ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜 作:つばめ勘九郎
書いていくと段々自分の思い描いた物からズレていく......
レグルスの背に乗り、駆け抜ける事数時間ちょい。
シンとロクサーヌ、そしてレグルスとレオニスは魔人族の里がある森の入り口の前までやって来ていた。
その道中、改めてレグルスと話し、親睦を深め合っていた。自身がエヒトによってこの世界に召喚された事や大迷宮の一つを攻略した事、その時の経緯や魔物と仲良くなった事などをシンは話した。その話を聞いて益々の忠義を示したレグルスと、シンの話を率先して質問して来たレオニス。どうやらレオニスは外の世界に憧れているらしい。
そんなこんなで話を続けていたら、あっという間に魔人族の里がある森の入り口に到着した。
森の前には魔人族の男女五名が待ち構えていた。
「よくぞおいでくださいました、シン殿」
「?.......俺を知ってるのか?」
「ええ。話はすでにロバートから聞いております」
五人の中心にいた魔人族の老人がシンに声をかけた。
彼がレグルスから話を聞いていた、穏健派の魔人族を束ねる里長“カマル・ダストール”である。長い白髪を後ろで束ね、魔人族特有の褐色肌を持つ老人。どこか体が悪いのか体も細く、やつれた姿をしている。しかし眼光は鋭く、その体からは貫禄を感じさせる声を出していた。
『カマル老よ、お主がここに居ていいのか?』
「問題ありませんレグルス殿。
『フッ、無理はするなよ?』
「過分なお言葉ありがたく思います」
カマルとレグルスがそんなやり取りをしていた。その話を聞いていたシンとロクサーヌは疑問符を浮かべていた。
「魔剣の力.......?」
「一体なんの事なんですかね?」
『.......気になるか?』
「そりゃあまぁ.....ねぇロクサーヌ?」
「ええ!?私に振らないでくださいよ.........もしかして、その魔剣っていうのは師匠が作ったものなんですか?」
「詳しい話は里で致しましょう。ご案内します」
そう言ってカマルとその他四人の男女が森の中に入って行く。それについて行くシン達。
森の中の植物はやっぱり見た事が無い物ばかりだった。不思議な形をした果実を実らせた木花や、巨大な食虫植物、葉先が巻かれた草などが群生しており、生い茂った木々や草花を見れば森というより密林と言った方が正しい様に思えた。
レグルスとレオニスがそんな森の中を木々や草花を薙ぎ倒して進んでいくものだから、溜息を吐いたシンは[力魔法]で木々や草花をしならせ、なるべく森を傷つけない様にした。
そんなシンの行動を見て、カマルがこちらにお辞儀をして来た。お爺ちゃんも、ちょっと無いわ〜って思ってたらしい。やって良かった!
そうして一行は浅い川に辿り着き、今度は川沿いを進み森の奥を目指した。
程なくして巨大な丸太を地面に打ち込んだ巨大な柵の前に辿り着き、目の前には複数の丸太を組み合わせ縄で縛りつけた立派な門があった。
門前に辿り着くとカマルが門の上の方を見て、門の上に備え付けられた物見櫓にいる魔人族に合図を送った。
すると丸太の門が徐々に下側からシン達の方に向かって重々しい音を上げながら徐々に持ち上がって行く。丸太の柵といい原始的な門と開門の仕方といいーーーー
「完全にも〇〇け姫のたたら場じゃん.......」
「はい?もの.....なんですか?」
「いや、なんでもない。しかしこれ、どうやって開門してるんだ.....ハッ!まさか十人の男達で開門してるのか.....!?」
「魔法だと思いますよ?こんな重い門を人力で開けるなんて、魔人族の方々からすれば無駄な労力でしょうし......」
「だよな〜......うん、知ってた。魔法ってほんと便利だよな。宮〇駿はこれ見たらなんて言うんだろうな.......」
ファンタジー世界様様である。
そうして開かれた門を潜り中に入ったシン達。案の定、門の開閉は魔法の行使による物だった。というより魔道具の力だった。ちなみにその魔道具の開発者はロバートらしい。なんとなくげせぬ。
想像以上に中は広々としており、農作物を作る畑や水田が多数見てとれた。木で作られた小さな家が複数点在しており、魔人族の子供達が里の中で駆け回っている。
そしてこの里の中心に聳え立つ一本の大樹。
その大樹の根本には少し大きめの木の家が建てられておりそこがカマルが暮らす家で集会所の役割をしているらしい。そしてその頭上、大樹の太い枝にはツリーハウスが建てられており、そこがいつもロバートが里に訪れた際に使う場所らしい。
