ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

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※原作マギやシンドバッドの冒険を見た方ならわかると思いますが、かなり改変しました。オリジナル要素も含まれますので悪しからず......




七体の魔神

 

 世界各地で異変が起きていた頃、氷雪洞窟最後の試練の間ではそんな事が起こってるとは露知らずシンが絶叫を上げていた。

 

 

「いっっっってええええええええええッッッ!!!」

 

「あ、シンさん!そんなに暴れたら余計に痛みますよ?」

 

「わかってるけど......くぅ〜、あの野郎こんな体でよく暴れてられたなぁ。ぁぁぁぁ〜、くっそ痛ぇぇ〜」

 

 

 シンは絶賛自分の肉体に蓄積されていた激痛に悶えていた。

 

 白い要がシンの肉体を覇拳で殴り上げた時の衝撃で内臓はぐちゃぐちゃ、骨は至る所が砕けまくっていた。しかし、その後白い要がシンの体を乗っ取りロクサーヌから神水を強奪し回復を済ませていた。だが痛みは残る。未だに治りかけなため、強烈な腹痛と全身の骨が軋む様に痛む。

 

 むしろそれだけの痛みで死んでいなかったシンの肉体が恐ろしいぐらいだ。

 

 そしてこの程度で済んでいた事には理由があった。

 

 

「師匠がシンさんを守ってくれたんですね」

 

「ああ、ロバートさんが作ってくれた防具が無かったら、あの一撃を喰らった時点で死んでただろうな」

 

 

 ロバートがシンとロクサーヌに渡していた特殊な素材で作られた防具。それには着用者が受けるダメージを肩代わりしてくれる効果が付与されていた。そのことを知ったのはついさっきだ。

 

 シンの新しい付与魔法の派生技能[鑑識]で砕けた防具の破片を見た時、そのことに気づいたのだ。それならそうと言っといて欲しかった、とシンが思ったのは言うまでもない。

 

 だがそのダメージを肩代わりする効果を持ってしても、あの白い要の一撃を完全には防ぎきれなかった。そのうえ防具を全て壊し、シンにこれだけのダメージを負わせた。それ程極まった一撃だったのだ。

 

 そしてシンは鑑識でもう一つ、気になることを知った。

 

 

(ロバートさんから貰ったあの防具、あれに使われた魔物の素材、あれは一体.......)

 

 

 鑑識の効果の結果、シンとロクサーヌがロバートから貰ったあの防具に使われていた魔物の素材は〝()()()〟という魔物の鱗らしい。

 

 だがそんな魔物の名前は聞いた事がない。ハジメから聞いていた魔物の種類にも無く、冒険者の間でも来た事が無い。シュネー雪原に生息する魔物でもない。それはロクサーヌから事前に雪原に生息する魔物について聞いていたからわかる。ロバートの口からも聞いた事がない。 

 

 つまりシンにとってその魔物は未知なのだ。

 

 

(なんか匂うな。冒険の匂いが......)

 

 

 シンの直感がそう訴えかける。

 

 未知との邂逅はまさに冒険の醍醐味。

 

 大迷宮を出た後にやりたい事が増えたと内心喜ぶシン。だが、今後の展望に期待を膨らませる事を妨害してくる激痛。

 

 内心でさっき以上の悪態を吐きつつ、痛みが治るまでロクサーヌの膝枕に甘んじた。ロクサーヌも相当白い要に痛めてつけられていたが、神水をすでに服用していたので完治している。

 

 神水様様である。

 

 そんなこんなであっという間に完全回復を遂げたシン。

 

 体力的にはかなり消耗しているが、この場所にいつまでも居るわけにもいかず、二人はその試練の間の奥へと続く道を進んで行った。

 

 その道中で二人は白い自分とどういうやり取りをしたのか、そして何を抱えていたのかを話した。

 

 ロクサーヌの辛い過去や負の一面、それをどうやって乗り越えたのかを聞いたシンは、唐突にロクサーヌのことがとても愛しくなり彼女を抱きしめた。

 

 

