ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

30 / 52

すいません。めちゃくちゃ長くなりました。反省してます。




新たな芽吹き

 

 アリエルとの戦いから魔人族の里に帰還したシンとロクサーヌ、そして二人が連れて帰ったロバートとその娘カトレア。

 

 あれから五日が経った。

 

 その五日の間に様々な事があった。

 

 まず一つはレグルスとレオニスの事だ。シン達が帰還した際にはすでに決着がついており、その結果勝敗はやはりと言うべきか歴戦の赤獅子レグルスの勝利で収まっていた。だが二人の間にあった(わだか)りは解消され、負けたレオニスは以前より清々しい顔つきで、頼もしくなっていた。そして二人はボロボロの姿でシン達の帰りを待っていた。

 

 次にロバートの容体と延命措置の件だ。

 

 カタルゴに着いてすぐ、ロバートは魔人族の里に運び込まれた。変わり果てたロバートを見たカマルは悲痛な面持ちでロバートを迎え、自身の家の一部屋をロバートの部屋としてくれた。

 

 結論から言ってロバートの命は僅か二日の灯火だった。度重なる強引な変成魔法による延命措置とアリエルとの戦闘、そして昔の傷によってロバートは自身が獲得していた技能や魔法の殆どが使えなくなり、これ以上変成魔法での本格的な延命措置は不可能だった。だが余命を幾許(いくばく)か延ばす事は可能ならしく、シンが付与魔法で体力を分け与える事で僅かにその命を引き延ばしした。それで延びた余命が残り二日。

 

 それを知ったロバートは自分の命が繋がっている二日の間にシンとロクサーヌ、そしてカトレアに今までの事を全て話した。

 

 亡き友“ガイル”との出会いから、魔国での悲劇と旅の始まりとなるキッカケ、大迷宮攻略の話、オルクス大迷宮で知った事やそこで出会った今は亡き吸血鬼族の宰相ディンリードの話、三叉槍ダインスレイヴの誕生秘話、カマルや赤獅子達の出会い、そしてーーー

 

ーーー友をこの手で殺した事。

 

 

『魔国に戻った俺達は魔王に呼び出され、玉座の間で魔王とその隣に居た()()()()()()()()()()と顔を合わせた』

 

『修道女、ですか.......?』

 

『.........真の神の使徒、ですね』

 

『おそらくな。以前お前を襲ったと言う真の神の使徒“ノイント”。その女と同一人物、或いはもう一人の真の神の使徒と言ったところだろう...........そして謁見の間で魔王と口論をしていた時、ガイルは神エヒトの眷属アルヴヘイトに体を乗っ取られ、俺とガイルの体を乗っ取ったアルヴヘイトはそのまま戦闘になった。あの時、俺に出来たのはアルヴヘイトにあれ以上ガイルの体を好き勝手させない様にする事だけだった』

 

『その為に使ったのが、あの魔槍ですね.......』

 

『............そうだ。あの槍の力でガイルの肉体を崩壊させた。その後俺は魔王と神の使徒に致命傷を負わされたが、フィレモンとバウキスのおかげで何とか雪原に逃げ延びた。だがすぐにアルヴヘイトからの追手がやってきた。その追手はかつて魔国に災厄を(もたら)した“黒い巨人(ゴライアス)”と“人面魔物(マンティコア)”だった。アルヴヘイト自身も口を滑らせていたが、あの災厄の象徴である“ゴライアス”と“マンティコア”は神が戯れに生み出し、戦争のバランスを保つ為にかつて魔国に解き放ったそうだ』

 

『そんな.....ッ』

 

『そんな事の為だけに.........』

 

 

 戦争のバランス。つまり神は人間族と魔人族の戦争の均衡を保つ為に魔国に魔物を送り込み、大量虐殺を図ったのだ。その要因となったのはロバートとガイルの存在。二人が現れた事で戦争の天秤が魔人族に傾くと考えたのだろう。

 

 それを聞いたカトレアは酷くショックを受けていた。

 

 シンとロクサーヌも改めてこの世界の神がどれほど人の命を弄ぶクズなのか理解し、より一層神への叛逆心を抱かせた。

 

 そして話は続き、ロバートを追って来た“ゴライアス”と“マンティコア”を倒したのはフィレモンであると口にした。

 

 フィレモンは巨大な蛇竜となってマンティコアを一掃し、ゴライアスを食い殺した後、力尽きたそうだ。フィレモンの遺体はカタルゴの森に埋葬され、そこから芽が生え大樹に成長し、ロバートの提案でカマル達穏健派の魔人族がこの地に移住して来たらしい。

 

 そこからロバートは長い年月をかけて数々の強力なアーティファクトや魔道具を製作し、カタルゴ大陸への行き来を自由にし、赤獅子達や穏健派の魔人族と協力し決戦の日に備えていた。

 

 そんなある日、ロバートはカーリーと出会い、カトレアが生まれたそうだ。その後の事はカトレアも知っている事だった。だが自分の父が当時何を思っていたのかを初めて知ったカトレアは、複雑な心境であったがロバートの言葉を最後まで聞き、自分が愛されていた事を改めて理解した。

 

 そしてカーリーとカトレアが出て行った後、ロバートはロクサーヌを拾い育てた。

 

 

『俺はお前を弟子として育てたつもりだったが、心の何処でお前をカトレアの代わりに見立て、贖罪をしていたのかも知れない........カマルの言う通り、俺は駄目な師匠だったな』

 

『そんな事ありません!師匠は私にとって最高の師匠です!確かに私は師匠の娘ではありません。師匠が私をどういう気持ちで育てて下さったのかは分かりませんが、それでも私は師匠の事を父の様に慕っていましたし、師匠を尊敬しています!ですから自分の事を駄目な師匠だなんて言わないでください..........』

 

『....................』

 

『この里に来て、ロクサーヌ(この子)を見てきた私にはわかるよ。親父(アンタ)、いい師匠だったんじゃない?この子の人柄や強さを私はここに来て何度も見たわ。本当にとってもいい子だよ。駄目親父のアンタが育てたとは思えないぐらいにね」

 

