ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜 作:つばめ勘九郎
戦闘描写難しいっす
暑さのせいで思考が全然まとまらない..........
幾つもの浮遊するとブロックが浮かぶ広大な空間に辿り着いたシン達、そんな彼らの前に現れた巨大ゴーレム騎士が自身を〝ミレディ・ライセン〟だと名乗った。
「一体、なんの冗談だ..........?」
「“ミレディ・ライセン”は何千年も昔の人物、そんな人が生きてるなんてあり得ません。それに、ミレディ・ライセンは
巨大ゴーレム騎士の名乗りを聞いたレオニスとロクサーヌが、そんな疑問の言葉を口にした。
ロクサーヌの言う通り、ミレディ・ライセンは大昔の
故に二人は疑問を浮かべ、訝しんでいるのだ。
そんな当たり前の考察によってほんの僅かに動揺する二人とは違い、シンは巨大ゴーレム騎士の言葉に納得した様子を見せていた。
「ほんとの本当に私はミレディ・ライセン本人だよー?」
「「..................................」」
「えぇ〜〜、信じてくれないのぉ〜?」
「信じるさ」
ミレディ・ライセン本人だと言い張る巨大ゴーレム騎士に無言で訝しむ視線を向けるロクサーヌとレオニス。しかしシンだけはミレディの言葉に頷いた。
「え!ほんと〜! 信じてくれてミレディちゃん嬉しい〜!」
「ああ、信じるとも。そうでなければ、“ヴィーネ”が俺達をここに招いた理由が見当たらないからな」
「....................そっか。やっぱり君がそうなんだね?」
シンが口にした“ヴィーネ”と言う単語。それに反応を示したミレディゴーレムはさっきの口調から一転し、知性を感じさせる平坦な声色になった。明らかに先程のふざけた態度と違う巨大ゴーレム騎士の様子にロクサーヌとレオニスは“どう言う事だ?”と視線でシンに訴える。
そんな二人の視線を感じ取ったシンは、ミレディの言葉に返答する。
「その様子だと、やはりヴィーネの事を知っているんだな。ヴィーネからどう聞いているかは知らないが、ここは敢えて “そうだ” と言っておこう.........ーーーーー申し遅れた。俺の名前はシン、要 進だ。 神を討ち滅ぼし、世界に変革を
目の前の存在や現状に臆する事なく、シンは堂々とミレディに名乗る。そんなシンの名乗りを聞いた巨大ミレディゴーレムは「王様ね........」と意味深に呟いた後、再び登場時と同じテンションと口調に戻った。
「わぁ〜!本当に自分で自分のこと王様って名乗ってるんだね〜!ーーー〝シンおじちゃん〟って♪」
「お、おおおお、おじちゃん、だとッ.........!?」
いきなり初対面の相手におじちゃん呼ばわりされ、驚愕と精神的ダメージのあまりシンが動揺した声を漏らす。これでもまだ十七歳、確かに氷雪洞窟を攻略し、体つきも変わり、以前より大人っぽくなったが、おじちゃん呼びされるほど老けてはいない.......筈だ。
「ところでさ〜、あの穴はどう言うこと?」
「「「え?(ん?)(はい?)」」」
巨大ミレディゴーレムが横に向かって指を刺した。その先にはシン達が通って来た大穴がある。三人がそこに視線を向けるが、なんでも無いただのショートカット、それを“どう言うこと?”と訊かれても答えることは特に無いらしい。“見たまんま察しろ”、と三人が巨大ミレディゴーレムに視線を戻す。
「いやあの穴だよ、穴ッ! どうして正規ルートで来てくれないのー?! ていうかあそこの壁からは普通来れないんだよ!? いきなり横から君達が来るからミレディちゃん、慌てて飛んで来ちゃったよぉー! プンプン!」
