ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

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ごめんなさい、長くなりました。
新キャラ登場します。


雪原の出会い

 

 夢を見ていた。

 

 見たことのある無数の魔物と対立し、剣を振り下ろし、魔法を駆使する誰か(自分)だが、自分には見に覚えがなかった。

 

 しばらくその光景が続いた後、この景色は誰が見ていたものかわかった。

 

 

(カイルさんーー)

 

 

 自分がカイルの視点であの時の記憶を見ているのだとようやく理解した。カイル(自分)が自分の背中を見た時、それでようやく理解できたのだ。そして、あの時のカイルがあの戦場で何を思っていたのか、どんな思いで戦っていたのか、カイルの感情が流れ込んでくる。

 

 絶望、恐怖、焦り、気概、高揚感、使命感、尊敬、そして憧れと後悔、最後に祈り。

 

 カイルはあの戦いで多くの感情をうちに秘めて戦っていた。相手の強大さに恐怖と絶望を抱き、それでも立ち上がり勇気を振り絞る。自分と同じ歳だというのに一歩も引かず、強大な敵に立ち向かう男に尊敬と憧れを持つ。だが敵はどこまでも理不尽だった。逆境を乗り越える勇気すらも塗り潰す、圧倒的な絶望がカイルの心を折った。

 

 だが、最後の最後で彼は小さな希望を見つけた。

 

 そして託した。

 

 

『.........はぁ、はぁ.....いつ、か.....かならず......』

 

 

 カイルはもうほとんど感覚が無い指を動かし、彼に自慢した魔法の道具を発動させた。かつて自分を救った命の恩人から貰った秘密の魔道具、友情の証である指輪を。

 

 それが淡い光を輝かせると、カイルの体に覆い被さって倒れている男が虚空に消え、入れ替わるように予め用意していた()()()()()()()男の遺体を召喚した。そして指輪は砕けた。

 

 カイルとその男の遺体は劫火に包まれた。

 

 カイルの口元は薄っすらと笑みを浮かべ、口にしたかった最後の言葉を心に浮かべる。

 

 

ーーーーー勝ってください!と

 

 

 カイルは男に全てを託した。

 

 そして恋人への想いを祈り、涙と共に焼かれ、朽ちていった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ー

 

 

 

 静かに目を開いた要は、自分が寝ていたことに気づいた。

 

 その目には大粒の涙が溢れて、目を開けたと同時に耳の方へと落ちていった。

 

 そして要の視界に入ったのは木の屋根だった。天井はそれほど高くなく、それを支える柱も全て木材だ。

 

 ここが一体どこなのか、あたりを見渡そうとして首を動かした時、体に激痛が走った。

 

 

「〜ッ〜ッ.....!?!」

 

 

 痛みが全身に駆け抜け、それに連動するように他のところからも痛みが押し寄せてくる。ここを動かせばそこが、そこを動かせばあそこが、と某児童向けテレビ番組のピタ○ラ○イッチを要に連想させた。もっとも、楽しい要素は微塵もない。やられた本人からすれば、これを作った相手を本気で呪うぐらい酷いものだ。

 

 などと、無駄に思考が働いていた要の元に一人の男が現れた。

 

 

「....目が覚めたらようだな。その様子だと意外に元気らしい、甲斐甲斐しく世話をする手間が省ける」

 

 

 どこが元気なものか!?とツッ込もうとした要。だが、その男を見て要は目を見開いた。

 

 ぶっきらぼうな物言いに何処か皮肉めいた口調の男は、黒い肌に長く伸びた耳、赤い髪を携えていた。

 

 

「.........あんた、魔人族なのか....?」

 

「俺を見て判断できないのか?今の人間族はよっぽどお気楽なようだな」

 

「ぐっ....(抑えろ、今は動けない。それに命の恩人に失礼な態度は良くない....)」

 

「...........少しは物分かりがいいみたいだな。まあ、お前を助けたのは俺ではないがな」

 

「.....じゃあ、誰が?」

 

 

 要がそう質問すると同時に、木造部屋の奥の扉が開き、一人の女性が入ってきた。

 

 

「あ、起きたんですね!本当に良かったです、最初見つけた時はもうダメかと....」

 

 