『............そうか。俺は、ちゃんと師匠でいられたんだな......』

 

『まぁ、最初は私も複雑な気分だったけど、今じゃ気立てがいい義妹が出来たと思ってるぐらいさ』

 

『ありがとうございます、カトレアさん』

 

『敬称は要らないよ。気軽にカトレアと呼んどくれ』

 

『.........わかりました、カトレア』

 

『ならロクサーヌ、俺の事も名前だけで呼んで欲しいんだけど........?』

 

『アンタは別に構わないだろ、次代の王様なんだし。むしろアンタが王様だった事をわかりやすくする為に、“様付け”にしてもいいくらいだ』

 

『なるほど......確かにカトレアの言う通りかも知れません』

 

『え、嘘でしょ?名前呼びからもっと離れるの?』

 

『大丈夫ですシンさん!呼び方が変わったとしても、私が貴方を愛する気持ちは変わりません!』

 

『うん、気持ちは嬉しいけどそう言う事じゃないと思う.......』

 

『試しにロクサーヌ、ちょっと“様付け”でシンのこと呼んでみな』

 

『わかりました!コホンっ..........〝シン様〟』←潤んだ瞳で上目遣い

 

『うッ........!』←心臓を撃ち抜かれたポーズ

 

『おぉ、これはなかなかの破壊力があるわね.......どうだいシン?』

 

『わ、悪くないッス.......』

 

『........お前達。俺が言うのもなんだが、人の話聞く気あるのか?』

 

 

 とまあ色々とくだらない会話を挟みつつ、ロバートの話を聞いた。その途中で何度かシンとロクサーヌそしてカトレアの三人が質問を挟み、より理解を深めていった。

 

 ちなみにシンが命の恩人であるカイルのお陰で雪原に転移し、ロバートに救われた訳はシンの予想していた通りだった。

 

 ロバートは予めカイルに転移魔法の指輪を渡しており、いざという時にそれで雪原に転移出来るようにしていたらしい。そしてその時の為にカイルの兄であるライルの遺体を冷凍保存し、身代わりにする予定だった。だが、その身代わりをカイルはシンに使い、シンはこうして生き延びロバートとロクサーヌに出会ったという事だ。

 

 ロクサーヌの過去の話を聞いた時から、シンはなんとなくそんな気がしていた。

 

 きっとロバートはカイルに何か思うところがあったのだろう。本当に短い付き合いだったがカイルの人柄を知っているシンは、ロバートがカイルに指輪を渡した気持ちがなんとなくわかった気がした。あとロバートの親友ガイルの名前と一文字違いだし、そこら辺も関係しているのかも知れない。

 

 

『別に名前がガイル(アイツ)と似ていたからという理由で面倒を見たわけではない』

 

 

 などと否定していたが、誰も何も言ってないので完全にロバートが墓穴を掘っただけだった。若干ロバートを見る三人の目がどことなく優しくなった。

 

 そして二日目の朝ロバートはシンやロクサーヌ、カトレアやカマル、レグルスやレオニス、その他里の魔人族や赤獅子達に見守られて彼は静かに息を引き取った。

 

 その直前でロバートはシンにこう言った。

 

 〝夢を叶えろ、シン〟

 

 たった一言、それだけだ。言葉足らずな彼らしい一言。

 

 だが、そのたった一言に詰まったロバートの想いをシンは感じ取り決意をより強固な物にした。

 

 そしてそこに集った多くの者達が英雄の死を悼んだ。

 

 その後、ロバートの遺体は彼の遺言通りに火葬された。死後、なんらかの理由で神に肉体を乗っ取られない様にとのことだ。

 

 火葬され残った彼の灰はフィレモンの大樹の根本に埋められ、その場所には石碑が置かれた。

 

 

 その翌日からシンとロクサーヌは、さらに力をつけるべく赤獅子の戦士ファナリスに協力を仰ぎ、戦闘訓練を始めた。

 

 ロクサーヌはより一層速さと剣技を磨き、シンは全身魔装の魔力消費を抑える訓練や力魔法の強化及び付与魔術師としてのレベルアップに励んだ。

 

 ロバートの死を悲しむ気持ちは残っているが、ロバートならきっと悲しむ姿より前に進む姿を望むはずだと魂を奮わせ、やるべき事の為に全身全霊をかけた。

 

 数日の間にロクサーヌの速力はファナリス達の協力のおかげで、瞬間的にだがファナリスを超え、あのアリエルに迫る程となった。ファナリスとの戦闘訓練で格上相手に立ち回るロクサーヌの剣技にもより一層の磨きがかけられている。だがそれでもおそらくアリエルには届かない。アリエルは[英傑試練]保有者、今まで何度も英傑試練に助けられているシンだからこそそれがわかった。

 

 そしておそらくアリエルはまだ生きている。その為、いずれアリエルと再び遭遇し、戦う事にもなるだろうという事もシンは予見していた。

 

 その事をシンから聞かされたロクサーヌは、赤獅子達の戦士の儀式で戦う相手ベヒモスに戦いを挑んだ。

 

 カタルゴ大陸に生息する魔物“ベヒモス”

 

 最初レグルスからその名前を聞かされた時、シンはロクサーヌなら簡単に倒せる相手だと踏んでいた。

 

 だがーーー

 

 

『これが、()()()()()()だと?.........全然違うだろ、コレ.......』

 

 

 カタルゴ大陸のベヒモスはシンが知っているオルクス大迷宮六十五階層のベヒモスとは全くの別物だった。

 

 闘牛の様な二本の角はシンが知っているベヒモスと変わらない。だがそれ以外は全くの別物。オルクス大迷宮で遭遇したベヒモスとは比べるまでも無く、生物としての桁や格が違っていた。

 

 オルクス大迷宮のベヒモス以上の巨体を持ち、にくたいはより洗練され筋骨隆々、圧縮された肉の塊は強靭な鋼の肉体と化しており、大樹の如き太い両腕に掴まれたら一溜まりも無いだろう。さらに複数の強力な固有魔法を有しおり、竜巻を起こしたり、大地から火を噴かせたり、果ては小隕石を落として来たりする。どうやらベヒモスが持つ固有魔法[暴食]によって捕食した生物の固有魔法を使える様になるらしく、かつてレグルスは自身の父を喰らった強力なベヒモスを倒し、仇を討ったそうだ。

