ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

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訃報〜後編

 

 園部が倒れ寝込み、八重樫が自室で塞ぎ込みがちになって、すでに二日が経っていた。

 

 メルドから要が死んだことを報告された生徒の中で何人かは部屋から出てこなくなっていた。

 

 そして訃報の翌日、王宮に帰ってきた畑山愛子は要の死を聞かされ激怒した。自分が知らない間に要の王都追放が決まり、その後の死。ただでさえ南雲の訃報を聞かされ、急いで帰ってきたのに、立て続けに二人目の死亡報告は愛子の心を苦しめた。何より要が裏切り者という噂を流した相手に、要を王都追放にした王宮側に尋常ではない怒りを見せた。これには事の重大さを甘く見ていたエリヒド王、イシュタル教皇が驚き、慌てて弁明した。

 

 なんとか怒りを鎮めさせることができたが、「これ以上生徒達を苦しめないでください!」という愛子の思いと嘆願により、戦闘に参加する意思の無い者には何もしないと誓わされたエリヒド王とイシュタル教皇。

 

 そして愛子は要の死を受け入れるためにメルドと共に遺体安置所へと赴き、目の前の変わり果てた要の姿に絶句した。

 

 あまりに酷い有様に「ごめんなさい、ごめんない、ごめんなさい...」と何度も要の遺体の前で愛子は謝った。

 

 そんな愛子の姿にメルドも彼と愛子に深く詫び、二人はその場を後にした。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

side:クラスメイト(勝気な少女)

 

 

 

 その日の夜、園部優花は夢を見ていた。

 

 もう四年以上前のことだ。園部優花が通っていた中学には一人の有名人がいた。

 

 その男子生徒は天才だった。スポーツも学力も喧嘩も全て学校で一番だった。「あ〜、居るところには居るんだなぁ、こういう人」と園部優花は、そんな男子生徒にこれといった感情を持ち合わせていなかった。

 

 だが中学二年の時、彼と同じクラスになり彼を間近で見る機会が増えたことで彼に対する感情が変わった。

 

 いつもつまらなそうにしている彼。他人と関わらそうとせず、まるで余裕綽々で人を見下す態度にだんだん腹が立っていた。

 

 そしてある時、彼女の友人が彼に告白した。だがそれは実らず、手酷い振られ方をしたらしく友人は泣いていた。

 

 それに腹を立てた彼女は彼に対してこう言ってやった。

 

 『私、あんたみたいな奴嫌い』と。彼は面食らった様な顔をしていたが、すぐにいつものつまらなそうな顔に戻り『俺もたった今、お前のことが嫌いになった』と言い返してきた。ムカつく。なんでも出来るからって人の気持ち踏み躙る様な最低な奴を園部優花は許せなかった。

 

 だがそんなある日、彼が教室に持ってきた物にクラスメイト達一同は騒然とした。

 

 それは漫画やライトノベル小説といった創作物だった。

 

 今までそんな素振りも興味も持っていなかった様な奴が急にそれらを学校に持ってきて、授業中に読み耽っていたのだ。いや、そんな物学校に持ち込むなよ、と誰もがツッコムが教師すら委に返さず、我が道を征く!とばかりに堂々としていた。

 

 だがそれだけにとどまらず、彼が部活に入ったのだ。しかも弱者チーム。彼の才能ならこの中学で一番強いサッカー部に入るだろう予想は見事に外れた。友達が目撃した話では、他の部活動の顧問がこぞって彼を勧誘したらしいが、それら全部を蹴っての入部だったらしい。

 

 益々わからない。

 

 以前の彼は何もしない、何も見ない、誰にも近づかない、近づいた相手は傷つける、といった感じだったのに、明らかに何かが違っていた。

 

 教室ではアニメや漫画の話で盛り上がれる友達を見つけた様でいつも誰かと楽しそうに話しているし、バスケ部だって自分が見かけた時には楽しそうに部員とスポーツをしていた。彼に告白する女子だって、以前より明るくてかっこいいという理由で増え、その悉くが振られたが全部やんわりと角が立たないようにだった。  

 

 だからだろうか。

 

 何が彼をそこまで変えたのかすごく気になった。

 

 それが彼女に気まぐれを起こさせた。

  

 

