ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

28 / 52

いつか「もしも要進達異世界組がトータスに召喚されなかったら」みたいな短編IFストーリーとか書いてみたいですね。

まあその前に物語進めないとなんですが.........

今回もオリジナル要素盛り沢山です。



盾と剣

 

 シンとロクサーヌが雪原に到着する数分前の事だ。

 

 ロバートがアリエルと戦闘を行っていた頃、シンとロクサーヌ、そしてレオニスは最強の赤獅子“レグルス”と対峙していた。

 

 圧倒的なレグルスの一撃を受けたシンは、精霊(ジン)の力を行使すべく刀剣に手をかける。

 

 

「〝憤怒と英傑の精霊よ。汝と汝の眷属に命ずる〟ーー」

 

『来るか、シン。ならば骨の二、三本は覚悟してもらうぞ』

 

 

 シンが刀剣を抜き頭上に掲げながら魔力が込めると、刀剣に刻まれていた八芒星の陣が青白く輝いていた。

 

 

「〝我が魔力を糧として、我が意志に大いなる力を与えよ〟ーーー来い、〝バアル!〟」

 

 

 途端、シンとレグルスの上空に青白い雷光の玉が幾つか生まれ帯電していた。

 

 そしてシンが掲げた刀剣を振り下ろすと同時に雷光の玉から無数の雷が降り注ぎ、レグルスを襲った。   

 

 全ての雷が直撃し、帯電する雷光に包まれたレグルスだがーー

 

 

『..........この程度か、シン?』

 

「っ!」

 

『ダメだシン!親父はその程度の攻撃じゃ止まらないっ!』

 

「そんな......!バアルの雷撃が効かないほど頑丈だなんて....」

 

 

 レグルスは一歩も動かず、無数の雷光を意図的に受けたのだ。それを見ていたロクサーヌが驚いた声を漏らし、シンは「やはりこの程度じゃ足りないか......」と呟き、素直にレグルスの強さに感服していた。

 

 そしてレグルスが腰を落とし再びシンに攻撃する為の体勢を取った。一刻も早くロバートの元に行かなければならないシンは最早()()()を切るしかないと判断した。

 

 その時だったーーーー

 

 

ーーー〝GRAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!〟

 

 

 レオニスが吠え、レグルスに向かって突進してきた。

 

 レグルスの超大咆哮には明らかに劣る咆哮だが空気が揺れる程の圧迫感があった。四足走行でレグルスの背中に迫ったレオニスの突撃で、レグルスは背後に振り向きそれを両手でしっかりと受け止める。だが突撃の衝撃でレグルスが数歩後退する。

 

 

『ここは俺に任せろシン!親父は俺が食い止めるッ!!』

 

「っ!..........わかった、任せたぞレオニス!」

 

 

 必死な形相でレオニスが吠えた。それを聞いたシンはレオニスの意図を察しロクサーヌの方を見た。すると彼女もレオニスの意図を汲みシンと視線を合わせ頷くと、二人は転移魔法陣がある場所へと駆け出した。

 

 

『行かせるわけがないだろォッ!!』

 

『それはコッチのセリフだぜ親父ィッ!!』

 

 

 二匹の巨獣が巨体をぶつけ合い、強靭な鱗が擦れ合い火花を散らす。

 

 シン達を先へは行かせまいとするレグルスと、そんなレグルスをシン達に追い付かせまいと奮闘するレオニス。

 

 数度に渡ってレオニスはレグルスの進路を妨害する。爪や牙、拳、尻尾、足、そして己の肉体。赤獅子にとって全身が凶器であるため、それらを使ってレオニスはレグルスに喰らいつく。

 

 大地を揺らす程の取っ組み合い。もしこの場に観戦客がいたなら大興奮間違いなしで、この怪獣バトルに熱狂するだろう。

 

 レグルスとレオニス。

 

 両者の間には決定的な差がある。それは実践経験の差だ。

 

 命懸けの戦いを五百年以上前から繰り広げ、実力で未だに赤獅子のトップに君臨するレグルス。そんな自分を相手に再三“戦士の儀式”を拒み続け、他の赤獅子達から“臆病者”“弱虫”などと言われ続けてきた奔放息子が相手になるはずが無い。

