ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

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ライセン大迷宮

 

 トレイシー率いるワルプルギスとの一件が済み、ジュアル、兎人族の三姉妹と別れた後、シン達は再びライセン大峡谷にある大迷宮の入り口にやって来ていた。

 

 

「先程来た時も思いましたが、やっぱり扉らしき物は見当たりませんね........」

 

「................................ほんとに再生してやがる」

 

 

 ロクサーヌは辺りを注意深く見渡し、一面ただの岩の壁である事を再認識していた。一方のレオニスは自分が跡形も無く壊したはずの石板が、僅か数時間足らずで再生されているのを見て微妙な表情を浮かべていた。

 

 

「シン様、何か見つかーーーー」

 

「え?..........」←ガコッ

 

 

 「何か見つかりそうですか?」とロクサーヌが訊く前に、シンは壁の一部を押し、隠し扉を見つけていた。ガコッというのは隠し扉が僅かに開いた音である。

 

 隠し扉を見つけたシンは、さも当然といった様子で至って普通の表情をしている。だが、あっさり扉を見つけたシンを見る二人は「あー、そうだった.......」とシンの直感の良さを思い出していた。

 

 

「何してんだ、行くぞ?」

 

「「............はい(おう)」」

 

 

 シンの呼び掛けに応じた二人は彼の背後に立ち、三人同時に扉をくぐった。その隠し扉は回転する仕様になっており、シンが扉に力を込めると、回転した扉が三人の背を押す様に向こう側へと誘った。

 

 そうして三人が扉を抜けた先にあった真っ暗な空間に踏み入った時、「ヒュヒュン!」と無数の風切り音が聞こえた。

 

 シンの[空間掌握]でそれが飛来する矢だとすぐにわかった。

 

 暗闇の中、飛来する矢の音を聞いたロクサーヌとレオニスの行動は迅速だった。すぐにシンの前に踊り出て、飛んできた数本の矢をレオニスは指と指の間で掴み取り、ロクサーヌは超速の抜刀から数回剣を振って、多数の矢を叩き切る。一方のシンは構える事なく普通に立っていた。二人が対応すると分かり切っていたからだ。

 

 すると真っ暗闇の空間に灯りが徐々に灯されていき、その空間の全体が確認出来るようになった。

 

 シン達のいる場所はわりと広い部屋で、その奥には先へと続く通路が見える。そして部屋の中央には先ほどの入り口と同じ石板があった。

 

 

〝ビビった?ねぇ、ビビっちゃった?チビってたりして、ニヤニヤ〟

〝それとも怪我した?もしかして誰か死んじゃった?……ぶふっ〟

 

 

 入り口で見た石板の文字と同様に、妙に女の子らしい丸文字でそう書かれていた。

 

 なるほど、確かにこれは先が思いやれらる。二百歳を超え、広い心を持つレオニス。そんな彼がイラつくのも良くわかる。彼の長い生においても、これ程ウザい相手と出会った事は無いだろうからな。とりあえずレオニスは、掴んでいた矢の束を石板にぶっ刺した。

 

 

「どうせすぐに再生するのだろう?なら、甘んじて受けろ..............さて、奥に続く通路はアレだけか」

 

「見たところその様ですね。シン様はどうですか?」

 

「う〜〜ん..........とりあえず、真っ直ぐ向かうのが良さそうだな。ロクサーヌ、眷属器の反動はどうだ?」

 

「大丈夫です。時間を置いたおかげで体はかなり回復しました。これならあと一、二回は最大出力で使えると思います。シン様はどうですか?」

 

「あ〜..........駄目みたいだな。ここだと俺の魔法も金属器も殆ど使えそうに無い」

 

「峡谷の特性か。ここは外よりも魔力の分解が強いみたいだな」

 

 

 レオニスの言う通り、大迷宮内ではほとんど魔法が使えない。特に放出系の[力魔法]と金属器を持つシン、そしてロクサーヌの眷属器もその影響の対象であった。

 

 元々ライセン大峡谷は発動された魔法の魔力を分解する作用があり、一般的に魔法を使う事などほぼ不可能に近い。しかし、シンの魔力量と[力魔法]の燃費の良さが合わされば、その程度のハンデはあって無いに等しいぐらいだった。金属器は消費する魔力が無視できないので使うのはなるべく避けたい程度であった。