「ロクサーヌ、お前は強い。それはお前の師匠も言ってたことだ。だから、今ここにいる自分に胸を張れ。他人を信じるよりお前はお前自身を信じてやれ...........まあ、俺が言えた話じゃないけどな。でも、俺から言いたいことが一つある。よく頑張った、ロクサーヌ」

 

「........はい。ありがとうございます、シンさん」

 

「しっかし、まさかカイルさんに兄がいたとはな。それも俺のロクサーヌを襲おうとするとは、けしからん!」

 

「心配しなくていいですよ。あの男は私がすでに()ってますので。それに何一つあの男には奪わせてません!」

 

 

 どうやらカイルの兄は相当ロクサーヌから恨みを買っていたらしい。ロクサーヌは自信満々な様子で片腕の力こぶを作るようなガッツポーズをし、爽やかに笑って見せた。笑顔の裏に隠れた執念深さ。割と言ってることが過激なロクサーヌ、その清々しい笑顔と発言の過激さにギャップを覚えたシンは、今後ロクサーヌを本気で怒らせない様にしようと思った。

 

 そんな事を考えていると、今度はロクサーヌがシンを抱き寄せた。それもシンの後頭部に腕を回し、優しく自身の胸に抱き込む様に。その豊満なお胸に顔を埋めたシンは少し戸惑うも、その抱擁を受け入れる。

 

 ちょっと元気になったシン。何がとは言うまい。

 

 

「シンさんも、よく頑張りました。貴方が一体何を抱えていたのか知れて私は嬉しいです。私には貴方の過去に同情することしか出来ません。ですが、これからの貴方を支えて行くことはできます。ですから、どうかこれからも私を貴方のお側に居させてください」

 

「ロクサーヌ.......」

 

「貴方には才能があります。でも一人で出来ることなんてきっと限られてます.........ですから私を頼ってください。私は貴方の恋人であり、貴方を支え続ける剣、これからもずっと貴方を愛し続けるパートナーなんですから」

 

「ロクサーヌ!!」

 

「わっ!」

 

 

 ロクサーヌの言葉を聞いたシンは、あまりの愛おしさについロクサーヌを抱え上げた。ロクサーヌのお尻の下に両腕を回し、彼女をそのまま持ち上げる。自然とロクサーヌの視線は高くなり、愛しい女性を見上げるシンと愛しい男性を見下ろすロクサーヌの構図になる。

 

 

「ロクサーヌ、俺はお前が大好きだ、愛してる!だからこそ、俺のそばでずっと俺を見続けてほしい。俺のこれからを。俺の冒険を!だから、共に歩んでくれ!一生!」

 

「〜〜ッッ......はい。私の一生を貴方に捧げます」

 

「ロクサーヌ!!」

 

「わわっ!もぉ〜、シンさんたら....ふふ」

 

 

 嬉しさのあまり抱え上げたロクサーヌの腹部に頬擦りをするシン。そんな彼を見て嬉しさと恥ずかしさで赤面するロクサーヌだが、すぐにその顔は眩しく輝く様な笑顔になった。

 

 その後、シンがロクサーヌを抱えたまま先に進もうとしたので、恥ずかしさのあまり必死で降ろして欲しいと懇願したロクサーヌ。なんとか降ろしてもらえたロクサーヌ、ちょっと残念そうなシン。だが、そのかわりに二人はお互いの手を絡めて繋ぎ、先を進んだ。

 

 程なくして行き止まりに到着した。

 

 その行き止まりの氷壁には七角形の魔法陣が刻まれており、シンとロクサーヌが近付くと淡く輝き始めた。そして、壁全体が光の膜のようなもので覆われていく。

 

 シンが軽く指先で触れると、水面に石を投げ込んだように波紋が広がる。この感じは、最後の試練の間の前に戦闘を繰り広げた、あの光の扉と同じだろう。

 

 それを見てシンとロクサーヌはお互いを見て頷くと、その光の膜へと飛び込んだ。

 

 

 数瞬、光が視界を覆ったがそれはすぐに晴れ、目の前の光景に二人は息を呑んだ。

 

 

「ここが.......」

 

「ああ、ここが氷雪洞窟の最奥......!」

 