 その女性は亜人族だった。金髪のミディアムヘアに、垂れた犬耳、目鼻立ちがくっきりとした美しい顔立ち、背丈は日本の成人男性の平均よりやや下ぐらいだろう。だがそれよりも、ひと目で男の目を釘付けにするほどのデカい乳!そして肉付きのいい腰にウエストはキュっと引き締まって細い!それを見た要は心の中で「異世界スゲェエエエエッ!!」と絶叫した。

 

 だが、流石に命の恩人に対してこのような考えは失礼だと思い、まずは挨拶をしようと心を鎮め、一言。

 

 

「おっぱい.....」

 

 

 違う、そうじゃない。

 

 

(俺はいつから女性の胸を見て「おっぱい....」と神妙な顔で言うようになった!見ろ、魔人族の男が俺をゴミを見るような目をしてるじゃないか!くそっ!訂正しなくては....!)

 

「ふふっ、正直な方ですね。でもダメですよ?女性の胸を見てそんなことを言ったら、他の女性に嫌われちゃいますから、今後は気をつけてくださいね?」

 

「おっしゃる通りです、以後気をつけます.....」

 

「はい、素直なのはとても良いと思います♪」

 

(え、何この人、すげぇ優しい.....)

 

 

 思わぬ失態を晒した要だったが、最後は彼女の優しさに心がポカポカした。味噌汁飲みたい。

 

 すると魔人族の男がひとつ咳払いをして、口を開いた。

 

 

「さて、人間の男。お前にひとつ問う....カイルという男を知っているか?」

 

「!?....なんで、あんたがカイルさんの名前を...」

 

「知っているのだな....カイルをどうした?返答次第では貴様を殺す」

 

 

 魔人族の男があり得ないくらい濃密な殺気を要にぶつけてきた。今にも意識を手放したくなるほどで、あの時戦ったノイントとか言う銀翼の修道女と同等以上の脅威だと認識させられた。要の呼吸が自然と荒くなる。

 

 

「その辺にしてください師匠。彼が怯えています、それにそんな態度では彼も答えられませんよ?」

 

 

 途端、魔人族の男の殺気が弱まった。と言っても殺意はいまだに要には向けられているので、とてもじゃないが穏やかな気持ちにはなれない。

 

 

「答えていただけませんか?あなたが何者でも、この場で殺すことは致しませんので」

 

「.....わかった、正直に話す。元より今の俺では何もできないから、話終わった後は好きにしてくれ」

 

 

 そう言って要は全てを話した。

 

 異世界から召喚されたこと、オルクス大迷宮でのこと、王都追放のこと、そしてノイントなる女に襲撃され、呆気なく敗れたことを。

 

 そこまで話してようやく魔人族の男は殺気をおさめた。

 

 

「.....嘘は言っていないようだな」

 

「信じてくれるのか?」

 

「俺に嘘は通じない、そういう力を持っているからな」

 

「なら.....」

 

「ああ、殺しはしない、治療も続けてやる。餞別としてお前の装備も直してやる。だが、それが終わったらさっさと出ていってもらう」

 

「.....助かる」

 

「礼を言うならロクサーヌに言え。お前を殺そうとした俺を説得して治療までしたのだからな」

 

「ロクサーヌ?そこの亜人の女性はロクサーヌと言うのか?」

 

「はい、申し遅れましたが私は狼人族のロクサーヌと言います。そして貴方をここまで運んでくれたのは私の師匠、ここにいるロバートです」

 

「その名は好かん、俺のことはロンと覚えておけ人間族の小僧」

 

「ロクサーヌさんにロンさん、か。改めて礼を言わせてくれ、救ってくれたこと本当に感謝している。寝ている姿で申し訳ないが、俺は進、要 進だ」

 

「ではシンさんと呼ばせてもらいますね」

 

「フンッ、とりあえず貴様は早く体を治せ。俺は工房に行く」

 

「待ってくれ」

 

 

 話すことは話し、挨拶も名前も聞くことができたところでロバートが部屋から出て行こうとするが、それを要が呼び止めた。

 

 

「なんだ?」

 

「どうして貴方がカイルさんのことを知っている?親しい間柄だと察しはつくが....」

 

「.......お前と同じだ。昔、ここに迷い込んだアイツを俺が拾った、それだけだ。お前がここにいるのは、俺がアイツに餞別として渡した魔道具のおかげだろう」

 

 

 それを聞いて先程見た夢を思い出した要。

 

 あの時、カイルは最後の最後で要を助けるためにロバートから貰い受けた魔道具を起動させ、ここに要を送ったのだ。恩人であるロバートに要を託すように。

 