「あの大樹の名は“フィレモン”。とある魔物の遺体から芽を生やし、成長した大樹です。今晩御二方はあの大樹にあるツリーハウスで寝泊まりしていただく予定です」
「“フィレモンの大樹”か.......いい名前じゃないか。なぁバウカス」
大樹の名をカマルから聞いたシン。シンの服の中から顔を出し、大樹を見つめていたバウカスになんとなく話を振って見たシンだったが、
「ひとまず私の家で食事を摂りながら話をしましょう。レグルス殿達も休息をお取りください。以前好物だと伺っておりました一角牛を数体捕えてますので、どうぞお召しになってくだされ」
『わかった。里の端にあるいつもの場所でいいのだな?』
「はい」
『そうか、では行くぞレオニス。シン達も食事をしながらカマル老に聞きたい事を聞くといい』
「そうだな、一先ずそうさせてもらう。レグルス、レオニス、また後でな」
『『ああ(お、おう)』』
そう言って二人の親子はのしのしと歩きながらシン達から離れて行った。
そしてシンとロクサーヌも話し合いも兼ねた食事を摂るためにカマルの家に入った。
家の中は至って質素な物で、装飾品などは全くなかった。その代わりに集会所として機能するために必要な大きめなテーブルや椅子、ソファなどと言った物は大体揃っている。二階も備わっているらしく、何人かの魔人族は二階の部屋で寝泊まりをしているそうだ。カマルの寝室は一階の奥にあるらしい。
そうしてシンとロクサーヌはカマルに招かれるまま椅子に座り、目の前の大きめなテーブルに次々と料理が運ばれてくる。よくわからない魚の兜煮や、ここに来る道中で見かけた果実、里で育てた野菜のサラダに黒パン、肉の腸詰や厚切りのステーキと、二人が想像していた物以上の豪勢で豪快な食卓となった。
芳しい香りがシンの鼻口をくすぐり、食欲をそそる。ぶっちゃけ部屋の装いのイメージとかなりかけ離れている。
「なぁカマル老や、もしかしてあなた達はいつもこんなに食べてるのか.......?」
「ハハハ、まさか。ロバートからシン殿は健啖家と聞いておりましたので今回特別に用意した物です。お気に召しませんでしかな?」
「いやいやいや!そんな事これっぽっちも思っちゃいない!なぁロクサーヌ?」
「え、ええ。ただ少しばかり圧倒されたと言いますか......あの、こんなに豪勢な食事をしてもよろしいのですか?」
「構いませぬ。ここの土地は実りが豊かな物で、少し離れたところでは家畜も飼っております。先程レグルス殿達が休息を摂りに向かわれた場所に用意した一角牛。あれはおそらくトータスにおいて最高級の肉となるでしょうし、他の物などもこの地の気候が安定しているため定期的に確保できます。ですので食に困る事は無いためご安心を」
「な、なるほど.....です」
「........その割にカマル老は随分痩せ細ってるが?」
「なにぶん私も歳なもので。それにこの体となった主な原因は別にあります」
「それを聞いても?」
「構いませぬ」
そう言ってカマルは腰に携えていた一本の剣をシン達に見せた。その剣は尋常ならざるオーラが纏っており、シンは直感でそれがどういう代物なのかなんとなく察した。
「それが魔剣か。それも、ただの魔剣じゃないな?」
「ご明察です。この魔剣には魔力を断つ力があり、その上使用者の肉体を復元させる事もできるのです。その力のおかげで私達は今もこうして神の目から逃れる事が出来ているのです」
「?........どういう事ですか?」
「簡単に言うと魔力を断つ力で結界の様な物を張り、神の目、つまり干渉系の魔法またはそれに類する力が結界内に及ばない様にしているってわけだ。それも常時。いちいち魔剣の力をオンオフしている様じゃ、見つけてくださいと言ってる様なもんだしな..............その体も魔剣の力で延命し続けた結果か」
「左様でございます。この魔剣を扱える物は限られており、今これを扱えるのは私ただは一人。里を守る為にはこの力を行使し続けなければならないのです」
さらにその魔剣には様々な能力があり、長所だけを見るなら天之河が持つ聖剣以上かもしれない代物なんだとか。
魔剣の名は“イグニス”。魔人族が人間族と戦争を始めるずっと前から存在していたらしく、制作者はロバートではない誰か。それが一体何者なのかは長い年月の間に伝わらなくなったそうだ。
そんな話を食事を摂りつつ続ける三人。
