ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

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後日談 中編 下

 

 シンとヴィーネによって新たに開示された情報。

 

 それを頭にインプットさせた愛子や園部達だったが、情報過多によって彼女達は皆一様に頭をパンクさせた。

 

 まあ無理からな事だ。

 

 一度休憩を挟んだとは言え、シンが所有する精霊(ジン)についての事や神エヒトの事、シンが経験したノイント戦や氷雪洞窟内での出来事、さらにシンが国造りを志す理由や覚悟、カタルゴ大陸で暮らす赤獅子や魔人族、そして敵対勢力である魔王軍とマンティコアの存在などなど.............。

 

 これだけの事を一度に全て話されたら、そりゃあ思考が追いつかなくなるのも頷ける。愛子も事前に聞かされていたモノより圧倒的に濃密な情報を付加された事で、目をぐるぐる回していた。

 

 一応必要な事は大体話し終えたので、事情説明は終了となり、遅めの昼食を摂った彼女達は温泉池で遊んでいる。愛子はロクサーヌとヴィーネでゆっくり温泉に浸かり、玉井、宮崎、菅原はレオニスと戯れていた。  

 

 その傍らで園部はシンと並んで水際に座り、足だけを温泉に浸からせている。他のメンバーと少し離れた所でリフレッシュをしている彼女達を遠巻きに眺めているシンと園部。

 

 何故二人は並んで座っているのか?

 

 それは事情説明を終えた後の事である。話が終わり、早々にシンの手を振り解き、その場を離れようとした園部。だがそんな彼女にシンは「話がしたい」と言い、その手を離さなかった。

 

 そして二人は現在、自分達以外の者と離れた所を陣取り、話をするために腰を下ろしていた。

 

 すると開口一番、園部は最初の疑問をシンに投げ掛けた。

 

 

「なんで.............なんであんた、さっき私の手を握ったの? それにあの言葉...............」

 

「言っただろ?〝お前を離さない〟って。言葉通りの意味だ」

 

「違う..........違うわよっ! 私が聞きたいのはそういう話じゃないっ! あんたは私のこと、どう思ってるのかって話よっ! 私達を遠ざけようとしたり、今度は離さないなんて言って...............っ! あんたの言動はめちゃくちゃよっ! 要は私の気持ちを知ってるんでしょっ! ならこれ以上私の心を掻き乱さないでよッ!もう、私に〝期待〟させないでよ...............」

 

 

 感情のままに言葉を捲し立てた園部。だが最後の言葉は悲しく消え入りそうな程覇気が無かった。

 

 園部の言い分はもっともだ。シンとてその自覚はある。一度は〝大切〟だからと遠ざけようとした。しかし自分が如何に〝強欲な男〟であるかを再認識した今、その選択は自分の本心では無いと思い改めた。だがそんな事は園部には関係無い。シンが自分やそれ以外に頼ろうとしない時点で、彼女の恋心は砕かれたも同然だった。だと言うのに、話し合いが再開した途端、シンの態度が急変した。無自覚な振る舞いが意図した行為へと変わったのだ。

  

 まるで〝園部優花は自分の女である〟と主張するかのように...............。

 

 もう園部には訳が分からなかった。シンの想いも、自分の気持ちも、彼は何がしたくて自分はどうなりたいのかさえも。

 

 そんな園部の激情を目の当たりにしたシンは、真剣な面持ちで彼女に深々と頭を下げた。

 

 

「園部、俺の不甲斐ない態度でお前に辛い思いをさせてしまった事、心から深く反省している。〝大切〟だと思うあまり、お前の意思を蔑ろにしてしまった...............本当にすまない。–––––––––その上で言わせてくれ。俺は、お前が好きだ。 園部優花という女性が心底欲しい」

 

「––––––––ッ!?」

 

「今更何言ってんだっていうのも分かる。お前から見れば俺が最低な事をしてるっていうのも知っている。だがな、俺っていう人間は結局のところ、何処(どこ)まで行っても〝強欲な男〟なんだ。そこに〝王〟の自覚とか責任なんかは関係無い。一個の雄として俺はお前が欲しい! お前の夢も幸せも全て俺が掴んでみせる!––––––––––だから園部、俺の〝妻〟になってくれ。こんなどうしようもないほど欲深い俺を、お前の手で繋ぎ止めて欲しい」

