ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

46 / 53

うぅ、自分の文才の無さに頭を抱えたくなる..........。





後日談 中編 中

 

「...............何よ。言いたい事があるならハッキリ言いなさいよ」

 

「あー、いや、似合うとは思ってたけど、まさかここまでとは...............すごく綺麗だぞ園部。ぶっちゃけ他の男に見せるのが勿体無いぐらいだ」

 

「〜〜〜〜〜ッッ!?///...........な、何言ってんのよ要っ!その言い方だとまるで私が、その..............(あんたの彼女みたいじゃない..........)」

 

「...............まるで、なんだ?」

 

「ッ、なんでもないわよっ! それよりあんた、私よりも先に褒めるべき相手がいるでしょ?」

 

「わかってるよ。元々そのつもりで俺はここで待ってるんだから」

 

 

 ヴィーネとの勝負後、突然現れた魔物達を一掃し、その死骸を〝フェニクス〟の炎で処理し終えたシン。彼は現在ショート丈の白い海パンと紺色一色のアロハシャツ(もどき)とビーチサンダルを着用し、首にバウキスを巻きつけた姿をしており、ロクサーヌが水着に着替え終えるのを更衣室の外で待っていた。

 

 シン、ロクサーヌ、レオニス、ヴィーネの四人が魔物の死骸を処理をしている間に愛子や園部達はすでに水着に着替え終え、園部を除いたメンバーが早速温泉に浸かっている。

 

 宮崎は緑色のハイネックタイプのビキニ、菅原は白とピンクのフリル付きトップのオフショルダービキニ、愛子は薄桃色のスカートが付いたワンピースタイプの水着、玉井は普通に黒い海パンをそれぞれ着用している。赤獅子姿に戻ったレオニスと、一瞬で水着姿になったヴィーネもすでに温泉に浸かっていた。玉井はレオニスが巨大な魔物の姿になったことに驚いていたが、愛子や宮崎、菅原の三人が普通にレオニスと接している姿を見たことでなんとか慣れたらしい。ただレオニスの赤獅子姿に驚いたのは玉井だけで無く、ヴィーネも同じだった。どうやらヴィーネは赤獅子について本当に何も知らなかったようだ。

 

 そして、シンが選んだ水着を着ている園部。

 

 彼女の黒いビキニ姿はなかなかにセクシーであった。

 

 トップの紐を首裏で結ぶホルターネックタイプのビキニで、腰にはボトムの紐が二つ巻き付いている。腰のくびれに巻き付いた紐と安産型のお尻に食い込むビキニを直す彼女の仕草がより一層セクシーさを演出している。そして程よく実った彼女の胸がビキニのトップに包み込まれ、谷間を強調していた。

 

 そんな彼女は水着に着替え終え、更衣室を出てすぐにシンと鉢合わせし、冒頭の会話に戻り、園部のスタイルが如何に優れているかを理解させられたシンは素直な感想を彼女に送ったのだ。

 

 すると更衣室から着替え終えたロクサーヌが姿を現した。

 

 

「お待たせしました、シン様」

 

「いや、全然待ってな–––––––」

 

 

 ロクサーヌが着替えた水着は白と紺、ツートンカラーのビキニ姿だった。

 

 はち切れそうな程に実ったお胸を包むビキニのトップは、左右の三角布が白と紺に色分けされ、胸の中心で結ばれた紐とチョーカーと一体化しているビキニの紐が、今にも弾け飛びそうな左右の巨峰を三角布の中に押し留めていた。ボトムは紺色の超ミニスカートと黒のハイレグパンツスタイル。腰上に伸びたハイレグパンツの細布が堪らなくセクシーで、布の質感を手で触って確かめたいぐらいだ。

 

 普段から布面積が少ない服を着用しているロクサーヌだがここまで際どいわけではない。彼女のミニスカ姿はとても珍しく、シンと水着のカラーを合わせているところもまたいじらしい。控えめに言って、今すぐ襲いたい気分になる。

 

 ということで。

 

 

「––––––––悪いが園部。話し合いは一時間、いや二時間後にしよう」

 

「いけませんよシン様、皆さんが待ってます。それに、外でするのはちょっと..........」

 