 

 だが、そんなシンの力魔法もこの大迷宮内ではかなりの制限を受けている。魔力消費を無視してゴリ押しすれば多少は使えそうだが、範囲も出力も格段に落ちてしまう。金属器もこの大迷宮内では全くとは言わないが、流石に使えそうになかった。

 

 

「まっ、金属器が使えなくても、俺には“こっち”があるからな!」

 

 

 シンは自分の“拳”をレオニスに見せつけ、拳を掌に打ちつけて、ポキポキと指の骨を鳴らした。

 

 

「元々シン様は身体強化と近接戦に特化したかたでしたからね」

 

「ああ、里にいた頃に何度も手合わせをしたからよくわかる。ロクサーヌが剣術と速度に特化した剣士なら、シンは対人戦に特化した超人だろうな」

 

 

 二人の言う通り本来シンの戦闘スタイルは、段階的に飛躍させる身体強化と、圧倒的センスで様々な武器を自在に操る武術、そしてそれらを活かす肉体能力と体術であった。そんな彼と何度も手合わせして来たロクサーヌとレオニスは、シンの超人っぷりを身に沁みて理解していた。

 

 

「そう言ってくれるのは嬉しいが、素の俺じゃあお前達に敵わないからなぁ〜............ふむ、金属器が使えないなら、ちょうどいいかもな」

 

 

 シンがおもむろに金属器を外し始めた。さらに羽織、ベストを脱ぎ、着物風の一枚服を片肌脱ぎする。服で着痩せしていた逞しい肉体が片側だけとは言え露わになった。

 

 

「シン様、一体何を...........?」

 

「んー?まぁ、ちょっとした原点回帰だ。どうせここじゃあ金属器は使えないんだし、今回は氷雪洞窟の時と同じスタイルで行く」

 

 

 そう言いながらシンは外した金属器や上着、金属器のスペアとなると装飾品をバウキスの異袋に収納した。残った金属器はバアル、フェニクスのみで、それ以外は異袋の中だ。装飾品は耳飾りと髪留めだけである。

 

 そこで疑問を浮かべたレオニスが、尋ねて来た。

 

 

「フェニクスは治癒の手段として残すのは分かるが、バアルは外さないのか?」

 

「私の魔剣はバアルの眷属器ですからね。バアルが宿る刀剣をシン様が身につけてないと、私は眷属器を使えないんです」

 

「そうだったのか..........」

 

「まあそれもあるが、こいつは俺が氷雪洞窟攻略の時から愛用してる刀剣で、思い出深い奴だからな..........」

 

 

 シンはそう言いながら、そっと腰に携えた刀剣を撫で、彼の表情はどこか昔を懐かしんでいる様に見えた。

 

 その後、いつもシンの懐の中に隠れていたバウキスが、隠れる場所が無くなったため、数秒間シンの体で落ち着ける場所を探し体中を這いずり回った。くすぐったい感覚を覚えたシン。だが程無くして、バウキスはシンの上半身に巻き付き、彼の左肩に頭を乗せたところで動きを止めた。

 

 

「バウキスも落ち着いたみたいだな.........行くぞ」

 

「「はい!(ああ!)」」

 

 

 シンを先頭に三人は奥へと続く通路を進んで行った。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 ライセン大迷宮のスタート地点から出発して数時間が経過した。

 

 現在三人が居るのは、如何にも迷宮内と言った様子の整備された通路。ここに来るまで迷うこと無く、一応順調に進んではいるのだが...........レオニスは憤懣(ふんまん)な態度を取っていた。

 

 

「ーーーーーチッ」

 

「荒れてるなぁ、レオニスの奴.......」

 

「まあ無理もありませんよ。あれだけ不快な煽りをされたんですから。 ミレディ・ライセン.......少々癪に障る解放者です」

 

「お前も相当キてるなぁ..........」

 

 

 舌打ちするレオニス。そんな彼に同情するロクサーヌは平然としている様に見えて、ニッコリと浮かべた笑顔の裏に苛立ちを滲ませていた。そんなレオニスとロクサーヌを見たシンは二人の態度に納得しつつ、ここまでの道のりを振り返り、微妙な表情を浮かべていた。

