ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

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はい。やってしまいました、二万文字超え。

早くライセン大迷宮に行きたい一心で書いた結果、こんな事になりました。

本当に申し訳ないです。

(※惰性による長文 注意)


雷の獣

 

 シンがフェニクスの武器化魔装を披露していた時、ロクサーヌはトレイシーと相対していた。

 

 

「流石、わたくしの未来の旦那様ですわね。あれほど極まったアーティファクトは初めてみましたわぁ..............それで、わたくしの相手を務めてくださるのは貴女かしらぁ?」

 

「はい、皇女殿下。シン様の代わりに私が貴女の相手を致します」

 

 

 ロクサーヌは腰に携えた魔剣アンサラを抜き、中段で構えた。そんな些細な動作を見たトレイシーは、「へぇ〜.....」と剣を構えただけのロクサーヌの一挙手に感嘆の声を漏らした。

 

 

「貴女ぁ、ただの狼人族ではありませんわね?お名前は確か、ロクサーヌ、と言いましたかしら?」

 

「はい。そうですが.........?」

 

「良くってよ、ロクサーヌ!その鋭い剣気と一分の隙も無い見事な構え、称賛に値しますわ。わたくしの部隊に欲しいくらいでしてよ?」

 

「帝国の皇女様にそう言って頂けるとは大変恐縮でが、私はすでにシン様に心も体も捧げた身、あの人の剣であり女です。お誘いは遠慮致します」

 

「忠誠心と言うより、“愛”、ですわね。貴女の様な武人の心すら射止めるとは、流石わたくしの旦那様ですわっ!」

 

「その旦那様って言うの、やめていただけませんか?私は()()、貴女がシン様の側室になる事を認めていませんよ?」

 

「あら?貴女の許可が必要でして? それにわたくしが側室になると、いつお話になりまして?」

 

「シン様の正妻は私です。その私の許可無く勝手にあの人を旦那様と呼ぶなど、例え帝国の皇女だろうと私が許しません」

 

「皇女であるわたくしの方が、正妻に相応しくなくって?」

 

「そもそも貴女はシン様に恋人とすら認められてませんが?」

 

「「............................ふふふふ(おほほほ)」」

 

 

 ロクサーヌとトレイシーの視線がバチバチと火花を散らす様にぶつかり合う。一人の男を巡って言い争う二人の女。女のプライドを賭けた戦いが、そこにはあった。

 

 そんな二人の様子を目の端で捉えていたレオニスとジュアル。二人は魔女達(ワルプルギス)の攻撃を受け止め、捌き、反撃し、リザ達姉妹を守りながら、シンに対して同情にも似た憐れみを抱いた。どうせ(シン)の事だから他にも女性を誑かすに違いなく、その度にロクサーヌが正妻の矜持を示し、夫婦間のパラーバランスが崩れるのは目に見えていた。

 

 

(ロクサーヌの尻に敷かれるのは時間の問題だな.......)

 

(王よ。何卒、ご武運........!)

 

 

 せめて自分達だけは、そんな(シン)一時(いっとき)だけでも女性関係の事など忘れさせて、楽しく酒を酌み交わそうと自身の胸の内で誓った二人。そんな誓いを胸に、二人はより一層激化する戦場でリザ達を守り続けるのだった。

 

 場面が戻り、バチバチと視線がぶつかりあうロクサーヌとトレイシー。

 

 

「では、貴女を倒してから、“ゆっくり”とその件について旦那様と語り合せていただきますわ」

 

 

 トレイシーが手に持つ細剣の切先をロクサーヌに向けた。

 

 

「残念ですがそれは叶いませんね。何せ、貴女では私に敵いませんから」

 

「言ってくれるではありませんか.........。では、どちらが旦那様の正妻に相応しいか、ここで白黒つけてしまいましょう。よろしくて?」

 

「ええ。望むところです」

 

 

 一瞬の静寂が訪れる。

 

 そして先に動いたのはトレイシーだった。

 

 ダンッ!と力強い踏み込みでロクサーヌに迫り、細剣による鋭い刺突を繰り出す。その一突きはロクサーヌの肩を狙ったが、ロクサーヌはそれが肩にヒットする寸前で躱し、反撃をーーーの前にトレイシーが二回目の刺突を放つ。それも躱わすが、再度刺突が迫る。

 

 ロクサーヌの反撃を許さない高速に狂い乱れる刺突の嵐。息つく間も許さない乱れ突き。トレイシーの踏み込みの力強さとは相反して、その剣技は優雅で華麗で洗練された動きだった。

 

 だが、ロクサーヌとてこの程度で根を上げる剣士では無い。迫る刺突を冷静に見極め、対処する。

 

 洗練された刺突に卓越した剣技で対応し、ーーーーいなし、躱し、捌き、弾き、ロクサーヌは余力を残し、後退する事なく、その高速乱れ突きを自身の体に一度たりとも掠らせずーーーー“一歩、踏み砕いた”。

 

 ロクサーヌが繰り出す清流の如き流麗な剣技が一転し、濁流の如き豪快な剣技に切り替わる。その剣技によってトレイシーの細剣が弾かれた時、腕が痺れ、ロクサーヌが大上段からの長剣を振り下ろそうとした。途端、ゾワッと嫌な予感を感じたトレイシーが咄嗟に距離を取る。

 

 トレイシーがその場から離脱すると同時に振り下ろされたロクサーヌの長剣、その刃が空を切る。だが、空を切った筈のロクサーヌの斬撃は地面に見事に切り裂いていた。斬撃の軌跡の先、その()()()()にあった地面を。

 

 

「ッ...........。斬撃を飛ばした........? いいえ、違いますわね。()()()()()、ですわね?」

 

「一撃で見破られてしまうとは、やはり貴女は目が良いですね」

 

 

 そう。先のロクサーヌの斬撃は飛んだのではなく、()()したのだ。それがロクサーヌが持つ、亡き師匠から受け継いだ愛剣〝魔剣アンサラ〟に付与された空間魔法の能力である。

 

 魔剣アンサラは斬撃の延長線上にある対象を直接切り裂くことが出来る。斬撃を飛ばす魔法は数多く存在するが、この魔剣は目標の対象を空間という隔たりを一切無視して斬撃を当てる事が出来る。それこそ具体的な相手との距離、位置、タイミングさえ合えば、魔力量次第で何処からでも切り裂く事が出来る。最も、ロクサーヌの魔力量では目視で捉えた相手との距離が五メートル以内でなければすぐにバテてしまうが.........。そしてこの魔法は斬撃を転移させるのではなく、斬撃を当てるための道をショートカットさせるというのが本質で、空間魔法の一つ[界穿]の応用なのだ。

 

 ちなみに、かつてシンとロクサーヌがロバート救出の際に行ったオリジナル神代級空間魔法〝進空〟はその特性を応用した物。座標の再設定、空間の把握、具体的な距離の演算、魔法の構築、それら全てを成すための膨大な魔力量と演算能力があり、尚且つそれを付与しても壊れない器と空間魔法の土台があったからこそ、あの魔法は初めて行使出来たモノ。もう一度やれと言われたら、きっとシンは力無く膝から崩れ落ちるだろう。それぐらい難しく、消耗が激しい魔法であった。

 

 話は戻り、ロクサーヌが手に持つ青白い刀身の長剣に視線を向けたトレイシーは素直に驚いていた。

 

 

「まさか、それ程の代物が、まだこの世に残っていましたとわね...........それともそのアーティファクトを製作された御仁は、何処(どこ)かにいまして?」

 

「............。残念ながら魔剣(コレ)を作り、私に託してくださった方は、すでにこの世を去りました」

 

「そうですか..........それはとても残念ですわ。出来る事ならわたくしにも一つ、その御仁に作っていただきたかったですわね」

 

「そう言って頂けるだけで、あの方も浮かばれます........」

 

 

 純粋にロバートの死を悼むトレイシーを見たロクサーヌは、彼女を見る目が少し変わった。優秀な者に対して素直に賛辞を贈る彼女には、確かに人を見る目があるのだろうと理解した。それこそが魔女達(ワルプルギス)を率いる彼女の、将としての才覚なのだろう。言動は可笑しいが、先程の帝国の皇子よりも理解出来る人物であるとロクサーヌは評価した。

 

 そんなトレイシーは狂おしい程にシンを見初めた。

 

 彼女がもし、今後シン()を支える一人となるのなら...........