ロバートがカマルに伝えた通り、シンはテーブルに置かれた料理をあっという間に平らげた。その豪快な食事っぷりにカマルは愉快そうに笑みを溢していた。
そして食後のお茶を飲みつつ、話題はこの里が生まれた経緯について語る方向へと流れた。
「元々我々はこの大陸に里を構えておりませんでした。しかし
「ガイル......?」
「師匠から聞いたこと無い名前ですね.........え、ちょっと待ってください......今、三百年以上昔って言いませんでしたか!?」
「はい。私を含め、この里の者達とロバートの交流は三百年以上前から続いております。ご存知ありませんでしか?」
「俺達がこの里の存在を知ったのはついさっきの事だ。だが、そうか.........。結構長く生きてるんだろうなぁとは思ってたが、あの人少なくとも三百歳は歳食ってたんだな......」
「私も師匠の年齢は聞かされていなかったので、少し驚いてます。ですが、まあ納得ですね」
「それで今さっき出てきた“ガイル”って奴は一体誰なんだ?」
「それも聞かされておりませんでしたか。シン殿ならわかりますが、まさか自身の弟子にまで伝えていなかったとは......相変わらずの口不調法者らしいですな」
流石のカマルも口下手が過ぎるロバートに溜息混じりの軽い愚痴を溢した。
「“ガイル”と言うのは今は亡きロバートの友の名です。ロバートが若かりし頃、大迷宮を攻略の為に旅をしていた事はご存知で?」
「それっぽい事はそれとなく聞いてる。まあ口に出したのはほんの一瞬だったけど」
「左様でございますか........では、あの者の代わりに私が知る限りのロバートの昔話を致しましょう」
「あの〜......師匠の許可も無く話して大丈夫なんでしょうか......?後で叱られたりとか......」
「心配は無用でしょう。あの男がこの様な些末事を気にするとは思いませぬ。弟子に自身の武勇を語り聞かせるのも、また師としての役目。この話を聞き、ロクサーヌ殿の今後の励みと成るならばロバートとて強くは言えませんでしょうから。それに.............」
カマルは微笑みながらロクサーヌにそう言い聞かせた後、その顔がほんの少しだけ影を帯びた。その様子にシンとロクサーヌは訝しんだがすぐにカマルは元と顔に戻った。
そしてロバートの過去について語り始めたカマル。
滅多に自分のことを語らないロバート。そんな彼をさらに知る事ができるまたと無い機会に、二人は集中してカマルの言葉に耳を傾けた。
「先程も申しました様に、ロバートは三百年以上前に私達穏健派に接触して来ました。そして彼と共に居たのが、当時魔国内において次期魔王の呼び声高い魔法使い“ガイル”でした。卓越した魔法の才を持ち、幾つかの神代魔法を自在に操るガイルは
「お前、そんな昔から生きてたのか......!」
カマルの話を聞き、興味深そうにシンは懐にいるバウキスに視線を送った。もぞっ、と少し懐が動いたが顔を出す気はないらしい。
「それで、もう一匹の雪蛇は今どこに?」
「この地におります。と言っても以前の様な美しい白い蛇の姿ではなく、魔剣と共にこの里を守護する大樹へとその遺骸を変えました........」
「そうか......それが“フィレモンの大樹”か」
「はい。何故亡くなったかは聞かされておりませぬが、守護樹“フィレモン”は不思議な力を宿しており、周囲に魔物を寄せ付けないのです。その力を知ったロバートは我々をここに招き、赤獅子達の協力の元、この地に移住し里を起こしたのです。以前居た里はあまり環境がよろしくなかったものですから」
里に入ってすぐ、妙にバウキスがソワソワしていた理由がわかった。
ちょっぴりツンデレみたいなところがあるバウキスの亡き夫への愛情を感じ、シンは少し嬉しく思った。
「カマル老達にとって、ロンさんの招待はまさに鶴の一声だったわけだ」
「はい。そしてこの地に住み着いた我々はロバートとある約束を交わしました。それは“のちの神との戦に備え、赤獅子達と共に戦える戦士を作り上げる事”です。ガイルやロバートから世界の真実を聞かされ、ただ何もせず滅びを待つばかりだった我々に新たな選択肢が生まれました。共に良き未来を勝ち取るという選択を。我々にとってロバートが示した道は険しくもありますが、自らの力で未来を掴み取る希望の光でもあったのです」
希望の光。
全ての種族と世界を巻き込む様な夢を掲げたシンにとって、その言葉はとても感慨深いものがあった。
