ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜 作:つばめ勘九郎
ーーside:クラスメイト(勝気な少女)ーー
訓練場の中心で相対する要&ハジメペアと檜山大介率いる小悪党グループ。
訓練場には他のクラスメイト達や騎士団の兵士達が彼らから離れたところで立っており、要やハジメ達に不安そうな視線を向けていた。その中の一人の少女も周りと同様に要を見ていた。
「さあ、始めようぜ」
要はそう言うと腰の刀剣を抜いた。一週間ぐらい前から急に彼が持ち始めた武器。片刃のアラビアン風な剣、素人目でもかなり値を張りそうな代物を構えた。その姿は妙にさまになっていると思った。
「「「「........」」」」
「どうした、来ないのか?......なら、こっちから行くぞ!」
「ー錬成!ー」
要は刀剣を構えたまま檜山達に向かって駆け出した。それと同時に南雲は訓練場の地面を隆起され壁を作る。檜山達から南雲の姿が見えない様に体を隠せるぐらいの大きな壁だ。
向かってくる要に対して檜山が率先して攻撃を仕掛ける。
「ここに風撃を望むーー“風球”!!」
「ここに焼撃を望むーー“火球”!」
檜山の風属性魔法と中野の火属性魔法が要に向かって飛んでいく。だが要はそれを難なく躱し、あっさり檜山に近づき剣の間合いに入った。
「こ、ここに....!!」
「遅い」
咄嗟に魔法を繰り出そうと詠唱に入った檜山だったが、要の腹パンがメリメリと檜山の腹に突き刺さった。『グヘェッ!』と潰れたカエルの様な呻き声を上げると、腹を抑え数歩後退する檜山。
「くそがっ!こうなったら切り刻んでやる!!...あれ?」
檜山は悪態をつきながら腰の剣に手をかけた。だが、自分の得物である剣がどこにもないことに気づいた檜山は視線を彷徨わせ、目の前の要の手を見てさらに悪態をついた。
「返しやがれ!俺の剣!!」
「素直に返すかよ、ほーれ」
要は檜山から奪った剣を明後日の方向に投げ捨てた。それを見てさらに怒りのこもった目で要を睨んでいる。
そんな檜山を見かねて近藤が自身の得手である槍を構え、要に向かって突撃してくる。すぐに槍の間合いに到達した近藤は大上段からの大振りで要を叩きのめそうとしたのが、それをいとも容易いと言った様子でギリギリ当たらない程度の半身で躱される。おまけに振り下ろした槍が地面に到達した瞬間を狙って、要は槍の穂先を足で踏みつけた。
「なっ!?」
「こんな簡単に武器を足蹴にされて、お前ら本当に前衛職かよ」
「ぐっ、ふざけんな!」
おちょくられて怒った近藤が無理やり槍を要の足下から引き抜こうとする。しかしそれならちょうどいいと、要はにやりと口角を上げ、一歩踏み出した。だが、踏み出した先は地面ではなく槍の長い持ち手の部分。
「はぁッ!?ーーブフッッ!?」
驚いた様な声を出した近藤だったが、すぐに蹴り飛ばされた。ここにいるみんなも近藤と同じ様に驚き、目の前で起きた一連の流れに衝撃を受けただろう。何せ、要がまるで軽業師の様に近藤が持っている槍に乗ったと思ったら、近藤の顔面に向けて空中で回し蹴りを繰り出したのだから。繰り出した本人も驚いて、なんか嬉しそうにしている。
「だ、大介に礼一も!何やってんだよ!」
「うるせぇ!!お前らこそさっさと魔法打ちまくれ!当たんなきゃ意味ねぇだろうが!」
「そっちこそ、さっきから全然勝負になってねぇじゃん!」
