ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜 作:つばめ勘九郎
新キャラの伏線あり。
よくやくここまで来た。
氷雪洞窟最後の試練の間。
そこで目にも止まらぬ剣戟の応酬が続いていた。
戦っているのは白い要の姿をした存在と、ロクサーヌ。白い要は終始余裕の笑顔を崩さず、ロクサーヌの高速に振るわれる剣撃を簡単にあしらっていた。対してロクサーヌは身体中が傷だらけとなり、服もボロボロ。今にもロクサーヌの豊満な胸が零れ落ちそうな程に全身がズタボロにされていた。
それでも必死で白い要に喰らいつくロクサーヌ。
しかし、その戦闘は長く続かなかった。
「ガハッ......!!」
とうとうロクサーヌの剣が砕かれてしまった。そしてそれを行った白い要は「ハンッ」と見下す様に鼻で笑い、あえて刀剣で斬らず、蹴り飛ばした。
何度も地面に体が叩きつけられ、肺の中の空気が一瞬で外に漏れる。
そしてあっという間にロクサーヌの体は氷壁まで転がってきてしまった。
「はぁ〜〜〜、そろそろ飽きてきたな。この体も大分慣れたし、技能も随分と多く獲得できた。実験に付き合ってくれてありがとうな、ロクサーヌ」
「はぁ、はぁ.......くっ!」
「おいおい〜、そんな目で睨むなよぉ。俺はお前が大好きで大好きで仕方ない、愛してやまない要進なんだぞ?そんな目を向けられるなんて、俺は悲しいぜ」
「誰が.........貴方なんかを、愛しますか......!私が愛しいと思える人は.....ただ一人、シンさんだけです!......断じて貴方なんかでは、はぁ、はぁ......ありませんッ!」
「あーはいはい。そういうお涙頂戴みたいな根性丸出しなセリフはもう聞き飽きたよ。つまんねぇなぁ〜、もっと無様に喚いてくれないと俺が楽しめないだろ?」
「それは残念でしたね........生憎、私は貴方を喜ばせる事なんて考えていませんので」
「チッ、威勢だけはいいみたいだなぁ雌犬風情が」
白い要はつまらなそうに表情が一瞬で無になった。そして警戒などする必要無いという様子でロクサーヌまで無造作に歩み寄り、乱暴にロクサーヌの髪を掴んだ。
ロクサーヌは乱暴に髪を扱われた事で、その痛みで引っ張られる様に苦悶の表情を浮かべた。
もはやロクサーヌは満身創痍で白い要に対抗する余裕すらなかった。
「.........最後に言い残す事はあるか?」
「くっ.........!」
「無いみたいだな。じゃあ宣言通りここでお前を壊す。じゃあな」
(シンさん......申し訳ありません.......!)
白い要が刀剣でロクサーヌにトドメを刺そうと構える。それを見てロクサーヌは、内心で要に対して謝った。
そして白い要が刀剣を振り下ろそうとした時だった。
ーーー『それはさせない』
「なッ.......!?」
振り下ろされた白い要の刀剣が何かに遮られた。
ロクサーヌも、白い要もそれを見て驚きの表情を浮かべる。
淡い虹霓の輝きを放つ魔力の塊がそこにあった。
虹色、と表現するには些か言葉足らずな物を感じるその輝き。全体的には緑色っぽいかもしれない光。だがその中には赤や黄色、暗い青、白やその他複数の色が混じり溶け合っており、暖かく力強い存在感を感じさせた。
その虹の光がロクサーヌの首に刀剣が当たる寸前で止めて見せたのだ。まるで刀剣を
ぼやけていたその魔力の輝きは徐々に形を整えていく。
「あぁ......この暖かさ......間違いありません......!」
ロクサーヌが歓喜の声を漏らし感涙する。
そしてその虹色の魔力光はどんどん人型となり、それが一体何で、誰がこんな奇跡を起こしたのか明確にした。
白い要が振るった凶刃を掴む手、その手の先には薄布を羽織った様な姿をした長い髪を靡かせる
