ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜 作:つばめ勘九郎
魔法陣の猛烈な光に包まれた後、教室にいたはずの彼らは全く知らない場所に放り出されていた。
(知らない天井だぁ、てか天井高っ!?あとなんか全体的に白いし、壁によくわからない人の絵が描かれてるし、なんぞこれ?!?)
と、要は先程まで南雲とおふざけをしていたテンションを若干引きずっていた。隣で尻餅をついてる南雲もきっと同じことを考えているのだろうと要は南雲に視線を向け、他のクラスメイト達にも視線を回した。
すると、いかにも教会関係で偉そうなタイプの長く白いお髭を携えた老人がここにいるクラスメイト達全員に向けて言葉を口にした。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
(うん、なるほど。とりあえずドッキリなら早くネタバレしてくれないかな?)
「要くん、もう少し落ち着こ?今の要くんの顔すごいことになってるから」
いきなりこんなところに連れてこられたことに対しての怒りや不満が要の顔に表れていたらしく、南雲がなんとか要を落ち着かせようと声をかける。要が本気でドッキリ系バラエティ番組恒例の隠しカメラを探し出そうと不用意に動かないように。
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イシュタルという人物が話しかけてきた後、要達は場所を移して長い机に椅子がずらりと並ぶ大広間にやってきており、そこでイシュタルの話を聞いていた。
簡単にまとめるとこういうことらしい。
イシュタル曰く、ここは要達がいた世界と違う異世界で名を“トータス”、人と魔人族が長い間戦争を続けている世界とのこと。そして、その戦争をなんとかしようとこの世界の神エヒトが、“神の使徒”として力を与え、要達を呼び寄せたらしい。
「ふざけないでください!」
その説明に対し、いの一番に声を張り上げ抗議したのは愛子先生だった。
彼女は要達クラスの担任ではない、しかし生徒にそんな危ない橋を渡らせるわけにはいかない「早く元の世界に帰してください!」と懇願するが、イシュタルは首を横に振りながら答えた。
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「そ、そんな……」
イシュタルの言葉に力無く視線が俯く愛子。それを皮切りにクラスメイト達も口々に不安の言葉を漏らし、パニックに陥る。
その様子を静かに見つめるイシュタル。彼の瞳の奥にクラスメイト達に対しての侮蔑的な感情が見え隠れしていた。
それをしっかりと見ていた要と不意にイシュタルの視線が合う。ハッキリとは態度に表さなかったが、どこか驚いたように眉を上げたと思ったら、すぐに視線を逸らされた。
そんな時、この状況に見かねて立ち上がった天之河は、パニックに陥っているクラスメイト達に落ち着くようにと促して言葉を発した。
「俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
「そういうことなら俺も手伝うぜ!」
「龍太郎...」
天之河の決意に賛同するように、彼の幼馴染である坂上も立ち上がった。それに同意するように八重樫や白崎も立ち上がり、天之河は「一緒に世界を救ってみんなで元の世界に帰ろう!」と高らかに宣言した。
他のクラスメイト達も今はそれしかないか、と諦めにも似た面持ちで事の成り行きを見守っていた。
果たして、そう上手くいくだろうかと要は内心呟きながら、他のクラスメイト達と同様に諦めた面持ちで溜息を漏らした。
そんな中、クラスメイト達の中の
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あの後、イシュタルの話を聴き終えた一行は場所を変え、ハイリヒ王国の王宮、その王様との謁見のため玉座に向かっていた。
どうやらハイリヒ王国では要達“神の使徒”を迎え入れる準備ができているのだとか。先程までいた場所は神山と呼ばれる山にある聖教教会本山の施設の一つで、その神山の麓にハイリヒ王国があるだそうだ。
神山を下山する際、要と南雲はみんなを先導するイシュタルの耳に入らないよう小声で話をし、結論なんかきな臭いということで纏った。
そして今後どう動くべきかまた後で話し合うことにし、神山を降りた後、予定通りハイリヒ王国国王との謁見となった。