 

 

(..........波乱の予感しかありませんが、まぁ、彼女の実力次第ですね)

 

「さて、では続きと参りますわよ、ロクサーヌっ!狼人族の貴女が魔力を使える事には多少驚きましたが、この際そんな事はどうでもいいですわっ!」

 

 

 するとトレイシーが持つ細剣が光輝き出した。発光するばかりだった光が細剣の刀身に向かってドンドン収束していく。

 

 

「〝光刃〟ですわぁっ!」

 

 

 トレイシーが光を纏わせた細剣をロクサーヌ目掛けて振り抜くと、その光が飛刃となってロクサーヌに向かってきた。

 

 それをヒラリと躱わすロクサーヌ。彼女の反応速度と華麗な身のこなしの前では、光の飛刃の速度など脅威にすらならない。しかし、「そんな事は知ってましてよぉ!」とばかりに、飛んでくる光刃の数がさらに増す。今度は光刃の乱れ切りである。

 

 それら全てを華麗な身のこなしで躱わすロクサーヌ。足元に飛んできた光刃をジャンプして躱わすーージャンプの瞬間を狙う第二、第三の光刃が十字になって襲いかかるが、それを空宙で体を捻り、背面飛びで躱わすーー着地の瞬間を狙った光刃の群、足を百八十度開脚させ地面に密着して躱わすーーなど、ロクサーヌがどう避けるのかわかっているかの様に飛んでくるそれらを、柔軟な体と軽やかなステップ、常人離れした反応速度で巧みに躱わす。その姿はまるでダイナミックに踊るストリートダンサーの様であった。

 

 ふとトレイシーはロクサーヌと目が合い、トレイシーはハッ!と目を見開く光景を目の当たりにする。

 

 片手で地面を跳ね飛び、側転したロクサーヌが逆さまに状態から剣を振った。

 

 まずいっ!と思ったトレイシーが瞬時に横跳びで回避する。転移してきた斬撃をギリギリ避ける事が出来たが、その回避は致命的な隙を生むことになった。

 

 一瞬でトレイシーとの距離を零にしたロクサーヌが逆袈裟で剣を振り抜こうとしていた。それを見た瞬間にトレイシーは胸の谷間から十個の指輪が通されたチェーンを取り出し、十枚の〝聖絶〟クラスの防壁を展開した。ロクサーヌの逆袈裟斬りを防ぐ防壁だが、トレイシーは肝心な事を忘れている。

 

 ロクサーヌの剣に()()()()()()()()のだ。

 

 振り抜かれたロクサーヌの斬撃がトレイシーの胸をバッサリと下斜めから切り裂く。それと同時に展開していた防壁が消えた。

 

 硬い胸当てを切り裂き、軍服すらも破いて、彼女の肌に少しばかりの傷を刻んだ。

 

 手加減された。それがトレイシーにはわかった。

 

 今の一撃、ロクサーヌならトレイシーの胸に深い切り傷を与える事も可能であった。だがそれをしなかった。何故ならシンが殺す事を望んでいないから。そんな単純な理由でロクサーヌはトレイシーに致命傷を与えなかったのだ。

 

 胸に受けた斬撃の勢いでトレイシーは尻餅をついており、切り裂かれた胸当てを手で押さえながらロクサーヌを見上げていた。

 

 そんな彼女を見下ろすロクサーヌは、トレイシーに対する評価を思惟していた。

 

 

(鍛えればまだまだ伸びそうですね。多少言動は可笑しいですが、シン様の国造りにあって損は無い人材です。体力も十分ありそうですし、側室候補としては上々です...........)

 

 

 トレイシーに対してそんな評価を下したロクサーヌ。

 

 そして周りの状況を見て頃合いだと踏んだロクサーヌは、剣腰の鞘に収めながら口を開いた。

 

 

「決着は着きました」

 

「わたくしはまだ降参しておりませわよ?」

 

「貴女がそうであっても、周りを見れば明らかです」

 

 

 ロクサーヌの言葉を聞きトレイシーが周りに見渡すと、すでに戦闘は終結していた。

 

 魔法で抉られ、焼け焦げた地面にワルプルギスの隊員全員が倒れており、お腹を抑えて蹲っていたり、苦痛で悶えていたりしていた。そんな彼女達は、傷を負った患部から赤黄色の炎がメラメラと燃え盛っていた。トレイシーはその炎を見て、ロクサーヌとの戦闘前に見たシンの不思議な治癒の炎を思い出す。炎が勢いを失い、それが鎮火されると彼女達が負っていた傷が炎と共に消えていた。その状況から察するに、シンが倒れているワルプルギスの隊員全員に治癒魔法を施しだという事が見て取れる。

 

 すると黄金の錫杖を持ち、肩に()()()()()()を担いでいるシンがロクサーヌとトレイシーの所にやってきた。肩に担いだ物?が何やらジタバタ動き、声を発しているが、シンはそれを無視してロクサーヌとトレイシーに声をかけた。

 

 

「降ろせ馬鹿っ!きゃっ!ちょっ、どこを触っているこの変態っ!私にこんな真似をしてタダで済むと思っているの!」

 

「全員無事だぞ。治療も済んでるし、誰一人死んじゃいない」

 

「おいっ!聞いてるのか!」

 

 

 そんな罵倒が聞こえて来るが、それを平然と無視するシン。

 

 シンの言葉通り、ワルプルギスの隊員は誰一人命を落としていない。

 

 治療をしたと言っても、治癒した傷の殆どが擦り傷程度の物ばかりで、レオニスとジュアルはシンの言いつけ通り誰も殺さずに彼女達を制圧して見せたのだ。ジュアルは苦戦していたらしいが、リザ達姉妹とバウキスの隣にいるレオニスはかなり余裕の表情を浮かべていた。もちろんリザ達姉妹には傷一つ付けられてはいない。

 

 そしてシンの肩にいる()()がジタバタと激しくもがいているのを見て、流石に無視できないと判断したロクサーヌがシンに尋ねた。

 

 

「あの、シン様。それは一体..............」

 

「ん?ああ、()()()のことか? 戦闘が終結してるのに一向に戦う気を収めないから、こうして担ぎ上げてるんだよ」

 

「いい加減降ろせ、変態っ!痴漢っ!色情魔っ!」

 

 

 シンが肩に担いでいる物、というか者。それはテルマだった。シンの正面にいるロクサーヌやトレイシーにお尻を向けて担がれている彼女は手足をジタバタさせ、シンの肩の上でもがいているのだがシンの体はその程度ではビクともしない。テルマの細い腰をがっしりと掴んで離さないシンの太い腕が、逃れることを許さなかった。

 

 帝国内に於いて、“血の魔女”と恐れられるあのテルマが手も足も出ず、簡単に拘束されている姿を見て、トレイシーが唖然としていた。

 

 