 

 レグルスはそう思っていた。

 

 だが、実際は違った。

 

 自分に必死な形相でこの場に押し留めようとする息子に対し、レグルスが本気で拳を撃ち込んだ時、レオニスはそれを少し後退しながらも両腕で完全に受け止めていた。そして眼前で構えたレオニスの両腕の奥、長く前に垂れ下がった赤い長髪の隙間からギロリと鋭い視線が覗いていた。

 

 先程シンを殴った時は全力ではなかった。殺さない程度に加減をしていたレグルス。

 

 だが、さっきの一撃は違う。

 

 殺さないという縛りはあったが、それでも限りなく本気に近い全力の拳だった。それを息子が受け止めたのだ。

 

 レグルスは素直に驚いていた。

 

 

『お前......いつの間にこれだけの力をつけた......?』

 

『そんなに驚く事かよ親父?......俺はなァ、ずっとアンタを越える為に力をつけて来た......例え臆病者、弱虫だと言われ続けようとな。アンタさえ倒しちまえば俺は自由だからよ......』

 

『自由........そうか、やはりお前の夢は変わっていないのだな』

 

『ああ。俺はアンタを超えて()()()()へ行く!だから俺は“戦士の儀式”を拒み続けた』

 

 

 赤獅子達の言う“戦士の儀式”。

 

 それは永久的に里の長、つまりレグルスに忠誠を誓う儀式のことを指す言葉である。

 

 先祖代々から神エヒトに抗い続けてきた赤獅子の一族には、絶対不変のルールがあった。

 

 一つ、〝神に汲みする者は必ず殺すこと〟

 

 一つ、〝神に我等の存在が漏れぬよう、赤獅子は神が支配する大陸に近づいてはならないこと〟

 

 一つ、〝適齢期となった赤獅子は戦士の儀式を受ける事〟

 

 一つ、〝カタルゴの地に棲まう魔物、()()()()との戦いに挑戦する事を戦士の儀式とし、勝利した者は戦士と認め、ファナリスの名を与えること〟

 

 一つ、〝ファナリスの名を与えられた戦士はその身を里の長に捧げ、来たる神との決戦に備え力を蓄えること〟

 

 一つ、〝争いは決闘で決め、お互いに何かを賭ける事。また決闘により里の長に勝利した者が新たな里の長になる。但し、その決闘で里の長に敗れた者は二度と里の長に決闘を挑む事を認めないこと〟

 

 一つ、上記六つの掟を破る者は速やかに粛清、或いは処分すること〟

 

 

 これが赤獅子達が大体受け継いできた七つの掟である。

 

 そしてこれの他に里の長のみが口伝で受け継ぐ事があり、それがシンに話した“特異点”の話だ。

 

 

『お前は俺との決闘を望んでいるんだな?』

 

『ああ、だが今じゃない。今の俺じゃ、どうあっても親父を越えられない.......だからこうやって()()()()()()()()をし続けて来たんだ。そうすれば掟に違反していようと周りの奴らが仕方ないって済ませてくれると思ったからな。案の定その通りにだったよ』

 

『だが.....それを今俺に喋った以上、もうお前は掟から逃れる事は出来ない。俺がそれを許さない。我等の掟は絶対不変のルール。決して変わる事はない。故にお前は外の世界に出る事は不可能だ』

 

『いいや、変わるさ。()()()()()()()()()

 

『............?何が変わったと言うんだ』

 

『この地にアイツが来た......シンっていう変革をもたらす新たな王が生まれたことさ!』

 

『ッ!?』

 

 

 特異点、つまり変革者であるシンがこの地に来た事によって、赤獅子達の長い歴史に変化が生まれた。

 

 長い生の中、決して誰にも頭を下げる事がなかったレグルスが、シンに(こうべ)を垂れ、彼を王と認めたのだ。

 

 レグルスがシンを王と認めた事にはいくつか理由がある。

 

 その中には勿論、赤獅子達の長が代々伝えて来た特異点、つまり時代の変革者に忠誠を誓うという口伝があったというのも一つの理由だ。

 