 

 ここに至るまで、シン達は大迷宮に仕掛けられた無数の罠を掻い潜って来た。

 

 魔法がろくに使えない現状ではあるが、肉体の内側に作用する身体強化は普通に使える。シンとロクサーヌは身体強化に長けている上、レオニスは元々の肉体能力が桁外れに高い。なので三人の前ではこのミレディ・ライセン大迷宮に仕掛けられた罠を掻い潜る事など造作も無かったのだ。

 

 では何故レオニスとロクサーヌがあそこまで苛立っているのか。

 

 その原因は潜り抜けた罠の先に三人を待ち構えていた様に現れる、女の子らしい丸文字で人の神経を逆撫でする文章であった。

 

 

 壁から突然現れ、襲いかかる高速回転・振動する二枚の円形ノコギリをレオニスが蹴り壊した時はーーー

 

ーーー〝ぷぷー、避けずに壊すとか体だけじゃなくて頭も硬いんだー。もっと頭使った方がいいよ〜?あ、ごっめーん、脳筋には無理だったね!ぷぎゃー〟 とか。

 

 落ちて来る天井を猛ダッシュで回避した時はーーー

 

ーーー〝なに必死で走って来てるの?やだ超ダッサーい、ゼェゼェ言ってたりして〜〟 とか。

 

 いきなり足元に現れた小石でロクサーヌが躓きそうになった時にはーーー

 

ーーー〝足元お留守ですよ〜♪ ぷぷぷー〟 とか。

 

 目の前から転がって来る複数の大きな鉄球をシンとレオニスが粉砕した時はーーー

 

ーーー〝あれれ〜、やっぱり脳筋なのかなぁ〜?やーいゴリラ♪ゴリラ〜♪〟 

 

 

 など、罠を突破する度に絶妙な位置とタイミングでそんな文章が目の前に現れるのだ。他にも落とし穴、突き出す無数の槍、ネチョネチョした移動阻害の床、大量の水攻めと様々な罠があったがその度に煽られた。

 

 その結果今に至るのだ。

 

 

「シン様は意外と平気そうですね?」

 

「別に平気というわけじゃないが、まあお前達よりまだマシかな。あー言う子供染みた煽りとかは元の世界に居た頃、周りの奴らとかに散々言われて来たから耐性があるんだよ」

 

 

 子供の頃から人の悪意や揶揄に触れて来たシンにとって、その程度の煽り言葉など、完璧にとは言えないが一々腹を立てる気など起きない。

 

 

「経験が成せる技ですね。私も経験を積んで、もっと精進しなければ........!」

 

「いや、別に技って程の物じゃないけど.........。それよりも、レオニス〜、大丈夫か?」

 

「は〜〜......ふぅ〜〜〜.........。大丈夫だ、問題無い」

 

 

 深呼吸からの多めのロングブレスをしたレオニス。大丈夫とは言っているが、かなり堪えていそうだ。

 

 

「俺のことは構わず先に進もう」

 

「いや、ここで一旦休憩する。ロクサーヌ、軽めで良いからお菓子とお茶を淹れてくれないか?」

 

「わかりました」

 

 

 シンの頼みを快諾したロクサーヌが、シンの肩に頭を置いているバウキスに近付き、「ティーセットとお菓子をお願いします」と頼んだ。するとバウキスはシンの体から離れ、異袋から座るための敷物、ティーセット、茶葉、湯沸かし用の魔道具、水、お菓子と次々に床に吐き出していく。

 

 

「こんなところで茶会とは.........先に進んだ方が良いんじゃないか?それに罠も.........」

 

「大丈夫だって。ここら辺の罠は粗方お前が処理してくれたし、俺達が動かないなら新たな罠が発動するわけもない。もし罠が発動したとしても、俺達ならなんて事無いだろ?」

 

「確かにそうだが...........」

 

「まあ一旦お茶でも飲んで落ち着こうぜ」

 

 

 その場で立ったまま逡巡するレオニスに対し、シンはロクサーヌが床に広げた敷物に腰を落としながら軽い態度で彼を促した。

 