「あんたねぇ、こんなところで何やろうとしてんのよっ」

 

「(ペシペシ....!)」←バウキスの尻尾がシンの頬を叩く

 

 

 理性が軽く飛んだシンを注意する女性二人と雌一匹。ロクサーヌは指先でシンに鼻をツンツンと小突き、園部は腕組みをした姿で呆れた目を彼に向け、バウキスが尻尾の先で何度もシンの頬を軽く叩く。三者三様の態度でシンの言動を戒めようとする。

 

 残念そうにするシン。だがなんだかんだ言ってシンに甘いロクサーヌが「二人っきりの時に着てあげますから」と、こっそりシンに耳打ちしたことで彼は気持ちを切り替える事ができた。

 

 そしてシンは改めてロクサーヌに水着の感想を述べる。

 

 

「堪らなく魅力的だロクサーヌ。やっぱりお前は最高の女性だよ。一生そばにいてくれ」

 

「ふふ、ありがとうございます。シン様もすごくお似合いですよ。もちろん一生貴方のおそばに居ますから、いつまでも私のことを離さないでくださいね?」

 

「当然だ。他の奴にお前をくれてやるほど、俺は寛容じゃない」

 

「「.............ハハっ(ふふっ)」」

 

 

 至近距離でそんな事を言い合うシンとロクサーヌ。そんな二人を間近で見た園部は少しだけ胸の奥が痛むのを感じて視線を逸らし、逆にバウキスは二人を見続けている。いや、どちらかというとシンの横顔をずっと凝視していた。

 

 

「さて、みんなのところに行くとするか」

 

「はい」

 

 

 そしてシンとロクサーヌは温泉池の方に向かって歩き出し出す。だが園部は腕を組んだままその場から動こうとしない。

 

 園部が自分達に着いて来ていないことに気づいたシンは立ち止まり、園部の方に振り返り声を掛けた。

 

 

「どうした園部? 行かないのか?」

 

「ッ..........い、いくわよ!」

 

 

 我に返った園部はシンと並んで歩くロクサーヌの反対側に駆け寄った。そしてシンの少し斜め後ろの位置と距離を保ちながら愛子達が居る温泉池を目指して歩く。唐突に園部は振り子のように揺れているシンの手に視線を向けた。手を伸ばせばすぐに届く距離にある彼の手。その手を掴もうとする自分の手、だがそれをすぐに引っ込めた園部は、両手を腰の後ろで組んだ。これ以上余計な真似をしないために。

 

 程なくしてシンとロクサーヌ、園部の三人はレオニス達が浸かっている温泉池に到着した。

 

 

「両手に花ですね、進さん」

 

「揶揄うなって。それと玉井、あまり二人をジロジロ見るなよ? 視線がいやらしいぞ?」

 

「い、いやらしくなんてしてねぇッ! 人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよッ!」

 

 

 シンの言葉を聞いた玉井が強く否定した。だが実際先程からロクサーヌと園部の方をチラチラ見ていたので、若干声がドモりかけている。まあ玉井の反応も理解はできる。何せシンの隣に立っている二人は、控えめに言ってもとても魅力的であるのだから。ロクサーヌは笑って済ましているが、園部は玉井の様子に若干引き気味である。

 

 とまあ玉井を揶揄いながら、シンは着ていたシャツをバウキスの[異袋]に収納し、温泉の中に入り、体を湯水に沈めた。それに続いてロクサーヌと園部も足先から伝わる温泉の温かさに心地良さを感じながら、シンと同様に温泉に浸かる。ロクサーヌは兎も角、ちゃっかり園部もシンの隣に座っているが、その事にツッコむ者は誰もいない。

 

 そして三人は幸せそうに息を漏らし、体の芯から温まっていくのを実感していた。

 

 

「ふぅ〜〜...............さて、長話でのぼせたら締まりが悪いからな。さっさと話を済ませよう」

 

「要くん、先ずは王都を出たあと何が起きたのか。その〝真相〟を語ってあげてください」

 

「えっ? 真相って、要っちは盗賊に襲われたんじゃないの?」

 

「あの頃の俺は確かにまだ弱かったが、だからと言ってそこいらの盗賊にやられるほど柔じゃないぞ?」

 

