のように鋭い。

 

「その黒に近い青目……、その目を見るだけで忌々しい記憶が蘇る。私の最愛の人を奪った神への復讐。それを邪魔したヴィンテージという剣士をな!!」

 

アドムは微かに目を細めながら問いかける。

 

「ヴィンテージは俺の家の名であり領地の名だ。貴様のような化け物が何故知っている?」

 

「私もまた、人間だった。人間であった頃に貴様の祖先であるアルドとか言う剣士に斬られ、この赤い宝玉に封じ込められたのだ」

 

男は懐から拳大の紅宝玉を取り出すとアドムに見せつけるように掲げて鋭い牙となった犬歯を剥き出しにして笑った。

 

「だが、バカな人間のおかげで私は蘇った。感謝しなければなるまい。欲に溺れた人間たちに……」

 

「なるほど、貴様が俺の祖先に負けて封じ込められた化け物だとは分かった。その上で確認だ、この村の人を殺したな?」

 

問いかけたアドムに男は赤い目を細めて笑った。

 

「……皆殺しにしてやった。とても美味かったぞ、お前の領民たちは」

 

瞬間、男の首と胴が別れた。

 

横薙ぎにアドムの右手に持たれた短刀が一閃されていたのだ。

 

宙を舞う男の首は、それでも笑い声を上げてアドムを見据えている。

 

「無駄だよ、無駄ァ。この私に出会ったことを後悔し苦しみ抜いて命乞いをしながら死ぬがいい、ヴィンテージ! その後で貴様もこの村の連中のように動く死体にしてやろう!!」

 

跳び上がった首に対して胴の切断面から赤い血が線のように飛ぶと首を捕まえるように断面図にくっついて首を元の位置に引き戻す。

 

「一人残らず殺してやったぞ。女も子どもも皆殺しだ」

 

男は瘴気を撒き散らしながら、ゆっくりと前に足を進めてくる。

 

「悔しいか? ヴィンテージ。私がお前に受けた屈辱はこんなものではない……! もっと苦しめ、もっと顔をゆがめろ!! 美しいその貌が怒りと憎しみに歪む姿は、私の心を晴れやかにしてくれる!!」

 

恍惚とした表情で吼える男にアドムは、不敵に口元を歪めて笑った。

 

「我ながらーーいい判断だった」

 

「なに?」

 

「お前と二人きりになったのはーー我ながら、いい判断だった」

 

アドムは短刀の切っ先を男の喉元に差しながら、殺気に満ちた青い瞳を向ける。

 

「ん?」

 

「あいつ(タハト)が居ると、お前を殺せない」

 

瞬間、アドムが姿を消すほどの動きをしながら空間に無数の斬撃の檻を発生させて男とすれ違う。

 

「ぬ? な??」

 

男の身体は斬撃の檻に小間切れにされてサイコロのようになりながら地面に転がった。

 

「この世に生まれてきたことを後悔させてやろう、吸血鬼」

 

振り返りながらアドムは短刀の刃を光らせて切っ先を細かく切り裂かれた肉塊へ向ける。

 

肉塊は赤い霧に変化すると一箇所に集まって男の身体へと戻る。

 

「ふははははははっ! やってみろ、さあ! その刃で刺してみろ! もう一度切り裂いてみろ!! この体に効くかなあ!!?」

 

短刀を右袈裟懸けに一閃し、男の身体を切り裂く。

 

「どうした、ヴィンテージ? 斬れてないぞぉ?」

 

「なに……?」

 

男の言うとおり刀は肉体を斬り裂くことは敵わずに擦り抜けていた。

 

「ふははははははっ!」

 

高笑う男の胴を横薙ぎに払う。

 

しかし、斬れた瞬間に凄まじい速度で赤い血が身体を繋いで再生しているのだ。

 

アドムが目を細めるも男は構わない。

 

「遊びはーー終わりだ!!」

 

赤い霧となって肉体を空間に霧散させる男。

 

「こいつ!?」

 

短刀を構えるアドムに男は霧になった状態で笑いかける。

 

「無駄だ、無駄だ! ヴィンテージ!!」

 

「チッ」

 

霧がアドムの身体に覆いかぶさろうとした瞬間、無数の青い斬閃が空間に描かれる。

 