 敷物の上には白い皿に盛られた各種様々な焼き菓子と、バウキスの分も合わせた人数分のティーカップとソーサーがロクサーヌの手で配膳されていた。そしてロクサーヌは慣れた手付きでお茶の用意を進めている。

 

 すでに場が整っている上、シンから催促も受けたことで、レオニスもようやく腰を下ろした。

 

 程なくしてお茶の用意が出来たロクサーヌが、各自のティーカップにお茶を注いで行く。お茶が注がれたティーカップとソーサーを持ち上げたシンが、上品にお茶を飲んだ。

 

 

「.............うん、美味いな。やっぱりロクサーヌはお茶の淹れ方も上手だよな」

 

「ありがとうございます。シン様も飲み方の作法が板に付いて来ましたね」

 

「ははっ。そりゃあ、あれだけカトレアにみっちり仕込まれたんだ、板に付いて無かったらあいつに怒られる」

 

「ふふっ、そうですね。バウキスはどうですか?」

 

「(チョロチョロ.......)」←長い舌で飲んでいるバウキス

 

「美味しそうに飲んでますね」

 

「バウキスはお茶やお菓子が好きみたいだからな。レオニスも早く飲め、お茶が冷めちまうぞ?」

 

 

 大迷宮の中だと言うのに、すっかり気の抜けた様子の二人と一匹。そんな彼らを見て、レオニスもシンに促されるままにお茶を飲んでみる。

 

 

「っ!美味い........」

 

「だろ? このお茶に使ってる茶葉は魔人族の里で分けて貰った物なんだが、味が良いうえにリラックス効果もある。心を落ち着かせる時には打って付けお茶だ。小腹も空いてるだろ?遠慮せずにお菓子も食えよ?」

 

 

 白い皿に盛られた様々な形状の数種の焼き菓子。バウキスやロクサーヌはそこに手(と尻尾)を伸ばし、手に取ったお菓子を口に入れていた。そんな彼女達は見るからな幸せそうな表情を浮かべている。

 

 それを見たレオニスも一つ、小さな焼き菓子を手に取り、口の中に放り込んだ。

 

 

「ッ!?この焼き菓子、外はカリカリで中はしっとり柔らかい。それに程良い甘さで何個でも食べられそうだ」

 

 

 レオニスが口にしたのはカヌレに良く似た焼き菓子で、シンが元居た世界にあったお菓子を魔人族の里で暮らす女性に再現してもらった物である。ロクサーヌとバウキスが好んで食べる焼き菓子のひとつだ。

 

 

「そいつは良かった。少しは気が紛れたか?」

 

「............ああ、いい気分転換になった。すまないな、シン」

 

「気にするなって。それよりホラ、他にもお菓子はあるから遠慮せず食え」

 

 

 シンの言葉を皮切りにレオニスは二個目の焼き菓子を手に取り頬張っている。焼き菓子を美味そうに食べるレオニスを見て、シンは胡座をかいた膝に頬杖を付いてニヤニヤと笑みを浮かべていた。そんなシンの視線を感じ取ったレオニスが、すでに三個目となる焼き菓子を口に含み、それを飲み下した後、口を開いた。

 

 

「..........なんだよ、遠慮するなって言ったのはお前だろう?」

 

「別にお菓子食ってるのを責めてるわけじゃないさ。ただお前があんまりにも美味そうに食うもんだから意外だなぁ〜って」

 

「...............まあ、こんなに美味い菓子は生まれて初めて食べたからな。今更気づいたが、どうやら俺は甘い物が好きみたいだ」

 

「へぇ〜、そうか。なら、街に着いたらスイーツ巡りでもするか?」

 

「スイーツ、巡り? なんだそれは?」

 

「街にある色んな店の甘いお菓子を食べ歩く事だ。それにお前、外の世界にある街がどんな物か気になるだろ?これなら甘い物食べながら、観光も出来る。まさに一石二鳥の策だ」

 

「................街にはこれより美味い菓子があるのか?」

 

「それを見つけるのが観光兼スイーツ巡りの醍醐味だよ」

 

「なるほど.........スイーツ巡り、悪くないな」

 

「じゃあ決まりって事で。ロクサーヌもスイーツ巡り行くだろ?」

 