「はぁ〜、おいおい、ここに来て仲間割れかよ....(ま、時間稼ぎにはちょうどいいけど)」
檜山達が言い争っていると、要が呆れた様に溜息を吐きつつそう言った。そして地面に転がっている近藤の槍を拾ってそれをあっさりと近藤に投げ返した。
「お前らさ、ハジメをフリーにしてていいの?」
「あ?あいつ壁の後ろから出てこないじゃん」
「あんな雑魚、無視しても余裕だっての」
「それよりまず、お前を潰す!南雲のクソはその後だ。そんで俺を殴った分の倍、あいつの顔をボコボコにしてやる!」
檜山達がいかにもな態度で南雲をナメた言動をとっていた。特に檜山は殴られた事を気にしている。
友人に対して危ない発言している檜山、それを黙って聞いている要。だが、そんな彼の口角がニヤリと静かに上がっているのを少女は見逃さなかった。
「へぇー、じゃあさっさとかかってこいよ。四対一で俺に手も足も出ないんじゃお前らハジメ以下だからな」
明らかな挑発、だがそんな要の言葉は全て檜山達にとっては火に油を注ぐ様なもの。
檜山と中野、斎藤が火魔法、風魔法と繰り出し、近藤も槍を拾って応戦する。だが、それら全てが要に全く当たらない。まるでひらひらと風に舞う葉っぱの様に簡単にあしらわれていた。
「...すごい」
そんな彼の姿に少女はただ一言、率直な感想がポロリと溢れた。
以前から要のステータスが天之河に匹敵することは知っていた。けど、彼は付与魔術師だ。前衛職の、それも勇者の天職を持つ天之河には絶対に敵わないと思っていた。けど、目の前の光景を目にすれば、そんな考えは吹き飛んでいく。
前衛職四人を相手取り、魔法も使わず技術だけでここまで渡り合っている姿を見れば、天職がどうだとか、才能がどうだとか、そんな考えは意味がないとわからされる。
そしてこの試合もとうとう終わりを告げようとしていた。
「シンっ!!」
「おう、いいタイミングだ!こっちはもう出来上がってるぜ!」
今まで壁にずっと隠れていた南雲が顔を出し、要に向かって声をかけた。それを待ってました!とばかりに要が笑顔で応える。
すでに檜山達は疲弊しており、魔力も尽き、息も荒げ、さっきから四人はただ殴りにかかっているばかりだった。
「仕上げだ。ーー猛き力をここに施せーー“剛力付与”」
要がこの試合で初めて付与魔法を使った。付与の先は自分自身。筋力を強化する魔法の付与で、要は淡い光を纏い輝く。そして要はハジメがいる壁の方に駆け出した。
「逃げんな!要ぇ!!」
「お前はメインディッシュ、だ!」
いの一番に要を追いかけてきた檜山を要は蹴り飛ばした。強化された要の肉体が繰り出す横蹴り、見事に不意をつき檜山の腹に突き刺さり吹き飛ばした。それも数回バウンドさせ、五メートルは飛んだ。試合開始すぐなら近藤、中野、斎藤は檜山を心配していただろうが、要にいい様にあしらわれ頭に血が昇っているため、転げ回る檜山を見向きもしないで要を追う。それを見て、要もまた駆け出す。
そして壁の前に到着した要は振り返って、手に持つ刀剣を鞘に収めると、地面に思いっきり拳を叩き込んだ。
強化された膂力で放つ鉄拳が地面に突き刺さる。
すると突き刺さった拳の先から地面にヒビが入り、そのヒビは向かってくる近藤達の足元に到達すると、地面に大きな穴が生まれた。
「「「なっ!!??」」」
三人は同じ様なリアクションで簡単に穴に落ちて行った。
「ーー錬成!!ーー」
壁に隠れていた南雲がそう唱えると、壁にしていた土の塊が穴の方へと倒れていく。そう、まるで落ちた三人が出てこられないよう穴に蓋を被せるがごとく。