 

 綺麗な四角の広い空間。何本もある円柱型の氷柱が地面から天井を支えて、地面には水が張り巡らされていた。

 

 そして、二人の視線が最も注視したのはこの空間の奥、氷の神殿だ。

 

 全てが氷でできた神殿、その氷は先程までの鏡の様な物とは違い、純粋な氷として在り、それら全てが綺麗に整形されている。その外観はまさにこの世の物とは思えないほどの神秘を二人に見せつけていた。

 

 

「なんと言いますか、本当に凄いですね......今までにも装飾が凝らされた氷の扉とか見て来ましたけど、ここは格別な気がします........」

 

「だな。ここの澄んだ空気といい、外観といい、神聖的な何かを感じる」

 

 

 そして二人は氷の神殿へと足を踏み入れ、その神殿の奥には両開きの氷の扉があった。

 

 それに触れた時、シンは何かを感じ取った。

 

 

「どうしたのでか、シンさん......?」

 

「............フッ、行くぞ」

 

 

 シンが挑戦的な笑みを浮かべ、その扉を開け放った。

 

 中はとても広々とした邸宅のエントランス。

 

 二階もあり、目視で確認出来る限りでも部屋の数は多い。装飾品が純氷でできており、その豪華さにロクサーヌの表情が輝いた。しかし、シンはそれらに目もくれず真っ直ぐに、奥へと続く正面通路を歩き出した。

 

 

「シンさん、一体.......」

 

「ロクサーヌ、多分だがこの奥に()()()ある。それも特大の未知の匂いがする......!」

 

「まさか、敵ですか?」

 

「いいや違う。俺達を待ってやがる。いや......()()......?」

 

 シンの直感がそう告げていた。この先に何かがあると。

 

 そして二人はその通路を進み続けた先にあった、重厚な扉の前に到着し、シンがその重い扉を開け放った。

 

 中は綺麗な氷壁に囲まれた四角い部屋で、かなりの広さがある。天井は吹き抜けとなっており、大迷宮の中だと言うのに日の光が差し込み、部屋を暖かく照らし出していた。

 

 一見するとそれだけの部屋。中には誰もいない。

 

 しかし、その部屋の中央には大きな魔法陣が床に刻まれており、それを取り囲む様に七つの銅製の装飾品や道具が氷の台座に置かれていた。

 

 シンは迷わず、その魔法陣の中へと踏み込んだ。それに倣ってロクサーヌも魔法陣の中に入ると、魔法陣が輝き出す。

 

 そして頭の中に刻み込まれる情報。正確には魔法で、それが今は無き神代の魔法[変成魔法]だと理解した。

 

 思わず頭を押えるロクサーヌ、シンも少し顔を苦痛で歪ませているがお互いに耐えられない痛みではない。

 

 そして二人の脳に情報が刻まれた後、魔法陣の輝きは徐々に薄れていった。

 

 

「凄い魔法ですね。まさか魔物に干渉出来る神代の魔法だなんて。恐ろしい話ですが、この魔法があれば魔物の軍勢すら掌握できるます」

 

「いや、正確にはこの魔法は生物に干渉出来る魔法だ。()()()()()()()が少し断片的すぎる。生物を魔物にする事も可能なら、その逆も出来るはず。魔物に固執する神代魔法なんて、神代魔法にしてはありきたりすぎだ。それに、魔物を多数従わせるなら闇魔法の洗脳で十分なんだからな」

 

「つまりこの魔法は人を魔物に、魔物を人にも変えることができると?」

 

「ああ、だが効率重視で行くなら魔物を強化して従わせるのが一番費用対効果がいい。数も質もいいからな」

 

「なるほど。ですがどうしてその様な事がわかったんですか?私に与えられた情報にはそんな事.........」

 

「それは多分、()()()()のおかげだろうな」

 

 

 そう言ってシンが見たのは、魔法陣に囲まれた台座に置かれた装飾品達だった。

  

 ロクサーヌは不思議そうにその装飾品達を見つめ、何故シンが()()()()、と言ったのか疑問を浮かべていた。

 