 

「これでいいか?」

 

「最後にもうひとつ」

 

「.....まだあるのか?」

 

「貴方がカイルさんに渡した魔道具、あれには使用者の感情を他者に伝える機能でもあったのですか?.....寝ていた時、確かに俺はカイルさんの最後を見た。それにあの時のカイルさんの想いも知った。あれは、俺の妄想なんかじゃないと確信している....一体、どうして.....」

 

「さあな.........だが、時として魔法は人智を超えた力を発揮する。まるで人の意思に応えるかのようにな......その時のカイルがどんな想いだったのかは俺にはわからん。ただ、お前をここに送るだけの決意があって、アイツはお前に()()()を託した。なら、そんな奇跡もあっていいだろう......」

 

 

 そう言って今度こそロバートは部屋から出て行き、締め切った部屋の中に残された要とロクサーヌ。

 

 要はロクサーヌが隣に寄ってくることにも気づかず、涙を流してカイルの最後の想いを受け止めた。

 

 そんな要を見てロクサーヌは要の頭を優しく撫でる。

 

 要は恥ずかしそうに顔を逸らすが、それでもお構いなくロクサーヌは優しく微笑みながら要が泣き止むまで頭を撫で続けた。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 あれから二日が経過した。

 

 体はすっかり元通り。腹にあいた穴も、肩からバッサリ切られた切り傷も、焼けた肌も、切断されたはずの腕すら元のように動いていた。

 

 なんでもロバートは神水というどんな傷でも立ち所に治してしまう魔法の回復薬を持っているらしい。切断された腕は状態が良かったため、縫合し、それでくっつけたとか。凄まじい技量だ。しかし、傷跡は残った。あの時の戦いの跡として、まるであの敗北を忘れさせないように身体中に傷跡となって残っている。

 

 だが、それだけで要が助かるわけがなかった。

 

 元々致命傷だった要が今でも生きているのは、胸に刺さっていた短剣、つまりリリアーナから貰った短剣と、園部と一緒に冒険者ギルドで買った首飾りの効果が大きかったらしい。短剣には神代魔法のひとつ、“再生魔法”が付与されていたらしく、その効果で傷付いた要の体を徐々に癒していたらしい。そして首飾り、あの首飾りのおかげでノイントの肩から切り裂かれた傷もある程度防がれていた。その効果で一命を取り留めていたのだ。もしあの時、ノイントが要に短剣を刺していなかったら、そして首飾りを身につけていなかったら話は変わっていただろう。おまけに付与魔法の派生技能[自然治癒力上昇]の効果もあって回復も早かった。それに冷えた要の体をロクサーヌが人肌で温めてくれていたらしい。ちょっとだけ惜しいと思った要、何がとは言うまい。

 

 これだけの要因が無ければ今頃要はカイルに託された命を無駄にしていただろう。

 

 だが自然と要は、この奇跡の如き一連の流れを偶然と思わず、()()()()だと思えた。なんとなくだが。

 

 

 そして要は今、どこにいるのか。

 

 最初ロクサーヌから聞かされた時、要は驚いた。

 

 そこは遥か南方、ライセン大峡谷を超えたその先の東側に位置する雪原。常に雪が深く積もり、雲が晴れることはない極寒の吹雪が吹き荒れるシュネー雪原だった。その山脈地帯の山の中でロバートとロクサーヌは住んでいた。

 

 

「相変わらずすげぇ景色だな。日本じゃまず見れない光景だ(.....それにしても、シュネー雪原、ねぇ.....ハジメの予想が正しければ、ここにも.......)」

 

 

 要は体を動かすため、ロバートの家から出て木剣を振っていた。ロクサーヌも剣の鍛錬のために外に出てきている。

 

 お互いに防寒用の厚い熊の毛皮を着込んでおり、要のはロバートのお古だ。「いつでも出ていけるように体を動かしていろ」と、木剣と共に渡された物だが、あの人絶対ツンデレだ、と要は確信していた。なんとなく園部に似ていると思った要だが、園部の方がもう少し可愛げがあるな、と自己完結させた。

 

 

「シンさんの居た世界にはこういう場所はなかったんですか?」

 

「いや、あるにはあるんだろうけど、俺が住んでた場所ではまず見られないかな......よし、素振りもこれぐらいでいいだろう。やろうぜ、ロクサーヌさん」

 

