ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

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おや、バウキスの様子が..............?





酒と女と蛇

 

 アンカジに到着したその夜。

 

 シン達は宿泊先の宿の一階にある酒場で食事をして居た。

 

 そこにはヴィーネを除いたシン、ロクサーヌ、レオニスの三人と、食事に誘ったスーシー、そして何故か食事に参加する事になったヴィオラとアズィールの計六名で、一緒の卓を囲っている。

 

 

「ゴク、ゴク、ゴク..............プハーッ!もう一杯っ!」

 

「おぉ〜!良い呑みっぷりじゃないかシン君! これは私も負けてられないなぁ! そこの可愛いウェイトレスさ〜ん、私にもお酒の追加お願いしま〜すっ!」

 

「かしこまりましたーっ!」

 

 

 お互いに肩を組んでお酒を酌み交わすアズィールとシン。

 

 シンの豪快な呑みっぷりに当てられ、アズィールがウェイトレスにお酒の追加注文をすると、同じくシンもお酒の追加を要求する。二人はすっかり仲良くなっていた。

 

 そんな二人を心配そうに見守る他四名。

 

  

「シン様、あまり飲み過ぎると明日に響きますよ?」

 

「お父さんもよ! シン君達に迷惑かけちゃ駄目なんだから」

 

 

 シンとアズィールの隣に座っているロクサーヌとヴィオラが二人を注意するが、「ダイジョブですッ☆」とシンとアズィールは片方の目尻でピースサインを作る。

 

 そんな二人を見て益々心配になるロクサーヌとヴィオラ。

 

 レオニスは呆れた様子で酒が注がれたジャッキを煽り、スーシーはシンの酔いっぷりに驚いていた。

 

 何故、スーシー主催の食事にアズィールとヴィオラまで参加しているのか。

 

 遡ること六時間と少し。

 

 ヴィオラの案内で、冒険者ギルドの執務室に通されたシン達。部屋に着いたタイミングでアズィールは目を覚まし、部屋の説明をしてくれた。そこは普段、来客が訪れた際、アズィールが対応する為に使う部屋でもあるらしく、他の者に聞かれては不味い内容なども話せるよう防音対策がバッチリ施されているのだとか。そして、その部屋の隣には仮眠用の休憩室があるのだが...............まあ、好色家のアズィールらしい使い方をだった。そんな事を語るアズィールの隣でヴィオラが、ほとほと困り果てた様子で頭を抱えていた。

 

 そんなこんなで始まったシン達とアズィール、ヴィオラの対話。  

 

 簡潔に言って、アレックスから聞かされていた通り、アズィールは先代勇者の末裔だった。と言っても、明確に天職が[勇者]と記載されていた訳ではない。しかし彼の天職は特殊な物であった。

 

 アズィールの天職は〝剣聖〟である。

 

 そして技能欄には[全属性適正]があり、光属性の魔法技能に特化した構成となっていた。他にも多数の技能を保有しており、その構成の殆どが天之河と酷似した内容である。さらにアズィールが保有する技能には、彼が勇者の末裔であると決定付ける証拠があった。

 

 その技能の名は[聖剣適正]。その名の通り、彼は聖剣を扱う適正があるそうだ。元来聖剣を扱える存在は勇者のみ。しかしアズィールは大昔、勇者が居ない時代に教会や王国に黙ってこっそり聖剣を使った事があるらしい。その時に彼は、聖剣に“()()”があると気付き、幼き頃に両親から聞かされた〝自分が勇者の末裔である〟という話が本当であったと確信したそうだ。だからと言ってアズィールは、自身が勇者の末裔であると教会や王国には伝えなかった。口外する事で、余計な争いに巻き込まれるのを避けたかったから。信頼出来る相手にはその事実を伝えているそうだが、現状それを知っているのはアレックスを含めた弟子の二人と娘のヴィオラ、この三名のみ。アズィールの妻もその事を知っていたが、病で倒れ、すでにこの世を去った後らしい。ちなみにアズィールの妻はアンカジ公国の現領主ランズィの姉で、ヴィオラは一応ゼンゲンの名前も名乗っているそうだ。後ほどゼンゲン公とも会わせてくれるとヴィオラが約束してくれた。

 