『.......今度、うちの店にご飯食べに来なよ』

『いいのか?お前、俺のこと嫌いだろ?』

一見(いちげん)のお客さん相手に好きも嫌いもないわよ、お金払ってくれるなら。でも作った料理残したら許さない』

『そうか....なら今度部活帰りにでもやらせてもらうわ』

 

 そして、本当に来た。

 

 彼は彼女の実家の洋食屋の味を気に入ったらしく、ちょくちょくお店に通うようになった。

 

 園部優花がお店の手伝いをしてる時間帯とよく被って彼はやってくる。

 

 いつの間にか彼は常連となり、他の常連さんとも仲良くなって、終いには固定の席までできた上に両親とも仲良くなってしまっていた。

 

 そんな日常になんだかんだ彼女の心は絆されていた。

 

 そして、トドメは彼がバスケの試合を学校の体育館でしていた時だ。たまたま友達に声をかけられ、一緒に試合を見ていたのだが、素人目でもわかるほど彼はすごかった。中学生離れした身体能力に、相手チームを翻弄するテクニック、積み重ねた努力が滲み出るパスワークや連携、試合の結果は圧勝だった。

 

 大はしゃぎの友人の横で、彼女は彼を見た。

 

 以前の様な暗く鋭い表情ではなく、同年代の無邪気で頼もしい男の子の顔で清々しい汗を流しながら笑顔の花を咲かせていた。

 

 この時から園部優花の彼に対する評価や感情が一気に逆転した。

 

 それからというもの、彼女は彼に色々とお節介という名のアプローチを仕掛けていた。まあ、そのほとんどが最終的に言う必要のない言葉でいま一歩踏み込まずにいた。

 

 ぶっちゃけ言うと照れ隠しだ。

 

 だって、仕方ないじゃない!もし、この気持ちを、想いを口に出しちゃったら、きっとーーーーーー

 

 刹那、走馬灯のように思い浮かぶ色んな情景の中で豪快に快活な笑顔を咲かせる彼。そして自分の記憶の中で、真新しい彼の最後の笑顔が浮かんだ。

 

 

『お、おう。まあのんびり待ってるよ』

 

 

 どこか困った様な、それでも周りを心配させまいと明るく笑う要。胸が高鳴るのを感じる。だから。

 

 

ーーーーきっと、好きを抑えきれなくなる。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 寝ていた園部の瞼がゆっくりと開き、不意に先程までの夢が脳裏をよぎり、声が漏れた。

 

 

「........か、な...め」

 

「優花!」

 

「優花っち!」

 

 

 目を覚ました園部に気づいた菅原と宮崎が彼女の名を呼ぶ。そして覚醒した園部はた辿々しく声を呟く。

 

 

 

「....ふたりとも、どうしたの?.....なんで、ないてるの?」

 

「優花が起きないからじゃん」

 

「本当に心配したんだから!」

 

「.......そっか....ごめんね、心配かけて」

 

「それより優花、具合はどう?お腹空いてない?」

 

「何か食べたいものあるなら私、メイドさん達に頼んでくるけど?」

 

「もう、心配しすぎだって二人とも.......ねぇ、要のことなんだけど....」

 

「ゆ、優花っち!まずお水飲みなって!ほら、二日近く寝込んでたんだから喉乾かない?」

 

「え?私そんなに寝てたの....?」

 

「うん、たまに(うな)されてたよ?ついさっきだって『ぅ〜ん、かなめぇ』って」

 

「ちょっと奈々っち!」

 

「あ、ごめん!」

 

 

 宮崎と菅原がそんなやりとりをしていると、園部は少しだけ頬を赤らめ、意を決したように口を開いた。

 

 

「ねぇ、聞いて二人とも.......私ね、要のことが好きなの」

 

「「..............」」

 

 

 園部の言葉に二人は長い沈黙をし、二人は視線を一度合し、アイコンタクトをとった。そしてーーーー

 

 

「「今さらぁーーー!?」」

 

「うぐっ」

 

 

ーーーー今さらだった。

 

 

「ほんっと今さらだよね優花っち!私たちが気づいてないとでも思ったの!?」

 

「バレンタインで手作りチョコあげてるし、こっちにくる直前だって『今度お店で出すメニューの練習してるから、よかったら食べて。べ、別にあんたのために作ってきたわけじゃないんだからね!』とか言って実質手作り弁当渡してたら、こっちだって気づくよ!」

