ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜 作:つばめ勘九郎
本格的な戦いの幕が上がった要とロクサーヌの迷宮攻略初戦。
お互いに別方向に駆け出した要とロクサーヌ。
氷の巨亀“フロストタートル”目掛けて走り出した要に、フロストイーグル三体が上空から要に向かって勢いよく向かってくる。それに対して要は前方のフロストワーウルフを踏み台にして飛び上がった。
「はあァッ!!」
気合いの入った要のオーバーヘッドキックがフロストイーグルの首元にめり込み、吹き飛ばされなフロストイーグルがもう一体のフロストイーグルにぶつけられた。そして最後の一体の凶爪を顔面スレスレで躱し、すれ違い様に刀剣をフロストイーグルに突き刺した。
「ギィィィィーッ!!」
「三体目!....なっ!?」
空中で体勢を立て直し三体目に止めを刺そうとした刹那、要に向かってフロストタートルの氷のブレスが眼前に迫ってきた。
「シンさん!!」
「ちっ......大丈夫です!」
その言葉通り要はフロストイーグルを蹴り、氷のブレスを直撃寸前で回避してみせた。
そしてロクサーヌの隣に着地した要。
「シンさん、倒したはずの氷の魔物達が倒してすぐに復活してます。おそらくあの氷の亀の固有魔法だと思います」
「でしょうね。おまけにあのブレス、防寒着の端が凍って砕けてます、直撃したらまず助からないでしょうね......」
「ということは、片付けるなら....」
「ええ、まずはアイツが先です」
二人は背中合わせで襲いかかる氷の魔物達を切り伏せていく。だが、その途端に両断された部分が元の様に戻っていく。さらに時間が経てば経つ程どんどん魔物達の数が増していき、絶望的な数の差となっていく。
「少し無理をします、フォローをお願いしてもいいですか?」
「何か策があるんですね、わかりました。背中は必ず守ってみせます!」
「頼みます.....“七倍身体強化”!!」
その瞬間、要の全身の筋肉が悲鳴を上げた。
要の青い魔力光が全身から吹き出し、自然と要の口から苦悶の声が漏れる。だが、それを無視して自分が纏っていた防寒着を脱ぎそれを片手で持って体の前に構えた。そして英傑試練の能力向上も発動させて地面を踏み抜き、フロストタートル目掛けて
要の突撃に危険を感じたのか、フロストタートルは眼前の氷の魔物諸共迫ってくる要に向けて極太のブレスを放った。自身のブレスで周りの魔物が倒れてもすぐ再生させれると判断したのだろう。実際その判断は正しかった。地面を踏み抜きながら猛スピードで突撃してくる要は誰も止められていなかった。それどころか、あまりの勢いで要に迫っていた氷の魔物達は攻撃しようとして弾かれた上に体の一部を砕かれていた。
そして遂に要とフロストタートルのブレスがぶつかった。
ブレスは要が構えていた防寒着に直撃し、その瞬間から防寒着は簡単に凍っていく。だがそう簡単に砕けない様に防御力上昇を施しなんとか凌いでいた。
一瞬だけ要の足が止まり、後退させられる。
「ぐっ、ぐぅっ!.....はぁぁぁあアアアアアアッッ!!」
一歩、まるで大地が揺れたかの様な振動がその場に響いた。
二歩、氷の塊となった防寒着に亀裂が入り、要が確かに押し返した。
三歩、さらに亀裂が入るが、着実に前に進み出した。
そして四歩、五歩とさらに力を増していく要の歩み。
それを見て不味いと思ったのか、氷の魔物達が要の背後から攻撃を仕掛けるがその全てが切り伏せられた。
「やらせません!!」
要の背後で隠れていたロクサーヌは背後から迫る魔物達から要を守っていた。前方、左右、上空から数多くの魔物達が押し寄せてくるが、それを寄せ付けないロクサーヌの見事な剣技と忍耐力、そして気合がロクサーヌの能力を引き上げていた。
