ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

26 / 53

オリジナルキャラ登場。



戦火の予言

 

 赤髪の魔人族はかつて剣技において魔国最強と呼ばれていた。

 

 人間族との戦争が膠着状態の最中、若き日の彼は大人達からの期待を一身に背負い、日々その剣技に磨きをかけていた。

 

 そんなある日当然、魔国を襲った強大な魔物達がいた。

 

 その魔物は獣の如き巨体に蜥蜴の様な尻尾を生やし、背中には鋭く生えた無数の針と蝙蝠の様な翼、そして人の様な顔をした見た事がない醜悪な存在だった。

 

 それらを率いて現れたのは()()()()()()()()。見た事も聞いた事もない強大で恐ろしい魔物だ。

 

 人を食い、焼き焦がし、捻り潰す。同胞達の無惨な骸が一面に広がり、それはまさに地獄と言える光景だった。

 

 次々と魔人族の大人達が蹂躙されていく中、立ち上がったのが彼とその“友”であった。

 

 彼とその友は醜悪な獣の様な魔物を次々と屠り、最後に黒い巨人を満身創痍でありながら撃退する事に成功した。

 

 彼らは“救国の英雄”と呼ばれる様になった。それが現在、赤髪の魔人族が“伝説の魔人族の英雄”と呼ばれる由縁である。

 

 のちに醜悪な獣の様な魔物の名は〝マンティコア〟と名付けられ、黒い巨人は〝ゴライアス〟と呼ばれる様になり、魔人族達の間では後世まで語り継がれる嫌忌の対象となった。

 

 そして魔国を救った後、彼とその友は冒険の旅に出た。

 

 争いの無い世界を作るため。

 

 ロバートの友“ガイル”が掲げた()()()()()()()()()()ために、彼等は最初の大迷宮“氷雪洞窟”攻略を目的とした。

 

 

 

..........................

 

.......................................

 

....................................................

 

 

 

 あの黒い巨人襲来から三百年以上経った今、かつて魔人族の英雄とまで呼ばれた赤髪の魔人族“ロバート・ヴィラム”は弟子への最後の贈り物を届けた後、雪原に戻って来ていた。

 

 彼は今シンが氷雪洞窟攻略時に来ていた服と似た物を身に纏い、腰に両側合わせて六本の長剣を帯刀し、背中にも四本の剣を背負っていた。赤獅子の鱗で拵えた防具を身につけ、左指の中指に指輪を一つ嵌めている。カタルゴに行く為の転移用の指輪はロバートの足元で砕け散っている。

 

 これが今のロバートの完全武装状態であり、とっくの昔に覚悟をしていた男の姿であった。

 

 そして赤い長髪を靡かせ雪原の吹雪が吹き荒れる中静かに佇み、その時を待っていた。

 

 

 

 一体どれほど待っただろうか。

 

 最後にカタルゴからこの地に戻って来た時には日が登ろうとしていたが、あれから数時間は経ったと思う。

 

 三時間、四時間、或いは半日程かもしれない時を彼は真っ白い世界でひたすら待ち続けた。

 

 そしてその時が来た。

 

 ロバートの視線の先の奥。雪原の向こう側からズンズンと黒い影が塊の様に近づいてくる。

 

 幾万の魔物の大群と数名の魔人族を引き連れた、銀の三叉の槍を肩に担ぎ雪原には不釣り合いのビキニアーマーを纏った白髪の女魔人族が現れた。

 

 

「テメェが()()()()()()()ロバート・ヴィラムか?随分つまらなそうな男だなァ?」

 

 

 乱暴な口調の女魔人族は、ロバートにそう聞いて来た。

 

 それを耳にしてもロバートはピクリとも動かず、ただじっと目の前の()()()()()を見ていた。

 

 

「チッ。口も聞けねぇのかよ。オレ様の名前は“アリエル”、魔王軍武装兵団の将軍だ。一応聞いといてやる。降伏しろ」

 

「.........降伏だと?魔王は俺に降伏させて来いと命じたのか?」

 

「いんや。魔王様はお前を殺せと命じて来た。降伏なんざ認めねェって構えだ。だが、オレ様はお前を殺すには少しばかし惜しいと思ってる.......テメェが無様に命乞いをしてどうしてもって言うなら、オレ様がお前を部下にして飼ってやる..........さあ、どうする?」

 

「断る。お前の様なガサツな女に飼われる趣味は無い」

 