 そして、シン達はアズィールが先代勇者の末裔であると納得した。嘘を言っている様にも見えなかったし、何よりシンの直感が事実であると確信させた。一応ヴィオラも先代勇者の血を引く存在ではあるが、彼女は天職持ちでは無く、技能欄にも聖剣に関わる物は何も刻まれていなかった。アズィールの両親も、ヴィオラと同様に聖剣に関わる技能を持っていなかったらしい。覚醒遺伝?って奴だろうか...............。

 

 勇者に関しての話はある程度聴き終えたシン達。次にシンはアズィールが持つ“杖”について質問した。

 

 やはり、彼が持つ杖は金属器だった。

 

 どうやらアズィールが持つその杖には刀身が仕込まれており、その刀身に精霊(ジン)が宿っているらしい。精霊(ジン)の名は〝アシュタロス〟。一ヶ月以上前、世界各地で起こった不思議な現象の後日、アズィールがグリューエン大火山へと赴いた際にかの精霊と出会い、そこで自身が持つ“杖”に宿ったそうだ。その際、このトータスで起きている魔人族との戦争の原因やエヒトの事を聞かされ、()()()と呼ばれる王の存在も知ったらしい。

 

 そう語ったアズィールにシンは自分こそがその特異点であると伝え、神との決戦時に協力してもらう約束を交わした。

 

 ちなみにアズィールはアシュタロスの全身魔装を習得していなかった。魔装を完全に使い熟すには並々ならぬ修練と、使い熟せるだけの天性の才能、そして[魔力操作]の派生である[緻密操作]を習得しなければならない。[魔力操作]は持っているそうだが、今のところは武器化魔装で手一杯とのこと。尤も、武器化魔装が扱えるだけでも十分凄いのだが...............。

 

 その後シン達は、アズィール、ヴィオラと色々な事を話し合った。全身魔装習得についてや、アレックスが今何をしているのか、今後シン達がどう動くのかや、シン達が得ている神についての情報など。その会話の途中でシンとアズィールは意気投合し、半世紀に渡ってアズィールが身に付けた夜のテクニックをシンは伝授してもらった。妻が二人に増えたシンは、ロクサーヌと優花を満足させられる様に努力を惜しまない。そんなシンを隣で見ていたロクサーヌは内心で冷や汗を掻く。夜のテクニックが上がったシンによって、いつも以上に喘がされる自分を想像して。だが、少し期待している自分も居て、複雑そうにシンを見守っていた。

 

 話を終えた後、アズィールの計らいでロクサーヌ達のステータスプレートを作成してもらった。そのタイミングでシン達はヴィーネのステータスを拝見し、技能欄に[予知夢]がある事の確認も取れた。ステータスプレート作成後、魔物の素材を買い取って貰い、シン達は大金をゲットする。そのあとアンカジ公国領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲンやビィズ、アイリーとの挨拶も手短に済ませ、ヴィオラに案内される形でちょっとしたアンカジ公国の観光をした。その行く先々でヴィオラは領民から元気良く挨拶をされ、彼女はそれに応えていた。ヴィオラが公国内でどれ程信頼に厚い女性で、人気があるのかを垣間見たのだった。観光がてら、レオニスは遂に念願のスイーツ巡りが出来てご満悦の様子。シンやロクサーヌ、ヴィーネも実に楽しい時間を過ごすことが出来た。

 

 そして観光を終えたシン達とヴィオラは、仕事を終えたスーシーと合流。そこにアズィールも無理矢理参加して来て、彼の制御役としてヴィオラも食事を共にする事になったのだ。

 

 話は冒頭に戻り、シンとアズィールは酒を酌み交わして大盛り上がり。スーシーは王都でシンと出会った事や、シンが当時何を行い、どれほど他の冒険者達に慕われていたかをロクサーヌとレオニス、そしてヴィオラに語り聞かせたりする。

 

 そこからさらに一時間後。

 

 アンカジ公国で作られた火酒を浴びる様に飲むシンは、自身が持つ技能も相まって、なかなかの酔いっぷりであった。呂律もだんだん回らなくなり、トイレに行こうとすれば体がフラつき、千鳥足になる。トイレから帰ってくるのが遅いと思えば、知らない人達の席に着き、まるで始めからそこで飲んでいたかの様に盛り上がっている始末。そのうえ知らない女性を膝に乗せて、ナチュラルに口説いていた。そこに何故かスーシーも参加し、シンの膝上に座っている。シンとスーシーの顔がかなり近い。どうやらスーシーも、お酒を飲んだ事で気分が高揚し、自制心が利かなくなっているらしい。

 

