ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

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カルロー事変後のお話。

 一方その頃、南雲さんちのハジメくんは..........

「よく聞け残念うさぎ共ッ!死にたくなければ魔物を殺せッ! 殺せねぇウサギはただ〝ピー〟だァッ!お前らが殺さねぇなら、俺がお前らを殺すッ!」

「「「「「ヒィ〜〜〜〜ッ!!」」」」」

 心優しいウサギさん達と戯れて?いた。

 そんなウサギさん達の中で気骨を見せる黒いウサギさんこと〝リザ〟は........

「あの人のおそばで仕える為にも、此処で死ぬわけにはいきませんッ!」

 一人心を燃やしていたのだが、その理由をハジメが知る由は無かった。

 そして樹海の奥深くで、ついに樹海最強の座を獲得した兜虫は...........

「ジュワ、ヘアァッ!(この程度で最強など烏滸がましい! もっと力をつけなればッ!)」

 より高度な強さを手に入れる為に〝とある場所〟を目指そうとしていた.....。




後日談 前編

 

 カルロー事変から二日目となる朝。

 

 コテージの一室で眠っていた少女は重たい瞼をゆっくりと開き、目覚めた。徐々に意識が覚醒し出し、数回寝返りを打った後、急にその動きが激しくなり身悶え始めた。

 

 

(〜〜〜〜〜〜ッ、私のバカバカ! なんで()()()()()()覚えてなかったのよッ! それにロクサーヌさんが言ったことが本当なら、私の〝告白〟が全部あいつに筒抜けだったってことよね.......ぅっ...........ぅぅぅああーーーーーッ!!!)

 

 

 今度は頭を抱えながら身悶え始めた。そしてベッドの上でうつ伏せになり、両手に掴んだ枕で後頭部を抑えながら足をバタつかせている。寝起きにしてはそれなりの運動量だ。

 

 するとそれが途端に止み、彼女は枕を胸元に抱えて仰向けになった。

 

 

(.........あんな話聞かされた後で、どんな顔して要と会えばいいのよ............)

 

 

 目覚めて早々に内心穏やかではないご様子の少女、園部優花。

 

 何故彼女の心がこんなにも掻き乱れているのかと言うと、その原因はカルロー事変の翌日、つまり昨日の昼頃に遡る。

 

 昨日一日は魔物によって荒らされた土地の整備と、種苗を植えることに明け暮れていた。作農師のスキルを持つ愛子はその能力を遺憾無く発揮し、園部達愛ちゃん護衛隊のメンバー(清水以外)、それにシン、ロクサーヌ、レオニスの三人も村の人達と共に復興作業に従事していた。散らばったサンドワームの死骸はシン達が騒動終結後すぐに片付け、荒らされた土地もシンが〝アガレス〟の力を使用したことで綺麗に整備され、すぐに復興作業を始められるようになっていた。

 

 そんな中、園部が宮崎、菅原、そしてロクサーヌの三人で昼休憩の準備をしていた時、唐突に宮崎と菅原からとんでもない衝撃の事実を告げられた。

 

 

『ねぇねぇ優花っちぃ〜、今更訊くのもあれだけどさぁ〜、要っちとキスした感想教えてよ〜』

 

『.................待って。私、要とキスなんてしてないんだけど?』

 

『覚えてないの? 優花を助けようとした要くんが口移しで回復薬飲ませてくれたこと?』

 

『..........マジで?』

 

『『うん、マジ』』

 

『..........................』←園部の手からぽろっと落ちるお皿

 

『(ササッ!)』←ロクサーヌの早技がお皿をキャッチ

 

『『おお〜!』』←パチパチと拍手する宮崎、菅原

 

 

 二人の発言で園部の思考が停止した。手に取ろうとしたお皿を取り損ねた園部がお皿を落とすが、それをロクサーヌが瞬時にキャッチ。そんなロクサーヌの早技に思わず宮崎と菅原が彼女に拍手を送る。

 