「ハッ!どうせそう言うだろうと思ったよ!だが.....オレ様に飼われる気がねェって言うならお前の首をここで刎ね落とすまでだ。フリードの奴にはさっさと戻って来いと言われてるが、少しぐらい楽しんでも構わねェよなァ?テメェみたいな強い奴と戦うってんなら、戻るのがちょっとばかし遅くなっても仕方ねェよなァア!!」

 

 

 アリエルの気合の込もった怒号が響き渡り、一瞬雪原に吹き荒れる吹雪が掻き消した。

 

 そんなアリエルを険しい表情で見据えるロバート。

 

 アリエルの後方で控えていた魔物達が一斉に前に出て来た。

 

 

「まずは小手調べだ。かつての英雄が一体どれほどの物か見せてもらおうじゃないかァ!」

 

 

 アリエルの声を号令とし、幾万といる魔物達がロバートに襲い掛かろうとする。様々な個体の魔物達がロバートの周りの雪原を埋め尽くしていく中、ロバートは腰な剣を抜き構えた。

 

 そんなロバートを期待を込めて見つめるアリエルのその後ろ。彼女が引き連れて来た魔人族の中の一人がニヤリと笑っていた。

 

 ロバートと()()()()をした魔人族の女が。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 魔人族の里で宴会を催した翌朝。

 

 太陽もすっかり昇り切っていた。

 

 目を覚ましたシンは自分がいつツリーハウスの寝室に入ったのか、いつの間に寝たのか、そして何故自分が裸でその隣に裸のロクサーヌが寝ているのかすら記憶に無く、不思議そうにしながら欠伸をした。

 

 

「ぅ〜ん.....レオニスと楽しく酒を飲んでたとこまでは覚えてるんだけどなぁ......」

 

 

 シンは自分が酒に弱い事をこの時初めて自覚した。

 

 記憶は無いがとりあえず楽しかった事だけは覚えているシン。隣で静かに寝息を立てているロクサーヌを見てなんとも言えない何か湧き立つ物を感じ、無性に彼女を抱きしめたくなった。そして股間がモゾモゾとシーツ越しに動いた。

 

 そこで違和感を覚えたシンは自身に体に被さっているシーツを剥ぎ、自分の股間に目を向けた。

 

 するとそこには蛇がいた。

 

 いや、下ネタとかそういう話では無い。

 

 シンの下半身に巻き付いた白蛇、つまりバウキスがそこに居たのだ。

 

 

「なにやってんだ、お前.........」

 

 

 バウキスの体はシンの太ももから腰にかけて巻き付いており、彼女の頭が完全にシンのシンくんを覆い隠していた。

 

 一体いつからこんな風に巻き付かれていたのか。

 

 この瞬間、自分がどれだけ酒に弱いのかを痛感し切実に心の内で願った。

 

〝毒耐性ください.......!〟と。

 

 だが、その願いはシンの[英傑試練]に届かなかった。

 

 のちに発覚することだが、シンはあの宴会の夜[英傑試練]でとある技能を獲得していた。それは[乱酒]と[酩酊]。シンはあの宴会でこんな事を口走っていた。〝もっと酒を飲ませろ!〟〝酒は酔ってなんぼらぁ!〟〝いいぞいいぞ!もっと飲メェ〜!〟と。それを英傑試練さんが聞き届けた結果が[乱酒]と[酩酊]の獲得である。シンは毒耐性を獲得する機会を失ったのであった。

 

 そんな事とは知らず、シンはバウキスを揺さ振り起こした。

 

 目を覚ましたバウキスは数瞬固まった後、まるで照れてを隠す様にさっさと寝室を出て行った。

 

 その後ロクサーヌも目を覚まし、昨日の事をロクサーヌから聞いたシンはちょっとショックを受けていたが、ロクサーヌの励ましによって気落ちした心を回復させた。

 

 そして二人は服を着込み、カマルの家を訪ねた。

  

 玄関の扉を数回ノックし声をかけると、中からカマルが出てきた。

 

 

「おはようございますシン殿、ロクサーヌ殿。昨晩は随分と盛り上がっておりましたがお加減の方がいかがですかな?」

 

「色々あったが、まあ概ね問題無い。ロクサーヌ共々よく眠れたよ」

 

「昨日は豪勢な食事に続いて宴会まで。本当にありがとうごいました、カマルさん」

 