「もちろんです! その為にも、先ずはこの大迷宮をしっかりと攻略しないとですね」

 

「だな。まっ、とりあえず今は英気を養うために、ゆっくりしようぜ」

 

 

 そうして三人と一匹は優雅にのんびりと大迷宮の中で一時のお茶会を談笑しつつ楽しんだ。

 

 それから三十分後、気分転換も済み、程よく小腹も満たされたシン達は再び大迷宮内の探索を開始した。

 

 程なくして、ふとシンが歩みを止めた。

 

 

「どうかしましたか、シン様?」

 

「何か見つけたのか?」

 

「..............................()()()か」

 

 

 シンがそう呟き、視線を向けた先は通路の壁だった。

 

 

「レオニス、ちょっと」

 

「ん?何をする気だ?」

 

 

 シンが掌でちょいちょいっと手招きすると、レオニスがシンの近くに歩み寄った。

 

 

「レオニス、この壁破壊出来ないか?」

 

「この壁をか?出来なくは無いと思うが.........」

 

「シン様、この先に何かあるんですか?」

 

「十中八九、何かある。そんな予感がする」

 

「ふむ........シンの言う事だ、何かあるのだろう..........よし、二人とも、離れていろ」

 

 

 レオニスが二人にそう促すと、シンとロクサーヌはレオニスから距離を取った。そしてレオニスは壁を正面に、左手を前に軽く突き出し、まるで強弓の弦をギリギリと引き絞る様に右拳を構えた。腰も少し落と、足は左足が前に出ている。

 

 そんなレオニスの体から蒸気が発生し、ゆらゆらと上に立ち上って行く。おそらく全身の筋肉が活性化し体温が急激に上昇しているのだろう。そのせいでレオニスの人化した体が一際大きく見えた。

 

 そして踏み込んだ左足の一歩が床を砕き、ギュンッと腰を捻りながら、引き絞られていた右拳が解放された。

 

ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!‼︎

 

 レオニスの右拳が触れた瞬間、頑丈な大迷宮の壁が爆発したような音と共に大量の土煙を巻き上げ、その風圧でシン達の髪が激しく靡いた。その威力の絶大さを物語ように、壁には大穴が出来ていた。

 

 しかし穴と呼ぶにはまだまだ不完全。予想以上に壁の厚さがあるらしく、レオニスがさっきの一撃で開けれたのは通路から三メートル先までだった。

 

 

「レオニス、まだやれるか?」

 

「問題無い。この壁を貫通させるまで殴り壊してやる!」

 

 

ーーードゴオオオオオオオオオオオオオオンッッ‼︎‼︎ ドゴオオオオオオオオオオオオオオンッッ‼︎‼︎ ドゴオオオオオオオオオオオオオオンッッ‼︎‼︎ ドガガガガガガガガガガガガッ‼︎‼︎

 

 

 掘削機と言うより寧ろダイナマイト。壁を爆散させて掘り進めるレオニス。そんな彼を通路の方から見守るシンとロクサーヌ。

 

 お茶を飲み甘いお菓子を食べたおかげで気分転換にはなった筈だが、それはそれ。溜まっていた鬱憤はやはりあったらしく、「くたばれッ!ミレディィィッ!」と叫んでいた。溜まった鬱憤を晴らすべく、レオニスはどんどん殴り壊していく。途中から一発一発に力を込めるのが面倒になったのか、乱れ殴打で掘り進める。某ジャ○プ作品の承○郎みたく“オラオラオラオラッ!”と聞こえて来そうな高速連続パンチだが、残念ながらレオニスは「破ァァァァッ!!」としか言っていない。本当に残念だ。大迷宮攻略後、レオニスをスタ○ドに見立てて、ちょっと遊んでみようかな?などと本気で考え出すシン。

 

 そんな事を考えていると、壁が爆散する音が消えた。

 

 

「土煙で何も見えませんね」

 

「だな。とりあえず向かってみるか」

 

 

 シンとロクサーヌはレオニスが掘った大穴を進んで行く。その大穴の長さはざっと見て三十メートル超。舞い上がった土煙で煙たいが、それは徐々に薄れて行き、進んだ先には貫通された穴の出口の前でレオニスが待っていた。

 

 