ロクサーヌも、自分の尊敬する師匠が彼等に大きな影響を与えた事を知り、とても誇らしそうな表情を浮かべていた。
「それでこの里で戦える者達はどれほどいるんだ?」
「この里にいる大人のほとんどがカタルゴの魔物相手なら狩りを行える者です。しかし赤獅子達と肩を並べる強さを基準とするなら、高く評価しても五人と言ったところでしょうな。レグルス殿の協力のおかげで鍛錬相手は事欠かないのですが............」
「まっ、そこは嘆いても仕方ない。むしろ五人も居ると言う事を誇るべきだ」
「寛大なお言葉ありがたく思います」
「それで?この里の経緯はわかったがロンさんと“ガイル”は一体どんな冒険をしたんだ?」
「シンさん、少しがっつき過ぎですよ?」
「ロクサーヌだって気になるだろ?」
「それは、まあ......そうですが......」
「ふふふ、ではここからは私が知り得ている彼等の冒険のお話をしましょう」
そう言ってカマルは再び語り出した。
ガイルとロバートが攻略した氷雪洞窟での友愛溢れる攻略秘話、フィレモンとバウキスとの出会い、グリューエン大火山にある大迷宮を攻略した冒険の一幕、海人族との淡く切ない恋路、前向きな魔法使いと口下手な剣士の珍道中、二人の成長、吸血鬼のガサツな男との出会い、そして三人でオルクス大迷宮を攻略し世界の真実に辿り着いた。
そんな冒険の後に彼等とカマルは出会ったのだそうだ。さらに赤獅子との出会いもカマル達と出会った後の様で、カマルの話の中には出てこなかった。
ちなみにこの話のほとんどが、カマルがガイルから聞いた話なんだとか。
ガイルは冒険の話を楽しそうにカマルに語り聞かせたらしく、その際必ずと言っていいほどガイルは最後にこう付け足していたそうだ。
ーーー〝俺の親友は凄い奴だ!〟とーーー
そんな話を聞いてシンはふとハジメの事を思い出した。
(今頃あいつは何してんだろうな........?俺が生きてたぐらいなんだ、ハジメが生きてないわけがない。だからこそ俺の勘がこう言ってくるんだ。ーーー〝お前とはまた会える〟ってな..........元気にしてろよ、ハジメ。必ずお前に会いに行くからよ.......!)
シンはここよりずっと遠くに居るであろう親友を想い、いつかまた会えるその日を待ち遠しそうにしていた。
一方の奈落の底に居る南雲さんちのハジメくんはオルクス大迷宮の最深部にある解放者の隠れ家にて、修羅場を乗り越えた後という事もあってか恋人とのあま〜い営みを満喫していた。
当然の様にシンの想いはハジメには届かないのだが、もしかすると二人が織りなす桃色空間と甘い声でシンの想いを打ち消されていたのやもしれない。
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カマルとの話し合いを終えた頃にはすっかり日が沈んでいた。
話を終え外に出たシンとロクサーヌはレグルス達と合流し里を見て回った後、予定通りフィレモンの大樹にあるツリーハウスで今晩を過ごすことになった。
レグルスは自身の里に戻り、レオニスは魔人族の里で一晩を明かす事になった。そしてレグルスを見送った後、レオニスと少し喋り意気投合し、魔人族の里で取れた葡萄で作った酒を酌み交わした。
初めての飲酒、それも美味しい酒だったためついつい飲み過ぎたシンは泥酔しレオニスをお手玉にして遊んでいた。
一緒に飲んでいた魔人族の人達はそんなレオニスを見て歓声をあげ大盛り上がり。シンは里の魔人族達とも仲良くなった。シンの樽ジョッキにお酒を注ごうとした綺麗な魔人族のお姉さんをシンがナチュラルに口説こうとし、それに対して意外と乗り気な魔人族のお姉さんは赤面しイヤンイヤンと体をくねらせていた。そんな調子に乗っているシンをロクサーヌが嗜め後頭部を遠慮なく
ダウンしたシンを引き摺りながらロクサーヌはツリーハウスへと向かった。
宴はまだまだ続くらしく、今度は酔って大胆になったレオニスが場を盛り上げていた。この様子だと一晩中盛り上がっていそうだ。
そんな中、ロクサーヌはシンを引き摺って辿り着いたツリーハウスの寝室にシンを寝かせ、シンの衣服を全て脱がせた。バウキスはいつの間にかどこかに消えている。そしてロクサーヌ自身も服を脱ぎ捨て、ペロリと舌なめずりをしながら潤んだ瞳と紅潮した顔でシンの体に跨った。
「ぅぅ〜ん......はぇ?なんれぇロクサーヌ裸〜.......?」