どうやらミレディは正規ルートで来て欲しかったらしい。分かりやすく“怒ってるんだぞぉ〜”と示すように擬音まで口にするミレディだった。
「ゴホンッ、ま、まーあ、この際それは水に流すとして〜..............君のこと待ってたんだよ?あの子から初めて君のことを聞かされた時は、“うっそだぁ〜”って思ったけど、まさか本当に来てくれるなんてね!ミレディちゃん感激しちゃうなぁ〜♪」
切り替えの早いミレディ。ゴーレムなので咳払いする必要もないだろ?とは突っ込まないでおこう。話が進まないので。
「..................ちなみに、ヴィーネからはなんと聞いていたのか教えてくれないか?」
「んーとねー、“近いうちに
「シン様が
「何者なんだ、そのヴィーネという奴は..........」
ミレディの話を聞いたロクサーヌとレオニスが、益々ヴィーネという存在が只者では無い事を再認識させた。
ヴィーネがそれを知っていたのはおそらく、いや十中八九、ヴィーネがロバートに伝えたという〝予言〟の力だろう。シンが金属器を手にしたのは氷雪洞窟内での話。その事をロバートに報告したのは大迷宮攻略後の事で、ロバートがヴィーネと会ったのはシンとロクサーヌがまだ大迷宮の中にいた時の話だ。つまりヴィーネはシンが金属器を持っている事など知る
「ちなみに言っておくけど、ここにあの子はもういないからね? 聞きたいことがあるなら本人に聞くのが一番ッ♪」
「君の口から教えてもらえるんじゃないのか? そのためにヴィーネは俺達をここに招いたのだろ?」
「..............どうしてそう思ったのかな?」
「ヴィーネはわざわざ雪原まで赴き、ロンさんに大峡谷に繋がる転移陣を作ってもらうよう頼んだ。早い段階で俺達がライセン大迷宮に挑戦出来るようにな」
シンの言葉を黙って聞く巨大ミレディゴーレム。シンの言葉は尚も続く。
「じゃあ何故俺達を他の大迷宮よりも先にライセン大迷宮に来るよう誘導したのか?ーーーーおそらくヴィーネは俺達に、この大迷宮で何かやって欲しいことがあった。ではそのやって欲しい事とは何か? それは“解放者の生き残り”であるミレディ・ライセン、君に会うこと。そして残りの大迷宮の
シンはそのようにヴィーネの意図を読んだ。
どの道ライセン大迷宮にはいつか挑んでいただろう。だがヴィーネの行動が無ければ、シン達が次に目指したのはグリューエン大火山にある大迷宮、もしくはオルクス大迷宮のどちらかだった。亡きロバートが攻略した場所であり、その在処も確実にわかるのだから、そう判断するのは当然だろう。
ヴィーネの〝予言〟とやらは、そう言った可能性を予知する物なのかも知れない。実際シンとロクサーヌはロバートを救出する事が出来たし、魔人族の里に災いは起きなかったが、魔王軍の襲撃はあった。つまりヴィーネの予言が全てというわけでは無いのだ。
もしかするとヴィーネの〝予言〟とは“有り得た未来を予知する”、そういう類の固有魔法なのでは?とシンは予想している。
それを確かめる意味もあるから、シンはミレディが話してくれる事を期待しているのだがーーー
「うんうん! シンおじちゃんの言う通りだよ〜♪ 君達をここに招いたのはあの子、だから私は君達が来るのを待ってたんだ〜」
巨大ミレディゴーレムがその巨体には不釣り合いな程に、器用にパチパチパチッと手を叩く。
しかも、またおじちゃん呼び。気が抜けそうになる。
「でも〜、私が話すのはあくまで残りの大迷宮の在処とこの世界についてだけ。 あの子の事はノータッチ♪ さっきも言ったけど、聞きたいことがあるなら直接本人に聞くのが一番だよね〜♪」
ーーーやはりヴィーネについて話す気は無いらしい。
さらにミレディは言葉を続ける。