「シン、ロクサーヌ、これを見てくれ」

 

「ん?.............おお〜、これはまた......」

 

「............すごい場所に繋がりましたね」

 

 

 レオニスがぶち抜いた大穴の出口を指差したので、シンとロクサーヌがレオニスの体越しに出口の先を覗いてみる。

 

 そこには広大な空間が広がっていた。直径二キロ以上はある無辺の空間で、レオニスが元の姿に戻って暴れ回ったとしても十分な広さがありそうだ。だがそれは空間全体を表す広さの表現であって、実際にレオニスが元の姿に戻って自由に移動できるとは限らない。何せその空間には大小様々なブロックが無数に浮遊しているだけで、穴から覗いて見た限り、地面は遥か下方の奥深く。そんな空間の壁面中腹部辺りにレオニスは出口を繋げた。

 

 

「どうする、シン?」

 

「..............まっ、行くしか無いだろ。とりあえずすぐそこのブロックに飛び移るか」

 

 

 一先ず三人は目の前に浮遊していた直径十メートル程の正方形のブロックに飛び移った。

 

 すると飛び移ったブロックが突然急上昇を始めた。その先には他のブロックがあり、このままでは三人ともペシャンコにされてしまう。

 

 

「なんとなく動くとは思ったが、いきなりこれかよ」

 

「忙しないですね」

 

「そんな事言ってる場合か二人ともっ!さっさと移動するぞっ!」

 

 

 どこか間の抜けた会話をするシンとロクサーヌに、レオニスが二人を急かした。三人は他の浮遊するブロックに飛び移った。元々立っていたブロックは予想通り上昇した先のブロックとぶつかり、粉々に砕けて、遥か下方の底にブロック片が落ちて行く。

 

 それを見届けていた三人は唐突に“何か”を察知した。

 

 

「退避ッ!」

 

「「はいッ!(わかってるッ!)」」

 

 

 先程とは打って変わって顔色を変えたシンが二人に呼びかけ、そのまま三人はすぐさまその場から他のブロックにそれぞれ飛び移った。

 

 すると先程まで三人が居た浮遊ブロックが巨大な“何か”によって砕かれた。物凄い速度でシン達に迫っていたそれは、一瞬隕石かと見間違える様に赤熱化していた。

 

 そしてそれは浮遊ブロックを粉砕した後、下方の暗い底へと落ちて行った。シンとは別のブロックに退避していた二人が、一、二回他のブロックを足場に跳躍してシンの元に駆け寄った。

 

 三人がさっきの物体がどこに行ったのか、下の方を覗き込んで見ていると、何が暗い底で動き、物凄い速度で上昇して来た。

 

 それはシン達三人の斜め頭上で静止し、その全貌を露わにした。全長二十メートル弱はありそうな巨体に全身甲冑を纏った巨大ゴーレム騎士がそこにいた。赤熱させた巨大な右腕、鎖を巻き付けた左腕にはフレイル型の巨大なモーニングスターが握られている。驚愕のあまり言葉も出ない三人。

 

 そんな三人を取り囲む様に突然甲冑を纏ったゴーレムが数十体が上空から現れた。そのゴーレムのサイズは目の前の巨大ゴーレム騎士には劣るが、数が数なので油断ならない。

 

 まさに一触即発の様相。自分達が囲まれた事でロクサーヌとレオニスは臨戦態勢を取っているが、シンはただ一人斜め頭上で浮遊する巨大ゴーレム騎士から視線を外す事なく、じっと見つめていた。そんなシンの瞳を見つめ返すように、巨大ゴーレム騎士のギンッ!と光る眼光が一点を見つめていた。お互いがお互いを品定めするように視線の交錯する。

 

 そしてその巨体から不釣り合いな女の子の声が巨大ゴーレム騎士から聞こえた。

 

 

「やっほ〜、はじめまして〜、み〜んな大好きミレディ・ライセンちゃんだよぉ〜♪」

 

「「..................................................はい?」」

 

「なるほどな、そう言うことかーーーー“ヴィーネ”」

 

 

 間抜けな声を漏らすロクサーヌやレオニスとは対照的に、シンは何故ヴィーネがライセン大迷宮を指定したのかようやく理解した。

 






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