 そんなシンとスーシーを見て、レオニスが呆れた様に溜息を吐き、ロクサーヌがやれやれと言った面持ちで二人を迎えに行く。アズィールはシンのモテっぷりに感心し、ヴィオラは苦笑いを浮かべる。

 

 自分達の席に戻るようロクサーヌに言われたスーシーは、彼女に言われるまま元の席に戻って行く。一方のシンは、酔いと眠気で立つ事もままならなくなり、ロクサーヌがシンの体を支えた。

 

 

「すみません皆さん。シン様がもう限界みたいなので、私もここで失礼させていただきます」

 

「うん、分かったわ。後の事は私に任せてちょうだい。ここに居る酔っ払い二人は私が責任持って監督しておくから、気にせずゆっくり休みなね」

 

「ありがとうございますヴィオラさん。レオニスはまだ残りますか?」

 

「ああ。まだ食後のデザートを食べていないからな」

 

「そうですか。それでは皆さん、お休みなさい。シン様、行きますよ?」

 

「ぅ〜ん? あぁ............え〜っとぉ、お休み〜」

 

 

 ロクサーヌの挨拶に続いて、シンもアズィール、スーシー、ヴィオラ、レオニスに向かって挨拶をする。酒酔いで頬を鮮やかな赤に染め、ものすごく上機嫌そうな笑顔を席に座っているレオニス達に向け、手を振っていた。そんなシンの素振りにスーシーとヴィオラも手を振って返し、アズィールは名残惜しそうにしている。レオニスはロクサーヌと視線を合わせ、「シンの事は任せたぞ?」と目だけで語った。それに対してロクサーヌは無言で頷き返す。

 

 シンとロクサーヌのみが解散となったが、レオニス達の夜はまだまだ長いらしい。

 

 部屋に辿り着いたシンとロクサーヌ。着いて早々、シンはベッドに腰掛けるが、そのまま横になってしまった。

 

 

「もぉ、飲み過ぎですよシン様。ほら、衣服を脱がせますのでバンザイしてください」

 

「ぅ〜〜ん............ばんざ〜〜い」

 

 

 シンは重たい体をなんとか起こし、まるで寝起きの子供みたいに両腕を力無く掲げる。

 

 そんな彼を見てクスッと微笑みながら、ロクサーヌはシンの金属器と服を脱がしていく。その途中でシンの懐に居たバウキスが邪魔にならない様、ベッドの上に飛び移り、シンとロクサーヌのやり取りを見つめる。

 

 パンツ一丁にされたシン。ロクサーヌは脱がせたシンの服をハンガーに掛け、外されたシンの金属器はバウキスが[異袋]へと収納していく。そしてロクサーヌも服を脱ぎ、シンの衣服と同じ様に自身の服をハンガーを掛けた。

 

 下着姿になったロクサーヌはシンに抱き付き、そのままベッドに寝転がる。

 

 シンの右腕を枕にし、ロクサーヌは彼の横顔を見ながら口を開く。

 

 

「ふふっ、今日は一段とシン様の体が温かいですね。けど、飲み過ぎはいけませんからね? シン様は飲み過ぎると記憶を無くしますし、知らない女性を無闇に侍らせてしまうんですから」

 

「ぁ〜、わるい...........」

 

「ほんとに悪いと思ってるんですか〜、もぉ」

 

 

 ロクサーヌは若干拗ねた表情を浮かべながらシンのほっぺを人差し指でツンシンと数回突く。

 

 

「他の女性を口説くのは致し方無いとしても、お酒に酔って無闇矢鱈と侍らせるのは見過ごせません。優花が泣いてしまいますよ?」

 

「ぅぐぅ〜、ぜんしょする...............いまごろぉ、ユウカはどうしてるかなぁ〜?」

 

「心配ですか?」

 

「まぁ〜なぁ〜」

 

「大丈夫ですよ。今頃はきっと、カルロー村の時と同じ様にウルでの農作業を終えて、ぐっすり眠っている事でしょう」

 

「そう、だと.........いい、な...............zzz」

 

 

 とうとう限界に達したらしく、シンは静かに寝息を立てて眠りに落ちた。

 

 そんな彼を見て、ロクサーヌはさらにシンへと素肌を密着させ、瞳を閉じる。無意識に動いたシンの右腕に抱き込まれながら。

 

