ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

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新章開幕により続々と新キャラ登場予定。


(※ヒロインとのイチャラブR18シーン第一話投稿しました。気になる方は本作説明欄のURLからどうぞ)




第二章
カタルゴ大陸


 

 世界各地で大規模な異変が起こり、早くも一カ月近くが経とうとしていた頃、ロバートはいつもの様に自身の工房で新たに魔道具を開発していた。

 

 そして完成させた一本の剣。

 

 それは片刃の湾刀でサーベルにもよく似ているが抜刀のし易さと斬撃性に特化した造りをしていた。さらに二匹の銀の蛇が絡み合った様な形の鍔が付けられている。この場所にシンが居ればそれを見た瞬間真っ先にこう思うだろう。

 

 日本刀だ、と。

 

 ロバートは()()()と魔道具や武器の製作を続けてきた魔道具製作の名工。その果てに、彼はこのトータスで初となる太刀の開発に成功していた。そしてその太刀にはロバートが長い生の中で冒険し、手に入れた()()()()が付与されている。

 

 ロバートが作り上げたアーティファクトの中で、その太刀は()()()の出来であった。

 

 そんな三番目の傑作を眺めながら、ロバートは一人呟いた。

 

 

「これではまだ届かない、か.......フッ」

 

 

 自嘲気味に鼻で笑ったロバートは、その太刀を投げ捨てた。すると、投げ捨てられた太刀は地面に落ちる寸前で空中で停止した。いや、正確には何者かによってキャッチされていたのだ。

 

 

「それも閉まっておいてくれ、バウキス」

 

 

 ロバートはなんでもない事の様にその者の名を呼んだ。だが、それは人ではなく、体長一メートル程の真っ白な鱗と空色の瞳をした蛇の魔物だった。

 

 ロバートがまだ若かりし頃に出会った番の一匹であり、ずっと一緒に暮らしてきた相棒的存在。

 

 バウキスの事を知っている者は、今やロバートのその子供のみ。ロバートの弟子であるロクサーヌにすら未だ教えていない。バウキスは人見知りというか、極度に他人と関わろうとしないのだ。だからロバートは安易に彼女(バウキス)の存在を他人には漏らさなかった。最もロバートがバウキスの存在を口にしなかった理由はもう一つあるのだが。

 

 そんなバウキスはロバートが投げ捨てた太刀を受け取り、それを丸呑みにした。その体ではどうあっても飲み込めるわけがない太刀をだ。それも体の形を全く変える事なく。

 

 ただ特殊な個体というにはあまりにも説明不足な現象を前にロバートはそれすらなんでもない様に視界の端で捉えていた。

 

 

「ゴホッ、ゲホッ、ガハッ........はぁ、あまり()()()()()な......」

 

 

 ロバートが唐突に咳込み、そんな事を口にした。

 

 そんなロバートを心配そうに見つめる白蛇のバウキス。

 

 

「心配するな、いつもの事だ........」

 

 

 そう言ってロバートは自身に()()()()()を施した。そして不意に視界に入った自身の赤い髪の中に数本白い毛を見つけ、それを雑に抜き捨てた。

 

 その時、彼は工房の外に現れた二つの気配を感じとり、工房の入り口である重い扉を開いた。

 

 

「随分と遅い帰りだったな、二人とも.....」

 

「お久しぶりです、ロバートさん....いえ、ロンさん」

 

「只今戻りました師匠!」

 

 

 そこに居たのは、一ヶ月以上前に送り出した弟子と人族の少年だった。いや、目の前の男を子供扱いするのは失礼かもしれない。何せ以前ここに流れ着いた時とは違い、纏っているオーラや魔力が明らかに変わっていた。憑き物が取れたかの様に、そして以前よりどことなく()()()に似ている。

 

 

「.......もうお前を小僧呼ばわりは出来ないな」

 

「なら俺のことは“シン”と普通に呼んでください、お義父さん」

 

「ああ、わかった。ならそう呼...............待て、今なんと言った?」

 

「お義父さんと呼びました」

 

 

 その一言と二人の様子で全てを察したらしいロバート。

 

 

「........はぁ〜、お前達は大迷宮で一体何をしていたんだ.....?」

 