「それに私はまだ、君のこと認めてないんだよね〜。認めてない相手に他の大迷宮のことはペラペラ喋れないし〜、実は君が“あの子”の言ってた人の名前を騙ってるだけかも知れないし」
「なっ!?シン様が嘘をついていると言うのですかッ!」
「あくまでそういう可能もあるよねって話。 だから示してよ、今の君達の〝全力〟で、私を認めさせてみてよ。君達が本当に、あのクソッタレを倒す気概を持ってるのかーーーー“あの子の願いを叶えてあげられるのかを”」
力を示せとミレディは言う。その最後の言葉には、悲哀の色が見え、切実に願っている様に思えた。
「...........つまり、君と戦って勝てば良いのだな?」
「そういうこと! それにホラ、ここは大迷宮なんだしぃ〜、私に勝てないと攻略は認められないよ〜?」
「フッ、それもそうだな..............なら君の言う通り、俺達の力を示すとしよう」
不敵な笑みをこぼすシンは腰の刀剣を抜き、その切先を巨大ミレディゴーレムに向けた。ロクサーヌとレオニスはそんな自信に満ち溢れたシンの姿を見て、強張った表情から破顔し、彼と同じように自信に満ちた瞳で巨大ミレディゴーレムを見上げる。
「いいねいいね〜♪ いかにも挑戦者って感じで、ミレディちゃんもワクワクしちゃうよ〜!」
「その前に一つ言っておこう。君は先程、全力で力を示せと言ったな? 生憎この場所だと、俺は“全力”を出せない...........だが、見せてあげようーーーー全力にも劣らない、俺達の〝本気〟を」
〝本気〟という言葉にレオニスがシンの意図を読み、少しだけ口角を上げる。そしてロクサーヌも手に持つ魔剣アンサラに魔力を流し、その刀身がバチッと音を立て僅かに電流が走る。
「そこまで言うなら見せてみてよ!君が言う〝本気〟ってやつをさッ!!」
巨大ミレディゴーレムが戦闘開始の合図を口にし、シン達を取り囲んで居た数十体のゴーレム騎士が一斉に襲いかかって来る。それを三人は軽々と上空に跳躍する事で回避し、巨大ミレディゴーレムより頭上にある浮遊ブロックに飛び移った。
「足場は少し制限されてるが........いけるか、レオニス?」
「余裕だ。寧ろ本当に制限してるのかと疑いたくなる」
「そいつは結構。ならお前はミレディを抑えてくれ。その間に俺とロクサーヌで、
「「わかりました!(了解だ)」」
「え〜、もう作戦会議終わったのー? 私も混ぜてよーッ!」
シン達が飛び移った浮遊ブロックに、巨大ミレディゴーレムが左手に持ったフレイル型モーニングスターをブンブン振り回してながら迫って来る。そしてシン達の目の前に踊り出た巨大ミレディゴーレムは、振り回したフレイル型モーニングスターを三人の上から叩きつけた。
ーーーーズドオオンッ!!
棘付きの巨大な鉄球が三人に打ち付けられ、浮遊しているブロックが僅かに高度を下げる。ミレディは確かな手応えを感じていた。
何故避けなかったのか?そんな疑問が浮かび、シン達に落胆しかけたミレディは驚愕の光景を目にした。
「ハァ〜〜ッ!?う、うそでしょッ!?」
三人の頭から打ち付けられた筈のフレイル型モーニングスターの頭部が、手を上に掲げている赤い髪の大男に受け止められていた。しかも片手で。さすがのミレディもこれには驚きを禁じ得ない。
受け止めているレオニスは至って普通の表情。さらにシンとロクサーヌも別段身構える事もせずに居た。
「この程度の鉄の塊、受け止める事など造作も無いわ」
「相変わらずのパワーだ。じゃあ頼んだぞ、レオニス」
「.......ところでシン、一つ確認して良いか?」
「ん?どうした?」
「抑えるのは構わないが、別にアレを倒してしまっても構わんのだろ?」
(........................ここでそれ言っちゃう?)