「一体何をしてるんですか?いえ、そもそも何があったらそうなるのですか?」

 

「お、聞いてくれるか?実はなーーーーー」

 

「おーろーせーーっ!!」

 

 

 遡ること数分前。

 

 フェニクスの武器化魔装“炎神錫杖(フェイル・アサヤ)”を展開したシンと、無数の血の鞭を操るテルマは戦闘を始めたのだが、意外にもその勝負は白熱するものであった。フェニクスの力でテルマが操る血に込められたデバフ効果を片っ端から無力化するシン、それに対してテルマは手数や質量で対抗した。シンが赤黄色の炎で血を蒸発させ、迫る血の鞭打を錫杖で叩き落とせば、テルマは血の形状を変え、千にも及ぶ血刃の雨を降らせたり、獣爪の様な大鎌に血の形状を変化させ切り裂こうとしたり、九つの首を持つ蛇みたいな血を操作したり、果てはシンを圧殺するために血の巨槌をぶつけて来たりと多彩な攻撃を仕掛けて来たのだ。

 

 だが、その悉くをシンは跳ね除けた。血の雨も錫杖で全て叩き落とされ、大鎌なのに拳で砕かれたり、九つの首の蛇は炎で焼き尽くされ、バットの様に振った錫杖で巨槌を砕いたりされ、呪い(デバフ効果)が込もった血は片っ端から無害化された。やることなす事全てが出鱈目なシンに、テルマは途中から泣きそうな顔でシンをキッ!と睨んでいた。それでも食いついて来るテルマ。レオニス達はとっくにワルプルギスの隊員達を片付けていたし、どうしたものかとシンは一度考え悩んだ末、出した答えが、肩に担ぐ事だった。正確にはシンの魔力変換の派生技能[魔力吸引]でテルマが血を生成・操作しようとする度に、その為に必要な魔力を吸い取っているのだ。

 

 血が自由に使えないテルマはただの小娘も同然。肩に担いだシンはテルマの体重が軽すぎて驚き、必死で抵抗する彼女のジタバタ攻撃なんてポカポカッと擬音が付きそうな程に非力でこれまた驚き。ここまで無害化してしまうと逆に哀れと言うか、むしろ小動物みたいで愛着を覚えるシンだった。

 

 そしてテルマはシンの肩の上で「馬鹿っ!」「変態っ!」「鬼畜っ!」「痴漢っ!」など罵詈雑言の嵐。そんなテルマと、彼女の罵倒(尻を揺らしながら)を飄々と受け流しテルマを肩に担ぐシンという二人の構図が完成したのである。

 

 

「ーーーーーーてなわけだ」

 

「「な、なるほど......(ですわ......)」」

 

「納得してないで、早くこの男をなんとかして下さいよ殿下っ!この男、さっきから私のお尻を触って来るんです!」

 

「おいコラッ、ロクサーヌの前で人聞きの悪い事を言うなっ!!」

 

「......................触ったんですか?」

 

「誓って言うが、俺は一度たりとも触れてない!ほんとだぞっ?!」

 

「嘘よッ!さっき私のお尻を嫌らしく撫で回してたじゃないっ!下卑た笑みを浮かべながらっ!」

 

「よくそんな嘘を平気で言えるな、おいっ!てかお前の尻はこっち側なんだから、俺の顔見えねぇだろうが」

 

「尻って言うなっ!せめて“お尻”と言いなさい!」

 

「なんのこだわりだっ!」

 

「..............貴方達、もしかして意外と仲が良ろしくて?」

 

「「良くないッ!!」」

 

「「息ぴったりじゃないですか......(ですわね......)」」

 

 

 意外と相性が良いのか、綺麗にハモるシンとテルマ。そんな二人の反応に対してロクサーヌとトレイシーの言葉も重なっていた。

 

 とりあえず戦闘は治り、現状のワルプルギスでは戦闘継続は不可能。しかも、負けた上で敵に治療を施され、シン達にはまだまだ余力があるのが見て取れる。

 

 トレイシーは諦めた様に一つ息を吐き、立ち上がった。

 

 

「完敗ですわね。今回の件、わたくしの独断と偏見で無かった事に致しますわっ!」

 

「な、殿下っ!?」

 

「宜しいのですか?皇女殿下ともなればそれも可能でしょうが........その、皇子の方は..........」

 

「構いませんわ。陛下、いえ帝国の考え方は弱肉強食、強い者が絶対のルールでしてよ。負けたバイアスお兄様が何を言ったところで、貴方達の勝ちは揺るぎませんわ..............それに、旦那様はわたくし達とこれ以上争う事を望んでいないご様子でありますしぃ、そういう事でしたらわたくしが全て揉み消して差し上げますわぁ!つまり職権濫用でしてよぉっ!」

 

「う、うん。それは有難いお話ですが..........その、トレイシー皇女殿下?」

 

「いやですわぁ 旦那様ったらぁ。わたくしの事はどうぞ気楽にトレイシーとお呼びしてよくってよぉ?」

 

「えっと........皇じょ「トレイシー、ですわ」........」

 

 

 ニッコリと笑顔を浮かべ、食い気味に呼び捨てを強要して来るトレイシー。譲る気は毛頭無いご様子である。まあ、呼び捨てぐらいは平気、だよな........?

 

 シンは先程から無言のロクサーヌの顔色を(うかが)ってみるが、特に変わった様子は見受けられない。いつものロクサーヌである。さっきまでシンに対してトレイシーが口にしていた“旦那様”呼びへの明らかな敵意もすっかり消えているし、反論もしていない。

 

 一体トレイシーと何があったのか。

 

 その理由はわからない。だが、ロクサーヌが言及しないのであれば、トレイシーを呼び捨てにする事ぐらい問題ないとシンは思い至った。

 

 

「じゃあ、トレイシー。その、旦那様って言うの、変えられないか?せめて“さん付け”にするとか」

 

「お断りですわぁ!」

 

「即答かいっ!」

 

「呼び方を変えるなんて、それではわたくしが貴方の事を諦めたみたいではありませんか。わたくし、欲しい物は自分で勝ち取る主義でしてよ。 “ねだるな!勝ち取れっ!さすれば与えられんっ!” ですわぁ!」

 

 

 この皇女様、リフボードで飛ぶ気なのか?その内、「アーイ キャーン フラーーーイ‼︎ですわぁ!!!!」とか言い出しそうだ。

 

 

「今回はロクサーヌに負けを譲りましたが、わたくしは何度でも正妻の座を狙いますわぁ!」

 

「え、そういう勝負の内容だったの.........!?」

 

「ですから、次は負けませんわ。よろしくって、ロクサーヌ?」

 

「ええ、望むところです。()()()()()

 

 

 ロクサーヌもトレイシーの事を呼び捨てにしていた。ロクサーヌが誰かを呼び捨てにするなど、早々無い。それこそ初対面の相手なら尚のことだ。一体、ロクサーヌはトレイシーの何を見てそんな風になったのか........