「まぁまぁ師匠。そういう事も含めて色々話したいですから、まずは家の中に入りましょう!」

 

「........はぁ〜。ああ、そうだな.........シン、詳しく聞かせろ」

 

「ええ、もちろんです」

 

 

 ロバートは工房を出て、シンとロクサーヌと共に隠れ家の中に入って行った。

 

 そしてロバートは帰ってきた二人が硬く手を繋いでいる姿を見て、溜息が出る思いでありつつも成長した弟子の嬉しそうな顔を見て少しホッとしたのであった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 隠れ家に入り、軽い食事をしながら会話を始めた三人。

 

 久しぶりにロクサーヌの手料理を口にしたロバートは相変わらず彼女の手料理に対しての感想が少なかった。そんなロバートを見て苦笑を浮かべたシンとロクサーヌは、戻ってきたのだと改めて実感した。

 

 そしてシンとロクサーヌは大迷宮での出来事を掻い摘んで説明した。

 

 それをロクサーヌが淹れてくれたお茶を飲みながら無言で聴き続けていたロバートがようやく口を開いた。

 

 

「大体の経緯は理解した。お前達がどれほどの山場を超えてきたのか、そしてその末にお前達が今の関係をどんな風に築いたのかもな.....」

 

「ロクサーヌは俺にとって大切な女性で、手放したくない俺の恋人です。お義父さん、娘さんを俺にください!」

 

「シンさん........!」

 

「お前それを言いたいだけだろ?お前の目からは、『もう貰ったから口出しするなよ?』という意思しか感じられん」

 

「えへへ.......やっぱわかりますか?」

 

「ああ。まぁ、俺はそれに反対する気はない。それに、これはロクサーヌが選んだ道だ。俺がとやかく言う話ではないだろう...............だが、ロクサーヌを泣かせる様な真似だけはするな、いいな?」

 

「それは勿論。俺自身と俺の夢に賭けて誓います」

 

「夢、か...........」

 

 

 不意にロバートが少しだけ遠い目をし、まるでシンの言葉に浸っている様だった。

 

 

「師匠......?」

 

「.......なんでもない。それで、お前がその夢とやらを成し遂げる為の力が.....それか?」

 

 

 先程の様子とは打って変わって、ロバートは険しい視線をシンが身につけている装飾品に移した。それを見てシンは腰に携えていた刀剣を抜き、ロバートの前でその刀身に刻まれた八芒星の魔法陣に魔力を送り発光させて見せた。

 

 

「ええ、これが精霊(ジン)の金属器。異界の精霊が宿った道具です。この世界での分類上ではアーティファクトに該当するらしく、アーティファクトと同様にそれぞれの魔法が使えます。これをあと六つ、俺は所持しています」

 

「そうか..........シン、その力はこの世界では異端の物だ。扱い方は十分に注意しておけ」

 

「はい、それはもちろん重々理解しています」

 

「........盗まれたりするなよ?」

 

「はは、そんなヘマしませんって!」

 

 

 そんな馬鹿な事するわけない、と笑って返すシン。だがその後に、盛大にフラグを回収することになるとは誰も思わなかった。

 

 

「そもそもこの金属器は他人には扱えない代物です。盗んだところで使い物にはならないですから、他人に悪用されるなんてことはありません」

 

「..........ふむ、やはりそうか........」

 

 

 するとロバートが自身の顎を撫でながら何かを考え始めた。そんなロバートを見てシンとロクサーヌは訝しそうにお互いの顔を見合わせていると彼の口が開いた。

 

 

「.........シン。俺は、それと同じ物を知っている」

 

「「ッ!?」」

 

「正確には()()()()()()()と言うべきだろうな。お前が先程言った〝他者には扱えない〟という点、それと〝異界の精霊が宿る〟という点で俺が知ったものと同じ物、或いは同系統のアーティファクトであるのは間違いないはずだ」

 

「シンさんと、同じ金属器使い.....?そんな人が他にもいたんですか.....!?」

 

「お義父さん、それをどこで知ったんですか?いや、一体誰に()()()()()()()んですか?」

 