 シンもロクサーヌと同様、最初は魔物を従わせる神代魔法だと錯覚していた。しかし、シンの中で疑問が浮かんだ時、まるで何者かに後押しされたかの様に情報が追加された。より変成魔法の本質的な情報を。その時の頭痛はロクサーヌの比ではなかったが、耐えられない痛みではなかったのでシンは堪えていた。

 

 しかし、その後押しが一体どこから来たのか。

 

 シンはその後押し、もとい魔力の流れを感知し、それがどこから来たのかを明確に理解していた。

 

 

「さて、そろそろ出てきてもらおうか」

 

 

 そう言ってシンは力魔法を使い、七つの銅製の道具を同時に掴んだ。

 

 その時、世界が変わった。

 

 黄金のオーラが部屋全体を包み込み、その粒子がシンとロクサーヌの二人に降り注ぐ。そしてシンが力魔法で掴んだ装飾品が変色、いや変質した。銅製だった装飾品や道具が金銀の貴金属へと変わり、豪華な装飾が施された物へと様変わりした。

 

 そして最も大きな変化が起きた。

 

 七つの貴金属製の道具から青い煙の様な物が現れる。それは普通の煙の様に掴めそうな物では無いが、煙とは思えないほどの質量感があり、それが徐々に形を形成していく。

 

 やがてそれは人型となり大小様々だが男の姿や女の姿、獣の様な顔、鬼の様な角、大鷲の様な翼、竜の様な鱗、牙や爪などを生やし、額には第三の目、或いは宝石を宿し、豪華な装飾を身に纏った巨大な魔神となった。

 

 現れた七体の魔神にシンとロクサーヌは驚愕の表情を浮かべた。

 

 そんな二人を見下ろし、魔神達はそれぞれ名乗りをあげる。

 

 

『我が名は〝バアル〟憤怒と英傑の精霊(ジン)なり』

 

『我の名は〝アガレス〟不屈と創造の精霊(ジン)

 

(ボク)の名は〝ゼパル〟精神と傀儡の精霊(ジン)

 

『我が名は〝フェニクス〟慈愛と拒絶の精霊(ジン)であります』

 

(ワタシ)の名は〝フォカロル〟支配と服従の精霊(ジン)である』

 

(オレ)の名は〝クローセル〟自由の叛逆の精霊(ジン)なり!』

 

『我が名は〝キマリス〟悲嘆と豪傑の精霊(ジン)である』

 

 『『『『『『『我らが王、()()()()()()()()()よ。我ら七人、御身の前に』』』』』」

 

 

 思わず身構えるロクサーヌ、しかしそれを嗜めるシンは一歩前に出て、目の前に居る七体の魔神達に向かって堂々と話しかけた。

 

 

「俺の名前はシン、要進だ。それで、お前達が俺をここに呼び、さっきの魔法の情報付与を後押ししたのか?」

 

『御尊名拝聴した。そしてその問いに我は然りと答えよう。我ら七人でその魔法陣により行われる情報付与の制限を解除致した』

 

『王の力をより高めるため。そして、悪しき偽りの神を打倒していただくために』

 

 

 シンの問いかけに、この中で一番の巨体と竜の様な翼を持つバアルが答え、それに付随して女性型の鳥の様な翼と神をしたフェニクスが答えた。さっきから気になっていたが、フェニクスと名乗った魔神とキマリスと名乗った女性型の魔神、この二体は登場時から乳房丸出しな上に乳首もモロ見えである。共に巨体ではあるが、整った顔立ちとスタイルで若干目のやり場に困る。

 

 ハッ!鋭い殺気!?

