ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜 作:つばめ勘九郎
シュネー雪原の奥深くに、深く大きな峡谷がある。
ロバートとロクサーヌが暮らしている山からかなり離れている場所に峡谷はあった。
そして、大迷宮攻略を決意した要はロバートに案内してもらう形で今、峡谷の谷底を歩いていた。ロクサーヌも付いてきており、要と一緒にロバートの後ろを歩いていた。
いつものようにシュネー雪原は猛吹雪、それは谷底でも変わらないらしく、ロバートが用意していた魔物の毛皮で出来た防寒用魔道具がなければ要達はとっくに凍死していただろう。と言っても魔道具の効果は微々たるもので、完全に寒さを凌げる代物ではなかった。風も強く、目の前を歩いているロバートを見失いそうになるほど、視界は最悪な上に声も聞き取りにくい。自然と三人の話し声は大きめになる。
「師匠、一体いつになれば大迷宮に着くのですかー?」
「もうすぐだ.....ロクサーヌ、これぐらいで根を上げているようでは大迷宮に行っても無駄死にするだけだぞ?今からでもかまわん、お前は戻れ」
「いえ、私も行きます。私だって強くなりたいんです!」
「..........」
「ロクサーヌさん、本当に付いて来るつもりですか?こう言ってはなんですけど、大迷宮はそんな生優しい場所ではないんですよ?」
「大丈夫です、別に舐めているわけじゃありません.....(ただ、私もそろそろ強くならないとダメだと思ったんです、
「そうかもしれませんけど.....」
「ついたぞ」
昨日の夜の要とロバートの問答の後、ロクサーヌはロバートに自分も大迷宮に挑戦したいと告げた。もちろんロバートは反対した、要も止めたがロクサーヌの決意は固く、結局付いて来る事になったのだ。
そんな昨日の事を思い出しながら猛吹雪の中を掻き分けるように進んだ先、谷底の道の奥、大迷宮“氷雪洞窟”の入り口に辿り着く。
「この先が大迷宮だ」
「この先が........案内ありがとうございました、ロンさん。それに装備も整えてくれた上に食料や魔道具まで貰えるとは、本当に何から何までありがとうございます」
「礼を言うのはまだ早い......俺の仕事はここまでだが、小僧の実力を確かめさせてもらう。ロクサーヌも付いて行くと言うんだ、ならウチの弟子が背中を預けるに足る実力なのかどうか、見極めねばならん」
「まさか、ここでロンさんと戦えと?」
「そんなわけないだろ」
すると、吹雪も風も大分落ち着いてきた大迷宮入り口前に魔物の声が響き渡ってきた。どうやら魔物が数体、洞窟の中から出て来る様子。
「ここから先は大迷宮、挑戦者を試すのはやはり大迷宮だろう。ロクサーヌ!お前は参加するな」
「ッ!ですが.....」
「小僧が死にそうになるまで、手出しは許さん」
「そんな....(シンさん...)」
そして魔物が現れた。
白い体毛に覆われた二足歩行のゴリラのような魔物が五体。体長は三メートルを超え、ゴリラよりも二足歩行に優れたような動きは、さながら地球で言うところのビックフットだろう。だが要が最初に抱いた考えは違った。
(めっちゃでかいホワイトゴレ○ヌ....!?)
某プロハンターの念獣を思い浮かべた要。
目の前の魔物の姿に思わず興奮する要だったが、その表情はすぐに険しい物になった。
仮称ホワイトゴレ○ヌは要とロバート、ロクサーヌの三人に襲いかかってきた。だが、ロバートが威圧し五体の魔物達は怯んだ。そのタイミングでロバートより前に出た要は、背負っていた大きい荷物を下ろし、刀剣を抜いた。
「さあ、力を示してみろ」
「わかりましたッ!」
目の前の魔物目掛けて駆け出し、要は強化を自身と刀剣に施した。そしてその勢いのまま一体目の脳天に刀剣を突き刺した。
「ギギギギギィィ〜〜ッ!!」
「一体目.......次ッ!」
「ギィ!?」
仲間の一体がやられたことで残りの四体は我に返り、要一人を屠る事に全力で襲いかかってきた。仮称ホワイトゴレ○ヌ達はどうやらロバートには敵わないと判断したようだ。
「行くぞ、今度は四倍だ....ッ」
四倍身体強化を施した要、踏み込んだ足元が弾け飛び、気づけば二体目の首が飛んでいた。
(は、速いっ!?まさか、ここまで強かったなんて....!)