ーーソニック・スラッシュ。

 

「粉みじんになっても言えるか? ズタズタに切り裂いてやる……」

 

先までとはケタが違う手数、斬閃の鋭さ、速さ。

 

それでもーー。

 

霧のように身体は霧散し、アドムの後ろに現れる吸血鬼。

 

「どうした、ヴィンテージ? 殺してみろ? 生まれてきたことを後悔させてみろぉ! たかが人間がぁ吸血鬼という上位種に敵うと思うのならなぁ!!」

 

「……フッ」

 

首を回しながらアドムはゆっくりと右手に短刀を持って自分の前に構える。

 

左手を短刀の柄頭に添えて霞に構えた。

 

「なんだぁ? 今頃、敵わぬとみて笑い出したか!? 己の愚かさを思い知ったか!!」

 

男ーー吸血鬼の言葉を無視してアドムは淡々と呟く。

 

「タハトたちの気配はない。建物から出たのだろう。これで遠慮なくーーブッ放せる!!」

 

「ん? 貴様なにをーー!?」

 

「消え失せろ、化け物!!」

 

霞に構えた短刀の刀身が青く光り輝いて世界を光に染めていく。

 

日光さえも克服している真祖の吸血鬼が思わず目を細めるほどの輝きを放ってーー。

 

「ヴィンテージ流奥義ーーレギンレイヴ!!」

 

右手首に左手を添えるとアドムは短刀を右袈裟に斬り下ろした。

 

瞬間、光が世界に満ちていき建屋が積み木のように崩壊する。

 

凄まじい光の矢が世界を打ち貫きながら遥か彼方へ飛んでいき白い雲を吹き飛ばして空一面を青く染め上げて爆発した。

 

天井や壁の全てを吹き飛ばした己の一撃にアドムは周囲を見回しながら呟く。

 

幸いギルドの建屋以外は吹き飛ばされていないことを確認したが、アドムとしては屋根だけを打ち抜くつもりだったのだ。

 

「ちょっと計算をミスった。派手にやりすぎたな。後で祖父上どのにギルドの建て直しを頼んでおかなければ……」

 

短刀を腰の鞘に納めて一息を吐くアドム。

 

次の瞬間、アドムの眼が鋭く細まって隣の民家の屋根へと高速移動した。

 

「ふふふふふふふっ! ふははははは! 無駄だというのが分からんかぁ!?」

 

赤い霧が再びアドムが一瞬前に立っていた場所へ集まって床を一気に腐食させていく。

 

それを見てアドムは瞳を細めた。

 

「これが森を根城にしていた輩を皆殺しにした技か……」

 

「しかし、驚いたぞ。そんな小さなナイフで建物どころか辺り一帯を吹き飛ばすほどの威力の斬閃を放てるとはなぁ……!!」

 

赤い霧は吸血鬼の姿を象り赤い瞳でアドムを見据えるとニィと笑みを浮かべる。

 

絶対の自信をもって。

 

「だがーー今のが貴様の最高の技ならば、私には通用しないということが、よく分かっただろう。今度はこちらの番だ! 貴様は残酷に無残に苦しめて殺してやるっ!!」

 

赤い霧となって散り、アドムの右腕を狙って纏わりつこうと移動する。

 

「まずは右腕だあ!!」

 

正面から来るのならアドムは反応できる。

 

しかし吸血鬼は、赤い霧となった自身を空中に霧散させて完全に姿と気配を消した。

 

「……フフフ、恐ろしいか? 貴様の右腕は今から枯れ木のように痩せ細ろえていくのだ!!」

 

アドムは左手の袖の下に仕込んでいた小柄を二本、右手に持って親指と人差し指と中指で挟み構える。

 

(馬鹿め、霧状の私に攻撃など効かないことが理解できんとは……! まあいい。貴様の右腕は今から私の爪によってそぎ落とされるのだ……! 楽しみだなぁ……!!)