「お義父さんはやめろ、気が抜ける.....」

 

 

 シンはそれが一体誰なのか気になった。もしかしたら、打倒神を志す同志にして自分と同様に精霊(ジン)に選ばれた存在、王の器と認められた特異点持ちかもしれないからだ。

 

 その問いにロバートは数秒()を置き、決心した様な顔つきになって語り始めた。

 

 

「.......お前達が大迷宮攻略に向かった後だ。俺はとある女と出会った」

 

「女性の方、ですか......?」

 

「そうだ。黒いローブの様な布を頭から被り、銀の鎧を身につけた白髪の仮面の女だ。名前は〝ヴィーネ〟」

 

「ヴィーネ、ですか。その女性が俺と同じ金属器を?」

 

「ああ。その女はお前が見せた物と同じ様に、黒い筒の様な鉄の塊に魔法陣を刻んでいた。そしてそれが精霊が宿る金属器だと俺に見せた」

 

「その女性は今どこに?」

 

「ここには居ない。あの女は俺に作って欲しい物があると言ってきて、それが完成してすぐにそれを持って北へ向かった。一ヶ月くらい前のことだ」

 

「師匠が会って間もない怪しい女性にそこまでしたんですか!?」

 

「少なくとも信頼は出来ると判断した。お前達の事も知っている様子で怪しいとは変わりとは思ったが、あの女の言葉に嘘は無かった。だから頼みを聞いてやったまでだ。そしてあの女はこうも言っていた。()()()()()()だと」

 

「解放者.......」

 

「お前達も知っているだろう。この大陸において解放者とは、七大迷宮の創設者にして遠い昔に神に抗った存在だと」

 

「はい。氷雪洞窟の奥にそんな事が書かれた書物がありました。ですがその人達は......」

 

「ああ、すでに死んでいる。何千年も昔の人物なのだ、当然の話だ。だが奴は“現代の”と言った。大方どこかの大迷宮を攻略し、世界の真相知ってそれを名乗っているのだろう」

 

「.........ロンさんも、この世界が神の玩具にされている事を知ってたんですね」

 

「ああ、知っている.......知っているとも..........」

 

 

 ロバートは珍しく怒りの籠った声でそう呟いた。その顔はロクサーヌですら今まで見た事ない程に憎悪を煮え滾らせた表情を浮かべており、それと同時に何かを嘆く様な悲しい瞳をしていた。

 

 そしてそんな激しい感情を落ち着かせる為にロバートは一度息を吐き捨て、冷静さを取り戻し話し合いを再開させた。

 

 

「とにかく、あの女は神を打倒する為にと俺に協力を求めた。俺の[心眼]の力はどんな存在だろうと、その者の言葉の真意を見抜く事ができる。その結果、あの女の言葉に偽りがないのは証明できた。それに過去だろうと現代だろうと、あの女が何者かなど俺には関係ない。あの憎き邪神を葬り去る為に協力すると言うのなら是非もない話だ」

 

 

 ロバートの決意は本物だった。

 

 そこにどんな思いが詰まっているのは定かではないが、信頼している彼がそこまで言うのだ。そんな彼の言葉を信じるのは当然だと、シンとロクサーヌは強い意志を持って応えた。

 

 

「ロンさんがそこまで言うのなら俺もその人を信じます。それに同じ様に神を倒すことを掲げている身としては少しでも戦力は欲しいですから」

 

「はい。シンさんの夢の為には多くの人達の力が必要ですからね」

 

「...........そういえば、その夢について聞いていなかったな。お前が掲げた夢とは一体なんだ?神を殺す事か?」

 

「神を殺すのは、俺の夢の過程でしかありません」

 

「ほお、神殺しはあくまで夢の為の前座でしかないと?お前はその先で何を求める?」

 

「国です。()()()()()()()を作ります」

 

「ッ!?」

 

 

 シンの言葉にロバートは目を見開き驚いていた。

 

 シンの口からまさかその言葉が出てくるとは思ってもいなかったロバートは、真っ直ぐにシンの瞳を見つめた。

 