ズドンッーーーー
やけに訓練場内に壁が倒れた音が響いた。
目の前の光景に、周りで見届けていたクラスメイトや兵士のみんなも驚いて声を出せないでいた。しかし、そんな中でも二人だけは笑顔で上手くいったとハイタッチをした。
「さすがハジメ、錬成師としていい仕事だったぜ。タイミングもバッチシ!」
「シンこそ、四人を相手によくもまあ凌いだものだよ。まあ、シンなら余裕だっただろうけど」
要は笑いながら南雲を労い、南雲は全身土汚れが目立ち疲労している様に見えるが、それでも笑いながら要に応えていた。
「そういえばシン。なんで檜山君だけ残したの?確か作戦だと....」
「ああ、気が変わった。ちょっとあいつに
「....え?」
なんとも意味深な発言をした要。それを聞いた南雲が何やら顔を引き攣らせていた。
そして要は檜山の方に歩み寄って行く。そんな要を見て尻餅をついている檜山は怯えた様な声を漏らし、顔を引き攣らせた。要はそんな檜山を見下ろしてながら口を開く。
「お前達の負けだ。どうだ?舐め腐ってた相手にいい様にされた気分は?」
「な、なんだよアレ...なんで南雲が...」
「お前達がハジメを舐めて放置してたから、あいつが自由に動いていただけだ」
「嘘だ!!無能の南雲があんな真似できるわけねぇ!お前がなんかやったんだろ!」
「つまりお前はあいつに負けだわけじゃないと?」
「あ、ああ!!」
「だったら証明してみろよ。今度こそ
「「え?」」
「てなわけだハジメ。ちょっと檜山ぼこってこい」
「え、ちょっ、えぇ〜〜〜!!??」
「お互い疲れてるんだし武器無し、魔法無しの素手で勝負をつけようじゃねぇか」
「何言っちゃってるのかなぁ〜、何言ってくれちゃってるのかなぁ〜〜!」
急な展開に檜山は呆然と要を眺めていた。そして唐突にとんでもない企画を通してきた友人に南雲は普段しない言動で要に掴み掛かり、要の体をガックンガックン揺らしていた。それを無抵抗のまま、されるがまま「あっはは♪」と穏やかに笑っている。
もちろん急な展開に檜山はもちろん、周りの人達も何が何だかと言った様子で訝しそうに二人を見ていた。ただ一人、笑顔でとんでもないオーラを放ち、静かな様相で要に怒りを募らせる治癒師がいたが、今は触れないでおこう。
「...上等だ!」
先程まで要と南雲を呆然と眺めていた檜山が、キッと睨み、立ち上がって南雲に殴りかかろうとした。だがーー
「くたばれ南雲ぉッ!」
「え、あ、....ふんっ!」
「ぐぼぉっ!」
咄嗟のことながら檜山の拳を躱し、カウンターの南雲の拳が見事に檜山の顔面にクリーンヒットし今度こそ完璧に檜山はダウンした。
呆気なく決着がついてしまった。
「.....ユー、アー、チャンピオン!」
「シン〜〜〜〜〜!!!」
なんとも締まらない空気の中、南雲の手を掴み掲げさせる要。それを振り払って南雲が怒った様子で要を追い回す。それを笑って謝りながら逃げる要。なんとも檜山が哀れでならない。
「そこまでだお前達!」
するとこの戦いを見守っていたメルドが声を張り上げて訓練場の中心にやってきた。そして散り散りだったクラスメイト達、兵士たちに集まれ!と声をかけ、みんながメルドの元に駆け寄ってくる。檜山や近藤達は他の兵士達が介抱している。
「見事な勝負だった、シン、ハジメ。特にシン、あれほど卓越した戦闘技術を持っていたとは驚きだ、今後とも
「はい」
