ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

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新キャラ登場、そして久しぶりに登場するオリキャラもいます。





第三章
水の都


 

 グリューエン大砂漠を越え、シン達はアンカジ公国に到着した。道中、サンドワーム(通常個体)と遭遇したが、レオニスがあっさり瞬殺し、カルロー村で戦ったサンドワームの強化種〝デスワーム〟との違いを実感した一同だった。

 

 アンカジは不規則に並ぶ白亜の外壁に囲まれた国だった。外壁からは光の柱が幾本も天空に伸び、それが中心で重なり合っている。まさに光のドームと言った感じである。そんな外壁にある巨大な光の門の前に来たシン達。入都の際、門番の兵士達がシン達の格好や容姿を見て驚いた。一人は純白の衣と豪華な装飾で身を包んだ体格の良い美丈夫、一人は男の情欲を唆る様な、なんとも扇情的な衣装を纏った狼人族の美女、もう一人は二メートルを超える巨体と長く赤い髪を靡かせる精悍で凛々しい大男、そして最後の一人は奇妙を仮面を被り、兵士風な軽鎧を纏った白髪の仮面女。なんともバラエティに富んだ集団である。その上に砂漠を越えて来たと言うのに、彼らは砂粒一つ被っていない。そんな四人を見れば門番が驚くのも無理は無い。門番がそんな四人に訝しむ様な視線を送って来たが、その集団の先頭に立つ白服姿の美丈夫ことシンがステータスプレートを見せた事で、一応アンカジの門を潜ることは出来た。シン以外誰一人としてステータスプレートを持っていない事に関しては、「田舎から出て来たから持ち合わせていない」と告げて誤魔化した。

 

 そしてシン達はついにアンカジ公国の中に入る事が出来た。

 

 そこはまさに水の都と表現して良い程、水に囲まれた美しい都だった。乳白色の建物とオアシスから都一帯に張り巡らされた水路、そして緑豊かな自然に囲まれた広大な土地。そこを行き交う無数の人々でアンカジ公国は活気立っていた。大体で区分するなら東側には緑に囲まれたオアシスがあり、北側には広大な土地に広がる農作物、西側には純白の宮殿とその周りには無骨で乳白色の建物が規則正しく建ち並んでいる。そして南側と都の中心には市場があり、木製の小さな屋台や地面に敷物を引いて客引きをする商売人などが多く見受けられた。そこを行き交う人々。公国の民らしき者達や、甲冑や軽装を纏った冒険者、一般的な格好をした観光客や楽しそうに駆け回る子供達などが居た。

 

 そんな中央区を進み、西側にある冒険者ギルドに向かって行くシン達。門番に予め冒険者ギルドが何処にあるのか聞いていたので、迷うこと無くズンズン進んでいく。そんなシン達が一歩踏み出す度に往来を行き交う人々が彼等に注目する。シンやレオニスに熱い視線を向ける奥様方、鼻下を伸ばしロクサーヌの胸と顔を凝視する男達、不思議そうにヴィーネの仮面を見つめる子供達。

 

 すれ違う人全員がシン達を注目する中、特にその視線を気にすること無く、彼等は会話をしていた。

 

 

「国ともなれば、集まる人間の規模も大きくなるか。ここまで来ると逆に邪魔だと思えてしまうな」

 

「まあ、お前の気持ちも分からなくも無い。けど、ここが特別人が集まりやすい国ってのもあるから仕方ないさ」

 

「ええ、アンカジ公国は、エリセンからの海産物や公国内外の野菜や果物を中心に他国へ受け流す交易都市。つまり公国は、表大陸の北側に位置する交易の心臓です。人混みで溢れ返ると言うことは、それだけ交易が盛んなのでしょう」

 

「.............いかにも魔王軍が狙いそうな場所ですね」

 

「だな。––––––––」

 

 

