ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

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少し長くなりましたが、この回で第二章は閉幕となります。

園部とのイチャイチャもしばらくお預けですか...............な?




後日談 後編

 

 優花との甘く熱い夜を過ごしてから早くも三日が経過した。

 

 その間にデスワームによって荒らされた土地も元通りとなり、愛子の作農師としてのスキルによって成長を促進させた葡萄の苗はすっかり大きくなり、黒い実を成らしている。そしてシンやレオニス達によってカルロー村から温泉池までの道も整備され、村の力自慢達が温泉池周辺に木製の小屋を建てたり、景観を整えたりした事で、今ではすっかり村の住民御用達の露天風呂施設が完成していた。これにはアレックスもご満悦の様子らしく、筋トレ後の癒しとしてほぼ毎日露天風呂に通っている。

 

 以前よりもさらに活気立つカルロー村。

 

 そんな村から少し離れた山の中腹にある更地。そこでシンとロクサーヌの二人は、優花、玉井、宮崎、菅原の四人と特訓をしていた。

 

 

「やあッ!」

 

「おっ! 前より鞭の扱いが上手くなったな」

 

「〝凍て付く牙よ、穿て!〟––––〝氷槍〟!」

 

 

 菅原の操る鞭がシンを打ち抜こうと迫るが、それを簡単に躱わすシン。そこに宮崎がシンの背後から氷魔法を放つ。当たれば腹に大きな穴を空け兼ねない大きさと威力の氷のランス。だがシンは宮崎の方へと振り返ると裏拳であっさり氷のランスを砕いて見せた。

 

 すると––––––

 

 

「捕まえたっ!」

 

「ナイスっ、妙っち!」

  

 

––––––––菅原が操る鞭がシンを拘束した。彼を捕まえることに成功した菅原と宮崎が喜んでいる。

 

 菅原の鞭はシンの両腕ごと巻き付いているので()()()()そう易々と振り解けない。

 

 それを好機と捉えシンを氷漬けにするべく宮崎が無警戒に彼の方へと歩いて行く。

 

 

「あっ!待って奈々っ!」

 

「えっ?––––––うわッ!?」

 

「フッ.........よっと!」

 

「え、ちょっ、わわっ!」

 

 

 菅原が宮崎を止めようと声を掛けた。その声に反応した宮崎は、突然目の前に飛んで来た氷の塊に驚き、慌てて回避する。そして体勢を崩し、地面に転んだ宮崎を見たシンが、自身に巻き付いている鞭を掴み、強引に引っ張った。すると菅原が掴んでいる鞭の柄が手元から離れようとする。それに抵抗しようとする菅原だったが、シンとの筋力差は目に見えて明らか。結果菅原は鞭の柄ごと体を引っ張られ、前方に飛び上がった。そしてシンに抱き止められた菅原は逆にシンに拘束されてしまう。そんな状況だというのに、菅原は顔を赤くし、彼の腕の中に居ることを受け入れていた。あまりに菅原が抵抗しないのでシンが彼女を不思議そうに一瞥し、特に問題無さそうなので視線を戻した。

 

 そして鞭の拘束から解放され、菅原が使っていた鞭を奪い取ったシン。彼は片腕で菅原を抱き締め、もう片方の腕で鞭を巧みに操る。

 

 

「警戒を怠ったな、宮崎。距離を保ったまま俺を凍結させていれば、まだ対応のしようもあったろうに..........」

 

「あ、あはは...............」

 

「菅原は武器を取られ、今は俺の手元だ。つまり、俺とお前の一対一だが...............この後の展開は分かるかな?」

 

「お、お手柔らかにお願いします..........」

 

「却下だ。体力作りの一環として、警戒を怠った罰はきっちり受けて貰う」

 

「そんなぁぁッ!」

 

 

 シンが繰り出す鞭打から逃げ惑う宮崎。若干Sっ気が出ているシン。そんな彼の、高みから伺う様な余裕の笑みと瞳を見た菅原が憧れの眼差しをシンに向け、赤みを帯びた表情を浮かべていた。

 