 瞳の色が以前と変わっているが、ここに来た時と同じ様に真っ直ぐで力強い瞳。あの時感じた自傷的な淀みはもうどこにもない。あるのはただ、自分の言葉を信じて疑わない信念と覚悟だった。

 

 

「ククク.......」

 

 

 ロバートは笑っていた。顔を俯かせ、掌で顔の上半分を覆い隠し、とても嬉しそうにクツクツと笑っていた。そして彼の手で覆い隠された両目に、何か熱いものが込み上げてくるのをロバートは感じていた。

 

 

(嗚呼、貴様の言う通りだったぞヴィーネ。この男なら託せる。俺と(アイツ)の果たせなかった夢を........!」

 

 

 唐突に笑い出したロバートを見て『師匠が壊れた!?』とオドオドしているロクサーヌ。だが、シンは真剣な表情でロバートを見つめていた。彼の掌で隠された瞳の端で煌めく水粒を見たからだ。それが決して笑いすぎたせいで生じた物ではないと理解して。

 

 ほどなくしてロバートは何事も無かったかの様に顔を上げて見せた。その目に水粒はもうない。

 

 

「.........お前達に見せなければならない物がある」

 

「見せなければ、ならないモノ.........?」

 

 

 ロバートがそう告げると席を立ち、どこかへ行ってしまった。

 

 おそらく、ロバートの言う見せなければならない何かを持ってくるつもりなのだろうと思い、彼の行動をただ見ていたシンとロクサーヌ。

 

 するとロバートはそんなに時間を掛けずに戻って来た。

 

 だが、彼の手には何も無かった。その代わりにロバートの腕には真っ白い何かが巻き付いていた。それが何なのか二人はすぐにわかった。

 

 蛇だ。それも体長一メートル程の真っ白い蛇で、その瞳は晴天の空の様に透き通った色をしている。滑らかな体表にある全身の鱗はまるで雪の様に真っ白だった。

 

 その白蛇は体をロバートの腕に巻き付けながらモゾモゾと動き、舌をチョロチョロと出しながらシンの方をじっと見ていた。

 

 

「それが、師匠が私達に見せなければならないモノ.....ですか?」

 

「いや、違う。彼女をここに連れて来たのは、その準備のためだ。バウキス、いつもの奴を出してくれ」

 

 

 バウキス、それが白蛇の名前らしい。

 

 ロバートにそう頼まれた白蛇(バウキス)は口をガパッと開き、ロバートの掌の上に何かを吐き出した。

 

 吐き出された物は指輪だった。二匹の蛇が絡み合った様な姿を模した宝石付きの指輪だ。蛇の口から出て来たわりに、粘液らしい物は一切付着していない。それを慣れた手つきで指に嵌めたロバート。

 

 

「この指輪は俺が作ったアーティファクトだ。これには空間魔法という俺が大迷宮を攻略し手に入れた神代魔法が付与されている」

 

「空間......そんな神代魔法が......!」

 

「ちなみにそれで異世界に渡るという事は?」

 

「残念だがそこまでの力は無い。お前が元居た世界に行くのは無理だ」

 

「やはりそうですか..........ん?」

 

 

 空間魔法と言えどそこまでの力は無いらしい。シンは念の為にとロバートに尋ねるが、返ってきたのは予想通りな言葉で、そんなに甘くは無いかと肩をすくめた。

 

 するとその時、シンは自分の足元で何かがモゾモゾと動く気配を感じた。

 

 

「あれ?こいつさっきまでロンさんの腕に巻き付いてた....」

 

 

 そう、白蛇(バウキス)がシンの足に絡み付いていた。さらにバウキスはニョロニョロとシンの体を這いながら服の中に潜り込み、とうとうシンの首元にまで登って来ていた。

 

 

「し、シンさん!?」

 

「ほお。お前のことが気に入ったみたいだぞ、シン」

 

「マジですか.....」

 

 

 シンとバウキスの目が合う。だがバウキスはすぐにそっぽを向き、シンの服の中に潜り込んでしまった。本当に気に入ったのかな?