「シンさん!!」
「馬鹿なッ!?何故お前が生きている、要進ッ!!」
愛しい男の名を喜びで身を震わせながら呼ぶロクサーヌと、目の前の存在に理解が追いつかず絶叫する様にその名を呼ぶ白い要。
ーーー『悪いが少し離れてくれないか、邪魔だ』
魔力光の体であるシンが白い要にそう言うと、片方の手を白い要の方にかざした。すると白い要は虹霓の魔力光による衝撃波を受け、後方へと吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた白い要はすぐに体勢を立て直し、手を地面につけながら土煙りを上げ後退する。
ーーー『待たせて悪かったなロクサーヌ』
「いいえ........シンさんならきっと帰ってきてくれると信じてました.......でも、それでも....っ本当に.....ぅっ.....嬉しいです」
ロクサーヌは涙を浮かべ、心の底からシンの帰りを喜んでいた。そして万感の思いでシンに抱きつき、それを受け止めるシンはロクサーヌの頭を撫でながら優しくその体で包み込んだ。
魔力で出来た体だと言うのにその質感や暖かさはシンそのもの。ほんの数刻ぶりの再会だというのにロクサーヌには、彼との再会がとても久しく思え、シンの温もりに浸っていた。
ーーー『俺も嬉しいよロクサーヌ、お前とまたこうして会えた事が.........少し待っていてくれ。この試練を終わらせてくる』
「ぐすっ......はい。ご武運を......!」
「人前でイチャイチャするとはいい御身分じゃないか。ああッ?要進!!それにそこの雌犬は俺の女だ!お前の所有物は全て俺がお前の肉体ごと奪ったんだからよぉ!」
ーーー『随分
「馬鹿が!言ったはずだぞ、俺はお前!お前が俺を否定すればするほど俺の力は増していく!それにその体、お前はただの魔力の塊でしかない!今のお前に俺を止める
ーーー『
「くっ!何をしたァァァァッ!!」
ーーー『そんなの決まってるだろ?
「はぁ?」
ーーー『お前はもはや
「ハッ、ハハ、ハハハハハハハハッ!!そうかよ。そうかもしれねぇなァッ!だが、そうだったとしてもただの魔力体でしかないお前に一体何が出来る?お前ご自慢の身体強化は使えない!そんなお前が一体どうやって俺を倒すって言うんだ!」
ーーー『そんなものは簡単さ。こうやるんだ......!』
シンがそう口にし白い要に向かって手をかざした途端、白い要は身動きが取れなくなり驚愕した様な声を漏らす。
まるでその場に縫い付けられる様な感覚を覚えた白い要。口は動く。だがそれ以外が全く動かせない。指先ひとつ動かすことすら叶わず、どれだけ白い要がその肉体に力を込めようとそれを振り払う事が出来ない。それどころか負の感情で強化されていた白い要の力がどんどん抜け落ちていく。
ーーー『それともう一つ、お前の言葉で間違ってる事がある...........ロクサーヌは俺の大切な女性だ。お前の様な成り損ないが軽々しくその手で触れる事も、名前を口にしていい存在じゃないんだよ....!』
「くっ......!」
ーーー『返して貰うぞ、俺の体を』
途端、空間に固定されていた白い要は衝撃波を受ける。だが肉体にではない。白い要の肉体、その中に存在する邪悪なモノのみに向けた魔力の圧だった。
必死で肉体にしがみつこうとする白い要の中にいる存在。だがシンの放つ魔力圧はそんな邪悪なモノを簡単に肉体から弾き出した。
『がああッ!!!』
白い要から弾き出された存在。それはもはや要進の姿を
だがその貧相な魔力体の姿から見るに、相当弱っている。
いや、正確には弱らされたと言うべきだろう。
シンは目の前の魔物もどきから全てを掴んでいた。魔力も、技能も、魔法も。あの魔物もどきが持ち得ていた力の全てを根こそぎ奪い取いとったのだ。精神と魔力、