本人的にはマジで倒すつもりで言ったみたいだが、地球出身でオタクのシンは有名な死亡フラグを前に、若干返答に困った。某赤い弓兵の有名シーン、赤いと言う意味ではレオニスも同じだが、ここでは少し複雑である。
「ま、まあ.........倒せるなら全然オッケー」
「フッ、了解だッ!!」
シンの許可も下りたことで、レオニスは受け止めていた巨大なモーニングスターを片手で払い除け、巨大ミレディゴーレムの頭上に向かって大きく跳躍した。
「さっきのは驚かされたけど、もう平気だよー!そう何度もミレディちゃんが驚くわけないもんねーッ!」
そう言って巨大ミレディゴーレムは自身の頭上に跳躍し、落下して来るレオニスに向けて、赤熱化させた右拳を振り抜いた。それはまさに巨腕のヒートナックル。そんな拳がレオニスに迫る中、彼の体が強い光を放った。それでも巨大ミレディゴーレムの拳は止まらない。
しかし次の瞬間、巨大ミレディゴーレムのヒートナックルは
レオニスの体から溢れ出ていた光が収束していくと、次第に拳を受け止めた物の正体が何なのか理解出来た。“手”だ。それも巨大ミレディゴーレムとほぼ同じ大きさの手。そして、光が収まった時、巨大ミレディゴーレムの頭上にいたのはーーーー
「GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」
「か、かかか怪獣ゥゥゥゥ〜ッッッ?!?!」
ーーーー赤獅子の姿に戻ったレオニスだった。
レオニスは巨大ミレディゴーレムのヒートナックルを片手で受け止め、もう片方の手で巨大ミレディゴーレムの頭部を掴むと、そのまま落下する勢いに任せ、ミレディを下方に引き摺り下ろして行く。
“驚くわけないもんねーッ!”などとミレディは言っていたが、しっかりとそれに驚かされ、秒の速さでフラグを回収し落ちて行った。
「さて、レオニスがミレディを倒すのは構わないが相手は解放者、そう簡単には行かないだろう。手早く済ませるぞ、ロクサーヌ」
「はい!」
シンの言葉に力強く返事をするロクサーヌ。二人が立っている浮遊ブロックにどんどんゴーレム騎士が集まって来る。数十体にも及ぶゴーレム騎士が、二人を囲む包囲網を完成させつつある。
するとシンは肩に頭を乗せているバウキスに何かを囁き、バウキスは口を大きく開き、“異袋”から一塊りの鉄にも見える長い鎖を吐き出した。一見すると鎖と言うより長いロープにも見える細いチェーンで、長さは二十メートルを優に超えている。その細鎖の端には蛇の顔を模した金属の装飾が付いており、それをシンが左手で掴むと細鎖は一人でにシンの左腕に巻き付いた。
その鎖の名は〝延鎖バウキス〟。
縛鎖フィレモンの対となるロバートが製作したアーティファクトである。縛鎖と異なり拘束力は極めて弱く、その長さを活かした使い方しか出来ない。しかし操作性に優れており、僅かな魔力で自由自在に操ることが出来る。鎖の先端に付随している蛇の頭を模した装飾が蛇の口の様に開閉し、一度獲物を掴めば使用者の魔力が続く限り離さないカミツキ能力がある。
そんな延鎖を纏った左腕は二回り以上太くなり、かなりの重量が有る様に伺えるが、シンがその重さに体を傾ける様子は全く無い。延鎖バウキスはとても軽い為だ。頑丈性が縛鎖より圧倒的に低いためだが、それでも並の攻撃では早々に壊れたりはしない。
そうこうしている内に、大剣と盾を構えたゴーレム騎士達が空宙から一斉にシンとロクサーヌに向かって来た。
襲いかかる無数の大剣 –––– 二人はヒラリと躱し ––– 反攻の一閃。
ゴーレム騎士の甲冑ごと叩き斬るシン、鎧と鎧の隙間に剣撃を決めるロクサーヌ。そして二人は襲い来るゴーレム騎士達の体を階段の様に見立て、頭上へと駆け上がる。
足場のゴーレム騎士を斬り壊す –––– 上下左右前後、襲来するゴーレム騎士達 –––– 華麗に捻転し躱す ––– 反攻の斬閃 –––– まだ上を目指す。
シンとロクサーヌを見上げるゴーレム騎士達が二人に追い縋ろうと迫る。ゴーレム騎士達より遥か上空に登って行く二人。そこでシンは左腕に巻き付けた延鎖を、並行するロクサーヌの左斜めに射出。延鎖の先端が本物の蛇の様に駆け上がり、小さな浮遊ブロックに巻き付き、そのまま鎖本体に噛み付いた。