「じゃあ要があの時、私達に話したのは嘘ってこと.............?」

 

 

 愛子が先ず事の発端から語って欲しいとシンに告げる。すると宮崎は愛子が口にした〝真相〟という単語に疑問符を浮かべた。そしてシンが口にした言葉に園部が反応を示す。

 

 

「別に全部が全部嘘ってわけじゃないが、まあ盗賊ではないのは確実だ」

 

「じゃあ一体、相手は誰なんだよ? もしかして魔人族なのか?」

 

「いいや違う。俺にこの傷を刻みつけ、ベイルさん、イヴァンさん、そしてカイルさんを殺したのはノイント、つまり〝真の神の使徒〟だ。まあ平たく言えば、この世界の人間族が崇め立てる存在、〝()()()()〟が俺を殺そうとしたってことさ」

 

「「「................は?(え?)」」」

 

 

 シンが口にした存在。それは玉井や宮崎、菅原にとってはあまりに予想外すぎる相手で、理解し難い事だった。

 

 それは園部も同じらしい。

 

 

「え、待って、どういう事よそれ.........? なんで..........なんで()()()()()()()()がわざわざ召喚した相手を殺すような真似するのよ!」

 

「落ち着け園部..............おそらくエヒトの奴は、俺が持ってる[特異点]って言う不確定要素を排除したかったんだろう。自分の遊戯盤が俺にひっくり返されると思ってな。––––––––––」

 

 

 そこからシンは、自分が見聞きしたこの世界の現状を全て園部達に語った。

 

 その結果、自分達がただエヒトの狂った遊戯に巻き込まれた存在である事を園部達は理解し暗い顔を浮かべる。

 

 だがシンの話はそこで終わりではない。

 

 今度は自分が何をするつもりなのかを語り始めたシン。

 

 自分が経験したことを掻い摘んで説明しつつ、この世界を神の手から解放するべく旅を続け、その果てで新たな国を作るとシンは口にした。途方も無い話だ。最初それを聞いた時、園部達は「そんなこと出来るわけない」と否定的な反応をした。だが彼の目は本気だった。本気で世界を変えるつもりらしく、その覚悟と情熱は本物であった。その誓いを立てた時に彼は〝七体の精霊(ジン)〟の力を手にし、〝王〟になると決意したらしい。その大望を叶えるためシンは旅を続け、ロクサーヌとレオニスは彼を支え抜くと誓い、のちに神を打倒するのだとこの場にいる全員に豪語した。

 

 そして神との戦いにクラスメイト達を巻き込まないために、彼は先生を含めたクラスメイト全員をカタルゴに避難させ、然るのちに元の世界に帰すと約束した。自分だけはこの世界に残ると補足して。

 

 それに異を唱えたのは園部だった。

 

 

「なんで要一人だけがこの世界に残るのよ!施設の子達はどうするの!」

 

「心配するな。エヒトとの戦いが終わって、ある程度こっちの世界が纏ったらチビ達を迎えに行くつもりだ」

 

「..............でもあんたはこの世界に残るんでしょ? 私達を元の世界に帰して」

 

「ああ。エヒトとの戦いがどれだけ長引くか分からない以上、お前達をこの世界に長く留まらせるのは得策じゃない。カタルゴ大陸もいつ戦場になるか分からないしな。それに俺の夢は戦いが終わってからが本番だ」

 

「つまりあんたは私達に〝戦ってる要を置いて元の世界で平和な日常を送れ〟って言いたいわけ?」

 

「...............そうだ」

 

「–––––––––ッッ!!」

 

 

 勢い良く園部が立ち上がった。水面が波打ち、ザバァッと飛沫が散る中、立ち上がった彼女の表情はとても険しく、明らかに怒っているのが見て取れる。

 

 

「なんであんたは自分一人で全部背負い込もうとするのよッ! 私達ってそんなに頼り無い? そりゃあ確かに要と比べたら戦う勇気も自信も力もないけど、それでも何か出来るはずよッ!」

 

「駄目だ。お前達は俺の夢とは何一つ()()()()。これは俺が、いや–––––––〝王〟である俺が進むと決めた道だ。そこにお前達を巻き込むわけにはいかない」

 