 

 

「.........というわけで、旦那様ぁ!わたくしを側室とお認めくださいましぃっ!」

 

「何が “というわけで”、だよ........。その話はさっきロクサーヌとの勝負でカタがついたんじゃ無いのかよ?」

 

「それは正妻についてのお話ですわ。側室について彼女は何も言っておりませんわよ?それに“側室が正妻の座を奪う”、これほど心燃える言葉の響きはありませんくてよぉ!ーーーーというわけで、先ずは側室からいかがでして?」

 

「その“先ずはお友達から”みたいな言い方どうかと思うぞ?.............はぁ〜。ロクサーヌ、言ってやれ」

 

「はい、シン様..........いいですかトレイシー。側室になると言いましても、先ずは皇帝に許可を頂けませんと話は進みませんよ?」

 

「ハッ!確かにその通りですわね!わたくしとした事が、旦那様を前に思わず先走っていましたわぁ!」

 

「分かれば良いのです」

 

「違う、そうじゃない............」

 

 

 雨降って地固まるという訳ではないが、ロクサーヌとトレイシーの間にはシンの及びもつかない関係が形成されていた。トレイシーをシンの側室に迎える話が勝手に進んでいく。この置いて行かれる感じ、どことなくクラスメイトの暴走列車こと“白崎香織”を彷彿とさせる。

 

 その後、何故かロクサーヌがトレイシー側の味方について、トレイシーを側室に迎え入れた際の利点を説明された。ぶっちゃけて言うならトレイシーを側室に迎え入れるのは悪くない気がしていた。何せ帝国との太いパイプにもあるし、将としての器も十分ある、個人の戦力的にはまだまだ自分達に及ばないが素質はある、何よりバイアス皇子より話が分かる。初見のインパクトがデカ過ぎたが、トレイシーという美女に面と向かって惚れたと言われれば悪い気もしない。

 

 そしてロクサーヌもトレイシーの事を割と気に入っている。帝国の人間に対して思うところがある筈のあのロクサーヌがだ。そんなロクサーヌが「今のうちに気心知れた相手を側室に加えておきたいです」と言うのだ。本当に何があったらそんな風になるのか。

 

 と言っても、先ずは皇帝の許可が()りてからの話だ。まあ()りないと思うが.........。どこの馬の骨ともわからない相手に大事な帝国の第一皇女を正妻ではなく、側室に加えさせるなど皇族なら許す筈がないからな。

 

 そう思ったシンは、一先ずその話は保留という事にし、シン自身も何も考えない様にした。思考の放棄である。

 

 さて。となると次の問題は..........

 

 

「..............いい加減、私を降ろしたらどうだ、変態」

 

「こいつをどうするか、だよなぁ」

 

 

 シンの肩に担がれているテルマをどうするか、だ。 

 

 さっきよりはだいぶ反抗的な態度が薄れている。どうやら彼女も漸く自分が何をしても無駄だと悟ったらしく、ジタバタと(もが)くのを止めたらしい。

 

 

「流石にもう解放して大丈夫じゃありませんか?」

 

「テルマ。貴女、もう暴れませんわね?」

 

「........................」

 

「やっぱこのままでいいか」

 

「なっ!わかった、わかったわ!もう暴れないから降ろしてっ!」

 

「.........本当だな?」

 

「え、ええ........」

 

「トレイシーに誓って言えるか?」

 

「ふぐっ.........!」

 

 

 神に誓わせるつもりなど毛頭ないシンが、トレイシーを引き合いに出した。だがそれが良かったらしい。テルマには効果的な問いになった様だ。

 

 そして押し黙るテルマ。

 

 それを見て「本当にテルマは頑固ですわねぇ」とトレイシーが口にした。シンとロクサーヌも、ここまで来ればテルマの頑固っぷりにはある意味感心してしまう。

 

 するとシン深い溜息を吐き、先程の態度から一転してテルマを地面に降ろした。その様子にロクサーヌとトレイシーが疑問符を頭に浮かべている。降ろされているテルマ自身も、シンが降ろしてくれるとは思っていなかったので若干戸惑っていた。

 

 そしてシンの真正面に降ろされたテルマは、シンと視線が合う。

 

 

「テルマ、戦いはもう終わった。お前が俺をどう思っていようが構わないが、倒れているワルプルギスの面倒を全てトレイシーに任せるつもりか?」

 

「ーーーッ」

 

「そんな状況下でまた俺に戦いを挑んで、今度はお前が倒れたらどうする?誰がトレイシーを守るんだ?」

 

「そ、それは............」

 

 

 シンが優しく諭す様にそう口にした。それは事実であり、確定している結果だ。トレイシーにはすでに戦う気が無い上、他のワルプルギスの隊員達は皆倒れている。その上でシンに戦いを挑んでも、結果は先程と変わらない。テルマ一人では目の前の男には絶対に敵わない。それは嫌と言うほど理解させられた。

 

 それを改めて認識したテルマは何も言い返せなかった。

 

 テルマにとってトレイシーは帝国の皇女であり、ワルプルギスの隊長であり、自分に救いの手を差し伸べてくれたかけがえのない“友”だ。そんな彼女に面倒ごとを全てを押し付けて、自分だけ思うままに力を振るうなど、テルマには到底出来なかった。

 

 目の前の男に敵わない己の弱さと、自身の浅はかさを思い知らされ、テルマは悔しさのあまり俯く。

 

 そんな彼女の頭にポンっと優しく手が添えられた。

 

 

「そう落ち込むなよ、テルマ。こうして踏みとどまってるだけでも大した自制心だ。お前だけはトレイシーの(そば)にいてやれるーーーーー胸を張れテルマ。お前、なかなか強かったぜ?」

 

 

 自分の頭の上に乗せられた大きな手。その温もりにテルマは思わず心地良さを感じてしまうが、すぐにその手を退けさせ、気丈にシンを睨み返した。

 

 

「馴れ馴れしく呼び捨てにしないで。お前達がやったくせに、偉そうに....................次は絶対に負けないわ」

 

「ああ。来るなら来い、いつでも相手してやる」

 

「..........................覚えてなさい。行きましょう、殿下.......殿下?」

 

「.........ロクサーヌぅ。もしかして旦那様って女誑しでありまして?」

 

「もしかしなくてもです。それも扱い方を心得た、人も魔物も関係無く誑しこむ天然ですよ?」

 

「まあ!魔物もですって?!旦那様ったらストライクゾーン広過ぎですわぁ!」

 

「お前達、人をなんだと思ってるんだ............」

 

 

 ロクサーヌとトレイシーがわざと聞こえる様にヒソヒソ話をしていた。せめてそういうのは本人に聞こえない様にして欲しいところだ。

 

 ほら見ろよ。テルマが度し難い汚物を見る様な、蔑んだ目でこっちを睨んでやがる。とある界隈の方々がご褒美だと喜びそうな視線だぞ。

 

 その時だった。

 

 樹海が何やら騒がしくなった。樹海の奥の方では、鳥達が一斉に羽ばたき、蜘蛛の子を散らした様に上空へと逃げ惑っている。

 

 するとレオニスがシン達のところに飛んできた。

 

 ダンッ!と着地したレオニス。どうやらリザ達のところから跳躍して来たらしい。その距離二十メートル。軽々とその距離を飛び越えて来たレオニスに、トレイシーとテルマが驚いていた。

 

 

「シン、樹海から何か来るぞ」

 

「魔物か?」

 

「ああ、それもかなりデカい奴だ。足音から察するに中型の魔物を数十体は引き連れてるな、どうする?」

 

「逃げる訳には行かないだろ。こっちには気絶してるワルプルギスの奴らが大勢居るんだ、迎え討つ」

 

「あ、貴方達の力なんて必要無いわ!私が..........!」

 

「お前はまだ魔力が回復しきってないだろ?俺がギリギリまで魔力吸引してたんだから、そんな事見なくても分かる」

 

「...........ッ」

 

「なら、わたくしがお相手いたしますわ」

 

「いいえ、私がやります」

 

 

 テルマは魔力切れ、なら自分がとトレイシーが名乗りをあげたが、それをロクサーヌが反対した。

 

 

「どういうおつもりかしらぁ、ロクサーヌ?」

 