 園部の肩と手がプルプルと震え出し、真っ赤に顔が染まる。そして何か言いたそうな園部の口がワナワナと開いたり閉じたりしていた。

 

 すると園部が発言する前にロクサーヌが口を開いた。

 

 

『そういえば先日、シン様に()()したそうですが、〝側室に加わりたい〟という事でよろしいのですか、優花さん?』

 

『な、なッ...............なんでッ!?』

 

 

 園部の顔がさらに真っ赤に染まった。耳や首まで赤い。若干涙目にもなっている。

 

 

『えッ!? 優花いつの間に要くんに告白したのッ!?』

 

『いつッ!? どこでッ?!』

 

『私が聞いた話だと、優花さんが魔物に襲われ、シン様とキス(口移し)した後の事らしいです』

 

『う、嘘よッ! 私あの時、()()()()()()()()()もんッ!』

 

『言葉にしていないだけで、()()動いていたのではありませんか? 間近にシン様が居たのでしたら、僅かな唇の動きでも言葉を読み取られますよ?』

 

 

 確かにあの時、発音はされていなかったが園部の唇は動いていた。それに園部の傍にはシンがいた。それも至近距離で。

 

 

『ちなみにシン様が読み取った告白の文言は〝あんたが好き〟だそうですが?』

 

『『あ〜、優花(っち)っぽい』』

 

 

 宮崎と菅原の言う通り、実に自分らしいと感じた園部。というか、あの時心に思い浮かべた言葉のまんまである。それに気づいた園部は『もうやだ.......』と口にし、両手で顔を隠しながらしゃがみ込んだ。火照った顔の熱さが自分の掌に伝わり、余計に恥ずかしさが込み上げてくる。

 

 

『なにも恥ずかしがる事はありませんよ優花さん。シン様も言ってました、〝アイツの気持ちは素直に嬉しい〟と。 もし優花さんさえ良ければ、二人の関係を進展させるお手伝いを致しますよ?』

 

『..............それってつまり、側室に加えるためのお手伝い、って事ですよね?』

 

『そうですよ?』

 

『わ、私はあいつのハーレムになんてッ...........!』

 

『..............そうですか。では諦めてください』

 

 

 否定し続ける園部に、ロクサーヌは至って普通な物言いでそう返答した。だが若干語気が強いように感じられる。その言葉を聞いた園部の体がピクッと少しだけ反応し、顔の火照りが徐々に冷めていくのを感じていた。

 

 

『トレイシーのように私からシン様を奪うつもりは無い様子ですし、かと言って側室に入るつもりも無い。なら潔く身を引いてください。 覚悟を持たない貴女では私達の〝王〟の枷にしかなり得ません』

 

『..........なによそれ』

 

 

 ロクサーヌの物言いに園部は苛立ちを覚えた。

 

 

『自分の気持ちを伝えるのは大変素晴らしい事だと思います。 ですが、“得られるモノにすら手を伸ばさない”貴女の恋心に結果は伴いません。シン様には私から伝えておきますよ、“優花さんの告白は手違いでした”と』

 

『ッ!?』

 

『いくらなんでも、それはあんまりじゃないですかロクサーヌさんっ!』

 

『そうですよっ! せめて要くんの返事だけでも..........』

 

『優花さんの意見と私の意見が合わない時点で結果は見えていませんか? 気持ちの押し付けは、時に押し付けられた相手を苦しめる呪いにもなります。 それにシン様にこれ以上、優花さんの事で悩んで欲しくありませんから........』

 

『要が、私のことで悩んでる.........? それって......』

 

『私からは以上です。気が変わったらいつでも言いに来てください。それでは..........』

 

 

 そう言ってロクサーヌは大皿に何十枚と盛られたフレンチパンケーキ(もどき)と葡萄ジュースで満たされた大きめの水差しを両手に持ち、シンとレオニスの元に歩いて行った。

 