 

 ロクサーヌ、シンが何を見ているか察したらしく、ちょっと怒ってる。笑顔を浮かべシンを見ているが、その視線がグサグサ背中に刺さるのを感じたシンはわざとらしく咳払いをし、会話を続ける事にした。

 

 

「ゴホンッ....悪しき神と言ったな?それはこの世界の神エヒトを差す言葉か?」

 

『そうだよ。あの偽神は元々()()()()()()()では無いんだ。アレはこの世界にやってきて、世界を盤上に見立てて狂った遊戯を続けている。君にはそれを止めて欲しいんだ』

 

『我らにとって、あの憎き偽りの神は討ち滅ぼさねばならない存在。王よ、どうか我らと共にあの偽神と戦ってください!』

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 

 シンの問いにゼパル、キマリスが答え、エヒト打倒を懇願して来た時、それを遮る様に口を開いたのはロクサーヌだった。

 

 

「神の打倒って、そんな事をシンさんに押し付ける気なんですか!」

 

『何者だ、我らと王の話を遮る不届な獣の女よ。己が身分を慎め』

 

 

 ロクサーヌの異議を強く否定するキマリス。それに同調する様に他の精霊(ジン)達がロクサーヌを威圧し、ロクサーヌはその強大な重圧感に表情が歪みかけるが強く意識を保ち、絶対に屈しないという気概を見せた。

 

 だが、その睨み合いはすぐに収まった。

 

 何故ならシンが魔力を解放し、途端に広がった虹霓の魔力光が部屋全体に染み渡った黄金の光を飲み込み、シンの魔力光一色に染め上げたのだ。そして解放されたシンの[()()]。威圧の特殊派生技能であり、王の威厳そのもの。相手を心を折り、屈服させるただの威圧ではない。それは己の存在感で相手の全てを飲み込み、畏敬の念をより強くさせる圧倒的なカリスマと言える物だった。

 

 それを感じ取った七体の精霊(ジン)達は改めてシンに対して(こうべ)を垂れる。

 

 圧倒的な魔力の質と量、そして王としてのカリスマ。

 

 目の前に居る王が正真正銘自分達が求めていた存在なのだと精霊(ジン)達は理解した。それ故に、これ以上王の御前でみっともない姿を晒す事などできなかった。

 

 

「ここに居る女性は俺の女だ。その名もロクサーヌ。お前達が俺を王と敬うのなら、彼女は王妃に当たる存在だぞ?」

 

『なんとッ!?すでに王妃を娶られておりましたか!』

 

『それでこそ我らの王である!!』

 

『申し訳ありません王妃ロクサーヌ様。このキマリス、王妃様への無礼、謹んでお詫び申し上げます』

 

「い、いえ....それより頭を上げてください。私は気にしてませんから」

 

『寛大なお言葉、有難く思います王妃様」

 

「あ、はい」

 

 

 先程の発言に詫びを入れるキマリスはロクサーヌに対する態度が一転して変わった。そしてその巨体でロクサーヌに(へりくだ)るので彼女は慌ててキマリスの行為を嗜める。

 

 そんな様子を見ていたシンの顔が若干ニヤついていた。まさにしてやったり、と言った様子。

 

 だが、頭を下げられているロクサーヌ本人としては申し訳なく思うのと、急な王妃呼びに対して表情が若干の驚きと照れの要素が入り混じっていた。そんな彼女がシンを見て、その顔がニヤついていたので、照れた様にシンをジト目で睨んだ。

 

 そんなロクサーヌを見て、内心で「いい物が見れた」と思ったシンは話を再開させた。

 

 

「お前達の言い分はわかった。エヒトがどういう存在なのかも。俺は一度、神の使徒に殺されかけている。その事実を加味すればお前達が嘘を言っていないというのもわかる。それに俺や俺と同じ同郷の奴らもそのエヒトに呼ばれた身だからな。大方、その狂った遊戯で足りない駒を補うために俺達を呼んだのだろう」

 

『やはりそうだったか。して、我らが王は何処(いずこ)の世界からこの地に?』

 

「地球だ。この世界とは違って魔法も存在しない世界だ。知っているのか?」

 

『申し訳ないが、(ワタシ)たちにはその世界はわからない。ただ帰れる方法はある』

 

 

 クローセルに聞かれて、シンがどこの世界から来たのか答えた時、フォカロルがそんな事を言った。シンの表情が明らかに変わった。

 

 

「それはどんな方法だ?」

 

『それはこの大迷宮と同様の残り六つの大迷宮を攻略し、神代魔法を獲得すること。そして王が強く願えばその門は開かれます』

 

