ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

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攻略後の珍事

 

 巨大ミレディゴーレムを倒し、シンがロクサーヌの膝枕で英気を養い復活した後、三人は自分達の元に移動して来た浮遊ブロックに乗り、ライセン大迷宮最後の部屋に入った。

 

 その部屋の中にはポツンと一つの人影があり、子供の様な小さな背中を丸め、哀愁漂う姿で体育座りをしていた。

 

 それが誰なのかはすぐにわかった。

 

 

「ぅぅ〜、あんなの反則だよぉ〜。みんなぁ、ミレディちゃんこれからやっていける自信ないよぉ〜..........」

 

 

 見るからに落ち込んだ様子のミレディ・ライセンが膝を抱えていた。

 

 先程の巨大ゴーレム騎士の姿とは異なり、今のミレディの姿は子供程度の大きさしかないゴーレムで、一枚布のローブを身に纏い、顔にはニコちゃんマークの白い仮面を付けている。

 

 シン達は特に驚いた様子も無く、そんなミレディに視線を向けていた。

 

 巨大ミレディゴーレムとの戦いの後、力尽きた巨大ミレディゴーレムが何の反応も示さなくなったので、最初は “もはや話す事すら出来ないぐらいに壊してしまったのか?” と疑ったレオニスとロクサーヌ。しかし、ロクサーヌに膝枕されていたシンが「どうせ最深部の部屋で待ってるから気にするな」と一声掛け、いざその部屋にやって来てみればシンの言う通りだった。

 

 (もっと)も、ミレディが落ち込んでいるとは予想外だったが。  

 

 そんなミレディを見てレオニスが追い討ちする様に声を掛けた。

 

 

「力を示せって言ったのはそっちだろ?」

 

「そうだけどぉ! そうなんだけどぉっ! もう何なの君達! 魔法が使えない筈なのに落としたブロックが全部止められるし、そこの狼人族の子なんて動くの早過ぎでしょッ!? というより、一番納得いかないのはーーーー君だよ君ッ!」

 

 

 そう言いながらミレディがビシッ!と指を指した先にいたのはレオニスだった。

 

 

「君は一体何者なのッ?! あんな魔物見た事ないし、どうして人間の姿をしてるのよぉっ! そもそもあんなに強いとかミレディちゃん聞いてないよーーっ!もうもうもうっ!」

 

 

 駄々っ子みたいに地面に寝転がってバタバタするミレディ。

 

 

(ーーーーふむ。ミレディの様子からして、レオニスの事はヴィーネから聞かされていなかったみたいだな。わざと伝えていなかったのか?..............或いは予言の力でレオニスを確認出来なかった、のか.........?)

 

 

 益々ヴィーネの力について疑問を深めるシン。しかしこうして考えていても埒が明かないため、一先ずシンはこの駄々っ子を落ち着かせる事を決め、赤獅子の事や、何故レオニスが人間の姿をしているのかを一から説明した。

 

 

「..........なるほどね。まさかそんな魔物が居たなんて..........出来る事なら私達が生きてた時に出会いたかったよ..........」

 

「仕方ないさ。癪な言い方だろうが、エヒトの目すら欺く大陸だ。この大陸とは真反対に位置するカタルゴ大陸は早々見つけられる場所じゃない。ロンさんも言っていたが、赤獅子と出会えたのは奇跡に等しい幸運なんだ」

 

「..........そうだよね。そもそも私達も、そんなところがあるなんて知らなかったんだし、この時代に出会えただけでも幸運だったんだよね」

 

 

 納得している様子のミレディだが、小さな体の彼女は明らかに気を落としていた。

 

 

「....................確かに君達が生きていた時代に赤獅子達と出会っていれば、何かが変わっていたかもしれない。逆に変わらなかったかもしれない..........けど、君達がやって来たことが赤獅子の存在一つで全て変わるわけじゃ無いだろ?それでは君達解放者の行いが無駄みたいじゃないか」

