ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

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第一章
プロローグ


 

 何気ない朝、いつも通りの朝がやってきた。

 

 と言っても外はまだ完全に日が昇っておらず、冬の寒さを未だに引っ張っているかのように肌寒い。

 

 

「ん、ぅうぅ〜〜......さむい」

 

 

 寝静まっていた部屋にそんな気怠そうな声と、外から聞こえる鳥の声が妙に響く。ゴソゴソとベットの上で布が擦れる音がすると、一瞬止まる、そしてまたゴソゴソと掛け布団が動けばまた止まる、なんてことを何度か繰り返した後、ガバッと意を決したように勢いよく布団が捲り上がり、隠れていた主が起き上がった。

 

 その主が眠気を体から弾くように上半身を伸ばすとポキポキと体が鳴る。まるで体がよく寝ていたと合図を送るかのように。

 

 そしてその体の主である彼は勢いよくベットから飛び出し、着ていた寝巻きを雑に脱ぎ捨て、慣れた手つきで手早く運動用のジャージに着替える。鏡に映る自身の体に満足そうな頷くと足早に自分の部屋から出ていく、と見せかけて部屋に戻ってきた彼は「あぶない、あぶない」と呟きながらスマホとワイヤレスイヤホンを手に取り今度こそ部屋を出ていき、階段を静かに降りて、玄関を抜け、外に出た。

 

 

「さてと、今日は何キロ走ろうかなっと」

 

 

 簡易的に準備運動をしながら、スマホでいつもの音楽アプリを起動させ「今日は進撃の巨◯の“Barricades”がいいかもな♪」なんて言いつつイヤホンを耳につける。

 

 そして耳に届く熱いBGMで体に喝をいれ、今日も日課のランニングに勤しむオタクだった。

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 月曜日。登校時間ギリギリのチャイムと共に教室に入ってきた男子生徒がいた。

 

 彼の名は南雲ハジメ。教室について早々、徹夜で気怠い体を自分の机まで辿り着かせると事切れたように机に突っ伏してしまった。

 

 そんな彼を見て近寄ってくる男子生徒がいた。

 

 

「オラッ」

 

 

 近づいてすぐに南雲の机の足を蹴った男子生徒。それに驚いて顔を上げる南雲を見下ろす男は“檜山大介”。いつも南雲に絡む生徒筆頭の男だった。

 

 

「よお、キモオタ。また。徹夜でゲームしてたのか?どうせエロゲーだろ?」

 

「うっわ、普通にキモいわ〜〜」

 

 

 檜山の言葉に反応する男子生徒達。ゲラゲラと笑う姿は南雲が今クラス内でどういう立場なのかハッキリとわからされる物だった。と言っても中心的に南雲に絡むのは檜山に加え斎藤良樹、近藤礼一、中野信治といった四人組だが他の男子生徒達は遠巻きで笑うか、傍観のどっちがだった。

 

 ただ一人を除いて。

 

 ゲラゲラと下品に笑う声が響く教室の扉がガラリと開く。そして入ってきたのは高身長で凛々しい目鼻立ちに太い眉毛をした好青年だった。彼はまっすぐ南雲の方に歩み寄ってくる。それを見た檜山達のグループはあからさまに嫌そうな顔になる。

 

 

「ヨッ!南雲、おはよう」

「あ、要くん、おはよう」

 

 

 (かなめ) (しん)。クラス内で二番目に身長が高く、体格も良い快活な好青年。南雲とはアニメや漫画の話で盛り上がれる南雲の唯一と言っていいほどの友人だ。その上、バスケ部に所属しており去年の新人戦で優勝を納めたほどの実力者。

 

 そんな彼は南雲の前の席に座ると、檜山を睨んだ。

 

 

「な、なんだよ要。なんか文句あんのかよ!」

「大アリだダボ。とっとと自分の席に戻れよ根性無し」

「なっ、なんだとコラッ!てめぇもキモオタの癖に調子よってんじゃねぇぞ!」

 

 

 要の檜山を小馬鹿にした物言いに声を荒げて要に掴み掛かろうとする檜山。それを止めようと斉藤、近藤、中野が檜山を止めに入る。そんな彼らを無視して要は南雲に話しかけ「昨日の深夜アニメ見たか?」と話題を変えていた。そんな様子を苦笑いを浮かべながら南雲は一応要と話を続ける。

そんな様子につまらなくなったのか檜山達は離れていった。

 

 それを見届けて要は深い溜息を吐いて南雲に掌を合わせて謝った。

 

 

「悪い!また面倒なことにしちまって」

「いいよ別に、気にしてないから。それより要くんの方は平気なの?」

「俺はいいんだよ。いざとなれば殴って終わりだからよ!」

「いや、スポーツ選手としてそれはどうかと思うよ?」

 

 

 「それもそうか」なんて言いながら笑う要に、南雲は心配しつつも笑って答えた。そして再びアニメや漫画の話をしたり、眠たそうな南雲を気遣う要達の元に彼女がやってきた。

 

「おはよう、南雲くん、要くん」

「あ、白崎さん、おはよう」

「おう、おはよう白崎...あぁ〜俺ちょっと用事思い出したわ。南雲、また後でな!」

「え、ちょっと!要くん?」

 

 

 白崎香織というこの学校の二大女神の一人と挨拶を交わした途端、要はいかにもわざとらしくその場を足早に去っていく。南雲は一人取り残されてしまい、先ほどまで座っていた要の席に今度は白崎が腰を落とし南雲に話しかける。

 

 

「要くん、もうすぐ授業なのにどっか行っちゃったね」

「そ、そうだね白崎さん」

「それより今日もギリギリだったね南雲くん。もっと早く来ようよ」

(どうして置いていったの要くん!!)

