ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

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後日談が終われば新章開幕ですが、もう暫く第二章にお付き合いください。





後日談 中編 上

 

 カルロー村近くの森に入って三十分程で、シン達一行は目的の場所に到着した。

 

 魔装フォカロルの一撃によって丸裸にされた大地。湖と呼ぶには少し物足りないが、湯気を立ち昇らせる薄い乳白色の大きな池はまさに天然の露天風呂である。

 

 そんな光景を目の当たりにするシン達一行。

 

 特に愛子や園部達は異世界に来て初の天然露天風呂。そのうえ元の世界でも見たことがないほど大規模な温泉を前に、自然と瞳が輝いていた。

 

 するとそんな生徒達を代表して愛子が口を開いた。

 

 

「す、すごいですね..........これを全部要くんが?」

 

「まあ、偶然の産物ですけどね。..........入りたいですか?」

 

「「「「ッ!!」」」」

 

 

 シンがそう問うと愛子以外の異世界組メンバーがハッとした様子で反応を示した。どうやら園部達は入ってみたいらしい。

 

「い、いえ! 今日はあくまでお話を聞く日です! 遊びに来たわけではありませんから!」

 

「そうですか? 事情説明なんてすぐに済みますし、その後は自由時間になりそうですが?」

 

「そ.......その後は今日の予定通り温泉の調査です! 水質や温度、人体に害が無いかなどを調べなくては!」

 

「その必要は無さそうですけど?」

 

「はい?」

 

 

 シンが指を指した方向に愛子が視線を向けると、そこにはヴィーネが居た。しかも温泉に浸かってだ。普段着込んでいる黒ローブや甲冑を外し、水着を着て温泉池を泳いでいるヴィーネ。毛先が少し波打った様な程良く癖のある白く長い髪、細くしなやかな白い肢体、程よく実った胸部と腰を覆うフリル付きの水色ビキニ、そしてこちらを見つめているニコちゃんマークの仮面。誰がどう見てもヴィーネである。彼女以外あんな奇天烈な仮面をつける女性はこの世にあと一人ぐらいしかいないだろう。

 

 そんな彼女を見てこの場にいる全員が「温泉入ってる時ぐらい外せばいいのに..........」と思ったのは間違いない。

 

 

「あれを見た限りじゃあ人体に害なんて無さそうですよ? それに俺の()で見た限りかなり質の良い温泉のようですし、調査に関しては俺が受け持ちます」

 

「で、ですが..............」

 

「ちなみに、あの温泉池の効能は[疲労回復][肩凝り腰痛改善][美肌効果][免疫力向上][バストサイズアップ][恋愛成就]..........恋愛成就? とまあ色々ありますが、滅多にお目にかかれない効能ばかりです」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

 シンの[鑑定]によって得た温泉の情報。それを彼がつらつらと述べると、愛子や園部達の顔色が一気に変わった。特に女性陣には聞き捨てならない物ばかりだったらしく、[美肌効果]と聞いた菅原が目の色を変え、[バストサイズアップ]と聞いた愛子と宮崎が自身の胸に手を当て、園部は「恋愛成就.......」と復唱している。

 

 全員が温泉に興味を惹かれた。

 

 

「で、ですが水着などは持って来ていませんので。今から入るのは流石に............」

 

「フッフッフッ..........そんな事もあろうかと! バウキスッ!」

 

 

 シンがバウキスの名前を呼ぶと、シンの懐に潜り込んでいたバウキスが顔を出し、愛子や園部達の手元に[異袋]から取り出した“とある物”を投げて渡す。彼女達がそれを手で持って広げてみると、なんとビックリ! 自分達のサイズにぴったりな“水着”ではありませんか!