「行ってこい、ロクサーヌッ!」
「はいッ!!ーー〝眷属器・
ロクサーヌの魔剣が輝くと、ロクサーヌの髪や尻尾の毛が浮き立つ。彼女の眷属器は肉体の
眷属器の発動を知覚したシンは自分の右隣にある浮遊ブロックの側面に刀剣を突き立てた。足場が無く、その場で宙吊りになりつつも、伸びた鎖の緩みを引き締める。するとロクサーヌは自身の眼前に伸びて来た鎖を通り過ぎる直前で掴み、体の向きを下向きに修正。そしてバネの様にしならせた鎖の反動を利用し、僅かに体内から漏れ出す電流を体表に走らせ、一気に急降下。ロクサーヌに迫っていたゴーレム騎士達、[第六感][急所知覚]を駆使してギリギリで躱し、剣を振るう。その剣閃はまさに刹那の神業。さらにロクサーヌの剣撃が加速する。[連撃加速]によって剣撃が続く度に速さは増して行く。一瞬で元居た浮遊ブロックに彼女が到達した時には、宙に浮く残りのゴーレム騎士達の半数がバラバラに切断されていた。
「相変わらずの凄まじい剣技だな」
ロクサーヌの神業を目の当たりにし、彼女の強さと頼もしさを改めて痛感したシン。そんな彼に迫って来る残りのゴーレム騎士達。
それを見たシンはニヤッと口角を上げ、浮遊ブロックの側面に突き刺した刀剣を抜き、それを腰に納めた。そして延鎖を自在に操り、自身の体をそこから数メートル先に上昇させ、鎖を一塊りになって迫って来るゴーレム騎士達に向けて射出した。
唸るように伸びた延鎖が複数体のゴーレム騎士をグルグル巻きでまとめて拘束する。しかし延鎖に拘束力は極めて低い。すぐに抜け出そうとゴーレム騎士達が踠く。
「そんな暇は与え無いーーーバウキス、大剣」
バウキスの異袋から大剣の柄が出てくると、シンがそれを引き抜く。引き抜いた大剣の名前はまだ無い。敢えて名前を付けるなら“ドラゴンこ○し”と、今はしておこう。あ、“バス○ーソード”でもいいかもね。
“仮称ドラゴンこ○し”(バ○ターソード)を振り下ろす様に引き抜いたシン。その勢いに身を任せ、シンの体は前転を繰り返し、高速回転する。大剣を持ったまま回転するシンの姿は、まるで落下してくる巨大な回転刃。
巨大回転刃と化したシンは、そのまま一塊りになったゴーレム騎士達を力任せに叩き落とした。回転の勢いと[豪腕]と身体強化八倍が合わさった剣打は、ゴーレム騎士達をまとめて暗い下方の底に落ちて行った。
そして落下して行くシンは、延鎖を操り、ロクサーヌが居る浮遊ブロックに着地する。鎖は再びシンの左腕に巻き直され、右手に持った大剣を肩に担いだシンは周りを見渡す。
「まだちらほら残ってるな。まっ、モノの数じゃ無いが」
「シン様はレオニスの所に向かってください。ここは私一人で大丈夫です」
「いや..........どうやらその必要は無さそうだ」
シンが言葉を口にしたと同時に、物凄い勢いで下から何かが通り過ぎて行った。巨大ミレディゴーレムだ。巨大ミレディゴーレムは頭上に浮遊するブロックに衝突し、その衝撃で頭部に光る目が一瞬だけ明滅する。そして一瞬だけ浮遊する力が途切れ、力無く落下しそうになったが、「くッ......!」と苦悶の声を漏らして何とかその場に留まった。
「ほんとなんなのーッ!? あんな怪獣、あの子から聞いて無いんだけどぉ!!」
巨大ミレディゴーレムの至るところがボロボロになっている。フレイル型のモーニングスターは紛失しており、片腕ももぎ取られ、頭部も半分抉られていた。シンの[鑑識]で巨大ミレディゴーレムの甲冑にはアザンチウム鉱石が使用させれていることが分かった。この世界で最高硬度を誇る鉱石、それを惜しげもなく大量に使用し作られた甲冑を、いとも容易くボコボコにするレオニス。この世界で一番敵に回してはいけないのは、赤獅子なのかもしれない。
そして愚痴を溢すミレディの視線の先にはレオニスが居た。レオニスは自分で吹き飛ばした巨大ミレディゴーレムを追って、シンとロクサーヌの所に戻って来た。と言っても二人が立っている場所に足を付けたわけでは無く、浮遊ブロックに手を掛け、ぶら下がっている。