 レオニスが率直な感想を述べる。彼の言葉に同調しつつも、それを受け入れているシン。そこにロクサーヌが補足説明をする。それを聞いたヴィーネが魔王軍の介入を危惧し、シンが同意した。

 

 魔王軍が何かしらの方法でアンカジを攻めるのは、まず間違いないだろう。それぐらいこの国は人族の社会に根付き、影響を齎す場所なのだ。それに気付かない魔王軍ではあるまい。

 

 

「–––––––だが今のところは何も起きていない。それで安心するのは早計だが、公国とて自身の立場を分かっているはず。何かしらの対策は講じてるだろうさ」

 

「そうだと良いのですがね...........」

 

「..............もしかして、何か()()のか?」

 

「いえ、特には。別に深い意味はありませんのでお気になさらず」

 

「..............そうか」

 

 

 ヴィーネの様子に疑問を覚えたシンが彼女に問い掛ける。だがヴィーネはあっさりと、何でもない様子で返答した。

 

 シンがヴィーネに〝見たのか?〟と問い掛けた理由は、彼女が保有している固有魔法に関係している。

 

 ヴィーネが保有する技能の中には[予知夢]という固有魔法がある。その効果は、望んだ未来、或いは回避したい未来の風景や情報を夢の中で知る事が出来ると言うモノらしい。その力でヴィーネはロバートやシンの事を知り、接触を図ったそうだ。ヴィーネが最初、レオニスや赤獅子のことを知らなかったのは、夢の中でそれを確認出来なかったためらしい。それに眠りに着く度に見れる物では無いらしく、寝ている時にしか発動しないため、自在に操ることは出来ない。なかなかにピーキーな固有魔法だ。

 

 それはさて置き、シン達は市場を歩き抜け、西側の区間に入った。そして門番から聞いていた通りの道順を進み、冒険者ギルド “公国支部”に辿り着く。

 

 ギルドの中に入ったシン達。そこには多くの冒険者で賑わっていた。騎士風の格好をした女戦士や盗賊風な装いをした男、露出度の高い服装の女魔法使いや体格の良い剣闘士風の男など、まさに“冒険者”と言った者達ばかりだ。そんな連中が一斉にシン達の方に様々な意思を孕ませた視線を向ける。

 

 シンの姿を見て「何処かの貴族か?」「随分ご立派な身分だなぁ」「あんなに装飾をジャラジャラ付けた奴が、ここに何の用だぁ?」と口にしている。一方で、シンの隣を歩くロクサーヌを見れば「上玉の亜人族だな」「いい乳してやがるぜ」「きっと高値で取引された奴隷に違いねぇ」などと口にし、いやらしい視線を向けていた。レオニスやヴィーネに対しても好奇の視線を向けられている。

 

 そんな周りの声を耳にしたレオニスは、僅かに不快そうな表情となり、周りの冒険者達を一瞥する。すると、そのひと睨みだけで周りの冒険者全員が押し黙った。レオニスの視線を受けた冒険者達は、その一瞥だけで彼等がヤバい集団であると本能的に直感し、物凄い勢いで視線を逸らすと、ビクビクと体を震わせ息を潜める。まるで獅子から逃れるため、死んだフリをする野うさぎの様に。普通の人間が赤獅子に睨まれれば、そうなるのは必至だろう。

 

 そんな周りの様子を見てシンは困った様に笑みを浮かべ、ロクサーヌが溜息を吐く。

 

 

「はぁ〜..........やり過ぎですよ、レオニス」

 

「む、そうか、それはすまなかった。一応加減はしたのだが.............」

 

「技能も無しに、ただの一瞥でコレですか...........やはり貴方も凄まじいですね」

 

 

 ロクサーヌがレオニスを注意し、一応謝罪するレオニス。そして、レオニスの言葉を聞いたヴィーネが改めてレオニス(赤獅子)という存在の頼もしさを実感していた。

 