 

 そしてロクサーヌはそんな強力な魔物であるベヒモスに戦いを挑んだだが、結果は惨敗。

 

 スピードでは勝っているロクサーヌだったが、攻撃の威力が足りずベヒモスの硬い表皮に傷をつけるが敵わなかった。

 

 一日、二日目と悪戦苦闘を繰り返して続けたロクサーヌ。

 

 そして三日となる今日、ロクサーヌは単独でベヒモス討伐に赴こうとしていた。

 

 

「シンさん.......私はシンさんの剣として貴方の道を切り開ける様に、貴方の隣で共に歩むために、今日こそ自分の限界を超えて来ます.........!」

 

「........ああ、行ってこいロクサーヌ!そしてちゃんと帰って来い。お前が居ないんじゃ俺の旅は始まらないからな」

 

「はい!............それと、私がベヒモスを倒して帰った時は、その.......いっぱいご褒美をください........」

 

 

 モジモジと照れた様子でロクサーヌがそんな事を言ったので、シンはロクサーヌに笑いかけながら彼女を抱き寄せ、頬を赤らめる彼女の瞳を真っ直ぐ見つめた。

 

 

「ああ。ロクサーヌが幸せでヘトヘトになるまで、いっぱいご褒美をくれてやる」

 

「ッ〜〜〜///........では、期待して帰ってきます」

 

「ロクサーヌ........」

 

「シンさん........」

 

 

 見つめ合う二人、お互いの唇が徐々に近づいていく。

 

 

「アンタら、朝っぱらから何やってんだい。行くならちゃっちゃと行きな」

 

 

 ずぅ〜っと二人の様子を見ていたカトレアがとうとう我慢の限界を迎え、口を挟んだ。その表情は心底呆れた様子である。

 

 そんなカトレアの苦言を素直に受け入れたロクサーヌは、シンの頬に軽くキスをしてベヒモス討伐に向かった。そしてシンとカトレアの二人は、元気よく駆けていくロクサーヌに軽く手を振りながら見送った。

 

 

「まったく、朝っぱらから甘ったるいモノ見せつけてんじゃないわよ。あの子の男ならもうちょっとシャキッとしなさい」

 

「.........へい」

 

「返事は“はい”」

 

「........はい」

 

 

 なんだか口煩い姉が出来た様な気分になったシン。実際カトレアはロクサーヌの義姉に当たる為、可愛い義妹の男にはちゃんとして欲しいのだろう。義姉妹揃ってしっかりしていらっしゃる。

 

 ちなみにシンはこの四日間、カトレアから言葉使いや上に立つ者としての立ち振る舞いについて色々と教えてもらっていた。シンとしてもこの件にはカトレアに感謝しているし、シン自身も彼女を姉の様に慕っている。だがその反面で若干口煩い義姉だなぁ〜、などと思っていたりもする。まあ、ある種の慣れである。

 

 

(絶対男を尻に敷くタイプだよなぁカトレアって......こいつと結婚する男は苦労しそうだ.......)

 

「.........アンタ、今私に対して失礼なこと考えてたろ?」

 

 

 カトレアがギロリと鋭い眼光を向けてきた。

 

 

「滅相も御座いません姉上。おっとレグルス達と約束あったのでした。では私は此処で失礼致しますッ」

 

 

 恐ろしく勘のいいカトレア。小言を言われる前に逃げの選択をしたシンは、早口で捲し立て早々にその場を離れて行った。

 

 呆れた様に笑みをこぼしたカトレアはシンの背中を見送り、ふと彼女の視線がフィレモンの大樹に向けられた。

 

 優しく心地よい風が大樹の葉を揺らし、体に染み渡る様な緑の匂いがカトレアの肺を満たした。

 

 

(まったく。随分と世話のかかる王様だよ.........けど、シンは親父(アンタ)達の想いを繋ごうとしてる。親父(アンタ)がシンに夢を託した気持ちはなんとなくわかるよ。アイツには不思議な力がある、人を惹きつける力。アイツに着いて行けば何か見せてくれるって言う予感がね...........)

 

「..........まっ。まだまだ世話の焼ける弟分って感じだけど」

 

 

 溜息混じりにそんな事を呟くカトレアだが、その表情はどことなく(たの)し気であった。

 

 そして彼女もまたシンやロクサーヌと同様に、ロバートの想いを繋ごうとする一人。

 

 いずれ訪れるであろう狂った神との決戦。その日に備え、今日もカトレアはこの里の実力者と共に魔法の修練に励む。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 さて、ロクサーヌを見送りカトレアの元から離れた(逃亡)したシンは、カトレアに告げた通りレグルス達赤獅子が暮らしている里にやってきていた。

 

 シンはアリエル戦からの帰還時にバウキスがロクサーヌに渡していた転移魔法の指輪を受け取り転移して来た。と言っても直接赤獅子の里に転移したわけではなく、最初雪原からカタルゴ大陸にやって来た時足元にあった魔法陣、その場所への転移だ。

 

 魔人族の里から赤獅子の里まで行くのでかなりの時間を費やす。往復で半日以上、出発の時間が遅ければ最悪日没後になってしまう。

 

 そこでシンは時間を考慮し、敢えて指輪に設定された転移陣へと転移した。元々指輪に付与された空間魔法の転移は、指定した座標への移動という物。設定された転移陣は赤獅子の里にも近い為、この方法でいつも転移している。まあ帰りは自力なのだが、力魔法を使えば多少は早く戻れる。

 

 そしてシンが赤獅子の里に到着し、毎度の様に赤獅子の子供達に揉みくちゃにされつつ、レグルスとレオニスそしてレグルスの奥さん達が迎えてくれた。

 

 

『来たか、シン』

 

『おお、シン!今日もよろしく頼むぜ!』

 

「ああ。んじゃ早速やりますかっ」

 

 

 赤獅子の子供達はレグルスの奥さん達が回収され、ようやく解放されたシンはレオニスに手を翳した。

 