 そしてヘトヘトになった宮崎をあっさり鞭で拘束したシンは、二人を地面に座らせ、()()()()()での反省点を振り返らせていた。

 

 一方、ロクサーヌと訓練をしている優花と玉井。

 

 優花は横目でシンが菅原を抱き締めた姿を目にし、目付きが鋭くなっていた。

 

 そんな優花にロクサーヌが訓練用の刃引きされた剣を振り被りながら迫って来た。

 

 

「よそ見とは感心しませんねッ!」

 

「ッ!!」

 

 

 咄嗟に優花は指の間に挟んでいる三つの刃が無い()()()()()()()に魔力を流した。すると刃渡り八十センチ程の刀身が柄から出現し、それをロクサーヌに向かって三つの刃を三回に分けて投擲する。一つは向かってくるロクサーヌに対して真っ直ぐ向かい、残り二つはロクサーヌの左右から回転しながら半円を描いて迫る。

 

 その三つの刃はロクサーヌが持つ剣によってあっさり切り払われた。しかし、彼女の足は止まった。

 

 

「玉井ッ!」

 

「分かってるよッ!––––ォラァッ!」

 

 

 優花がバックステップを踏み、ロクサーヌから距離を取る。するとすかさず玉井がロクサーヌの背後から曲刀を振り抜く。

  

 だがロクサーヌは振り向き様に玉井の曲刀を剣で弾き返した。

 

 

「ここまでです。––––––ッ!?」

 

 

 曲刀を弾かれた事で僅かに姿勢を乱した玉井。それを見逃さないロクサーヌが剣を振り抜こうとしたその時、背後から六つの刃が真っ直ぐロクサーヌに向かって来ていた。

 

 それに反応したロクサーヌが剣を振るい、三本の投擲された刃を切り払った瞬間、彼女の剣が折れた。それに驚くロクサーヌ。そして自身に迫る残り三つの刃をロクサーヌは後方宙返りを数回し、紙一重で躱す。

  

 投擲主はもちろん優花。

 

 強制的に玉井から距離を取らされたロクサーヌは感心した眼差しで優花に視線を送る。そこには懐から新たに六本分の柄を取り出し構えている優花が居た。

 

 

「お見事です、優花さん。〝()()〟をもう使い熟すとは」

 

「私の天職は投術師よ。これぐらい使い熟せないと、投術師の名折れだもの」

 

 

 先程から優花が投擲している武器。

 

 その名は〝無尽擲《むじんてき》・赤喰(あかばみ)

 

 かつて赤獅子を喰らった個体のベヒモス、その魔石を二つに割り、柄の形へと圧縮錬成させた特殊な投擲剣。それが〝赤喰〟である。特殊な魔石を加工したという事もあって、その能力も極めて特殊で、[変成魔法]によって魔石に記憶されているベヒモスの技能を呼び起こす事に成功し、それを扱う事が出来るのだ。

 

 [分裂再生]によってオリジナルである〝赤喰〟の劣化版コピーを魔力が続く限り生み出し、[刀身化]の効果で刃渡り八十センチの刀身を生み出す事も可能、さらに威力は格段に落ちているが[暴食]の効果で撃ち貫いた相手の技能をランダムで一時的に使えなくさせ、魔力で生み出された物ならどんな物や現象でも喰い破る。しかし物理耐性が弱く、魔力消費も尋常では無い為、ロクサーヌや製作者であるロバートですら使い熟せなかった。シンは並外れた魔力量があった為使い熟すことが出来、優花もまた〝投擲武器ならどんな物でも使い熟せる〟という投術師のスキルによって弊害無く使い熟せるのだ。

 

 物理耐性も弱く、劣化版の複製品は時間経過と共に砕けてしまうが、魔力が続く限り無限に投擲出来る上、物理耐性の代わりに魔法耐性が高い。そして一度当ててしまえば〝赤喰〟の[暴食]効果が発動し、投術師のスキルによって一撃分の威力を底上げ出来る。優花にとってこれ以上無いほど適した投擲武器であり、〝赤喰〟を自在に操る優花は魔法に特化した相手からすれば〝魔術師殺し〟そのものだろう。

 