 するとギルドの受付嬢が居るカウンターの方で、ガタンッと音が鳴る。もしかして、レオニスの視線に当てられ、誰か倒れたのか?とシン達が視線をカウンターの方に向ける。だが、その予想とは逆で、受付嬢の一人がカウンターから身を乗り出す様に立ち上がっていた。シン達を、というより、シンだけを食い入る様に見つめながら。

 

 そんな受付嬢を見たシンが「あっ」と声を漏らす。

 

 そしてシンはカウンターへと歩み寄り、その“赤縁の眼鏡を掛けた綺麗な受付嬢”へ微笑みながら声を掛けた。

 

 

「久しぶりだな、“スーシー”。少し痩せたか?」

 

 

 そこに居たのは、かつてシンが王都の冒険者ギルドで世話になった受付嬢、スーシーだった。少し癖のある明るめの長い茶髪と赤縁の眼鏡がトレードマークの彼女は、以前より少し痩せている様に見えるが、スタイルの良さは今も健在である。

 

 そんな彼女はギルドに現れた謎の集団、その先頭に立つシンに声を掛けられ、体をワナワナと震わせながら口を開いた。

 

 

「ほんとに............本当に貴方、シンなの?」

 

「少しは自分の目を信じたらどうだ? それでも疑うならステータスプレートでも見て確認すると良い、ほら」

 

 

 そう言ってシンはステータスプレートを懐(バウキスの異袋)から取り出し、スーシーに見せた。そこに刻まれた名前を見て、彼女は––––––––

 

 

「ッ!.......シ〜〜〜〜〜ンッ! 会いたかったわ〜〜ッ!」

 

「のわッ! ちょっ、スーシー!?」

 

 

–––––––––自分の胸にシンの顔を抱き寄せた。

 

 シンの頭部が彼女の豊満な胸を押し潰し、若干苦しそうにシンはもがいて居た。そんなシンの素振りなど関係無くハイテンションなスーシー。思わずピョンピョン跳ねるほどに。

 

 そんな彼女を見てギルドに集まっている男達が愕然とした様子でショックを受け、ヴィーネは「おモテですねぇ」と素直な感想を述べる。レオニスは何が何やらと言った様子で呆気に取られ、ロクサーヌは目が笑っていない笑顔をシンに向けていた。

 

 そして、ようやくスーシーから解放されたシン。

 

 

「はぁ〜..............それで、何でスーシーがアンカジの冒険者ギルドで受付してんだ? お前、王都の受付嬢だったろ?」

 

「出張よ。最近アンカジの冒険者ギルドが忙しいから、一時的な人員補充としてこっちで働いてるの............そんな事より、貴方、今までどこで何してたのよ? それにその格好...............まるで何処ぞの王子様みたいよ?」

 

「その表現はむず痒いなぁ。まあ、こっちにも色々事情があるんだよ..............元気そうで何よりだ」

 

「それはこっちのセリフ。ふふ、前より色男になったわね。それで、後ろに居る人達は?」

 

 

 スーシーがシンの背後に視線を向ける。するといつの間にかロクサーヌ達がシンの後ろで控えていた。

 

 

「ああ、紹介するよ。俺の仲間達だ」

 

「ロクサーヌです。“私のシン様”が以前お世話になったみたいで。以後お見知り置きを」

 

 

 語気に若干の棘を含ませるロクサーヌ。それでスーシーは察しがついたのだろう。「へぇ〜」と口に出しながら意味深な表情でロクサーヌを見ていた。エヒトに対する信仰心が薄い彼女は、亜人への差別意識を全く持ち合わせていない。この世界ではなかなか珍しい部類だが、その信仰心の薄さが彼女の姉御肌な性格や恋愛観を形成して居る。そういう彼女だからこそ、シンは以前からスーシーの事を信頼し、自分が異世界からの召喚者である事も打ち明けていた。

 

 そしてスーシーがレオニスとヴィーネの方にも視線を向けたので、二人も簡潔に自己紹介をする。

 