 するとレオニスの身体に異変が起きた。

 

 シンの虹霓の魔力に包まれたレオニスの全身がドクンッドクンッ!と脈動し、外側から圧力がかかっていくかの様に徐々に巨体が縮んでいく。

 

 体の重心が失われていく様な感覚に襲われるレオニス。内臓が浮き上がり、骨が外れ、胃や心臓の位置が変わり、自分の体が自分の物じゃない様な感覚を覚えた。そしてそれが五分以上も続き、ようやくそれが無くなった後、レオニスの身体は()()()になっていた。

 

 

「ふぅ〜。この体も、この三日間でだいぶ慣れたな」

 

『フム。いつ見ても不思議な物だな、自分の息子が()()()()()など』

 

「まあ正確には人の形をした限りなく人に近い魔物だけどな」

 

 

 現在のレオニスは身長二メートル以上の巨体を持つ、()()の大男の姿をしていた。引き締まった筋肉が隆起した姿は、筋骨隆々でまさに益荒男といった姿をしており、太い逞しい腕、分厚く硬い胸板、板チョコの様にくっきりと引き締まった腹直筋とウエスト、無駄な肉など欠片も無い臀部、太くスラッと伸びた健脚となっている。さらに凛々しく精悍な顔つきで、整った顔立ちはイケメンと表現するよりハンサムと言った方が良いだろう。力強い瞳とその周りには縁取ったアイメイクの様な黒い模様がある。そして赤獅子と言えば赤く長い立髪で、人間の姿をしたレオニスの頭には鮮やかで綺麗な長い赤髪が生えていた。

 

 シンがレオニスに行ったのは、氷雪洞窟で獲得した神代魔法の一つ、変成魔法の[天魔転変]。魔石を()()()()()し、それを媒介にレオニスの体を人間大の姿形に変容させたのだ。

 

 元々赤獅子には魔石が備わっておらず、シンが一から魔石を精製した。その性質はシンの緻密な魔力制御とイメージ力によって人の肉体へと変容させる物となった。その結果、分類上はあくまで魔物。しかしその見た目はまさに人間その物であり、誰がどう見ても魔物とは思わないだろう。その巨体を除いては。

 

 

「さすがにこれ以上体を縮めるのは無理だな。どうだ、違和感とか無いか?」

 

「ああ、バッチリだ。最初の頃に味わったあのシラミに襲われる様な激しい痒みはない.......」

 

「あ〜、いや、あの時はほんと悪かった。いやほんと......」

 

 

 レオニスのジトッとした目がシンに刺さり、つい目を逸らしてしまう。

 

 最初シンがレオニスに[天魔転変]をした際、レオニスは今の姿より二回り以上の巨人になり、シンの目の前にはレオニスの股間にある雄の象徴たるアレがぶら下がっていた。その余りのデカさとそれがいきなり目の前に現れた事に驚き、シンの魔力制御が狂い、レオニスは全身シラミまみれになった様な気も狂わんばかりの激しい痒みに襲われたのだ。

 

 痒みでのたうち回るレオニスを見てシンとレグルスは大爆笑。魔法を解いた事でレオニスは痒みから解放されたが、ちょっとしたトラウマになったらしい。

 

 

「まあ、あれ以降ちゃんと成功してるからもういいが........間違っても同じことはするなよ?」

 

「はい。もうしません.......」

 

『俺としては奔放息子にお灸を据えられたから満足しているのだがな。シン、こいつが旅の途中で余計な手間をかけさせる様な遠慮無くシラミまみれにしてやってくれ』

 

「勘弁してくれぇ.......。もう、もうあの痒みだけは懲り懲りなんだ........」

 

「あはは.........ま、まあその話は置いとくとして。体の維持も今のところは問題無さそうだな。下げた耐性を戻せば元の体に戻れるが、その度に魔法を掛け直さないといけないからコレを持ってきた」

 

 

 するとシンは懐にいたバウキスに、ちょいちょいっと手で合図を送り、バウキスが異袋からひし形の赤い宝石がついた耳飾りを一つ取り出した。

 

 

「それは?」

 

「ロンさんが作ってた魔力の回復速度を上げる効果が“耳飾り”だ。それに俺の天魔転変を付与してあるから、これを身につけておけばお前次第でいつでも[人化]出来る」

 

「ロバートが作った物を俺が貰って良いのか?」

 

「良いな決まってるだろ。確かにロンさんが残してくれた魔道具は俺達にとって形見みたいな物だけど、使わなきゃあの人の意志に反しちまうからな。それにお前が()()()()()()祝いの品みたいな物さ。だから遠慮せず受け取れ」

 

「.........わかった。ありがたく頂戴する」

 

「ああ!」

 

 

 レオニスは耳飾りを受け取り、それを自身の左耳に身につけた。

 

 先程もシンが述べた様にその耳飾りにはロバートが付与した魔力回復速度上昇と、シンの天魔転変が付与されている。

 

 元々赤獅子は“魔力”“魔耐”を除く全体ステータス値が高いため、当然耐性値も高く、レオニスもその例外ではなかった。高すぎる耐性は魔耐が低くとも上級魔法を簡単に跳ね除ける程だった。そのためシンの変成魔法[天魔転変]も掛かりにくかったのだが、レオニスはわざと耐性値を下げることで魔法の抵抗力を弱め、天魔転変による人化を成功させたのだ。しかし耐性値を上げる事で人化は簡単に解けでしまうので、この四日間レオニスには無意識下でも耐性値をコントロール出来る様にしてもらい、その間にシンは天魔転変の効率化を図り最適化された術式を耳飾りに付与し、それをレオニスに渡したのだ。

 

 そして祝いの品というのはレオニスが戦士になったからで、レオニスは一つの区切りとしてベヒモスを倒してきたからだ。そのおかげで里の者からはもう“臆病者”や“弱虫”などと言われたりしておらず、レグルスは特例としてレオニスがシンの旅に同行する事を許したのだ。

 

 だが旅に同行するなら赤獅子の姿をどうにしなければならない。そこで今の人化の修練に至ったというわけだ。

 