 

「..........シンおじちゃん」

 

「今更だけどそのおじちゃん呼び、やめてくれないか? こう見えて俺はまだ十七なんだぞ?」

 

「そうだよね。確かにシンおじちゃんの言う通りだよ」

 

「話聞いてたか?」 

 

「うん! ミレディちゃん、もうクヨクヨしないよっ! 今は私達がやって来たことが無駄じゃ無いって事を証明しなくちゃだもんね! じゃあ約束通り、シンおじちゃんにはちゃんと他の大迷宮の在処とか伝えるねっ!」  

 

「オーケー、わざとだな。話を聞かない子にはお尻ペンペンだ。君が泣くまで叩くのをやめないからな」

 

 

 わからずやな子にはお仕置きが鉄則。地球にいた頃もよくチビ達のお尻を叩いていたシンは、そう施設のおばちゃんに教わっている。

 

 本気でミレディ(ミニゴーレム)の尻を叩こうとするシンを何とか止めるロクサーヌとレオニス。そんな三人を見てミレディが「プークスクス」とわざとらしく嘲笑していた。だが結局ミレディはシンに尻を叩かれた。ゴーレムのボディなのに何故かお尻がヒリヒリするミレディは、レオニスに対する恐怖とは別の意味でシンを恐れたのだった。

 

 その後、ゴーレムボディのお尻をさすりながらミレディは残りの大迷宮の在処を話してくれた。西の海にある海底遺跡、聖教教会の総本山である神山、ハルツィナ樹海にある大樹の大迷宮を。グリューエン大火山とオルクス大迷宮はすでに知っているので以下省略。

 

 

「ここからですとグリューエン大火山より、樹海の大迷宮の方が近いですね」

 

「立て続けの挑戦にはなるが、先にそっちを目指すか?」

 

「う〜ん..........」

 

「あ、そうそう!あの子から一つ伝言を預かってるんだった!」

 

 

 ロクサーヌとレオニスの言う通りここからだと樹海の方が近い。グリューエン大火山より先にそっちを目指すべきかとシンが考えていた時、ミレディが気になるワードを口にした。

 

 

「伝言..........?」

 

「うんうん! 『私に会いたいなら樹海より先に大火山を目指せ』、だってさ!」

 

「..........っ、試すような言い方ですね、その伝言」

 

「実際俺達を試しているのだろう、見え透いた誘導であるのは間違いない。正直俺はそのヴィーネとやらが信用出来ないのだが..........どうする、シン?」

 

 

 伝言の内容に不満を漏らすロクサーヌとレオニスの視線がシンに集まる。ミレディもシンがどう判断するのか見守っていた。

 

 そんな中、シンは躊躇うこと無く、笑って答えた。

 

 

「行くさ、大火山」

 

「正気か? その女の伝言通り会えるとは限らないぞ?元々グリューエン大火山には行く予定だったんだ、なら樹海の大迷宮に行った後でも構わないだろ?」

 

「かもな。でも、あのヴィーネがそんな事も考慮せず、ただ俺達を誘うとは思えない。ロンさんが信じた相手だぜ?きっと何か理由がある。まっ、その理由がなんなのかはさっぱりだがな!」

 

 

 最後に肩をすくめ微笑しながら、シンはそう言い切った。

 

 

「シン様がそこまで言うなら私はそれに従います。それに、私も師匠が信じた相手を信じるのはやぶさかではありませんし」

 

「..........はぁ〜、お前がそう言うならそれで構わんよ。ヴィーネの事は信じれないが、俺はお前の進む道を信じて進むまでだ」

 

 

 なんだかんだでシンの判断を了承した二人。そんな二人に対してシンは申し訳程度に細く笑んだ。

 

 

「というわけでミレディ、俺達はグリューエン大火山に向かう。これでいいんだろ?」

 

「うんうん! そう来なくっちゃね♪ なら早いとこ神代魔法も渡しちゃおうか!」

 