 そして優花はシンとの個人特訓によってすっかり〝赤喰〟を使い熟せる様になっていた。

 

 そんな彼女にロクサーヌは、続けて言葉を掛ける。

 

 

「先程の六連弾。あれは私の剣を狙った投擲だったのですね」

 

「そうよ。[鉄甲作用]って言う私の技能。いくらロクサーヌでも、下手に受けると剣どころか体も吹っ飛ぶわよ?」

 

 

 そう言うながら、優花は手に持つ六つの〝赤喰〟を[刀身化]させる。彼女の両手指の間から六つの刃が出現する。

 

 そして優花はさらに言葉を続ける。

 

 

「その折れた剣じゃ、次は弾く事もままならないじゃない?」

 

「ふふっ、確かにそうかもしれないですね。–––––––ですがこの程度の不利、既に経験済みですッ!」

 

 

 ロクサーヌが優花に向かって駆け出した。

 

 刀身が根本部分からポッキリ折られたほぼ柄だけの剣、それを構えながら。

 

 そんなロクサーヌが迫る中、優花は投擲のタイミングを見計らっていた。

 

 すると玉井はロクサーヌと優花、二人の直前上に割り込み優花の方に行かせない様にする。

 

 だが此処でそれは悪手だ。

 

 

「そこに割り込むと、優花さんの邪魔になりますよ?」

 

「あっ! そっ–––––––カハッ!?」

 

「玉井ッ!」

 

 

 ロクサーヌの言葉で、自分が投擲の邪魔をしていると気付いた玉井。だがそこで彼の腹部、というより鳩尾に強烈な一撃が入った。ロクサーヌが折れた剣の柄部分で玉井の鳩尾を殴ったのだ。手加減された一撃とは言え、堪らず玉井は膝を折り、四つん這いになって倒れた。

 

 玉井が倒れたのを見た優花が彼の名を呼ぶ。だが玉井が倒れた事で投擲の射線上にはロクサーヌのみとなる。

 

 そこに優花が構えた三本の〝赤喰〟をロクサーヌに向かって投擲した。だがそれと同時にロクサーヌが折れた剣の柄を優花に向かって投擲して来た。まるで野球選手のピッチャーがアンダーハンドスローで投球する様に。

 

 

「くぅッ!...............えっ!?どこっ!」

 

「上ですよ」

 

「––––––––ッ!?」

 

 

 ロクサーヌの豪速球(柄)が優花に迫る。それをなんとか回避した優花だったがロクサーヌを見失ってしまう。だがそれも一瞬のこと。頭上から彼女の声が聞こえた。優花がそこに視線を向けると、ロクサーヌが頭上から落ちて来た。

 

 すぐそばまでに迫っていたロクサーヌの拳。それを回避して見せた優花。だが彼女の拳が狙っていたのは優花では無くその下、彼女の足元にある地面だった。

 

 身体強化が施されたロクサーヌの拳が地面を砕き、土煙を巻き上げ、優花の視界を一瞬だけ塞いだ。

 

 そこから距離を取る優花。ロクサーヌが土煙から出て来た瞬間を狙うつもりで身構える。

 

 そして僅かに土煙が揺らいだ。

 

 

「そこッ!!」

 

 

 放たれた三本の〝赤喰〟

 

 タイミングもバッチリ。

 

 だが優花が放った三本の刃はロクサーヌに当たらなかった。何故なら...............

 

 

「うそッ!? まさか––––––」

 

「そうです。貴女が先程私に投擲した物です」

 

「––––––––なッ!?」

 

 

..............優花が放った三本の刃は同じ刃とぶつかったのだ。

 

 それは玉井が倒れて直ぐに優花が投擲した最初の〝赤喰〟で、ロクサーヌが投擲した柄と交差する形で放たれた物。

 

 ロクサーヌは優花の頭上に飛び上がる直前、優花が放った三本の〝赤喰〟をキャッチしていたのだ。そしてそれを隠し持ち、囮としてわざと目立つ様に土煙の中から放り投げ、優花の注意が逸れたタイミングで、囮の反対側から優花に迫って来た。

 

