刀を持つ騎士(鬼神)   作:カンナム

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第9話 暗躍する大国

苛烈な攻めにプライドはへし折れて断末魔の悲鳴を上げていた吸血鬼。

 

「やめろ、ヴィンテージ! 助けてくれ!」

 

命乞いを始めた吸血鬼を静かに見据えてアドムは、逆手に持って振り上げた短刀を止めていた。

 

「…抵抗できないヤツを殺すのはプライドが許さん。とはいえ貴様を逃がす道理はない」

 

言いながらアドムは、短刀を鞘に納めた。

 

コウモリになった吸血鬼には、抵抗する力はない。

 

このまま干からびるまで壁に磔になるだろう。

 

アドムの小柄は、それほどキッチリ体躯を貫いている。

 

自慢の瘴気も身に纏うことはできない。

 

小柄が刺さった壁を腐らせて崩すこともできないだろう。

 

そう考えて去ろうとするアドムに吸血鬼は叫んだ。

 

「ヴィンテージ! 貴様も私の同族なんだろ!? 吸血鬼とは違うが似た何かを感じる!! どうだ、私を貴様の眷属にしてくれないか?! 私は役に立つぞ? 剣のみの貴様は必ず魔法や魔術に苦しめられる。必ずだ。だが、私の魔術ならばーー!」

 

アドムは足を止めた。

 

やはり、このコウモリを生かしておくのは殺された民への侮辱だと思い直した。

 

だが、アドムの口から出たのは別の言葉だった。

 

「…ほう、貴様にも鬼の自覚があったか」

 

赤く光る目は吸血鬼よりも明るく炎のようにも見える。

 

全身から放たれている生命力そのもののオーラは吸血鬼の自分など比べるに値しないほど強大であった。

 

「この世を知るため、貴様のような手駒も必要か…。だが我は「人の我」ほど甘くない。貴様に許されるのは誇りある死か、我の駒となって身も心も作り替えられるかの二つの内、一つだ」

 

それは、露程にも吸血鬼の生死を意識していない。

 

人の身体から放たれている明らかな異形の気配。

 

吸血鬼が死のうが生きようが興味すらない、まるで人が虫けらを見るかのような目だ。

 

吸血鬼は、人間を下等動物であり愛すべき玩具だと見ていた。

 

生かすも殺すも自分の自由にできる。

 

意志疎通のできるペットだ。

 

だが目の前の存在は、自分など歯牙にもかけていない。

 

それは吸血鬼にとって最大の屈辱であった。

 

相手が先まで戦っていたーー自分の復讐を邪魔したヴィンテージの人間ならば、吸血鬼は自ら死を選んだ。

 

だが、目の前に居る存在は吸血鬼をも凌駕する同族の神ーー鬼神という存在だと吸血鬼の本能が知らない単語を理解する。

 

膝を折り頭を垂れなければならない絶対的な存在だ。

 

この方こそ、我が主だとハッキリ理解したのだ。

 

「…貴方の仮初めの器に敗れた身です。選択肢などありません。何より貴方の駒となって役に立てるなど、鬼の端くれとなった私の本懐でございます。我が”鬼神”よ」

 

「ならば遠慮は要らんな……!!」

 

赤い眼をしたアドムは吸血鬼を貫いて磔にした小柄に触ると一気に赤い光を刀身に満たす。

 

光は小柄を赤い光の球へと変え、コウモリの身体を包み込むとーー。

 

「ギィヤアアアアッ!!」

 

耳をつんざくような悲鳴をあげる吸血鬼。

 

赤い光の球からは音が聞こえる。

 

肉を咀嚼する音、骨を砕かれる音、液体を飲み干す音。

 

吸血鬼は喰われていた。

 

肉体を魂をーー鬼神の生み出した光の球に。

 

小柄を触媒にして産み出された力の塊に。

 

やがて赤い光の珠は宝玉になって地面に転がると、みるみるうちに肉塊になって脈打ち始める。

 

赤い霧が何処からか現れて脈打つ肉塊の周りに集まりだすと一気に肉塊へ、吸い込まれて爆発した。

 

赤い霧の向こうから180程度の身長に無駄のない鍛えられた肉体の男が立っている。

 

黒のスーツに黒のベスト、白いシャツを纏い、黒の手袋をしたアドムと同じ髪型と顔を持つ見た目の男。

 