 

 その後、部屋の中心に浮かび上がった魔法陣の中に入ったシン達は、神代魔法の一つ“重力魔法”を手に入れた。

 

 

「あらぁ〜、怪物くんと狼人族の君は適性無いね。もう全然無いね」

 

 

 ミレディの言葉にロクサーヌがガクッと肩を落とし、レオニスは「誰が怪物くんだ!誰がっ!」と呼び方に物申した。

 

 ロクサーヌは重力魔法の適性が無いことがかなりショックならしく、いつも以上に尻尾が垂れ下がっている。そんな彼女の頭を優しく撫でて励ますシン。少し尻尾が跳ねた気がした。レオニスは元々魔法が使えるとは思っていなかったので、気にしている様子は全く無い。

 

 

「シンおじ、「ギロ.....」........ゴホンッ、君は適性バッチリだねー! 修練すれば使える様になるよ! あ、でも元々君には似た様な魔法があるからあんまり必要ないかもね!」

 

 

 またシンをおじちゃん呼びしようとしたので、“まだ尻を叩かれたいか?”という意の視線をシンがミレディに向けると素直に訂正した。よっぽどお尻ペンペンが効いたらしい。それはそうだろう。肉体を失っても生きて来た年数は圧倒的にミレディが上。だというのに何千歳と歳下の青年に尻を叩かれるというのは、流石のミレディも遠慮したいのだろう。

 

 

「そうかもしれないが使えるに越したことは無い。せっかく貰った力だ、ありがたく使わせてもらうよ」

 

「いい心掛けだね♪ はい、これが攻略の証だよ!」

 

 

 ミレディがローブの中をゴソゴソと漁って取り出したのは、ライセン大迷宮の紋章が入った指輪だった。

 

 

「ん、確かに受け取った。それじゃあ話の続きをしようかミレディ・ライセン。君達が現状知り得ている敵戦力についてなるべく詳細に教えて欲しい。どういった能力を使うのか、何故解放者達が神殺しに到達出来なかったのか、出来れ限りで構わないから教えて欲しい」

 

 

 シンはミレディから受け取った指輪をバウキスの異袋に収納し、ミレディに要求した。その要求を聞いたミレディは少し驚いた様子でシンの顔を無言で見つめていた。

 

 

「どうした、ミレディ?ゴーレムボディの調子でも悪いのか?」

 

「え?あ、ああ......ううん、なんでも無いよ〜.........ほんとにあのクソッタレをヤるつもりなんだなぁ〜って思ってさ」

 

「当たり前だろ?それが出来なきゃ俺の夢が叶わないんだから」

 

「..........へへ、そうだよね。君の夢は王様になることなんだもんね!それじゃあ先ず、君達がどこまで知ってるのか教えてくれないかな?」

 

「わかったーーーー」

 

 

 そうしてシン、ロクサーヌ、レオニス、ミレディの四名は情報の共有を始めた。シンが知り得ている情報にミレディが補足する様に言葉を交え、さらにロクサーヌやレオニスが疑問に思った事を質問し、それにミレディは答えた。

 

 ミレディの話の中にはシン達が知っている事も多分に含まれていたが、それでも有益な情報交換が出来たのだった。

 

 話始めてから数十分が経過。

 

 

「ーーーー私が知ってるのはこれぐらいかな。他に何か質問とかある?」

 

「いや、今のところは無い。あとは自分達で直接確かめてみるつもりだ」

 

「そっか。気をつけてね、アイツらほんとに油断ならないから」

 

「ああ、心得た。ーーーところでミレディ。この大迷宮にはショートカットみたいな物はあるのか?出来ればここから一番近い街に出たいのだが........」

 

「あるよぉ! しかも君の要望通り、街の近くに出られるとびっきりの奴がね♪」

 

 

 ミレディの言葉を聞いてシンとロクサーヌ、レオニスが「おぉ〜」と感心した様子の声を漏らした。それに対してミレディが「えっへん!」と胸を張っている。

 