 その傍ら、バウキスはいつもの様にシンの腹上を陣取り、二人と同様に眠りにつく。だが今回は少し違うらしく、シンに抱かれて眠るロクサーヌが羨ましかったのか、バウキスは尻尾で彼の左腕を動かし、シンの左掌が自身の体を包み込む様にした。

 

 それから数時間後、シンとロクサーヌが完全に眠りに着いたタイミングで、バウキスは[異袋]から二つの装飾品を取り出した。一つは〝キマリスが宿る金の首飾り〟もう一つは蛇の装飾が施された指輪である。金の首飾りをシンの手に握らせ、指輪はバウキスの尻尾に嵌め込まれた。そしてバウキスは、カルロー村でシンと再会した日から()()試みている、()()()()()を始めたのだった..............。

 

 

 

............................

 

..........................................

 

........................................................

 

 

 翌朝。

 

 シンは自分の体にのし掛かる重さで目を覚ました。

 

 酒場での記憶が半分近く無いながらも、その重さの原因はおそらくロクサーヌだろうと踏み、重たい瞼を開ける。最初にシンの目に映り込んで来たのは、自分の右腕を枕にして横向きで寝ているロクサーヌの綺麗な寝顔だった。静かに寝息を立てる彼女の豊満な胸が、横向きとなっているため、谷間を強調されている。

 

 そこでシンは、ふと疑問に思った。

 

 ロクサーヌはシンの右隣で寝ている。右腕が彼女の頭の下に敷かれているが、()()のし掛かっている訳では無い。

 

 では一体、今も感じられる()()()()()()()の正体は..............?

 

 そう思い、シンの視線は自身の腹上に向けられる。

 

 するとそこには、青みを含んだ銀髪と白い肌を持つ女性が一糸纏わぬ姿でシンの体の上で寝そべっていた。

 

 

「うそん................」

 

 

 状況に理解が追い付かず、シンは素っ頓狂な声を漏らす。

 

 シンの頭の中では様々な考えが駆け巡っていた。この女性は何処の誰なのか? そもそも何故裸なのか? あれ、なんかヒンヤリして気持ちいいかも。いやいや、そんな事を考えている場合じゃない! もしかして、自分とこの女性は致してしまったのか? だがそんな記憶は...............酒で記憶が飛んでるから思い出そうとしても意味がねぇ!

 

 お酒で記憶が飛ぶのはこれで二度目。そして飲み過ぎた事を後悔したのも二度目。もう二度と、いや、もう三度と、酒を飲み過ぎない事を心に誓ったシン。だが、そんな誓いは酒呑みには全く意味無い事をシンはまだ自覚していなかった..........。

 

 シンがそんな誓いを立てていた時、寝ていたロクサーヌが目を覚ました。

 

 

「..........おはようございます、シンさ............................()()()()、これは一体どういう事ですか?」

 

 

 寝起きのロクサーヌは目元を擦りながらシンに挨拶する。しかし、すぐにシンの上に乗っている女性に気付いたロクサーヌは微笑みながらシンに問い掛けた。口角は上がっているが、目は全然笑っていない。

 

 

「落ち着け、ロクサーヌ。お前と俺は長い付き合いだ。なら分かるだろ?」

 

「..............つまり、私が寝ている間に知らない女性をお持ち帰りして来たと?」

 

「違う違う違うっ! そうじゃ無くてだな! 俺が記憶飛ばすぐらい飲んだ日は、決まってロクサーヌが俺を部屋に運ぶだろ? その後俺は一回も目を覚まさず超爆睡!気付いたら朝!これ鉄板!つまり、俺がこんな事を仕出かす余地は無い!」

 

「お酒で記憶が飛んでる人を信じろと?」

 

「そこは信じろよ! お前達の主を信じろって!」

 

 

 懸命に弁明を図るシン。しかしロクサーヌは未だにジト目をシンに送っていた。どうやらシンは、お酒と女に関しては全く信頼されていないらしい。解せぬ。ちなみに、後でレオニスに確認したところ、そこに関しては彼も同意見らしい。

 

 

「...............はぁ〜〜。まあ確かに、シン様が酷くお酒で酔っている時は、朝まで絶対に起きませんしね。それにシン様を部屋に送ってすぐ、私も一緒のベッドで寝ましたし、何かあればすぐに気付くと思いますが...........念の為––––––––––」

 

 

 そう言ってロクサーヌはベッドのシーツを捲って何か確認しながら、鼻をスンスンと鳴らして匂いを嗅ぐ。

 