もはや目の前の存在はただの搾りカスでしたかない。
そしてソレが体から弾き出された事で、長い白髪の要進の肉体が倒れた落ちる。とその寸前でロクサーヌがいち早くその場に割り込み、要進の肉体を受け止めた。
ロクサーヌは受け止めた要進の肉体の胸元に耳を添え、その胸の奥から小さく鼓動が聞こえるのを確認し安堵の表情を浮かべた。当然、そこら辺を考慮した上でシンは力を奪ったのだ。いざ自分が肉体に戻った時にもう肉体は死んでます、なんて笑い話にもならないからだ。
そして肉体が無事だということをシンにアイコンタクトで伝え、シンはロクサーヌに相槌で返した。
『馬鹿なぁ、馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なァァッ!!こんな事が!俺はァ!俺はこの世界の王になる存在じゃないのかァアアアッ!?全てを奪い、破壊する唯一の存在じゃあッ!?!?』
ーーー『お前は王の器ではない。少なくともお前は俺以下の存在だ。さて、手早く済ませてしまおうか』
『があっ』
再びシンは魔物もどきに向かって、手をかざした。だが今度はかざした掌がまるでそこにある何かを掴む様に、徐々に握り込んでいく。
その行動に連動する様に魔物もどきの魔力体が徐々に圧力で押し潰されていく。
これこそがシンが新しく会得した魔法、付与魔術師の特殊派生技能[力魔法]だ。引力、圧力、反発力などの現象を指先ひとつで自在に操る魔法。それはまさに星のエネルギーに干渉する魔法、のちにシンがライセン大迷宮攻略によって獲得する〝重力魔法〟と同質の魔法であった。シンは過去の“怪物”と過去の
そしてその魔法によってどんどん握り潰されていく魔物もどき。
『がああ、あああああああッ!!』
ーーー『無駄だ。お前がどんなに足掻こうと俺が一度掴んだモノは絶対に離さない。もう二度とな......』
『ふ、ふざけるなァアアッ!!こんな事があって言い訳がない!俺はァッ!世界をォォッ..........』
ーーー『お前に世界は掴めない。いや、掴ませるものか』
『くっ!グググ〜ッッ!このォ化物がァァッ!!』
ーーー『ああ、俺は化物だ。全てを掴む怪物さ。だがそれがどうした?俺は、俺の全力をもって俺が掴みたいものの為にこの力を使う。さらばだ、名も無き異物』
シンは掌を強く握り込み、魔物もどきの魔力体は握り潰された。断末魔の悲鳴を上げながら、魔力を霧の様に霧散させ消滅した。
そしてシンはロクサーヌに振り返り、笑顔を浮かべた。
その笑顔はロクサーヌがよく知っている要進の明るく大らかで包み込む様な優しい笑顔だった。
「試練達成、おめでとうございます。シンさん」
ーーー『かなり無様な姿を晒したし、ロクサーヌにも迷惑をかけた.......けどまぁ、ここは素直に喜んでおこうか』
「はい。それでシンさん、肉体に戻った方がいいのでは?」
ーーー『おっと、そうだった。つい試練達成の余韻に浸ってしまった。早く戻らないとな』
そう言ってシンは眠っている自分の肉体に歩み寄り、その体に触れた。
すると虹霓の光を放つシンの魔力体がシンの肉体に入り込み、虹の光が空間全体を照らし出した。その光は徐々にシンの体に纏う程度までに収まり、肉体と一つに戻った彼の姿が露わになった。
白かった長い髪は色を取り戻す。だが以前と違って青寄りの濃い青紫色に変色し、長髪のまま髪質も少し硬く癖のある感じになった。肉体はそのままだが、白い要に乗っ取られて際に見てとれた血管の様な赤い模様は消え、肌の色艶も精気があふれるものへと戻って行った。
「.......シンさん」
その様子を見てロクサーヌは、まだ目を閉じているシンに声をかける。