 

「ま、真似しないでよぉ〜〜!」

 

「まあ、優花っちは生粋のツンデレだから仕方ないけど」

 

「ていうか要くん、多分気づいてたよね」

 

「えッ?嘘ッ!?」

 

「う〜ん、あれは気づいてたなぁ〜。うん、間違いなく」

 

「うん、王都の門で別れた時だって....あっ」

 

 

 そこで二人はようやく踏みとどまった。要の死で傷ついている園部に対して、傷に触れる様な発言をしてしまったことに気づいた。

 

 

「優花っち....その.....」

 

「大丈夫、私は信じてるから要のこと」

 

「え、信じてるって.....?」

 

「要が生きてるって」

 

 

 二人は園部の言葉に沈黙した。いくらなんでも今の園部の発言は現実逃避してる様にしか聞こえなかった。

 

 

「優花、辛いだろうけど要くんは死んだんだよ。遺体だって確かに運び込まれてるみたいだし.....」

 

「こう言っちゃアレだけど、もう信じる信じないの話じゃないよ、優花っち.....」

 

「その遺体は本当に要だったの?」

 

「え?うーん....愛ちゃん先生に聞いたからハッキリとは言えないけど、顔も確認できないほど酷い遺体だって言ってた。ステータスプレートも無くしてるみたいだから本人確認はできてない、かな.....」

 

「でも、体格も髪色も同じだって愛ちゃん先生言ってたよ!」

 

「それだけなら、まだ要本人とは決まったわけじゃないと私は思う」

 

「「優花(っち).....」」

 

 

 希望は限りなくゼロに等しい。だが園部には要が簡単にやられる様な男ではないと、なんとなく思っていた。具体的な根拠はない、けど園部は信じた。彼の強さを。長年、彼を見てきたからこそ園部はそう思えた。

 

 

「でも、もし要っちが生きてたらとしてどうするの?手がかりとか何もないよ?」

 

「それに私、もう天之河くん達についていく自信ないし、戦うのも....」

 

「手がかりならあるわよ。オルクス大迷宮と要の装備品よ」

 

「装備品を探す、ってことだよね?けど、なんでオルクス大迷宮?」

 

「あの南雲大好きっ子の要が簡単に南雲の捜索を諦めると思う?」

 

「あ、それは確かに」

 

 

 どうやら園部達の間では要は南雲が大好きだからいつも一緒にいるのだと思われていたらしい。実際、南雲贔屓なので要はきっと反論の余地がないだろう。

 

 

「てことは優花、もしかして天之河くん達と一緒に.....?」

 

 

 菅原の言葉に園部は首を横に振った。

 

 

「強くなることを諦める気はないけど、私も天之川河くん達についていく自信はない。だから協力してもらうの」

 

「天之河っちに?」

 

「天之河くんに、ていうより雫と香織、かな....ほら、天之河くん、要のこと嫌ってる、ていうか苦手じゃん?」

 

 

 園部がそういうとまた二人の顔が暗くなった。園部が怪訝そうにしていると、二人は言いにくそうに口を開いた。

 

 

「実はーーーー」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ー

 

 

side:クラスメイト(苦労性な少女)

 

 

 

 八重樫は今日も訓練に参加しなかった。

 

 この二日間ずっと自分の部屋に篭り、暇さえあればベッドの上で膝を抱え、虚空を見つめていた。

 

 彼女を心配して訪ねてくる宮崎や菅原、谷口や中村は八重樫をなんとか励まそうとするがどれもイマイチ手応えがなく不発で終わった。天之河に至ってはーーーーー

 

 『雫、いつまでもクラスメイトの死を引きずってちゃいけない。それに君と要は仲が悪かっただろ?要のことでクヨクヨするなんて雫らしくないぞ!要の死は唐突過ぎたが心配しなくていい、俺が雫を守ってみせるから!』

 

ーーーーーこの有り様だ。

 

 白崎が速攻天之河にはご退席させ、今は白崎が八重樫の面倒を見ていた。

 

 そして今も八重樫の隣でずっと座って彼女に寄り添っていた。

 

 

(雫ちゃんがこんなになるなんて、やっぱり雫ちゃんは要くんのことをーーー)

 

 

 コンコンコンっ

 

 と、部屋の扉をノック音が聞こえた。

 

 

(こんな時間に誰だろ?もしかして、また光輝くん.....?)