「....あの、ほんとにやるんですか?」

 

「ああ、遠慮なく来てくれ」

 

「わかりました....では.....」

 

 

 そう言ってロクサーヌは木剣を要に向けて構えた。それを見て要も木剣を構え直した。

 

 要からの提案で今から二人は木剣による試合を行う。

 

 何故こんな話になったかと言うと、理由は至極単純、要が強くなるためだ。

 

 ロクサーヌの剣の師匠はロバート。ロクサーヌから聞いた話だと、十五年程前にシュネー雪原で倒れていたロクサーヌをロバートが拾い、以来ロクサーヌはロバートに師事しているそうだ。実の娘のように時に優しく、時に厳しくするロバートはロクサーヌにとって親代わりの存在らしい。そして、そのロバートの剣の腕は相当らしい。実際に見ていないのでどれ程なのかわからないが、あの時の殺気、要が目を覚ました時に要にぶつけてきた殺気から考えるに、あのノイントとタメを張れるぐらいの実力はあるだろう。そしてそんな男に鍛えられているロクサーヌ、ロバートに挑む前の肩慣らしにはちょうどいいだろうと要は考えて試合を申し込んだのだ。

 

 

(あのノイントとまた戦う時の為にも、もっと強くならねぇと....それに、こっちは託されたんだ!必ず仇はとる....!)

 

 

 より一層気合を入れ、要はロクサーヌを見据える。だが、気づいた時にはロクサーヌが目の前にいた。

 

 

(は、速ッ!?)

 

「ふっ!!」

 

 

 飛び込んできたロクサーヌの上段振り下ろしをなんとか躱わす要。だが、ロクサーヌは止まらない。要が剣の軌道を目で追う中、ロクサーヌはそれを見逃さず、要の死角に即座に移動し、華麗に剣を振る。それを防げばバックステップを踏み、フェイントを織り交ぜながら距離を詰め、再び剣を振り下ろす。

 

 だが要も負けてはいなかった。

 

 瞬光を使い、知覚能力を上げ応戦する。

 

 それには流石に驚いたロクサーヌ。だが、ならば!とさらに剣を振る速度を上げ、手数がさっきの倍以上となったロクサーヌ。流石に今の要では防ぐので精一杯。

 

 そして最後はロクサーヌが要の木剣を手放させ、幕を閉じた。

 

 

「ふぅ〜、強いなぁロクサーヌさん。手も足も出なかったぜ」

 

「シンさんこそすごいです、付与魔法も使ってないのにここまで動けるなんて!世の中の付与魔術師さんはみんなそうなんですか?」

 

「はは、まさか。普通は遠距離からの支援が基本だそうですよ。にしても、やっぱり強いですね」

 

「私なんてまだまだです。師匠と比べたら足元にも及びません」

 

(これでまだまだ、か.......世界は広いな)

 

 

 瞬光を使っても勝てなかったのは正直意外だった。

 

 ロバートならともかく、ロクサーヌにならいい線行けると思っていた要にとって自分がどれだけ慢心していたのか痛いほど痛感させられた。

 

 

(ぶっちゃけ今の俺なら八重樫にだって剣技で負けない。だが、ロクサーヌさんはスピードもテクニックも八重樫以上、いや、下手したらメルド団長以上なんじゃないか?)

 

 

 付与を使えば要はロクサーヌに勝てただろう。だが生憎、今の要は付与魔法が使えない。

 

 魔法陣を刻んだ手袋も、錫杖も、刀剣も、装備一式全て、今は手元にないのだ。

 

 錫杖はノイントに壊され紛失、手袋もノイントの最後の魔法で焼けて使い物にならない、刀剣と首飾りはロバートが修復中、短剣は元々魔法陣を刻んでいないので論外、服もレクタから貰ったスクロールも全て燃えた。

 

 結果、要の手元には何も残っていない。

 

 だからこそ、ロクサーヌに試合を申し込んだ。

 

 魔法が使えなくても強くなる方法はいくらでもある。ハジメがそうであったように。

 

 

(まあ、舐めてかかった結果がこのざまだけどな.....)