 死角を突かれた優花、そこに振り抜かれたロクサーヌの拳が迫る。

 

 腰の入った一撃。当たれば只では済まない。

 

 だがロクサーヌの拳は優花の顔面に当たる寸前で止まり、握られた拳から人差し指が伸び、優花の鼻を軽く突いた。

 

 

「私の勝ちです。かなり惜しかったですが、まだまだ詰めが甘いですね」

 

「うぅ.............」

 

「ですが優花さんはなかなか筋が良いと思います。鍛錬を重ねれば確実に強くなれるはずです」

 

「そっか.............ありがとうロクサーヌ。私の.......ううん、()()の特訓に付き合ってくれて」

 

「ふふっ、これぐらい構いませんよ。優花さんだけで無く、皆さんの想いはちゃんとシン様に届いてますから」

 

 

 二人がそんなやり取りする。

 

 この特訓は宴会が開かれた夜以降、優花達の想いを汲み取ったシンが提案し、宴会の翌日から開始された物。

 

 優花達が戦いに巻き込まれる事をシンは未だに良しとはしていない。しかし彼女達の意思を尊重しようという考えはあり、ならばせめてこの世界で自分の身を守れるだけの力を身につけて貰おうと考えた末の提案であった。

 

 戦いへの恐怖はある、覚悟も足りていない。しかし何もしないよりずっとマシだと優花達はシンの提案を受け入れた。

 

 そして愛子達 農地開拓・改善組がカルロー村を離れるまでの間、シンとロクサーヌが優花達を徹底的に鍛えることになった。ちなみに、この場に居ない愛子は戦う力が無いため農地開拓業に専念し、ヴィーネは愛子の仕事を手伝っている。レオニスはアレックスのブランクを埋める為の特訓に付き合っているらしく、今頃レオニスとアレックスは特訓後の温泉で体の疲れを癒し、ワインでも飲んでいる事だろう。そして清水は単純に部屋から出て来ないため不参加。その理由は推して知るべしだろう。

 

 そんな訳でこの三日間、優花達はシンとロクサーヌによる特訓を受けていた。

 

 既に愛子達 農地開拓・改善組は滞在予定日数を超えていた。だが今日中には教会から頼まれた仕事を終え、明日愛子達は湖畔の街ウルに出発する。そのタイミングでシン達もカルロー村を発ち、グリューエン大火山を行く予定だ。それに対して優花はシンに付いて行きたい気持ちを押し留め、愛子達と共にウルに向かう事を決めた。本当はシンのそばにずっと居たいが愛子のことが放って置けない優花。彼女は彼女で自分がやるべき事をやり切ろうとしていた。なのでシンはこの三日間優花を目一杯可愛がり、寝食を共にし、あらゆる手で彼女を強くしようとサポートした。

 

 そのおかげもあって、今の優花は以前と比べて明らかに強くなった。それを示す様に彼女は投術師の技能を新たに複数獲得したらしい。その一つが先に優花が見せた[鉄甲作用]で、投擲威力が何倍にも増大する投擲技法を彼女は自身の想いとシンのサポートのおかげで習得できた。これもひとえに愛の力と言う奴だろう..............。

 

 話は戻り、結局ロクサーヌには敵わなかった優花と玉井。

 

 一旦休憩に入るため、二人は玉井を介抱していた。するとそこにシンと宮崎、菅原の三人も合流し、シンも交えて先程の模擬戦での反省点を全員で振り返り始めた。

 

 それから数十分後、ヴィーネと愛子がその場に現れ、慌てた様子で愛子が口を開いた。

 

 

「た、大変です皆さんっ! 清水くんがっ!清水くんがッ!」

 

 

 清水幸利がカルロー村から姿を消した。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ー

 

 

 

 

 コテージに戻ったシン達。

 

 清水が使っていた部屋は既にもぬけの殻らしく、備蓄されていた携帯食などがいくつか消えていた。そしてリビングのテーブルにはこんな書き置きが残されていた。

 

 〝ウルの街で待ってます〟と。

 