「それからハジメ、あの大穴はお前が作ったものだな?壁に隠れた後、密かに地面に潜り、壁の手前で穴を広げていた。そしてシンがおびき寄せた信治達を一網打尽にし、あらかじめ作っておいた壁で蓋をした。そうだな?」
「はい、それにもし誰かが僕を追ってきていたら作っていた穴から脱出して穴を崩落させる。そういう段取りでした」
「やはりな。それに最後の腰の入った拳もなかなかの物だ。ちゃんと鍛錬の成果が出ているみたいだな」
「あっはは.....まぁ、檜山君が残っていたのは予想外だったんですけど」
渇いた苦笑をこぼす南雲がジト目で要を見るも、ツゥーっと要は視線を逸らした。そんな様子を見て少女は「あ、南雲知らなかったんだ」と思った。
「うむ、二人は今後とも精進する様に」
「「はい!」」
要と南雲はメルドの言葉に力強く返事をし、今度は全員に向かってメルドが口を開いた。
「お前達も見ていた通り、例え数で不利になろうと、力で劣っていようとやり方次第でいくらでも逆転できる!それを成しえるためには努力を
「「「「「「「「「「はい!!!!!」」」」」」」」」
「よし、では今後の予定を伝える。明日、早朝より王宮を出立し、オルクス大迷宮のあるホルアドへと向かう。そこで実戦訓練を行い、魔物討伐を実際に体験してもらう。そのためにも今日は明日に備え、早めに休むように!では解散」
そう言ってメルドは訓練場を後にした。
他のクラスメイト達もそれぞれ散り散りになり、明日のことについて話し合ったら、さっさと部屋に帰って行ったらしていた。
初めての本物の戦闘。そう思うと無意識に手が震えて、それを感じ取った少女の友人が声をかけてきた。
「優花っち大丈夫?」
「あ、うん。平気だよ」
「とうとう来たって感じだね、魔物討伐。大丈夫だよね?」
「大丈夫だって。天之河君達もいるし、メルド団長もいるんだから」
「それにほら、優花っち愛しの王子様もいるわけだしね〜」
「は、はあ!?何言ってんのよ!」
「あぁ、愛しの要様、どうか私をお守りください!」
「安心するといい優花、いや姫!俺が貴方を必ずお守りします!そして貴方を守り抜いた暁にはその唇を貰い受けます」
「ちょっ、二人とも何言ってーー」
「まあ、そんな!守り抜いた暁にとは言わず、今でも構いません!」
「姫!」
「要様!」
「「キャーーーーッ!!」」
「変な妄想するな!別に要のことなんて好きじゃないし!てか声大きいのよ!!」
園部優花、菅原妙子、宮崎奈々がなんとも女子らしい会話で盛り上がっていた。妙子と奈々の即興寸劇に慌てて声を被せる優花、そんな三人に視線を向けている人物がいた。
「ちょ、要が見てるじゃん!!」
「もぉ〜なんで隠れるのよ優花っち」
「べ、別に隠れてるわけじゃないし!ちょっと日差しが暑いからお妙の影に入ってるだけだし!」
「いや優花〜、その言い訳は苦しいって」
「ほんっと優花っちはツンデレのツンが激しいなぁ〜」
妙子の後ろに隠れる優花、その時点で要を意識していることの証明なのだが本人は全く気づいていない。そして妙子の後ろからそっと顔を覗かせ、要がいなくなったのを確認してホッと胸を撫で下ろした。
「もう二人ともバカ言ってないでさっさとお昼食べに行くよ!」
「もう待ってよ優花っち」
「待ってよ〜」
優花がさっさと訓練場を出ていくので、それを追って妙子と奈々も訓練場を出て食堂へと向かう。
(また要に聞きそびれちゃった。ほんと私、何やってんだろ........)