 

 

 なんてことを思っているとロクサーヌが要に尋ねてきた。

 

 

「......シンさんはどうして強くなろうとするのですか?」

 

「?いきなりどうしたんです?」

 

「いえ、えっと.....単純に疑問に思ったんです。あれほどの怪我を負って、ようやく傷が癒えたというのに、シンさんは強くなってまた戦場に行こうとしてます。普通なら怖いって思いませんか?もう嫌だって、死にたくないって思いませんか?」

 

「......つまり、どうして怯えていないのかってことですか?」

 

「はい.....」

 

「う〜ん、俺だって死ぬのは怖いですし、出来ることなら戦いたくないですよ?」

 

「では、どうして.....?」

 

「そんなの決まってます、勝つためです。弱い自分に、打ち負かされた相手に」

 

 

 笑顔で答える要。それを見てロクサーヌは息を呑んだ。

 

 

「それに俺にはやらなければいけないことが二つもありますから」

 

「例のオルクス大迷宮で落ちた友人と、カイルさんのことですか?」

 

「ええ、俺はハジメを探しに行かなくちゃいけません。もちろん生きてる保証はどこにもありませんけど、あいつはきっと生きてる、俺にはわかるんです......それにカイルさんが託してくれたこの命の為にも、強くなってあのノイントを倒さないといけない.....(園部や八重樫達が危険に晒される前に...!)」

 

「でも、死ぬかもしれないんですよ?今度こそ、もう奇跡は起きないかもしれないんですよ?」

 

「大丈夫です」

 

「どうしてそこまで.....」

 

 

 自信が持てるのか?とロクサーヌが言いかける前に、彼女は要の目を見て、口を閉じた。

 

 

()()()()()()()()()

 

 

 要の言葉を聞き、そして目を見てロクサーヌはなんとも言えない凄みを要から感じた。師匠であるロバートとは少し違うが似ている、強者ゆえの確信した瞳。一定の強さを持った強者のみに許された、まるで未来を知っているかのような言動。ロクサーヌは息を呑んだ。

 

 そして一拍置いて要は豪快に笑ってみせた。

 

 その瞬間、ロクサーヌはまるで胸を射抜かれたような錯覚をするほどの、甘い衝撃を受けた。

 

 同年代の人間族、その彼が見せた自分とは違う強さ、自信、気概、頼もしさ、そして一拍置いての無邪気で可愛らしい要の笑顔にロクサーヌは胸をときめかせた。

 

 今までの人生において初めての体験に、ロクサーヌは慌てて顔を体ごと逸らし、熱くなった顔を手で(あお)ぐ。

 

 

(わ、私、どうしちゃったんだろぉ....こんなこと初めてで、どうしたら......!?)

 

「どうしました、ロクサーヌさん?」

 

「ひゃいッ!?」

 

「.....ひゃい?」

 

「い、いえぇ、なんでもありません。そ、それより少し体も暑くなってきたので、汗をかいて体を冷やすのもアレなんで、中に入りましょう!」

 

「は、はい....?」

 

(やだ、シンさんの顔がまともに見られない....!私、本当にどうしちゃったんだろぉ.....うぅ〜、助けて師匠ぉ〜!)

 

 

 その後、ロクサーヌはなかなか要と顔を合わせられずにいた。

 

 不思議そうにする要は、「もしかして俺、嫌われた....?」と見当違いのことを思っていたのだが、数時間後には前と同じように顔を見て話ができたので、要は杞憂だったと考えを改めた。ちなみにその数時間の間、ロクサーヌは要にバレないように顔をガン見してただ慣れただけということは誰も知らない。

 

 

 

 そんなこんながあって、今は要とロクサーヌ、ロバートは夕食を共にとっていた。ロバートが一緒に食事を取るのはかなり珍しいらしい。

 

 ロバートはいつも工房でひがな一日剣を打っており、ロクサーヌが作った料理をいつもは工房で食べているそうだ。時間が空けばロクサーヌに剣の稽古をつけ、そして何処かに一人で行って、数日経てば戻ってくる。そんな毎日だそうだ。そしてロクサーヌはそんなロバートの家事全般を行い、鍛錬しつつ生活しているのだとか。

 

 正直、あまりに退屈そうな日常すぎて、要は「俺と一緒に冒険に行かない?」と冗談半分で優しく誘った。最終的に断られたが、思ってた以上に狼狽えてたロクサーヌを見れて面白いものが見れたと要は笑い、ロクサーヌは揶揄われたと思って「もぉ〜!」と可愛らしく頬を膨らませてプンスカしていた。

 