 

 

 シンは自分の想いを全てぶつけた。

 

 恥も外聞も捨てて、欲深い己を(さら)け出したシンの瞳はどこまでも真っ直ぐだった。

 

 その瞳に見つめられた園部は彼の瞳に吸い寄せられるような感覚を覚える。怖いぐらい力強いシンの瞳、そこには絶対の自信と何者にも臆さない強い信念と気迫が宿していた。

 

 思わず魅入ってしまいそうになるシンの瞳。その瞳に見つめられれば大抵の者は屈するだろう。

 

 だが園部は違った。目力には目力で対抗し、シンを強く睨み付ける。

 

 

「本気で言ってるの? ロクサーヌさんが居ながら私まで手に入れようとするなんて..........それであんたは本当にロクサーヌさんや私を幸せに出来るって、本気で思ってるの?」

 

「ああ! 俺の〝力〟は、俺が望む〝未来〟を掴むための物。そして俺という〝強欲な人間〟はお前達の幸せな未来すらも欲しいと思ってる。––––––––それに、惚れた女の一人や二人、幸せに出来無い様じゃ〝王〟になる事も、神を打倒する事だって出来やしない..............そう思わないか?」

 

「........................」

 

 

 シンの問いに園部は答えず、ただじっと彼の瞳を見つめ続けている。その瞳に一欠片の曇りも無いことを確認する為に。

 

 彼は本気であった。いや、本気というのも生ぬるい。絶対の自信を持って、園部の言葉に答えていた。

 

 彼にとって〝王〟になる事や〝神を打倒〟する事が確定事項である様に、園部とロクサーヌ、二人の女性を幸せにする事もまた確定事項であったのだ。“そうでなければ自分じゃ無い”と彼はそう言い切った。

 

 何故そこまで言い切れるのかは園部には分からない。彼女は〝特異点(特別な力)〟を持っていないから。

 

 だが、惚れた相手にここまで言われて靡かないほど園部のシンへの想いは軽くは無い。

 

 そして園部はありきたりな質問をシンに問い掛けた。

 

 

「要は...............私のどこが好きなの? 自分で言うのもあれだけど、私、すごくめんどくさい女よ?」

 

「ははっ、それは知ってる」

 

 

 笑いながらそう述べたシンの横腹を園部が指先で強めに(つね)った。「いてて.......」と大して痛くも無い筈のシンがそんな声を漏らし、摘むところがあまり無かった彼の横腹に園部が自分と比べて少し落ち込みかける。

 

 そしてシンは真剣さと爽やかさが混じった清々しい表情で言葉を綴った。

 

 

「けど、その面倒くさいところが俺は好きだ。素直になれない所とか、少し目付きがキツイ所とか、意地張って頑固な所とか、ギャルっぽいのに根は真面目で優しい所とか、そういう所を全部引っ(くる)めて、〝園部優花〟っていう一人の女子に俺は惚れた。手放したくないと心底思ってる」

 

「〜〜〜〜〜ッ! へ、へぇ、そうなんだ.........///」

 

「なんだ? 自分で訊いといて照れてんのか?」

 

「べ、別に照れてなんかっ!...............ごめん、今の無し。 正直に言えば、すっごく恥ずかしい............///」

 

 

 珍しく園部が正直な気持ちを答えた。

 

 その顔はいつの間にか真っ赤に染まっており、鋭い目付きの視線も少し逸らされている。さらに口元を手の甲で隠し、嬉しさやら恥ずかしさやらで緩みそうな口角を押さえていた。

 

 

「あっ、あともう一つ。今みたいに恥じらう姿が凄く可愛い所とかだな!」

 

「可愛いって言うなしっ!」

 

「ははっ!...............園部、俺は自分の意思を示した。お前の答えを聞かせてくれ」

 

「〜〜〜〜〜〜ッ...............言わなくても、あんたなら分かるでしょ?」

 

「俺は鈍い男だからな。言ってくれなきゃ分からない事もある」

 

 