要はニヤリと笑みを浮かべ、それを知ってか知らずかフロストタートルの赤黒い双眸が驚愕した様に見開いた。
と同時に要の驀進が勢いを増した。
ロクサーヌの踏ん張りに呼応する様に、要の技能[英傑試練]がその本領を発揮する。全身の骨と筋肉が軋みをあげ、服も血が滲む端から凍りつく中、新たな技能[豪脚]を獲得、さらにその派生技能[驀進]まで獲得した要に少しだけ余裕が生まれる。そしてもう一つ、限界ギリギリの要の体を支えたの要因は、新たに獲得した英傑試練の派生技能[戦闘続行]の効果が大きかった。例え瀕死の傷を負っても死の間際まで戦い続けることができるという要の気合と根性の結晶だ。
そんな技能が増えたことにかまけていられない要は戦えるならそれで良し!とフロストタートル目掛けて足を動かす。
だが、残り五メートルの距離に差し掛かった時、とうとう盾にしていた氷の塊となっていた防寒着が完全に砕けた。しかし、盾が砕ける直前で要は胸当の鎧を体から引き剥がし、今度はそれを盾にした。
凍りついていく胸当だが、先ほどの防寒着より何百倍もの硬度を誇るそれは砕けない。
そして三メートルまでに到達。
「ロクサーヌ!!」
「はい!!」
背後で守りを固めていたロクサーヌが要の呼び声と共に地面を這う様な低い姿勢でブレスの下を掻い潜ってフロストタートルの真下に滑り込んだ。そして流れる様な剣捌きでフロストタートルの足を切断。
体勢を崩したフロストタートル、その瞬間要が盾を投げ捨て一気にフロストタートルの体内にある魔石付近に飛び込んだ。
「ハアアアアアアッ!!」
凍てついた空気を切り裂く様な気迫に満ちた声をあげ、要は豪脚の力がのった右足で全力の飛び後ろ蹴りを撃ち込んだ。
「クオオオオオオンッ!!」
悲鳴にも似たフロストタートルの叫び声が響く。
現代格闘技においても最強と言われる蹴り技、それに今の要の全力全開の能力が加われば鬼に金棒、いやそれ以上の力を発揮するのは必然だった。
硬い氷の肉体はあっさりと砕かれ全身にも
すぐに魔石の移動を!と慌てるフロストタートル、だが遅かった。
要は飛び後ろ蹴りから着地した瞬間に吹き飛ばされたフロストタートルに追いすがり、剥き出しの魔石に渾身の拳を打ち込んだ。
「ぜやァッ!」
「クアアアッ.....」
要の右拳が魔石を木っ端微塵に砕いた。それに倣う様にフロストタートルの全身にも亀裂が走り、最後は氷の破片となって砕け散った。巨大なフロストタートルが砕け散ったことで、その破片がまるでダイヤモンドダストの様に要に降り注ぐ。
だがまだ終わっていない。
フロストタートルを倒しても、まだ増えに増え続けた氷の魔物達が何百と要とロクサーヌを囲んでいた。
「シンさん、体が!」
「ごほっ....大丈夫だ、問題ない....あと五分、あと五分で片をつけるぞ。やれるな、ロクサーヌ?」
「.....ええ、任せてください!」
「いくぞッ!」
「はいッ!」
要の体はすでに満身創痍、全身から血が吹き出しており、その血はすでに凍っていた。おまけに手足は凍傷を患っており、立っているのがおかしいぐらいの姿だった。
そんな姿を見て心配するロクサーヌだが、要の戦意は途切れておらず、むしろここからだと要の力強い瞳が物語っていた。その瞳を見てロクサーヌは改めて気合を入れ直し力強く返事した。
そして二人は駆け出した。
要が動けるタイムリミットの五分間、二人は一秒に一体を目安に一撃一撃に全霊を込めて戦い続けた。
そうして五分間はあっという間に過ぎ、要は氷の残骸の上に背中から倒れた。だが、背中に硬い感触はなく、待っていたのは柔らかい温もりだった。
「はぁ、はぁ......お疲れ様です、シンさん」
「あ、ああ....お疲れ、様です....ロクサーヌ、さん....」
「今治療しますね」
