ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜 作:つばめ勘九郎
YouTubeで『L’Arabesque Sindria』と検索しましょう。
タイトルでコレ使ってる時は大抵私がコレを脳内再生しながら書いた回になります。
新たに二体の黒いサンドワームが出現し、混乱の渦中へと呑み込まれたデビッドや玉井、クリスや村の男達。
鎖は千切れ、縛り上げていた三体のサンドワームもその縛りから解放され、そのうちの一体は地中に潜り、村の方へと姿を暗ました。しかし現状は最悪。予備の鎖で再度サンドワーム達を縛ろうと村の男達が試みるが、その度に村の男達がサンドワームによって吹き飛ばされ、また一人耕された地面と共に呑み込まれた。
その光景を目の当たりにした玉井は恐怖で腰を抜かし、身動きが取れなくなっていた。そんな彼を守るためにデビッドとクリスが玉井の前に立ち、剣を構えている。
「何をしている玉井ッ! 早く立てッ! このままではお前も食われるぞッ!」
「で、でも..........ッ!」
デビッドに叱咤され、玉井は立ち上がろうとする。彼にはまだ戦意があった。しかしそんな彼の僅かばかりの覚悟とは裏腹に、恐怖で手足は震え、立ち上がろうとする彼の意思を邪魔する。
そんな玉井を見たクリスが言葉を掛ける。
「逃げなさい玉井ッ! ここは私達で食い止めますッ! 愛子さんの大切な生徒をここでみすみす殺させるわけには行きませんッ!」
「クリスさん....................」
その時、彼等の足元が激しく揺れ動いた。咄嗟にクリスはデビッドを突き飛ばし、玉井の手を掴んで放り投げようと試みるが....................遅かった。
真下から黒いサンドワームが天を衝く勢いで姿を現し、三つに割れた頭部、つまりサンドワームの口が開かれ、サンドワームは玉井とクリスを呑み込んだ。––––––––と思われたが、クリスは掴んだ玉井の手を力一杯に振り回し、サンドワームの口が閉じる前に玉井を離脱させた。
玉井はサンドワームの口の中に取り残されたクリスと目が合う。刹那の一瞬が長く感じられる。クリスは玉井が無事であることを見届けると微笑した。そしてサンドワームはクリスを呑み込み、その口は一切の隙間も無く閉じられた。
「ッ!––––––クリスさぁぁぁぁぁンッ!!!」
「––––––––ッ!! おのれェェッ! よくもクリスをォォッ!!––––––––〝暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れッ!〟–––––〝螺炎ッッ!!〟」
玉井の悲鳴をあがり、デビッドは激昂し吠えた。するとデビッドは早口で詠唱を済ませ、ありったけの魔力を込めて中位の火属性魔法を発動させる。螺旋状に渦巻く炎がクリスを飲み込んだ黒いサンドワームに巻き付き、その巨体は業火に包まれた。だが..........
〝キシャアアアアアアアアンッ!!〟
..........黒いサンドワームが耳の鼓膜を衝くような甲高い咆哮をあげ、あっさりとデビッドの魔法〝螺炎〟を振り払った。
「クソッ! やはり効かないのかッ!!」
悪態を吐くデビッド。そんな彼と玉井を呑み込もうと黒いサンドワームは口を大きく開き、二人に迫る。「もはやここまでか..........ッ!」とデビッドが諦めのような覚悟を決め、迫り来るサンドワームを睨みつけ、玉井が目を瞑りかけた。
その時、サンドワームの口が縦に割れた。
一瞬デビッドと玉井はサンドワームがさらに口を割ったのかと思ったが、それは違う。口では無く、頭部その物が綺麗に両断されたのだ。まるで鋭利な刃物でスパッと切られたように..........。
サンドワームの巨体が縦に割れ、そこからさらに両断された左右の胴体にも切れ目が入り、頭部から中腹部にかけてサンドワームの巨体が四枚に捌かれた。
二人に迫っていたその巨体は勢いを無くし、緑色の体液をグチャリとばら撒きながら地面に落ち。
「えっ...............?」
「一体、何が............ッ?」
目の前の光景を視界に納めた玉井とデビッドの思考が停止する。