 

「レオニスだ」

 

「ヴィーネです」

 

「ロクサーヌさんにレオニスさん、それからヴィーネさんね。ええ、覚えたわ。私はスーシー、シンとは王都の冒険者ギルドで知り合った、ただの冒険者と受付嬢の間柄よ–––––––“今はまだ”、だけどね、ふふ」

 

「おいスーシー、あまりそういう揶揄いはよしてくれ。さっきから周りの視線が刺さるんだよ。あと、ロクサーヌの視線も..............」

 

「あら、ごめんなさいね。私ったら、嬉しくってついはしゃいじゃったわ♪ ねぇシン、アンカジにはいつまで滞在する予定なの?」

 

「う〜ん、一応二日間ぐらいは滞在しようと考えてる」

 

「意外とすぐ出ちゃうのね。なら今夜とか空いてない?再会を祝って一緒に食事でもどうかしら? もちろん、そちらの三人も一緒で大丈夫ですよ♪」

 

「俺は別に構わないが..............お前達はどうだ?」

 

 

 特に断る理由が無いため、シンはその誘いを受ける。そしてシンはロクサーヌ達の方へと振り返り、彼女達がどうするのか訊いてみた。

 

 ロクサーヌとレオニスは同意したが、ヴィーネだけは断った。砂漠超えで疲れが溜まっているらしく、今日は早めに休むそうだ。

 

 ヴィーネは不参加だがスーシーとの食事を約束したシン達。

 

 そして話は切り替わり、仕事モードに入ったスーシーが「ところで、ここに来た目的は?」と尋ねてきたので、シンは懐(バウキスの異袋)から一枚の封書を取り出した。

 

 

「この手紙を、ある人物へ届けに来たんだ。差出人はカルロー村の村長アレックス」

 

「アレックスッ!? それってもしかして、元金ランク冒険者で、“豪腕”の二つ名を持つ、あのアレックスッ!?」

 

「ああ、そうだが..............知り合いか?」

 

「別に知り合いって訳ではないけど.............私達ギルドの人間なら一度は必ず聞く名前よ。かつて“最強”と呼ばれてた冒険者のお弟子さんだもの。それに、彼の姉君であるキャサリンさんは、ギルドの各支部の支部長を育てたギルド役員みんなの憧れだし、かく云う私もキャサリンさんに憧れてギルドの受付嬢になったもの」

 

「へぇ〜。てっきり恋愛相手を見つけるために、受付嬢になったのかと思ってたぞ」

 

「まあ、それもあるけどね。で、この手紙は誰宛になるのかしら?」

 

「〝()()()()()〟」

 

「「「「ッ!?!?」」」」

 

 

 突然、シン達の背後から男の声が聞こえ、彼等は驚いた様子で勢い良く振り返る。

 

 そこには長い白髪をセンター分けにし、白い髭を貯え、杖を突きながらも背筋がしっかりと伸ばしている老夫が居た。歳は見たところ七十を超えていそうだが、随分と若々しい。体格も大きく、背はシンより少し高いぐらいで、体つきもガッシリしている。声には覇気があり、立ち姿と相まって、“歴戦の戦士”を思わせる風格と貫禄が見受けられた。

 

 そんな彼の存在をシン達は全く気付けなかった。音も無く、気配や魔力すら感知させずに、彼等の背後に忍び寄っていたのだ。

 

 それだけで只者では無いと直感し、あっさりと背後を取られた事に危機感を覚えたロクサーヌ、レオニス、ヴィーネ、バウキスが老夫を警戒する。ロクサーヌは腰の剣に手を掛け、レオニスは拳を握り、ヴィーネは腰裏の金属器に手を伸ばし、バウキスはシンの懐から顔を出して威嚇していた。そして、ロクサーヌ達の殺気が込もった視線が老夫を射抜く。

 