 二人の元に辿り着いたロクサーヌは何故かシンにデコピンされていたがその理由は不明である。しかしすぐさまロクサーヌが園部に『言い過ぎました』と謝罪したので、シンに叱られたのだろうと察しがついた。

 

 その後、園部は先のロクサーヌの言葉と不本意な形で伝えてしまった自身の想いの板挟みで悩まされ、シンとろくに顔を合わせることも出来ず、彼を避け続け、その日を終えたのだった。

 

 

 そして今日は人面の魔物との交戦後にシンが約束した事情説明をする日。神殿騎士のデビッドとクリス、そして近衞騎士の二人は朝から農作業に駆り出されおり、シンとロクサーヌ、レオニス、園部等異世界組は森に吹き出した温泉の調査という名目で一日休暇となっている。つまりこのタイミングでシンは事情説明をするつもりなのだ。

 

 説明を聞くのなら、どうあってもシンを避けることは出来ない。

 

 そして話は冒頭に戻り、園部は重い溜息を吐いた。

 

 

「はぁ〜..........私だけでも辞退しようかしら..........」

 

 

 シンと顔を合わせることが段々憂鬱に思えてきた園部。

 

 だが、そんなわけにはいかない。

 

 ここで逃げてしまえば、シン()の事を知る機会はもう二度と来ないかもしれない。それに、“ロクサーヌ(あの人)に言われたから引き下がった”、みたいになるのはなんか違う気がした。シン()にとって自分の気持ちが迷惑になるのは百も承知。それでも自分の気持ちに区切りをつける為、ここで引く訳にはいない。

 

 〝シン(あいつ)に抱いた気持ちはどんなに偽っても本物なんだから〟

 

 決心がついた園部はベッドから起き上がり、いつもの服装に着替える。あの時破れた服はすでに処分済みで、今着込んでいるのは予備として持って来ていたスペア。

 

 そして彼女が着替えている隣、部屋に備えて付けられていたハンガーラックには、シンから借りていた〝白い羽織〟と修繕途中の〝シンの制服〟が掛けられていた。〝白い羽織〟は返すタイミングが無かったため園部が未だに持っていたのだが、〝シンの制服〟はカルロー村に着いて早々シンが村の服に着替えた後、園部が修繕のためにとロクサーヌから預かっていたのだ。修繕にはまだまだ時間がかかりそうだが..........。

 

 着替え終えた園部はハンガーラックから白い羽織を手に取り、部屋を出た。二階の廊下を通り、階段を降りて行くと、リビングには愛子や宮崎、菅原、そしてロクサーヌがいた。

 

 園部が降りて来るのを最初に気づいたロクサーヌが声をかけてきた。

 

 

「おはようございます優花さん」

 

「.................おはようございます、ロクサーヌさん」

 

 

 昨日あんな事があったというのに、ロクサーヌはいつも通りおっとりとした様子で園部に挨拶をする。図太いというか天然というか..........。 少し気まずい園部は返事が若干ぎこちなくなる。

 

 そしてソファに座って紅茶を飲んでいる愛子と、開け放たれた窓から外を眺めている宮崎、菅原も、起きて来た園部に顔を向け朝の挨拶を送ってきた。

 

 

「おはようございます園部さん」

 

「「おはよう優花(っち)」」

 

「うん、みんなもおはよう」

 

「やっと起きてきたぁ。 もうみんな朝ごはん済ませちゃったよー?」

 

「あー、うん、ごめんね。昨日少し寝つきが悪かったみたいで..........」

 

「あれ? 優花が持ってるそれって..........」

 

「うん。要に借りてたままだったから、返そうと思って..........そういえば玉井と清水は?」

 

「玉井は外、清水はまだ起きて来てない」

 

「ふーん.........要は?」

 

「「ん..........」」

 

 

 シンがどこに居るのかと園部が問うと、宮崎と菅原は二人揃って視線を窓の外へと戻し、その言動で答えを示す。

 

 そんな二人に倣って園部は窓から顔を乗り出して外に視線を向けた。

 