 

完全に気配を空間に溶かした状態で吸血鬼は、アドムの背をアッサリと取る。

 

霧状の身体を右の二の腕から爪の先までを実体化させるーーだけに留まらず吸血鬼は、胸から上も実体化させた。

 

削ぎ落した腕の血を直に飲み干すためだ。

 

甘美な血の味を憎いヴィンテージから得られるのだ、これ以上の喜びは存在しない。

 

「さあ、覚悟するがいい……! ヴィンテー……っ!!」

 

宙に浮いた吸血鬼は、アドムの背中に急接近しながら爪を伸ばした右腕を振りかぶりながら突っ込む。

 

するとーーアドムは振り返って指に挟んだ二本の小柄を一閃させて投げる。

 

爪を開いた右手と眉間に小柄が突き刺さった。

 

「なにっ!」

 

吸血鬼は眉間に小柄が刺さったまま忌々しそうな表情に変わり、赤い霧と化して霧散してから宙に浮かんで止まる。

 

吸血鬼に刺さった小柄は刀身から青い気を放ちながら地面に転がる。

 

「ほう? よくぞ反応したなあ。だが、次は貴様が死ぬ時だ!!」

 

再び赤い霧が霧散して攻撃を放つ。

 

今度は爪のみを具現化させてアドムの背後から串刺しにしようと迫る。

 

アドムは左の袖口から小柄を一つ抜いて右手の親指に挟み込むと振り返りながら目の前に迫った爪を左に見切って首を横に躱しながら斬り捨てる。

 

爪が半ばから切り捨てられ、吸血鬼は怒りと屈辱の感情に染まった。

 

「こいつ、私の攻撃を避ける? 生意気なあ!!」

 

何度も爪を繰り出し、串刺しにしようとする。

 

赤い霧となって全身の毛穴から血を抜いてやろうとするも触ることも出来ない。

 

(なんだ、コイツは!? なんだーーこの、人間は!!?)

 

その剣士の異常さを吸血鬼は、ようやく理解し始めた。

 

確かに、この剣士は自分を傷つけることはできない。

 

この剣士の刀も気も、なにもかも自分を倒すには値しない。

 

だが、それでもーーこの剣士は他の人間とは明らかに違う。

 

「なんだ、大したことねぇな。要はお前、俺を攻撃したり殺そうとする時は、部分的にでも実体化しなきゃならないってことか」

 

爪の一撃を躱され、代わりに返しの刀で唐竹に斬り捨てられる。

 

赤い霧となった自分は斬撃をいくら食らっても即座に再生する。

 

痛みなど感じない。

 

「つまりーーお前が攻撃してくる瞬間に斬り捨てればいい」

 

おもちゃのようなーー人差し指程度の長さと太さしかない小さな刀で斬られる。

 

素晴らしい強さだ、剣技だ。

 

だが、それがどうした?

 

これほどの剣士でも、これほどの腕前でも、吸血鬼たる自分にはダメージは一切ない。

 

「ふ、ふははははは! 面白いコトを言うなア、人間は!! それで私を斃せるなどと思ったのか? ではーーコレなら、どうだ!?」

 

再び赤い霧となる吸血鬼。

 

今度は遊びはない。

 

一気に全周囲を取り囲む。

 

全方位を取り囲む。

 

これで逃げる道などない。

 

「ヴィンテージ流ーーソニックブレード」

 

小柄の刀身に青い光が満ちて唐竹に振り下ろす。

 

それだけで、赤い霧は一瞬だけ一面だけだがーーハッキリと空間から消える。

 

斬られたーーそう分かった。

 

その消えた一面からアッサリと高速移動で包囲網を切り抜けるアドム。

 

「だがーーそれがどうした!? 紅い霧になった我を倒すことなどできん!! 今度こそお前の血を根こそぎ吸い取ってやるぅ!!!」

 

紅い霧が空間から急に現れてアドムにまとわりつく。

 

「なにっ!?」

 

とっさに天高く跳躍してその場から離れ、隣の家屋の屋根に飛び乗るアドム。

 

紅い霧が一点に集中し、アドムが立っていた地にあった全ての生命力を吸い尽くした。

 

形あるものは崩れ、命あるものは死に、腐る。

 

「おいおい、いきなり空間から前触れも無く現れるだと? なんの冗談だ」

 

目を細めるアドムに吸血鬼は勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

「冗談などではない、これが私の力だあ。いつまでも人間などと同じ土俵で戦ってやると思うなよ! さあ、すべて食い尽くしてやる!!」

 