 シンはそう言いながら、腰を下ろした場所に手を着いている園部の片手に自身の手を重ねた。そして穏やかな表情で彼女の顔を覗き込む。  

 

 まるで二人が居る空間が数秒静止した様に、長い沈黙が続く。

 

 そして意を決した園部が口を数回パクつかせた後、シンにのみ聞こえるか細い声で返事した。

 

 

「私も、あんたが好き。ロクサーヌさんが居ても、やっぱり好き..............だから、私のことも、ちゃんとあんたが幸せにしなさいよ? じゃないと承知しないんだから」

 

「ああ、任せろ」

 

 

 シンの手が重なっていた彼女の柔らかい手を解きほぐし、ゆっくりと指を絡めた。それに応える様に園部は指先にほんの少しだけ力を加える。掴んだモノを離さないように.......。

 

 そして、シンの顔が徐々に園部の顔に近付いていく。

 

 彼の意図に気付いた園部が「ま、待って.......」とシンにタイムをかける。

 

 

「どうした?」

 

「ここでするの? その、みんなの目もあるし..........」

 

「心配するな園部。此処ら一帯は俺の[認識阻害]が付与された空間で、すでに俺達の事は認識出来ない様にしてある。姿と会話も、誰一人認識していない」

 

「ほんと便利な魔法ね...........」

 

「だろ? それで園..........()()は俺とするの、嫌か?」

 

「〜〜〜〜〜ッ! い、嫌じゃ、ないわよ............し、()()..........///」

 

「そうか。なら遠慮なく.........ちゅ」

 

「んんっ!.........ん.....///」

 

 

 シンは自分の唇を〝優花〟の唇へと重ねた。それに一瞬驚きつつも、すぐに彼を受け入れた優花が瞳を閉じる。

 

 優しく触れる程度の軽い口付け。数秒間二人はそのままの姿勢を保ち、お互いに自身の唇に触れたモノの温かさと柔らかさを感じ取った。

 

 そして重なっていた唇が離れると、二人は至近距離で相手を見つめる。優花は軽く閉じていた瞼を開き、口を開いた。

 

 

「..............ムードもへったくれも無いわね」

 

「そう言えば意外とロマンチストだったな、優花は」

 

「なによ、悪い?」

 

「いいや。そういう所も可愛いと思う」

 

 

 目と鼻の先でシンがそう囁くと、恥ずかしそうに小さく身悶えた優花。

 

 彼女は赤くなっている顔を少し俯かせ、シンの指と絡まっている手と反対側に位置する左手で彼のシャツをしおらしく掴んだ。

 

 

「か、可愛いと思うなら..........態度で示しなさいよ」

 

「ムードは良いのか?」

 

「う、うるさないわねぇ...........どうするのよ............?」

 

「そんなの決まってるだろ?」   

 

 

 そして再びシンと優花は唇を重ねた。

 

 シャツ越しにシンの胸元に手を添える優花と、彼女の手と繋がった逆の手で優花の肩を抱き寄せるシン。そしてシンはちょっとしたサービスのつもりで[魔力放射]を放ち、二人は虹霓の光に包まれる。

 

 心が満たされていく優花。

 

 漸く彼女はその想いを成就させ、幸せな未来への第一歩を踏み出したのだった...............。

 

 

 その後、シンは優花と手を繋ぎながらこの場に居る全員に事の結果を報告した。その際優花は恥ずかしそうに顔を赤くし、自身と繋がっているシンの腕を抱き寄せていた。

 

 報告を聞き、二人に祝福の言葉を送るロクサーヌ、レオニス、ヴィーネ。親友の想いが成就した事を、涙を流しながら喜ぶ宮崎と菅原。こうなる事をなんとなく予想していた玉井も一応祝福の言葉を優花に送る。だがハーレム野郎になったシンには嫉妬の眼差しを送りつけた。

 

 だが愛子は納得が行っていない様子で「二股なんて許しませんッ!」と断固抗議の姿勢を見せる。それに対してシンは「宜しい。ならば戦争(クリーク)だ」と説き伏せる気満々で真っ向から愛子の言い分に立ち向かった。

 

 結果、愛子は敗北した。

 