 

 

「師匠、その白蛇って雌なんですよね?」

 

「ああ。もう五百年は生きている雌の雪蛇で、(つがい)の雄が居たんだが今はもういない。かなり珍しい個体の魔物だ」

 

「魔物で未亡人、ですか.........」

 

 

 シンを見つめるロクサーヌの視線が何やらジトッとしていた。その視線がシンの懐に、具体的に言うと服の中にいるバウキスに刺さっている。

 

 

「ろ、ロクサーヌ......?」

 

「やっぱりシンさんって、天然の女誑しなんじゃないですか?いえ、この場合ですと......雌誑し?」

 

「言い方がひどい。流石にそれは偏見だと思うぞ?大体何を根拠に......」

 

「女の勘、いえ匂いですね。雌の本気臭を感じます!」

 

「言い方ァ!!」

 

「おいお前達。イチャついてないで早くこっちに来い」

 

「あ、はい!」

 

「うぅ、俺何かしたかなぁ〜.......?」

 

 

 ロバートが二人に近くに来る様に催促をする。ロクサーヌは小走り気味にロバートの隣に歩み寄り、シンは泣きそうな面でロバートに言われるがまま、とぼとぼと歩み寄って行く。

 

 そんなシンを見兼ねてバウキスが尻尾でシンの頭を撫でていた。その優しさが心に沁みたシンはお礼にバウカスを撫でてやろうとするも、あっさりと躱され、バウキスはまたシンの懐の中に引っ込んでしまった。やっぱり悲しい。

 

 

「何をするのですか、師匠?」

 

「この指輪を使ってある場所に転移する」

 

「その場所というのは?」

 

「遥か太古からこの世界で人知れず君臨する最強の魔物、()()()達が住まう未開の地〝カタルゴ〟だ」

 

「!?赤獅子......!」

 

 

 その名は大迷宮攻略でシン達を何度も救ってくれたロバート謹製の防具、その素材として使われていた魔物の名であった。

 

 シンがロバートに聞こうと思っていた事で、まさかこんなタイミングでその真相を知れるとは思ってもいなかった。

 

 

「そして彼らはこうも呼ばれている。“戦闘民族ファナリス”と」

 

 

 するとロバートが指に嵌めた蛇の指輪が発光し、三人が立っている床に魔法陣が現れた。

 

 次第に魔法陣の輝きが強くなり次の瞬間には三人の姿が消え、ロバートの隠れ家には誰も居なくなった。

 

 

................

 

..........................

 

.......................................

 

 

 

 異世界転移から始まり、すでに何度も経験した事のある空間転移。

 

 転移の光に包まれ体が浮き上がる様な感覚が消えた後、シンは転移先の地に降り立った。

 

 もはや転移自体に驚く事がなくなっていたシンだったが、流石に目の前の光景には驚きを隠せず、思わず空いた口が塞がらなかった。

 

 

「は、はは.......ここが、“カタルゴ”......!」

 

 

 思わず目の前の光景に笑みを溢すシン。

 

 太陽から感じる強い日差しは王国でも感じた事がないほどで、その日の光がどこまでも続く赤銅色の大地と岩肌を明るく照らしていた。

 

 点在する木々や草花は見た事も聞いた事もない物ばかりで奇妙な形をしている。シダの葉に形が似ている赤く大きな花や、地面から伸びる蔦だけの植物は渦巻き状の形でまるで蚊取り線香の様に煙を出している。その他にも卵みたいな形の植物や、変な色をした大きなキノコなど気になる物ばかり。

 

 木々もシンが見た事ない物ばかり。それはロクサーヌも同じらしく、目の前の光景全てにキラキラと瞳を輝かせていた。

 

 すると、何かが大地を強く踏み歩く様な地響きがシンとロクサーヌ、そしてロバートの耳に届いた。

 

 それは徐々に三人のところに近づいて来ており、ロクサーヌが少し警戒していた。しかし、その正体が何なのかわかると、シンと警戒していたロクサーヌは唖然とソレを見上げ、またまた空いた口が塞がらなくなった。

 

 

『おお!転移陣が起動する光が見えたと思えば、やっぱり来ていたかロン!今回は随分と早かったな。ん?そこの二人は?』

 

「ああ、こいつらは俺の弟子とその恋人だ。お前達に紹介しておこうと思ってな」

 

『お前がここに連れて来たという事は、同志という事だな?』

 