「何よ、王って...........ッ! 元々あんたは普通の高校生じゃん...............世界のためだとか、自分の夢を叶えるためとか、そんなの私にはわかんないけど.............要を!あんた自身を!危険な道に進ませないでよッ!!」

 

 

 園部の心からの願いがロクサーヌとレオニスの心に響いた。

 

 園部が今まで見てきた要進という男の子は、少し変わってはいたが普通の男子高校生だった。そんな彼を園部はずっと見てきた。夢見がちな乙女のように彼と叶えたいことを夢想し、素直になれず、それでも彼が自分に振り向いてくれる日を切望していたのだ。

 

 だがそれは叶わなかった。

 

 シンの隣にはすでにロクサーヌという自分よりも綺麗で、お淑やかで、可愛くて、スタイルが良くて、気立も良くて、彼の隣で戦える、頼もしいパートナーがいた。

 

 正直勝てる気がしなかったし、シンに告白をしてもフラれる気しかしなかった。故に諦めようとした。

  

 でも........それでもシンへの想いが捨て切れずにいた。それどころか日に日に彼を好きになり、終いには自分の気持ちを彼に悟られる始末。そしてシンやロクサーヌ、ヴィーネの言葉が彼女に淡い期待を抱かせた。もしかしたら、彼と一緒になれるんじゃないか、と。元の世界に居た頃、密かに夢想していた〝実家の洋食屋「ウィステリア」を彼と共に継ぐこと〟が出来るのではないか、と。

 

 だが、そんな淡い期待は呆気なく崩れ去った。そのうえ彼は平穏な日常ではなく過酷な戦場を選び、訳のわからない理屈を並べて、まるでそれが自分の運命だと言わんばかりに、たった一人でどこまでも突き進もうとする。

 

 それが園部には堪らなく許せなかった。そんな道を選んだシンも、その選択を良しとする周りも、それを止める事が出来ない弱い自分が、とても許せなかった。

 

 園部の険しい視線がシンを見下ろす。だが園部を見上げるシンの瞳は怖いぐらいに真っ直ぐである。

 

 その視線に園部がたじろいだ時、彼女は急に視界が眩み、立ち眩みを起こした。

 

 体がフラつき、園部が力無く倒れ落ちようとしている。そんな彼女を見て慌てる宮崎や菅原、愛子が園部の名を呼び、倒れ落ちる彼女を支えようと動く。だが三人がそれを為す前に、シンが園部を抱き止めた。

 

 

「頭に血が登ってのぼせたみたいだな.......... 一旦休憩を挟もう。構わないですよね、先生?」

 

「は、はい!」

 

「ヴィーネも構わないな?」

 

「ええ、何も問題ありません」

 

 

 そうして事情説明は一時休止となった。園部を横抱きに抱え上げたシンはすぐに温泉から上がり、ヴィーネが指輪から取り出した折り畳み式の簡易ベッド(ローコットみたいな物)に園部を寝かせた。園部の看病は愛子と宮崎、菅原がしてくれている。だがそんな彼女達や玉井も、シンがただ一人、この世界に残ることに納得していなかった。玉井なんかはシンに話しかけようとするが、先程聞かされた話の内容と、彼がどれほどの覚悟と大望を抱いて前に進もうとしているのかを知った今、声をかける事が出来なかった。

 

 そんな彼らを他所にシンは温泉池の水際に佇み、ぼんやりと温泉から立ち昇る湯気を眺めていた。バウキスが気を利かせ、体が冷えないようにとさっきまで着ていた紺色のアロハシャツ(もどき)を[異袋]から取り出し、シンの両肩に掛ける。

 

 そして[人化]したレオニスと、水が入ったコップ三つを手に持ったロクサーヌがシンに歩み寄り、ロクサーヌがシンとレオニスにコップを渡す。

 

 シンとレオニスは渡されたコップの中身を口に含み、飲み下した。程よく冷えた水が喉を潤し、胃の中に入った事で火照った体を内側からじんわりと冷ましてくれる。  

 

 そんな余韻に浸っているとロクサーヌがシンに言葉を掛けた。

 

 

「...............シン様、優花さんを娶りませんか?」

 

「ブフゥーーッ!? ケホッ! ケホッ!」

 

 