なんてことを思い、自分のこの勝気な性格にちょっぴり嫌気がさしながら、優花は食堂までの歩みを緩めることなく進んだ。
ちなみに何故要がいなくなったのかは、香織に聞けばきっと笑顔で答えてくれるだろう。鬼のオーラを纏って。
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白崎(鬼)の説教からようやく解放された要は昼食後、一人で王都の街にやってきていた。
というのも以前からリリアーナに聞いていた魔道具市場が今日開かれるらしく、冒険者稼業で稼いだお金もたんまりあるし、暇つぶし程度で使えそうな道具を探しに来ていたのだ。
ハジメにも声をかけ、ついでに冒険者登録を済ませようと誘ったのだが流石に今日は疲れたらしく、冒険者登録の件はオルクス大迷宮から帰ってからということになった。
市場の規模はそれほど大きくないのだが、かなりの冒険者でごった返していた。こう言う時、大抵漫画やアニメだと常識知らずが無警戒に歩いて財布をスられるというのがお決まりだが、そんな間抜けなことにはならない。今の格好はいつも王宮でいるような格好ではなく、冒険者として働く時の装いで、財布も完全ガードしている。抜かりはないのだよ。
と内心で某悪魔な閣下みたいな声で大笑いをしていた。そう、要は割とテンションが高かった。
すると少し先の小物店が何やら客と揉めていた。
こういうことはよくあることだろうと、スルーもできるのだが客の声に聞き覚えがあり近寄っていく見ると案の定知り合いだった。というかクラスメイトだった。
「こんなところで何やってんだ、園部?」
「え、要!?なんでここに!?」
「いや、それはこっちのセリフなんだが。それより何かあったのか?」
「聞いてよ要!このおっさんが私に難癖つけてくるのよ!」
「おや、兄ちゃんこの子の知り合いかい?困るよぉ〜、うちの商品に傷をつけられてねぇ〜。こっちはお金を払ってくれれば大丈夫だって言ってるのに払わないの一点張りなんだし、代わりに兄ちゃんが払ってくれるのかい?」
「なっ!?要は関係ないでしょ!それに私は傷なんてつけてないっての!」
ふむ、どうやらお約束展開に園部が捕まってしまったらしい。
「それで?その傷の入った商品ってのは?」
店主がその商品、花型の細工が施された髪飾りを手渡してきた。それを受け取り、見ると確かに花細工の部分にくっきりと傷が入っていた。
「いくらだ?」
「一万ルタだよ」
はい、ぼったくり確定。お世辞にもこの程度の細工なら高く見積もっても五百ルタってところだろうに、その二十倍と来た。
「随分ふっかけるな」
「あぁん?あんたも俺の店に難癖つける気かい?そこのお嬢ちゃんと一緒に警邏に突き出してもいいんだよ?」
「な!このおっさん!!」
「まあ待て園部。なあ店主、この傷どうやって付いたんだ?」
「そんなの決まってるだろ、何か鋭利なもので擦ったから傷がついたんだ」
「へぇ〜、じゃあ試してみるか。園部、爪でもナイフでもいいからそれを擦ってみろ」
「え!?で、でも.....」
「いいから」
「....うん」
園部は渋々要に言われた通りに爪でその傷が入った髪飾りを引っ掻いてみた。だがいくら引っ掻こうと先程の傷のようなものは一歳つかない。
「ナイフは?」
「え.....持ってないけど?」
「はぁ〜.....園部、お前不用心すぎるぞ?」
「え!ご、ごめん.....」
「だが今回はナイスだ」
要の言葉に不思議そうに首を傾げる園部。
「というわけだ店主、こいつの爪でいくら強く引っ掻こうがこんな傷元々つきようがないんだ。それにナイフのような鋭利なものもない。まぁ、もっとも.....」
そう言うと、要は店主の襟首を強引に引き寄せ、懐を漁る。すると案の定だった。店主の懐の中に、傷のついた髪飾りと同じ色、形状の花細工の髪飾りがあった。それを見た園部の驚くと同時に店主を静かに睨んだ。店主はバツが悪そうに視線を逸らした。
「てなわけでだ。俺もこいつももう行っていいよな?それとも警邏に突き出されたいか?」
「ちっ、わかったよ。まったく運が悪いぜ、ほら!さっさとどっか行け!」
「な!人を騙しておいて謝罪もないの、このおっさん!」
「まあまあ、いいから。ほら行くぞぉ〜」
「ちょっと要!」
悪態をつく店主にまだまだ文句を言い足りない!と噛みつこうとする園部の背中を押して、要達はさっさとその場を離れていった。
後日、その店の悪徳店主はタチの悪い冒険者にぼったくろうとして逆に高い金をふっかけられたらしい。
悪徳店主の店から離れた二人は並んで歩いていた。すると、園部が口を開いた。
「その....さっきはありがとう、助かった」
「いいってことよ。しっかし、園部がこんなところにいるなんてな。なんか目当ての物でもあったのか?」
「別にそういうわけじゃないけど...アンタこそどうなのよ?」
「まあ俺も園部と同じ感じかなぁ。冒険者ギルドに顔を出すついでに何か掘り出し物があればなと思って」
「冒険者ギルド?」
「あ、やっべ....」
「アンタ、まさか冒険者やってるの?」
「内緒にしてくれよ?」
「さあ、どうしたものかなぁ〜」
「なんか奢ってやるから、頼む!メルド団長の首もかかってるんだ!」
「なんでそこでメルド団長が出てくるのよ?あ、もしかしてメルド団長、黙認してるの!?」
「ぐぅ....」
さらに墓穴を掘る要。これ以上の情報はやらん!