赤獅子レオニスが浮遊ブロックの下からひょっこりと大きな顔を出した。
「まだ終わってなかったんだな」
「意外とあのゴーレムが頑丈でな。それに流石はミレディ・ライセンと言ったところか、解放者を名乗るだけあって中々しぶとい。お前達はもう終わったのか?」
「粗方片付きました。手を貸しましょうか?」
「不要だ。ここでの戦い方もだいぶ慣れた。次で仕留める」
ロクサーヌの提言にレオニスは不要だと、自信たっぷりに答えた。どうやらレオニスはこの短い時間の間に少ない足場での戦い方をマスターしたらしい。流石、戦闘民族。
下から獲物を見つめるレオニスの鋭い眼光に「ひぇっ」とミレディが声を漏らす。どうやらミレディもこの短い時間の間に赤獅子に迫られる恐怖が染み付いてらしい。その気持ちはよくわかると、シンは内心ミレディに同情した。
「け、けど! いくらなんでもここまでは登って来られないでしょ? さっきみたいに足場が無ければ、跳躍することも出来ないよねー? や、やーいやーい!ここまで来れるものなら、来てみなさいよねー!」
ミレディ、ここぞとばかりに挑発。しかし後半から声が震えいるあたり、頑張って虚勢を張っている様だ。可哀想に.......何が可哀想かって?そんなものは決まっている。ミレディの見立てが甘いことと、その虚勢がすぐに崩壊する事がだ。
ミレディの挑発に敢えて乗ったレオニスがシン達が乗っている浮遊ブロックから手を離し、落ちて行く。しかし、その途中で左右にあった浮遊ブロックに手を掛けると、レオニスは巨体を前後に揺らし伸身を大きく振りかぶって、勢いよく上に飛んだ。飛ぶ途中にある浮遊ブロックを取手にし、さらに駆け上がり、また浮遊ブロックを掴み立体的に飛んで行く。
「..............もうターザ○じゃん」
「はい?」
そんなレオニスを見てシンが思い浮かべたのはディ○ニーのアニメ映画ター○ンだった。レオニスとってここはジャングルなのかもしれない。
昔を懐かしむシンの感想とは違い、奇怪な動きで自身に迫る巨獣を見たミレディは只々恐怖のあまり絶叫していた。
「もうヤダぁぁーーーッ!!」
ミレディが浮遊ブロックを遠隔で操り、レオニスにぶつけようとする。しかしそれすら取手にして迫って来る。そしてミレディの居る空域に余裕で駆け上がったレオニスは、拳を振り抜いた。
半分しか残っていない巨大ミレディゴーレムの頭部にレオニスの拳が迫る。だが巨大ミレディゴーレムも「なんのそのぉぉッ!」と負けじと気合で拳を突き出す。レオニスの右拳と巨大ミレディゴーレムの左拳がお互いの顔面にヒット。
「「く、クロスカウンターッ......!?」」
交差する二人の拳。しかし圧倒的にパワーで優っているレオニスに軍配が上がる。
「落ちろぉ!」
強引に振り抜いたレオニスの拳が巨大ミレディゴーレムの顔半分すら砕き抜き、殴り落とした。落下する巨大ミレディゴーレムはその先にあった幾つかの浮遊ブロックに巨体をぶつけながら落ちて行く。
それでもまだ巨大ミレディゴーレムは落下の勢いを殺し、体勢を立て直した。
「凄いな。まだ動けるのか」
「レオニス相手にここまで追い縋るなんて、やっぱり解放者というのは只者ではありませんね」
シンとロクサーヌは素直に巨大ミレディゴーレムを賞賛した。性能と言うべきだろうか、それともミレディのゴーレムを操る技量?どちらにせよレオニス相手にここまでやり合えるとは.........ミレディ・ライセン、やはり侮れない相手である。
「(ゴーレム達はとっくにやられてるか。あの狼人族の剣士ちゃんもかなりのやり手みたいだねっ!.......... ていうか、この魔物一体なんなのッ!?そもそも本当に魔物なの!?こんな魔物、オーくんの大迷宮のヒュドラすら凌駕する力でしょッ?!)ーーーーーーこうなったらッ!」
巨大ミレディゴーレムがその空域から離脱し、レオニス、そしてシンとロクサーヌから距離を取った。ミレディを追いかけようとするレオニス、しかし行動を起こす前にそれは起きた。
「君達の本気を見習って、私も〝本気〟で君達を試させてもらうからねッ!!」