 

 

 二大女神の一人である白崎香織に話しかけられている、ということだけで周りからの男子の視線が南雲に突き刺さり、とても居た堪れない気持ちになってくる。平穏に学生生活を謳歌したい南雲にとって男子の注目の的である白崎香織という人物の接近はなるべく避けたいのだ。そしてなんとか話を切り上げれるようにと考えていると、彼らがやってきた。

 

 

「南雲くん、おはよう。いつも大変ね」

「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」

「全くだぜ、そんなやる気ないヤツには何を言っても無駄と思うけどなぁ」

 

 

 唯一南雲に挨拶をした女の子。彼女は八重樫雫。白崎香織と並ぶ二大女神の一人である。そしてそれ続いて言葉を発したのは天之河光輝と坂上龍太郎だった。二人とも要に負けず劣らずの高身長であるが体格的には坂上が一回り大きく、それよりも少し劣るのが要で、その次に天之河といった順番になるだろう。

 

 

「八重樫さん、天之河くん、坂上くん、おはよう。はは、まあ自業自得とも言えるから仕方ないよ」

「それより要の奴はどこ行ったんだ。もうすぐ授業だっていうのに。全く、南雲といい要の奴といい、このクラスには不真面目な生徒が多いぞ」

「あいつは特にだろ。授業はサボるは、女癖は悪いは、俺はああいう奴が一番嫌いなんだ」

「光輝に龍太郎も、それは勘違いだって言ってるでしょ」

「何を言ってるんだ雫。あの時雫は嫌がってたじゃないか。それに現に他の女子からも苦情が出ている」

「あ、あれは.....」

 

 

 そう、要 進には悪い噂が立っていた。それは授業をサボって多数の女生徒と不純異性交遊を繰り返していると。もちろんそれは真っ赤な嘘だ。

 

 とある女子生徒が要に告白をした。それを要は手酷くフったのだが、その理由は告白してきた女子生徒が南雲や八重樫、白崎の陰口を言っていたのを聞いていたためだ。それを快く思わなかった要がかなりキツい態度でその女子生徒をフったのだが、それに腹を立てた女子生徒とその取り巻き達が要のある事ない事を言い振り撒き、結果“要 進は女遊びをする最低なクズ野郎”という噂がたったのだ。

 

 その真相を知っている八重樫や白崎、それに南雲も要がそんな人間ではないとわかっている。しかし、それを否定しない要。要曰く「本人を見もしないで噂だけで嫌うならそれで結構。そんな奴に好かれたいとも思わない」と実にあっさりと言い放った。

 

 せめてクラスメイトだけでもと天之河や坂上がその話を持ち出す時は八重樫が積極的に否定しているのだが、八重樫自身少し前に要と色々あって、それを見て勘違いをしている天之河のご都合解釈は八重樫の反論を受け付けず、結果要と天之河はかなり仲が悪くなっている。

 

 先ほど要が教室から出ていったのは恐らく八重樫や白崎、南雲を気遣ってのことだろう。これ以上、八重樫達に苦労かけないために。

 

 そんな彼の気遣いにますます八重樫は溜息をつきたくなる。

 

 

(どうしてあの時、返事を言えなかったんだろ)

 

 

 すると教室の扉が開き、先生が入ってくると授業開始のチャイムが鳴る。

 

 天之河達はそれを見て各々の席に着くが、八重樫は結局教室に帰ってこなかった要の席に振り返り少し表情を暗くした。

 

 その後、彼のいない教室はあっという間に時間が過ぎてゆき、とうとう昼休みの時間となった。

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 お昼休みになってようやく帰ってきた要は、南雲と一緒に飯を食べていた。と言っても要は弁当で、南雲は10秒でチャージできるゼリーだった。

 

 

「珍しいな南雲、普段ならこの時間にはもう教室出ていってるだろ?」

「うん、今日はこのまま食べ終わったら寝ようかなって」

「おいおい、昨日そんなに忙しかったのか?体調とか平気か?飯、分けてやろうか?」

「大丈夫、全然平気だよ、ありがとう」

 

 

 要が心配そうにするが南雲は心配無用とサクッと手早くゼリーを飲み干した。さて、そろそろ寝ますか、と考えていた時ふと要がいつもと違うことに気づいた。

 

 

「要くん、今日弁当なんだね」

「ん?あー、これ貰いもんなんだよ。おかげで昼飯用のパンが余ってるからどうしようかなってさ」

「そうなんだ、美味しそうだねそのお弁当。なんか僕も少しお腹が空いてきたよ」

「お!そうかそうか!なら俺の昼飯用だったパンやるよ」

 