 

 

 と、トラブルメイカーの幼馴染を想像しつつ扉を開けた白崎。だが、白崎の予想とは違った意外な相手だった。

 

 

「あれ!?優花ちゃん、もう大丈夫なの?」

 

「うん、もう平気。奈々達から聞いたけど、心配かけたみたいでごめんね」

 

「いいよ全然、それより目覚めて本当によかったぁ....ところで、どうして優花ちゃんが?」

 

「そうだった....雫、いるかな?」

 

「うん、いるけど.....」

 

「そっか、ちょうどよかった。二人に聞いてほしいことがあるんだけど、いいかな?ああ、やめた方がいいなら日を改めるけど.....?」

 

 

 園部は菅原と宮崎から今の八重樫の状態について聞いていた。本来、話をするなら日を改めた方がいいのだろうが、思い立ったが吉日。こういうのは早い方がいいよね、と八重樫の部屋を訪ねたのだ。もっとも八重樫本人が日を改めて欲しいというなら、仕方ないが。

 

 

「雫ちゃん.....優花ちゃんの話聞いてみてもいいかな?」

 

「うん、香織がいいなら私も大丈夫よ....」

 

 

 以前より明らかに覇気のない八重樫の声に園部は来てよかった、と思った。  

 

 そして部屋の中に入った園部は、八重樫が座っているベッドの横に置かれた椅子に腰掛けた。それに続いて白崎ももう一つの椅子に座った。

 

 

「ねぇ雫......雫は要のこと、どう思ってるの?」

 

「へ.....?」

 

「え、優花ちゃん....?」

 

 

 思わぬ方向から飛んできた先制パンチに面食らっている八重樫と白崎。二人が予想していたのは優花による励ましの言葉だったのだが、そのあてがあっさり外れ、二人は一度視線を合わせて質問の意図を聞こうとした。

 

 

「えっと......それはどういう意味の質問なの?」

 

「言葉通りの意味よ、今の雫の状態でこんなこと聞くのは酷だと思うけど.....どうしても聞いておきたいの」

 

 

 何故そんなことを園部が聞いてくるのか。それはオルクス大迷宮に潜る前日の夜、宿屋での出来事が要因だった。

 

 あの日園部は、要が八重樫のことを好きだったのだと初めて知った。そして要が振られるところも見ていた。その後の八重樫と要は、以前のように距離を置いた関係性にはならず、むしろ以前よりも仲が深まり友人として互いを信頼しているようだった。

 

 だからこそ園部は確認しておきたかった。

 

 八重樫雫が要進という男を本当に信頼しているのか。そこに友愛か、はたまた友人に向けるものとは違う()()()()があったとしても、園部が要を信じているように、八重樫に要を信じて欲しいのだ。

 

 

「彼は....すごい人だと思っていたわ。努力家で、才能もあって、私なんかよりよっぽど強かった....だけど、あんなに強かった彼ですら.....死んじゃったわ.....」

 

 

 上手く言葉にできないながらも、彼に対して感じていたものを一つずつ並べていく。だがそれは、どこか他人行儀な、主観とは別な視点での感想のようにも園部は聞こえた。言っている本人ですら少し違和感を覚えていた。

 

 だが、それももはや意味のないこと。

 

 八重樫は再び彼の死を思い出し、言葉に詰まった。だが、園部が八重樫に希望の道標を口にした。

 

 

「雫、私は要がまだ生きてると思ってるの、ううん、信じてるの」

 

「.....え?」

 

「ちょ、優花ちゃん!いくらなんでもそれは.....」

 

「違うわ、香織....雫思い出してみて、メルド団長の言葉を。メルド団長は要の遺体は焼き尽くされて()()()()()()()()って言ってたのよ、つまりまだ要本人だと決まったわけじゃない。それに本人確認できるステータスプレートや装備品が何一つ残って無いなんて、いくら盗賊でも焼死体から遺留品を全部奪っていくなんておかしいと思わない?」

 

「でも.....背丈や髪色が」

 

