ある日、練習の前にトレーナー室に寄った時の事でした。
たまたま付けていたテレビでニュースが流れました。
『メジロマックイーンさんが結婚を発表しました。お相手は──』
なんと!驚きました!マックイーンさんが結婚するなんて…!
確かに、マックイーンさんとあのトレーナーさんは仲が良くって、一心同体と言っていましたし、不思議ではないですね。
「やっぱり先輩は結婚かぁ……おめでたいな…」
「そうですね!おめでたいですね!」
にしても、結婚ですか……私も、トレーナーさんと結婚してみたいなぁ……なんて思っちゃたりもします。
トレーナーさんはどう思ってるのでしょうか?私と結婚…って言うのは恥ずかしいですね。
「トレーナーさんは、ウマ娘と結婚したいですか?」
「そうだね、いずれは結婚したいなとは思うよ。でも、先輩みたいに担当ウマ娘と結婚するのは無いかなぁ」
「なぜ……ですか……?」
「だって、教師と生徒の関係みたいなものじゃないか?だから、恋愛しちゃいけないだろ?そもそも、オッサンと恋愛したいなんて娘もいないでしょ。」
「………」
「それに、ウマ娘と結婚したって人は愛が重いって嘆いていたし…きっと、『担当と私どっちが大切なのよ!』って言われて振られちゃうね」
真摯に向き合ってくれて、共に夢を叶えたトレーナーさんらしい答えです。でも、私にとって、結婚してもらえないという事実には変わりありません。
このままずっと一緒に居られると思っていたのは、私だけだと思うと、とてもとても悲しくなりました。
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その日の夜、私はクラスのお友達から借りた漫画を読んでいました。
最近の流行りの漫画だそうで、夜寝る前に少しづつ読むことが日課になっていました。
ある場面がとても印象に残りました。
吸血鬼のお姫様が、選ばれた王子様を抱きしめながら吸血するシーンでした。
王子様は、お姫様への恋心を打ち明けながら血を吸われ、お姫様はとても美味しそうに、楽しそうに吸血していました。
二人はとても幸せそうでした。
こうして、二人で愛し合うことが出来たらいいなぁと思うと共に。
私の何かが変わりました。
好きな人をより強く感じたいと思うように。
抱きしめたい、あの落ち着く匂いを嗅いでいたい、唇を重ね合わせたい。
そして、血液を味わってみたいという欲望が湧き上がってきました。
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次の日、いつものように練習していた時でした。
「トレーナーさん、坂路メニューが終わりました。次は確か短距離ダッシュですよね」
「ああ、そうだな……痛っ!」
「ど、どうしたんですかトレーナーさん!?」
「痛てて……ちょっと金具で指を切っちゃったみたいだ。まぁ、唾でもつけとけば治るよ」
トレーナーさんの人差し指には赤い傷が出来上がっていて、そこから深紅の液体が流れ始めていました。
ここからでも分かる血の匂いで、昨日の漫画を思い出してしまいました。
あの王子様の血は美味しかったのでしょうか?啜ることで幸せな気持ちになれるのでしょうか?
気になって気になって、居ても立っても居られなくなって、つい───
トレーナーさんの手から滴る緋色の宝石を舐めてしまいました。
強い鉄の味と、薄い塩の味、普通に考えればおいしくはありません。
しかし、昨日読んだ漫画のせいでしょうか?それとも、好きな人のものだからでしょうか?
とても、とても、美味しいと感じてしまいました。
「うおっ!ダイヤ!何してんだ!?」
「トレーナーさんが唾をつければ治ると言っていたので、つけてしまいました」
舌を出して笑って誤魔化します。
「いくらなんでも他人の傷は舐めないでしょ……それに、血は色んな病気や感染症の媒介元だから、うかつに触っちゃダメなの」
「あら、そうなのですね」
「まったく、真に受けやすいんだから…」
そう言って、トレーナーさんは自らの指を口に咥えます。
関節キスになっているのに気づいていないのでしょうか…?