「つまり、この世界にある七大迷宮を攻略しろってことか」

 

『そうです。しかし......』

 

「俺達を呼んだエヒトが黙ってるわけがない、と。なるほどな」

 

 

 アガレスがその問いに答え、フェニクスがその先の言葉に言い淀んだ。だが、それを簡単に言い当てたシン。エヒトを打倒しなければ元の世界には戻れないと、そういうことらしい。

 

 シンは冒険をすると決めた。

 

 その冒険の果てを地球にいる子供達、隣にいるロクサーヌ、そして過去の自分と俺と共に歩むと決めたシンの写し身に見せると約束した。

 

 そのために必要な覚悟はすでに決まっている。掴み取る事も、守り抜くために壊す事も厭わない。

 

 なら、どうするべきか。

 

 エヒトはこの世界の人達を盤上の駒に見立て、狂った遊戯をしている。人を玩具の様に。その魔の手がロクサーヌや、八重樫、園部、そしてハジメたちに伸びるかもしれない。さらに言えば、エヒトが新たに地球からシンの大切な家族である子供達や施設のおばちゃん達まで巻き込むかもしれない。自分達をこの世界に呼び込んだ様に。

 

 この世界の大きな渦に大切な者達が飲み込まれない様にするにはどうすればいいのか?

 

 それはエヒトを打倒する事。

 

 だが本当にそれだけか?偽りの神が築き上げて来た歴史や信仰は根強い。それこそ大切な恋人であるロクサーヌを苦しめた様に。

 

 さらに言えば魔人族が信仰するアルヴ神とやらもキナ臭い。エヒトがそんな存在を見逃すはずがない。つまりアルヴ神とやらもグル、或いはそれに類する協力者か何かだろう。

 

 つまり、シンの敵は偽神が築き上げた世界の現状そのもの。

 

 ならば、どうするべきか?

 

 そんなものは簡単だ。

 

 生み出せばいいのさ、神に頼らない人の世界を。その()()()()()()()を。

 

 そのための第一歩に必要な力はここに揃っている。

 

 

「ああ、そうだ。俺が王の器だというなら......」

 

「シンさん?」

 

「決めたぞ、ロクサーヌ!俺はこの世界を変える国を作る!」

 

「く、国をですか!?」

 

「そうだ!神に頼らない、人の国を作る!それも亜人族や魔人族、それに知性を持つ魔物も、全てを巻き込んだこの世界で最初の他種族共生国家だ!」

 

「ッ......!」

 

「どうだ、ワクワクしないか?戦争も差別も存在しない、ただそこにある全ての命が等しく理性と秩序を持って新しい世界の在り方を築いていく!こんなにワクワクすることはないだろ!」

 

「シンさん、貴方は........!」

 

 

 目の前の彼はその力強くキラキラした瞳でそう語ってくる。ただ神の打倒という事では収まらない、まるで夢物語の様な彼の野望。

 

 彼が口にした言葉がロクサーヌの心を震わせる。そして理解した。彼はこの世界に舞い降りた次代の王なのだと。これが王の器。野望を謳い、万物を束ね、覇道を成す。そう確信させる程に彼の魂の輝きはとても眩しかった。

 

 

「俺と一緒に世界を変える冒険をしないか、ロクサーヌ?」

 

「ッッ!!」

 

 

 シンがその手をロクサーヌに差し出しながらそう言った。

 

 彼が私を必要としてくれている。

 

 私が愛してやまない彼が共に歩もうとしている。

 

 それがとても嬉しくて、ロクサーヌはシンに歩み寄りその手を優しく両手で包んだ。

 

 

「私の居場所はすでに決まってます。私が共に居たいのは貴方の隣だけ、私は貴方を支える剣です.......ええ、どうか私に貴方が描いた世界を見せてください」

 

 

 そうロクサーヌが返事をし、それを受け取ったシンはロクサーヌを自分の体に引き寄せそのまま抱き止めた。

 

 

「そういうわけだ。俺はただ神の打倒だけでは収まらない。神が築き上げてきたもの全てをひっくり返す。それでもついてくるというなら、俺と共に来いお前達!」

 