そんな二人の後ろから青白い光が眼前へと駆け抜けた。すると倒れ伏した黒いサンドワームの死骸が細かく寸断され、緑色の体液を全身に被った村の男達が気を失った状態で出て来た。その中には先程サンドワームに呑み込まれたクリスの姿もある。
「クリスさんッ!!」
玉井がクリスに駆け寄る。それに続いてデビッドもクリスの元へと急いで走り寄り、二人が目を閉じているクリスに呼び掛けた。するとクリスは閉じていた瞳をゆっくりと開き、数回咳き込んだ後、弱々しく口を開いた。
「私は..........一体..........?」
「クリスさんッ!」
「玉井..........それに、隊長も..........私は、生きて、いるのですか..........?」
「ああッ!お前はちゃんと生きているッ!だから気をしっかり持てッ!神殿騎士であるお前が、こんなところで死ぬなど、我等の主も! 俺も! 許していないぞッ!」
「はは..........どうやら、本物の隊長のようですね..........しかし、私は何故..........?」
「無事のようですね」
弱々しいクリスと涙を流して彼の無事を喜ぶ玉井、そして同じ神殿騎士としてクリスを鼓舞するデビッド。そんな三人の元に聞き覚えのある声が届いた。
「ロクサーヌさんッ!?」
玉井が思わず驚いたような声を発した相手はロクサーヌだった。彼女の手には見たことが無いほど、色鮮やかな青白い綺麗な刀身をした長剣が握られている。デビッドは一目で、その剣が国宝級に相当するアーティファクトだと見抜き、戦慄した。
そしてロクサーヌの佇まいと言葉を見聞きしたデビッドは、状況を理解し、確信を持って彼女に尋ねる。
「..............貴様がこれを?」
「手荒な方法でしたが..........はい、そうです。気に障りましたか?」
「いや、そんな事は無い............同胞を救っていただき、感謝する」
そう言ってデビッドは、真剣な眼差しで真っ直ぐに佇立し、頭を深々と下げた。その行為に内心驚くロクサーヌ。デビッドという人間は亜人を忌み嫌い、差別する存在だと判断していたため、ロクサーヌは彼がそんな行動を取るとは一ミリも思っていなかったのだ。
だが彼はロクサーヌに頭を下げた。恩を仇で返すわけには行かない、という彼の“騎士”としてのプライドがそうさせたのだ。
そんな彼を見たロクサーヌは、デビッドに対して声を掛けた。
「お気になさらず。私は、私がやるべき事をしたまでですから」
「お、俺からもッ!クリスさんやみんなを助けてくれて、ありがとうございますッ!」
「私からも..........礼を言わせてください...........助けていただき、ありがとうございました..........」
「貴方方のお気持ち、素直に受け取られていただきます。それでは、私は他のサンドワームを倒して来ますので–––––ッ!」
ロクサーヌの言葉を聞いたデビッドが「待てッ!」と声を掛けようとしたが、その言葉は届かなかった。
何故ならロクサーヌが一瞬でその場から消えたからだ。デビッドの目に映った彼女は、バチバチッ!と青白い稲妻を僅かに放電させ、次の瞬間には姿が掻き消した。そして周りにいる三体のサンドワームが次々と切り刻まれていく。目にも止まらぬ速さ.......いや違う。三人の目で捉えることすら出来ない雷速だ。唯一三人が目に出来るのは彼女が走り去った後に残した青白い雷光の残滓のみ。雷を纏った狼人族が縦横無尽に青白い軌跡を残し、サンドワームを蹂躙する。その光景を目の当たりにしたデビッド達や村の男達は、のちに彼女のことをこう呼んだ。
青き雷の〝
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
所変わって、残り三体のサンドワームを相手取っていたレオニスとアレックス。
シンがそのうちの二体を瞬殺し、この場を去ったことで結局二人が相手するのは一体のみとなってしまった。
「シンの奴、去り際に俺達の獲物を横取りしやがって.....」
「ヌハハハッ! まことシン殿には驚かされてばかりですなッ!––––––––しかし、その心配は無用の様ですぞ?」
レオニスがボヤき、アレックスはレオニスの言葉を聞いて豪快に笑って見せる。先程まで疲れ切っていたはずの彼が妙にハイテンションだ..........一体どうしたのだろうか?