「トレイシー。貴女の実力ならおそらく問題無いと思いますが、私が一つ()()()を見せてあげます。側室となり、正妻の座を奪おうと言うなら..............貴女が挑む相手、シン様の剣であり“正妻”でもある私が、どれ程の者か、その実力の一端を餞別として見せて上げましょう」

 

 

 そう言ってロクサーヌは入念なストレッチを始めた。両腕を伸ばし、手首をほぐし、軽くステップを踏む様にジャンプする。その度にロクサーヌの豊満な胸が弾み、それにシンがつい見惚れてしまう。そんなシンを見たトレイシーが「わたくしも胸には自信がありましてよぉ!」と斬られた胸当てをバッ!と外して、シンに見せつけようとするが、それを必死で止めるテルマ。

 

 その一方でレオニスはロクサーヌがストレッチをしている間に、シンが開幕で吹き飛ばしたバイアスを肩に担いで回収し終えていた。

 

 ロクサーヌの準備が終わり、彼女はシン達より数歩先樹海の方へと歩み、魔物が来るのを待ち構えた。

 

 それとほぼ同時に樹海の方から地響きが聞こえ出し、それがどんどん大きくなる。樹海の奥から木々が薙ぎ倒され、近付いてくる。そしてーーー

 

 

ーーー〝ブオオオオオオオオンッ‼︎

 

 

 樹海から飛び出し、現れたのは巨大な魔猪だった。体長二十メートル以上はありそうな巨体は全身赤黒い体毛で覆われ、太く硬そうな巨大な二本の牙を生やし、大地を踏み抜く太い足は大木の様である。さらにその巨大な魔猪の後方には体長五メートル程の猪型の魔物が百はくだらない大群を成していた。

 

 

「エリュマントスっ!?それにワイルドボアがあんなにッ........!?」

 

 

 シン達から離れているリザが戦慄の声を上げていた。

 

 巨大な魔猪が“エリュマントス”で、それが引き連れている猪型の魔物が“ワイルドボア”らしい。

 

 後でリザに聞いた話によると、エリュマントスは亜人の国“フェアベルゲン”より、さらに奥深くの密林地帯に棲息している樹海の主の様な存在らしい。基本的に樹海の外には出る事は無く、温厚で人を襲うことは無いらしい。

 

 だが、そんな“エリュマントス”が明らかに気でも狂わせた様に怒っている。しかも、その下位魔物であるワイルドボアを百数体引き連れて。

 

 一直線にシン達に向かって突進して来ているエリュマントス達。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とする勢いだ。

 

 そんな魔物達を前にロクサーヌは腰に携えられている魔剣の柄に、まるで肘掛けに手を置く様に左手を添えた。右手にいたっては宙ぶらりんだ。しかし、拳は握られている。

 

 

「一体、あの狼人族は何をするつもり............」

 

「剣を抜く様子もありませんわね.........」

 

 

 テルマとトレイシーの二人がそんな事を口にした時、それはーーーー

 

 

「眷属器 ーーー〝雷獣光鎧(バララーク・ディルア)〟ーーー」

 

 

ーーーー〝顕現〟した。

 

 

 鞘に収まっている魔剣アンサラから青白い光が溢れ出した途端、ロクサーヌの全身がバチバチッ!と放電する青白い雷光の鎧を纏った。

 

 雷光を纏った狼、それはまさに“雷獣”と呼んで差し支え無いだろう。

 

 そして陸上選手の様にクラウチングフォームを取ったロクサーヌが前傾姿勢のまま、腰を上げ、地面を踏み砕く。

 

 刹那、ロクサーヌは巨大魔猪に肉薄。一秒とも満たない一瞬、零コンマの光の速度で魔猪との距離約二百メートルを走破し、握り込まれた拳が爪を立てる様に開かれ、巨大な魔猪の肉の塊を、その勢いのまま突き抜けた。

 

 雷光を纏い、雷速の一撃で魔猪に真正面から貫き、貫通させたロクサーヌの全身は、謂わば人間大の超電磁砲(レールガン)。頭部から尻尾にかけて貫かれた巨大魔猪は人ひとり分の風穴を開け、突進の勢いのまま倒れた。そしてロクサーヌの右掌の上には人間の頭五つ分の大きさをした魔石が乗っていた。

 

 ロクサーヌが雷光を纏ってから、この時点で二秒半が経過。

 

 巨大な魔石をロクサーヌは宙に放り投げると、纏った雷光が雷鳴を奏でた瞬間にはロクサーヌの姿は消えた。その代わり、シン達に迫っていたワイルドボア達が青白い稲妻が通り抜けた瞬間に次々と肉体が弾け飛んで行く。

 

 四秒が経過。

 

 百以上は居たワイルドボアの殆どがロクサーヌの拳や貫手で爆ぜ、絶命している。そして残り十。

 

 五秒が経過。

 

 雷光の鎧が解けたロクサーヌは空から落ちて来た魔猪の大きな魔石を「ふぅ〜、意外とこれ重たいですね」なんて言いながら両手でキャッチした。そんな彼女の周りには巨大魔猪の死体と、ワイルドボア計百十二体の死体がそこら中に転がっている。まさに死屍累々、屍山血河と言った光景である。

 

 そんな光景を目の当たりにした全員の開口一番は........

 

 

「「「「.........グロい(ですわ)」」」」

 

 

 目の前で起こった出来事があまりに強烈過ぎて、ただ目の前の惨状に対する感想しか出てこなかったシン、レオニス、トレイシー、テルマの四人。

 

 リザに咄嗟にアトとサラの目を覆い隠し、ジュアルに至ってはワナワナと体を震わせ、戦慄していた。タイミング悪く目を覚ましたワルプルギスの隊員が、「ひゅ......」と息を漏らして気絶した。

 

 魔物の返り血を一滴足りとも体に浴びていないロクサーヌが、爽やかな笑顔を浮かべ大きな魔石を抱えながら嬉しそうに駆け寄って来た。

 

 

「あれ、皆さん、どうしたんですか?」

 

「ロクサーヌ、疲れてないか?ストレス溜まってないか?」

 

「...........? 私は至っては普通ですが?」

 

「「「正気かっ!?」」」

 

 

 シン以外の三人がロクサーヌの正気を疑った。ロクサーヌに過激な面がある事を何度も見て来たシンからすれば、まだ納得は行く。だが、これは流石にやり過ぎるだ。しかも子供の目の前で。それを彼女に気付かせなければならない。

 

 

「なんなんですか、一体。私のどこが正気じゃ無いと.........」

 

「ロクサーヌ。後ろを振り返って一言」

 

「はい?..............................ぅっ、グロい、ですね」

 

「うん、グロい。アトとサラの目の前でコレは過激すぎる」

 

「っ!すみません、シンさん..........」

 

 

 シンの呼び方が戻ってる辺り、自分がやってしまった事を自覚し、かなり落ち込んでいるらしい。そんな彼女の頭にシンはポンっと優しく手を置いた。その大きな手からは予想できない程、温かく柔らかな手つきでロクサーヌの頭を撫でた。

 

 

「次から気をつければ良いさ。それよりも.........()()()の習得、おめでとうロクサーヌ。正直、驚いた。まさかここまで力をつけていたなんてな。やっぱりお前は俺に取って最高の女だ」

 

「.........ありがとう、ございます.......///」

 

 

 シンの心からの賞賛に少し照れてくさそうにしているロクサーヌ。そんな彼女を見て穏やかに笑みを浮かべるシン。

 

 

「そうか.........あの夜、ロクサーヌが俺に見せたい物があるって言ってたのは、“()()()”の事だったんだな」

 

「...........どうでしたか?」

 

 