「いえいえ。こちらこそ、昨晩は御二方とレオニス殿のおかげで大変良き一夜を過ごせました。特にレオニス殿を浮かせて見せたシン殿の魔法が大変盛り上がっておりました。魔法に優れた種族と言えど、あれほど繊細で大胆な魔法は見た事ありませぬ。感服致しました」

 

「そ、そうか?あははは......(やべぇ、何ひとつ覚えてねぇ。ていうか、俺そんな事やってたのか........?後でレオニスに謝っておくか........)」

 

「ささ、どうぞ中へ。お食事もできております」

 

 

 そうしてカマルの家に通されたシン達は、昨日より落ち着いた献立の食事を摂った。

 

 そして食事を終え今後の話に入ろうとした時、カマルが一本の細身の長剣をロクサーヌに渡してきた。

 

 

「これは?」

 

「実は昨日の深夜にロバートがこの里に参られたのです。その際、これをロクサーヌ殿に渡してほしいと言われました」

 

 

 白い鞘から刀身を露わにさせたロクサーヌがそれを見て『すごい....』と一言呟き、シンもその長剣の美しい造りと内包する魔力の膨大さに目を見開き、それを眺めていた。

 

 

「その剣の名は〝アンサラ〟。ロバートが愛用していた魔剣の一振りでございます。今後はそれをロクサーヌ殿に使っていただきたい様子でした」

 

「こんな凄い物、私が貰ってもいいのでしょうか......?」

 

「ええ。どうか貰ってあげてください。その方があの者も満足致しましょう」

 

「.......わかりました。有難く使わせていただきます.......ところで師匠は?」

 

「すでに帰られましたぞ?」

 

「ええ.....!?」

 

「プッ、はははっ!姿が見えないと思ったらやっぱり帰ってたか、あの人!くくくっ.....!」

 

 

 あんまりにもロバートらしい愛嬌の無い行動に、思わず吹き出し笑いをしてしまうシン。

 

 

「笑い事じゃないですよシンさん!いくら師匠がぶっきらぼうでも弟子にお礼すら言わせてやらないなんてあんまりですよ、もぉ!」

 

「まぁそう言ってやるなロクサーヌ。帰ったらお礼言えるんだし、その時にこの鬱憤もぶつけてやろうぜ!」

 

「...........」

 

 

 まだまだ文句が言い足りない様子のロクサーヌを宥めるシン。なんだかんだ言いつつもロバートに対する感謝はあるらしく、ロクサーヌはそこで怒りを鎮めた。そんな様子を見ていたカマルはどこかやらせなさそうに見えた。

 

 一旦落ち着いたところで話は今後二人がどうするのかと言う話題に移り、カマルがある提案をしてきた。

 

 

「ライセン大峡谷.......?」

 

「はい。ロバートの話によればそこに大迷宮があるそうです」

 

「師匠はそのライセン大峡谷にある大迷宮も攻略してたのですか?」

 

「いいえ。昨日お話した通り、彼が攻略したのは三つです。一つ目はシュネー雪原にある氷雪洞窟。二つ目はグリューエン大火山にある大迷宮。そして最後の三つ目がオルクス大迷宮。この三つの大迷宮です。ライセン大迷宮には挑戦しておりませぬ」

 

「では一体何故そこに大迷宮があると?」

 

「ロバートの元に現れたと言う女性、“ヴィーネ”なる者がその情報を提供し、シン殿をそこに向かわせる様に提案してきた。そうロバートから聞かされております」

 

「ヴィーネ.......」

 

 

 ここに来てまた聞く事になった謎の女の名前。

 

 現代の解放者を名乗る仮面の女。

 

 一体彼女は何者なのか。それは定かでは無いが、ロバートはヴィーネを信頼している。なら、その情報も嘘では無いのだろう。もしかしたらライセン大峡谷にある大迷宮で、彼女の一端を知る事ができるやもしれない。

 

 そう思ったシンはカマルの提案、もといヴィーネの招待を受ける事に決めた。

 

 

「カマル老の言う通り、ライセン大峡谷に向かう事にしよう」

 

「はい!大迷宮攻略は勿論ですが、そのヴィーネという仮面の女性の事も気になりますからね」

 

「そうと決まれば早速ロンさんの隠れ家に戻るとしよう」

 

「それには及びません。ロバートはすでにこの地に転移陣を設置しておりますので、そこから直接ライセン大峡谷へと向かえます」

 

「え、そうなのですか!?」

 

「はい。ロバート曰く、『二度手間になるからそのまま行かせろ』との事です」

 