ミレディのそんな言葉が聞こえて来たと思った矢先、天井に敷き詰められた数百、数千、或いはそれ以上の数のブロックがシン達に向かって落ちて来た。それだけでは終わらない。壁面にも密集していたブロックすら天井にかき集め、無数の隕石群の様に降らせて来た。
この数は流石にヤバい。
いくらレオニスと言えど、この数を捌き切るのは不可能だ。ロクサーヌとてそれは同じ。
レオニスが咄嗟にシンとロクサーヌを庇う為、自身の巨体を盾にする。それではレオニスがボロボロになってしまう。
「バウキス!魔力タンク、ありったけだッ!」
シンが咄嗟にそう叫び、両掌を合掌させる。そこに口を大きく開けたバウキスがシンの両手を丸呑みした。そしてバウキスがシンの両手を吐き出した時、その両手の十指には同じ形の指輪が一つの指に三個、嵌め込まれていた。
バウキスの異袋に直接手を突っ込み、指輪を着装させたのだ。その指輪はロバートが用意していた指輪型の魔力タンク、一つの指輪に膨大な魔力が貯蔵されている。
それを全指に付けれるだけ付け、シンは全霊をかけて[力魔法]を発動させた。
「ぐォ重ッ!?ぐぐぐッ..........魔力がッ..........くッ、ゴリゴリ、削られるッ..........!!」
空を支えるように広げた両手が、その重さで腰元まで落ち、思わずシンは中腰になってしまう。
降って来る無数のブロックの勢いが落ちる。だが、まだまだ降って来るブロックはあり、完全に止めることは出来ていない。力魔法の網目から溢れ落ちて来るブロックをレオニスとロクサーヌが対処している。
魔力タンクである指輪が二つ砕けた。
シンの[力魔法]は積み重ねた修練のおかげで、消費する魔力がかなり抑えられている。しかし現状、ライセン大迷宮内においては、適切化された魔力消費が意味を成さない程にどんどん魔力が削られて行く。一個の落下して来るブロックを支えるだけで普段の十倍魔力を持って行かれる。
また魔力タンクの指輪が二つ砕けた。
[英傑試練]も発動しているというのにこの始末。これでは幾ら魔力が有っても意味が無い。
さらに魔力タンクの指輪が二つ砕けた。
なら、どうするべきか。決まっている“限界を越える”しか無い..............!!
「こんのォォォォッ!ーーー〝限界突破〟ッ!」
魔力による強化。自身の膂力や耐久力を三倍に引き上げる技能だが、それは外側から体を補強するような物なので魔力分解の対象である。しかし、外側が分解されても内側は別。限界突破で引き上げられた知覚能力や処理能力が、より[力魔法]発動に必要な魔力消費を最適化して行く。さらに[瞬光]で思考速度が加速し、その派生である[並列思考]や[空間掌握]が[限界突破]発動によってさらに極まったものになる。
指輪が九つ砕けた、残り十五。
「ふんぬゥゥゥオオオーーッ!!!」
「う、嘘でしょ....................ッ!?」
ミレディが目の前の光景を目にし、驚愕に満ちた呟きを漏らした。
シンは今度こそ完全に
それを察したレオニスとロクサーヌの行動は早かった。
「私が撹乱します!レオニスはトドメをッ!」
「言われなくてもそうするつもりだッ!」
ダンッ!と一人と一体がシンが受け止めているブロックの隙間を縫って巨大ミレディゴーレムに向かって行く。そして先に巨大ミレディゴーレムに辿り着いたのはロクサーヌだった。
「もちろん君が来ることもわかってたよぉ!」
巨大ミレディゴーレムの左拳がロクサーヌを迫っていた。しかし、ロクサーヌはそれをヒラリと躱し、巨大ミレディゴーレムの腕を駆け抜け胸部を目指す。そこにゴーレムの核があると見抜いたからだ。
そうはさせまいと巨大ミレディゴーレムがその巨体を震わせ、ロクサーヌを振り落とす。
しかし、尚も食らいついてくるロクサーヌ。魔猪戦の時より劣るが、眷属器の能力で強化された肉体能力で浮遊ブロックの側面を蹴り、巨大ミレディゴーレムを撹乱する。
そんなロクサーヌを相手にしながらミレディは、ふとこの場にいないもう一人の存在を思い出した。
(そういえば、さっきの怪獣はどこ行ったの.......!)