 何処からそんな自信が来るのかと思えるシンの言動、ロクサーヌの援護射撃、ヴィーネの後方支援、レオニスの鉄壁。さらに「生徒の気持ちを蔑ろにするんですかっ!」と言う宮崎と菅原の一撃が愛子のハートを撃ち抜いた。多勢に無勢とはまさにこの事。愛子の完全敗北は必然だった。

 

 その後、優花とロクサーヌは話をし、立場の整理や自分達が今後どうシンを支えていくかなどを事細かく擦り合わせていった。優花は〝(シン)〟の第二婦人という扱いに収まり、共に愛する男を支えるとロクサーヌと誓い合う。

 

 するとロクサーヌがまたしても優花にこっそり耳打ちし何かを吹き込んでいた。レオニスが声を拾えない距離で、シンに唇の動きを読まれてない様に。すると優花が頭から煙を出すぐらいに顔を真っ赤にし「流石にそれはっ!」と強く反応を示した。だがロクサーヌの耳打ちを最後まで聞いた優花は、最後に「............わかったわ」と小さく呟いて頷く。一体何が分かったと言うのか...........。

 

 

..........................................。

 

 

 日が暮れ始めた頃、シン達一行は帰り支度を整え村への帰路に着いた。その帰り道、シンの右隣にはロクサーヌ、左隣には優花が並んで歩いており、まるで旅行帰りの夫婦のように今日の出来事を振り返って楽しそうに笑みを浮かべていた。

 

 しかし、まだ今日のイベントは残っていたらしい。

 

 村に到着したシン達一行を出迎えたのは二日近く寝込んでいたはずのアレックスだった。

 

 

「復活ッ! 我輩復活であ〜るッ!」

 

 

 まるで某格闘漫画に登場する中国拳法の使い手さんみたく高らかに宣言しながら現れたアレックス。  

 

 復活早々元気いっぱいの彼は、騒動解決を祝った宴会を今晩開くと伝え、そこにシン達を招きたいと告げた。

 

 その招待を快く受け入れたシン達。

 

 宴会、つまり()()()

 

 そこにシンが参加するとなれば––––––––––

 

 

............................

 

..........................................

 

........................................................

 

 

 

「–––––––––優花〜、愛してるぜぇ」

 

「きゃっ! ちょっ、どこ触ってんのよ、シンっ!ほら、水飲みなさいって!」

 

「シン様、優花さんばかりに構ってしまわれますと私が寂しくなります」

 

「おいおいロクサーヌぅ。俺がこんなにもお前を抱き寄せてるのに、これでも構って無いって言うのか? ん?」

 

「シン様、耳元で囁くのはずるいです..........///」

 

「あーもぉっ! あんた達、人前でイチャイチャし過ぎてなのよぉっ!」

   

 

 木製の長椅子に腰掛け、両脇に美女美少女を侍らせているシン。案の定、彼は村の酒を飲んですっかり出来上がっていた。と言っても以前程悪い酔い方はしておらず、すこぶる気分が良いぐらいのもの。優花がシンの飲酒量を抑えていたおかげだ。だが気分が良いシンは優花とロクサーヌの腰を掴み、自分の方へと抱き寄せている。そんな彼に甘えるロクサーヌと、なんだかんだ言いながらもシンにベッタリくっつき、甲斐甲斐しく世話を焼く優花。

 

 宴会が始まる前、愛子は「学生の君達は絶対にお酒を飲んではいけませんからね!」とシン達に注意を促していた。しかしそんな彼女は生徒達に見栄を張り、自分がいかに大人であるかを主張しようとした結果、アルコール度数の高いお酒を飲んでしまいすぐにダウン。これぞ正しく反面教師である。なんでも愛子が飲んだ物はアンカジ公国で作られた火酒で、村の男達はよくその火酒を使ってチキンレースをしていたらしい。

 

 そして止める者が居なくなった事でシンは遠慮無くカルローワインを飲み..............今に至るわけだ。

 

 宴会が始まって早くも二時間。すでに空は暗色に染まっている。しかし宴会の会場である噴水広場は昼間の様に明るく活気立っていた。

 