ロクサーヌの声に反応したシン。そして閉じられた重い瞼を開いた。以前と瞳の色が違う黄金の瞳がそこにあった。だがその瞳からは以前の様に、いやそれ以上に力強さと暖かさを感じたロクサーヌ。
そんな彼女は目端に輝く雫を頬に伝わせ、本当の意味でシンの帰りを喜んだ。
「おかえりなさい、シンさん......」
「......ああ、ただいま。ロクサーヌ」
この時、シンの魔力体と肉体がひとつになった瞬間、世界各地に衝撃が走った。
勝気な少女や王国の姫達は夜空に流れる無数の流れ星を目撃したり、幼い海人族の子供は西の海が大荒れをする様を見たり、魔人族の将軍は決して晴れることのない雪原上空に浮かぶ分厚い雲が唐突に消える様を見たり、ハルツィナの兎人族達は今まで見た事がない綺麗なオーロラを目にしたりした。
そして各地に散らばる実力者達はそれを魔力の波動として感じ取った。
それは暗い暗い奈落の底にいる化物と吸血姫にも感じ取れる程の大きな力の唸りだった。
苦労性の少女も、帝国にいる二人の戦乙女も、公国にいる女戦士も、遥か彼方の大地で暮らす強大な魔物も、竜人の姫も、神の真なる使徒も、反逆者と呼ばれた小さなゴーレムも、魔人族の弟子の帰りを待つ師匠も、皆一様にその変化を感じ取った。
そしてもう一人。この異変に気づき、改めて覚悟を決めた仮面の女がいた。
「至ったのですね、彼は.........なら私も、もう止まらない」
そう言い残した彼女は、北の方角へと歩みを続けた。
雪原をしっかりと踏み締めて進む彼女は、己の願いの為に約束の日まで歩き続ける。
そして、とある大迷宮の最奥に刻まれた魔法陣。
そこでこの世界の異変に同調する様に、その魔法陣が起動した。
いや、正常な魔法陣の起動ではない。
まるで、かつてシンやハジメ達が巻き込まれた
七つの門が開かれたのだ。
『ついに来たか』
『ああ、ようやくだ』
『
『我らが王の誕生』
『神を打ち滅ぼす存在』
『母に選ばれた男』
『王の器を持つ
『『『『『『『世界を変える我らが王がここに来る』』』』』』』
七つの異なる声色がその大迷宮の最奥で響いた。
そして、七体の
シンの覚醒。これからは“要”ではなく、“シン”として物語が進みます。
補足
新しい技能
[力魔法]
・怪物の“掴み取る力”と写し身の“魔力操作”(魔物特有の力)と要進の“願い”によって会得した付与魔法の特殊派生技能。重力魔法と違い大規模な重力場を発生させることは難しいが、その分魔力消費が少なくコンパクトに使用できる重力魔法と同質の魔法。掴む、引き寄せる、突き放す、押さえる、浮かせると言った事が空間に付与する事で近距離から中距離で使用できる要進専用の固有魔法。
[虹霓の魔力光]
・要進が過去を受け入れ、己の力を掌握した事で変質した魔力の輝き。
(極光というより七つの色味が混じり合った事で生まれたオーロラの様な虹霓。イメージはアニメ機動戦士ガンダムUC RE:0096 episode15「宇宙で待つもの」より虹の光みたいなものです)
登場人物
[シンの姿]
・身長188cmの高身長な上に筋肉質でウエストが引き締まっている。そして体型は綺麗な逆三角形のシルエットで、胸板も厚い。腕も太すぎず、しかし圧倒的な肉質感で力強さがより一層際立っている。元々運動が得意だったこともあって、より筋肉質な体に磨きがかかっている。(白い要が要進の肉体を乗っ取った時点でこの体となっている)
髪色は青寄りの濃い青紫。腰まで伸びた長い髪は以前の髪質より硬く若干癖が入っている。
(イメージはマギのシンドバッドとダビデを足して割った感じ)
瞳の色は黄金色に、顔は以前と大差ない造りだが大人びた雰囲気を醸し出しており、色気が倍増している。優しく微笑めばその色香で女性が色めくほど。