 それを見た優花達は安堵していたが、愛子は当然清水の事を心配していた。カルロー事変の騒動が治って直ぐにこれなのだから、愛子の心配は無理も無い。しかし異世界組である清水もまた、優花達と同様に平均ステータスがこの世界の者達より遥かに高く、並の魔物や盗賊相手では太刀打ち出来ないぐらいだ。そんな清水がそう易々と危険な目には遭わないだろうと、玉井が愛子に言葉を掛けていた。尤も、絶対とは言い切れないが..............。

 

 すると先程からずっと黙っていたシンが唐突に口を開いた。

 

 

「心配しなくても、清水は()()()()()ですよ?––––––––今あいつは〜.........()()()()()()()()()()()()()。おそらく書き置き通り、湖畔の街に向かってるんでしょう」

 

「そ、それは本当ですか! 要くん!」

 

 

 シンの言葉を聞いて愛子が真っ先に反応を示した。

 

 

「ええ。あいつに()()()()()()()()()がまだ反応してますから」

 

「植え付けた.............?」

 

「まあ、そこは気にしないで下さい。簡単に言えば魔力の発信器みたいな物です」

 

「な、なるほど...............」

 

 

 シンが発した言葉には若干不穏な響きがあった。それを訝しんだ愛子だったが、シンはなんて事も無い様子で簡単に説明して見せ、愛子も一応納得した。

 

 確かに発信器の様な作用もするが、シンが清水に植え付けたモノ、つまり〝ゼパルの魔法〟はそんな生優しいモノでは無い。それを語るならそれを行った動機、つまり清水が何をしようとしたかも語らなければならない。なので説明を省いた。清水へのせめてもの情けと、更生のチャンスとして。

 

 

「まあ先生が心配するのも分かりますが、別に無茶な行為という訳では無いのですから、村での仕事を終えてから向かえば良いんじゃないですか? 明日には先生達もウルの街に出発するんですから」

 

「そうっスよ。それにあんまり過保護過ぎるのも良くないと思いますよ」

 

「愛ちゃんを心配させた事には色々言いたい事あるけど、それは明日出発してからでも遅くないですしね」

 

「優花っちは単純に要っちと一緒に居る時間が減るの嫌なだけじゃないの?」

 

「今日が最後の夜だもんね〜」

 

「ちょっ!あんたらっ!私は別にそんな不純な動機で言った訳じゃ無くって!」

 

「優花は俺との夜を〝不純〟だと思ってたのか?」

 

「別にそんなこと言ってないじゃんっ! ていうか、あんたまで乗って来ないでよっ!」

 

「真昼間からなんて事を話してるんですかッ!」

 

 

 シンに続いて玉井と優花が愛子の心配する気持ちを払拭しようと言葉を掛ける。だが優花の言葉に対して宮崎と菅原が彼女を揶揄い出し、それに乗っかるシンとツッコむ優花。さらに、そんな二人の遣り取りを聞いた愛子がツッコむ。

 

 場が和んだ、というより話題が変な方向に逸れた事で愛子の気持ちは切り替り、もはや気持ちが沈む余地も無かった。尤も、切り替わった気持ちの矛先はシンと優花に向き、愛子は先生として二人にお説教をするのだが.............。

 

 その後、全員で昼食を摂り、残り少ない仕事を終えるべく農作業に戻った愛子とヴィーネ。そして再び特訓を始めたシン達だったが、再開された特訓中、今度は宮崎を腕の中に拘束したシン。やはりと言うべきか、菅原と同様に宮崎もそれに対しての抵抗が弱い。その上彼に自身の魔法を褒められ、頭を撫でられた宮崎がシンに熱い視線を向けていた。それを見たロクサーヌは流石にシンの天然女誑しぶりに目が座り出し、優花は全力でシンに向けて〝赤喰〟を投擲する。そこから優花&ロクサーヌVSシンの構図になった。割とガチめなロクサーヌは魔剣を抜き、優花は連続で〝赤喰〟を投擲する。特に優花が放つ〝赤喰〟はシンの[力魔法]すら喰い破って来るので、手加減をする余裕が無かったシン。それを分かってて優花は投擲して来たのでなかなかの強かさであった。

 

 時間はあっという間に過ぎ、カルロー村で過ごす最後の夜がやって来た。

 