 ちなみにロクサーヌが現在戦っているベヒモスは別の個体。ベヒモスは単体から分裂して増える魔物らしく、古来から赤獅子の戦士の儀式では倒したベヒモスの角を一本その場に捨てるのが習わしらしい。そこからベヒモスは分裂して増え、獲得した固有魔法も引き継ぐそうだ。おそらくだが赤獅子と戦う以前のベヒモスが、そういう固有魔法を持った別の魔物を食ったからだろう。「それ野放しにして平気なの?」とシンが尋ねたら、レオニスが「親父がいるから」と一言で済ませた。最終兵士レグルス、正直ガチの戦闘を避けたいと心底そう思ったシンだった。

 

 

「じゃあいつもの通り、戦闘訓練やりますかっ」

 

「ああ、頼む。この体での手加減も大分コツは掴んだが、まだまだ微調整が難しいからな、最後の仕上げと行こう。それじゃあ行ってくる、“メガーラ”」

 

『ええ。行ってらっしゃい、“貴方”』

 

「おう!」

 

 

 レオニスは振り返り一頭の雌の赤獅子“メガーラ”に出かけの挨拶し、言葉をかけられたメガーラは微笑みながら手を振っていた。

 

 実はこの数日間でレオニスは結婚していた。

 

 結婚相手であるメガーラとは幼馴染らしく、レオニスがベヒモスを倒し戦士の儀式を終えてすぐに結婚したのだ。二人はとても仲が良く、メガーラもまたファナリスの名を受け継いだ戦士である。そんな彼女はレオニスの夢を密かに応援していた一人であり、二百年以上も未婚のまま彼が戦士になる日を待ち続けていたそうだ。それを聞いた時は二人の冷め切らぬ愛情深さにシンも感嘆の声を上げたぐらいだ。

 

 ちなみにメガーラは、雌の赤獅子達の中でも絶世と呼ばれる程の美女らしい。いや、この場合は美雌だろうか?

 

 

「相変わらず仲が良い夫婦だなぁ........(帰ったら俺もロクサーヌとイチャイチャしよっと).........レグルスはどうする?」

 

『勿論同行する。息子の成長具合も見ておきたいからな。それに、シンも俺が居た方が魔装の練習にもなるだろ』

 

「ま、まあそうなんだがぁ........頼むから加減はしてくれよ?」

 

『ん?フム、心得た』

 

 

 シンの言葉の意味をたぶん理解していない様子のレグルス。赤獅子の最終兵器レグルス相手では、さすがのシンも現状では勝てる気がしない。もうこいつ一人で神倒せんじゃね?と内心思っていたりするが、それを口に出すのは藪蛇である。

 

 そんなこんなでシンとレオニスそしてレグルスは、赤獅子の里よりさらに奥にある赤銅色の荒野にやってきた。

 

 そこは普段赤獅子達が本格的な模擬戦で使用する場所らしく、カタルゴ大陸に生息する強力な魔物達が生息している。その風景はさながら地球のアメリカにある有名な観光スポット“モニュメントバレー”に似ているかもしれない。

 

 

「さて、今日はどの魔装で相手してくれるんだ?」

 

 

 そう訊いてくるレオニス。そんなレオニスの問いに対し、シンは上着を脱ぎ捨てながらバウキスを体に巻きつかせ、ポキポキと指を鳴らしながら答えた。

 

 

「今日は“素の俺”と近接戦だ。大技ばかりの魔装を使ったら、手加減の練習にならないだろ?それにロンさんが残した色んな武器の使い心地も試しておきたいからな」

 

「了解だ。じゃあ遠慮なく行くぜっ」

 

「.........ああ。バウキス、太刀だ」

 

 

 シンはバウキスの異袋から“太刀”を取り出し、それを構えた。

 

 そして二人の模擬戦が始まった。

 

 元の体より数段威力も速度も膂力も落としてあるレオニスだが、それでも彼の身体能力は遥かに高い。それこそ真の神の使徒ノイントと互角以上に戦える具合には。

 

 そんなレオニスはシンに肉薄し両腕両脚を唸らせ、殴撃、蹴撃と豊富な格闘術を披露する。それに対しシンはその攻撃を太刀で捌きながら遠慮無く切り掛かる。シンの斬撃が迫ればそれを拳で弾く。

 

 二人の攻防を何も知らない他人が見れば、ハイレベル過ぎて意味がわからなくなるだろう。

 

 

「頼むから壊さないでくれよ。どんどん脆い奴に切り替えて行くから、そのつもりで加減してくれ。バウキス、次、三節棍」

 

「それはお前次第だろっ!」

 

 

 そんなやり取りしつつ、シンは太刀から始まり三節棍、槍、長剣、鎖鎌、旋棍、両刃剣、大剣、鉄棍、双節棍、短剣と様々な魔道武具に切り替えていく。それを適切に対処し、壊れない様に手加減をするレオニス。

 

 そんな模擬戦を一時間以上続けた二人。シンはまだまだ余裕がありそうだが、レオニスは途中から調節に集中するあまり何度もシンの攻撃を喰らって割とボロボロになっていた。

 

 

「イッてて.....人の体はやっぱ脆いなぁ」

 

「その割には割と平然としてるじゃないか。まあ、人化の維持は十分だが、手加減に集中するあまり手数が明らかに減ってたな。加減の調整にはまだまだ時間がかかりそうだな」

 

 

 そう言いながらシンはフェニクスが宿る短剣を抜き、レオニスにその矛先を向けた。

 

 

「〝癒せ、フェニクス〟」

 

 

 途端レオニスの体は赤黄色の炎に包まれ、その炎は体を焼くこと無く、レオニスが負った傷をジューッと焼ける様な音と煙を上げて癒した。そして全ての傷が癒えた後、その炎は自然と掻き消えた。

 

 シンの短剣に宿る精霊(ジン)“フェニクス”。

 

 その力は名前通りのモノで、不死鳥の如き復活の力を授ける“癒し”と火の鳥を彷彿とさせる赤黄色の“炎”を司る。

 

 レオニスの傷を癒したのもこのフェニクスの力だ。

 

 