 ロクサーヌの短い問いにシンは爽やかに笑ってサムズアップして見せた。それを見てロクサーヌは嬉しそうに微笑んでいた。

 

 そんな二人だけのやり取りを前に、周りの置いてけぼり感が加速するのだった。

 

 

 先程の戦闘でロクサーヌが見せた物。

 

 その名は〝眷属器 雷獣光鎧(バララーク・ディルア)

 

 それがロクサーヌの持つ王との繋がり、眷属としての力であった。王の金属器と共闘する内に精霊(ジン)に認められた者、それが〝眷族〟であり、眷属としての能力が宿った金属の器が〝眷属器〟なのだそうだ。ヴァンドゥルの隠れ家にて精霊(ジン)達からそう教わった。そしてロクサーヌはバアルの眷属器使いであり、その器は彼女の愛剣 “魔剣アンサラ”である。

 

 眷属器 “雷獣光鎧(バララーク・ディルア)”の能力は雷撃を体の内側から纏う事で、使用する魔力量に応じて雷撃の鎧の出力が上がる。肉体への負担が大きくなるが、その分パワーとスピード、そして貫通力や攻撃威力が格段に飛躍する。身体能力、反応速度も上昇する為、超人以上の肉体パフォーマンスを可能とする。

 

 ロクサーヌが眷属器の力に目覚めたのはカタルゴ大陸でのベヒモス戦三日目の時であった。この力に目覚めた事でロクサーヌはベヒモスに勝利したのだ。ちなみにシンが口にした“あの夜”というのは、ロクサーヌがベヒモスに勝利した夜の事で、二人の夜の営み後のピロートークでの話である。

 

 話は戻るが、現状ロクサーヌの眷属器は最大出力での持続時間が五秒。それを過ぎれば体は麻痺、或いは肉体が内側から焼かれてしまう。彼女が保有する[緻密操作]と[雷属性耐性]、そして[身体強化]でどうにか制限時間を五秒までに引き延ばすことには成功した。しかしたったの五秒。故に限られた時間での一撃必殺を狙うのが、この力の効率的な使い方なのだ。幸いロクサーヌには[急所知覚]があるため、一撃必殺の精度がかなり高い。魔猪の巨大魔石を抉り取ったのも、[急所知覚]のおかげである。

 

 出力を抑えれば五秒以上の継戦は可能だ。しかし、それではダメなのだ。シンが目指す先で待ち構えているであろう障害を彼女が切り払うなら、シンと共に歩むなら、常に上を目指さなくてはならない。それがロクサーヌの剣として、正妻としての矜持なのだ。

 

 そんな彼女の人智を超えた離れ技を目にした四人。

 

 一度は目の前の凄惨な光景にSAN値が削られる思いをしたが、そこに至るまでに積み重ねた鍛錬、強靭な精神、何より上を目指そうというロクサーヌの気概は一級品、それは側から見てる者達に伝わっていた。

 

 シンはロクサーヌの凄さを再認識し、素直に賛辞を送る。他三名も口にはしていないが、シンと同様な思いであった。

 

 

「シンさ....ゴホンッ、シン様。頭を撫でてくれるのは凄く嬉しいのですが.........その、トレイシー達が見てますので」

 

「ん?やめた方が良いか?」

 

「.....................もう少しだけですよ?」

 

「ん、素直で良い子だ」

 

 

 頭ナデナデが継続された。ロクサーヌ、まんざらでも無いご様子。

 

 ロクサーヌの頭を撫でるシンが、トレイシー達に声をかけた。

 

 

「さて、魔物の掃討はロクサーヌがやってくれた。魔物の死骸は俺が後で燃やすとして................トレイシー、これを見てもまだロクサーヌに勝てると思うか?」

 

 

 シンの言葉はどこがトレイシーを突き放す様な言い方だった。

 

 ロクサーヌはトレイシーに見せたかったのだ。貴方が奪おうとしている席は重いぞ、と。それをロクサーヌは力で示した。それも、得手の剣を使わずにだ。

 

 そんなロクサーヌの意図やシンの言葉の意味を理解したトレイシーは、一度深呼吸をしてから口を開いた。

 

 

「勝ちますわぁっ!」

 

「...............虚勢ってわけじゃ無さそうだな。根拠は?」

 

「無くってよぉっ!」

 

「..............はい?」

 

「ですから根拠なんて、これっぽっちも持ち合わせておりませんわっ!わたくしが勝つと言ったら勝つ!それだけでしてよ!」

 

 

 自信満々に言い放つトレイシー。この皇女様、本当に大丈夫か?と帝国の未来に一抹の不安を抱いたシン。だが、トレイシーの言葉はさらに続いた。

 

 

「確かにロクサーヌは強いですわ。ハッキリ言って規格外、今のわたくしではどうあっても敵う気がしませんわね...............ですが!最後に勝つのはわたくしでしてよっ!何百、何千、何万と挑み続けた先で、いつか必ず正妻の座を奪ってみせますわぁっ!何せ、わたくしは欲しいものは必ず手に入れる、“負けず嫌いな魔女”ですものっ!ですからわたくし、何一つ諦めなくってよ?」

 

 

 虚勢では無く、根拠も持ち合わせず、そんな彼女にあるのは必ず勝つという気概であった。そこに一分たりとも迷いは無く、自分を信じて疑わない真っ直ぐな意志を彼女は示して見せた。

 

 テルマがなにやら微笑んでいた。トレイシーの言葉を聞いて、何か思うところがあったのだろう。先程シンに向けていた表情とは明らかに違う。

 

 そしてシンはテルマとは違い、くつくつと笑っていた。

 

 トレイシー・D・ヘルシャーというある意味純粋な女性の気概を受け取り、その真っ直ぐさがシンの琴線に触れた。

 

 

「クククッ.............トレイシー、さっきの言い方は少し意地悪が過ぎたな。どうやら俺はお前の気持ちを舐めていたようだ、悪かった」

 

「あら、わたくしの愛が伝わっていなかったのは少しショックですわねぇ。こんなにも旦那様を愛していますのに、残念でなりませんわねぇ..............ですがぁ、謝って頂けるのでしたら、一つお願いしたい事がございましてよ」

 

「.............俺に出来ることなら応えてやる。出来る事ならだぞ?」

 

「では、わたくしにも頭ナデナデを要求いたしますわっ」

 

「ん?そんな事で良いのか?」

 

 

 てっきり側室にしろと言うと思っていたので、ちょっと拍子抜けだった。

 

 

「先程からロクサーヌが気持ち良さそうにしていらっしゃいましたし、何よりテルマの頭は撫でて、わたくしにはしていただけないなんて、あんまりですわっ!」

 

「なっ!!私は別に.........!」

 

「でも、撫でられてましたわよねぇ?」

 

「ぅっ...........」

 

 

 実際シンに頭を撫でられたのでこれ以上の反論が出来ないテルマ。再びキッ!とシンを睨んだ。別に俺、悪くは〜.........うん、悪かった、ごめん。

 

 という事で、シンはトレイシーの頭も撫でることにした。正直、皇女の頭を撫でるとか色々問題ありそうな気もするが、本人が了承してるのなら仕方ないかと諦め、シンはトレイシーの頭の上に掌をポンッと乗せた。

 

 そしてロクサーヌにやった様に、優しい手つきで、トレイシーのサラサラな金髪を労る様に撫でた。

 

 

「んッ......これは.......はぅっ.......イイですわねぇ........ロクサーヌとテルマが、気持ち良さそうにしていた理由が.........んんッ........わかりましてよ........」

 

「あの、トレイシーさん?そう言ってくれるのは嬉しいが、あんまり変な声は出さないでくれ。なんか俺が変なことしてるみたいで、気が気じゃない...........」

 

 

 妙に艶のある声を漏らすトレイシー。ロクサーヌとテルマのジトっとした視線がシンに注がれた。

 

 居た堪れない気分になったシンがトレイシーの頭から手を退けようとすると、トレイシーが「まだですわぁっ!」と強引に続行させる。それを見てロクサーヌが対抗心でも燃やしているのか、シンの空いているもう片方の手を自分の頭に乗せて頭ナデナデを要求して来た。

 

 シンの両手が二人の美女の頭の上に乗った。テルマの視線がさらに冷たくなる。背中がチクチク痛むシン。レオニスに助けを求めようとしたが、すでにその場を離れ、魔物の死骸の片付けをしていた。チクショウ、あいつ逃げやがった!