「南雲は要と仲いいから当然知ってそうだし、他にいるとしたら〜....まさかとは思うけど、リリィも知ってたりする?」
なんでわかるんだ!?これが女の勘ってやつなのか?それとも探偵か?探偵なのか!?探偵なんだな、園部は!!と、秘密を知ってる面子を全て言い当てられて、若干思考が残念な方向に向かっている要。
「顔に出てるわよ、要」
「......................それマ?」
「もしかして、アンタって意外と馬鹿なの?」
色々残念な方向に振り切り始める要、そんな要を見てくすくすと楽しそうに笑う園部。気づけば二人は魔道具市場の露天には目もくれず、ずっと話しながら歩いていた。
そんな二人を陰ながら見守る二人の少女がいた。もちろん菅原妙子と宮崎奈々だ。二人はニマニマと表情を緩ませながら要と園部、二人の尾行を続けていた。
そもそも何故、園部がこんな市場にやってきたのかと言うと、原因は二人にあった。
実はたまたま要と南雲が話しているところに遭遇した菅原と宮崎。その話によると王都で開かれている市場に要が一人で行くと言うではないか。ならば!と二人は園部に一緒に市場に行こうと誘い、だがしかし用事ができたので先に市場に行っててと促したわけだ。園部の性格上、真面目に二人が戻ってくるのを待っていから市場に行ったかもしれなかったのだが、園部の脳裏で「もしかしたら要に会えるかも?」という疑念が浮かび、結果園部はついつい二人の話に乗せられたのだ。
先程の悪徳店主の時も二人は陰で見守っていたのだが、もし要がやってくるタイミングがもう少し遅ければ二人は飛び出していただろう。だが、ナイスタイミングで要が現れたことで二人の乙女ボルテージは最高潮!その上、楽しそうに要と喋っている友達を見て、二人はすっかり出来上がっていた。
というわけで任務(尾行)続行である、と二人は友達とその想い人を追うのだった。
そんな二人が尾行しているともつゆ知らず、要と園部は冒険者ギルドにやってきた。まるで場末の酒場のような趣きある雰囲気で、昼間からのんだくれる冒険者達がちらほらいる。
ギルドに入ってきた要と園部を見る冒険者達。
流石に園部もこの雰囲気に萎縮し、自然と要の服の袖を掴んでいた。
そして厳つい顔をしたガタイのいい冒険者の一人が要達に近寄ってくる。それを見てますます怯える園部は要の影に隠れるがーーー
「よお、シン!なんだよ女連れか?いい御身分じゃねえか」
「うるさいぞイワン。それより、また昼間から飲んで、嫁さんに尻叩かれても知らないぞ?」
「うっ、やめてくれぇ〜、今は考えないようにしてんだ」
「へ?」
思っていた展開と違うらしく、厳つい顔の冒険者と要が親しく話していた。要の背中に隠れていた園部がちょっこり顔を出す。そんな園部を見て要が苦笑すると、それを見た園部は気恥ずかしくなり、要の背中から離れた。しかし、袖を掴んだ手はまだ離れていない。
「おい、イワンの旦那!シンの彼女が怯えてっぞ?そんな厳つい顔で近寄られちゃ俺だって隠れたくなるぜ」
「うるせぇ!気にしてることいちいち言ってんじゃねぇ!」
「おーい、シン!悪いけどまた依頼手伝ってくれねぇか?お前の腕が必要なんだよ」
「悪いがまた今度だ。今日は依頼を受けにきたわけじゃないんでな」
「まじかよぉ〜〜!ぬわぁ〜〜、これで今日断られたの3回目だ、くそ!もういいや!今日はヤケ酒だ!明日のことは明日の俺に任せる!」
「荒れてるなぁ〜バッカスの奴」
「要 進、待っていたぞ。さあ悠久の時より続く我々の因縁を今日こそ決着させようではないか!」
「あ、悪い。また今度だ」
「ぬおぉ〜〜〜〜〜〜んん!!」