“あれだけの巨体が近づいて来るならすぐに分かるはず”、そう考えたミレディは初めて見た赤獅子の姿が衝撃的過ぎて、重要な事を一つ忘れている。
レオニスは最初、人間の姿であった事を。
それを思い出したミレディが、気配を探った時にはもう遅い。
[人化]状態のレオニスが、物凄い勢いで上空から落下し飛び蹴りの構えを取っている。レオニスは再度[人化]をし、シンが受け止めている浮遊ブロックの影に紛れて上空へと駆け上がると、天井から一気に落下して来たのだ。さらに、一瞬だがシンの[力魔法]がその勢いを後押ししてくれている。今のレオニスはまるで赤熱し降って来る小さな隕石の様だった。
この距離、このタイミングでは、巨大ミレディゴーレムは回避する事は不可能。
咄嗟に防御体勢を取ろうとするも間に合わず、レオニスのイ○ズマキック(ライダーキック)が巨大ミレディゴーレムの胸部を貫き、核を破壊した。
「デタラメだよ.....ほんと.........」
そう言って力尽きた巨大ミレディゴーレムが、背中から浮遊ブロックの一つに落ちた。
それを見届けたシンは力魔法の効果範囲を自分の上空だけに絞り、それ以外は全て解除した。途端、止まっていた浮遊ブロックがシンに向かって一斉に降り注いで来るが、[力魔法]の簡易的な結界に守られているシンとバウキスは落ちて来たブロックに一切傷付けられる事なくやり過ごした。漸くそれが治ったタイミングで最後の指輪が砕け散り、魔力もほぼスッカラカン。
途轍もない疲労感と頭痛に吐き気すら感じ始めたシン。するとそこにレオニスがやって来た。
「立てるか、シン?」
「ぁぁぁ〜、疲れたよぉ〜」
シンの疲れ具合に覚えたがあるレオニス。今のシンはまるで、自分の父であるレグルスとの特訓後の姿によく似ていた。というより、そのまんまである。
「はぁ、仕方ないな。ほら、シン。俺の背に乗れ」
「ぅぅ〜、助かる..........おぇ、あんまり揺らすなよ?まじで吐きそうだから」
「善処するが、俺の背中に吐いたら放り投げるぞ?」
「ひでぇ..............」
そんなやり取りをする二人は、墜落した巨大ミレディゴーレムのところで待機しているロクサーヌの元に飛んで行った。
途中マジで吐きかけたシンを本気で振り落とそうとしたレオニス。そんな彼を「薄情者めぇ......おぇ」と罵り、最後の力を振り絞ってレオニスにしがみつくシン。シンに巻き込まれて自分も振り落とされるのはごめんだと、レオニスの体に巻き付くバウキス。そんなやり取りをしていた時、レオニスの耳飾りとシンの短剣に繋がりが生まれた。
それは眷属の種。
その事に気づく事も無く二人はロクサーヌの元に漸く辿り着き、ロクサーヌは回収したシンを優しく介抱したのだった。
というわけで今回は巨大ミレディゴーレムとの一戦でした。ちょっとしたレオニスの活躍回です。
補足
『登場したアーティファクト』
「延鎖バウキス」
・縛鎖フィレモンの対となるロバート製作の鎖型アーティファクト。縛鎖より細く長い鎖で、その長さは二十メートルを優に越える。一方の端には蛇の頭を模した金属の装飾、もう一方の端には細いフックが付いている。僅かな魔力で自由に操作できる鎖で、蛇の頭を模した装飾が口のように開閉し、カミツキギミックがある。拘束力は極めて低く、頑丈性も縛鎖に比べたら低い。このアーティファクトは『いかに魔力消費を抑えられるか』を追求し製作された物。使用者の肌に鎖が触れてさえいれば自由に扱える。
「ドラゴンこ◯し」または「バ○ターソード」
・シンの気分次第で名前がコロコロ変わる大剣。割と使い勝手いい大剣で、敵を纏めてぶった斬りたい時には超便利。
『それはFFと言うにはあまりにも進化しすぎていた。3とか4とかあれくらいのファンタジーが好きだった』
『登場した技能』
「限界突破」
・原作“ありふれた職業で世界最強”に登場する自己強化技能。身体能力を三倍に引き上げる強化外骨格みたいな技能。魔力の分解作用が働くライセン大迷宮ではその恩恵を十全には受けられないが、知覚能力、思考能力、反射速度と言った内部で完結する強化なら魔力分解の対象にはならない。