「ま、大丈夫だから、休憩したらメニューこなしておいで?」
私の中には嬉しさが広がっていきました。同時に、昏い欲望を完全に自覚した時でもありました。
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それから、私はもやもやを抱えながら過ごしていました。
明るい欲求、昏い欲望、関係の不安。
じわじわと心を溶かしていきます。
恋は人を盲目にすると言いますが、私の愛は猛毒のように蝕んでしまいます。
救われたい、早く楽になりたい、欲望のままに生きたい…
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あれから数日ほど経った日のことです。いつものように練習に向かっていた時でした。
廊下でトレーナーさんが学園のウマ娘と話しているところを見てしまいました。
それも、楽しそうです。
その時、私の何かが崩れた音がしました。
トレーナーさんは私と結婚したくない。
私はこんなにもトレーナーさんを愛しているのに。
私よりも仕事の方が、他のウマ娘の方が大切なんだ。
わたしのものにはならないんだ。
そう思うと、次には声が聞こえてきました。
「わたしのものにならないなら、もう、どうなってもいいでしょ?」
「もう、わずらわしいことをかんがえなくていいでしょ?」
「やりたいこと、やってしまっておわらせよう」
強い衝動に押されて走り出しました。
トレーナーさんの腕をひっつかんで、その勢いのままトレーナー室へと引きずっていきます。
「うわっ!な、何!?どうしたんだダイヤちゃん!?」
「え!?あ!?…………行っちゃった……」
トレーナーさんを部屋に放り込んで、鍵を閉めます。ついでに、近くにあった棚をドアの前に移動させて……これで、逃げられなくなりましたね。
それから、驚いて混乱しているトレーナーさんを仮眠用のベッドに押し倒しました。
もちろん、抵抗できないように手を脚を押さえつけます。
まずは、愛を込めて口付けを……
「んむっ!?」
……………………
海よりも深い愛を伝えた後、私は昏い欲望を振りかざします。
ゆっくりと首筋に口を近づけて、彼の匂いを堪能……
ああ……幸せ……
十分に堪能した後、私は首筋を強烈に吸います。
ちゅうっ……!ちゅうっ……!ちゅうっ……!
唇を離した後には、鬱血の痕ができていました。
私のものであるという烙印を付けて少し満足感を得られました。が、まだまだ私は満足していません。
それから私は、彼の躯に牙を突き立てます。
顎に伝わる彼の肌と筋肉の感触。鍛えられてはいるけど、私の
濡れた刃を当て、繊細な力加減で彼の抵抗を楽しみます。
力を込めると、私の偏愛は肌に深く沈んでいきます。沈み込んで、沈み込んで、彼の肌が限界を迎えました。
薄い膜を切り裂く感触の後、強烈な悦びが口の中に広がります。
「あああああ!痛い痛い痛い!」
美味しい、美味しい、美味しい!
心も体も満たされていきます。
「ダイヤっ!やめ!痛っ!あああああ!」
彼は痛みのあまりに声を上げ、突き放そうと暴れますが、私にとって押さえ込むのは容易でした。
「ぁ!っ!ああああああ!」
いつも、真面目で、カッコいい彼が、私一人の力で押さえ込まれ、悲鳴を上げている様を見ると、不思議と満足感と興奮が沸き上がってきました。
彼の血を啜っていると心が満たされていきます。
彼の体、匂い、あたたかさ、声、脈動をいっぱいに感じてくらくらしてしまいます。
彼の事だけを考えて、彼だけを感じられる………
あぁ、なんて素晴らしいのでしょう……!
「——…………っ!…………すき…………」
きっと、あのお姫様はこんな気持ちだったんだと思うと、幸せそうにしていたのも納得です。
けれども、こうして味わっているだけはで物足りないと感じてきました。
人は満足しない生き物であると痛感します。
次に楽しめそうなポイントを探して…
「はぁ……はぁ……ダイヤちゃん……」
ああ、こっちが良さそうですね…!
