ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

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箱庭の出会い

 

 晩餐会の翌朝、要やハジメ達クラスメイト全員が騎士達の訓練所に集められた。

 

 どうやら早速早朝から座学と訓練に入るらしい。

 

 訓練の教官を担当するのは、この国で一番強い騎士団長メルド・ロギンスで素人目でも戦士としての風格を感じさせる豪快な男だ。第一印象でもイシュタルより何倍もいい、この人物ならある程度信用できると要は直感した。

 

 さて、そんなメルドからクラスメイト全員に配られたのは、手のひらに収まる程の大きさと薄さの銀のプレートだった。

 

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ」

 

 

 そんな説明を受け、言われるがまま要は「ステータスオープン」と適当に口ずさむ。すると、その銀のプレートに色々と文字や数値が現れた。

 

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(カナメ) (シン) 17歳 男 レベル:1

天職:付与魔術師

筋力:50

体力:70

耐性:30

敏捷:50

魔力:100

魔耐:90

技能:付与魔法・特異点・■■■練・言語理解

 

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(ん?技能(スキル)のところがなんか文字化けしてるぞ?)

 

 

 要は自分のステータスプレートに違和感を覚えつつも、隣のハジメのステータスを覗き見た。

 

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

天職:錬成師

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

技能:錬成・言語理解

 

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 お互いにステータスを見せ合っていると、メルドが色々追加の情報を口にしていた。その言葉の中に、一般的ステータスの平均値がレベル1で10らしい。それを聞いた瞬間、要とハジメはなんともコメントしづらい空気になった。

 

 

「.....その〜、なんだ...伸びシロですねー」

 

「今ものすごくイラっときた」

 

「まあ、おふざけ抜きにしてもまだレベル1なんだから、これからだろ」

 

「そうだといいなぁ〜」

 

 

 そんな会話を二人がしているとメルドが驚いたような声をあげていた。どうやら天之河の天職が勇者な上にステータス値がオール100、技能もてんこ盛りというとんでもチートステータスだったらしい。

 

 そして一通り他のクラスメイト達のステータスをチェックし終えたメルドは要とハジメのところにやってきた。

 

 

「ほお、要 進の天職は付与魔術師か。ステータスもそれなりに高いじゃないか.....ん?この技能はなんだ、特異、点?初めて聞く技能だな。それに一部の技能も文字化けしてよくわからないな」

 

「これってステータスプレートが壊れてるんですかね?」

 

「どうだろうな、俺にはよくわからん。一応新しいステータスプレートは用意しておくから今はそれで我慢してくれ」

 

「了解です」

 

 

 メルドにも要のステータスプレートに写し出されたものがわからないようだ。こうなってくるとイシュタルあたりに聞くのがいいのだろうが、それは直感的に避けたほうがいい気がする。後でハジメに手伝ってもらって調べるのもいいな。など、難しい顔で色々と考えを巡らせていた要だったが....

 

 

(う〜ん.......まあ、いっか)

 

 

 逡巡の末、考えるのがめんどくさくなったらしく思考を放棄した要の表情は実に清々しかった。

 

 その後、愛子先生によって自身のステータスの低さに嘆いている南雲を無自覚ながら死体蹴りしてしまい、より一層遠い目をしていた南雲の背中を要はそっと優しく叩いてやった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ー

 

 

 

 自身のステータス確認と軽い訓練を終えた要達は座学の講義を受け、今は昼の休憩の時間。昼休憩を終えればまた座学になるが、ある程度の話を聞いて諸々予想通りだった要はふらふらと王宮内を探索し、完全に昼以降の座学はサボる気でいた。

 

 

(しっかし広いなぁ〜。こんだけ広いなら隠れて訓練できそうな場所もありそうだが...)

 

 

 一人で鍛錬できそうな場所を散歩がてら探していると、王宮内なのに芝生が生え開けた場所があった。花壇もあり、休憩もできるようベンチも置かれていた。吹き抜けで正午の日の光がその空間を照らしていた。ここに名前をつけるなら“王宮の箱庭”と言った感じだろうか。

 

 そこにただ一人、ベンチに座っている少女がいた。長く綺麗な金髪に淡い桃色のドレスを纏った少女は、昼時の陽気にあてられているのかボーッとしていた。

 

 

(たしかこの国のお姫様、だったよな?)

