ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

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勇気

 

 異世界に召喚され、かれこれ二週間があっという間に過ぎていた。

 

 戦闘訓練には最低限参加する要だったが、座学の時間はほとんどサボっていた。その不真面目な態度にイシュタルは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、ハジメやメルドが溜息を吐くほどだった。

 

 もちろんそんな要が許せない天之河は何度も要を注意した。しかし、その度に要は「忙しいから無理だ」「俺に構う時間があるなら自分の訓練に精を出せ」などと実に尊大な態度で返事をするばかり。だが天之河以外のクラスメイト達は表立って要を批判するものがいなかった。

 

 それは何故か。

 

 その答えは単純なもので、要のステータスが天之河に匹敵するほどまでに成長していたからだ。

 

 現在、天之河のステータスはレベル12でステータス値が平均250ほど。それに対して要のステータスは現在こうなっている。

 

 

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(かなめ) (しん) 17歳 男 レベル15

天職:付与魔術師 職業:冒険者   ランク:紫

筋力:250

体力:250

耐性:200

敏捷:200

魔力:300

魔耐:300

技能:付与魔法[+身体強化付与][+攻撃力上昇][+防御力上昇][+自然治癒力上昇][+消費魔力減少][+魔力譲渡」[+魔法強化付与」・■■試練・特異点・言語理解

 

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 ぶっちゃけて言えば要も大概チートだった。

 

 何せレベルは天之河より高いうえに、ステータス値も平均値は天之河と同等だが魔力や魔耐は天之河を大きく上回っていた。

 

 それを知ったリリアーナは『これで私の目は節穴ではなかったって事ですね、ふふ』と微笑んだ後、これからも頑張ってください♪などと存外にもっとやれ!と言っている様に見えたのは要の勘違いではないだろう。

 

 そんな事を思い出しながら要は自分の尻の下にいる友人に声をかけた。

 

 

「てなことがあったんだよ。あのお姫様、なかなか強かだと思うんだが、そこんとこどう思うよハジメ?」

 

「フンッ!ギッギギギィ〜イ....!!」

 

「ぎ?」

 

「ギブぅ〜〜」

 

「おいおい、まだ3セット目の25レップだぞ!あと25レップ足りないだろー」

 

「む、無茶言わないでよ...もう、支えるだけで、せいいっぱいなんだか、ら〜〜!てか、もう...無理」

 

 

 ハジメがそういうと地面にうつ伏せとなって倒れた。さっきまでしていたのは日課の腕立て伏せで、今日は要がハジメの背中の上に乗って重りとして負荷をかけていた。それもハジメの背中の上で胡座をかいて割とくつろぎながら。

 

 何故こんな事をしているのか?それは単純な話、ハジメを鍛えるためだ。最初ハジメのステータスはかなり伸び悩んでいた。ハジメ自身かなりの努力を積み重ねていたが、それでもなかなか実りがなく、見かねた要がハジメの鍛錬に協力しているのだ。

 

 だが、それはハジメにとって地獄の始まりだった。時には体力づくりのために限界まで走り込みをしたり、時には対人格闘戦をレクチャーすると見せてボッコボコにやられたり、時には今さっきの様に筋力アップのトレーニングをしたり、時にはハジメの錬成師としての戦い方模索のため実験をしたりと様々な事をやった。

 

 ある時、ハジメの回避能力向上と耐久性向上のために殴り合いをしたら、ハジメの顔面が思いの外ボッコボコに腫れ上がってしまい、血相を変えて飛び込んできた白崎がハジメを治療した後、鬼の様な形相で要は正座&お説教を受けたりもした。

 

 そんな今は遠き地獄の思い出を振り返るハジメ。

 

 全身のありとあらゆる筋肉がぶちぶちと悲鳴をあげ、その度に動けなくなったハジメを何故か嬉しそうな白崎が治療するという光景がハジメの脳裏で蘇る。最も未だに地獄の鍛錬は終わっていないが。まあ、そのおかげで以前より大分体が逞しくなったハジメは、戦士系天職のクラスメイトのステータスと比べたらまだまだだがレベル7でステータス値が平均60を超えていたりする。

 

 

「さて、ハジメも大分ステータス上がったし、そろそろ新しいステップに入ってもいいかもな」

 

 

 要は立ち上がり、今も地面にダウンしているハジメを見下ろしながら口を開いた。

 

 すると荒い息遣いながらもハジメは地面に座り直し要を見上げた。

 

 

「次のステップって?」

 

「つまるとこ、実戦だな」

 

「それってつまり.....」

 

「ああ、冒険者として魔物討伐の依頼をこなす」

 

「ですよね〜」

 

 