 ロクサーヌが口にした言葉が予想外過ぎて、シンは口に含んでいた水を一気に吹き出した。飲みかけていた水が気管に入り、数回咳をする。そんなシンの背中をさするロクサーヌ。レオニスは苦笑していた。

 

 そして濡れた口元を拭いながらシンは口を開く。

 

 

「い、いきなり何を言い出すんだロクサーヌ!?」

 

「いきなりというわけではありません。シン様も分かっていたではありませんか。 私が優花さんを〝側室〟に加えようとしていたのを」

 

「そりゃあ、まあ...............」

 

 

 ロクサーヌの言う通りシンは分かっていた。ロクサーヌが園部を焚き付け、側室に加えようとしていた事を。そりゃあトレイシーという前例があるのだから勘付きもする。昨日の昼頃など、ロクサーヌがまた妙な事をしているなと思い、レオニスに会話の内容を拾って貰ったら、案の定ロクサーヌは園部を焚き付けていた。それもなかなかにキツい言い方で。それには流石のシンもご立腹だったらしく、「やり過ぎだ」とロクサーヌのおでこを弾いた。

 

 下手に園部を煽り、彼女がムキになったりしたら、取り返しがつかない事が起きるかもしれない。それこそ、園部がマンティコアによって死にかけた時のように................。

 

 

「シン様が優花さん達を戦いから遠ざけたい気持ちは分かります。シン様はお優しい方ですから...............ですが私はこうも思います。“それは彼女達のためにならないのでは?”と」

 

「.................」

 

 

 ロクサーヌの言葉は尚も続く。

 

 

「それに優花さんの気持ちも少しは分かります。もし私が彼女と同じ立場なら、きっと私もシン様を止めるでしょうし................ですが私達はシン様の剣と盾です。貴方の背中を押す事や、障害を薙ぎ払い、守り抜く事はしても、止める気はさらさらありません。そうする事を私達が選んだのですから」

 

 

 その言葉にレオニスは静かに頷き、ロクサーヌの意見に同意した。

 

 ロクサーヌとレオニスは良くも悪くもシンがやろうとする事を全力でサポートする。助言はあっても、前に進もうとするシンの歩みを止める事はしない。何故なら二人は心底シンを信じているから。彼が止まらない事を、神を打倒する事を、いずれ必ず夢を叶え、数多の種族を束ねる〝覇王〟になる事を。シンの夢に乗っかった二人は彼を信じて突き進むのみなのだ。

 

 故にシンを止められない。そんな資格は無いと自負しているのだ。だからこそ、シンを止めようとする園部の言葉がロクサーヌとレオニスに響いた。

 

 そして二人は園部の言動を見聞きし、こう思った。

 

 “彼女なら〝王〟であるシンを戒め、〝人〟である要進に寄り添ってくれるのでは?”、と。

 

 ロクサーヌとて〝人〟であるシンに寄り添う事は出来る。しかしどこまで行ってもシンに甘いロクサーヌでは、〝王〟であるシンの行動を戒める事が出来ないかもしれない。それこそシンが道を踏み外しても、彼女は最後まで〝剣〟として、〝女〟として、シンの隣に立ち続ける。それこそがロクサーヌという女性なのだから。

 

 

「ですから、私達では止められない事でも、優花さんがきっと貴方を止めてくれる。〝人〟としてのシン様を見続けて来た彼女なら、貴方が道を踏み外す事を絶対に許さない。だからこそ私は、シン様に彼女を娶っていただきたいのです」

 

 

 ロクサーヌの眼差しは真剣そのものだった。彼女は本気でシンに園部を娶るように進言して来たのだ。

 

 他の誰でもない、シンのために。

 

 この先シンが〝人の王〟として歩み続けられるために。

 

 

「本気なのか?」

 

「ええ、本気です...............それにシン様も優花さんのことを悪くは思ってないんじゃないですか?」

 

「ぅっ..............そりゃあ確かに園部の気持ちは嬉しいし、魅力的な子だと思う」

 

「...............それだけですか?」

 

 

 ロクサーヌの圧が凄い。「他には無いのですか? ん?」とシンを問い詰めるような圧迫感がロクサーヌの瞳に宿っていた。

 

 