「…タハトの時より簡素に作ったが、まあ式神程度ならばコレで良かろう」

 

「ありがとうございます。ご主人様」

 

頭を下げる吸血鬼だった駒を見据え、アドムはタハトが居るであろう方角を見る。

 

「”俺”の気を離れた場所から感じる。タハトめ、また死にそうになったのか……!」

 

村雅の赤い鞘の位置を触って確かめながらアドムはタハト達の居る場所へ向かおうとして、一向に消えない自分と同じ顔の男を赤い瞳で見据える。

 

「なんの真似だ、駒よ。俺は忙しい。用があれば招くゆえ、今は姿を消して失せろ」

 

「…恐れながら、ご主人様。名を頂きたいと存じます。ご主人様の器と同じ見た目となった私の名を」

 

それで自分は完璧な駒ーー式神になる。

 

なんと甘美なことか。

 

期待を込めた血の色を思わせる赤い瞳を、冷めながらも燃える輝きを秘めた赤い眼が見据える。

 

「……そのうち考えてやる」

 

そう答えたアドムに駒は、笑顔になると無数のコウモリになって空へ飛んでいった。

 

「我が刀ーー『兼定』よ、タハト達を頼むぞ……」

 

式神を見送ったアドムは自分の愛刀『兼定』を思いながら、走る。

 

人の時とは明らかに違う人間離れした身体能力で村の入口広場へと向かった。

 

ーーーー

 

タハトはアドムと同じ力を身に纏って人狼の前に立っていた。

 

全身から紅い陽炎のような光を放ち、瞳は赤く染まって太陽のような煌きを秘めている。

 

「鬼だと……? オーガ(人食い鬼)や吸血鬼の一種か。人間に化けてやがるようだが、魔族にも魔物にもなれない半端な存在が魔族と言われる人狼を前に、良く吠えたなぁ!?」

 

人狼が月を思わせる金色の瞳を見開いて叫ぶもタハトは笑みを浮かべたまま、剛刀『兼定』の切っ先を左手一本で向ける。

 

「犬コロ無勢が、俺に挑んだことを後悔するがいい」

 

瞬間、人狼が俊敏な動きでタハトの目の前に現れる。

 

「調子に乗るんじゃねえ! 少し人間を超えた程度で人狼の動きについて来れるわけねえだろうが!!」

 

タハトの周りを飛び回る人狼は残像を増やして何人も居るように見える。

 

「くたばりやがれ!!」

 

ソニックムーヴにも匹敵する圧倒的な動きは、ヴィンテージ流のように一定の動作、方向にのみ動くものではなく自然な動きであり通常の人間ならば反応さえできずに鋭い爪に顔を引き裂かれているだろう。

 

だが、人狼の貫手はタハトの眉間に触れるか触れないかで止まっている。

 

タハトは切っ先を相手に向けていた左手の刀を自分の肩の上に置くと、無造作に右手で太い人狼の手首の辺りを掴んで止めていた。

 

それは先程まで力負けしていた人間と、遊んでいた魔族とは思えない。

 

「な、にぃ……!?」

 

人狼の手首の辺りから、軋む音が聞こえる。

 

タハトは軽く掴んでいるように見えるが、骨が軋み始めるほどに強い握力だった。

 

「間違いない、鬼神『鐘鬼』の気。だけど、何故?」

 

リアが静かに呟く中、タハトの姿をした鬼神は腕を軽く虫でも払う様に振る。

 

「う、うおぉああああ!?」

 

人狼が悲鳴を上げながら人形のように村の入口近くまで吹き飛ばされた。

 

まるで自分が紙のように軽くなったのではないかと思わせるほどに尋常じゃない力だ。

 

掴まれていた手首を振りながら驚愕の表情で人狼はタハトを見つめる。

 

「て、テメェ、いったい……!?」

 

ラナが目を見開いて先ほどまで明らかに劣勢だったタハトを見る。

 

「……タハトさん? いったい?」

 

何より今のタハトの気配は別人だった。

 

人を殺すこと、誰かを傷つけることを恐れていた青年と今の彼は別人だ。

 

殺すことも壊すことも、ためらいを感じない。

 

「この気……。本当に人のもの?」

 