 そして今、ロクサーヌが作った料理を黙々と食べるロバート。要はロクサーヌの料理の美味さに感激し素直に褒めると、ロクサーヌも嬉しそうに笑う。

 

 

「師匠も美味しいぐらい言ってくれてもいいと思うんですけどね」

 

「......うまいぞ?」

 

「それじゃあ言わされた感がするので、私が聞く前に言って欲しいんです」

 

「.......そんなことより、小僧」

 

「あ、話逸らしましたね!」

 

 

 あからさまに話を逸らされたロクサーヌがまたプンスカしている。そんな二人を見て苦笑いを浮かべていた要に、ロバートは真剣な面持ちで要に話を振った。

 

 

「お前の装備、刀剣と短剣は修復と手入れも終えたぞ?それとお前が使っていた手袋の代わりになりそうなちょうどいい奴があったから勝手に魔法陣は刻んでおいた」

 

「あ、ありがとうございます....」

 

「首飾りの方は残念だが魔法の効力を失ったと同時に宝石も砕けて俺の手では直せなかった。だが、どうせ大事なものなのだろう?首飾りではなく腕輪に仕立て直した。身に付けられるようになっただけ有難いと思え」

 

「は、はぁ....えっと、ありがとうございます」

 

「少し待て、お前に必要そうな物を持ってくる」

 

「え、ちょ...!」

 

 

 一気に捲し立てられ、お礼しか言わせてくれないロバート。そしてロバートは何処かに行ってしまった。そんなロバートを見てロクサーヌがため息混じりに苦笑しつつ、教えてくれた。

 

 

「カイルさんの時もこんな感じだったんです。なんだかんだ言って一度面倒を見た相手は放っておけないんですよ」

 

「はは、でしょうね。俺にもここまでしてくれるんですから」

 

 

 要もこれには苦笑してロクサーヌに同意した。

 

 それと同時に心苦しくなった。

 

 要はロバートに聞きたいことがあった。

 

 もし要の予想が正しければ、このシュネー雪原には()()がある。それはハジメも同じ見解だった。そしておそらくロバートはその在処(ありか)を知っている。なら、聞かなければならない、強くなる為に。

 

 だからこそ、心苦しい。ここまでしてくれた相手に対して()()()()()と、言っているようなものだから。

 

 戻ってきたロバートが軽装の鎧を持って来た。

 

 

「お前は接近戦の素質があるみたいだからな、これを持っていけ。人間族の貧弱な防御力の足しにはなるだろう」

 

「あの、ロンさん....」

 

「あと小僧の燃えた服の代わりに俺の使い捨てをーー」

 

「ロバートさん」

 

「ーー.....なんだ小僧?」

 

「聞きたいことがあります」

 

「......言ってみろ」

 

()()()ってどこにありますか?」

 

「!?......何故それを聞く」

 

「強くなる為に」

 

「くだらん、拾った命を捨てるようなものだ」

 

「貴方は違うんですか?」

 

「!?.....何故わかった?」

 

「カマをかけただけですよ、やっぱりロンさんも挑んでたんですね」

 

 

 明らかに不機嫌な表情になったロバート。そんなロバート相手に要は肩をすくめ、少しだけ笑みを浮かべた。

 

 二人が醸し出している空気はかなりピリついており、話についていけていないロクサーヌは戸惑いを隠さないでいた。

 

 

「.....えっと、シンさん一体なんの話をしているんですか?師匠も、これはどういうことなんですか?教えてください」

 

 

 ロクサーヌが説明を求めるが、二人はそんなロクサーヌを無視し続けて、目の前の相手を見極めようと真剣な面持ちで構えていた。

 

 

「お前が力を求める理由はわかる。だが、あそこに行っても得られるものはない」

 

「何故そう断言できるのですか?」

 

「俺が直接見て来たからだ」

 

「つまり攻略したと?.....そんなことが言えるのは大迷宮の最奥まで見た人間、つまり攻略した者でない限り断言できませんよね?」

 

「....俺を苛立たせたいならそう言え、小僧」

 

「そうなつもりありませんよ、ロンさん。俺はただ聞いているだけです、大迷宮はどこですか?って」

 

「くどいぞ。俺がそれをお前に教える義理はない」

 

「そうですね、確かにその通りです。でも教えていただきたい」

 

「何故そこまで俺にこだわる!行きたければ一人で勝手に行けばいいだろうッ!!」

 

 