 だがそれだけで歴戦の覇者である最強の赤獅子レグルスが納得するわけがない。

 

 では、何故彼はシンを王と認めてたのか。

 

 その最大の理由が一つある。

 

 それは“強者”であったからだ。

 

 ここで言う強者とは、ただ単純な暴力だけを指す言葉ではない。何かを成し遂げようとする志や意志の強さ、器の大きさ、自信と誇り、そして前に進み続けようとする勇気と強欲な彼の在り方。その全てがシンという男の強さの正体、レグルスがシンを強者と認めた所以である

 

 そしてシンから感じた眩しい程に輝く王威にレグルスは魅了され、彼の夢に一族全ての運命を賭けても良いと判断したのだ。

 

 さらに最大ではない理由が一つある。

 

 それはかつて、シンと同じような夢を抱いた魔人族の男をレグルスが知っていたからだ。

 

 その男の名はガイル。当時レグルスはガイルにシンと同じような魅力を感じ、彼こそが変革者なのではと期待した。そして彼の夢を手助けする事を誓い、一度は王と仰ぎ、彼を背に乗せカタルゴの大地を駆けた事もあった。

 

 だがガイルは死んだ。彼は変革者ではなかったのだ。

 

 それでもレグルスはガイルを友とし、彼の夢が潰えた事に悔しさを覚えていた。

 

 そんな時にシンが現れて、彼はガイルと同じような夢を抱いていた。その上、シンはガイル以上に強欲な強者であった。

 

 故にレグルスは、ガイルとロバートの夢の続きを描こうとするシンを王と認めた。

 

 

『アイツはきっと全てを変える!俺達の里も、そして世界も!俺はそんなアイツと旅をしてみたい、アイツについて行きたいんだ!.......だからこそ俺は親父を止める。アイツが望む道を阻もうとするアンタを!』

 

『.................本気なのだな』

 

『ああ!』

 

 

 レオニスの目は依然戦意を滾らせ、真っ直ぐレグルスを見つめてた。

 

 それを見ればレオニスがどれだけの覚悟を持って自分に言葉を吐いたのかが嫌でも理解できた。

 

 王と共に歩む。

 

 その選択はかつてのレグルスには出来なかった事だ。

 

 ガイルやロバートがカタルゴに来た当時もレグルスが里の長をしていた。そんな立場の自分が同胞を置いて二人に同行するなど無責任だと判断し、神との決戦の時にこそ二人の為に力を振るおうと決意していた。

 

 しかしその時は訪れず、次にロバートがレグルスの前に現れた時にはガイルは既にこの世を去った後だった。それを知ったレグルスは“もしもあの時二人に付いて行っていれば....”と過ぎた事に対して何度も考えさせられた。

 

 そして今、自分の息子が自分と同じように王の夢に魅せられ、自分とは違う道を歩もうとしている。

 

 ならばーーーー

 

 

『ーーー..........俺はシンを止める』

 

『親父ッ!』

 

『だが、俺を止めたければお前の力と意志を示して見せろ。シンの夢に追い縋るな!王の夢を守ると言うなら、自分こそが“王の盾”であるとお前自身が証明して見せろ.......言っておくが、ここから先はお前を殺すつもりでシンを止めに行くぞ?』

 

『ッ!...........やれるもんならやってみろよ!』

 

ーーーGWAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!

 

ーーーGRAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!

 

 

 二頭の赤獅子が吠える。

 

 友の最後の願いを果たす為、王が望む道を守る為。

 

 両者互いに譲れない物を守る為、強靭な巨躯同士が再度ぶつかり合う。

 

 お互いに放たれる凶拳、凶爪、凶牙。一撃一撃が大気を揺らす程重く、大地を揺らす程豪快で、巨体から繰り出しているとは思えない程に速く鋭い。

 

 野生的で原始的な獣の如き攻撃や動きに合わさる理性的な格闘技術。

 

 二人の攻防は苛烈を極め、熾烈さを増す。

 

 もうレオニスを臆病者や弱虫などと罵る事など出来ないだろう。

 