『これが特異点、王の器か......!』

 

『ええ、望むところです』

 

『我々は貴方様と共に歩む存在』

 

『例え王が拒んでも張り付いてついていくさ』

 

『左様。我らの主人はただ一人』

 

『見せていただきたい、貴方の輝きを』

 

『世界を変える冒険を!』

 

「ああ、ついてくるといい。俺が神の盤上の悉くをひっくり返し、この手に世界を掴む姿を!」

 

 

 高らかに宣言するシン。

 

 その周囲で乱れ舞うシンの魔力の輝き、そしてそれに呼応する様に七体の精霊(ジン)の魔力が吹き荒れシンの魔力と混じり合っていく。

 

 一切の淀みがない虹霓の魔力、それに吸い寄せられる様に七体七色の魔力光がシンの魔力の輝きをより際立たせた。

 

 そして、七体のジンとの縁が結ばれた。

 

 ここからが本当の意味でシンが覇王となる物語の始まり。

 

 序章が終わり、破章の始まり。

 

 しかしそれは破壊の章ではなく、覇業の章。つまり覇章の始まりなのだった。

 




・最初は七体のジンをそれぞれ大迷宮に配置しようと思ってましたが、後々ややこしくなりそうだったので一気に出しました。人選は個人的な好みです......が、これ以上は言えません。


補足


新しい技能


[鑑識]
・付与魔法の派生技能。物体に刻まれた情報を読み解く力。ハジメの鉱物鑑定みたいなもの。だが、その鑑識範囲は広く、人や防具、或いは魔物まで情報を見抜く。本来の使い方としては味方のバフ、デバフ管理のための能力で、相手の武器や状態なども見抜く。



[覇気]
・威圧の特殊派生技能。圧倒的なカリスマが元々なければ発現しない技能。威圧と効果は似ているが、ただ力の差を見せつけるものではなく圧倒的な王の風格や雰囲気、カリスマが凝縮され、まるで眩しい光を眺める様にその光に導かれる。思わず平伏したくなる様な威圧。発動させた者の感情によって、それを受けた相手が抱く心情が変化する。希望を抱いたり、絶望を抱かされたりと。






登場したジン(精霊)
※登場するジン達はあくまで原作マギに登場するジンとよく似た存在という扱いです。性格も経歴も別物です。

【バアル】
・憤怒と英傑の精霊。厳格なジン。見た目や言動、能力は大体原作通り。雷を操る。

【アガレス】
・不屈と創造の精霊。割と無口なジン。見た目や言動、能力は大体原作通り。大地を操る。(ちょっと可愛い面強めに表現します)

【ゼパル】
・精神と傀儡の精霊。責任感が強いジン。一人称が我と僕に変わる。見た目や言動はある程度原作通り。能力は少し改変予定(もう少し使い勝手良くしたいから)精神干渉系の魔法を扱う。

【フェニクス】
・慈愛と拒絶の精霊。おっとりした女型のジン。全身魔装時は赤い髪色。原作マギとは違い精神干渉系ではなく、不死鳥をイメージしています。見た目はそのまま。炎と回復魔法を扱う。

【フォカロル】
・支配と服従の精霊。浮気性のジン。見た目や言動、能力は大体原作と同じ。風を扱う。

【クローセル】
・自由と叛逆の精霊(オリジナル要素)見た目はそのまま。能力や言動は原作であまり情報がなかったので作者の想像で描きます。豪快なジン。光を扱う。

【キマリス】
・悲嘆と豪傑の精霊(オリジナルキャラ)戦乙女の様な高潔な女型のジン。全身魔装時は薄い紫色の髪色になる。おっぱい大きいジン。氷を扱う。
(イメージは“ガンダムキマリスヴィダール”を女擬人化された感じです。氷の壁とか槍とかちょっとかっこいいと思ったので出しました。完全に作者の趣味です。え?ブァレフォールはって?.......それは今後のお楽しみです)

ヒロインとのR18シーンの短編作品はありorなし

  • あり
  • なし
  • どっちでもいい

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