倒れた要はロクサーヌに抱き止められ、流石に疲れ切ったロクサーヌも要を受け止めきれず一緒に倒れた。しかし、要はロクサーヌの太ももの上に倒れた形になるので、それほど倒れたダメージはない。ロクサーヌも倒れたと言っても尻餅をついた形なので平気そうだった。
二人の体勢は俗に言う膝枕の状況だった。
そしてロクサーヌは腰のポーチから小瓶を四つ取り出し、まず一つを要に飲ませ、もう一つはロクサーヌ自身が服用した。
すると傷だらけだった二人の体がみるみる癒えていった。
これはロバートがロクサーヌに持たせていた回復薬、具体的に言えば神水で、ロクサーヌの荷物の中には神水の大元となる拳二つ分ぐらいの大きさの神結晶の塊が入っている。ロバートは二人の回復手段としてこれ以上ない程の贈り物をしてくれていたのだ。
そして残り二つの小瓶は魔力回復薬。それも二人はすぐに服用した。
魔力回復薬は数に限りがあるので使い所が難しいのだが、疲弊し切り、魔力もほとんど空で、また魔物の襲撃があればひとたまりも無いので、ここで使うのが正解だろうとロクサーヌがポーチから取り出したのだ。
「傷も癒え、魔力も回復しましたけど体力の限界ですね。
う.....はは、見てくださいよ、俺もう動けないです」
「ふふ、私もです」
体を動かそうとした要だったが、思いの外全身の気怠さが重過ぎて、全く体が言うことを聞かなかった。そんな様を笑ってロクサーヌに見せると、彼女も自分も同じだと言いながら腰を上げようとしてすぐに脱力した。
そんなやり取りをして笑っていた二人は、少しの間このままで居ることにした。
「そういえばさっき、シンさん私のこと“ロクサーヌ”って呼び捨てにしてましたよね?」
「あ、気に障りました?」
「いえ全然、むしろ嬉しかったです。信頼されてるんだなって感じて気合が入りました!」
「そうなんですか?ロクサーヌさんは年上で命の恩人なんですから敬称は必要だと思ってたんですけど」
「そんなの必要ないですよ、むしろこれからは気軽にロクサーヌと呼んでください。あと敬語も禁止です」
「わかりました。じゃ、じゃあ次からは遠慮なく.....」
「呼んでみてくださいよ」
「え........ロクサーヌ」
「はい」
「さっきは助かった。これからもよろしく頼む」
「はい、私の方こそよろしくお願いします、シンさん」
「「.......はは(ふふ)」」
「てか、ロクサーヌは敬語のままなのか?」
「わ、私はこれでいいんです!」
「なんでぇ!?この流れだと普通お互いに呼び捨てにし合う様になるものでしょ?!」
「そ、そうかもしれませんが、そうじゃないかもしれません....よ?」
「なんで最後疑問系?」
「と、とにかく!今はこれでいいんです!私が満足してるんですから、これでいいんです!」
「ええ〜〜〜」
「そんな甘えた様な声を出してもダメです。ほら、少しは体力回復したはずですから今のうちに場所を移しましょう」
「ちぇっ、まあロクサーヌの言う通り、場所は移した方がいいからとりあえず移動するか」
側から見ればじゃれあっている様な二人のやり取りは、ロクサーヌが強制的に打ち切ったことで要の意識は切り替わった。
まだ体がふらつく要だが歩けるくらいには回復したので、戦闘で邪魔だった荷物やまだ使える胸当を回収しに行く。生憎、凍って砕けた防寒着はもう使えないので、要は荷物を覆っていた予備の防寒着を着込んでいた。ちなみにロクサーヌの荷物にも同じ様に予備の防寒着が覆われている。
そんな要の背中を見ていたロクサーヌの顔は少し赤くなり、自分の顔が紅潮していることに気づくと顔を逸らし、両手で赤くなった顔を覆い隠した。
(私、咄嗟だったとは言えシンさんに膝枕してたのよね?.....〜〜ッ!!!どうしよう、今さら気づいて顔が赤くなってる!たしかにシンさんに呼び捨てされて嬉しかったのもあるけど、ここは大迷宮なのよ。もっとシャキッとしなさい、ロクサーヌ....!)