「...............ぶっちゃけて言えば他の男に取られたくないぐらいには」

 

「それはもう好きと言ってるも同然だぞ?」

 

 

 割とガチめに園部に気があるシンの物言いにレオニスがツッコんだ。だがロクサーヌは満足気なご様子。

 

 

「けど、だからと言って俺は園部を自分のものにしようとは思わない。あいつの幸せを奪いたくないし、何より俺達の戦いに巻き込みたくない...............あいつの夢は実家の洋食屋を継ぐことなんだよ。それを俺の我儘で台無しにすることなんて以ての外だ」

 

「では、今の言葉を今晩優花さんに伝えるつもりなんですね?」

 

「そのつもりだ。だが俺の好意については語るつもりは無い」

 

 

 シンの言葉を聞いたロクサーヌが盛大な溜息を吐いた。

 

 

「はぁ〜〜〜..........()()()()、貴方の優花さんに対するこれまでの言動を思い返してください。それでは優花さんがあんまりです。釣った魚に餌をあげないなんて酷過ぎます」

 

「うぐッ...............」

 

 

 “さん付け”に戻っている辺り、ロクサーヌの呆れ具合はなかなかのものらしい。そしてロクサーヌに言われ、シンはこれまでの言動を思い返し、苦悶の声を漏らした。

 

 園部の気持ちを知って以降、何度も自分の言動を振り返っていたシンは簡単に思い返せた。無自覚だったとは言え、これまで何度も園部をその気にさせるような言動を取っていたシン。さらに園部の気持ちを知って以降もそれは多々あり、水着の感想を述べた際にも、ちゃっかりシンは本心が漏らしていた。

 

 もはやシンに反論の余地は無かった。

 

 

「いいですかシン様。貴方は〝王〟なのですよ? 理性的なのは大変結構ですが、我儘を貫き通さなくてどうするのです? 貴方は()()()()()のではないのですか?」

 

「ッ!?」

 

「この際 正妻や側室云々は置いておきますが..........想いが通じ、誰もパートナーが居ないのなら、貴方は我儘になって良いのです。––––––––〝我儘〟であるが故に、〝強欲〟であるからこそ、シン様の偉業は成されるのです」

 

「...............お前はそれでいいのか?」

 

「元々私一人がシン様の全てを独占出来ると思っていません。実際、夜のシン様は私一人では手に負えませんから..............

 

「............?」

 

「........................」

 

 

 ロクサーヌはそう口にした。最後の方はシンの耳に届かなかったが、レオニスはバッチリ聞こえていた。だが敢えて聞かなかった事にした。そしてレオニスは内心で「ロクサーヌも苦労しているんだなぁ..........」と呟き、感慨深そうにしていた。

 

 

「とにかく! 私としては優花さんは大歓迎ですし、シン様は優花さんが望むのであれば潔く娶るのが筋なのです!................それにシン様ならきっと優花さんの夢も叶えることが出来ます。貴方の〝力〟と〝欲深さ〟は勝利を掴み取るだけで無く、自身とその周りの〝幸せ〟だって掴めるモノなのですから。答えが一つだとは限りません」

 

「––––––––––ッ!!」

 

 

 ロクサーヌの言葉を聞き、シンは自分が如何に視野が狭かったのかを認識した。

 

 

(ロクサーヌの言う通りだな。何も手を尽くしていない内に手放すなんて俺らしくもない............。 そうだよ、 俺は〝強欲〟な男だった。 俺の力は、俺が望む未来を掴むための物。 そしてそれは俺自身の生き方だ! 望んだ結果を思うままに掴む事こそ、俺の本領。 神を倒す事も、国を創る事も、根っこの部分は何も変わらない! そうさ、俺は–––––––––––〝()()()()()()()()()()()()()()()()〟)

 

 

 彼の中で何かが吹っ切れた。

 

 自分という人間の本質を再認識し、シンは片腕を目の前で握り込む。

 

 

「ロクサーヌ、レオニス。 どうやらお前達の〝王〟はとんでもなく〝強欲な人間〟らしいぞ?」

 

「フッ、今更だな」

 

「ですね」

 

 

 シンの言葉を聞いた二人はえらくご機嫌な様子で短く答えた。

 