 

 

 晩餐会で目にしていた彼女の姿を思い出した要は彼女のところに歩み寄る。

 

 

「こんなところで何してるんですか、リリアーナ王女殿下」

 

「え?あ、貴方はたしか...」

 

「はじめまして、要 進と言います。以後お見知り置きを」

 

 

 歩み寄ってきた要を見上げていたリリアーナに対して、頭を下げた要は自分の中に蓄積されたオタク知識を総動員してなるべく角が立たないような言動をとった。するとリリアーナはベンチから立ち上がり、実に王族らしい立ち居振る舞いで言葉を返した。

 

 

「はじめまして、要様。ご存知のようですが改めまして、ハイリヒ王国 国王エリヒドの娘、リリアーナ・S・B・ハイリヒと申します」

 

「あ、この場合って跪いて手の甲にキスしたらいいんですかね?」

 

「....ふふ、そんなことしなくてもいいのですよ。要様達勇者様一行は王国の騎士や兵士、というわけではないのですから」

 

「なるほど、勉強になりました。よろしければ隣に座っても構いませんか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

 

 要がベンチに腰掛けるとリリアーナもそれに続くようにベンチに腰掛けた。

 

 

「リリアーナ王女はいつもこの時間、ここにいるのですか?」

 

「いいえ、今日はたまたまです。ちょうど取り掛かっていた仕事も終わり一息ついていたところです」

 

「あ、もしかして俺、邪魔ですか?」

 

「いいえ、むしろいいタイミングだったと思います」

 

「ん?タイミング?」

 

 

 なんのことかと要が首を傾げると、リリアーナがベンチから立ち上がり、要の正面に立ち、深々と頭を下げてきた。

 

 

「この度は私達の勝手な都合に巻き込んでしまい申し訳ありませんでした」

 

「....へ?」

 

「私が頭を下げた程度では到底償えきれない事ではありますが、皆様が元の世界に帰還できるその日まで全力で助力いたします。本当に申し訳ありませんでした」

 

「.......頭を上げてください、リリアーナ王女。別に俺は貴方を責めるつもりはないし、一国の王女がそんな軽々しく頭を下げていいんですか?」

 

「体裁よりも誠意が大事です。私達にできないことをやってもらうのですから、お願いする立場の人間として当然のことです。何かお困り事があればなんでも言ってください。出来る限りのことは致します」

 

「そうですか、ならお願いがあるんですけど」

 

「なんでしょうか?」

 

「俺とお友達になってくれませんか?」

 

「.....ふぇ?」

 

 

 先程まで深々と頭を下げていたリリアーナは、要の言葉に虚を衝かれたらしく王女にしては実に間抜けな声が漏れた。そしてその原因である要に視線を向けるため頭を上げた。

 

 

「いやぁ〜、実は俺友達少ないんですよ。もしよかったら俺の異世界友達第一号になってくれませんか?」

 

「そんな事でよろしいのですか?」

 

「そんな事でいいんですよ、俺には。それに日本(むこう)に帰った時、異世界のお姫様と友達になったっていう土産話をチビ達に聞かせられますし」

 

「チビ達?もしかしてお子さんが!?」

 

「いやいや、違いますよ。俺、養護施設出身なんでそこで一緒に暮らしてるガキ共のことです」

 

「あ、そうなのですね」

 

「で、どうです?友達になってくれますか?」

 

 

 リリアーナに手を差し出す要。リリアーナはそんな彼の手を見つめた後、要の顔に向き直り、その瞳を見た。まっすぐで力強い瞳、不思議と安心感を覚えるリリアーナは自然と差し出された手に自身の手を重ね、笑顔で答えた。

 

 

「はい、喜んで!」

 

 

 リリアーナの笑顔を見て、要も笑顔で答えた。そんな彼の笑顔は純粋で、豪快で、少年のような明るさを思わせるものだった。それを見たリリアーナはふと思ったことを口にした。

 

 

「貴方が勇者なのですか?」

 

「え?違いますよ。俺はただの付与魔術師で、勇者の天職を持ってるのは天之河っていういつもキラキラした感じのやつですよ。なんでまた唐突に?」

 

「いえ、その....なんといいますか、雰囲気ですかね。なんとなくそう思って、つい口に出てしまいました」

 

「なるほど、そうでしたか。まあ、リリアーナ王女殿下が勘違いする気持ちもわかりますよ、なんせ俺の方が強そうですし」

 

「あら、すごい自信ですね」

 

「自信ではなく事実ですから。まあもっとも、現状ステータスでは完全に劣ってますので、将来的にはって意味ですが」

 

「ふふっ、ではその日を楽しみにしていますね。いつかお父様に『私のお友達の付与魔術師は勇者様より強いんですよ!』って自慢させてください、近いうちに」

 

「できれば長い目で見守ってください」

 

 

 などと他愛ない話を続ける要とリリアーナ。要がこの世界のことや、リリアーナの日常での出来事を聞いたりすれば、今度はリリアーナが要から日本の話、要の元いた世界での日常などをお互いに聞かせ合う。

 