 シンはロクサーヌ、優花、バウキスと一緒に露天風呂に入った後、アレックス家族と一緒に賑やかな夕食を迎えた。その際アレックスの娘さんが玉井と親し気だったのを見たシン達。玉井にもついに春が!?と思われた矢先、そんな淡い期待は呆気なく砕かれた。既にアレックスの娘さんは銀ランク冒険者であるパーカーと恋仲になっており、仲睦まじい様子が伺えた。血涙を流す玉井。どうやら玉井の春はまだ先の話らしい。

 

 その後、シンはロクサーヌと優花の二人と床を共にする。もちろんカルロー村最後の夜と言う事で、シンは二人の女性を美味しくいただき、特に離れ離れとなってしまう優花を念入りに可愛がった。暫くは消えない跡を彼女の首元に刻みつけて...............。

 

 そして迎えた翌朝。

 

 グリューエン大火山に向かうシン達を見送りに来た優花や愛子達、そしてアレックスを筆頭に集まった村の人達。

 

 村の人達を代表してアレックスがシンに言葉を掛けた。

 

 

「道中、お気をつけ下さい。そしてまたこの村にいらして下さい。私を含めカルロー村の住人一同は、皆さんの来訪をいつでも歓迎致しますぞ」

 

「ありがとうございますアレックス殿。ええ、その時はまた酒を酌み交わしながら、筋肉談話に花を咲かせましょう」

 

「ヌッハハッ! ではその時が来るまで、我輩はこの肉体美をより一層磨き上げませんとな!シン殿やレオニス殿に笑われないように!」

 

 

 そう言いながらアレックスはシンは堅い握手を交わす。シンの隣では愉快そうにレオニスが鼻を鳴らしていた。

 

 するとアレックスが「おっと、忘れるところでした」と懐から二枚の封書をシンに渡して来た。

 

 

「これは?」

 

「一枚は冒険者ギルド用に我輩が(したた)めた物です。これがあれば行く先々の冒険者ギルドでシン殿の要望をある程度は叶えてくれましょう。機会があればブルックの冒険者ギルドにも顔を出してみてください」

 

「確かブルックの冒険者ギルドにはアレックス殿の姉君が居るのでしたね................分かりました。機会があれば伺ってみます。それで残り一枚は?」

 

「そちらはアンカジ公国に()られる我輩の()()に宛てた手紙です。こう言ってはなんですが...........我輩、少し師匠の事が苦手でして...........あまりの苦手意識でつい手紙を出す事も忘れていたのです...........。良ければシン殿、それを届ける事を頼まれてはくれまいか?」

 

「構いませんよ。どの道、一度はアンカジに寄ろうと思って居ましたので」

 

 

 快く承諾したシン。そんな彼の言葉を聞いてアレックスがホッとした様子で胸を撫で下ろした。よっぽどその師匠とやらが苦手なのだろう..............。

 

 そしてアレックスがシンを小さく手招き、耳を出すように言って来た。周りに聞かれたらまずい事であるのだろうか?

 

 シンはその手招きに従い、アレックスの方へと耳を傾ける。そこにアレックスがシンの耳元に口を近付け、ゴニョゴニョと囁き始めた。周りがそんな二人の様子に訝しんでいると、数秒後シンの顔色が変わった。

 

 

「––––––––––その話、本当なんですか?」

 

「我輩も最初師匠から聞かされた時には耳を疑いましたが、おそらく事実でしょう。それだけの力を師匠は持って居られます。シン殿、この事は...............」

 

「ええ。他言無用、ですね。ロクサーヌ達に聞かせても?」

 

「構いませぬ。御三方なら口も堅いでしょうし」

 

「分かりました。必ずこの手紙は届けましょう」

 

 

 シンはそう言ってバウキスの[異袋]に二枚の封書を収納した。それに対してアレックスが「(かたじけ)ありません」と軽い会釈をする。

 

 そしてシンは優花達 農地開拓・改善組に視線を送った。

 

 

「見送りありがとな、お前ら。先生も清水のところに早く行きたいでしょうに、先に見送ってもらいありがとうございます」

 