 

 その後、漸く頭ナデナデから解放されたシン。ロクサーヌとトレイシーは何故か活き活きとしており、テルマの好感度?が激減した。いや、元々無いに等しいのだけども。

 

 魔物の死骸を一箇所に纏め、それをフェニクスの炎を焼き払い終えたシン。トレイシーとテルマはその間、ワルプルギスの仲間達を馬車に運んでいた。ロクサーヌはトレイシー達を手伝っていた。ちなみにロクサーヌが持っていた魔猪の巨大魔石はバウキスの異袋の中に回収された。

 

 そして、ワルプルギス達の帰還の準備が整い、「陛下から許可をいただいて来ますわねぇ〜、旦那様ぁ〜」と気合十分な様子のトレイシー達ワルプルギスと別れた。その際にもテルマは相変わらずな様子でシンを睨み続けていた。ほんっとブレない奴だ。

 

 漸く嵐が去ったと一息吐くシン達。

 

 

「さてと...........じゃあ予定通り、ジュアル、リザ達を頼むぞ?」

 

「ヘアッ!(王よ、私から一つお願いしたい事がございます!)」

 

「ん、なんだ?」

 

「ヘアッ!ヘアッ!(私も、王の旅に同行させていただきたいのです!)」

 

「え、旅に?う〜ん........」

 

 

 どうやらジュアルはシン達の旅について行きたいらしい。ジュアルはそれほど弱くわない。旅に連れて行っても問題無いだろう。最悪、変成魔法で強化すれば良いのだし。

 

 そう思い、ジュアルに了承の旨を伝えようとした時ーーー

 

 

「待ってください」

 

 

ーーーロクサーヌがシンとジュアルの会話に割り込んだ。

 

 

「ジュアル、私は貴方の事を高く評価しています」

 

「ヘアッ!ヘア、ダァ!」

 

「.................」

 

「ヘアッ!ヘア、デュワッ!」

 

「..........すいませんシン様、通訳をお願いします」

 

「うん、だよな、知ってた」

 

「ヘア.......(伝わらないと言うのは、こんなにも悔しい事だったのですね......)」

 

 

 ジュアル、ロクサーヌ(正妻様)と話せていると思い、舞い上がってたが、一瞬ではたき落された気分になった。

 

 ここからはシンの翻訳付きでどうぞ。

 

 

「ヘアッ!ヘア、ダァッ!(ロクサーヌ殿、私が王の旅について行くことを、どうか許していただきたい!)」

 

「.........ジュアル。先程も言いましたが、私は貴方の事を高く評価しています。貴方のシン様に対する忠誠心は本物です」

 

「ヘアッ......(では......)」

 

「ですが、残念ながら今の貴方の力では私達の足手纏いです」

 

「ッ!?!?」

 

「この際、ハッキリ言いましょう。中途半端なんですよ、貴方は。貴方程度ではシン様を守る事すら叶わない」

 

「ダァッ!デュワッ........!(これでも私は[魔法反射]が使える!いざとなればこの身に代えてでも..........!)」

 

「ええ、そうでしょうね。()()()()()()()()、貴方には出来ない。それだけの差があるのですよ」

 

「ッ!!!!」

 

「シン様の変成魔法なら、貴方を多少は強化出来るでしょうね」

 

「ヘアッ......!(では.......!)」

 

「多少は、です。底が知れた強化など、あって無い様な物です。それに貴方はシン様の力無しでは強くなれないのですか?」

 

「ーーーッ」

 

「ジュアル。もし貴方が本当にシン様の力になりたいと思うなら、この樹海で最強の魔物になりなさい」

 

「ヘア、ダァ.......(最強の、魔物........)」

 

「私達はこの樹海に必ず戻って来ます。その時、貴方がこの樹海で最強の魔物となっていたなら、私が全力で手合わせを致します。そして先程私が倒した魔猪より強いと判断出来たなら、その時は私からもシン様にお願いして、貴方を旅に同行させて頂ける様努めます」

 

「ヘア、デュワ.........?(本当に、その時は連れて行って頂けるのですか.......?)」

 

「それは貴方次第です。ですが、貴方が私達の想像も及ばない程に強くなっていれば、必ずシン様は認めてくださいます」

 

「..............ヘア。ヘアッ、デュワ!(..........わかりました。このジュアル、必ずや、この樹海で最強の魔物となって見せます!)」

 

 

 こうしてジュアルは、より一層王への忠義と忠誠を示すべく、樹海に残ることを決意した。

 

 ハルツィナ樹海一の、最強の魔物へと至る為に。

 

 当初の予定通り、シン達とリザ達姉妹はここでお別れだ。その際、リザ達姉妹はシン達に何度も感謝の気持ちを述べてた。そして別れを惜しみつつ、リザ達姉妹はジュアルを引き連れて、樹海の奥へと進んで行った。別れ際、リザがシンに何やら含みのある視線を向けていた。だがそれは一瞬だった為、その視線の理由を問う事は出来なかった。ちなみにリザのその視線は自分も頭を撫でて欲しかったと言う視線だったそうだ。

 

 ジュアル、リザ達姉妹と別れたシン達。

 

 シンはその三人と一匹を樹海の途中まで見送りに行った。するとレオニスがロクサーヌに向けて口を開いた。

 

 

「にしてもロクサーヌ、最強の魔物とは大きく出たな。ジュアルが本当にその最強とやらに、本気で成れると思っているのか?」

 

「.............彼に素質があるのは事実ですよ?けど、今の彼が私達に付いて来たところで足手纏いになるのは明白、そのせいで苦しむのは彼自身です。中途半端な力ほど、他人(ひと)も自身も傷付けますからね..........」

 

「ジュアルを気遣ったのか?」

 

「まさか。私がそこまで甘い女に見えますか?」

 

「見えないな.........。少なくとも、お前がシンに関する事で妥協するとは思えない」

 

「私は、少しでもシン様の配下を強くする為に動いたまでです。将来シン様に必要な人材や物、それら全て見極めるのも私の役目だと思ってます。シン(彼の人)の力に縋るだけの者などーーーーー“私が切り捨てます”」

 

 

 その言葉には何人も近寄り難い、ロクサーヌだけが放てる凄みがあった。優しさだけで無い、覚悟と冷徹さを内包した剣気。

 

 万人を魅了するシンという光の眩しさは、時には他人の目を曇らせ、悪辣な者、堕落した者まで引き込む。それはまるで、夜闇の中小さく光る灯りに群がる蛾の様に。それを間引くのも自分の務めだと、ロクサーヌは思っているのだ。

 

 だからこそロクサーヌは、良いと思えた人材は早々に手を付けておきたいし、期待出来る者には試練を与え、不要な者は切り捨てる。もしリザが旅に同行したいなんて言って来たら、ロクサーヌはキッパリと無理だと、無駄だと現実を突き付けていただろう。そんな彼女がジュアルに対して試練を与えた。つまり、ジュアルに期待しているって事だ。