 

 

「か、要くんっ!? これは一体っ.........!」

 

「この世界で温泉に入る機会なんて滅多に無いでしょうからね。及ばずながら、こちらで勝手に用意しておきました」

 

「ちょっと待って要............. なんでこの水着、こんなに()()()()()()()()()()()なの?」

 

 

 園部が当然の疑問をシンに投げ掛けた。するとシンはロクサーヌの方に視線を移し、彼女達も彼の視線を追ってロクサーヌの方を見た。

 

 

「みなさんが下着を洗濯している際にサイズを少し拝見させてもらいました。尤も玉井さんの水着はフリーサイズですが..........。水着は村の被服店の女将さんから譲っていただいた物で、デザインは予め皆さんから聞いていたものを参考にさせていただきました」

 

 

 実は昨日の朝からロクサーヌはこっそり女性陣の下着のサイズを確かめ、その上でさりげなく水着の好みを聞いていたのだ。それを思い出した愛子、宮崎、菅原の三人が納得したように「あ〜、そういえば..........」と口に漏らす。だが一人、ロクサーヌが確認出来ていなかった女の子がいた。

 

 

「私、好みの水着とか聞かれてないんですけど?」

 

「優花さんの水着のデザインはシン様が選んだ物です」

 

「へぇー.........ふぇッ!?要がッ!?」

 

「はい。優花さん、昨日一日は忙しそうにしてましたし、唯一絶好の聞くタイミングだった昼休憩の時は、その、色々ありましたから.............」

 

「だからって! なんで要がッ!?」

 

「もしかしてデザイン気に入らなかったか?」

 

「べ、別にそういうわけじゃないけど、さ..........」

 

 

 シンが申し訳なさそうに園部に訊くと、彼女は髪をくるくると指先で弄りながらどっちつかずの言葉で返す。そんな園部の態度を見た宮崎と菅原がシンに言葉を投げ掛けた。

 

 

「ねぇねぇ要っち〜?」

 

「優花の水着はどうやって選んだの〜?」

 

「どうやってって、そりゃあ園部に一番似合う奴をと思ってだが.............こういう水着、園部に似合いそうだろ?」

 

「うんうん、優花っちは意外とスタイル良いからねぇ〜。そっかそっかぁ〜、要っちはこういう水着を優花っちに着て欲しいんだ〜!」

 

「黒のビキニなんて、要くんもなかなか大胆だねぇ〜」 

 

「〜〜〜〜〜〜ッ///」

 

 

 わざとらしい宮崎と菅原がシンに質問し、それに答えたシンの言葉を良い具合に盛り立てる。それを聞いている園部の顔がだんだん赤くなっていく。シンが自分に似合う水着を選んでくれたことがとても嬉しいらしく、園部はさらに髪の毛をくるくると弄る。だが恥ずかしいことには変わりはないらしく、シンを睨みつけていた。しかしその顔はやっぱり赤い。

 

 そうこうしていると、タオルで体の水滴を拭う水着姿のヴィーネがシン達の元にやって来ていた。

 

 

「いつまでそこに居るつもりなのですか? 」

 

「あっ!すみませんっ!お待たせしてしまって!.............ところでヴィーネさん、その仮面外さないのですか?」

 

「..............私の顔はあまり周囲に晒して良いものではないので」

 

「ッ! それは大変失礼なことを聞いてしまいましたっ!」

 

 

 ヴィーネに声をかけられ、愛子が対応するが、不用意な発言をしてしまったことに彼女が謝罪する。しかしヴィーネは特に気にした様子もなく仮面越しに微笑んだような返した。

 

 

「いえ、お気になさらず。 それでは皆さん、席にどうぞ」

 

 

 そう言ってシン達はヴィーネに招かれるまま、水辺から少し離れた森側にある大理石で造られたような円卓と背もたれの無い椅子に向かって歩く。いつの間にそんな物を用意したのか不明だったが、ヴィーネが「椅子が一つ足りませんね」と呟くと、彼女は左手の親指に嵌めた指輪を光らせた。すると突然円卓の周りにもうは一つ椅子が現れる。どうやら彼女が指に嵌めている指輪は[空間魔法]が付与された物らしく、円卓や他の椅子もその指輪から取り出したのだろう。

 

 そしてシン達一行が椅子に着こうとした時––––––––

 

 

「話をする前に一つ、確かめたいことがあります。要進さん、貴方の〝力〟を見せていただけませんか?」

 

「................〝力〟というのは?」

 

「貴方も金属器使いなら分かるはずです。私と精霊(ジン)の〝力〟で、つまり()()()()の勝負していただきたいのです」

 

 

––––––––––ヴィーネが勝負を申し込んできた。

 

 

「お前には一度見せてるはずだが?」

 

「そうですね。ですがアレで戦っている姿を私は見ていません。私の話が聞きたいのであれば、先ずはそれに見合った実力を示して欲しいのです。それに...............実際に見てもらった方が彼女達への説明も楽に済むと思いませんか?」

 

 

 一瞬だけ言葉を詰まらせたヴィーネ。彼女が何故言葉を詰まらせたのは表情が仮面で隠されているためよくわからなかった。だが言っている意味は理解出来る。要は〝話が聞きたいなら私に勝って見せろ〟ということだ。そしてシンが歩んで来た道のりを園部達に語るなら、〝金属器〟と〝精霊(ジン)〟の説明は欠かせない。なら................