「あ〜、師匠らしいやり口ですね........」

 

「まったく、困った男です」

 

「................」

 

 

 ロバートの素っ気無い態度が目に浮かんだロクサーヌは若干呆れていた。そしてそんなロクサーヌを見てカマルは和やかに苦笑いを浮かべていた。その表情を少しだけ曇らせて。

 

 だがシンはそんなカマルを訝しんだ。

 

 意味深な別れ方をしたレグルスといい、先手を取るやり口と急ぐ様に帰ってしまったロバートの行動、時折見せるカマルの複雑そうな表情、そしてそんなロバートの行動に一枚噛んでいそうなヴィーネの存在。

 

 まるで()()()に二人を遠ざけようとするロバートのやり方に、シンは嫌な予感を感じた。

 

 

「シンさん........?」

 

「シン殿どうかされましたか?」

 

「........ロクサーヌ、帰るぞ」

 

「え、あ、はい......」

 

「お待ちくださいシン殿!もう少し、この里に留まって行かれませぬか?里の者達もシン殿のお話を聞きたいと思いますので........」

 

「カマル老、貴方は一体何を隠してる?」

 

「ッ!?」

 

「今思えば色々とタイミングが良過ぎた。森にやって来た時も俺達が来るのを予め知っていた様な素ぶりで貴方は森の入り口で待っていた。ロンさんから俺やロクサーヌの事を聞いていたとしても、あまりに俺達を信頼しすぎだ。里長ともあろう者が態々(わざわざ)自ら迎えに行くのも警戒心が足りなさ過ぎる」

 

「それは、貴方方の事をロバートから聞き信頼に足る存在だと思い至った為でして..........」

 

「なら先程の話はどうだ?ロンさんがこの里に来たと言っていたが、何故貴方は引き止めなかった?貴方ほどの人格者であるなら、弟子の旅路を見送らないロンさんを叱りつけてでも止めた筈だ」

 

「っ..........」

 

「そして、貴方はロンさんの話をする時、決まって()()()な表情を不意に浮かべていた。まるで自身の気持ちを押し殺すかの様に、な」

 

「...............」

 

「もう一度聞こう、カマル・ダストール。貴方は一体何を隠している?何が貴方をそこまで苦しめている?」

 

 

 カマルは押し黙ってしまった。シンに見透かされていた事に対してなのか定かではないが、やるせなさそうな表情を浮かべ、眉間に皺を寄せ、強く瞳を閉じていた。

 

 程なくしてカマルは瞳を開いた。

 

 そして力強くシンを見据え、心の中で『許せ、ロバート』と呟き、重く閉ざしていた口を開いた。

 

 

「シン殿の言う通り、私奴(わたくしめ)は貴方方にお伝えしなければならない事を隠しておりました」

 

「.........ロバート(あの人)の差金だな?」

 

「はい、仰る通りで御座います..........ひと月以上前、ロバートの前にヴィーネなる者が現れた際、その者はある“()()”を残したそうです」

 

「予言、ですか......?」

 

「その予言の内容は?」

 

「.........貴方方がカタルゴに来て一晩が経った後、シュネー雪原山脈地帯に、かつて魔人族の英雄と呼ばれたロバートを討つべく魔王軍が襲来すると.....」

 

「ッ!?......ちょっと待ってください!それは一体どういう事ですかッ!!」

 

「落ち着け、ロクサーヌ」

 

「ですが!!」

 

「わかってる、だから落ち着け」

 

「ッ..........」

 

 

 珍しく取り乱したロクサーヌを宥めたシン。

 

 魔王軍の襲来。

 

 それだけならシンとロクサーヌ、そしてロバートがいれば善戦できた筈だ。それだけの力をシン達は得ているのだから。

 

 だが、ロバートはその選択をしなかった。むしろシン達を遠ざけようとした。

 

 つまり、ヴィーネがロバートに伝えた“予言”の核心は、シンとロクサーヌに()()()()()()という事なのだろう。それを良しとしなかったんロバートが、こうしてカマルに協力を仰ぎ、直接ライセン大峡谷への転移を勧めさせ、それが出来なければ引き留める様にさせたのだ。

 

 そしてロバートは一人で魔王軍を相手取る事を選んだ。

 

 その理由はわからない。

 

 だが、予言が正確な物だったとするならば、ロバートは今一人で戦っている事になる。

 

 

「カマル老。話してくれたという事は向かってもいいって事だよな?」

 