その後、勇者様一行“神の使徒”を歓迎する晩餐会が行われて、初めて見る料理や本物の貴族の立ち居振る舞いや衣装に圧巻されていた。
「本当に異世界に来ちまったな」
「だね。まだ実感湧かないけど」
要と南雲は晩餐会の会場の外、バルコニーで話をしていた。外から見る会場の中は実に煌びやかで誰かの話し声がちらほら聞こえてくる。
流石に今日一日の情報量が多すぎて疲れた頭をリラックスさせるために、二人はバルコニーにこっそり出ていた。
要は赤い飲み物が注がれたグラスと会場の料理を皿の上に山盛りにしてバルコニーに来ていたが、南雲は要と同じ飲み物だけだった。
「とりあえずイシュタルって人は要注意だね。何考えるのかわからないし」
「だな。目下の目標はこの世界の知識と常識の獲得、いざという時に戦える戦闘力、聖教、またはエヒト神の情報ってところか」
「僕は図書館とかがあればそこで本を読んで勉強してみるよ」
「なら聖教に関しての情報収集は俺の担当だな。頼んだぜハジメ!」
「うん、あれ?今僕のことハジメって」
「ばっか!そういうのは突っ込んじゃいけないの!なんか照れ臭いだろ、こういうの....俺達もう長いこと友達してるんだから今さら苗字で呼ぶのも、その、どうかと思ってよ...」
「......ぷふっ」
「なっ!笑うことないだろ!」
「いや、ごめん...はは、まさか要くんがそんな不器用だなんて思わなかったからさ、もっと堂々とやると思ってたからさ、はは」
「ぐぅ〜〜....はぁ、で?どうなんだよ...ハジメ」
照れながらも要が拳を突き出した。
それを見て南雲は決意した顔を見せ、要の拳に自分の拳を合わせコツッと小さな音が鳴る。
「もちろん、任せてよシン」
「おう、頼んだぜ相棒」
「.....」
「.....」
「なんかこういうの、臭くない?」
「わかってるよ、ちょっとイキった感あったの知ってるよ!でもいいじゃん!ちょっとぐらいハメ外してもいいじゃん!ゴリとミッチーみたいにやってもいいじゃん!」
「あぁ〜、そういえばシンってバスケ部だもんね」
「理解が早くて助かるわー、さすがハジメだわ、うん、さすハジ」
「それ馬鹿にしてない?」
「あぁ〜なんか腹減った。俺ちょっとつまめるもん皿に盛ってくるわ」
「その山盛りのお皿のどこに盛る場所があると?」
「んがぁ〜〜〜〜、もぐもぐもぐ...
「はぁ、お行儀悪いからお口のものちゃんと飲み込んでから行きなよ。って、待って待って!その頬袋膨らませすぎたリスみたいな顔で会場に戻ったらダメって!」
山盛りの料理を一気に口に入れた要の姿は、さながらちょっと間抜けなリス、いや、それはリスに失礼かもしれない。ただの間抜けでいいかもしれない。
そんな二人のやりとりを陰で見ていた少女がいた。
他の神の使徒達と違う二人の雰囲気が少女の好奇心をくすぐった。
「ふふっ、面白い人達ですね」
淡い桃色のドレスを纏った金髪の少女、この国の王女であるリリアーナ・S・B・ハイリヒは、そんな彼らを見て微笑ましくも思いつつ、彼らを自分達の事情に巻き込んでしまったことに対し胸を痛め、微笑んでいた表情に暗さを滲ませた。
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神山、聖教教会本山の礼拝堂。
そこにシスターと彼女に頭を下げるイシュタルがいた。
「表をあげなさい」
「はい」
「それでどうですか、勇者一行の様子は」
「期待はずれですな。あれほど無知で愚かな子供達で神のご意志に添えるかどうか些か一抹の不安が残る次第です」
「それを判断するのは神エヒト様です。貴方は事実だけを述べれば良いのです」
「申し訳ありませんノイント様」
「それで、どうなのです?」
「.....一つ、気になることがあります」
「なんですか?」
「召喚された子供達の中で一人、得体の知れない存在が紛れ込んでいます」
「得体の知れない存在?」
「はい、名を
「...なるほど、貴方がそこまで言うのでしたら
「御意に」
イシュタルはノイントと呼ばれるシスターの命を受けると礼拝堂から出て行った。おそらくシスターの命を全うするためになんらかの準備のために出ていったのだろう。
「要 進。神のご意志にそぐわぬイレギュラーであるなら早々に排除する必要があるかもしれませんね」
シスター服を纏った彼女はそう呟くと、イシュタルの跡を追うように礼拝堂から出て行った。そして彼女が立っていた場所に一枚の銀の羽が落ちていた。