 その視線の先、コテージから少し離れた場所でシンとレオニスが素手による組み手をしていた。

 

 二人は鍛え抜かれた上半身を露わにし、激しい攻防を繰り広げている。

 

 

「食後の軽い運動のつもり、がッ!–––––かなり激しくなってない、カッ?」   

 

 

 身体強化を施し、[力魔法]の鎧を纏ったシンがレオニスの乱打を手や肘で防ぎ、躱わし、受け流す。まるで武術の達人のような体捌きである。そして軽く飛び上がったシンがハイキックをレオニスの側頭部に当てた。外に出て二人の組み手を間近で見ている玉井が「おおっ!」と感嘆の声をあげる。玉井の隣にはバウキスもおり、二人の組み手を静かに見守っていた。

 

 

「ッ..........アレックス殿を見て思ったんだッ! 俺もまだまだッ、力をつけないとダメだとなァッ!!–––––それに、まだ親父に勝てていないッ!」

 

 

 蹴られたレオニスは平然とした様子で強烈なボディブローを放つ。[力魔法]の鎧を纏ったシンの体が少し浮き上がった。久しぶりに[力魔法]ごと体が浮き上がる感覚を覚えたシンは、目の前のレオニスが彼の父親であるレグルスの姿とダブって見え、「マジかよ.....ッ」と悪態を吐く。そんなシンを差し置いて、レオニスは攻撃の手を緩める事なく殴打と足蹴を炸裂させる。

 

 

「だからってッ、食後にこれは勘弁しろよなァッ!」

 

 

 だが、シンとて負けてはいない。彼はレオニスが放つ攻撃と攻撃の間を縫うようにカウンターを決めていた。縦拳、肘打ち、裏拳、貫手などを駆使して対抗するシン。レオニスの豪快でダイナミックな身のこなしとは正反対に効率的な動きをしてる。そんなシンの動きを観察し、すぐさま己の技に取り入れるレオニス。

 

 そんな二人の組み手を窓から眺める園部、宮崎、菅原の三人。

 

 

「もうかれこれ一時間はやってるんだよ、あれ」

 

「すごいわね..........」

 

「要くんが凄く強いってのはわかってたけどさ...........ああいう現実的な強さを目の当たりにすると、改めてすごいって思えるよねぇ」 

 

 

 宮崎が補足し、園部と菅原がシンに対する感想を述べた。

 

 

「............白い羽織(これ)を返すのは後の方が良さそうね」

 

今返しても、平気だと思いますよ?

 

「んわっ! ろ、ロクサーヌさん..........!」

 

 

 園部の独り言に対し、いつの間にか外を眺める三人の背後に立っていたロクサーヌ。彼女は手に二枚のタオルを持ち、園部の耳元でそっと囁いた。それに驚いた園部は囁かれた耳を手で押さえながらロクサーヌに振り返る。

 

 

「そろそろ支度を整えて森に出発した方がいいでしょうし、あのままでは二人が()()になりかねません」

 

「「え、あれで本気じゃなかったの..........!?」」

 

 

 ロクサーヌの言葉に宮崎と菅原が反応した。

 

 そしてロクサーヌはシンとレオニスの名を大声で呼び、食後の運動を止めるように促す。すると二人の動きがピタリと止まり、組み手を終えた。

 

 玉井と並び、バウキスを体に巻き付けてコテージに向かって歩いてくるシン。バウキスはシンの体に流れる汗をちょろちょろと伸ばした舌で舐めとっている。そんな二人と一匹の後ろに着いて歩くレオニスは少し名残惜しそうな表情を浮かべていた。

 

 

「なぁ要。その蛇、え〜と、バウキス......?だっけか。 さっきからお前の体舐めてるけど、それ、お前を食べようとしてるわけじゃないよな?」

 

「ははっ、まさか。彼女はそんな真似しないさ。俺に懐いてる証拠だよ」

 

「..........彼女ってことは、メスなんだよな?」

 