 ちなみに、ちゃっかり冒険者登録を済ませていた要は、すでに何度か魔物討伐の依頼をこなしており、ランクも紫まで上がっている。もちろんクラスメイトや愛子先生、他の王宮の人には内緒で。この事を知ってるのは、ハジメとメルド、あとリリアーナだけである。

 

 ハジメやリリアーナはともかくメルドにバレたのは偶然だった。てっきりかなり怒られると予想していた要だったが、メルドは予想外な態度をとった。

 

『おい、進!どこに行く気だ?』

『げっ!?メルド団長...』

『お前が常々座学をサボって王都でふらふらしている事は副団長のホセから聞いている。何をしているんだ?』

『..........魔物討伐に行ってました』

『なにっ』

『強くなるために実戦を一度経験しておこうかなぁ〜と思って冒険者ギルドで登録して依頼を受けてました』

『.....ランクは?』

『黄です』

『!....ちょっと待ってろ』

『え?』

 

 そう言ってメルドがどこかに行って少し時間が経った頃、ようやくメルドが要のところに戻ってきた。一振りの刀剣を持って。そしてメルドはそれを要に手渡してきた。

 

『これを持っていけ』

『これは?』

『俺がまだ騎士団見習いだった頃、父親から貰った業物だ。手入れはちゃんとしてある。普通の剣より刀身は短いが扱いやすく、折れにくく丈夫でしなやかな刀剣だ。お前の戦い方にもよく合うだろう』

『.....止めないんですか?』

『なんだ、止めてほしいのか?』

『いえ、ただメルド団長ならこういう勝手な行動には厳しいだろうなと思って』

『よくわかってるじゃないか。正直、お前の普段の勝手な振る舞いは団体行動を乱す行為で褒められたものじゃない』

『........』

『だが、俺はお前がいつも陰ながら誰よりも努力を積み重ね、時には情報を集め、友のために己を奮い立たせているのを知っている。だからこそ、これをお前にやる』

『メルド団長....』

『己を磨け、進。お前はお前のやりたい様に上を目指せ。そして俺がこれを渡したことが間違っていなかったと俺に示してくれ』

『はい!』

『ただし、無理はするなよ?あとわからないことがあればなんでもいいから聞きにこい。お前に何かあったら俺の首が飛ぶ』

『ははっ、くれぐれも気をつけます』

『ならばよし、頑張ってこい進!』

『はいッ!!」

 

 

 あの時の事を思い出し、要は腰に携えた刀剣をそっと撫でた。

 

 メルドから譲り受けたこの刀剣。メルドの言う通り要の手にとても良く馴染んだ。魔物討伐の際にはよく重宝しており、寝る前はいつも手入れを忘れないほど今では愛着のある要の武器の一つである。

 

 他にも付与魔術師として王国から支給された錫杖も要の装備品の一つだが、実は魔物討伐初日にポッキリ折れてしまい、リリアーナにこっそり修理を頼んでいたりする。

 

 と、まあ今では冒険者ランクは紫にまで昇格しており、冒険者ギルドでも破竹の勢いでランクアップする謎の冒険者がいると噂になっているほどだ。

 

 

「まあ、実際に戦ってみないとわからないこともあるもんね。うん、シンの言う通りにしてみるよ」

 

「よし!そうと決まれば早速冒険者登録して魔物討伐に行くぞ!!」

 

「ちょっ!?シン!声が大きいって!シンが冒険者登録してることバレたら大変なんだから!」

 

「おっと、そうだったな。わるいわるい」

 

 

 ここには他のクラスメイト達もちらほら訓練をしているので、今の話を聞かれるのは非常にまずい。主にメルドの首的な意味で。だが、耳聡い奴らはしっかりと聞いていたらしい。

 

 

「誰が冒険者になって魔物を討伐するって?」

 

「檜山くん....」

 

「南雲が魔物討伐?絶対無理だろ、すぐ死ぬじゃん」

 

「おいおい信治、そんなこと言ったら可哀想だろ。南雲なりに努力してんだからさ、まぁクソ雑魚に変わらないけど」

 

「つーか、要と南雲でパーティー組んでも前衛がいないで盛り上がってるの草生えるんだけど」

 

 

 やっぱりと言うべきか、檜山大介率いる子悪党四人衆がゲラゲラと笑い、暴言を吐きながらこちらに歩いてきた。

 

 

「何の用だ檜山、別にお前を呼んだ覚えはないぞ」

 

「ああ?付与魔術師のくせに調子乗ってんじゃねえぞ!ろくな魔法も使えないくせによ!好き勝手しやがって。どうせ、座学サボって王宮のメイドのストーカーでもしてんだろ!学校の時みたいにさ!」