「まーたやってるよ、レクタ」
「構うな、病気がうつる」
なんとも騒がしい様相のギルド内。その中心にいるのが要らしく、先ほどから強面の男達から声をかけられては随分と親しく話している。それはまさに、要に対しての親愛と信頼を表しているようで、そんか要を園部は素直にすごいと思った。
「悪いな、騒がしい奴らで」
「それは全然気にしてないけど、要ってこの人達に信頼されてるんだ」
「一緒に仕事したり、アドバイスしたり、愚痴を聞いたりしてるだけさ」
「ふーん」
そんなやりとりをして要は依頼受付のカウンターに向かった。それについていく園部。受付のカウンターには要や園部より五歳は歳上っぽい綺麗な赤縁眼鏡のお姉さんが立っていた。
「いらっしゃい、シン。今も依頼を受けにきたの?」
「いや、今日はちょっと挨拶をしておこうと思ってな。明日
「!....なるほど、わかったわ。ギルドマスターには私から伝えておくわ。それよりシン、そっちの可愛らしい女の子は?」
「ああ、俺の
「なるほどね、てっきりシンの恋人かと思っちゃった」
「こいッ!?」
「揶揄わないでくれ」
「ふふっ、ごめんなさい、つい」
恋人と勘違いされたと思って顔を真っ赤にする園部。だが、それは受付さんの冗談だと知り、なんとか平静を保つ。
だが、この受付と要が妙に親しげなのが園部は面白くないらしく、段々目に力が入る。それを見ていた受付は微笑ましそうに園部を見て、ある提案をしてきた。
「そういえばシン、以前から魔道具探してたわよね?」
「うん?まあ確かに」
「実は今朝入ってきたばかりの魔道具が数点あるんだけど、よかったら見てかない?どうせ魔道具市でろくなもの見つけられなかったんでしょ?」
「確かにそうだが。う〜ん、まあ、そういうことなら。少し時間もらうけどいいか、園部?」
「ええ!私?う、うん、別に構わないけど」
そういうことでギルドが所有している魔道具を見せてもらうことになった。そうして受付の綺麗なお姉さんこと“スーシー”がいくつか魔道具を持ってきた。
首飾りや指輪、腕輪に小手などと大小様々なものがある。その中でも特に気になるのは首飾りと指輪だろう。首飾りは一度だけ着用者を即死級のダメージから守ってくれるもので、指輪は火魔法の付与が込められていた。
ぶっちゃけ首飾りと指輪、両方欲しい要は、スーシーに頼んでその二つを売ってもらうことにした。
「園部は買わないのか?」
「私はいいわよ、今の手持ちじゃ買えないもん。それよりアンタ、結構高い買い物だけど平気なの?」
「ああ、伊達に冒険者稼業で稼いでないし、稼いだ分も結構貯まってるからな。せっかくのお金なんだから貯めるより、使って経済を回した方がいいだろ?」
「なんか理屈っぽいけど、ようするに要がお金使いたいだけでしょ?」
「そうとも言える」
そしてスーシーが小包を二つに分けて入れ、魔道具を渡してきた。一つは普通の包装、もう一つは妙に小綺麗な感じで、スーシーが要にウィンクして合図を送ってくる。
それを見て要は何かを察し、少し考えた後、小綺麗な包装に包まれた指輪の魔道具を園部に渡した。
「園部、ほれ。これやるよ」
「え、私に!?私、欲しいなんて言ってないけど」
「お前、投術師だろ?ナイフとかに魔法を付与する方が威力も上げられるし、便利だと思うぞ?それに指輪だからあんまり嵩張らないし、お手軽に強化ができる」
「いや、そういうことじゃなくて!」
「今日半日、俺に付き合ってくれた礼だ。あとあの時の
「!!.....覚えてたんだ」
「当たり前だろ?とっても美味かったぜ、園部」