「フッ、多少はやるようだな......だが、次はどうする?」
ロクサーヌは要の強さに驚き、ロバートは興味深そうにニヤリと笑った。そしてロバートが考えていた通りに魔物達の動きが変わった。
魔物達が氷の塊を生み出し、それを要に投げつけたり、或いは矢の様に鋭く形成された氷柱を飛ばしてきたのだ。だが、この程度の攻撃は要には効かない。
「でりゃアァッッ!!」
飛んできた氷の塊を瞬間的に強化を五倍にした蹴りであっさり砕き、瞬光を発動させ飛んでくる氷柱をスルリと躱したり刀剣で砕いたりする。
要の動きに驚く仮称ホワイトゴレ○ヌ達だが、今度は氷の道を生み出しそれを足場にして華麗に滑り出した。それを見た要は地面を踏み砕き、砕けた地面の岩粒を魔物に向けて蹴り飛ばした。すると魔物達はプロフィギュスケーター顔負けの氷上のダンスを披露し華麗に躱わす。地味にレベルの高いアイススケート、地球でなら高得点確実の技術に要は少しだけ顔をポカンとさせた。
「......はは、面白い魔物だな。いいぜ、なら俺もお前らに
要も仮称ホワイトゴレ○ヌと同様に魔物達生み出した氷の道を滑り出した。その上、魔物達より早く滑る要は簡単に魔物を抜きさりそのまま首を刎ねて行く。
「ギギィッ!!」
「残りニ体、さあどうする?」
「ギギギギギッ!!」
氷上を逃げるように滑る魔物達、それに対して両手を腰の後ろで組んで余裕で追いついて来る要。
「この程度は余裕か」
「師匠、なんかシンさん楽しんでますよ?ほら見てください、シンさんあっさり魔物を抜いて今度は後ろ向きで滑ってますよ!?.........飽きたみたいですね」
ロクサーヌの言う通り、久しぶりのアイススケートを十分楽しんだ要はあっさりゴレ○ヌもどきを倒し、刀剣についた魔物の血を振り払いながらロバートのいるところに帰ってきた。
「どうでした、俺の戦いぶりは?」
「フン、あの程度の魔物に時間をかけすぎだ。それと楽しむのも程々にしろ、大迷宮ではその油断が命取りになるぞ?」
「う、すいません。確かに少し浮かれてました....」
「だが、あの魔物を相手に苦戦しないならお前はこの大迷宮に挑む資格がある。......ロクサーヌ、お前は強い。それを忘れるな」
「それって.....」
「行ってこい」
「ッ.....ありがとうございます、師匠!シンさん、一緒に頑張りましょう!」
どうやら要の実力はロバートのお眼鏡にかなったようだ。許可が降りた事を喜ぶロクサーヌに要は仕方ないと肩をすくめ、「ええ、こちらこそよろしく」と苦笑しつつ頷いた。
「ここから先はお前達にとって過酷な道になるだろう。持っていける食料や備品も限られている、モタモタしていると迷宮内で氷漬けになるから、さっさと済ませて来い。それと間違っても魔物の肉を食おうとか考えるなよ?まあ、わかっているとは思うが」
「流石にそれはしないですよ、死んだら元も子もないんですから......(やっぱりこの人、お人好しだな〜)」
魔物の肉を食えば人は死んでしまう。それはハジメからも聞いていた事なので、当たり前の事を当たり前のように否定した。もっとも、それを行い変貌した奈落の化物がこの世にいることを要達はまだ知らない。
「ロクサーヌ、雪原で生きてきた知恵を存分に活かせ。ひ弱な人間をお前が助けてやれ」
「はい!」
「もしお前達が無事に帰ってきたなら......いや、なんでもない」
「「??」」
「とにかくお前達、存分に暴れてこい!」
「「はい!!」」
ロバートは何か言いかけるが、自嘲するように首を振ってそれを打ち切った。そして二人に最後の激励を送っり、要とロクサーヌは元気に返事をし、荷物を背負い直した要とロクサーヌは氷雪洞窟の中へと入って行った。
「......行ったか」
ロバートは二人を見送り、自身の背後の峡谷の壁を睨んだ。
「姿を隠しているようだが俺には
ロバートは視線を送っていた壁にひとりでに話しかけた。
そして腰に携えたロバート謹製のアーティファクトの剣に彼が手を添えた時、壁が揺らいだ。いや、正確には壁の手前の空間が
それは人だった。
この雪原ではあまりに不恰好な薄生地の黒いローブを纏い、ローブの中から銀色の鎧が見える。そして一番ロバートの顔を顰めさせたのは、その人物が仮面をつけていたからだった。
「何者だ?先程からずっと俺達を監視していたらしいが、まさか魔王軍の者か?それとも.....