 

 「ちょっと待ってろよ〜」と要が机の下に置いていた自分のカバンの中を漁っていると二人の横にやってきた人物が声をかけてきた。

 

 

「だったら私のお弁当食べる?」

「え、白崎さん?」

「イタッ!」

「ちょ、大丈夫要くん?」

 

 

 声の主が白崎だと判明した瞬間、ビクッと反応した要が頭を机にぶつけたらしい。白崎が心配して声をかけるが、そんな白崎には目もくれず要は白崎の後ろの人物達に視線を向けていた。

 

 

「香織、そんな奴らは放って置いてこっちで一緒に食べよう。南雲だってまだ寝足りないみたいだし、せっかくの香織の手料理をそんな寝ぼけたままの顔で食べるなんて俺が許さないよ」

「え?どうして光輝くんの許可がいるの?」

「「ブフッ」」

 

 

 天之河と白崎のやり取りに要と八重樫が思わず吹き出した。天然の白崎による直球ストレートのピッチャー返しに天之河はもたつきながら困った顔であれこれ話している。

 

 

「フッ、俺のパンはいらないみたいだな」

「なにちょっとかっこよく言ったみたいに言ってるの?」

「いいじゃないか、白崎の手料理を望んで食べれるやつなんて早々いないぞ?」

「勘弁してよ、僕は平穏に学校生活を送りたいだけなのに」

 

 

 取り出していたコロッケパンをキメ顔で静かにカバンにしまおうとする要の手を、珍しく機敏な南雲の手が掴んできた。優しそうに話をしている二人だが、彼らの手元のコロッケパンの袋が二人の手によってミチミチと音を立てている。

 

 この難局を乗り越える方法として南雲が思いついたのはお腹を満たすことだった。そのため要が差し出していたコロッケパンは得難いチャンスと言える。パンならば持ち運びも簡単な上、手軽に済ませれる。教室の外ででも食べれる。もしくは今ここで食せば「あ、ごめん、もうお腹いっぱいなんだ」を発動して早々に眠りにつける。そのためにもこのパンはここで頂かなければ!

 

 なんてことを考えている南雲はやはり疲れているのだろう。そしてそんな南雲の内なるテンションに知ってから知らずか要も内なるテンションが高まっていた。

 

 

「あいにくだが南雲、このコロッケパンはコロッケの具が少ない。お前が求めて止まないコロッケパンとはもはや呼ばない代物だ!だからその手をどけるんだ」

「それなら平気だよ要くん、僕は!その!コロッケだけで十分だから」

「いやいやいや、そんなことはないぞ南雲。お前の腹を満たすためには、そして栄養バランスを考えるならば!白崎のお弁当こそ相応しいと俺は思う。それにお前も言ったじゃないか、俺の()()()()()()()()()()だって。つまりがお前が本能的に求めているのは弁当だ!」

「な、それは言葉のあやじゃないか!」

「そしてここで俺は最終兵器を投入する!おーい、白崎〜、南雲がお前の弁当食べたいってさ!」

 

 

 ハッとなる南雲が視線を向けた先には、なんとも嬉しそうに「え!ほんとに?!」とキラキラと輝く笑顔の白崎がいた。そして目の前の要はなんと邪悪な笑みか。

 

 

「貴様ァァ〜〜〜!!」

「フハハハッ!もうお前は逃げられない!大人しくその手を離せ!」

 

 

 珍しくテンションが高い南雲と要に教室に残っている生徒の視線が刺さる。あとその手に握られている元コロッケパンの何か。面白くなさそうにする檜山達のグループや、意味深な視線を送る園部達グループ、他にも教室内にいたクラスメイト達はなんとも珍しいものを見るような視線を二人に向けていた。

 

 

「...何やってるのあの二人」

「珍しく二人が教室にいると思ったら、なんだか面白いことになってるね!雫ちゃん」

「まあ、面白いと言えば面白いわね。キャラ崩壊してるけど」

 

 

 南雲と要をニコニコしながら眺める香織の発言に、多少は同意する雫。そして雫はそんな彼らを見て少し羨ましく思えた。

 

 

「お前達、いくら昼休みだからってそんな教室で騒ぐんじゃない!みんなに迷惑だろう」

 

 

 さすがに騒ぎすぎたため、天之河が二人を注意しに行こうと席から立ち上がったその時、それは起きた。

 

 突然、天之河の足元に円形の光の模様が現れ、それは一瞬で教室全体に大きく広がった。

 

 教室内にいた生徒達が一斉に立ち上がり何事かと騒ぎ出す。

 

 それは魔法陣だった。アニメや漫画でよく見るような幾何学的模様を規則的に配列された本物の魔法陣だった。

 

 いまだに教室に残っていた愛子先生が何かを言っているが、そんなものは聞こえない。何故ならその魔法陣がより一層の光を放ち、教室にいた生徒達に教師を一名加えた全員が光に飲み込まれたのだから。

 

 




 

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