 村で採れた野菜や果物、さらに牛、豚、鳥の様々な肉を使った料理が空樽とテーブルに置かれており、カルロー村自慢のワインが樽ごと用意されている。それらをこの場に集まっている村人や愛ちゃん護衛隊メンバー、そしてシン達全員が思い思いに飲み食いし、笑顔が絶えない空間を作り上げていた。

 

 立って食事やお酒を楽しむ者も居れば、地面に敷いた敷物の上に座り飲み食いする一団、そしてシン達の様に木製の椅子とテーブルで酒盛りをする者も居る。

 

 そんな中でもこの場で一際盛り上がっている集団がいた。

 

 

「四体のサンドワームに成す術が無い状況!誰もが絶望しかけたその時ッ! 青い稲妻が迸ったッ! 鮮やかな剣の閃きが巨大な魔物を絶命させる!『一体何がッ!?』その場に居た誰もが目の前の光景を信じられずに居た。だがそんな男達の前に現れたのは我々もよく知っている狼人族の女性ッ!〝()()()()〟ことロクサーヌさんだったッ!」

 

「「「「おおおおおおおーーーッ!!!!」」」」

 

 

 カルロー事変で活躍したロクサーヌの勇姿を空樽の上に立ちながら語り聞かせる村の男がいた。

 

 そんな彼の周りには村の男達が集まり大盛り上がりっている。ロクサーヌの株がどんどん上がっていく。いつの間にかロクサーヌを讃える別称が〝青き雷獣〟となっており、それはすでに住人達の間では周知のことの様だ。

 

 一方、ロクサーヌの勇姿に盛り上がりを見せる一団とは別で、違う形で盛り上がっている集団がいた。

 

 

「やべぇっ! 三人同時に相手して、あっさり勝ちやがったっ!」

 

「スッゲェ〜!これでレオニスさん、腕相撲勝負で十九連勝目だ!」

 

「馬鹿野郎! さっきの三人も加えたら二十一人抜きだっつうの!」

 

「「「きゃーーっ!レオニスさんかっこいいィ!」」」

 

「くぅ〜〜! さすがレオニスさん! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ、そこにシビれる! あこがれるゥ!」

 

 

 空樽に肘を置き腕相撲をしていたレオニス。そんな彼の周りには村の男女達が集まり、レオニスの連勝記録を見届けていた。彼の強さに羨望の眼差しを送る男達と黄色い声をあげる女達。そして片腕でワインを樽のまま飲み下すレオニス。どうやらカルロー村のワインは彼の口に合ったらしく、レオニスは実に楽しそうに酔っていた。

 

 そんな光景を眺めていたシンが慈愛深く微笑んだ。

 

 

「良い村に来れたな」

 

「ええ、そうですね」

 

 

 感慨深そうに優しくシンに微笑み返したロクサーヌ。彼女は頭を傾け、シンの肩に寄り掛かる。そんなロクサーヌの頭を優しく撫でるシン。それを横目で見た優花がちょっとした対抗意識を燃やし、ロクサーヌと同じ様にシンの肩に頭を預けた。それを見たシンは優花の頭も撫でる。

 

 シンの優しい手付きに心地良さを覚える二人。

 

 そんな光景を間近で見ていた宮崎と菅原は「はわ〜、優花(っち)がデレてる〜」とニヤニヤし、玉井は「要の奴、完全に園部を落としてやがる...........!」と戦慄していた。

 

 するとアレックスがシンの元にやって来た。その両手に酒が注がれた銀のワインカップと銀の水差しを持って。

 

 

「楽しんでおられますかな?」

 

「ええ。お酒や食事、そしてこの光景にも楽しませてもらってます」

 

「ヌハハッ、それは何よりです! ささ、シン殿」

 

 

 シンの言葉を聞き心底嬉しそうに笑って見せたアレックスが手に持っている水差しでシンのワインカップに酒を注ぎ、それをシンは快く受け入れる。

 

 

「シン殿、それから皆様方とこの場にいないレオニス殿にも、今回村が救われたのは皆様のおかげです。この村の村長として心から感謝致します。皆様のお力あってこそ、この村は救われました」

 

 

 アレックスがシン、ロクサーヌ、優花、それから宮崎、菅原、玉井、そして寝ている愛子に視線を回し、頭を下げた。

  