 

 

「.................断る理由は、無いな。いいだろう、君の申し出を受ける。ロクサーヌ、レオニス、二人は先生や園部達に被害が出ないよう注意してやってくれ」

 

「「分かりました(分かった)」」

 

 

 シンとヴィーネが温泉池の水辺に向かって歩み出した。するとヴィーネは再び指輪を光らせ、着ていた水着が一瞬でいつもの黒ローブと軽鎧姿になる。おそらくそれも指輪に付与された[空間魔法]によるものだろう。それだけで彼女がどれほど[空間魔法]の扱いに長けているのかが伺えた。

 

 白と黒。

 

 両者が水辺ギリギリで歩みを止め、三メートル程度の間隔を空けて向き合っている。

 

 それを見つめるロクサーヌやレオニス、そして愛子や園部達。そういえば玉井は見るのが初めてかもしれない。彼は「何が始まるんだよ?」と呟き、興味深そうにシンとヴィーネに視線を向けている。

 

 すると園部が口を開き、ロクサーヌに問いかけた。

 

 

「さっきヴィーネさんが言ってた〝魔装〟って、要の()()姿()のことですよね?」

 

「はい。その力の源となる存在の事を我々は精霊、または〝精霊(ジン)〟と呼んでいます。そしてその精霊(ジン)が宿っているが、シン様やヴィーネさんが持っている金属製の装備、それが〝金属器〟です」

 

「えっ? じゃあ要くんが今身に付けてる装飾品って..........」

 

「ええ、ほとんどが〝金属器〟です」

 

「へぇ〜、ファッションじゃなかったんだ、あれ...........」

 

「聞こえてるぞぉ〜、宮崎ぃ〜っ!」

 

 

 園部の問いに答えたロクサーヌ。そして菅原が推察した通りの答えをロクサーヌが返した。宮崎が関心したように言葉を漏らすが、シンの耳にはしっかり届いていたらしい。未だに卒業出来てない奴みたいな言い方だったが、どうやら今回の事情説明でそれは払拭できそうである。中止にしなくて本当に良かった。

 

 

「それで、これから一体何が起こるんですか?」

 

「まあ見ていてください優花さん。貴方が惚れた男性がどれほどの力を持っているのか」

 

「ンッ!?..............その一言は余計ですって」

 

 

 不意にロクサーヌにそんな事を言われた園部はなんとか恥ずかしさを堪えロクサーヌにツッコんだ。ここ数日、散々赤面してきた事で対処法を学んだらしい。

 

 するとシンが[認識阻害]の結界を温泉池周辺と上空に展開した。半径五百メートルにも及ぶ半球状の大結界で、シンの魔力量と[空間付与]があってこそ成せる技である。

 

 そしてついにシンとヴィーネの二人が動いた。

 

 

「〝我が身に宿れ、“ヴィネア”!〟」

 

「〝我が身に宿れ、“フォカロル”!〟」

 

 

 黒布で覆われたヴィーネの金属器とシンの右腕に装着された銀の腕輪が光り輝き、ヴィーネの体は水の膜に覆われ、シンの体には風が巻きつく。

 

 そして二人の〝全身魔装〟が完成した。

 

 シンは園部達も見たことがある、赤い腰布と羽衣、そして黒翼を纏った姿。一方ヴィーネは髪の色が白色から水色に変わり、肩をがっつり出し鎖骨から(へそ)にかけてラインを除く全身が青い鱗に覆われ、長く白い羽衣が腰の前で結び目を作り、下に伸びた羽衣から半透明なスカートみたいなものが展開されていた。額には赤い宝石、頭頂部には金の大きな髪飾り、そして彼女の手には噴水を彷彿とさせる巨大剣が握られている。それはまるで水の天女、この世界で例えるなら〝海人族の女神〟と捉えてもおかしくない程の神秘的な姿であり、それこそ〝全身魔装ヴィネア〟の姿であった。