 何せ彼は、強敵を前に一歩も引かず、王の盾であろうとする赤獅子の誇り高き戦士なのだから。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 大地が揺れ、二頭の咆哮が大気に轟く中、二人は雪原へと飛べるという転移魔法陣の場所まで辿り着いていた。

 

 

「.........やっぱりか」

 

「そんな.............」

 

 

 ロバートが設置していたであろう転移陣のあった白い台座は、巨大な拳で粉々に打ち砕かれ陥没していた。これをやったのは間違い無くレグルスだろう。そしてこんな事をする様に仕向けたのはロバート以外にいない。

 

 魔人族の里を出は際、カマルが急いだ方がいいと言ったのはこれを見越していたためだ。

 

 

「ここに来た時点でレグルスが居たから、もしかしたらとは思ったが.......。案の定だったか」

 

「どうすれば......」

 

「............バウキス」

 

 

 途方に暮れているロクサーヌ。そんな彼女の隣でシンは懐にいるバウキス(彼女)に声をかけた。するとバウキスがシンの服の中から顔を出し、シンを見つめる。

 

 

「お前の“異袋”の中に、ここから雪原まで移動できる魔道具はあるか?」

 

「(ふるふる.......)」←首を横に振る

 

「そうか。逆に雪原からカタルゴに飛ぶ魔道具は?」

 

「(ふるふる......)」←首を縦に振る

 

「やっぱり........。俺達がいざという時の為に必要な逃走手段を元々作っていた、か...........(これもヴィーネとかいう女の差金だろうな。予言といい、精霊(ジン)の事といい、本当に何者なんだ.......)」

 

 

 シンの予想通り、ヴィーネ(彼女)はロバートに予言を伝えた時にそれを回避する為の策やロバートが取るべき行動を提示していた。

 

 これによりロバートはシン達と行動を共にさせようと考えていたバウキスに、二人の旅路に必要な物を全て自身の“武器庫”から写し、シン達が雪原に戻って来れない様に帰還手段を潰していた。

 

 だが、そんなロバートでも一つ致命的なミスをしている。

 

 

「ロクサーヌ、魔剣を抜け」

 

「.........?どうするおつもりなんですか......?」

 

「その魔剣に付与されている魔法で空間に穴を開ける。それで向こうに行く!」

 

「っ!?そんな事が可能なんですか!?」

 

「いや、魔剣単体の力じゃ無理だ」

 

「では一体........」

 

 

 魔剣アンサラに付与されている魔法。それは神代魔法の一つ、“空間魔”だ。

 

 シンは最初、自身が保有している派生技能[鑑識]で魔剣アンサラを見た時、魔剣に付与された力が“空間魔法”であると一目で見抜いた。しかしシンが鑑識で見たところ、その力の出力は小規模な物で、離れた相手に斬撃を飛ばす類の魔法だと理解し、人や物を転移させる程の力は無いとわかった。でなければロバートが魔剣をロクサーヌに託すはずがない。

 

 では一体どうやって空間移動を可能にしようというのか。

 

 

「俺の力でこの壊れた転移陣から()()()()()()再構築する。そこにお前の魔剣で空間に穴を開けてロンさんのところに向かう..........やれるか、ロクサーヌ?」

 

「........はい、やれます。私は貴方の道を切り開く剣です!」

 

「よし!ならお前は魔剣に魔力を最大限込めて、付与された空間魔法の威力を高めておけ」

 

「わかりました!」

 

 

 ロクサーヌは腰に携えた魔剣アンサラを抜き、魔力を送り込む。魔剣が反応しているのを感じ取ったロクサーヌは、魔法の発動を抑え限界まで魔力を高めて行く。すると魔剣の刀身が徐々に青白い光を放ち出し、濃紺色の刀身が徐々に空の様に透き通った蒼白色に変色し始めた。まるでロクサーヌの強く純粋な想いに呼応するかの様に、暗雲が晴れ渡る様に染め上がっていく。どうやらこの魔剣は使用者の魔力によって刀身の色を変えるらしい。

 

 魔剣アンサラ製作に使用されている鉱石の殆どがカタルゴで採取された鉱石。その中には“アブソーブ鉱石”という魔力を吸い込む事で色を変え、魔力を蓄える機能を持った鉱石も使われている。その効果がロバートが蓄積してきた魔力を塗り替えたのだろう。

 

 そしてこの時、バアルが宿るシンの刀剣と魔剣アンサラが()()()()。言い換えるならロクサーヌが持つ魔剣に何かが宿ったのだ。

 

 それはシン()()()としての証。

 

 だが彼女がその力に目覚めるのはまだ先のようだ。

 

........................