次々と血の塊が空間に前触れも無く現れて破裂し、赤い霧が充満する。

 

すぐさまアドムは爆発する瞬間を見切って高速移動で地面を、壁を蹴って安全な域へ駆け抜ける。

 

「チッ!」

 

舌打ちしながら吸血鬼は赤い霧をアドムへと何度も何度もけしかける。

 

「コイツ、ちょこまかとぉ!!」

 

「フッ、屋内なら厄介だったが建屋を壊して正解だったな。これだけ広ければ、何処へでも逃げられる」

 

あれだけ動き回っているのにアドムは息一つ乱していない。

 

「だが人間よ、いつまでそうやって逃げていられるかな? 私はお前の体力が尽きるまで、ずっと追い続けてやろう。お前が眠くなったり、体力が尽きた瞬間、死ぬんだ!!」

 

「……勘違いするなよ? お前は俺が殺す。よく覚えておけ、化け物無勢!!」

 

手に持った小柄を霧の中心に投げると光の刀身は爆発した。

 

光は赤い霧を消し飛ばす。

 

「なにぃぃいいい!?」

 

赤い霧は、しばらくして元通りに戻る。

 

アドムはーー消し飛ぶ前と今を比べてニヤリと笑った。

 

微かにーー赤い霧が薄くなっている。

 

その事実を確認しながらアドムは鋭利な刃物のように口許を歪めている。

 

「しかし、ヴァンパイアってのは日光に弱いって言ってなかったか? いま昼間だよな」

 

天高く昇った太陽を見ながらアドムはタハトの言葉を思い出す。

 

目の前の霧はピンピンしている。

 

近づいてくる赤い霧、空間に突如発生して爆発する赤い球、実体化して攻撃してくる爪。

 

その三つの同時攻撃および波状攻撃は、普通の人間が相手ならば千人は殺せている。

 

だから吸血鬼は嗤う。

 

必死で逃げまどって強気なセリフを吐いて負け惜しみをする若く逞しく美しい男が命乞いする様を想像して嗤う。

 

「ふふふふふっ! 惜しい! もう少しで喰えたものをぉっ!!」

 

「さーて、どうしたものか。斬っても中々死なない、爆発を食らっても平気ーーとはな」

 

アドムは左手の袖口から最後の小柄を取り出す。

 

(いい加減に倒さなければ、タハト達の様子も気になる)

 

正直、アドムは吸血鬼の実力も強さも完全に見切っていた。

 

問題は、自分が思っていたよりもずっと不死身というのが厄介だということだ。

 

だがーーそれも付き合うのは、ここまでだ。

 

アドムは無造作に最後の小柄を赤い霧に向かって投げつけた。

 

今度は刀身に気を纏わせずに鉛のまま、擦り抜けて地面に突き刺さる小柄。

 

見る見るうちに鋼は腐り、錆びついていく。

 

「フフフフッ! 投擲武器を投げ捨てて、どうした? 観念でもしたか?」

 

赤い霧が笑う。

 

これにアドムは不敵な笑みを浮かべて青い瞳に殺気を纏わせて告げる。

 

「お前の倒し方が、やっと分かったぞ。化け物」

 

吸血鬼は嗤う。

 

「なにぃ? まだそんな戯言を…!!」

 

「要はお前、赤い霧の集合体だろ? その赤い霧はお前の血液。つまりお前自身が実体化しているのと同じだ。それが分かってしまえば、如何とでも倒せる」

 

言いながらアドムは左手の中指に嵌めた指輪を見る。

 

指輪には黒曜石が嵌められており、それは別名アイテムボックスともいう。

 

アドムの視線に応えるように黒曜石は輝き出す。

 

指輪の光に右手を握り込むと赤い鞘の大刀を抜き出した。

 

黒い柄糸を巻いた銀色の菊の鍔、赤と黒のマーヴル色をした鞘には銀の装飾が太刀拵えのように半ばと石突と鯉口に嵌められている。

 

標準的な長さと太さの刀。

 

「なんだ、その刀は?」

 

だが吸血鬼の鼻にはそれが、自分にとって不快なものだとハッキリ分かる。

 