 その殺気を真正面から受けている老夫は一瞬驚いた様な顔を見せる。しかし、動揺している訳では無いらしく、ロクサーヌ達の殺気を柳の様に受け流し、次の瞬間には不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

「良い殺気だ。不肖の弟子達にも見習って欲しいぐらいだな」

 

 

 老夫がそんな事を口にした。

 

 アレックスの手紙について触れた発言といい、気配感知に優れたロクサーヌやレオニスを出し抜く身のこなし。

 

 それらを踏まえ、シンは目の前の老夫こそ、自分が会ってみたいと思った人物だと–––––––––

 

 

「あっ! 支部長!今までどこに行ってたんですかッ!」

 

「んん? そんなの決まってるじゃないか、スーシー君。散歩だよ、散歩。朝食前に目覚めの運動をね」

 

「それを言うなら昼食前ではないのですか? もう昼前です」

 

「あれぇ? そうだっけ?」

 

「はぁ〜〜、お願いですからしっかりしてください、()()()()()()()()

 

「ハハハッ! 君が床を共にしてくれるなら、私も少しは寝起きが良いのだがねぇ」

 

「生憎、私はアズィール支部長の様なお年を召したシワシワな体に興味はありませんので」

 

「ケチくさいなぁ〜。おっぱい揉むぐらい許してくれても良いじゃないか。余るぐらいデカいんだから」

 

「私の体はそんなに安くはありません。いい加減真面目にしないと、“()()()”に言いつけますよ?」

 

「ちぇ〜」

 

 

––––––––––思えなかった。

 

 いや、名前は合ってる。シンがアレックスから聞いた名前は確かに“アズィール”だ。

 

 先代勇者の血を引き、かつて“最強”の冒険者と謳われ、鬼の様な強さと剣技で名を馳せ、過酷な訓練方法でアレックスという元金ランク冒険者にトラウマを植え付けた傑物。元金ランク冒険者にして冒険者ギルド公国支部をまとめ上げる現冒険者ギルド公国支部 支部長。それが“アズィール”という男である。

 

 と、アレックスから聞いていたシンは、厳格で威厳があり、凛々しさと雄々しさを兼ね備えた剣士を想像し、会えるのを楽しみにしていたのだが..................

 

 

「............ただのセクハラ親父じゃん」

 

 

 シンが期待で胸一杯に膨らませたイメージ像が一気に崩れて落ちた。

 

 ロクサーヌやレオニス、ヴィーネ達も目の前の好好爺とスーシーのやり取りを見聞きし脱力している。バウキスなんていつの間にかシンに懐に戻っている始末だ。さっきまでの剣呑な雰囲気は何処へやら。

 

 するとアズィールはスーシーに向けていた視線をシン達に移した。いや、正確に言うならロクサーヌの“胸”である。

 

 

「ほほぉ〜、君もなかなか立派な物をお持ちの様だ。どうだろう、今夜私と...............」

 

「結構です」

 

 

 このジジイ、見境がねぇ〜。明らかな下心で口説いて、速攻でロクサーヌに振られてやがる。と言うか、ほんとにこの人がアズィールなのだろうか? いや、寧ろ、違ってくれ!とシンは心の内で願いつつ、目の前の好好爺に話しかけた。

 

 

「えーと、貴方がアレックス殿の師匠である、アズィール殿ですか?」

 

「いかにも。私があの腑抜けを(いじ)...........ゴホンッ! 鍛え上げたアズィールだ」

 

(今一瞬、“虐めた”って言おうとしてなかったか? ていうか、やっぱりこの人が“アズィールかぁ〜)

 

 

 シンの想いは届かなかった。

 

 どうしよう。別に先代勇者に関して、訊かなくても良い様な気がして来た..........。

 

 

「それで? あの腑抜けがようやく私に手紙を送って来たそうじゃないか。()()()は毎年欠かさず手紙を寄越していると言うのに.............」

 

「あのぉ、取り敢えず手紙、受け取ってくれませんか?」

 