「ん? そうだが?」

 

「....................魔物にもモテるってどういう事だよ」

 

 

 魔物にすらモテるシン。そんな彼に生物的な意味でも男として負けた気がした玉井。試しにバウキスを撫でようとするが、彼女は体の一部たりとも玉井に触らせようとしなかった。それで益々ショックを受けた玉井が「お前はあれかっ!フェロモンでも出してんのかっ!」と嘆き、あからさまに肩を落す。

 

 そんな会話をしながら程なくして三人はコテージに辿り着き、中に入って来たシンとレオニスにロクサーヌが先程から持っていたタオルを渡した。

 

 それを受け取った二人は手早く体の汗を拭き取る。バウキスが舐め取り切れなかった箇所をシンが拭き終えたところで、園部がシンに挨拶をして来た。

 

 

「..........おはよう、要」

 

「おう、おはよう園部。今日はいつもより遅い起床だな?」

 

「ぅっ 、まあ、色々あったのよ............昨日は、あんたのこと避けちゃって、ごめん。もう平気だから」

 

「...........そうか」

 

「それと、はい、これ!」

 

 

 園部が手に持っていた白い羽織にシンに手渡した。

 

 

「借りっぱなしで昨日返し損ねたけど、貸してくれてありがと」

 

「ああ、どういたしまして。–––––––––なぁ園部、今晩お前と話がしたい、二人っきりでだ

 

「〜〜〜ッ!!」

 

 

 他の人に聞こえないようにシンが園部の耳元で呟き、少しだけ園部の顔が赤くなった。特に〝今晩〟と〝二人っきり〟というワードに園部の胸がときめく。別に何かを期待しているわけじゃない!断じて違う!と園部は心の内で否定する。

 

 シンが口にした〝話〟というのは、おそらく不本意な形で彼に伝わったてしまった園部の〝本心〟についてだろう。そして、耳元で囁いたのはシンなりに園部を気遣っての行為だった。

 

 未だにシンからの言葉を受け止め切れる自信は無い園部だが、彼女はしっかりとシンと向き合い、彼の瞳を見つめ返した。

 

 

「..............わかった。私も、要と話さないといけないって思ってたから」

 

「そうか。なら時間が空いたら来てくれ。 まっ、その前に事情説明だがな。 それより園部、お前朝食まだなんだろ?早いとこ済ませて森に行こうぜ」

 

「えっ、でももう出発したほうが...........」

 

「朝食を摂る時間ぐらい待ってやるさ。 それに俺やロクサーヌも着替えないとだしな」

 

 

 そう言ってシンとロクサーヌは出発の支度を整えるために、バウキスを連れてシンが使っているコテージの一室に入って行った。

 

 そして園部が手早く朝食を済ませ、清水以外の全員が外出の準備を整えたタイミングで、シンとロクサーヌが部屋から出て来た。

 

 

「「「「.....................ッ!!」」」」

 

「ッ! 要、その格好...........っ!」

 

 

 シンとロクサーヌの服装を見た愛子、宮崎、菅原、玉井の四人は驚きのあまり言葉を失い、園部はシンの姿に衝撃を覚えた。

 

 真っ白な衣を全身に纏い、刀剣、短剣、そして金銀様々な装飾で着飾っているシン。そしてシンの髪色と服装の色に寄せた露出度が高い服装をしたロクサーヌ。

 

 二人にとっては慣れ親しんだ格好でも、園部達からすれば初めて見る姿。特にシンの格好が衝撃的だったらしく、この場にいる異世界組全員が惚けていた。今の彼はまるで純白の衣と豪華な装飾で着飾った何処かの国の王様、もしくは貴族のようである。そのうえ自信に満ちた力強い瞳と威風堂々とした立ち姿からは、とても十代の高校生とは思えない気品と貫禄を醸し出し、別人のように思えた。

 

 そんなシンの姿を見て唖然とする園部達。彼女達の様子から色々察したシンが口を開く。

 