 

 そんな彼女の心情が透けて見えたレオニスは、素直に関心しつつも、同時に微笑混じりに溜息を吐いた。

 

 

「そんな怖い顔をするな。お前のシンに対する想いの強さは理解しているが、だからと言ってお前が憎まれ役を演じるのをシンは望んじゃいない。演じ続けるのは疲れるぞ?」

 

「............意外と見てますね。伊達に二百年近く、仮面を被り続けて来たわけでは無いって事ですか.....................ちょっと年寄り臭いですよ、レオニス?」

 

「大人と言え、大人と!」

 

「ですがご心配無く。それを理解してくれる最高の男性を、私は既に得ています、貴方の奥さんの様にね」

 

「............フッ、そうか。なら問題無いな」

 

「ええ........心配してくれてありがとうございます、レオニス」

 

 

 そんなやり取りをしていると、リザ達の見送りを終えたシンが戻って来た。

 

 

「何か話してたのか?」

 

「ええ、レオニスはお爺ちゃんみたいですねって」

 

「人を年寄り扱いするな!お前らより二百歳近く歳上なのは分かっているが、せめて大人と言え!」

 

「あぁ〜。レオニスってたまに爺臭い時あるよなぁ。でもそこがレオニスの良いところでもあるし、信頼出来る一面だからな..............頼りにしてるぜ、お爺ちゃん♪」

 

「引っ叩くぞ」

 

「まぁ、レオニスを揶揄うのもこの辺にして.........ロクサーヌ、ありがとな。ジュアルにとって、お前の判断が一番アイツの為になる」

 

「気にしないでください、私は事実を言ったまでですから」

 

「そうか。だが.......」

 

 

 シンと顔がロクサーヌの顔に迫った。シンにキスされると思ったロクサーヌ。だが彼の唇は触れず、代わりにシンの両手がロクサーヌの両頬を摘んだ。

 

 

「ほへぇ、し、しんはあ(シン様)........?」

 

「お前が俺を想ってやってくれる事は素直に嬉しく。けど、俺に対しても同じ様に演じるなら、キツ〜いお仕置きをしてやる。分かったな?」

 

ふぁ、ふぁぃ(は、はい)

 

 

 ロクサーヌの考えてる事などシンにはお見通しだった。彼女が自分の事をどれだけ想い、支えようと努めているのか、それを理解している上で、シンはロクサーヌにそう言い聞かせた。

 

 シンの意地悪そうで挑発的なイケメンスマイルに、ロクサーヌの顔が赤くなる。特にシンの“キツいお仕置き”という単語に反応してしまう辺り、ロクサーヌはちょっとえっちな女性であった。

 

 そんな二人のやり取りを見ていたレオニスが、ニヤニヤと愉快そうな笑みを浮かべている。無性にレオニスの方を張り倒したくなったロクサーヌ。だが今は自分の頬をムニッと軽く摘むシンの手と甘い視線を堪能する事にした。

 

 程なくして、ロクサーヌの頬を摘むシンの手が離れた。

 

 

「さてと。それじゃあ行きますか、大迷宮!」

 

「ああ、そうだな。ジュアルにあんな啖呵切っといて、いざ再会した時にあっさり追い越されてる様じゃ締まらない。そうだろ、ロクサーヌ?」

 

 

 レオニスがロクサーヌを試す様な視線を流してくる。ムスッと顔を僅かに顰めたロクサーヌ。だが、レオニスの言う通りだ。

 

 

「....................ええ、そうですね。ジュアルに追い抜かれるつもりはありませんが、油断はしません」

 

「フッ、良い意気込みだ二人とも........なら、振り落とされずに付いて来いよ、お前達?」

 

「「ええ!(ああ!)」」

 

 

 新たな出会いを経て、三人の信頼をより一層深めた。

 

 進むため、切り拓くため、守り抜くため。

 

 強い絆を胸に、三人は歩き出す。

 

 目指すはライセン大峡谷にある七大迷宮の一つ、“ミレディ・ライセン大迷宮”

 

 三人の大迷宮攻略の冒険がいよいよ幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある大迷宮の最奥部。

 

 そこにいる人型のゴーレム。一枚布の長いローブを纏い、ニコちゃんマークの()()()()を着けた小さなゴーレムがそこに居た。

 

 

「ふっふふ〜ん♪早く来ないかなぁ〜」

 

 

 小さなゴーレムがウキウキした様子でそんな言葉を口にしていた。

 

 

()()()が言ってた王様って、一体どんな人なのかぁ〜? ()()()の願いは私達の希望でもあるから、それが叶うなら少しは加減してもいいんだけど...................こればっかりは譲れないよねぇ...........()()()には悪いけど、私は試すよ? 本当に世界を変える事が出来る、力の持ち主なのか、ね..............」

 

 

 仮面の小さなゴーレムはそんな事を口にした。

 





 長文閲読、ご苦労様です。無理矢理 納めた感は否めませんでしたが、今回はロクサーヌがメインとなった回でした。トレイシーとの戦闘描写、ロクサーヌの眷属器披露が出来て、多少は満足してます。ただどうしても戦闘描写は思い通りに書けないですね。何か良いアイデアがあれば試してみたいです。

 次回からライセン大迷宮攻略スタートです。その間に園部のサイドストーリーも挟むつもりです。


補足


『登場した眷属器』


【眷属器・雷獣光鎧(バララーク・ディルア)】
・今作オリジナルのロクサーヌの眷属器。魔剣アンサラに宿るバアルの眷属。アンサラの刀身を抜かなくて使用可能。最大出力での使用可能時間は現状五秒。使用者の肉体の内側から雷を纏わせ、肉体能力を飛躍させる。手にした武器にも雷撃は付与される。出力を上げ、体表または武器から雷が放電し出すと攻撃力、速度、貫通力が大幅に上昇し、雷が体を纏う程に出力を上げれば放出系の魔法を霧散させる程の防御力となり、雷速で移動出来る。使用可能時間を過ぎれば体が麻痺、或いは内側から雷に焼かれてしまう。魔力消費も激しく、肉体への負担も馬鹿に出来ないレベルで消耗する。魔力操作の派生技能[緻密操作]と、眷属器の使用で手に入れた[雷属性耐性]、[身体強化]のおかげで最大出力時の使用可能時間が五秒に伸びている。
(イメージはNARUTOに登場する“四代目雷影の雷の衣”です)


『登場したアーティファクト』


「魔剣アンサラ」
・神代魔法の一つ、空間魔法の[界穿]が付与されている。付与された魔法の規模は小さいが、己の技量次第で離れた相手を直接斬りつける事が出来る。斬撃を飛ばすのではなく、斬撃の転移。空間という境界を零にする。



『トレイシーが使用した魔道具」

「十環の防壁」
・十個の指輪が短いチェーンに通された魔道具。瞬時に聖絶クラスの防壁を十枚展開する。

「光の剣」
・トレイシーが愛用する光属性魔法[光刃]が付与された細剣。レイピアの様な物。


『登場した魔物』


「魔猪エリュマントス」
・本来ハルツィナ樹海の奥深く、密林地帯に生息する巨大な猪。温厚な性格をしているが、一度激怒すれば相手の息の根を止めるまで走り続ける。体調二十メートルにも及ぶ巨体の持ち主。
(イメージはFGOに登場する魔猪です)

「ワイルドボア」
・魔猪エリュマントスの下位魔物。体調五メートル程の中型魔物。樹海でよく見受けられる魔物で、冒険者ランク紫から討伐可能。群れを成す事はほとんど無い。

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