 

 魔装を纏ったヴィーネの姿を目にしたシンは一つ、気になった事を彼女に尋ねる。

 

 

「それがお前の()()なのか、ヴィーネ? 傷一つ無い、綺麗な顔じゃないか」

 

「褒めてくれるのは嬉しいですけど、これが()()かどうかは分かりませんよ? 今も仮面をつけてるのは確かですから」

 

 

 ヴィーネが薄く不敵な笑みを浮かべ、そう言った。

 

 現在ヴィーネの仮面は魔装によって包み隠され、彼女は今は人の顔を晒していた。端的に言って美人である。幼さを僅かに残した綺麗な顔立ちに、血のように真っ赤な双眸。見た目からしてまだ十代後半といったところだが、彼女の目の奥から感じられる〝力強さ〟は十代の子供だからと侮っていい物では無かった。

 

 ふとシンの脳裏に親友(ハジメ)の姿がチラついた。

 

 するとシンは感慨深そうに優しく微笑を浮かべる。

 

 

「...............何か変でしたか?」

 

「あー、いや、すまない。気分を悪くさせたなら謝る。別にお前を侮辱したわけじゃ無いんだが................なんでだろうなぁ、お前の目を見てると俺の()()を思い出す」

 

「..............................」

 

「折れないハートと優しさ、それがお前の目から感じられて、何処となくハジメ(あいつ)に似てるなぁと思ってよ」

 

「................ ありがとうございます」

 

 

 シンが口にした言葉をヴィーネは素直に受け取った。少しだけ嬉しそうに笑みを浮かべながら.............。

 

 そして会話が途端、対峙する二人は不敵な笑みを溢し、上空へと勢いよく飛翔した。その速度は凄まじく、二人の動きを目で追う園部達が一瞬見失うほど。この世界の住人より比較的ステータスが高い彼女達ですら、魔装を纏ったシンとヴィーネの速さを捉え切ることは出来なかった。

 

 園部達が視線を向けた上空では風と水が激しくぶつかり合い、舞い踊っていた。

 

 

「ハァァァァッ!」

 

「フンッ!」

 

 

 ヴィーネが持つ巨大剣に水が纏い、水の槍と化した彼女が水流の如き勢いで突っ込んでくる。それを両手から発生させた風の塊をぶつける事で下方へと弾き落としたシン。ヴィーネが温泉池の水面に叩きつけられた。しかし彼女は一切怯むこと無く、水の柱を纏いながら再度シンに向かって突撃する。それを風の柱を纏ったシンが真正面から受け止めた。

 

 唸りを上げる水と風の柱が鬩ぎ合う。その押し合いで勝ったのはシンだった。

 

 しかし、戦いはまだ終わらない。

 

 再び水流と烈風がぶつかり合い、温泉池一帯で風が吹き抜け、雨が降る。

 

 そんな事を何度も繰り返す二人はこの戦いを楽しんでいるらしく、お互いに笑みを浮かべていた。

 

 一方、二人に視線を向けている愛子や園部達の表情は唖然とした様子である。

 

 目の前で繰り広げられている激しく攻防は、もはや彼女達では想像もつかない領域に到達していた。はっきり言って規格外。シンとヴィーネ、二人の攻撃は一発一発が高位の魔法と同等以上の破壊力。自分達もあの中に混じって戦え、なんて言われた日にはオルクス大迷宮のベヒモスと戦った方がまだマシだと思えるぐらいだ。いや、ベヒモスと戦うのも嫌だが..........。

 

 とにかく、それぐらいに二人の戦いは自分達の想像を遥かに超えていたのだ。

 

 だがロクサーヌとレオニスだけは違う。

 

 

「あれがヴィーネさんの〝全身魔装〟ですか。水を操る精霊(ジン)..........ある程度は予想がついてましたけど、やはり村に来る前に私達を襲った水の竜は..............」

 

「ああ、間違いなくヴィーネの仕業だろうな。そして、俺達が水の竜と対峙している間にバウキスを連れて消えた、といったところか」

 

 

 二人は平然とした態度で会話をしている。

 

 すると上空でシンと鬩ぎ合っていたヴィーネがシンに話し掛けた。

 