「気にしないでください要くん。生徒を見送るのもまた先生の勤めです!」

 

「フッ、そうですか...............優花、無茶はしないでくれよ?」

 

「分かってるわよ。いざとなったら“全員ですぐに逃げろ” でしょ? その為にシンが私達を鍛えてくれたんだから」

 

「ああ、その通りだ。お前達もその事を忘れるなよ?」

 

 

 優花の言葉に頷いたシンは、彼女の後ろにいる玉井や宮崎、菅原に視線を向ける。すると三人は三者三様の答え方でシンの言葉を受け取った。

 

 

「優花、何かあればすぐにその()()で知らせろ。そうすれば、お前が何処に居ようとすぐに俺が駆けつける」

 

「はぁ〜、過保護すぎよ。けど、何かあればすぐに知らせる...............あんたの顔も見たいし..........///」

 

 

 呆れたように溜息を吐く優花。しかし最近の優花はデレが増しているので、正直な言葉も送ってくれる。

 

 ちなみに指輪というのは、かつてシンが優花にプレゼントした魔道具の指輪を指す。その指輪にはシンの[術式解体]と[想像構成]によって元々付与されていた火魔法がより高位の物へと昇華されており、さらにシンが新たに習得した付与魔術の技能[感覚共有]が施されている。シンが言った〝知らせろ〟と言うのは、そのうちの[感覚共有]を指す言葉だ。指輪に魔力を通す事で所有者と設定した相手の感覚をリンクさせ、お互いに相手の位置とその瞬間何を考えているかが把握出来るのだ。

 

 そんな代物を優花は左手の薬指に嵌めている。小指から位置が変わっているのは...............そういう事だ。

 

 

「相変わらずデレた優花は可愛いな」

 

「か、可愛いって言う...............んっ!?」

 

 

 シンは有無を言わさず、優花の唇を奪った。それに驚いた優花は一瞬体を硬直させるが、シンに強く抱き締められた事で優花の目が蕩け、それを受け入れた。周囲の目も気にせずなんと大胆な事か。村人達からは歓声が湧き立ち、愛子は狼狽え、玉井は目を逸らし、宮崎と菅原は少しだけ優花を羨ましそうに見ていた。ヴィーネは仮面を付けているので分からないが、レオニスは「ひゅ〜」と口笛を吹く。ロクサーヌは〝後で自分もしてもらおう〟と固く心に誓っていた。

 

 そしてようやくシンと優花の唇は離れ、周りの反応に気付いた優花が恥ずかしそうに身悶える。

 

 

「今ここで新たにキスマークを付けるのは無理だからな。これで俺の女だと主張しておくよ」

 

「〜〜〜〜〜ッ/// そんな事しなくても、私はとっくにあんたのモノよ............///」

 

「ああ、知ってる。けど俺は独占欲が強いからな。こうしておいた方が悪い虫もくっつきにくくなりそうだ」

 

「だからって、こんな公衆の面前で...............ばか///」

 

「フッ.............。近いうちにまた会おう、優花」

 

「うん、その時まで私、頑張るから。–––––行ってらっしゃい、シン」

 

「ああ。行ってくるよ、優花」

 

 

 シンの胸に顔をうずめる優花。そんな彼女を抱き締め、頭を撫でるシン。

 

 その純愛っぷりにこの場の空気が穏やかな甘さに包まれ、思わず周囲の人達は優しい目を二人に向ける。

 

 そしてシン達は優花や愛子達、そしてカルロー村の人達に別れを告げ、出発した。

 

 旅立って行くシンの背中を見送る優花。そんな彼女の左手の薬指に嵌められた指輪に、シンとの()()()()()()が宿る。

 

 しかし、その事に優花が気付くはまだ先の話であった。

 

 

 

............................

 

..........................................

 

........................................................