 

「君達さえ良ければそれを使おうと思ってたんだけど、どうする?」

 

 

 ミレディの問いにシン達はお互いの顔を見合い、小さく頷くと“やってくれ”とミレディに視線で伝えた。しかし、残念ながらシン達が期待している様な展開にはならないのが、このライセン大迷宮なのである。

 

 

「そっかそっか〜。そんなにやって欲しいなら遠慮無くやらせてもらうね♪ーーーーえい☆」

 

 

 いつの間にか天井から垂れ下がって来た紐をミレディが引っ張ると..........

 

..........ウィーーーーン、ガゴーンッ!

 

 ミレディの部屋の天井が開け放たれ、谷底から地上に繋がる大きな穴が現れた。穴の先には小さく外の空が見える。

 

 この感じ、氷雪洞窟の時の様に何かの背に乗って飛ぶのかな?そんな淡い期待はすぐに崩れて去ることになる。

 

..............ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ズドンッ

 

 今度はシン達が立っていた部屋の中央部分が降下し、途中で止まった。

 

 

「というわけでカウントダウン行くよぉ〜♪」

 

「え?カウントダウンって..............」

 

「何が始まるんだ?」

 

 

 (スリー).........どこからか、妙に発音が良い男の声が聞こえた。

 

 ミレディの言葉に疑問符を浮かべるロクサーヌとレオニス。一方、次に起こる事を一人理解したシンは、無言でロクサーヌの腰を抱き寄せ、レオニスの肩に腕を回した。シンの行動によってさらに疑問符を浮かべる二人。益々訳がわからないと言った様子だ。

 

 (トゥー)..........シンも一緒にカウントダウンを口にし出した。

 

 

「さっきボコボコにされたお返しに、射出速度高めに設定しておいたから♪」

 

「「..........射出、速度??」」  

 

 

 ミレディが部屋の中央に開いた穴から顔を覗かせてそんな事を口にした。

 

 

「すまんな、お前達。俺の魔力はもうカラだ。諦めて一緒に空の旅を楽しもうじゃないか」

 

 

 (ワーン)..........“空” “射出”という二つの単語で、ロクサーヌとレオニスが漸くミレディの意図に気づき、顔を覗かせているミレディをバッ!と見上げた。

 

 

「というわけでぇ〜、応援してるから頑張ってね☆」

 

「「ミレディィィッ!!」」

 

 

 (ゼェロォ)..........降下したシン達の足元の床が天井に開いた穴に向かって、物凄い勢いで上昇!

 

 そのまま三人は勢いよく外の空に射出、いや放り出された。

 

 そしてシン達はそのまま空の彼方に飛んで行ったのだった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

side:愛ちゃん護衛隊(勝気な少女)

 

 

 

 要の訃報を受け、一度は失意に心を沈ませた、〝それでも!〟と立ち上がった優花。あれから二ヶ月近くが経過した。

 

 彼女は友人の宮崎奈々と菅原妙子、そしてクラスメイトの玉井淳史、清水幸利と共に“愛ちゃん先生”こと畑山愛子の農地開拓・改善に同行した。

 

 何故優花が愛子の農地開拓・改善の旅に同行したのか。

 

 一つは愛子を護衛するため。そしてもう一つは要 進の捜索のためである。

 

 村々を回り農地開拓・改善をする為に愛子が聖教教会の神殿騎士数名と共に旅に出ると耳にした優花。その神殿騎士は全員がイケメンだと言うじゃないか。完全に愛子を色仕掛けで教会に取り込もうという意思が感じ取れる。それを阻止するため、そして純粋に愛子を守りたいという意思で優花達は立ち上がった。戦争に参加する自信や勇気は無い、けどそんな自分達でも愛子の護衛だけは立派に果たしてみせる!という気概で優花達は愛子に同行した。

 