「いいえ、どちらも違いますロバートさん。私は神に仇なす存在、そして
「?....どういう意味だ」
「まずは自己紹介から。私の名前は“ヴィーネ”、先程も申したように神に仇なす者.....言い換えるなら
ヴィーネと名乗ったその者はローブの頭を覆っていたフードを脱いだ。その瞬間、風が強くなり積もった雪を巻き上げながら吹き荒れた。そしてロバートは目にした、その者の髪がまるで先程吹き荒れた雪で変色したかのように、真っ白く色が抜け落ちているのを。
「貴様は、一体......」
「話をしに来ました。彼等の未来と、貴方の運命について」
そしてロバートはその者の言葉が
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「これが大迷宮....!」
「なるほどね、そりゃあ氷雪洞窟と言われるだけのことはある.....」
眼前に広がる光景に要とロクサーヌは感嘆の声を漏らす。
クリスタルのように純度の高そうな氷壁の洞窟。道の幅はかなり広めだが、ミラーハウスのように景色が反射しているため感覚的に手狭に思えた。さらに洞窟内だというのに要達の前方から雪が降ってきており、その雪が当たった肌は凍傷を引き起こされる。そんな幻想的な光景とは裏腹に殺人的な厳しい環境に、要は顔を歪ませた。
「早速師匠から貰った魔道具の出番みたいですね」
「ええ、このタリスマンが無ければ攻略は危うかったでしょう」
そう言って二人が取り出したのはロバートが渡した質素な装飾が施された銀のタリスマン。それを首にかけ魔力を通すと吹いてくる雪による凍傷がある程度緩和された。と言ってもある程度なので寒さを凌げるわけでも、雪事態を防げるわけでは無い。あくまでダメージの緩和である。
「行きましょう、ロクサーヌさん」
「はい」
そう言って氷のミラーハウスを進んでいく二人。途中、魔人族の死体らしきものが氷壁の中に埋まっていたりしたが、現状何も起きないので無視して進んでいく。
「そういえばシンさん、先程から迷わず進んでますけど道がわかるんですか?」
「いや全然」
「........え?」
「地図なんて持って無いですし、俺がここに来るのは初めてなんですから道なんて分かるわけないじゃないですか」
「じゃ、じゃあ先程から分かれ道とかどうやって....」
「勘です」
「ええぇぇぇぇ〜〜!!大丈夫なんですか!?こんなにズンズン歩いて行って、迷ったりしないですか?!」
「一応頭の中でマッピングはしてますよ?それになんとなくですけど、こっちで合ってると思います」
「その根拠は....?」
「勘です」
「ええぇぇ....」
「まあ任せてください。昔からこういう事で俺の勘が外れたことはないんです」
「うぅ〜....信じますよぉシンさん....」
予想外な要の返答に驚きと呆れと諦めの感情が複雑に入り混じった声を漏らすロクサーヌ。だが要の言う通り、二人は一度も行き止まりや来た道に戻ったらするような事にならず、どんどん奥に進んでいた。
実際、要の勘は昔から驚くほど当たる。大事な試験の時や、会いたくない人間を避けたい時やその逆だったり、まるでその先の未来に導かれているかのように、要は正解を掴み取ってくる。
そうして進む途中、何度も魔人族の凍った死体を目視し、既にその回数は五十は超えただろう頃、異変が起きた。
ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛
呻き声の様なものが四方八方から聞こえてきたのだ。
そして近場にあった氷壁に閉じ込められた死体が壁から迫り出し、まるでゾンビの様に要とロクサーヌに歩み寄ってくる。
「これは!?」
「なんとなくわかってたけど、そういうパターンか!後ろからも来ますよ!」
「どうしますか?」
「もちろん先手必勝、狩り尽くします!」
「わかりました!」
後方からも氷のゾンビがやってくる。
それを確認した要とロクサーヌは武器を構え、背負っている荷物を地面に置き、駆け出した。
魔物の毛皮で作られた厚手の防寒着をはためかせ、要とロクサーヌはフロストゾンビ達に向かって剣を振り下ろす。
既にロクサーヌにも身体強化を施しており、ロクサーヌ自身も身体強化を発動しているのでスピードもパワーも以前要と手合わせした時より数倍以上の力を発揮していた。
華麗な剣技と体捌きであっという間にフロストゾンビ達の首が飛ぶ。