「そうだな。どれ、寛容な私だ。せめてもの慈悲として中身を見てから、どう虐めるか決めてやろう」

 

(虐めるのは確定なんだ............アレックス殿、南無三)

 

 

 そうしてシンが封書をアズィールに手渡し、丁度二人の手が封書に触れている瞬間、それは起きた。

 

 シンが身に付ける七つの金属器とアズィールが持つ杖が光輝いた。

 

 

「「ッ!?」」

 

 

 そして悟った。

 

 お互いに目の前の相手が()()()使()()である事を。

 

 すると、アズィールは人懐っこそうな表情を一気に引き締め、鋭い眼光でシンを見つめると、不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「なるほど、アレックスの本命はこっちだったか.............青年、名はなんと云う?」

 

「...............シンです。アズィール殿、何故貴方がそれを?」

 

「おっと、それをここで話すわけには行かない。せめて場所を移させてくれ」

 

「分かりました。ですが、これだけは答えて頂きたい」

 

「何かね?」

 

「先程から貴方の後ろに居る女性は?」

 

「ッ!? しまったッ!」

 

 

 シンはアズィールの背後に立つ()()()()()()()()()に視線を向けながら尋ねる。ちょうどシンの金属器が光り終わった後ぐらいに彼女は冒険者ギルドに現れ、さっきからず〜っとアズィールの後ろで立っていたわけだが...............。一体、何者なのか? それをアズィールに尋ねると、慌てた様子でアズィールが背後に振り返ろうとする。しかし、遅かった。

 

 アズィールの背後に立つ赤毛の女性が、彼の腰を両腕でガッチリとホールドし、そのままアズィールが持ち上げられる。

 

 

「こんのォッ、エロ親父がァァァッ!!」

 

「ちょッ! 待て! ヴィオ––––––ぐぼぁッ!!」

 

 

 赤毛の女性はアズィールを抱えたまま後方へと体を反らし、ブリッジの姿勢で彼の後頭部を地面に叩きつけた。綺麗にジャーマンスープレックスが決まり、でんぐり返しに失敗した様な体勢になっているアズィール。なかなかに恥ずかしいポーズにされ、撃沈している。

 

 それを行った赤毛の女性は軽やかに立ち上がり、良い汗かいた!みたいに額を拭いながら、ふぅーーっと息を吐く。実に清々しい笑顔で。

 

 目の前の光景に呆然とするシン達。一方で周りに居る冒険者達はヴィオラのジャーマンスープレックスに湧き立ち、スーシーは「だから言ったのに............」と口にし、残念な人を見る様な視線をアズィールに送っていた。

 

 置いてけぼりのシン達。

 

 すると彼女はシンの方に向き直り、困った様子ではにかむと、シンに握手を求めて来た。

 

 

「あはは..............恥ずかしいところを見せちゃったわね。その、ごめんね?...............あたしは“()()()()”。非常に遺憾な事だけど、一応そこで伸びてるアズィールの“娘”よ。よろしくね?」

 

「.............あ、ああ、シンだ。こちらこそよろしく」

 

 

 差し出された手を握ったシン。

 

 “ヴィオラ”と名乗った彼女は、実に美しく、爽やかな女性だった。整った顔立ちで、少し短い赤毛を低い位置で纏め、大きく見開かれた碧眼はまるでアンカジのオアシスの様に透き通っており、胸元がガッツリ開いた白い上着と赤いスカート、そして革製のブーツを着込んでいる。程良く実った大きな胸と引き締まったくびれ、女性らしい腰つきと長い手足。端的に言ってモデル体型のすごく健康的な美人だ。厚底のブーツを履いているヴィオラだが、素の身長は目算でも百八十センチ弱と言ったところ。シンの目線と殆ど変わらなかった。

 

 握手を交わした二人の手が離れ、ヴィオラは伸びているアズィールの片足を掴んだ。

 