 感謝と謝罪の言葉を述べるアレックス。シンやロクサーヌ、レオニスの様に活躍した訳でもない優花、宮崎、菅原、玉井が困り顔になる。

 

 するとシンが口を開いた。

 

 

「礼には及びませんよ、アレックス殿。俺達は俺達が出来る事をやったまでです。我々も皆さんと同様に、この村が好きですから」

 

「シン殿..............」

 

「それに住人に被害が無かったとは言え、村の全てが無事だったわけではありせん。明日も作業が残ってます。なので今はこの村を守り抜けた事を祝い、〝明日〟に向かいましょう。しみったれた顔はこの村に似合いませんよ?」

 

「............ヌッハハっ! 確かにシン殿の言う通りですな!–––––––––この御恩は決して忘れませぬ。困った事があればいつでも我々を頼ってください。必ずお力になって見せましょう!」

 

「ええ、その時は是非」

 

 

 二つのワインカップが軽く打ち付けられ、それに見合う軽やかな音を奏でる。シンとアレックスは握手の代わりに、この祝いの場に似合うやり方で育んだ縁を確かめ合った。

 

 そしてアレックスはシン達一同に軽く会釈し、その場を離れて行った。次に彼が向かう先に居るのは腕相撲で現在二十一連勝目のレオニス。どうやらお礼がてら、彼と腕相撲で一戦交えるつもりらしい。その証拠に上着を脱ぎ捨てている。   

 

 そんなアレックスを見届けた後、シン達も村の人達と同様に楽しい時間を過ごしていた。

 

 玉井はレオニスとアレックスの腕相撲を観戦しに行き、目を覚ました愛子が口元を押さえて気持ち悪そうにし、そんな愛子を介抱する宮崎と菅原。

 

 一方、お酒を一滴も飲んでいない優花は頬を赤く染めて、シンのワインカップをじっと見つめていた。

 

 すると彼女は意を決した様にシンのワインカップに入っているお酒をグイッと一気に飲み干した。

 

 

「お、おいおい優花、それ俺の..........」

 

「ロクサーヌ! 私ちょっと酔っちゃったから、今日はもう部屋に戻るわ」

 

「分かりました。ではシン様、優花さんを部屋まで送ってあげてください。村の中とは言え、夜道は危険ですから」

 

「えっ? お、え..............?」

 

「それじゃあロクサーヌ。その、シンのこと、借りてくから...............」

 

「はい、頑張ってください。バウキスは私の元に」

 

 

 二人の迅速なやり取り。ロクサーヌの言葉でシンの懐に居たバウキスが顔を出し、何かを感じ取ったのかすぐにシンから離れた。一言も喋らせてくれなかったシン。

 

 本当に酔ってるのか?と優花を疑うシンは彼女に手を引っ張られ、その場を後にした。

 

 優花に腕を引っ張られたままのシン。二人は足早にコテージへの帰路に着く。その道中、優花は一切口を聞いてくれなかった。送るのは別に構わないが、一体どういうつもりなのだろうか?と考えていたシンだったが、あっという間に二人はコテージに到着した。

 

 中に入り、シンは優花に引っ張られるまま二階へと続く階段を登った。そして優花が使っている部屋の前に辿り着くと、「ここで待ってて」と彼女は一人部屋の中へと入って行き、シンを扉の前に待機させて。

 

 益々分からないと言った様子のシン。酔いのせいで思考が定まらない。だが“待ってて”と言われたので取り敢えず待ってみる事にした。

 

 シンが扉の前で待つこと数分。

 

 

「入って、良いわよ............」

 

 

 優花からの許可が下りたので、一応扉を数回ノックをして部屋の中へと入ったシン。そんな彼を出迎えたのは、窓から差し込む月光を背負い、ワンピースタイプの白いネグリジュ姿の優花だった。彼女は部屋の中に入ってきたシンの真正面に立ち、片腕を抱き締め、顔を赤く染めている。

 

 赤みを帯びた頬と、恥ずかしそうに身悶えている仕草、そして純白の薄い布切れを纏った彼女の無防備な姿が男心をくすぐり、シンの酔いが一気に覚めた。

 

 すると優花が口を開く。

 

 