仮にアドム・ヴィンテージが本気を出したとしても、これほどの圧は感じないだろうとラナは思う。

 

「力の差を理解して来たか? 犬コロ」

 

この気は本能的に畏怖を抱かせる。

 

魔族のような不気味な気配とも違う……。

 

「た、タハトさん!!」

 

思わず声を上げるラナにタハトは、その輝く赤い瞳を向けた。

 

それだけでラナは何も言えない。

 

心臓が掴まれ息もできないほどの圧力を感じる。

 

そのラナの状態を見てタハトは目線を外してから言った。

 

「ラナさん。離れててくれ……」

 

その声は懇願。

 

「できれば……見ないでほしい。今の俺を……」

 

圧倒的な力を放ちながら、悲しい余りにも悲哀に満ちた声。

 

その声を聴いてラナは先ほどとは違う感情で胸が締め付けられるのを感じた。

 

(傷つけることに躊躇いがないわけじゃないーー、タハトさん)

 

力は人のものではないが目の前にいる彼はタハトだとハッキリ分かった。

 

思わずタハトを今すぐに抱きしめなければ、と思わされるほどに。

 

だが当のタハトは声色と表情を淡々としたーーアドムのように変えながら、リアを見る。

 

そのときには鋭い光が瞳に宿っていた。

 

「……リアさん。彼女を頼めるな?」

 

「ええ……。勿論ですよ」

 

タハトの言葉に笑みを返しながらリアは目をジッと彼の赤い目から逸らさない。

 

互いに見つめ合う姿は、アドムとリアの初対面の時を思い出す。

 

お互いの瞳の奥にある何かを見極めようとしているかのように。

 

「……」

 

その状態のままタハトは頭を少し下げて半歩右に移動する。

 

先ほどまで頭があった空間を人狼の左爪が後ろから薙いで貫いていた。

 

「な、にぃ!?」

 

完全な四角からの一撃を見切られたことに目を見開く人狼。

 

その眼をタハトの赤目が見据えてくる。

 

右掌が人狼の額を鷲掴みにして圧倒的な握力で頭蓋骨を締め上げる。

 

「ぐぅおおおおお!!」

 

悲鳴のような咆哮を上げて両手でタハトの腕を持って掌を引きはがそうと力を込めるもまったく動かない。

 

タハトは必死の形相の人狼を無表情に観察すると両脚に青い気を溜めて地面を蹴る。

 

ソニックムーヴーー。

 

その脚力と移動距離、スピードとパワーは先ほどまでのタハトとは一線を画し魔物の巨体を持って苦も無く移動する。

 

一気に村の外へと人狼を運びながら村の門戸を通り抜けていく。

 

そのまま街道を森の中へと跳んで移動していくタハト。

 

ラナは別人のようになって人狼を連れて村から移動したタハトを想う。

 

(ーー強い。もともとタハトさんは強かった。でも、人間だった。魔物や魔族と闘えはしても身体能力を技で補う程度には人間だった。けれどーー今のタハトさんは明らかに強さの次元が違う。それにあの悲しそうな声……)

 

ラナが魔族と共に消えたタハトを想っているとリアが静かに声を上げた。

 

「アドム様……」

 

「えっ?」

 

ラナが振り返れば、先ほどのタハトと全く同じ紅い陽炎のようなオーラを全身に纏い、瞳を赤く輝かせているアドムが立っていた。

 

思わず息を呑み、声を出せなくなるほどの圧。

 

だが、アドムは普段通りの声音でリアとラナに語りかける。

 

「リアさん、ラナさん。タハトは?」

 

「……人狼を私たちから遠ざけるため、魔物の森へ」

 

「そうか」

 

アドムは村の入口門を見つめると腰に差した赤鞘の刀を左手で掴み、いつでも鯉口を切れるように構えながら前に歩いていく。

 

「アドム様。そ、その目は……?」

 

ラナが声をかけるとアドムはこちらを見返してくる。

 

しかし、先ほどのタハト以上の力を身に纏っているのに圧はラナの呼吸を止めるほどにはきつくない。

 

(アドム様は、この力を使いこなして……?)