 そしてもう一つ、優花はある目的があった。それは先述の通り、要の捜索である。要は死んだことにされているが、確実な物的証拠が何一つ無い。なら、要はまだ生きていると彼を信じた優花は雫や香織にも協力をお願いして手がかりを探ることにした。

 

 その事は愛子に伝えてある。優花がそれを愛子に伝えた時、愛子は複雑そうな面持ちであったが、彼女の意思を否定しなかった。玉井と清水にも一応伝えてはいるが、「現実を見ろ」と再三忠告をされた。それでも優花は自分の意思を曲げず、訪れた村や街で捜索を続けた。

 

 その結果、優花はブルックの街で“ある物”を見つけた。

 

 それは要の制服だった。

 

 あの日、要が王都を追放されホルアドに向かう馬車に積み込んだ要の荷物の一つである。

 

 偶々ブルックの露店で見つかった要の制服。一式ちゃんと揃ってはいるが、かなり傷んでおり、ブレザーやズボンには所々穴が空き焦げ跡も付いている。“よくこれで残っていたな”と思えるぐらいにはボロボロだ。

 

 そんなボロボロの制服を優花は、馬車に揺られながら大事そうに膝の上に置いき、これを見つけた玉井に改めて礼を言う。

 

 

「玉井、見つけてくれてありがとね」

 

「気にすんなって。見つけたのはほんと偶々だからよ」

 

 

 玉井の言う通り、要の制服を見つけたのは偶然であった。偶々通りすがった露店で馴染みのある服が売られていたので、もしやと思いよく見たところ、それが要の制服だけで見つけることが出来たのは本当に偶然なのだ。露店の店主曰く、捨てられていた物を漁って金目になりそうだと思ったから拾ったそうだ。

 

 それ以上の有力な情報は得られなかったが、要の私物を見つけられたのは幸運だった。

 

 

「ううん、それでもありがとう。やっぱり、何か見つかってくれるだけでも気持ちは全然違うからさ」

 

 

 膝の上に乗せた要の制服を優しく撫でながら優花そう言った。

 

 

「要くんの制服、かなりボロボロだけど優花が縫い直すんだよね?」

 

 

 不意に妙子がそんなことを言ってきた。

 

 

「えっ、わ、私が!? 私、裁縫とか得意じゃ無いし..........」

 

「何言ってるのさ優花っち!もし要が戻ってきた時、こんなボロボロの制服を見たらきっと悲しむよー?」

 

「む、確かにそうかもだけど..........」

 

「それに得意じゃなくても良いじゃん! うちのママが言ってたよ?『男は自分に尽くしてくれる女に弱い。所詮男なんてその程度の生き物よ』って!」

 

「前から思ってたけど、奈々のママって男の人に恨みでもあるの?」

 

「まあ、少なくとも良い事はなかったんでしょうね。で、言われてるわよアンタ達。そこんところどうなのよ?」

 

 

 奈々の母親の黒さを以前から知っている妙子と優花が微妙な顔になった。そして優花は男代表として玉井と清水に話を振る。

 

 

「ま、まあ、尽くしてくれる子っていうのは悪く無いかもな、うん。例えばほら、メイドと..........なんでもないっス」

 

「ふーん。とりあえずアンタがメイド好きなのはわかったわ。清水はどうなの?」

 

「..........ノーコメントで」

 

「なっ!清水てめぇ!俺は正直に答えたのに、一人だけずるいぞ!」

 

「こら、ダメですよ玉井くん!人に強要するのはいけないことです!」

 

「あれぇ、これ俺が悪いの.........」

 

「それに玉井くんがメイド好きでも先生は軽蔑なんてしません!趣味は人それぞれですから!」

 

「ぐふっ.........」

 

「愛ちゃん先生、玉井くんにトドメ刺してます」

 

「えぇっ!!」

 

 

 自爆した玉井に巻き込まれまいと言葉を控えた清水。そんな清水を自分と同じところに引き摺り込もうとした玉井を注意した愛子。玉井のメイド好きに理解を示したつまりが、逆にトドメを刺してしまい、愛子はあたふたしていた。

 

 

(あいつも、尽くしてくれる人が好きなのかな..........)