 

「父と話をするんだったわよね? 奥の執務室なら誰にも邪魔されないと思うわ。それで良いかしら?」

 

「ああ、構わない」

 

「良かった。なら案内するわ、ついて来て」

 

 

 そう言って、ヴィオラはアズィールをずるずると引き摺りながら歩き出した。そしてヴィオラは周りにいる冒険者達に対し、にっこりと微笑みながら小さく手を振る。すると冒険者達はデレっとした顔で、ヴィオラに手を振り返した。その大半が厳つい男性冒険者だが、女性の冒険者達も彼女に手を振り、「いつもご苦労さん!」と声を掛けている。彼女がいかに人気で、人望に厚い女性なのかが垣間見えた。

 

 そしてヴィオラはギルドの奥に繋がる扉を開け、中へと入って行く。シン達もそれに続いて中へと入り、彼女の後を着いて行き、執務室へと向かう。引き摺られているアズィールに哀れなモノを見る様な視線を向けながら。

 

 




アンカジ公国に到着し、ちょっとした再会と新たな出会いを迎えたシンでした。そして新しい金属器使いの登場です。


補足


『登場した技能』

「予知夢」
・ヴィーネが持つ固有魔法。自身が眠りについている間にのみ発動する特殊な魔法。無意識下でしか発動しないため、自在に操る事は出来ない。しかし、一度発動すれば何日も先の未来を見通す事が出来、望んだ未来へ至る為の道順や回避すべき未来で起きる事象を知る事が出来る。その代わり、寝起きでごっそり魔力を持っていかれてしまうが..............。ステータスプレートで確認したわけでは無いので、その真偽は定かでは無い。


『登場したオリキャラ』


「アズィール」
・先代勇者の血を引き、アレックスとクリスタベルの師匠であり、元金ランク冒険者にして現アンカジ公国の冒険者ギルド公国支部の支部長を務めている。歳は77歳。高齢の割にかなり若々しく、体格もしっかりしており、背筋も一切曲がって居ない。センター分けにした白い長髪と、白い髭姿。普段はセクハラばかりの好好爺と言った感じだが、顔立ちは意外と精悍で、若い頃モテただろうなぁ〜と思えるぐらいには勇ましい。身長はシンより高く、レオニスよりは断然低い。杖は仕込み刀。そこにジンが宿っている。
(イメージは「解雇された暗黒兵士(30代)のスローなセカンドライフ」に登場する“アランツィル”です)



「ヴィオラ」または「ヴィオラ・フォウワード・ゼンゲン」
・アズィールの息女。赤毛で高身長、顔立ちもスタイルも良い快活で爽やかな女性。照れ笑いや困った様にはにかむ姿が愛くるしい女性で、歳はロクサーヌよりも上。お姉さん気質で男女関係無く人気がある。特に女性人気が高く、彼女の高身長と相まって、まるで王子様の様な扱いを受けている。母親はアンカジ公国領主であるランズィ・フォウワード・ゼンゲンの姉で、領主とは血縁関係にあたる。そのためランズィの息子であるビィズや娘のアイリーとも仲が良く、慕われている。彼女もまた冒険者でランクは“黒”。自身の身長がコンプレックスだが、それを活かすために冒険者を始めた。そして、彼女もまた先代勇者の血を引く者。
(イメージは「FGO」の“ブーディカ”です。原作キャラと違って身長もキャラ設定も違いますので、あしからず)


「スーシー」
・今作第五話「別に、アンタなんか!」に登場したオリキャラです。癖のある明るい茶髪と赤縁眼鏡がトレードマークに綺麗な女性。スタイルも抜群で男好きのする体をしている。王都の冒険者ギルドで受付嬢をしているが、今はアンカジの冒険者ギルドに出張で来ている。
(イメージは「ママ喝っ」に登場する“津田川桃花”です。※エロアニメのキャラクターなので、気になる方は注意してご確認を)

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