 

「あ〜、そういえば皆んな、この姿見るの初めてだったな。似合ってなかったか?」

 

「いや、似合ってない訳じゃないけどよ..........」

 

「なんていうか、その..............」

 

「..........アニメキャラみたい?」

 

「グハッ!?」

 

 

 シンの言葉に玉井、宮崎が反応を示し、菅原の何気ない感想が彼の心を抉った。さっきまでの威風堂々としたシンの態度が呆気なく崩れ落ち、その様子から「あ、いつもの要っちだ」と宮崎が言葉を漏らす。別人に思えた彼は間違いなく要進だった。

 

 だが彼はすぐに立ち直り、わざとらしく一つ咳払いをする。

 

 

「ゴホン..........言っておくが、断じてこの格好はそういうのを意識した物じゃないからな?」

 

「でも自覚はしてるだろ?」

 

「さっき思いっきり崩れ落ちてたもんね」

 

「こういうなんて言うんだっけ? え〜と..........厨二病?」

 

「ゴホッ!?..........ぅぅっ、ロクえもぉ〜ん、皆んなが俺をいじめてくるよぉ〜」

 

「なんですか、その呼び方?」

 

「俺の世界で子供に大人気な、猫型ロボットの名前をもじった呼び方..........」

 

「なるほど、よくわかりません。..............ですが、よしよし。大丈夫ですよ、シン様。私はシン様の格好、とても良く似合ってると思ってますから」

 

 

 玉井と宮崎、菅原の的確な猛追がさらにシンの心を抉り、シンはロクサーヌに泣きついた。ふざけている辺り意外と余裕があるのかもしれない。いや、こうでもしないと心の平穏が保てないからだ。そんなシンの頭を慈愛に満ちた眼差しで優しく撫でるロクサーヌ。秘密道具は出てこないが、優しさと強さなら二十一世紀の猫型ロボットに引けは取らない彼女である。

 

 そんなシンとロクサーヌを黙って見ていた園部は、胸にチクリと何かが刺るような感覚を覚えた。本当は自分も“似合っている”とシンに告げたい気持ちだが、二人のやり取りを見ていると口にしずらくなり、伸ばしかけた園部の手が静かに元の膝上に収まって行くのだった。

 

 すると愛子が口を開いた。

 

 

「あの、要くん。 もう出発するのですか?」

 

「ん? ええ、そのつもりですけど..........」

 

「清水くんがまだ起きて来ていません。できればもう少し待っていただけませんか?」

 

「..........残念ですが先生、もう時間切れです。ヴィーネを森で待たせてるので、これ以上清水に時間を割くわけにはいきません」

 

「でしたら後程、私達が清水くんに...........!」

 

「それは却下します。確かに情報の開示は先生に一任しましたが、この場で話を聞こうとしない相手にわざわざ労力を費やす必要はありません」

 

「ですがっ!」

 

「それに俺は清水を信用していません。俺が信用していない相手には情報は一切与えないでください。下手に情報を与えて変を気を起こされては(たま)ったもんじゃない」

 

「清水くんはそんなことしませんっ! 彼は大人しくて、少し人付き合いが苦手なだけの()()()()()ですっ!」

 

()()、ですか..........。 先生、清水のことを心から信頼しているのはわかります。それは先生の美徳であり信頼できる一面でもある。ですが、それは先生の解釈であって俺の意見では無い。これ以上ごねるのでしたら、今回の事情説明は無しにします。その上で先生に〝ある魔法〟を掛け、行動を一部制限させてもらいますが––––––––どうしますか?」

 

「ッ!? ..............どうしてもダメなんですか?」

 

「ええ」

 

 

 シンの揺らぐことがない意思を感じ取った愛子。その場にいる園部達もシンの物言いから、彼が本気であることを悟り、二人のやり取りを緊迫した様子で見守っている。

 

 

「.............わかりました。私の我儘で今回の話を台無しにするわけにはいきません。要くんの言う通り、清水くんには一切伝えません。これで構いませんか?」