「最初炎に包まれた時は殺す気か!って思ったが、今では慣れたもんだ。ほんとお前の持つ金属器って奴は不思議な代物だな」

 

「俺から見たらお前達赤獅子も十分不思議だがな。いや、どちらかと言うと異様だな」

 

「酷い言い草だな」

 

「だってお前の親父、俺が全力で放ったバアルの雷撃を受け止めたんだぞ?!もう恐怖しかなかったわ」

 

「いや、あの人はほら存在自体が伝説級だから。親父と比べないでくれ」

 

「あれを見た時俺ちょっと凹んだし、バアルは攻撃を受け止められた事に驚きつつも終始闘争心燃やしてたしで板挟みの俺は複雑だったんだぞ?最後は大咆哮で吹き飛ばされたし、異様っていうか怖かった」

 

「ア、ウン、ミテタ」

 

 

 赤獅子の最終兵器レグルス、彼の力は底知れないモノだった。

 

 魔装の完成度をより高めるためにシンの特訓に加わって貰った事で魔法の完成度はより高まり、他の精霊(ジン)の魔装も複数習得できた。しかし、彼の圧倒的な力の前にシンは只々脱帽の気持ちしかなかった。アリエルを吹き飛ばした魔装バアルの雷撃も受け止められ、他の魔装による攻撃もバアルの時と同様に受け止められてしまったのだ。

 

 流石のレグルスも魔装状態のシンの攻撃に無傷とはいかなかったが、それでも恐怖は刻み込まれた。

 

 だからこそ気付かされた。最初にレグルスと戦った時、彼がどれだけ手加減していたのかを。

 

 

(あの時、もしレグルス(あいつ)が本気だったら..........ぅぅ、考えただけで股間が縮こまりそうだ.......)

 

 

 まあレグルスとの模擬戦のお陰で、シンはバアルの他に〝フェニクス〟〝アガレス〟〝フォカロル〟の魔装も習得出来たのだが。

 

 

『修練はもう終わりか?なら、次は俺がシンの相手をしよう。今日まででシンが習得した魔装は四つ。せめてあと一つは強制的に習得させてやろう』

 

「今強制的にって言った?ねぇ言ったよねっ!頼むから手加減してください!ほんっと、頼むからっ!!」

 

「あ、俺下がってますんで」

 

「レオニス君っ!?」

 

『では行くぞ、シン!足腰立たなくなるまで殴撃を馳走してやろう!』

 

「な、えっ?ちょっ?....ぅ、うぉおおお!やったろうじゃねぇかぁ〜っ!!」

 

 

 その後、赤獅子達の修練場では雷、炎、土、風の巨大な柱が立ち、広大な大地を耕した。その様子はさながら天変地異。しかし、そんな天変地異の渦中で『こんなものか、シンッ!!』と、巨大な赤獅子が大気を大きく振動させ、大地を砕く様をレオニスは遠い眼差しで安全地帯から眺めていた。

 

 後半から四属性の柱に、氷の柱が加わっていたのでレグルスの目論見通り、シンは精霊(ジン)“キマリス”を使いこなせる様になった。

 

 満身創痍で心身共にボロボロとなり、魔力もスッカラカンとなったシン。そんなシンは夕日が沈む頃、人化状態のレオニスの背に揺られ、ぐったりした状態で魔人族の里に帰還した。

 

 そして先に魔人族の里に戻っていたロクサーヌが、レオニスからシンを受け取ったあと、愛しい女性の膝枕でシンは気力を回復させた。

 

 

「頑張りましたね、シンさん」

 

「ぁぁぁぁ〜、癒されるぅ〜」

 

「まったく、だらしない姿だねぇ。結局ロクサーヌがシンにご褒美をあげてるじゃないかい」

 

「まあ無理もなかろう。シン殿の特訓相手はあのレグルス殿、この大陸一の覇者を相手に緩慢な態度を取るなと言うのは無理からぬ話だ」

 

「そうだぞカトレア、カマル老の言う通りだ!お前はレグルス(あいつ)の恐ろしさを知らないんだ!」

 

「意外と元気じゃないかい.......」

 

 

 クワッと目を見開き、カマルの言葉に果てしなく同意してみせるシン。絶賛ロクサーヌに膝枕&頭ヨシヨシをしてもらいながら。

 

 そんな締まらない態度を取るシンの姿にカトレアは、なんとも言えない気分にさせられた。

 

 

「ところでロクサーヌ、今日はどうだった?」

 

「はい、バッチリです!ちゃんとベヒモスを倒してきました!」

 

「フッ、そうか。流石だな、俺のロクサーヌは」

 

「はい、当然です。何せ私はシンさんのロクサーヌなんですから!」

 

「「........はははっ(ふふふっ)」」

 

「ふふ、相変わらず御二人は仲が良いですな」

 

「まったくだよ.......」

 

 

 シンとロクサーヌの仲睦まじい姿にほっこりした様子のカマル、そして呆れつつもなんだかんだ嬉しく思えたカトレア。幸せそうな二人に胸がいっぱいになった。

 

 その後、完全に復活したシンはロクサーヌとカマル、そしてカトレアの四人で夕食を取り、明日ライセン大峡谷に向かう事を伝えた。

 

 夕食の後、シンは魔人族の里にある公衆浴場で汚れを落とし、朝の約束を果たすべくロクサーヌと共に寝泊まりをしているツリーハウスに戻り、溢れんばかりの情欲をロクサーヌにぶつけた。お互いに命懸けの戦闘の後という事もあってか、二人の夜はいつも以上に燃え上がったそうだ。

 

 

 

....................

 

..............................

 

..........................................