「そんなの似ている人がいればいくらでも偽装できるわ。ていうか、焼死体なのに髪の毛が残ってるのもおかしいでしょ?体を覆うほどの火力で焼かれたのならまず最初に髪の毛が燃えて無くなってるはずよ」

 

「......確かに」

 

「でも待って優花ちゃん!もしそれで要くんの遺体が別の誰かの遺体だって言うなら、一体誰なの?そもそもそんな人、どうやって用意したの?」

 

「それは私にもわからない.....ただ、私が言えるのは、物的証拠が何一つ無いなら要と断定できないってこと。それにさっき雫も言ってたじゃん、要はすごい人だって。雫がすごい人だって認めるくらいの奴なんだから、そう簡単にやられるわけないでしょ?」

 

「優花.....」

 

「だから手伝って欲しいの、要を探すことを。お願い!」

 

 

 園部の言葉を全て聞いた八重樫は少しだけ瞳を濡らすが溢れる前に瞼を下ろした。そして再びその瞳を開いた時には、以前の苦労性で頼れる女の、決意を改めた強い目をしていた。

 

 

「ありがとう優花......うん、任せて。私にできることがあるならなんでもするわ」

 

「雫ちゃん....!」

 

「今までごめんなさい、香織、心配をかけて」

 

「ううん、そんなこと全然気にしてないよ!私の時だって雫ちゃんがずっとそばにいてくれたんだから、親友として当然だよ」

 

「うん、ありがと、香織」

 

 

 数日ぶりに見た親友の頼もしい顔と優しい瞳に白崎は瞳をうるうるさせ、当然のことだと言ってのけた。それに対して八重樫は心から感謝した。

 

 

「それで優花、私は何をしたらいいのかしら?」

 

「うん、そのことは香織にも頼みたいんだけど、いいかな?」

 

「うん!全然構わないよ!私にも手伝わせて!」

 

「ありがとう、香織。二人に頼みたいのは、オルクス大迷宮で要を捜索してもらうことと、ホルアドでの情報収集よ」

 

「どうしてオルクス大迷宮なの?」

 

「要が生きてるなら、あいつは絶対南雲を探しに戻ってくるはずだから」

 

 

 それを聞いて八重樫と白崎はハッとし、確かに、と頷いた。要と別れた日も要自身がそう口にしていたのだから、要が生きているならそこを目指すのは必然。

 

 

「うん、要くんなら絶対オルクス大迷宮攻略を目指すね」

 

「まあ、要だし。南雲くん贔屓なのは地球にいた時からだから仕方ないわ」

 

「案外、南雲も悪くないと思ってたりして」

 

 

 夜中に良からぬ考えを起こす少女三人。想像するのは要と南雲のボーイズラブ、気前よく「oh、Ye〜s」なんて効果音つき。園部と八重樫は南雲に迫る要を想像して少し顔を赤らめた。一方、白崎も二人と同じように熱いボーイズラブを想像したが、途中から妄想の中の要が自分と置き換わり、南雲に迫られる自分を想像していた。白崎の夢想の相手こと、奈落の底の化け物さんは不意に悪寒を感じたのだった。

 

 

「ゴホンッ、まあ妄想を膨らませるのはここまでにして話を続けましょう」

 

「香織〜、戻ってきて〜」

 

「ハッ!?ち、違うのよ!ちょっと要くんが羨ましいなって思って途中から私とハジメくんでアレコレすること考えてたなんて、そんなことないからね!あ、でもハジメくんにぎゅっと抱きしめてもらえたらいいなって思うのは別にいいよね?むしろその後、優しく耳元で囁かれたりなんかして「君を離さない」なんて言われてみたいとか思っちゃったりーーーーー」

 

「雫、止めなくていいの?」

 

「大丈夫、すぐ戻ってくるから」

 

「それでね、それでね〜〜ッ....ハッ!?.....ごめんなさい」

 

「ほらね」

 

「手慣れてるわね、さすが香織の親友」

 

「ちょっとその意味合いだと素直に喜べないわ」

 

「も、もう!雫ちゃんのイジワルぅ!」

 

「えっと....話を戻すけど、いい?」

 

「ええ、続けてちょうだい。さっきまでの話は私と香織でオルクス大迷宮内またはホルアドで要に関する情報収集と要の捜索でいいのよね?」

 