 

 一方のシンは自分が持てる全ての技能と魔法を駆使して、壊れた転移魔法陣から魔力の残滓、緻密に構築されていた術式の残骸、座標、規模、出力等を全て汲み取り、再構築しようとしていた。

 

 ハッキリ言って無茶である。

 

 普通の魔法なまだしも神代魔法の再現などほぼ不可能に近い。

 

 それを欠片など殆ど残っていない様な転移陣の残骸から情報を読み取り道を開こうとするなど、シンがやろうとしている事は、謂わばゼロから空間魔法を構築するという事に等しい行いなのだ。

 

 そんな無謀とも思える賭けの勝ち筋をシンは全力で掴みに行こうとしていた。

 

 [瞬光]で知覚能力を拡大させ、[天眼]と[鑑識][魔力感知]で残骸から魔力の網を詳細に読み取り、[力魔法]と[魔力操作]で緻密に組み立てて行く。それだけでは無い。新たに獲得していた瞬光の派生技能[空間掌握]と[並列思考]で具体的な出口を想像し、[想像構成]でイメージ力を補強し、シンに元々備わっていた[超直感]で正しく組み立てて行く。そして限界を超えてようとするシンの想いに応えた[英傑試練]が各能力を底上げし、それらを支える。

 

 脳に多大な負担がかかり、シンの表情が苦痛で歪む。

 

 それでもシンは休む事なく構築して行く。そんなシンの精神に呼応する様に七つの金属器が輝き、精霊(ジン)達がシン()の手助けをすべく、力魔法と魔力操作に乗った彼らの手が残骸に宿る情報を掬い上げて行く。

 

 魔力的、精神的に繋がっている精霊(ジン)達の助力もあり、構築されて行く魔法がさらに安定した。

 

 そして(シン)の手がそれを掴んだ。

 

 

「ぐっ......ロクサーヌ、やるぞ!」

 

「はいッ!いつでも行けます!!」

 

 

 構築だけで精一杯だったシンは、掴み取ったそれをロクサーヌの魔剣に付与した。

 

 それはシンが自力で掴み、辿り着いた神代級の“空間転移魔法”。魔剣に定着していない為、一度きりの大業。この一撃が最後のチャンスだ。

 

 ロクサーヌはそれが付与された瞬間、虚空に向けて剣を大上段で振りかぶった。青白い光がより一層の輝きを増し、全神経をその一刀に集中させる。

 

 

(シンさんが掴んだこのチャンス、絶対に無駄にはしません.......!!)

 

 シンが掴み辿り着いた空間魔法。それに名をつけるならきっとこうだろう。

 

 その名はーーーーーー

 

 

「ーーー〝進空〟!!ーーー」

 

 

 強固な意志と想いを乗せ、[進空]が付与された魔剣を大上段から鋭く振り抜いた。ロクサーヌは付与された瞬間にその魔法の名を感じとっていた。

 

 青白い剣閃が虚空を切り裂き、虚空が歪み、空間が捩じ切れた。

 

 そして虚空に生まれたのは大きな白く靄がかかった様な穴だった。

 

 その捩じ切った空間の穴の奥から微かに見えるのは、二人もよく知っている雪原の大地。

 

 

「シンさん!」

 

「ああ、行こう!」

 

 

 二人はその白い空間の穴に飛び込んだ。その瞬間、穴は収縮し、元のカタルゴの景色のみが二人がいた場所に映った。

 

 空間の穴に飛び込んですぐに二人は深く積もった雪の地面に足をつけた。

 