 

「なっ!檜山くんッ!!」

 

「うるせぇよ!雑魚の南雲のくせに要とつるんで頭沸いたか?無能が俺に意見しようとしてんじゃねぇよ。せっかく俺達がお前達のために訓練に付き合ってやろうと思ったのによ」

 

「本当だぜ、人の親切はちゃんと受け取れっつーの」

 

「ていうか、こんな奴が天之河とためはれるステータスなわけないじゃん。サボり魔のくせに」

 

「あれだろ?あいつの変な技能でステータスにイカサマしてんだろ。そうじゃないとおかしいっての」

 

「ハハハッ!だな、おいインチキストーカー野郎。なんとか言ってみろよ」

 

 

 下衆な笑い声が訓練場内で響く。檜山達の言動はとても横暴なものだが、他のクラスメイト達は触らない神に祟り無し、といった感じで視線を逸らして騒ぎが収まるのを待っているばかり。ただ一人、鋭い目つきで檜山達を睨んでいる女子もいるが、周りの女子がそれを抑えていた。

 

 

「しょーもない。ハジメ、行くぞ」

 

「う、うん」

 

 

 檜山達に付き合いきれない要はハジメと一緒に訓練場を出て行こうとする。だが、それでもまだ食い下がってくる檜山。

 

 

「知ってるぜ要。お前、孤児院出身なんだってな。親がいねぇからそんなクソ野郎になったんだろ?同情するぜ、不味い飯食って育ったからストーカーなんてことできるんだよなぁ!きっと他の孤児院の奴らもお前みたいに将来犯罪者予備軍になるんだろうなー」

 

 

 その瞬間、ブチって要の中で何かが弾ける音が聞こえた様な気がした。

 

 自分のことはいい、だが自分をここまで育て、毎日美味しいご飯を作ってくれた施設のおばさん達やチビ共の事を悪く言われたら要も黙っているためには行かない。

 

 何故檜山はこんなに要や南雲に突っかかってくるのだろうか。

 

 南雲の場合は簡単だ、ようは檜山にとって南雲は恋敵なのだ。白崎に惚れている檜山は南雲を目の敵にしている。好きな女が惚れている男を貶して見せることで自分を優位に見せようとしているのだ。

 

 だが要に対しては違う。

 

 要と檜山の関係は高校一年の頃からだ。

 

 檜山は元々バスケ部だった。だが、特待生として入学してきた要を目の敵にし、何度も突っかかってくるがその度にバスケで返り討ちにしてきた。結果、檜山は新人戦の前にバスケ部を辞めていった。

 

 正直何が檜山にとって気に食わないのかわかりかねるが、ああいう手合いに理解など示す必要はない。

 

 今は内から湧いてくるこの怒りをあいつにぶつけたいという欲求が要の心を支配していた。

 

 

「覚悟できてんだろうなぁ、檜山」

 

 

 要は静かに怒りの炎を燃やし、腰の刀剣に手をかけた。

 

 だが、それは意外な形で踏みとどまることになる。

 

 ハジメが走り出し、思いっきり腰を捻って渾身の拳を檜山の顔面に叩き込んだのだ。

 

 助走と捻った腰からの反動、それに加えて今まで地道に鍛え抜いた体が生み出したハジメの拳は檜山の体を宙に浮かせるほど力がこもっていた。

 

 いきなりのことでハジメ以外の全員が驚いていた。もちろん要も。

 

 

「それ以上、僕の友達に暴言を吐いてみろ。今度は君が泣くまで殴るのを辞めないぞ!!」

 

 

 ハジメが見たことないほど怒っていた。

 

 いや、怒っているのは見ればわかる。わかるのだが、何故そこでジョナサンなのだ、友よ。

 

 どうやらハジメ自身不意に出てきた言葉らしく、言い終えてようやく自分がちょっと恥ずかしいことしたと自覚したらしい。だが、要はスカッとしていた。先程までの怒りが嘘の様に引いていく。そして同時にこうも思った。

 

 

(ハジメ、やっぱお前かっけぇよ....)