アレックスの様子を不審がっているレオニス。しかし、アレックスが最後の放った言葉通り、レオニスの不満はあっさり解消された。
大地が揺れ動き、新たに三体の黒いサンドワームが地中から出現したのだ。
「ヌッハハハハハハッ!! 大漁ですなァッ!」
「本当にどうしたんだアレックス殿? 頭でもぶつけたか?」
「いえいえ、我輩は至って普通ですぞッ? ただ少しばかり我輩の
「奥の手だと..........?」
アレックスが口にした〝奥の手〟とは、彼が持つ特殊技能のことである。
その名も〝身魂覚醒〟
かつて彼が冒険者時代に強力な魔物との戦闘中に開花させた
一時的に魔力、魔耐を含んだ全ステータスが大幅に上昇し、肉体の疲労感や痛み、精神的ストレスなどを一切寄せ付けない高揚感に至る。魔力消費も大幅に減少、というより高速で魔力が回復し、そのうえ直接魔力を操れるようにもなる。つまり、一時的に[高速魔力回復]と[魔力操作]が使えるようになるということだ。先程硬い皮膚で覆われた〝黒いサンドワーム〟を一撃で殴り潰したのは、[身魂覚醒]を発動したから。発動のトリガーは「勇気百倍、筋肉千倍」という掛け声。文字通り、その言葉に勝るとも劣らない力を発揮する。普通の限界突破とは違い、体から魔力光は溢れ出ないのも、この技の特徴らしい。
しかし、[身魂覚醒]の発動可能時間は四十五分。それにこの技の使用後アレックスは丸二日、体が動かなくなる。そのうえ[身魂覚醒]が使えるのは三ヶ月に一回のみ。常人を超え、超人すら超えた自己強化の代償は相当な物なのだ。
その説明を受けたレオニスは、先程から妙にテンションが高い理由と、[生命感知]で捉えたアレックスの爆発的に上昇した生命力に納得がいった。
(一時的には言え、
ある意味、未知との遭遇とも呼べるアレックスとの出会いはレオニスの心を踊らせた。
「行きますぞォッ、レオニス殿ッ!」
「心得たッ!」
二人の益荒男が駆け出した。
レオニスは黒いサンドワームを地面から引っこ抜き、ジャイアントスイング。そして空中に放り投げたサンドワームを、これでもかと超高速殴打の乱れ打ちを浴びせる。
一方アレックスは“ガントレット”に付与された[土魔法]と[錬成]を駆使し、黒いサンドワームを拘束。そして全身の筋肉から湯気を立ち昇らせながら、サンドワームの腹部に潜り込み、強烈なアッパーカットをお見舞いする。
もはやこの場は二人の独壇場、誰も彼等を止める事など不可能だった。
それから数分後、四体の黒いサンドワームは呆気なくレオニスとアレックスにKOされ、二人は己の拳を打ち付け合って固い握手を交わした。
だがやはりアレックスのブランクは早々消えるものでは無かったらしく、四十五分と経たずに彼は白目を剥き、泡を吹きながら倒れた。その後、レオニスはアレックスを担ぎ、彼の家族の元へと送り届けるのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「くそッ! どういう事だッ! 何故
カルロー村付近にある森。その少し開けた小高い丘に、水晶玉を手に持ち、悪態を吐く魔人族の男がいた。
彼の名前は〝ルーク〟
ルークの周りには二体の黒いサンドワーム、又の名を〝デスワーム〟が控えている。
そんなルークは手に持つ水晶玉を怒りに任せて地面に叩きつけようとするが、なんとか思い止まったらしく、荒く息を吐きつけ、再び水晶玉に視線を向ける。その水晶玉にはカルロー村を襲わせたデスワーム達が狼人族の女と脳筋の男二人によって簡単に倒されていく様子が映っていた。
ふざけるなッ!と、思わず現実逃避したくなる光景だ。
ルークはギチギチと歯を鳴らし、再び怒りが込み上げてくるのを感じていた。
「これでは作戦失敗だ..........ッ。村を壊滅させるつもりが、こっちのデスワームが壊滅させられるとは..........こんな事、フリード様になんと報告すればッ..........」
予定ではデスワーム数体で村の住民を全て皆殺しにするはずだった。人間族との戦争で邪魔になると踏んだからだ。そしてあわよくば、王国が異世界から召喚した
つまり作戦は失敗である。
「くッ.............! やむを得まい、これ以上戦力を失えば
そう口にしたルークは指笛を鳴らした。
すると月夜の彼方から一匹の翼竜〝ハイベリア〟がその男のところに向かって飛んで来ていた。翼竜型の魔物〝ハイベリア〟は手頃な移動手段として魔王軍の間では重宝されている。そして魔人族の男はそのハイベリアの視覚と水晶玉をリンクさせて戦況を見守っていたのだ。
そのハイベリアがルークの元にようやく辿り着こうとしたその時、猛烈な強風が吹き抜け、突然ハイベリアの全身がズタズタに切り裂かれ、呆気なく墜落した。
「ッ!?..........一体何がッ!?」
「––––––やあ、こんばんわ。今夜は月が綺麗だね」