「お前ら魔物が、一番嫌いな妖刀『村雅』さ。コイツは魔物の血が好みでな。振れば擦り傷でも出血が止まらずに致命傷を与える。その上、斬れ味もお墨付きで大抵のものは容赦なく斬り捨てちまう」

 

腰の剣帯に鞘を通すと刀を抜き放つ。

 

青白い陽炎のようなものを刀身から放ちながら、怪しげに美しく輝く刀。

 

アドムは軽く石畳になった地面に線を引くように刀の切先を触れさせて引いた。

 

それだけで、頑丈な石畳は瞬く間に切り裂かれて地面を凹ませていった。

 

陽炎に触れた霧は瞬く間に喰われていく。

 

「き、さ、ま…っ! ふざけた真似を! そんな鉄の塊に私が怯えると思うか!?」

 

「試してみろよ。このアドム・ヴィンテージが刀を持つとどういうことになるかーー教えてやる」

 

右手に無造作に持たれた刀を顔の横に持ってきて切先を相手の顔に向けて霞に構える。

 

それだけで、刀身から漏れていた怪しい陽炎は消えて代わりにアドムの凛とした青い光が刀身に満ちる。

 

するとアドムの全身から、青い光がオーラとなって放たれ始めた。

 

刀が剣士に気を送り、剣士が気を倍加させて身に纏わせている。

 

その気迫、その輝きは先までとは比べられない。

 

「ーー笑わせるなあ!! 私は、上位種だ! 貴様如きにぃい!?」

 

再度、吸血鬼はアドムに迫る。

 

コレにアドムは勝利を確信して告げた。

 

「この一撃、神すらをも斬り捨てる。ーーレギンレイヴ!!」

 

袈裟懸けに振り下ろされた刀から、野太く青い光の矢が放たれる。

 

その光は霧となっている吸血鬼に触れるだけで消して行く。

 

「ばかなああああああ!?」

 

短刀の時とは威力も速さも桁が違う。

 

それを理解した時には、吸血鬼の霧は全て消し飛んでいた。

 

アドムはしばらく刀を技を放った姿勢で止め、構えていた。

 

「ふぅ、赤い霧の時のヤツの肉体に斬撃や気が通じていたと気づけなければ、死んでいたのは俺だな」

 

復活の気配が無いことを確認してアドムは村雅を鞘に納刀して構えを解いた。

 

「くっけっき、きききっ、お、のれ、ヴィンテージめぇえええっ……!」

 

物陰に隠れた状態でコウモリが空に飛び上がる。

 

「おっと、お前が本体か」

 

瞬間、アドムは地面に落ちていた錆びた小柄を持って投げつけた。

 

「ぐぅ!」

 

呻き声を上げながらコウモリは、胴体を貫かれて民家の壁に磔にされる。

 

アドムは、淡々と目の高さで壁に縫い留めた吸血鬼の本体を見据えた。

 

「ずいぶんと小さいコウモリだな。最初は霧になって自分に剣が通じないように見せかけて、いざ本体で攻撃しようとして通じなければ赤い霧になって攻撃する。血液は人を襲って回収すれば良い、か?」

 

「こいつ……!」

 

「吸血鬼の姿も赤い霧も本体じゃない。お前の能力で操っていた血液だ」

 

だから操っていた血液そのものを完全に消し飛ばせばいいとアドムは言い切る。

 

「ぬぅううう、ヴィンテージめぇ……。貴様は必ず後悔させてくれる…!!」

 

そう呻くコウモリの姿をした吸血鬼にアドムは、静かに告げた。

 

「約束したよな、お前は生まれたことを後悔させてから殺すって」

 

そう言って一歩近づく。

 

「ふう!?」

 

赤い目を見開いてコウモリは見た。

 

全身から赤い陽炎のような光を放ちながら赤く光る眼を見開いたアドムの姿を。

 

(な、なんだ? この気配は魔族じゃない!? 神でもない!? 吸血鬼でも、ない!! なんだ、コイツは!?)

 

吸血鬼の思考は、やがて恐怖の感情に塗り潰されていく。

 

「せいぜい、俺の領民に詫びながら死んでいけ」

 

「う、うわあああああああ!」

 

吸血鬼の断末魔が、誰もいない村に響いていた。

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