 

「流石は進さん。十分魔装を使い熟していますね」

 

「そういうヴィーネこそ、俺とここまで渡り合えるとは大したものだ。その様子だと()()も使えるんだろ?–––––––撃って構わないぞ?」

 

「..........本気ですか? いくら貴方でも流石に–––––––」

 

「––––––〝俺が受け止められないと?〟」

 

「..............いいでしょう。貴方の全力を見せていただきます!」

 

 

 ヴィーネの目がより一層楽しそうに輝いた。まるでこれから起きることにワクワクしているように。

 

 そしてヴィーネは温泉池の奥へと後退し、両手で巨大剣を持つと、騎士のように眼前で剣を立てて構える。

 

 すると彼女の背後に巨大な魔法陣が現れ、ヴィーネは詠唱を始めた。

 

 

「–––〝悲哀と隔絶の精霊よ、汝が王に力を集わせ、地上を裁く大いなる激流をもたらさんことを!〟–––」

 

 

 温泉池の水面が激しく波打ち始め、大量の温水が天へと昇っていく。それは巨大な津波だった。太陽光を遮る程の超特大の大波が姿を現し、シンやロクサーヌ達の前に立ち塞がる。

  

 それを目にした愛子や玉井、園部達が戦慄したように面持ちになり、声すら出なくなっていた。ロクサーヌとレオニスはそれでも平然とした様子で頭上を見上げている。

 

 そして、ヴィーネがその名を口にした。

 

 

「〝()()()()!〟––〝水神召海(ヴァイネル・ガネッサ)!〟」

 

 

–––––––〝ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!〟

 

 解き放たれた波濤がシンどころかロクサーヌ達を飲み込もうと迫っている。

 

 精霊(ジン)の力を持ち、全身魔装を習得した者のみが扱える超高位魔法、それが〝極大魔法〟だ。その威力は極大と呼ぶに相応しいほど絶大であり、高位魔法何十発分にも相当する破壊力と規模を秘めている。それを生身で受ければステータスが平均より高い異世界組とて一溜まりも無いだろう。

 

 まさに〝天災〟

 

 だが–––––––––

 

 

「〝風裂斬(フォラーズ・ゾーラ)!〟」

 

 

 突き出されたシンの両掌から二つの竜巻を発生し、広範囲に差し迫った波濤を掻き消す。

 

–––––––––理不尽が理不尽を踏み越えた。

 

 打ち消された波濤は大量の雨粒となって温泉池一帯に降り注がれる。ロクサーヌやレオニス、愛子や園部達はずぶ濡れになり、着ていた服のビシャビシャにされた。

 

 そんな彼女達を見たシンとヴィーネは「あっ......」と素っ頓狂な声を漏らした。特に園部はシンに何か言いたげな視線を送っている。

 

 ということで、二人はこの辺りで戦いを止めることにした。あと二つぐらいはヴィーネに魔装を見せようと考えていたシンだが、不本意な形で園部達を巻き込むのもどうかと思い、彼女に魔装を見せるのはまた今度にした。

 

 二人はロクサーヌ達の元へと降り立とうとする。

 

 だがシンとヴィーネ、それからロクサーヌ、レオニスの四人は森の奥からこちらに向かってくる大量の魔物の気配を感知した。

 

 そして程なくして、それは姿を現した。

 

 数はおよそ二百、森に潜んでいた様々な魔物達が温泉池一帯を取り囲むように現れたのだ。

 

 

「まさか、森中の魔物がここにっ!?」

 

「おいおいおい! すごい数だぞッ!」

 

 

 愛子と玉井がいきなり現れた魔物達に狼狽えている。園部、宮崎、菅原は三人で身を寄せ合っており、そんな愛子や玉井、園部達を守るためにロクサーヌとレオニスが彼女達の前に出た。

 

 そんな彼女達の元へシンとヴィーネはゆっくりと降下して行き、ヴィーネが口を開いた。

 

 

「どうやら少し騒ぎ過ぎたみたいですね。私は先程の一撃で魔力がかなり削られました。これ以上の魔力消費は控えたいので、ここは貴方にお任せしたいと思います............構いませんか?」

 

「ああ、問題ない。どうせなら森の魔物がこの温泉地帯に入って来れないようにしよう」

 