 

 

 要は()()()()()()()()()()()()の事を思い出した。そして要の方を向いてちょっと恥ずかしそうな顔をしているハジメを見て、要は苦笑した。

 

 

「なかなかいいパンチだったじゃん。腰の入った右ストレート、鍛錬の成果が出たな」

 

「ごめん、ついカッとなって....」

 

「なんでお前が謝ってんだよ。....俺の方こそ悪かった、カッコ悪いところ見せちまったな。けどさっきのセリフ良かったぜ、残念ながら相手は役不足だけど」

 

「蒸し返さないでよ!」

 

「だが、お前のおかげで冷静になれた。ありがとよ、ハジメ」

 

 

 そう、冷静になってようやく気づけた。自分が手をかけていた代物に。腰に携えた刀剣、それはメルドから貰った大事な剣で、こんなことの為にメルドから貰ったわけではないと要は改めて沸いていた自分の精神に渇を入れ直す。

 

 一方、檜山がぶっ飛ばされて近藤達は倒れた檜山に声をかけていた。檜山自身、何が起こったのかまだ理解しきれていないのだろう。だがらこそ、畳み掛ける。

 

 

「なあ、檜山。お前さっき俺達に訓練をつけてくれるって言ってたよなぁ.....いいぜ、相手になってやるよ。俺と、ハジメでな!」

 

「え.......えぇ〜〜〜〜ッ!!」

 

「俺達二人とお前ら四人で来いよ」

 

「しかも四対ニ!?流石にそれは無茶だよ」

 

「大丈夫だって、作戦があるから。案外簡単に終わっちまうかもよ」

 

「そ、そうかなぁ」

 

 

 いきなり決められた訓練相手のカード。もはやこれは対戦といっても過言ではないだろう。しかも、相手は前衛職の檜山と近藤。果たしてどうなってしまうのか。

 

 

「んで、どうなんだよ檜山?」

 

「.....ってやるよ」

 

「ん?なんだって?」

 

「やってやるつってんだろ!」

 

 

 要の口角がニヤリと上がる。

 

 

「そうこなくちゃな、早速やるぞ」

 

 

 そういって要はハジメに肩を組んでズンズンと訓練場の中心へと進んでいく。そして、檜山達に聞こえない大きさの声でハジメに耳打ちをし出す。それをハジメは真剣な顔つきで相槌を打っていた。

 

 そんな二人を追う様に四人も訓練場の中心まで進んでいく。そんな彼らをまじまじと見つめる他のクラスメイト達。

 

 そしてクラスメイトの一人がメルドを呼びに行ってたのだろう、駆けつけたメルドは訓練場の中心に立っている要や檜山達を見つけ怒鳴ろうとしたが、要とハジメの真剣な表情を見て、それを辞めた。

 

 メルドに続いて白崎、八重樫、天之河に、坂上も訓練場にやってくるが、彼らを見て真っ先に声をかけようとしたのは天之河だった。

 

 

「待て、光輝」

 

「な、なんでですかメルドさん!こんなの間違ってます!」

 

「いや、これも訓練の一環だ。互いの実力を確かめるいい機会だ」

 

「ですが!檜山達四人に対して要と南雲の二人ですよ、結果なんて見えてます!」

 

「いいから黙ってみていろ。香織、雫、龍太郎も同じだ、今はこの場を見届けろ」

 

(南雲くん.....)

 

 

 中央に立つ南雲を見て心配そうな表情を浮かべる白崎、だがそこに立っている南雲の表情を見て昔の事を思い出した。

 

 白崎香織が()()()()()()()()()()()()()()の事を。あの時と同じ決して揺るがない強さを秘めた彼のまっすぐな瞳、それを見ては白崎ももう言葉が出なかった。

 

 そんな南雲の決心を汲んだ親友の真剣な表情に、八重樫もまた静かにことの成り行きを見守る事を決めた。

 

 

 そして、そんな三者三様に思いを巡らせている中、メルド・ロギンスは密かに期待を寄せていた。

 

 

(南雲ハジメ。最初こそ才能のかけらもない坊主だったが、友の隣に立とうと必死で食らいつく強さを持っている。ーーーーそして、要 進。あいつは()()()()()()。光輝とは違う何かを持ち、まるで大きな渦の中心の様な奴だ。周りを巻き込み、より大きな渦へと変えていく。そんな気がしてならない男だ。あわよくば勇者を支える存在になってくれた思っていたが、そんな生ぬるいものではない。ーーーだからこそ、期待してしまう!ーーーさあ、俺に何を見せてくれるんだ、進!!)

 

 

 

 

 檜山達と対峙する要とハジメ。

 

 檜山達は自身の天職に合った武器装備を持ち、構える。

 

 ハジメは手に着用したグローブを深くはめ込み、要はメルドから貰った刀剣を抜き、不敵に笑みを浮かべながら口を開いた。

 

 

「さあ、始めようぜ」

 

 

 




 補足
●要がメルドから貰った刀剣はアラビアン風な剣。名前合ってるかちょっとわからないですけど“シミターソード”っぽい奴です。刀身はそれほど長くなく、片刃で刀身の先に向かうほど太くなっている感じですね。装飾も少しだけ華美な感じです。鞘もなかなかの一級品です。

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