 

リアが思わず目を見開く中、淡々とアドムは応えた。

 

「ああ、昔からブチ切れて興奮すると瞳が赤くなっちまうんだ。大したことないから気にしないでくれ」

 

応えながら門の方へ顔を向けなおすとアドムは歩き始める。

 

「それより、タハトを追うぞ。兼定があるから大丈夫だと思うが……」

 

「なぜです?」

 

すかさずリアがアドムの眼を見つめながら言ってくる。

 

これにアドムが赤目を見開きながら見返す。

 

「なぜって……!」

 

「リアさん!!」

 

ラナも非難するように声を上げるが、リアは淡々とアドムを見つめて告げる。

 

「今のーー貴方と同じ力を纏ったタハトさんは強い。先ほどまでとは違って、ためらいも迷いもなく簡単に命を断ち切れるでしょう」

 

リアの言葉にアドムの眼が鋭く細まるも、リアは言葉を止めない。

 

「おまけにアドム様の兼定をお持ちです。人狼程度に負けるとも思えませんが?」

 

放っておいてもタハトは人狼に勝って帰ってくるとリアは言っているのだ。

 

事実、紅い陽炎のようなオーラを身に纏ってからタハトは人狼を完全に圧倒していた。

 

すると、その疑問に応えるようにアドムは告げる。

 

「俺はアイツに詫びなきゃならないことがある……」

 

その言葉にリアが怪訝そうに眉をひそめるもアドムは気にしていない。

 

「それは俺のワガママで、アイツをあんな風にしちまったことだ。アイツは本来、誰かを傷つけたり、物を壊したりなんてする男じゃない。争いそのものに関わるべきじゃないヤツだ。それを親父が無理やり連れてきて、アイツは俺の身代わりに貴族の慰み物にされた」

 

その言葉は普段冷静なアドムが感情的になっているのが良くわかる声色だった。

 

「アイツを酷い目に遭わせた貴族達に報いを受けさせ、俺はアイツの命を救うために自分の中にあったコレを分けた。もし俺が分けたコレのせいでアイツが誰かを殺しちまうのなら、俺は止めなきゃならない。それが俺とアイツの約束だからだ」

 

「約束……」

 

強い言葉にリアはジッとアドムの目を見つめると彼は頷いてきた。

 

「悪いが行かせてもらう。二人は、ここで待っててくれ」

 

そのまま駆け抜けようとするアドムにラナが声を上げた。

 

「いえ、私も一緒にタハトさんを助けに行きます!!」

 

その言葉にアドムは振り返りながら微かにラナへ笑んだ。

 

ーーが、彼が何かを言う前にリアが続ける。

 

「そうですね。この際です。あなたとタハトさんの絆を見せていただきます」

 

その言葉にアドムは笑みを消してリアを見ると

 

「勝手にしろ」

 

とだけ言ってラナに向かって言った。

 

「行くぞーーラナさん」

 

「はい!!」

 

ーーーー

 

魔物の森ーー別名迷いの森。

 

広大な森の中で人狼は右腕を抑えながら目の前で紅い陽炎のような光を身に纏っている男を睨みつける。

 

「ぐ、ぅぅっ! こ、このくそ野郎が!!」

 

抜き身の剛刀を肩に担ぎながら男ーータハトは人狼に告げる。

 

「タフなヤツだ。まだ意識があるとは……」

 

感心したように告げるタハトに人狼は叫んだ。

 

「テメエ、そっちが本性か!」

 

人狼は左手と右手を顔の高さに持って来ながら鋭い爪を向けて構える。

 

「ちっ!」

 

舌打ちしながら人狼は内心で嘆いていた。

 

(どうなってやがる!? なんで最近出来上がったちっぽけな国に、こんな化け物や。あんなトンデモ女みたいなヤツらが人間どもに混じって暮らしてやがる……!)

 

「何者なんだ、テメエ……。確実に人間のはずなのに、なんで人狼をーー魔族を上回る力を持ってやがる。あの青い髪の女もだ」

 

「リアさんのことか」

 

タハトは赤い目を少し細めた後、人狼の瞳を睨みつける。

 

「俺もお前に聞きたいことがある。なぜ魔族がヴィンテージ領をうろいついてるんだ? それも、国境沿いのこの村で……」

 

魔族は、ここ20年の間は大陸には出てきていない。

 

パジャ王国が建国された日にピタリと姿を消していた。

 

異界の大陸から現れるという人間を超越した身体能力を持つ種族ーー。

 