 するとそんな三人の元にヴィーネが歩いて来た。

 

 

「話は終わりましたか? 園部さんの体調も良くなりましたし、そろそろ私の方からも事情を説明したいのですが?」

 

「ああ、待たせて悪かった。話を再開しよう」

 

 

 ヴィーネの言葉に頷いたシン。見たところ他のメンバーはすでにヴィーネが用意していた円卓の席に着いていた。全員水着姿のままだが予めシンとロクサーヌが用意していたアロハシャツ(もどき)を羽織っている。園部も同様に上着を羽織った姿で席に着いている。少し顔色が悪そうだが話を聞く気で居るらしい。そんな彼女に視線を送っていたシン。それに気付いた園部はバツが悪そうに目線を下げた。

 

 そんな彼女を見たレオニスとロクサーヌがシンに言葉を掛ける。

 

 

「自分で蒔いた種はしっかりと自分で摘み取らないとな」

 

「そうですね。ここからはシン様が自分の想いを伝える番です」

 

「ああ、分かってる。ロクサーヌ、俺はもう遠慮はしないぞ?」

 

「はい。シン様が望むままに................ですが、私のこともちゃんと可愛がってくださいよ?」

 

「当たり前だ。俺は〝強欲な男〟だからな。掴んだモノは絶対に離せない」

 

 

 そう言ってシンは、バウキスの[異袋]から自分が着ている紺色のアロハシャツ(もどき)と同じ物を取り出し、それをロクサーヌに羽織らせた。

 

 そして愛子や園部達が座っている円卓の席に到着したシン達。ロクサーヌとレオニスは早々に席に着いたが、シンはまだ立っている。

 

 するとシンは園部の横に座っている菅原に声を掛けた。

 

 

「悪いが菅原、一つ席をズレてくれないか?」

 

「え? う、うん..........」

 

 

 シンに言われるまま菅原は園部の方に寄って席をズラした。だが––––––––

 

 

「あー、言葉不足だったな。俺が()()()()に座れるようにズレて欲しいんだ」

 

「「「ッ!?」」」

 

 

–––––––––園部、宮崎、菅原はシンの言葉に耳を疑い、目を見開いた。

 

 だが菅原の行動は早く、すぐさま椅子をズラし、園部と人ひとり分の間隔を空けて、場所を移った。

 

 そこに自分が座る用の椅子を置き、シンは園部の隣に陣取った。

 

 現在の並び順は、ヴィーネ→愛子→玉井→宮崎→園部→シン→菅原→ロクサーヌ→レオニス→再びヴィーネである。

 

 そしてシンが隣に来たことに対し、何がなんだか分からないと言った様子の園部はシンを見ないように宮崎の方に顔を逸らし、椅子をシンから少しでも遠ざけようとした。

 

 だが椅子が全く動かない。綺麗な石の塊である椅子だが、園部でも簡単に動かせる程軽いはずの椅子がビクともしない。それどころか徐々にシンの方に引き寄せられている。

 

 

(ちょっ、要の奴、魔法使ってるッ!?)

 

 

 大当たり。自分から離れようとする園部を見兼ねて、シンが[力魔法]で逆に自分側に引き寄せていたのだ。

 

 最終的にシンと園部の距離は二十センチぐらいまで縮まり、横を向けばお互いの顔がすぐ目の前である。

 

 園部は戸惑いながら、他の者に聞こえないよう小声でシンに話しかけた。

 

 

(ちょっと要っ! 何してんのよ! 魔法まで使って!)

 

(お前が俺から距離を取ろうとするからだろ? だからこうしてズラそうとした分こっちに寄せたんだよ」

 

(だったら元の位置に戻して––––––––てぇッ!?!?)