そして要もロクサーヌに負けじとフロストゾンビを切り伏せていく。強化された肉体能力でフロストゾンビを殴った要の手が凍傷を負う。それを厄介そうに要が顔を歪ませた後、ロバートから貰った銀色の脛当てに防御力強化を施し、その脛当てでゾンビ達を蹴り飛ばしていく。
だがどんどんフロストゾンビ達は増えていく。そればかりか倒したそばからフロストゾンビが再生し、再びゾンビの軍団の一部となって襲いかかってくる。
「これではキリがありません!」
「魔物なら魔石があると思ったんですけど、どうやらコイツらは違うみたいですね。奥に進みましょう!」
「ですが!」
「おそらくコイツらを動かしてる何かが奥にあるはずです!それを叩けばなんとかなるはずです!」
「その根拠は!」
「勘です、信じられませんか?」
「......はぁ、信じます、信じますとも。シンさんになら付いて行けます」
「その根拠は?」
「ふふ、そんなの決まってるじゃないですか.....勘です」
戦いながら二人はそんなやり取りをして薄く笑みを浮かべた。そして荷物を背負い、奥へと続く道に向かって走り出した。前方にいるフロストゾンビの大群を要とロクサーヌはするりと身軽に躱し抜けていく。
時にはフロストゾンビ達の頭上を飛び、顔面を踏みつけ足場にしてどんどん奥に進んでいく。
すると上空から何かが襲いかかってきた。
それを回避した二人が見たのは氷の大鷲、つまるとこフロストイーグルだ。
地面に着地した二人。すると氷の壁から氷の人狼、フロストワーウルフまで現れ、流石にこれ以上奥に行かないと判断した二人は荷物を壁際に蹴り飛ばし戦闘の構えに入る。
「これ以上進めませんがどうしますか?」
「いえ、その必要はないかもしれません」
どういう意味ですか?と、ロクサーヌが聞く前に前方の奥から巨大な氷の亀型の魔物、フロストタートルが現れた。そしてそのフロストタートルは他の氷の魔物と違い、明確にコアらしきものが見てとれた。
「あれがおそらく、コイツらのボスってところでしょうね」
「ですがこの数かなりキツいですね。上空には氷の鳥、壁側には氷の人狼、その奥には氷の死体、さらにその奥には私達の本命である巨大な氷の亀。正直ここまで囲まれると無傷では無理です」
「ならここが最初の関門ですね。奥の亀と上の大鷲は俺がやります、ロクサーヌさんは人狼をお願いします」
「わかりました!強化をお願いしてもいいですか?」
「もちろんそのつもりです、今度は三倍にしときますので、存分に暴れてください」
「ええ、お任せください!」
そう言って要はロクサーヌに三倍身体強化とロクサーヌの剣に防御力、攻撃力上昇を施した。
そして要自身にも同様に三倍身体強化と防御力、攻撃力上昇を付与し、さらに英傑試練の効果を発動させ能力値を格段に上昇させた。
要は刀剣と短剣を抜き構え、瞬光も発動させた。
「行きますよ、ロクサーヌさん!」
「はい、シンさん!」
そうして二人は駆け出した。
ここから要 進とロクサーヌの氷雪洞窟攻略の幕が開けた。
補足
登場キャラ
『ヴィーネ』
・自らを“現代の解放者”と名乗る謎の人物。その正体は不明
黒いローブ、銀の甲冑、仮面をつけた存在。
登場アイテム
『ロバート謹製 銀のタリスマン』
・凍傷などの環境ダメージの軽減化。
『ロバート謹製 毛皮の防寒着』
・シュネー雪原に生息する寒さに強い魔物の毛皮を加工して作った物。保温効果抜群だが晒している肌はもっぱら寒い。しかし猛吹雪の中でも活動を可能にする優れたアイテム、だがシュネー雪原以外ではクソ暑い。シュネー雪原専用のアイテム。
『ロバート謹製 シンの鎧』
・ロバートが要 進のためだけに作った装備。胸当、両腕、両足に装着する特殊な魔物の鱗で作られた軽装備。とても軽い上に、滅多に壊れない優れもの。
美しい銀色の鱗を何重にも重ねた様な見た目の鎧で、ロバートがシンのために付与魔法用の魔法陣を刻んでいる。胸当はロバートから貰った上着の下に、それ以外の鎧は上着の上、ズボンの上から装備している。
『ロバートのお下がりの服』
・昔、ロバートが来ていた服。青く少し丈が短めの長袖ジャケット、Vネック部分にボタンが付いた白い生地の長袖シャツに、紫色のベスト、ジャケットと同じ色と生地の燕尾がついた腰巻き、白いサルエルパンツの様な物を着用している。
(マギ “シンドバッドの冒険”に出てくる青年期のシンドバッドが来ている服の様な物)