争いを好み人の大陸を支配することを望む忌み嫌われた種族ーー魔族。

 

勇者によって魔王が倒された後でも魔族は小競り合いのようなことを人間との間で起こす。

 

しかし、そんなことをするのは好き勝手に暴れたいという知能の低い魔族しかいなかった。

 

だから王都や都市などのど真ん中で暴れたり、騎士団がすぐに来れるような場所でも関係なしに暴れる。

 

逆に言えば辺境のーー人も食い物も少ない場所で魔族は暴れない。

 

それが世間の通説で常識だった。

 

だが目の前の魔族は、その通説とは違う行動を取っている。

 

「お前らの国は出来上がって、ようやく二十年経った程度の国だ。それが、どういう意味か分かるか? いくらでも戦争を起こせる火種があるってことさ」

 

「……」

 

「お前ら人間同士が戦い合い、疲弊させておけば我ら魔族が動きやすくなる。そのためってことだ」

 

「魔族がーーなんのために! なんのためにそんなことをする?!」

 

支配するため、争いが好きな種族。

 

そんな通説が頭を過ぎった後、タハトの頭の中には幼少期の自分の村の光景が浮かぶ。

 

「戦争で得られるもののために犠牲になるのは、いつだって…! …力のないっ! ……ぐっ!!」

 

右手で額を押さえながら、前髪の奥から覗き込んでくる赤目が爛々と輝く。

 

その動揺はタハトの身に纏っている光を揺らがせて、更に力を増大する。

 

だが、それは同時に自分の力を持て余しているように感じる。

 

(なんだ、こいつ? 強大な力を持っている。体術もスキルも申し分のない訓練をされている。だが、中身(精神)の方はどうだ? まるで戦士の心構えをしていない)

 

その感性は平民や村人の心。

 

とても強大な戦闘力を持った人間の心ではない。

 

「力のないやつが死ぬのは当たり前だろう……!」

 

人狼は金色の瞳を細めながら皮肉げに告げる。

 

「あたり……まえ?」

 

タハトの脳裏に浮かぶのは、何の罪もない自分の村の人々。

 

殺された両親。

 

「弱かったらーー死んでもいいって? 仕方ないっていうのか……、お前」

 

「弱いやつが悪いんだよ」

 

間髪入れずに答えられた言葉にタハトの眼が紅くーー紅く炎のように輝く。

 

「お前ぇえええええええっ!!」

 

「チッ、なんなんだコイツは? とんだ甘ちゃん野郎だぜ。気に食わねえなあ……」

 

凄まじい赤い炎のような気を纏うタハトに人狼は心底、不快げに吐き捨てる。

 

「こんな甘えた考えのヤツが、なんの努力もしねぇで。心を変えることもなく、そんな強大な力を手に入れてるなんてよ……!」

 

凄まじい圧のある気だが、力を放っている本人から殺意がまるで感じられない。

 

怒気はあっても、それだけだ。

 

力の持ち主ではあっても、敵というには余りにも稚拙。

 

それが人狼に不快感を与えていた。

 

「おい、魔族。いつまで村一つを制圧するのに手間取っている? ヴィンテージ領に放った吸血鬼は、どうなった? 首尾よく討伐して終わったのか?」

 

その時、白銀の甲冑を着た男が5人ーー木の影から現れた。

 

どう見ても野盗や山賊の装備品ではない、洗練された正規軍の鎧だ。

 

全員が顔に鉄製の面をかぶり、兜と面の間から目だけが覗けるようになっている。

 

腰の剣帯には大小の刀が差され、手には鉄製の長い槍や弓が握られている。

 

その中で一人だけ兜に角が付いている男が人狼に話しかけたのだ。

 

「チッ、うるせえな。その吸血鬼は、とっくに死んだよ。たぶん……」

 

人狼が煩そうに鎧兜の男に返しながらタハトをウンザリとした表情で見る。

 

当のタハトは驚愕に目を見開いていた。

 

魔族による襲撃だと思っていたのにーーそれに人間が絡んでいるなど考えもしない。

 

「なんだ、騎士団? アレは審の国……ジャッジの紋章が彫られた鎧……!? 正規軍だって?」

 

動揺に身体を震わせるタハトは、力の無い平民を護る騎士団と平民から命と金を奪っていく魔族が会話をしている光景を呆然と見ていた。

 

 

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