 

 

 「戻してよっ!」と口にし終える前に、シンの右手が園部の左手を掴んだ。驚きのあまり思わず声が裏返りにそうになる園部。

 

 太腿の上に乗せていた園部の左手。そこに覆い被さったシンの掌はとても大きく、温泉に入る前に園部が一度は掴もうとし諦めたはずの彼の手が、逆に彼女の手を握って来た。

 

 半パニック状態の園部。

 

 先程までシンに対して苛立ちと気まずさを覚えていたのに、それが一瞬で羞恥心で塗り替えられた。頬は朱色に染まり、それを自覚した園部が周りの悟られないよう俯く。

 

 そして園部は俯いたまま少しだけ顔をシンの方に傾け、シンの表情を伺うように視線を動かした。

 

 するとシンが先程と同様の小さな声で園部に話しかける。

 

 

(さっきは悪かったな園部。お前の想いを蔑ろにするようなこと言って)

 

(そんなこと今はいいからっ! 先ずはこの手について教えなさいよっ!)

 

(分からないか? ならハッキリ答えてやる––––––––)

 

 

 そう言ってシンは園部の方に体を少し傾け、彼女の耳元で囁いた。

 

 

(–––––––〝お前を離さないってことだ〟)

 

(なッ!?...........〜〜〜〜〜〜ッッ!?!?///)

 

 

 甘い雰囲気を纏ったシンの低い声が園部の鼓膜に届く。それだけで園部の顔が茹で上がり益々赤みを帯びていく。そして彼が放った言葉の意味が理解できず、彼女は目をぐるぐる回していた。

 

 状況に思考が追いつかず、園部は「なんで?」「どうして?」と頭の中で自問自答を繰り返す。しかし一向に答えは見つからない。

 

 だが一つだけハッキリと分かることがある。

 

 それはシンが本気だという事。本気で園部優花(自分)を口説き落とそうとする意思が、握られた手の圧と、彼の力強い瞳と、囁かれた言葉の中に込められていた。そこに天然な要素なんて欠片も無く、意図的にシンがそうしている事を園部はハッキリと理解させられた。

 

 今日はずっと彼の言動で心を揺り動かされてばかりだ。まるでジェットコースターに乗っている気分で、心の浮き沈みが忙しなく激しい。

 

 すると愛子が、先程から俯いたままの園部を心配して声を掛けた。

 

 

「園部さん体調が優れませんか? 無理はしない方が良いですよ?」

 

「だ、大丈夫ですっ! ほんと、平気ですから」

 

「でも.............」

 

「心配いりませんよ先生。俺がしっかり見ときますんで、いざとなれば俺の魔法で園部を回復させます」

 

「そ、そうですか? では要くんにお願いします」

 

「はい。––––––––じゃあ、話を再開しよう」

 

 

 シンがそう切り出すと、再び事情説明が始まった。シンはクラスメイト達全員をどこに避難させるか、またその場所の詳細を語り、次に自分達がどこに向かうのかなどを補足した。

 

 そしてシンの説明の後、次はヴィーネが口を開き、彼女は人面の魔物〝マンティコア〟について語った。やはりシンの予想通り〝マンティコア〟の正体は()()()()であった。どうやら〝マンティコア〟は殺した相手の肉体に自身の細胞を植え付け、体を乗っ取り、増殖していくらしい。死にかけた園部が助かったのは細胞を植え付けられる前だったため。それを聞いた園部は顔を真っ青にしていたが、その間もシンに手を握られていた事で、押し寄せる恐怖と不安に抵抗する事が出来た。そしてシンに手を握られている事を改めて自覚し、再度顔を赤くする。

 

 今日の彼女の心は忙しなく揺れ動いていた。

 

 その原因は全てシンである。

 

 そんな彼の掌は今も園部の手を包み隠し、一向に彼女の手を離す様子は無い。

 

 結局、話し合いが終わるまでシンの手は園部から離れる事は無かった。

 

 




というわけで今回は水着お披露目回と事情説明パートと遠慮しなくなったシンでした。当初はシンに言い寄る園部を検討していましたが、それは絶対に無いなと思い、シンが園部を口説き落とす方向になりました。というかシンドバッドなら絶対にそっちだと思いましたから...............。天然無自覚と自己意志が混ぜ合わさったハイブリッド女誑し、それがシンです。彼は今後、己が欲したモノにはどこまでも欲深くなるでしょう。それを制御する相手として園部は最適だと思いましたので、そういう立ち位置にしました。



補足


「ロクサーヌの水着」
(イメージは〝白銀ノエル〟の水着姿です。)

「園部の水着」
(〝ありふれた学園で世界最強〟に登場する園部の水着姿を参考にしたものです)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。