「優花ちゃんはどうするの?」

 

「私は愛ちゃんについて行こうと思ってる。色んな農地をまわるみたいだから、そこで情報収集と要の行方を探るつもり」

 

 

 つまり、八重樫と白崎はオルクス大迷宮とその周辺での捜索と情報収集、園部は愛子の農地開拓の手伝いをしつつ、情報収集と要の行方の探索になる。手がかりがほとんどない以上、この作戦が妥当なところである。

 

 それに白崎や八重樫にとって、オルクス大迷宮での探索はちょうど良かった。何せ、白崎も南雲を探そうとしているからだ。それを手伝うと言った八重樫もこの作戦案は好都合なのだ。

 

 三人はお互いに顔を合わせ、力強く頷き、新たに決意を固めた。

 

 

「優花....ありがとう。おかげで前を向けたわ」

 

「気にしないで雫、私なんて気絶しちゃってたんだからお互い様よ」

 

「要くんもハジメくんも!二人を連れ戻してハッピーエンドにしちゃお!」

 

「ふふ、そうね。どっち片方が欠けてるなんて、あの二人からしたらあり得ないだろうし」

 

「要と南雲、二人揃ってって感じだもんね」

 

 

 最初の重々しい雰囲気はもうどこにもなかった。三人は柔らかな笑みを浮かべ、笑い合った。再度、お互いに頑張ろうと励まし、女の子らしい話で盛り上がったあと、三人は同じベッドの上で並んで眠りに落ちた。

 

 

 あれから数日後の早朝、八重樫と白崎、他にも天之河や坂上など他の生徒達が王都の門に集まり、愛子率いる農地開拓グループの出発の見送りに来ていた。

 

 農地開拓グループ、通称“愛ちゃん護衛隊”。

 

 メンバーは園部を筆頭に宮崎、菅原、玉井、清水の生徒五人に加え、教会から派遣された神殿騎士数名が愛子の護衛役として同行することになっている。

 

 

「先生、どうか気を付けてください」

 

「留守の間は俺達に任せてください。俺がみんなを守って見せますから!」

 

「寂しくなるけど頑張ってください」

 

「ありがとうございます、八重樫さん、天之河くん、白崎さん。皆さんもどうか気をつけてくださいね」

 

 

 生徒達の心温まる見送りに愛子は笑顔で受け答えをする。

 

 そして出立の時間が来ると、愛子や玉井達が馬車に乗り込む。

 

 

「雫、香織、じゃあ行ってくるね」

 

「ええ、優花達も気をつけて」

 

「優花ちゃん、元気でね!私達も頑張るから!」

 

「うん、ありがとう二人とも。それじゃあ、またね!」

 

 

 八重樫と白崎に軽く挨拶を済ませると園部も馬車に乗り込んだ。

 

 少しだけ寂しくはあるが、お互いに目的のために頑張らなければならない。あの夜、三人でそう誓ったのだから。

 

 そして動き出した馬車を見送る八重樫と白崎。他の生徒達も離れていく馬車に手を振って元気よく送り出していた。

 

 

「香織、私達も頑張りましょう!」

 

「うん、雫ちゃん!」

 

 

 八重樫は馬車に手を振る腕と反対の手で白崎の手のひらを握り、それに応えるように白崎も強く、だけど優しく握り返した。

 

 

(あの時、優花の質問に上手く答えられなかった........私の中でまだ()()()()()()()()()想いがあるみたいなの......だから、貴方を、要を....必ず見つけてみせるわ、そしてその想いがなんなのかハッキリさせる....)

 

 

 三人の少女達は決意を胸に、それぞれの道を歩き出した。

 

 想いを確かめるため、想いを伝えるため、想いを叶えるために。

 

 八重樫雫、苦労性でいつも誰かを支えてきた少女。

 

 彼女の表情はいつもより頼もしく、気概で満ち、艶やかだった。

 





「少女SKY」の一幕でした。
雫のS、香織のK、優花のYでチームSKY。
次回から要登場。さてさてさぁて〜、一体彼はどこにいるのでしょうか。

南雲ハジメの困難に比べたら今の要はまだまだ序の口。
強くなるには試練が必要ですからね、少し過去の自分とも見つめあってもらわないと。
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