 

 

 別に玉井のメイド好きを参考にしてそう考えたわけではないが、なんとなく〝尽くしてくれる〟という単語で思い当たった人物がいた。八重樫雫だ。美人でスタイルも良く、なんだかんだで面倒見が良い。尽くしてくれるとは少し違うかも知れないが、そういうところに要は惹かれたのではないか?と優花は思い至りーーーー

 

 

(まあ、ボロボロのまま渡すのも申し訳無いし、少しぐらいは治してあげた方が良いよね?)

 

 

ーーーー手元にある要の制服を治すことにした。

 

 すると外で馬車の手綱を引いていた神殿騎士のデビッドが愛子に話しかけてきた。

 

 

「愛子、一度馬を休めさせたいからすぐそこの泉の畔で休憩に入る。構わないか?」

 

「はい、問題ありませんよ」

 

「ありがとう愛子。実はそこの泉は水が物凄く透き通っていて綺麗なのだが、良かったら休憩がてら私と一緒に辺りを散策してみないか?」

 

「良いのですか?では生徒達と一緒に散策をしましょう。デイビットさんが居れば安心ですからね!」

 

「....................あ、ああ。任せておけ、愛子!」

 

 

 さりげなく二人っきりになろうと画策したデビッドだっが、鈍感な愛子はそれがデートのお誘いだと理解出来ず、ナチュラルに回避して見せた。そんな愛子の鈍さに一瞬言葉を失うも、頼りにされているのだと気づき、持ち前のイケメンスマイルを煌めかせて自信たっぷりに頷いた。

 

 愛ちゃん先生こと畑山愛子は現在、複数の男性を虜にしていた。その男達はデビッドを始めとした神殿騎士達である。先程さりげなくデートに誘った神殿騎士であり護衛隊隊長のデビッド、神殿騎士であり副隊長のチェイス、そして近衞騎士のクリスとジェイド、この四名が愛子に惚れ込んでいるのだ。本来愛子を色仕掛けで籠絡する様に言われていた四人が、逆に愛子に堕とされたのだった。

 

 それはさて置き、愛子が優花達に向かって口を開いた。

 

 

「皆さん、先程デビッドさんも言いましたが、次の村に行く前に一度休憩を挟みます。ですので、リフレッシュの為にも綺麗な泉で心を癒しましょうっ!」

 

「先生ー、次の村ってどこでしたっけ?」

 

「玉井もう忘れたの? ブルックを出る前に確認したじゃない!」

 

「そういう園部は覚えてんのかよ?」

 

「当たり前でしょ。カルロー村よ、カルロー村」

 

「確か、王国で有名なお酒の原産地なんだっけ?」

 

 

 妙子の言う通り、今優花達が向かっている村は、王国貴族令嬢達が好んで呑む甘いお酒の原産地〝カルロー村〟。そこで作られるロゼ色のお酒は〝カルローワイン〟と呼ばれているらしい。なんでもその村ではカルローワインの原料である葡萄がここ数年不作が続いているらしく、今年は特に酷いらしい。そこで[作農師]の天職を持つ愛子に白羽の矢が立ったのだ。

 

 

「言っておきますけど、皆さんは未成年なんですからお酒は絶対にダメですからね?」

 

「そんなの言われなくてもわかってるって先生」

 

「わかっているなら良いのです!」

 

「んで、その次はウルの街でしょ?」

 

「休む暇もないよね。でも一応、ウルでの開拓が終わったら王都に帰れるから、この長旅もあともう少しで終わりって事だよね」

 

(お妙の言う通り。それまでに要の情報を少しでも捕まれば良いんだけど...............)