 

 

 

 そして迎えた翌朝。

 

 シンとロクサーヌはロバートの遺灰が埋められた石碑の前にいた。

 

 

「それでは師匠、行ってきます」

 

「ロンさん、どうか見ていてください。俺が必ずこの世界を変える様を.........。じゃあ行ってくるよ。カトレア、カマル老」

 

「ああ、行っておいで」

 

「何かあればいつでもお戻りください。里の者も皆、シン殿のためなら助力は惜しみませぬゆえ」

 

 

 ロバートに旅立ちの挨拶を告げた二人。そんな二人にカトレアとカマル老は思い思いの言葉をかけた。

 

 

「ああ、助かる........みんなも見送りありがとな!じゃあ行ってくる!」

 

「シン殿、どうかお達者で!」

 

「戻って来たらまた酒を飲みましょう!」

 

「俺達シン殿とロクサーヌ殿のためなら力になります!」

 

「シンお兄ちゃん、またね!」

 

「帰って来たらまた遊んでくださいねっ!」

 

「王様〜、帰ってたら私のことも貰ってくださいね〜!」

 

「私は言葉責めがいいですぅ〜」

 

「あ、ずるい!じゃあ私はその逞しい腕で抱きしめて欲しいです!」

 

 

 里のみんなもシンとロクサーヌを見送りに来ており、二人に声をかけて来た。ん?なんか後半聞き捨てならぬ声が聞こえたが.......ハッ、殺気!?

 

 ロクサーヌさん、ちょっとオコなご様子。シンの背中にチクチクと視線が刺さった。

 

 

「シンさん、レオニスの姿が見当たりませんが?」

 

「ん?ああ、もうすぐ来るぞ」

 

 

 レオニスの姿が見当たらず、辺りを見回していたロクサーヌがシンにそう問いかけた。それに対してシンが簡単に答えた時、森の奥から里の門を飛び越えて来た巨大な影が現れた。

 

 

『待たせたか?』

 

 

 それは赤獅子姿のレオニスだった。

 

 

「いいや、ちょうどいいタイミングだったよ。それよりお前、本当に奥さんと離れ離れになって良かったのか?」

 

『まあ、寂しくないかと聞かれたら嘘になるが、メガーラは俺の気持ちを誰よりも理解している最高の妻だ。それに俺がここでお前に着いて行かないと言えば、あいつはきっと怒るだろうからな』

 

「そうか。いい嫁さんをもらったなっ」

 

『へへ、だろ?』

 

 

 誇らしげに笑みを浮かべ、胸を張るレオニス。まあレオニスには悪いが最高の嫁さんになるのはウチのロクサーヌだけどな。

 

 するとロクサーヌが一歩レオニスに歩み寄って、軽くお辞儀をした。

 

 

「レオニス、改めてよろしくお願いします」

 

『ああ、こちらこそだロクサーヌ。共にシンの道を我等で支えようではないか』

 

「ええ」

 

「それじゃあ、行くとしますかっ!」

 

「『はい!(おう!)』」

 

 

 シンの掛け声にロクサーヌとレオニスは力強く答えた。

 

 それと同時にレオニスは自身の左耳につけている耳飾りに魔力を通し、大柄な男に変身する。

 

 そして三人は里の奥に設置されていた、銀色のモノリスの前にやって来た。そこにシンが手を触れると、モノリスに刻まれた文字が浮かび上がる様に発光し、三人の足元に魔法陣が広がった。

 

 

「初めての冒険前の感想はどうだ、レオニス?」

 

「はは、ワクワクが止まらないな」

 

「レオニス、遊びに行く訳じゃないですからね?」

 

「まあ、いいじゃないかロクサーヌ。初めての冒険に出る時は誰だって興奮するもんさ。だが、今から行く場所は神の目が行き届く世界だ。何があるかわからない。それこそ俺達の力は確実に教会から異端者認定されるものだからな」

 

 

 レオニスとロクサーヌは重く険しい表情になった。

 

 シン達の背中には大勢の者達の夢や願いが託されている。

 

 その想いと願いを叶えるために、彼らは歩まなければならない。だがーーーー

 

 

「そんな硬い顔をするなって二人とも。確かに神達が長年築き上げて来た物は重く根強い。俺達がきっと相手にするのはそんな世界の歴史そのものだーーーけど、そんな物は関係ない!相手が世界の歴史なら、俺達は世界を作って来た物達で対抗するんだ!人間や亜人、魔人族に魔物、そして赤獅子達全員の力で世界の歴史をひっくり返す!それが俺の夢の第一歩だからな!」

 

 

 真っ直ぐで力強く、堂々とした気高い瞳が二人を見つめた。

 

 彼は何一つ臆していない。ただこの先に待ち受けているであろう困難や出会いを信じているのだ。きっと自分達が目指す道標になると。

 

 恐れず突き進もうとする彼の瞳を見て、二人は険しい表情を崩し、朗らかに笑って見せた。

 

 

「お前はそういう奴だったな、シン」

 

「ええ。だからこそ私達も迷わず進めます」

 

「準備はいいか、お前達!」

 

「「ええ!(ああ!)」」

 

 

 そして足元の魔法陣はより一層の輝きを放ち、三人の体を優しく包み込んだ。まるで誰かが三人の背中を押してくれる様な懐かしい手の温もり、そんな感覚を覚えた。

 

 

「行ってくるぜ、ロンさん」

 

ーーー〝ああ。行ってこい〟

 

 

 誰かが微笑みながら言葉をかけた声が聞こえた。

 

 それが誰なのかはわからない。

 

 だが、モノリスの前に立っていた三人の姿が消えた時、何の偶然かフィレモンの大樹の根元にある石碑の横に小さな芽が生えたのだった。

 




いざ、ライセン大峡谷へ。
というわけで、今回はロバートのちょっとした昔語りと旅立ち前の準備期間の話でした。そろそろハジメ達や王国メンバー、愛ちゃん親衛隊の話も書こうと思います。

ちなみにレオニスの人化とシラミまみれ事件はYouTubeの“まにむ”さんのチャンネルで見られる「笑い過ぎて一生忘れられないTRPG」でのワンシーンをパロディした物です。気になる方は是非YouTubeで見てみてください。