 

「はい。脅す様な真似をして申し訳ありません先生」

 

「いいえ。要くんには何か考えがあるのでしょうし、私の価値観を君に押し付けるのは間違ってますから」

 

「そう言ってくれると助かります。––––––––お前達も、今回の事情説明で知ったことは一切他言しないでくれ。誰かに伝えるならまず先生に相談すること。勝手な判断で他人に伝え、その結果俺達に迷惑がかかることを忘れないでくれ」

 

 

 清水に関する愛子との会話が終わり、シンは周りの園部達にも忠告をし、彼女達もそれに同意した。

 

 

「さて、少し空気が重くなったが、気を取り直して予定通り森の温泉に行くのするか!」

 

 

 さっきの張り詰めた空気から一転して、シンがそう告げるとロクサーヌとレオニスが彼の言葉に頷き、三人は外に出ようと歩み始める。それに倣って愛子や園部達も動き出した。

 

 そしてはコテージを出て、シン達一行は森に向かって歩み始める。

 

 そんな中、シンは自分の真後ろにいる園部に向かって声を掛けた。

 

 

「そういえば、さっきから随分と大人しいけど、朝食足りなかったか園部?」

 

「人を食いしん坊キャラみたいに言わないでよ!....................私も似合ってると思うわよ、その服

 

「..............ふっ、ありがとな」

 

 

 別に礼など求めていなかった園部の小さな独り言にシンが反応した。だが、そんな些細なことでも園部は嬉しかったらしく、少しだけ頬を紅に染め、シンから顔を背けた。

 

 甘酸っぱい青春の香りがシンと園部から漂い、愛子は訝しみ、宮崎と菅原は何やらニヤニヤしている。玉井は最後尾にいるため全く気づく様子はない。

 

 園部は自身の恋心がどうしようもなく押し止められ無い物だと再認識し、今晩の自分がどうなるのか気になった。尤も、ヴィーネとの話し合いを経て園部の想いは大きく動き始めるのだが、それを今の彼女が知る由はなかった..............。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

  

 

side:清水幸利

 

 

 

 彼は自室のベッドで蹲り、怯えていた。

 

 

「なんなんだよあいつ..........っ! おれが、俺が何したって言うんだッ! くそぉッ!」

 

 

 彼はあの日の事を思い出し、激しい憤りを覚え、抱きかかえいた枕を壁に向かって投げつける。

 

 清水が思い浮かべたあの日の事とは、カルロー事変後の事である。

 

 あの日清水は、シンが居ないのを良いことにロクサーヌを自分の物にしようとした。しかしそれは失敗し、避難もせず、ずっとコテージの自室で塞ぎ込んでいた。

 

 そして黒いサンドワーム、つまりデスワームを全て倒し終え、村が再び平穏を取り戻した後の深夜、自室で塞ぎ込んでいた彼の元にある男が訪ねてきた。

 

 それは七つの金属器を全て身につけたシンだった。清水からすればただ豪華な装飾で着飾っただけの要。

 

 そんな彼は強引に清水が使っている部屋に押し入り、清水に問いかけて来た。

 

 

『清水、話はロクサーヌから聞いた。俺が居ない間に随分と好き勝手言ってくれたみたいだな?』

 

『う、うるさいッ! 良いから早く出ていけッ!ここは俺の部屋なんだぞッ!』

 

『そうはいかない。ここでお前を放置すれば俺と会うのを避けようとするだろ? そしてまた俺のロクサーヌに手を出すかもしれないし、或いは八つ当たりで園部達に何か良からぬ事を仕出かすかもしれん。 そんな危険な奴をみすみす放っておく事は出来ないな』

 