「.......はい。最早止める気など一抹も御座いませぬ。故に伏してお頼み申しあげます!シン殿、どうか....どうかロバートをお救いください!あの者は今なお復讐の炎に囚われ、その身を焼き焦がしております!友を奪われた悲しみの渦中でもがき苦しんでおります!私奴(わたくしめ)はそれを鎮める事も、見守る覚悟も出来ませんでした!」

 

 

 そう言うとカマルは切実な思いでテーブルに額を擦り付け、シンに乞い願った。

 

 

「ですから何卒、ロバートをお救いください!」

 

 

 その声音は震えていた。

 

 カマルとてロバートが死地に赴く事や良しとは思っておらず、だが里長として彼を止める事ができなかった。

 

 カマルが口にしなかった予言の核心。その一つはこの里すらも巻き込む激戦への発展と里の崩壊。そしてもう一つがシン達が重傷を負い、ロバートが無念の死を遂げる事だった。

 

 それをロバートの口から聞かされた時、カマルは絶句した。しかし回避する方法が無いわけではなかった。

 

 その筈なのにロバートは単身で戦う道を選んだ。そんな選択を選んだロバートをカマルは怒鳴る様に叱りつけ、何度も思い直す様に説得を試みた。

 

 それでもロバートは曲げなかった。

 

 その理由をロバートは終始口にしなかったが、おそらく亡き友への弔いと神と魔王に対する最後の反抗と復讐。そして()()のためだろうとカマルは思い至った。

 

 そんなロバートとその想いを慮ればカマルはそれ以上何も言えなくなり、心に重い蓋をしロバートの背中を見送った。

 

 しかし、蓋をした筈の心がシンの前では漏れていたらしく、最早これ以上自身を偽ることが出来なかった。

 

 だからこそ、今更ではあるがシンに伏して願った。情けない自身の弱さを臆面もなく晒して。

 

 そして、カマルが床に手を着こうとした時、彼の肩に手が乗せられた。

 

 

「カマル老、よく言ってくれた。後は俺に任せておけ。俺は絶対に仲間を見捨てやしない.......だからそんな顔をするな。貴方の想いは確かに受け取った」

 

「ッ.....!シン殿.....!」

 

 

 カマルは確信した。目の前にいる彼こそがロバートやガイル、そしてカマルが夢見た世界を造る希望の光なのだと。

 

 彼から溢れるオーラと力強い瞳と声はカマルの想いを正面から受け止め安心させた。

 

 そして眩しい光を前に人が無意識に手を伸ばす様に、カマルは彼に縋った。

 

 

「この森を抜け、南方に進んだ先に転移用の魔法陣があります。そこからシュネー雪原に戻れます、どうかお急ぎを.....」

 

「わかった。行くぞロクサーヌ!」

 

「はい!」

 

 

 シンとロクサーヌはカマルの家を飛び出した。それと同時にどこかに行っていたバウキスがシンの懐に飛び込んで来た。どうやら話を聞いていたらしく、ついてくる様だ。

 

 そしてもう一人、同行者がシン達の前に現れた。

 

 

『話は聞いたぞシン!俺の背に乗れ!俺ならそう時間もかからず最短で転移陣まで走って行ける!』

 

 

 レオニスがそう言って来たので、ただ一言シンは『頼む』と言ってレオニスの背に飛び乗った。それに続いてロクサーヌも背中に飛び乗り、すぐにレオニスは軽やかに駆け出した。

 

 物凄いスピードで里を駆け抜けるレオニス。その速力は周囲に猛風を立ち上がらせ、畑仕事をしていた魔人族の女性達のスカートを風で(めく)り、短い悲鳴をあげスカートを抑えていた。

 

 一瞬で辿り着いた里の巨大な門を一息で飛び越えたレオニスは森の木々や草花など躊躇なく踏み倒し、遭遇した魔物は障害にすらならず蹴散らさせてしまった。

 

 あっという間に森を向け、赤銅色の大地を駆けるレオニス。背中に乗っているシン達を爆風が襲うが里に来た時と同様にシンの[力魔法]で逸らして行く。

 

 

『見えたぞ!もうすぐ..........ッ!?アレは.....!』

 

 

 レオニスがシン達に声をかけたが、その声はすぐに驚愕した声色に変わった。

 

 レオニスが見た物。シン達は視界の先に見えた巨大な影を見つけた。

 

 

「............遅かったか」

 

 

 カマルが最後に言った『どうかお急ぎを.....』の意味がよくやくハッキリした。

 