「な、何か言いなさいよ.............」

 

「あ、ああ、そうだな...............すごく綺麗だ」

 

「〜〜〜〜〜ッ...............そ、その.......あんたはさ、私のことが、欲しい、のよね............?」

 

「ッ!!」

 

「だったら.............」

 

 

 そこまで言われればシンとて気付く。彼女が何を求めているのか。

 

 優花は口をパクつかせ何かを言おうとしていたが、その前にシンが優花に歩み寄り、彼女を強く抱き締めた。シンの片手は優花の後頭部に添えられ、優花はシンの胸元に顔がうずくめる。そして両手をシンの背中に回した。

 

 

「お前の気持ちはよく分かった。––––––––()()()()()?」

 

「〜〜〜〜〜ッ!/// ...............う、うん///」

 

「なら顔をこっちに向けてくれ」

 

 

 シンがそう言うと優花はゆっくりと顔を上げ、赤く染まった頬と潤んだ瞳をシンに見せた。そして、シンは優花の唇に自分の唇を重ねる。次第にそれは軽く触れる程度の口付けから、唇を(ついば)む様なものへと変わり、ついにシンの舌が優花の口内へと侵入した。

 

 

「ンーッ.............!?」

 

 

 それに驚いた優花が頭を後ろに引こうとする。しかし後頭部に添えたシンの手で彼女は逃げられない様にされていた。

 

 一度は驚き、僅かに逃げの姿勢を見せた優花だったが、シンの背中に回した手に力を込め、彼から離れない様さらに体を密着させた。ぎこちない舌使いで懸命に応えようとする優花。

 

 そして二人の唇が一度離れた。

 

 

「ハァ、ハァ............お酒くさい」

 

「悪い。嫌ならキスは辞めとくか?」

 

「い、いいわよ、これくらい.........私もさっき飲んじゃったし...........あんたは、その、私の下手なキスでもいいの?」

 

「良いに決まってるだろ? それに、そういうのは回数を重ねて上手くなればいいだけの話だ。––––––––というわけで、()()()に上手くなろう」

 

「〜〜〜〜〜ッ!?/// ...............ばか///」

 

「馬鹿で結構。さあ、続きだ..............ん」

 

「んっ.............ちゅっ..........」

 

 

 二度目の深いキスを始めたシンと優花。

 

 その後二人はお互いの服を脱がせ合い、一糸纏わぬ姿を彼に晒した優花。優花の初夜は甘く熱い夜となり、彼女はシンの逞しい腕の中、彼に寄り添って深い眠りについたのだった。

 

 

............................

 

..........................................

 

........................................................

 

 

 

 翌朝。

 

 目を覚ました優花は昨日の事を思い出し、隣に居るシンの裸を見て顔を真っ赤に染め上げた。

 

 しかし、今も自分を抱き締めている彼の温もりに幸せな気持ちとなり、シンが目を覚ますまで、もう少しこの温もりを堪能しようと二度寝した。

 

 そしていつまで経っても起きてこない優花を起こしに来た宮崎と菅原。そんな彼女達は優花の部屋の中に入り、裸で抱き合って寝息を立てているシンと優花を見て、顔を真っ赤にした。そのうえシンの“アレ”を見てしまった事でさらにお顔が真っ赤っか。悲鳴をあげなかっただけマシである。二人はいそいそと部屋から退散し、何も無かった様に振る舞い、ロクサーヌに二人を起こすよう頼んだ。

 

 結果、宮崎と菅原の二人は、しばらくシンの顔が見れなくなったのだった。

 

 




ようやくシンのハーレムに優花が加わりました。付き合い始めて一日目でヤるとか流石シン様。女誑しに磨きがかかってますね!

次回で第二章は最後となります。第三章はイベント目白押しです。では次回、また会いましょう。


補足


『登場したお酒』


「カルローワイン」
・甘口のワインで女性に大人気。レオニスも気に入っている代物。レオニスが腕相撲でカルローワインが入った樽10個を勝ち取ってきた。


「火酒」
・アンカジ公国で作られたアルコール度数が高いお酒。酒豪が好んで飲むと言われる代物で、夜の砂漠を超える際にはこれが重宝されているらしい。

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