「うふふ。シンさん、私怒ってるんですよ?他の女性を無闇に口説こうとするなんて、いけないんですよ?シンのお嫁さんはたくさん居ても構いませんが、手当たり次第は絶対にだめなんです」
「???........おれのヨメはロクサーヌだろぉ......?」
「うふふ。はい、そうですよ♪でも、この節操無しさんの手綱はちゃ〜んと握っておかないとだめなんです。それに今だけは私があなたを独占していたいんです。あんな公衆の面前で激しく唇を奪ってくれたんですから........責任、とってくださいよね♪」
なんだかんだでロクサーヌも大分酔っているらしく、言動がいつもより大胆で、妖艶な雰囲気を纏っていた。
そして宴の喧騒に紛れて寝室に響く甘い吐息と嬌声は絶え間なく続き、日を跨ぐまで続いた宴の終わりと同時に二人の営みも途切れた。満足そうな顔を浮かべるロクサーヌは裸のシンに抱きつき頬をすり寄せ、綺麗なシーツを体に被せ、シンと共に眠りに落ちた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
宴が終わってすぐに、カマルは里の門の前にやって来ていた。
そして門の開閉用の魔道具を起動させ、重い丸太の門を開いた。
すると門の向こう側にはロバートがいた。
「ん?カマル、お前酒を飲んだのか。少し匂うぞ?」
「まさか。私は一滴も飲んでいない。里の者の酒気が残っているだけだ。さっきまで宴会だったからな」
「そうか......それで、シンとロクサーヌは?」
「今はもうお休みになられている」
「それなら好都合だ。手筈は整っている。明日は予定通りに頼むぞ?」
「本当に、お主一人でやるつもりなのか?せめてシン殿に相談すれば道は違うのではないのか?」
「あいつらには余計な重荷を背負わせたくない。それに、これは俺が始めた
「............ロバート。いや、かつて
「ああ。これが俺にできるあいつらへの最後の手向だ」
「..........そうか。ならば存分にやり切ってくるが良い」
「元々そのつもりだ........それと、これをロクサーヌに渡しておいてくれ」
ロバートは腰に携えていた自身が愛用する剣をカマルに渡した。
ロバートが渡したの剣はロングソードで、純白の鞘から見てもその刀身が少し細めなのが伺えた。だが造りはかなり凝っており、中心に青い宝石が埋め込まれ蛇の姿を模した白銀の鍔、握りも丁寧な造りでロバートの手より細く小さな手を想定した長さと握りやすさに仕上げている。そして濃紺一色に染まり力強い輝きを放つ刀身。
剣の名は〝アンサラ〟
ロバートが長い生涯で作り上げた二番目の最高傑作であり、
そのロングソードを渡したロバートはカマルに背を向け、立ち去りながら声をかけた。
「せいぜい俺より長生きしてくれよ、カマル爺」
「ふっ。ぬかせ、小童」
あっという間に夜闇の森に消えていったロバート。
そしてカマルは門を閉じ、自身の家へと足を向けた。
(ガイルよ。どうかお前の友を最後まで見守ってやってくれ.........)
受け取った剣を握り締める手に自然と力が入るカマル。
こんなにも穏やかな夜だというのに、カマルの心は様々な想いや感情によって複雑に絡み合い波立っていた。
補足
『登場人物』
「カマル・ダストール」
・穏健派の魔人族を束ねる里長。魔剣イグニスの使い手。かつてカタルゴにやってくる以前にガイルとロバートと知り合った古い仲。
「ガイル」
・本名“ガイル・エルダート”。故人。かつてのロバートが心を許した唯一の友。親友。ロバートと共に神代魔法取得の旅をし、愉快痛快な冒険をしてきた魔法使い。雪蛇の“フィレモン”と“バウキス”を手懐けていた。フィレモンはガイルの首元がお気に入りで、バウキスはガイルの懐がお気に入りだった。卓越した魔法の才能を持ち、次代の魔王とまで呼ばれていた実力者。
「ロバート」
・本名“ロバート・ヴィラム”かつて魔人族の英雄と呼ばれた男。『空間魔法』『変成魔法』『生成魔法』の神代魔法を獲得した攻略者。剣の達人であり、魔道具製作においても最高峰の実力者。変成魔法による延命措置によって生きながらえてきたが........
『登場した魔道具』
「魔剣 “アンサラ”」
・濃紺の刀身を持つ細身のロングソード。青い宝石が埋め込まれ、蛇の姿を模した形をした銀の鍔が付いている。握りの部分は元々の形から変わり、ロクサーヌ用に改修されている。高速戦闘と斬撃能力に特化しており、ロバートが太刀を作るヒントとなった元。神代魔法が付与されている。