「ああ。実力も俺が保証しよう」

 

『そうかそうか!!お前が認めるほどの同志か!ならば盛大にもてなしてやらねばな!』

 

 

 上機嫌っぽい巨大な“ソレ”はガハハハッ!と笑い、ソレが自身がやって来た方角に向かって手招きをしていた。

 

 すると同じ様な見た目と巨体をした者達が続々とシン達の前に姿を現した。中には子供もいるがやはり巨体である事は変わらず、シンの身長の三、四倍は大きかった。そんな巨体の子供達は珍しい物を見る様な瞳で、キラキラと瞳を輝かせシン達を見ていた。

 

 

「あ、あの師匠.......これは一体...........」

 

「さっきも言っただろ。俺達が今いるのは未開の地“カタルゴ”、そして目の前にいる奴らが高い知能と戦闘力を誇る最強の魔物“赤獅子”だ。又の名をファナリス」

 

「これが.......!」

 

「こいつらがファナリス.......!はは、すっげぇ.....!」

 

 

 鋼の様な硬い鱗に覆われ、猫の様な耳を生やし、筋骨隆々な巨獣。尻尾の形は獣というより竜の様に太く長い。剥き出しの鋭い牙に、口角から耳の方へと伸びる槍のような突起物、目の縁をなぞる様な黒い模様。

 

 そして何より特徴的なのは赤獅子達全員が同じ様に深紅の長い立髪を生やしている事だ。頭から尻尾の先まで生えている深紅の長い髪。この深紅の髪こそ、赤獅子と呼ばれる由縁なのだろう。

 

 そんな赤獅子達の中で一匹だけ、長い赤髪を前に垂らし顔を隠している奴がいた。

 

 その赤獅子は自分よりも背の小さいシン達を見つめていた。

 

 彼の名は“レオニス”。

 

 一族の中で特に“臆病者”と罵られて来た、気弱な赤獅子。

 

 そんな彼がシンと出会った事で、今後の自分の運命を変える事になるとは彼自身わからなかった。

 





補足


『登場した技能』

「心眼」
・ロバートが持つ技能で、相手の言動の真偽を見破る力がある。



『登場した魔道具orアーティファクト』

「ロバート謹製の太刀」
・今までロバートが手掛けて来た武器系アーティファクトの中で、トップ3に入る武器。刀身は片刃で細く、鍔には二匹の銀の蛇を模した形をしており、柄と鞘は黒色で統一されている。神代魔法が付与されている。


「ロバート謹製の空間魔法を行使できる指輪」
・二匹の蛇が絡み合った様な形をした銀の指輪で、小さな宝石も埋め込まれている。この指輪を使う事でいつでもカタルゴの転移陣に転移する事ができる。



『新キャラ』


「雪蛇の〝バウキス〟」
・かつてロバートが大迷宮攻略をした際に出会った白い蛇の番の一匹。雪蛇という雪原に生息すると魔物で、空色の眼は特殊個体である事を表す。ロバートの変成魔法によって強化されているが、付与された空間魔法によってバウキスの胃袋は異空間と化している。人見知りで臆病な性格のためロバート以外にはあまり顔を見せようとしないが、シンの事は気に入ったらしい。


「赤獅子“ファナリス”」
・カタルゴという未開の大陸にいる魔物。赤獅子が種族としての正式名称で、ファナリスはファミリーネームみたいな物。最もそれを名乗る事が許されるのは、大人達に認められた戦士だけの特権。
鋼の様な硬い鱗に覆われ、猫の様な耳を生やし、筋骨隆々な巨獣。尻尾の形は獣というより竜の様に太く長い。剥き出しの鋭い牙に、口角から耳の方へと伸びる槍のような突起物、目の縁をなぞる様な黒い模様。そして何より特徴的なのは赤獅子達全員が同じ様に深紅の長い立髪を生やしている事だ。頭から尻尾の先まで生えている深紅の長い髪。この深紅の髪こそ、赤獅子と呼ばれる由縁の物。
大人の個体であるなら全長20m強はある。数は少ないが、長命。
大昔に竜と戦い勝った事があるとかないとか.......

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