 リリアーナの表情は要が最初話しかけた時より何倍も豊かになっていた。要の話す出来事ひとつひとつに関心を持ち、時には笑ったり、時にはあわあわと驚いたり、時には優しく微笑んだりと楽しそうにしているリリアーナ。

 

 要自身、そんな彼女の姿につい元いた世界に残してきたチビ達の姿を重ねるが、別に辛くはならない。何故か?それは決まっている。帰ると決めているからだ。来ることができるなら、逆もまた然り。何年かかったとしてもやり遂げる、そしてチビ達にこの異世界での冒険話をいっぱいしてやるんだ、と要はリリアーナと話しながら改めて決意した。

 

 そんなこんなでいつのまにか昼の休憩時間はとっくに過ぎており、太陽もすっかり傾き、この箱庭に届いていた日の光も今は壁の影に包まれていた。

 

 

「ハッ!もうこんな時間なんですか!?」

 

「随分話し込んじゃいましたね、これじゃあ座学の時間はとっくに過ぎてますね、残念ながら」

 

「すいません要様、私のせいで座学の時間が過ぎてしまいました!」

 

「あ、全然気にしてませんから。元々そのつもりだったので」

 

「へっ?....要様〜!私をからかいましたね!」

 

「へへっ、まあまあ〜、そうプリプリしないでください。せっかくの綺麗なお顔に皺ができちゃいますよ?」

 

「誰のせいですか!誰の!」

 

「あっはははは!!てか、そろそろ敬称も丁寧な口調もいらなくないですか?これだけ楽しく話し合って様付けされるとちょっとむず痒いです」

 

「そ、そうですか?なら、なんとお呼びすれば?」

 

「下の名前でいいですよ、シンって呼んでくれれば」

 

「ではシンさんと。私のことは是非リリィとお呼びください。親しい間柄の方にはいつもそう呼んでもらっていますので」

 

「了解だリリィ。できれば気軽な口調で頼む。じゃあ改めて、これからもよろしくな」

 

「はい、シンさん。こちらこそ」

 

 

 二人は改めて握手を交わした。紛れもなく友人として。そしてお互いに自室に戻ろうとした時、要が振り返ってリリアーナを呼び止めた。

 

 

「そうだ、リリィ。ひとついいこと教えといてやる」

 

「いいこと?」

 

「ああ、俺の他にいる神の使徒メンバー、その中でリリィと気が合いそうな奴、“治癒師”の白崎香織と“剣士”の八重樫雫、あと“投術師”の園部優花、この三人がお前と気が合いそうだ。今度声をかけてみるといい、きっとリリィの気持ちを汲んでくれる」

 

「!...はい、わかりました」

 

「じゃあな」

 

 

 そう言って要は背中越しに手を振って自分の部屋へと歩き出した。

 

 そんな彼の背中を眺めるリリアーナは、彼の優しさを受け止めるように握りしめた手のひらをそっと抱き寄せた。

 

 

(本当によく見ていらっしゃる)

 

 

 リリアーナは要に謝り、許され、そして友達になった。

 

 だがそれは要のみの話で、他の勇者達“神の使徒”全員というわけではない。もしかしたら他の方達には責められるかもしれない、罵声を浴びせられるかもしれない。そこに生じるリリアーナの一抹の不安を要は感じ取っていたのだろう。だから最後のあの言葉『気持ちを汲んでくれる』と言ったのだ。

 

 

(きっと彼が勧めてくれた御三方も、彼と同じぐらい優しい方々なのでしょうね。どうやら私の目は節穴ではなかったみたいですよ、シンさん)

 

 

 リリアーナはそんな事を想い、彼女も自身の部屋へと歩み出した。

 

 後日、要が勧めた人物達とリリアーナは話をした。要の助言通り、気の合う方達ですぐに友達になれた。優しく、リリアーナの言葉を真摯に受け止めてくれた。

 

 だからこそ、リリアーナはちょっぴり複雑な気分でもあった。

 

 

「なんだか見透かされてるみたいで、少しばかり悔しいです」

 

「どうしたのリリィ?」

 

「いえ、なんでもありません雫。それより止めなくていいのですか?」

 

「あー、そうだよね」

 

「それでね、南雲くんがね!『白崎さん、ありがとう』って言ってくれたの!ふふ、それでそれで!」

 

「ちょっと香織、一人で盛り上がらないでよ!」

 

 

 一人呟いたリリアーナに対して八重樫が声をかける。その横では“今日の南雲くんエピソード”にトリップしている白崎と、それを止めようとする園部。

 

 リリアーナの不安なんて嘘のように吹き飛ぶ光景。

 

 それをプレゼントしてくれた彼は今頃王宮のどこかでふらふらしているのだろう、と異世界から来た最初の友達に想いを馳せた。

 

 


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