男性らしさを感じる部分、胸板でした。
直で彼を楽しむには服が邪魔です。
彼のワイシャツを引き裂き、その下の肌着も布切れにしました。
露わになった彼の胸板を舌でなぞると、些細な凹凸と、筋肉の感触が私を楽しませてくれました。
「だ、ダイヤ?や、やめ」
その、お礼として、噛みついて皮膚を切り裂き、彼の血を楽しみます。
「あああああああああああああ!いっ!がぁぁぁ!」
口の中いっぱいに血の味が広がりました。
彼の悲鳴を聞きながら味わう彼の体は極上の甘味にも等しいですね……
愛しくて愛しくて仕方がなくて、傷口を広げるように噛んでみます。
「ああああああ!痛い痛い痛い痛い!あぁ!」
彼は叫んでいます。かわいいですね…
とても痛そうで、苦しそうな悲鳴を聞いていると心が高鳴って満足する感覚です。
「ぁ……ダイ…ヤ……やめて…くれ……」
顔も苦痛に歪んでいます。今までに見たことがない顔で、私だけが見られる顔だと思うととても愛しく感じます。
もっと味わいたい、もっと聞きたい、もっと私の印を刻みたい。
次第に、私の目的は、血を啜ることではなく、彼の躯に傷をつけることに変わりつつありました。
次は肩をいただきましょう。
丸みを帯びていて、肉付きもよくって美味しそうです。
三度目の愛噛を楽しみます。ゆっくり力をかけて……
私の歯が皮膚を切り裂き、肉を傷つける感触がはっきりと伝わってきました。
「あああああああああああああ!」
もう一度、強く嚙んで、傷口を広げます。
「やめてやめて!いたい!やめて!」
この味、この感触、この声がとても嬉しくて楽しくて仕方がありません。
それから、私は無我夢中で口付けをし、噛み切り、血を味わい続けました。
彼の体の首筋、肩、二の腕、胸板には多重に噛み傷が作られて、血で薄汚れています。
さらに、熱烈な口づけによって所々鬱血して、耳、頬までもが唾液で濡れて、てらてらと光っています。
これが、私の愛の証だと思うと、とても満たされました。
とてつもない高揚感と満足感に包まれていました。
こうして、本能のままに貪った後、ふと気づいてしまいました。
そこには、傷だらけで、血と汗と唾液にまみれた男と、所々が血で汚れた制服を身に纏った女が居ることに。
冷静さを取り戻した時には、もう遅かったと感じました。
「ごっ、ごめんなさい!つい、気持ちが昂っちゃって、トレーナーさんに酷いことをしてしまいました…で、でも、トレーナーさんが好きという気持ちは本心で、二度としませんからっ!許してください!契約解除しないでください…!」
「ダイヤちゃんの気持ちはよくわかったよ……だ、大丈夫。契約解除はしないよ。ただ、これからは気を付けてね……?」
「はい……ごめんなさいトレーナーさん…………」
トレーナーさんは本当に優しい人です……
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強烈な愛情と痛みに襲われ、前後不覚になっていたが、なんとか思考は戻ってきた。
全身がヒリヒリして、所々軋む感覚があるが気にしている場合ではない。
ダイヤが落ち着くまで待って、抜け出すしかない。
「ごっ、ごめんなさい!つい、気持ちが昂っちゃって、────
しかし、ダイヤの声を聞いて、思考が揺らぐ。
ダイヤは暴力行為をしたのだ、決して許される事ではな。
だが、思春期の不安定な時期で、自分の事が好きが故に暴走してしまったというのだ。
多少なりとも、情が湧いていしまう。
だから、彼女の未来のためにも、今日のことは忘れることにした。
これは、決して、彼女の暴力性に怯えているわけではない。
「ダイヤちゃんの気持ちはよくわかったよ……────