 

 するとシンは降下途中で魔装を解除し、星の引力に身を任せ、高度二百メートルの上空から青空を仰ぎ見ならが落ちて行く。

 

 そして–––––––––

 

 

「〝我が身に宿れ、“アガレス”!〟」

 

 

––––––––二つ目の魔装をその身に纏い、大地に降り立つ。

 

 そこには鰐のような鱗を持つ狼に似た小さな悪魔がいた。

 

 髪と手足は黒茶色に変色し、巨大化した片腕の甲には魔法陣が刻まれており、円環を光背のように背負っている。さらに獅子のような尻尾を生やし、額には第三の目が宿っていた。

 

 再び変化したシンの姿に園部達は驚くが、その一番の要因は彼の身長である。百八十センチを優に超すはずのシンの身長が、今や愛子の身長と同程度。そのうえ顔立ちも幼く、愛子が中学生ぐらいの容姿ならシンの見た目は小学生くらいだ。

 

 そんな子供の悪魔となったシンが巨大化した右腕を上に掲げる。

 

 

「〝地殻散弾槍(アウグ・アルサーロス)〟」

 

 

 突然温泉池の中から頭上に現れた超巨大な岩の塊。それが数百に分裂し、鋭く捻じられた岩の槍へと形状が変化する。そして岩の槍が一斉に射出され、温泉池一帯を囲んでいた数百の魔物を全て串刺しにし土へと帰した。

 

 魔物を一掃した岩の槍は此処ら一帯を囲うように突き立っており、巨大な岩の柵となっている。

 

 

「これなら魔物もそう易々と入って来れないだろう。あとは適当に屠った魔物の死骸を処理すれば二次被害も防げるはずだ」

 

「お見事ですシン様!」

 

「俺達の出る幕が無かったな」

 

 

 シンの元へとロクサーヌとレオニスが歩み寄り、彼に言葉を掛けてくる。魔装状態であるためシンがロクサーヌを見上げていた。

 

 そしてすでに魔装を解除していたヴィーネもシンの元へと歩み寄ってきたので、シンが問い掛けた。

 

 

「これで俺の力は示せたかな?」

 

「はい。あのまま戦っていても私に勝ち目は無かったでしょうしね」

 

「そいつはならよりだ..............ん?どうしたんだ、みんな?」

 

 

 先程から固まっている愛子や園部達を不思議に思い、シンは彼女達に声を掛けながら歩み寄って行く。ちなみに魔装はまだ解除していない。

 

 すると宮崎と菅原がシンの言葉に反応した。

 

 

「いやぁ、要っちが強いのは知ってたけど.........」

 

「要くん、その姿..........」

 

「ん?ああ、この姿か。これは大地を操ることが出来る〝アガレス〟の魔装で、俺が所有する精霊(ジン)の一つさ。見た目は、まあ、ちょっと幼いけど」

 

「「................」」

 

「..........どうした二人とも?」

 

 

 シンの姿をじっと見つめる宮崎と菅原。そんな二人をシンが不思議そうに見ていると、二人の手がポンっとシンの頭に乗った。

 

 

「..........いきなりどうしたお前ら?」

 

「いやぁ〜、なんか急に要っちの頭を撫でたくなって」

 

「話し方とか、まるで頑張って背伸びしてるいつもの愛ちゃんみたいで可愛いなぁ〜って」

 

「ええッ!? そんな風に見られてたんですか私ぃッ!?」

 

 

 菅原の発言が愛子にはショックだったらしい。というか、いつまで撫でるつもりなんだ、この二人は..........?

 

 可愛いと言われて複雑な気分になるシンだが、頭を撫でられるのは新鮮だったらしく、無理に振り払おうとは思わなかった。そんなされるがままにシンを見て、ロクサーヌとレオニスも宮崎と菅原に倣ってシンの頭を順番に撫でてくる。完全に子供扱いだ。

 

 

「園部さんは参加しなくていいのですか?」

 

「..........なんで私に訊くんですか?」

 

「なんとなく羨ましそうに見えましたので」

 

「別に羨ましそうになんか..........それを言うならヴィーネさんが参加したらいいじゃないですか?」

 

「いえ、私はどちらかというと撫でられる方が好きなので」

 

「は、はぁ.........」

 

 

 されるがままのシンを遠巻きで見ているヴィーネと園部がそんな会話をしていた。ちなみに、園部とは違う意味でシンを羨ましそうに見ていた玉井は、シンを揶揄ったせいで巨腕で頭を摘まれ宙吊りにされている。

 

 ふと園部の頭の中である疑惑が浮かび上がった。

 

 

(もしかして、ヴィーネさんも要のことを................?)