「ッ!?!?」
目の前の状況に混乱していたルークの耳に聞き覚えのない男の声が降って届いた。
その声の主が何処にいるのか分からず、辺りを見回すルークだったが、頭上から視線を感じた彼はようやく声の主をその視界に捉えた。
そして絶句した。
ルークの斜め上前方、高さにして二十メートルといったあたりの空に、月の明かりを背負った男が優雅に佇んでいる。その姿はまるで神話に登場する天人の如き神秘的な物だった。赤い腰布と羽衣、そして金の首飾りを纏い、黒鷲のような羽根を纏った長い髪がまるで翼のように広がり、額に生えた二本角の間には縦に割れた第三の目が開眼していた。
数分前、水晶玉に少しの間映っていた存在だ。最初ハイベリアの視覚から送られた映像でそれを確認した時は、何かの見間違いだろうと踏んでいたルーク。しかし現在、見間違いだと思っていた存在は、いま目の前にいる。
呆然としていたルークは我に返り、口を開いた。
「き、貴様は一体何者だッ!」
「おいおい、俺の言葉は無視か? せっかく
「ッ..........質問に答えろッ! 貴様は一体何者だと聞いてるんだッ!」
「挨拶もロクに出来ない相手に名乗る名も質問に答える理由も、俺は持ち合わせちゃいない。ああ、もちろん君の名を聞くつもりも無いぞ?–––––––どうせすぐに消える
「な、なんだと..........ッ!」
「だがその前に、君には俺の質問に一つ答えて貰う。–––––
「ッ!? 貴様ァッ、その忌み名をどこで知ったッ!」
「言っただろ? 挨拶もロクに出来ない相手に、答える理由はないと..........まぁ君の態度で大体察しはついた。 魔王軍は
「一体何を言っている..........」
「答えは得た、君との問答はここでお終いだ。–––––––––さて、あの村に手を出した君には、きっちりとケジメをつけて貰う。最後に俺なりの
そう口にしたシンは、両掌に刻まれた八芒星を輝かせ、掌を上に向けた両腕を左右に構える。すると両掌から天を衝く程に伸びる烈風が発生し、二つの竜巻が唸りを上げた。
それを見たルークは「あいつを殺せッ!デスワームッ!」と、隣に控えさせていたデスワーム達にシンを襲うよう命令し、二体のデスワームがシンに迫る。
だが遅い。
迫り来るデスワームをシンは天上から睥睨し、両掌を頭上で合わせた。
二つの竜巻が重なり、唐竹割りのようにシンがその両腕を振り下ろした。
「––––〝
二つの竜巻が合わさり、荒れ狂う巨大な竜巻となった風の塊が、デスワームやルーク、そして森の大地に叩き付けられた。膨大な風量となった巨大竜巻は触れた物全てを跡形も無く吹き飛ばし、二体のデスワームと魔人族の男ルークは有無を言わさず消滅。さらにそこら一帯の大地が深々と抉られ、直撃した場所はおろか、そこから離れた木々まで風圧で薙ぎ倒され、シンが放った一撃の凄まじさを物語っていた。
すると抉れた地面の地中から水が勢いよく吹き出した。よく見ると湯気も立っている。
「へぇ、温泉か! まさかこんな所に源泉があったとは。戻ったらアレックス殿に報告しないとな。フッ、出発前にひとっ風呂浴びるのも良さそうだ」
そう言ってシンは湧き立つ温泉(抉れた大地)に背を向け、カルロー村へと飛び去って行った。
こうしてカルロー村で起きた騒動、のちに〝カルロー事変〟と呼ばれる魔王軍の策謀は阻止され、怪我の功名とも呼べる温泉をカルロー村の村長アレックスはゲットするのだった。
尤も、シンが村に戻った時にはすでにアレックスがぶっ倒れた後で、彼が温泉の事を知ったのは翌日の昼だったらしい。
はい。ということで村長は人間辞めてました。アレックス村長が使った「身魂覚醒」については補足で説明します。やっとフォラーズゾーラ出せた!
補足
『登場した技能』
「〝身魂覚醒〟」
・度重なる修練と死闘の末にアレックスが身につけた限界突破の特殊派生技能。今作オリジナル技能。発動のトリガーとなる詠唱は「勇気百倍、筋肉千倍」全ステータスを大幅に上昇させ、[高速魔力回復]と[魔力操作]が使えるようになる。痛みや疲労感、精神的負荷の耐性が強まり、一時的にハイになる。原理的には神代魔法のひとつ、[魂魄魔法]の魂のリミッターを解除する性質に近い作用をもたらす。その反動として丸二日動けなくなり、再使用に三ヶ月はかかる諸刃の剣とも呼べる奥の手。
『登場した魔物』
「デスワーム」
・カルロー村を襲った黒いサンドワーム。魔王軍の誰かが強化を施した結果、サンドワームの体表が黒く染まり、亜種のような姿に変貌した魔物。通常個体と分けるために、「デスワーム」と呼ばれるようになった。
しかしシン達の活躍によってデスワームは全滅。
「ハイベリア」
・翼竜型の魔物。ハルツィナ樹海やライセン大峡谷にも生息するわりとありふれた魔物。手軽に調教できるため、魔王軍では普通の移動手段として重宝されている。