「おーい、ロクサーヌ」
「うひゃっ!?」
「ん?なんか随分と可愛い声が漏れたみたいだけど、早く行くぞ〜?」
「かわっ!?い、いえ、すぐ行きます」
不意に呼ばれたロクサーヌは素っ頓狂な声をあげ、挙句には要の何気ない発言につい反応してしまう。が、すぐに心を落ち着かせ要に追いつき、自分の荷物も回収していた要からそれを受け取って迷宮の奥へと進んでいく。
そして要の隣を歩き、チラリと要の顔を見上げるロクサーヌ。
先ほどの休憩時に見せた顔とは違う真剣な表情をする要、試合した時や大迷宮入り口前での戦闘時もそうだったがやっぱり要の真剣な眼差しに心奪われるロクサーヌ。思わず見惚れてしまう。
するとロクサーヌの視線に気づいた要がロクサーヌを見て二人は目が合う。そしてすぐに要はロクサーヌを安心させる様に優しく笑って見せた。
その表情にロクサーヌの心が再びわざついた。
要の微笑みを見た瞬間に顔を逸らしたロクサーヌ、それを見て要は不思議そうにして再び視線を前方に向けた。
(うぅ〜、シンさんはずるいです。もはや狙ってるのではと思ってしまいます.....でも、これで本人は全くの無自覚、シンさんは天然なんですね....)
ロクサーヌが思う通り、要にそんな意図はこれっぽっちもなかった。あからさまな好意に気づかないわけではないが、気づいてからもずっとこれなのだ。と言ってもロクサーヌの要に対する好意は全く気づいていない。これが要クオリティー、のちに“七界の天然”と呼ばれる男の
そうして要の天然さに気づき、何度か休憩を挟んで進むことはや一時間が過ぎた頃、氷の壁を抜けた先で見たのは、眼前に広がる大迷宮内の迷路だった。
「今度は迷路ですか」
「ああ、察するにあの氷壁からも魔物が出てくるのは想像がつく。またあの時みたいに大群が出てくるかもしれないから、ここいらで休憩を挟もう。まだ体力が回復し切ってないしな」
「ですね、無理して攻め入った結果返り討ちにあっては元も子もありませんから」
そう言って二人は氷の迷路を眼下に収められる場で休憩に入った。
要は荷物の中から火を起こせる魔道具を取り出し、それを発火させた。と言っても普通に魔法で火を起こしたり、木材を燃やして焚き火をするのではない。黒い枠で覆われたガラス製のランタンの魔道具、その中にある小石程の大きさの魔石に魔力を通すことで簡単に火がランタンの中に灯った。そしてそのランタンの魔道具は外界の魔法効果や環境阻害を一切寄せ付けず、近くにいる者達に適度に熱を伝える効果を持っているのだ。
それを地面に置き、ランタンが入っていた荷物箱を広げ、さらに布も広げれば人ひとり分を一面だけ隠せる簡易的な風避けの完成だ。
「ほんとロバートさんは優しい人だな。俺達がどう大迷宮を攻略するかも考えてこれを渡してくれたんだろうな」
「師匠は本当に面倒見がいい人ですから。口が悪いのは玉に瑕ですけど、それも愛嬌みたいなものです」
「だな、あれじゃないとロバートさんじゃないって感じだな」
ロバートの心遣いに感謝する要にロクサーヌが冗談めかしく自身の師匠を語る。それに同意した要、二人は穏やかな気分でランタンの温もりを感じていた。
ロクサーヌも荷物箱のギミックを使用し、要のと合わせて二面分の雪と風を凌げる場所を作った。
だがロクサーヌが異様に要と距離を空けて座っているのを見て、要はロクサーヌに近寄った。
「ロクサーヌ寒いだろ?もっと近くに寄った方がランタンの火も当たりやすいからこっちに寄って来い」
「いいんですか?」
「?何言ってんだ、俺とお前は仲間だろ。遠慮なんかしないで距離を詰めて来い」
「距離を....詰める.....」
その言葉にハッとしたロクサーヌ。今なら仕返しができるかもしれない、なんて事を考えたわけでなく、ただロクサーヌは好奇心でひとつの閃きを実行することにした。
それはロクサーヌの狙い通り要の心を動揺させるには十分な行為だった。
「では、その、お互いに身を寄せ合うのも体を温めるのにいいと思いますので、もし良かったらシンさんのその防寒着の中に入っても.....いいですか?私のも一緒に使えばさらに温まると思いますので!」
「え、え〜と.........どうぞ」
「では、その.......お邪魔します」
そう言ってロクサーヌは要が胡座を組んでいる足の上に腰を下ろし、要の上半身に背を預けた。そんなロクサーヌを覆い隠す様に要は自分の防寒着の端を持ちながら、まるで後ろからロクサーヌを抱きしめる様に前を閉じた。ロクサーヌは自身の防寒着を自分の前側に掛け、要の肩に引っかかる様にかけた。
「.....あったかいですね」
「そうだな......」
(これは、少し、いえかなり......恥ずかしいです!!)