 

 

 カルロー村の次は湖畔の街ウル。そこでの開拓・改善を終えれば王都に真っ直ぐ帰還となる。それまでに何としても要の行方を探れる手掛かりを見つけたいと考えていた優花。

 

 そんな時、外がやけに騒がしくなった。

 

 一体どうしたのだろうか?

 

 すると外に居たチェイスが中に顔を出し、話しかけて来た。

 

 

「皆さんは決して外に出ないでください!」

 

「一体何があったんですか、チェイスさん?」

 

「もしかして魔物?」

 

「いえ、魔物ではありません」

 

「じゃあ、一体.........」

 

「........................変態です」

 

「「「「「はい?」」」」」

 

「外に大変な変態が居ます! 愛子や他の皆さんには目の毒になりますので、中で待っていてください!」

 

 

 そう言ってチェイスが外に戻っていった。

 

 流石に変態と言われても状況が全く理解出来ない愛子達。

 

 馬車の荷台は全面、布で覆われている為外の様子がわからない。なので玉井が馬車の前側の布をチラッと捲る。

 

 

「ちょっと玉井!」

 

「いや、あのチェイスさんが慌てるぐらいの変態だぞ?どんな奴か気になるだろ?」

 

 

 すると外から声が聞こえて来た。

 

 

「なんて格好をしてるんだ貴様っ!」

 

「え?いや、これには深い訳が...........」

 

「言い訳など聞かんっ!」

 

「待ってくれ、こっちも困ってるところなんだ。一度落ち着いて話し合おうじゃないか」

 

「何が話し合おうだッ!股間に葉っぱ一枚の姿など一体どんな神経をしていればそんな格好が出来るんだッ!」

 

「え、割と良い作戦だと思ったんだけどなぁ..............駄目か?」

 

「「「「当たり前だッ!!」」」」

 

 

 なんかコントみたいな会話の内容である。しかし、優花は神殿騎士達と問答をしている相手の男の声に覚えがあった。

 

 その声は以前聞いた物より落ち着きがあり、大人の色香を漂わせているが、根っこの部分は同じである。

 

 

「要..............」

 

 

 そう優花が呟いた時、先に動いたのは愛子だった。

 

 バサッ!と馬車の布を捲り上げ、愛子は荷台から降りた。

 

 

「要くんッ?!」

 

「え? おお、先生じゃないですか!こんなところで一体.......」

 

 

 そう、デビッド達神殿騎士と問答をしていたのは、あの日死んだと思われた要 進だった。腰まで伸びた長い髪はその色が青寄りの青紫に変色しており、体付きも以前よりがっしりしているのが()()()()()

 

 そう()()()()()のだ。以前より断然良い体つきになったということが。

 

 そこで愛子はようやく要の今の姿を認識した。

 

 

「..........要くんッ!?!?な、なななななな、なんて格好してるんですかッ!!!!」

 

 

 愛子に続いて馬車の荷台から降りて来た優花や奈々、そして妙子が要の姿を見て、顔を真っ赤にし全力で明後日の方向を向いた。三人の後から来た玉井と清水は「うわぁ」と声を漏らす。

 

 現在、要は一矢纏わぬ姿で両手を広げ立っていた。そんな彼が身に着けているのは、一枚の大きな葉っぱ。それが股間に張り付いているのだ。それ以外はほぼ全裸である。

 

 

「服を着てくださぁーーいッ!!!!」

 

「いや、だから話を.......」

 

「「「「愛子(さん)に近付くな、この変質者めッ!!」」」」

 

 愛子が必死で懇願の叫びをあげ、理由を説明しようと要が一歩踏み込めば、神殿騎士達が剣を構えた要に一歩踏み込む。

 

 感動の再会となるはずが、何故こうなってしまったのか。

 

 優花は顔を真っ赤にしながら盛大に溜息を吐いたのだった。

 

 





ようやく園部が登場。そして七界の葉王の登場回でした。

今回、ミレディ大迷宮からのショートカットはオリジナルです。ミレディならそう言うのもやりかねないなと思ったので書いてみました。

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