 

「言っておきますが、私はあの人を心から信頼していますがそこに恋愛感情はありません。私には()()()()()()が居ますので」

 

「.................もしかして心が読めるんですか?」

 

「..........? いいえ、私にそんな技能はありませよ」

 

「そ、そうですか..........」

 

 

 努めて平静を装う園部。そんな彼女に対し、ヴィーネはさらに語りかける。

 

 

「話の続きなのですが、私は進さんに幸せになって欲しいと思っています。あの人はいずれ多くの命を背負いこの世界の〝()()()〟と相対する。そのためにも、彼を決して孤独にしてはいけないのです。––––––––ですから園部さん、貴女は貴女自身の幸せを掴んでください」

 

「〝真の敵〟?............どういう意味ですか? それに、私の幸せと要の幸せが一体なんの関係が..........」

 

「うふふ、意外と鈍いお方なのですね」

 

 

 意味深な言葉を口にしたヴィーネ。それを訝しんだ園部が彼女に問い掛けると、妙に余裕のある軽い笑い声を漏らし、ヴィーネは仮面越しから園部に耳打ちした。

 

 

諦めたら、そこで試合終了ということですよ

 

「ッ!?」

 

 

 耳打ちされたヴィーネの言葉。それを聞いた園部の心臓の鼓動が跳ねる。ヴィーネが言わんとしていることを、園部は理解した。要するに〝シン()とくっつけ〟と言っているのだ。

 

 何故彼女まで園部の想いを知っているのか?シンやロクサーヌが吹聴するとは思えないし、宮崎や菅原とてそれは同じこと。結局いくら考えても答えは出なかった。

 

 だがヴィーネの言葉から察するに、彼女は園部の恋路を応援している。その意図を園部はしっかりと読み取っていた。

 

 するとヴィーネがシンの元へと歩み寄って行き、魔物の死骸をどう処理するかや、この後の話し合いについて、シンに問い始めていた。未だに玉井を摘み上げているシンに。

 

 その後、園部達はずぶ濡れになった服から水着に着替えることになり、何故か事情説明は温泉に浸かりながら行うことに決まった。愛子や園部達が水着に着替えている間にシンが魔物の死骸を処分するそうだ。ちなみにシンが魔装を解いていなかったのは、女性陣が安心して着替えられるように、地面の土を操って簡易的な更衣室を作るためだったらしい。

 

 そして園部はシンが選んでくれた水着に着替えるために土製の更衣室に足を運ぶ。少しだけ、ちょっぴりほんの少しだけ、自分がこれを着た時にシンがどんな反応を示すのか期待を膨らませて..........。

 

 だが、そんな園部はヴィーネが最後に放った言葉の違和感に気づかなかった。シンや玉井であったら気づけたかもしれない違和感。

 

 それは................

 

 

.............何故、この世界の住人であるはずの彼女が、〝()()()()()()()()()()()()()()()()()〟という違和感を。

 

 




というわけで今回はマギ原作にもあった「シンドバッドVS練紅玉」のワンシーンを再現した回でした。ただマギ原作とはシチュエーションがまるで違うので、今作ではフォカロル→アガレスに魔装を切り替えましたが..........。
 


補足


『登場した魔装』


【ヴィネア】
・全身魔装の姿はほとんどマギ原作と同じですが、練紅玉よりスタイルは良いです。


【アガレス】
・全身魔装の姿はほとんどマギ原作と同じですが、顔つきは幼い頃のシンドバッド寄りです。身長は愛ちゃん先生と同じぐらいにしました。

《地殻散弾槍(アウグ・アルサーロス)》
・今作オリジナルである〝アガレス〟の魔法です。集めた岩石を分裂させ、鋭く捻じられた幾本もの槍に変化したそれを相手に放つ魔法。参考にしたのは〝ヴィネア〟の《水神散弾槍(ヴァイネル・アルサーロス)》です。


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