補足


『ステータス』

==========================================

要 進 17歳 男 レベル85
天職:付与魔術師  職業:冒険者 ランク:紫
筋力:1500 [+英傑試練効果1000〜?]
体力:1500 [+英傑試練効果1000〜?]
耐性:5000[+英傑試練効果1000〜?]
敏捷:1200 [+ 英傑試練効果1000〜?]
魔力:15000 [+ 英傑試練効果1000〜?]
魔耐:16000[+英傑試練効果1000〜?]
技能:付与魔法[+身体強化付与][+攻撃力上昇][+防御力上昇][+自然治癒力上昇][+消費魔力減少][+魔力譲渡VII][+魔法強化付与][+重複付与][+環境耐性付与][+状態低下付与][+認識阻害付与][+部分強化付与][+イメージ補強力上昇][+イメージ付与構築][+無陣行使][+詠唱簡略][+鑑識][+付与持続時間上昇][+魔力付与III][+魔力回復効率上昇] [+魔法付与][+全体付与][+空間付与][+力魔法]
想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+想像構築最適化][+術式解体]
魔力操作[+魔力放射][+効率上昇][+魔力圧縮][+緻密制御][+遠隔操作]魔力変換[+魔力吸収]
英傑試練[+能力上昇][+戦闘続行][+矢避][+弱体化無効][+強壮][+スタミナ上昇]
瞬光[+天眼][+並列思考][+空間掌握]
豪腕[+覇拳][+発勁]
豪脚[+驀進][+震脚][+縮地]
環境耐性・凍結耐性・乱酒・酩酊・限界突破・念話・威圧[+覇気]
特異点[+超直感][+気配感知][+魔力感知]変成魔法・言語理解

==========================================

シンが所有する七体の精霊(ジン)と金属器
【バアル】〜刀剣に宿る精霊(雷魔法、武器化、全身魔装)
【フォカロル】〜右手首の腕輪に宿る精霊(風魔法、全身魔装)
【キマリス】〜金の首飾りに宿る精霊(氷魔法、全身魔装)
【フェニクス】〜短剣に宿る精霊(火魔法、武器化、全身魔装)
【アガレス】〜銀のタリスマンに宿る精霊(土魔法、全身魔装)
【クローセル】〜左手首の腕輪に宿る精霊(光魔法、武器化魔装)
【ゼパル】〜右手中指の指輪に宿る精霊(音魔法)

※金属器が壊れた時の為に予備の貴金属の装飾品を身につける様にと言われた。銀の首飾り、両耳に金の耳飾り、銀の髪留めを身につける様にした。


==========================================

ロクサーヌ 20歳 女 レベル:55
天職:獣戦士
筋力:200
体力:250
耐性:200
敏捷:300
魔力:2500
魔耐:2700
技能:獣戦術[+攻撃速度上昇][+斬撃威力上昇][+駿足][+無拍子][+危機感知][+気配感知][+気配遮断][+魔力消費量減少][+第六感][+急所知覚][+嗅覚強化]
魔力操作[+魔力放射][+身体強化][+部分強化][+金剛強化][+変換効率上昇][+魔力圧縮][+緻密操作]
剣術[+流水剣][+剛剣][+投剣][+斬撃速度上昇][+連撃加速][+イメージ補正強化]
豪脚[+縮地][+震脚][+爆縮地][+神速]
威圧・念話・凍結耐性・雷属性耐性・限界突破・変成魔法

【??????????】
・魔剣アンサラに宿る??????


===========================================

レオニス 216歳 男 レベル:???
天職:戦士
筋力:17000 [人化解除時:17000〜?]
体力:17000 [人化解除時:17000〜?]
耐性:17000[人化解除時:17000〜?]
敏捷:17000[人化解除時:17000〜?]
魔力:1000
魔耐:1000
技能:人化[+大咆哮][+第六感][+生命感知]魔力操作[+魔力制御][+魔力消費減少]

=========================================

・赤獅子達の中で上位に入る強さ(ちなみにレグルスのステータスはもっと上)
・左耳に赤い菱形の宝石がついた耳飾りをつけている。

(ちなみに人化したレオニスの容姿は漫画版Fate/strange fakeに登場するヘラクレスをイメージしています。健康的な肌色の赤髪バージョンです)


=========================================


「赤獅子達の修練場」
・赤獅子の里からさらに奥に行った場所にある赤銅色の荒野。広い間隔で岩山がいくつか点在しているが、元々は岩山が多数見受けられた山脈地帯だったが、長い年月赤獅子達の修練のよって山脈は破壊され、平らな大地に仕上がった。
(イメージはアメリカ西南部にある有名な観光スポット“モニュメント・バレー”)


『登場した魔道武具』

「太刀」命名:雷切
・ロバート謹製の三番目の最高傑作。アーティファクト。雷魔法と空間魔法が付与されている。ロクサーヌがこの太刀を使い、バアルの雷撃を切った事から名前が「雷切」と名付けられた。

「三節棍」
・ロバート謹製のアーティファクト。魔力の衝撃変換が付与されている。当たったらクソ痛い。クッソ頑丈。

「槍」
・ロバート謹製の魔道武具。方天戟の様な物。めっちゃ頑丈。風魔法が付与されている。

「長剣」
・ロバート謹製の魔道武具。人一人分の長さの刀身。わりと頑丈。

「鎖鎌」
・ロバート謹製の魔道武具。魔力操作で自在に操れる。少し頑丈。

「旋棍」
・ロバート謹製の魔道武具。金属製トンファー。魔力の衝撃変換が付与されている。めっちゃ頑丈。

「両刃剣」
・ロバート謹製の魔道武具。柄にも刃があるロングソード。ぶんぶん振り回して相手を切りつける。わりと頑丈。

「大剣」
・ロバート謹製のアーティファクト。別名「ドラゴン○し(なんとなくシンが命名)」シン曰く、「それは剣と言うにはあまりにも大きすぎた。大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。それは正に鉄塊だった......」
意外と頑丈。刃こぼれ一つしない業物。魔力を喰らいながら威力を上げる。

「鉄棍」
・ロバート謹製の魔道武具。意外と脆い。

「双節棍」
・ロバート謹製の魔道武具。多少は頑丈。

「短剣」
・ロバート謹製の魔道武具。心配になる程度には脆い。



『登場したキャラ』

「メガーラ」
・レオニスの奥さん。レオニスとは幼馴染でお互いの両親に隠れて密かにイチャコラしていた。戦士としての腕も高く、赤獅子達の中でも美女ともっぱら呼ばれるほどの雌。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。