 そして若干遠くの方に見えたのは複数の魔物と男一人と女二人の三人。周りに無数の魔物の死体と魔人族と思わしき人の遺体が見える。

 

 男は確実にロバートなのだろうが、何故か元々の髪色が白く抜け落ち、遠目で見ただけでもかなりの傷を負っていた。

 

 残りの女二人は見た事が無い魔人族だが、そのうちの一人はロバートを抱え上げており、ロバートと同じ赤い髪色の魔人族だった。

 

 そしてもう一人は槍を持ったビキニアーマーの白髪の女魔人族。アレはヤバい。見ただけで敵だとわかる程に殺意と戦意を滾らせている。

 

 そんな槍を持った女魔人族が周りの魔物を蹴散らし、ロバートに突撃しようとしていた。

 

 それを見た瞬間のシンの行動は早かった。

 

 

ーーー〝我の力を使え、主よ〟

 

「ああ!行くぞバアルッ」

 

 

 シンは刀剣を抜き、バアルの力を刀剣とそれを握る腕に()()()、刀剣の矛先をロバートと彼に向かって行く女魔人族の間に向けた。

 

 そして放つ。

 

 

「ーーー〝雷光剣(バララーク・サイカ)〟!!ーーー」

 

 

 その瞬間、剣先から青白い雷撃の太い柱が伸びた。

 

 シンの狙い通りそれはロバートと女魔人族の間を駆け走り、雪原に降り積もった雪を掻き消した。

 

 そしてその一撃を目の当たりにしたシンとロクサーヌ以外の、この場にいる三名がこちらに視線を向けた。

 

 

「テメェ.....一体何者だァ.....?」

 

 

 自分の突撃を妨害され、怒りと戸惑いが含まれた言葉をシンに向かって口にした槍を携える女魔人族。

 

 そんな彼女の問いに、シンは堂々と相手を見据えながら口を開いた。

 

 

「俺か?俺の名前はシン。そこにいるロバート・ヴィラムを迎えに来た王だ」

 

 

 こうしてシンとロクサーヌはロバートが一人で向かった戦場に舞い降りた。

 




魔剣アンサラに眷属の種が宿りました。そして武器化魔装のお披露目と赤獅子の掟+レグルスのちょっとしたら過去話でした。


補足


『新しく登場した魔法』


「神代級空間転移魔法〝進空〟」
・オリジナル空間魔法。シンがロバートが造った転移魔法陣から必要な情報を読み取り新しく構築した神代級の空間魔法。本来魔法や神代魔法は肉体や魂に定着した上で、適性があって初めて行使可能ですが、今回は一度きりの構築と付与。


『登場した魔物』

「ベヒモス」
・カタルゴ大陸に生息する巨大な魔物。オルクス大迷宮にいるベヒモスはその劣化版。赤獅子達が戦士として認められる為に戦う相手で、その実力はオルクス大迷宮奈落の底の最深部で挑戦者を待ち構える“ヒュドラ”に匹敵する。
オルクス大迷宮のベヒモス以上の巨体と強靭な肉体を持ち、固有魔法[暴食]で喰らった魔物の固有魔法を得る事ができる強力な大地の獣。隕石を降らせてくる。
(イメージはFFのベヒーモスです。やっぱベヒモスって名前がつくぐらいなんだからもうちょっと強くないとね.....)


『登場した技能』

[超直感]
・特異点の派生技能。元々シンが無意識に使っていた不思議な力がそのまま技能として目覚めた。

[想像構成]
・シンが力魔法に目覚めた時点で獲得した技能。文字通り想像した通りに魔法を構築する技能。

[天眼]
・瞬光の派生技能。肉眼では見通せない事でも自在に見通す眼。魔力総量の可視化、魔力の流動の視認、相手の弱点、俯瞰的視覚などが可能。

[空間掌握]
・瞬光の派生技能。力魔法を獲得した時点で獲得済み。空間に対する認識力の拡大を促す。

[並列思考]
・瞬光の派生技能。力魔法を獲得した時点で獲得済み。文字通り思考を分割して同時に考える事ができる。下手に思考を分割しすぎると脳が焼き切れる。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。