 ロバートの協力者は何もカマルだけではない。

 

 カマルより長い時を生き、強大で、神に対抗する切り札の一つとして数えられた、この地上で最も猛き存在がそこにいた。

 

 

『親父ぃ.......!』

 

『やはり来てしまったかシン』

 

「そこをどいてくれないかレグルス。急いでるんだ」

 

『我等が王の頼みと言えど、今回ばかりは聞き届けられん。古き友の最後の願いを無碍にするわけにはいかないのです』

 

 

 シン達の前で立ち塞がる歴戦の赤獅子“レグルス”。

 

 その決意は揺るがないらしく、王と認めたシンに対して確かな敵意を剥き出しにしていた。

 

 

「どうしてもそこを退かないって言うなら仕方がない.......強引にでも押し通らせてもらう!!」

 

 

 シンは開幕速攻で[力魔法]による衝撃波を放った。

 

 だが、それを難なく受け止めたレグルスが大きく息を吸った。

 

ーーーGWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!

 

 レグルスが吠えた。

 

 まるで大陸全土に轟きそうな程の爆発的な咆哮がシン達を襲った。

 

 レグルスの咆哮によって生じた衝撃波と風圧があっさりとシンの[力魔法]を弾き返し、そのまま力任せに押し返されたのだ。その上シンとロクサーヌの聴覚を奪い、まるで塵を転がすかの様に二人の体が吹き飛ばされた。

 

 レオニスの背中から強制的に引き摺り下ろされたシン。

 

 だがそこで終わらなかった。

 

 

『シン......!!』

 

「ッ!?」

 

 

 レオニスが警告の声を上げたと思った矢先、シンの頭上から巨大な影が覆い被さった。

 

 一瞬のうちにシンとの距離を詰めていたレグルスが拳を振り被っていた。

 

 それを見てすぐさま身体強化を施し、力魔法による防壁を張ったシンだったが気がつくとその体は宙を舞い、視界がぐらつき、肺の中の空気が一気に放出された。

 

 

「ガハッ!?(一体何が.....ッ!?)」

 

『安心しろ、命までは取らない。俺とて王をこの手にかける事など致しはしない.......』

 

 

 レグルスは拳を振り抜いていた。

 

 そこで理解した。

 

 レグルスはシンが張った力魔法の防御ごと殴り飛ばしていたのだ。

 

 シンとて油断は無かった。先程の咆哮を見て赤獅子の凄まじさを理解したからこそ、シンは最大出力で力魔法を発動させレグルスの拳を受け止めるつもりでいた。その防御力は氷雪洞窟最後の試練でシンが受けた白い要の覇拳すら受け止められる程だ。

 

 だが、それをレグルスは簡単に乗り越えて来た。

 

 レグルスの豪腕から繰り出された拳はシンの力魔法の防御などお構い無しに振り抜かれ、単純な腕力のみでシンを撃ち抜いたのだ。

 

 ハッキリ言ってノイントの存在が霞む程の威力だ。もしレグルスがノイントと戦ったなら、間違いなくレグルスの圧勝だろう。

 

 

(これが魔物.....?はは、魔物なんて言う括りで収まる様な存在じゃない!これは、間違いなく本物の“怪物”だ......!!)

 

「これが赤獅子......これがファナリスかッ.......!」

 

 

 まさに大陸の覇者。

 

 その頂点に立つ歴戦の赤獅子レグルス。

 

 シンはその巨体がいつも以上に大きく見えた。

 

 だが、止まるわけには行かない。

 

 シンは腰の刀剣に手をかけ、“詠唱”を始めた。

 

 

「〝憤怒と英傑の精霊よ。汝と汝の眷属に命ずるーー〟」

 

『来るか、シン。ならば骨の二、三本は覚悟してもらうぞ』

 

 

 シンが手にかけた刀剣から光が溢れ出し、徐々にその光が強さを増して行く。

 

 赤獅子の王とのちの覇王がここに激突する。

 





補足


『登場人物』


「アリエル」
・白髪ショートヘアの魔人族の女。魔王軍武装兵団の将軍を務める女戦士。三叉の槍と盾で主武装とし、ビキニアーマーを纏っている。高身長で鍛え抜かれた腹筋が露出している。豪快で利己的な考えをしており、闘争を渇望している。(イメージはFGOのカイニスです。アレをもう少しを肌を黒くした感じです。性格とかは若干異なります)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。