その言葉は園部が要からずっと聴きたかった言葉だった。唐突なことだが、それを聞けて本当に嬉しいらしく、園部は自分の髪をくるくると弄りながら、少し照れつつ礼を述べた。
「えっと、その.......ありがとう、要」
「ああ、どういたしまして」
ニマニマと笑顔を浮かべるスーシー。それを見て要が「言っておくが、こいつはダメだからな?」と言うのだが、園部にはそれがどういう意味かわからずにいた。後で聞いてみようと思った園部、そしてスーシーが男も女も両方イケる口だと知り、今日一番のびっくり顔を見せたのだった。
そんなこんなで用事を済ませ、王宮に帰ってきた二人。
何故かニヤニヤ顔の菅原と宮崎が園部の部屋の前で待っていた。園部が何かを察したらしく、二人を部屋の中に連れ込み「じゃあね、要」と言って早々に解散となった。
「さてと、暇だしリリィのところにでも行って今日のこと話しやるか〜」
なんて言いながら要はふらふらと歩いていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ーーside:クラスメイト(勝気な少女)ーー
自分の部屋に戻った優花は、要にもらった火魔法の付与が込められた指輪を指につけたり外したりを繰り返し、指輪をつけて手を俯瞰して眺めてみたりしていた。
先程まで妙子と奈々に今日のことを根掘り葉掘りと聞かれ、うんざりしつつも適当に答えていた。だが、なんでそれを知ってる?という二人が知り得ないはずの話も出てきて、実は二人が自分と要のことを尾行していたと知り、顔を真っ赤にしてワーキャーワーキャーと騒いでいたりしていた。
だが、そんな喧騒も今は静かで、外行きの装いから寝巻きに着替え、今はリラックスした状態でベッドに寝転がっていた。
「明日は大迷宮.....」
その言葉を呟き、僅かながらに不安を覚える。そして指に嵌めている指輪をもう片方の手で握りしめ、それを胸に優しく抱く。
すると少しだけ不安が晴れるようで、心が落ち着く気がした。
「うん、大丈夫だよね。みんながいるし、それに.....アンタもいるんだから」
指輪を眺めながら優花はそう呟く。
そして部屋の明かりを消し、いつもよりずっと安心して眠りについた。
割と長くなりました。
オリキャラ登場、名前のあったキャラはここに詳細書いときます。
イワン
・酒好きの厳つい顔をしたガタイのいい男。医者にお酒の飲み過ぎは控えるように言われているのに、稼ぎがいいとつい飲みすぎてしまう。そしてその度に恰幅の良い嫁さんに尻を叩かれる。尻が腫れて痛い日は酒を飲む気分になれなくなり、その反動で飲み過ぎてしまうという悪循環に陥っている。
要とは何度かパーティーを組み、その実力を認めている。
バッカス
・行き当たりばったりな猿顔の男。シンと同じ固定のパーティーを持たないなんでも屋の冒険者。見た目が弱そうなせいでパーティーに入れてくれないことを悩んでいる。
レクタ
・ただの厨二病患者。ランクは要と同じ。双剣士の天職持ち。要と出会った当初、要に絡んでおり、その際要にボコボコに殴られてから何故か要のことを気に入っており、よく話しかけてくる。
スーシー
・王都冒険者ギルドの受付嬢。少し癖のある明るい色の長い茶髪、赤縁眼鏡をかけ、綺麗でスタイルも良く、艶めかし女性。自称恋愛アドバイザー(性的な意味も込めて)。男も女も食えるタイプ。特に園部のような恋する女の子を食うのが好みらしいが、それと同時に恋する乙女を応援する事にも精を出している。要の顔は好みらしいが、絶対に手を出さないと決めている。スーシー曰く、「シンは怖い男よ。ついのめり込んでしまいそうになるから。だから手を出さないの、私は色んな恋や出会いを楽しみたいもの!」らしい。