『お、おお俺に何かするつもりなのかッ? は、ははッ、そんなことすれば俺はすぐに大声を出してみんなを呼んでやるッ。そうすれば先生どころか教会の騎士達だってやって来るッ!デビッド(金髪野郎)なんかは真っ先にお前を糾弾すると思うぜぇ? それにお前が声を出させない様に俺を殴っても、その痣が残ればお前にやられた証拠になるッ! それを見せれば先生だって黙っちゃいないッ! つまりお前を俺をどうこう出来様が無いんだよッ!』

 

『歪んでるなぁ、清水。なるべく穏便に済ませたかったが、仕方ないか..........』

 

『ッ! 誰か助けてくれェェェェーーーッ! 要が俺を殺そうとしてくるッ! 誰かァァァーーーッ!』

 

 

 清水が大声で叫ぶが、室内や外は静まり帰っていた。隣の部屋で寝ているはずの玉井すら起きる気配が無い。今度はもっと大きな声で清水が叫び声をあげるが、一向に誰も清水の部屋を訪れる様子が無かった。

 

 

『言っておくが、いくらお前が叫んでもこの部屋には誰も来ないし、偶然お前の部屋に立ち寄る奴もいない。俺の魔法で音も存在も認識されない様になってるからな』

 

 

 シンが清水の部屋に訪れた時点で、この部屋にはシンの[認識阻害]が付与されている。つまりこの部屋自体が認識されない様になっているのだ。清水の叫び声も外に漏れている様で漏れていない。[認識阻害]は音の認識すら阻害するのだから、どれだけ誰かに訴えてもその相手の耳には届かないのだ。

 

 

『それともう一つ、俺がいつお前を殴るなんて言った? もちろん暴力も振るわない。まあロクサーヌを洗脳しようとした事には、今でも腑が煮え繰り返る様な気分だが』

 

『じゃあお前は俺に何をしようって言うんだよッ!!』

 

『そんなの決まってるだろ? お前がロクサーヌにしようとした事を仕返すだけさ。–––––––〝絶対的な恐怖〟を添えてな』

 

 

 途端、シンが[覇気]を発動させた。すると清水は力無く膝から崩れ落ち、恐怖で顔を歪めながらシンを見上げる。清水の目には、シンの姿が七体の巨人とそれを従える人の形をした怪物の様に思えた。

 

 

(な、なな、なんなんだよッ................これッ................!)

 

 

 シンの左手がゆっくりと伸びて来て、清水の顔に触れた。

 

 

『洗脳はお前の専売特許じゃないんだよ。––––––〝刻め、()()()〟』

 

 

 その瞬間、シンの左指に嵌め込まれた指輪が輝き、清水は意識がだんだん遠のいて行く。完全に意思を手放す直前、「もし、また同じ様な事をロクサーヌや園部達にしようとした時は、躊躇いなくお前を〝壊す〟」とシンが口にし、それを聞きながら清水は眠りに落ちた。

 

 そして清水が意識を取り戻した時にはすでに翌朝で、あの時シンに刻み込まれた恐怖によって、彼は丸一日ベッドの上で塞ぎ込んでいた。

 

 シンが最後に残した言葉がずっとこべりついた離れない。

 

 

『くそッ、くそッ、くそォォッ!! どいつもこいつも俺のことを馬鹿にしやがってッ..............! 俺は、俺には才能があるんだッ! 天之河なんかよりずっとすごい才能がァッ! 要みたいなクソ野郎なんかよりよっぽどすごい奴なんだッ!今に見てろよ要ェ...............ッ!」

 

 

 清水は部屋を壁をじっと睨みつけ、その先で幻視するシンに怒りと憎しみを込めた眼差しを向けている。

 

 しかし彼がこの村に滞在中、何かを起こす事は無かった。だがカルロー村の次に行く湖畔の街ウルで清水は大騒動を引き起こし、その結果、誰一人想像出来なかった〝再会〟と〝決別〟が待っているのだが、それはまだ先の話である。

 

 




今回シンが清水に行ったのはゼパルの簡易的な魔力の植え付けです。(今作オリジナル要素)それが今後、作中でどう作用するのかはお楽しみに。

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