我ながらなんと大胆なことを!と顔を真っ赤にして自身の行動に恐れを抱くロクサーヌ。
だが、その自身すらも恐れさす大胆さが今回は功を奏したらしく背中から伝わってくる熱と鼓動に気づいた。
「シンさん、すごくドキドキしてますね」
「ぐっ、当たり前でしょ!こんなの意識しない方がおかしいぞ!」
「ふふ、シンさんもそんな風に思うんですね」
「あのなぁ、俺をなんだと思ってるんだ?」
「天然の女誑しです」
「え.....俺いつの間にそんな天之河みたいな評価されてんの....?てかなんかロクサーヌさん、言い方に棘がある」
「棘なんてありませんよ。それよりアマノガワって誰ですか?まさか女性の方ですか?」
「違うよ?!天之河は男ですよロクサーヌさん!え、待って、俺そんな女癖悪いと思われてるの!?」
「別にそういうわけじゃありませんけど.....ただ、シンさんは女性に好かれそうだなって思ったんです、その.....かっこいいので」
「........」
「どうかしましたか?」
「いや、ロクサーヌみたいないい女にかっこいいって言われて、素直に嬉しかっただけだよ.....ありがとう」
「ッ〜〜.....からかってるんですか?」
「なんでそうなる?今のお礼は本心からだぞ?」
「そこじゃないです!いえ、そこも少し引っ掛かりますけど.....もういいです!」
ロクサーヌがむくれてしまった。
そして少しの間、沈黙が続くと要の耳に静かな寝息が聞こえていた。ロクサーヌの顔を覗いてみると案の定、彼女は安心した様に眠っていた。おそらく疲労がピークに達したのだろう。
殺人的な雪が降る大迷宮の中でこれだけ安心して眠れるのは世界でこの女性だけかもしれない、なんて考え苦笑した要はロクサーヌの体が冷え切ってしまわぬ様に上に羽織った防寒着を彼女に掛け直した。
そして要は静かにランタンに灯った灯りを眺め、警戒を怠ることなく周囲の音に気を配りながら改めて決心した。
彼女をなんとしても守り切らなければ、と。
自然と彼女を抱き込む腕に力が入る。
するとロクサーヌは要の腕に抱かれることを良しとする様に、より要の胸元にもたれ込み、ロクサーヌの頭が要の片側の肩に納まった。さっきよりも二人の顔は近く、今ロクサーヌが起きて顔を上げればきっと二人の唇はそれほど動くことなく重なってしまうだろう。
そんなロクサーヌの静かで綺麗な寝顔を見て、要は優しく微笑んだ。
(豪胆と言うか、大胆と言うべきか。やっぱりお前はいい女だよ、ロクサーヌ.....)
そんな感想を抱き、要はさらにあたりの気配に神経を研ぎ澄ませた。
もっとも、彼女がこれほど大胆に眠りについた要因は疲労によるものだけでなく、彼女が感じる温もりの暖かさと、要という背中を任せるに足る最愛の存在が大きいことは彼女以外知るよしもなかった。
イチャイチャしやがって。危うくこっちも毒されそうになったわ。
補足
新しく獲得した技能
『豪脚』
・脚力が大幅に上昇。
『驀進』
・歩数を重ね、真っ直ぐに進むほど脚力が上昇し、全身の肉体強度も上昇する。
『戦闘続行』
・瀕死の重傷を負っても明確に死に直結するダメージを受けない限り戦い続けられる。往生際の悪い奴の根性の結晶体。
新しく登場したアイテム
『ロバート謹製 魔法のランタン』
・黒い枠で囲われたガラスのランタン。中の魔石に魔力を注ぎ込めば数時間は熱を出し続ける超低燃費の優れた魔道具。灯りにするも良し、焚き火代わりに暖をとっても良しの優れ物。おまけにかなりの強度を誇るので滅多なことでは壊れない。
『ロバート謹製 荷物箱』
・成人女性二人分の広さと大きさを誇る頑丈な荷物入れ。荷物箱の骨組みを変形させれば人ひとり分の一面を覆い隠せる垂れ幕に変身する代物。
頑丈性、凍結耐性、保存性に優れている。