 この時、初めて明確にロバートは苛立った様子で声を荒げた。近くに座っているロクサーヌがロバートの怒号に肩を振るわせた。要はそれを平然と受け流す。

 

 

「貴方だからこそ聞きたい。カイルさんの恩人であり、カイルさんの仇を討つ手掛かりを握っているかもしれない貴方に!」

 

「ッ!?」

 

「あれだけの魔道具をカイルさんに持たせたのは、カイルさんを死なせたくなかったから。神水を持っている貴方ならカイルさんがどんなに重傷でも癒せたから。そして、転移する先もこの近くに設定されていたのは、貴方やロクサーヌさんがカイルさんがやって来た時に見つけやすくするため。貴方はカイルさんを誰よりも心配していた.....違いますか?」

 

「.............」

 

「だからこそ、俺はカイルさんの仇が討ちたい。託された側の人間として、勝ってくれと言われた一人の男として!あれを放って置くわけにはいかない!その為に協力して欲しいんです!......お願いします、教えてください」

 

 

 長い沈黙が続いた。

 

 要は途中からただ熱意のみで口を開いていた。それがどれほどロバートの心に届いたかはわからない。だが、言いたいことは言えた。要は深く頭を下げ、お願いする。ロクサーヌももはや何も言えなかった。

 

 そして、長い沈黙のあと、深く溜息の声が聞こえた。

 

 

「いいだろう、場所は教えてやる。だが一緒に付いては行かない、お前が死のうが生きようが俺には関係無いからな」

 

「ありがとうございます....」

 

「明日の朝出発する。それまでせいぜい体を休めておけ」

 

「え?師匠、今付いては行かないって....」

 

「場所を教えるのに案内役がいないでどうする?迷宮内まで付いて行かないと言ったまでだ.....それと、今晩中に装備の感触を確かめておけ、どこか問題があるなら言え、俺は工房内でいる」

 

「はい」

 

「最後に聞かせろ小僧....死ぬ覚悟はできてるんだろうな?」

 

()()()()()()()()

 

 

 ロバートは真剣な表情で背を向けながら要に問う。だが、それに対して実にあっさりと、しかし明確な自信を持って要は答えた。

 

 

「フッ....そうか」

 

 

 初めてロバートは要の前で笑った。そしてさっさと部屋を出て行った。

 

 ロバートが笑うと思っていなかった要は素直に驚いていた。

 

 

「よかったですねシンさん!師匠、シンさんのこと認めたんですよ!」

 

「え?そういうことなんですか?」

 

 

 笑ったら合格ってイ○モネアかよ!っと内心でツッコむ要。

 

 だが、これで大迷宮に挑める。

 

 実力が足りないのは百も承知、大迷宮攻略がそんな甘いものではないと重々理解している。何せ、オルクス大迷宮での出来事はいまだに記憶に新しいのだから。そして、蘇るのは奈落に落ちていくハジメの姿。

 

 

(もう二度と、失わない為に....!)

 

 

 要は明日、大迷宮に挑む。

 

 何故ここまで要は大迷宮に拘るのか。その理由は前に述べたように数多くある。だが、要をそこまで駆り立てる理由はもう一つあった。

 

 それはただの直感。

 

 人に説明しても理解されない、() ()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな予感が、要にはあったのだ。

 

 そして、運命は動き始める。

 

 





補足

『狼人族の少女・ロクサーヌ』
・文字通りロクサーヌ、とよく似たトータスの狼人族とお考えください。
外見はほとんど異世界迷宮のロクサーヌと同じですが、戦闘スタイルは剣一本のみのスピード特化スタイルです。(あんなデカいのぶら下げてすげぇよ、色んな意味で)


『魔人族の男・ロバート』
・長く伸びた赤い髪をした魔人族の男。剣の腕だけでノイントに匹敵するほどの実力者。何か色々抱えてます。自分の名前が気に入らないらしく、ロンと呼ばせたがります。イメージはダイの大冒険のロン・ベルクみたいな感じですね。あれを赤くして黒くした感じ。


『要 進』
・本作の主人公。イメージはタイトルで気づいてると思いますが、マギ“シンドバッドの冒険”のシンドバッドをイメージしてます。ですが、髪は後ろでくくれない程度の長さで、髪色も黒です(だって日本人だから...)
まあ後々変身しますけど、イケメンなのは間違いないでしょうね。
性格も本作主人公として変わっていますので悪しからず





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