 

 

 

 見送りに来ていた村の人達や優花達の姿はシン達が振り返ってもすでに見えないぐらいまで進んでいた。

 

 それを確認したシンは自身とロクサーヌ、レオニス、ヴィーネに[認識阻害]を施し、[人化]を解除したレオニスの背にシン達は乗った。するとレオニスは物凄いスピードで大地を蹴り始める。

 

 

「悪いがレオニス、先にアンカジ公国に向かう」

 

『さっきアレックス殿に頼まれた手紙の件だな?』

 

「ああ、()()()()()()を聞いちまったからな。是非ともアレックス殿の師匠と会ってみたい」

 

「シン様、先程アレックスさんから何を聞かされたんですか?」

 

「............................」

 

 

 元々カルロー村を出発したらそのままグリューエン大火山に向かうつもりだったシン達。しかしレオニスの言う通り、先程アレックスに頼ませた件を先に済ませる事にしたらしい。そしてロクサーヌが、先程アレックスがシンに耳打ちした内容に気になり、彼に質問する。口は開かないが、ヴィーネも同意見らしい。

 

 ロクサーヌの問いに対し、シンは端的に、そしてワクワクした様子で確かにこう答えた。

 

 

「先代勇者の血統。つまり–––––––〝()()()()()〟についてだ」

 

 

 新たな出会いが待っている。

 

 そんな予感に心を躍らせ、シン達はアンカジ公国を目指すのだった。

 




と言うわけで、第二章最後は園部優花の強化イベントと清水幸利の単独行動、そしてカルロー村出立の回でした。宮崎と菅原の様子も何やら怪しいですが...............それは今度の展開次第ですね。

さて次回からいよいよ第三章の開幕となりますが、第三章はイベント目白押しです。一体何話まで行くのやら..............考えただけで宇宙猫みたいになりそうです。    


補足


『登場した魔道具』


「無尽擲・赤喰」
・二振りのT字の赤い柄。かつてレオニスの祖父、先代赤獅子の長を食ったベヒモスの魔石で作られた特殊な投擲剣。[変成魔法]によって魔石に刻まれたベヒモスの技能を複数発現させる事に成功し、[分裂再生]による劣化版柄の増殖、[刀身化]による刃の形成、[暴食]による射貫いた相手のステータス弱体化と技能封印、そしてシンの[力魔法]や聖絶のような防御魔法すらも食い破る能力を持つ。しかし人が扱うにはなかなかにハードルが高く、魔力の消費量も馬鹿にならない上、剣としての性能は低い。剣技に長けたロクサーヌやロバートですら使い熟せなかった特殊な投擲武器。
しかし園部優花の天職によるスキルと投擲武器に置いて圧倒的センスを持つ彼女は、それを自在に扱う事が出来る。
(イメージはFateに登場する〝黒鍵〟と言う武器です)


「優花の指輪」
・園部優花の左手の薬指に嵌め込まれた指輪。王都の冒険者ギルドでシンが購入し、優花にプレゼントした指輪。元々火魔法が付与されていたが、そこにシンが[術式解体]と[想像構成]により改良を重ねた事で、火魔法の威力が大幅に強化させた。その威力は高位の火魔法に匹敵する。さらにシンの[感覚共有]が新たに付与されているため、魔力を流した一瞬だけ設定先であるシンと感覚がリンクする。位置の特定やその時の感情を読み取る事が出来る。
そして、その指輪にはロクサーヌの魔剣やレオニスの耳飾りと同様にある物が宿っている...............


『登場した技能』


「感覚共有」
・シンが新たに習得した付与魔術の技能。自身と相手の五感から得た情報を相互交換する付与魔法の一種。発動させれば問答無用で強制的に相手が現在見ている景色や音、位置情報、温度、体調、気分、感情などが流れ込んでくる。下手をすれば相手が廃人になりかねない魔法。その為、「優花の指輪」に付与したモノは出力を大幅に下げ、限定的な情報のみを共有する様にされている。


『新たに登場を示唆されたキャラクター』


「アレックスの師匠」
・アレックスがまだまだまだ駆け出しの冒険者だった頃、アレックスとクリスタベルを鍛えた存在。今でもアレックスを恐れさせる相手で、非公式の情報らしいが〝先代勇者の子孫〟らしい。教会には悟られない様に秘匿された情報らしく、アレックスの師匠は現在アンカジ公国にて暮らしているそうだ。
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