 

「––––––––ベッドも汚れてませんし、事後の匂いもしませんね。寝ていた私の下にシン様の腕があった事も加味すると...............白です」

 

「だから最初からそう言ってるじゃん!」

 

 

 ようやくシンの容疑が晴れた。

 

 すると、シンの上に寝そべっていた白い女性が「う〜ん.............」と眠気を引きずる様な声を漏らし、ゆっくりと閉ざされていた瞼を開けた。

 

 その切長な瞳はまるで見た者を吸い寄せる空色の宝石で、()()()()を彷彿とさせる美しさがあった。

 

 そんな彼女の瞳から送られる視線とシンの視線がぶつかると、空色の瞳の彼女はおもむろにシンの顔に自分の顔を近付け、二つに割れた舌でシンの頬をペロっと舐めた。そんな奇行に走った彼女の左手の薬指には、見覚えのある形をした指輪が嵌め込まれている。

 

 それを見た瞬間、シンは直感で先程から()()()()()()()()()の名前を口にした。

 

 

「お、お前、もしかして〝()()()()〟.........なのか............?!」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「...............つまり、二人が朝起きた時には、バウキスが()()()()していたと?」

 

「まあ、そういう事になるな」

 

 

 レオニスが簡単に話をまとめ、それに頷くシン。

 

 シン達は今、宿泊している宿を出て、朝食を摂るために喫茶店にやって来ていた。その喫茶店のテラスにある丸テーブルを囲むシン、ロクサーヌ、レオニス、ヴィーネ、そして謎の白髪着物美女。そして女性ウェイトレスに注文を終えた後、シンはレオニスとヴィーネに今朝起きた事を説明した。

 

 その傍ら、“謎の白髪着物美女” 改めバウキスは嬉しそうな表情を浮かべてシンの腕に抱き付いている。今バウキスが着ている白い着物は、昨日アンカジの観光をしていた際に見つけた衣服で、珍しくバウキスがシンにおねだりをして来たので買って上げた物だ。ゆくゆくはバウキスにも一度、[人化]を試し、着せて上げようと考えていたが、まさかシンが行動に移す前に、こんな形でバウキスが着物を着ている姿を見る事になるとは...............。

 

 

(にわ)かには信じられないな」

 

「貴方がそれを言いますか」

 

「いやまあ、その通りなのだが...............うーん、今なら親父の気持ちがなんとなく分かるな.............」

 

 

 レオニスの発言にロクサーヌがツッコむ。彼も[人化]をしている身だが、いざ見知った相手が人の姿を取っていると、なんとも言い難い複雑な気分になったみたいだ。自身の父レグルスがどんな心境だったか、なんとなく理解出来たらしい。

 

 まあレオニスの気持ちもわかる。朝、目が覚めたらバウキスが白髪のスタイル抜群な人妻風美女になっていたのだから。なんとも背徳感を唆る言葉だ。まぁ、正確に表現するなら未亡人風が適切だろうが..............いや、そんな事はどうでも良いのだ。

 

 するとヴィーネが、バウキスの姿を見て気になっていた事を質問した。

 

 

「バウキスさんが[人化]を成功させているという事は理解しました。ですがレオニスさんと違い、神代魔法が使われている様子は無さそうですが?」

 

「ああ。ヴィーネの言う通り、バウキスの[人化]は()()()()()()()()()()()。バウキス、説明してあげてくれ」

 

 

 シンがそう言うと、バウキスはシンの腕から名残惜しそうに離れ、「分かりました」と口にした。

 

 

「主人の言う通り–––––––」

 

「「主人?」」

 

「そこは触れなくていい.............」

 

 

 バウキスの言葉にレオニスとヴィーネが反応した。しかし話の腰が折れそうなので、シンはその説明を後回しにさせる。

 

 

「––––––––コホンっ..........シンさんの言う通り、私がこの姿に“変身”、そして維持出来ているのは神代魔法の力ではありません。これは、〝()()()()()()()()()()()()姿()〟なのです」

 

「眷属と、同化.............?」

 

 

 バウキスの言葉を聞き、レオニスは眉間に皺を寄せ疑問符を浮かべる。だがヴィーネは得心が行ったらしく「なるほど、やはりそうでしたか」と呟いていた。どうやらヴィーネは眷属同化について知っていたらしい。その上で、ある程度予想をつけていたのだろう。

 

 レオニスが口にした疑問点に、バウキスが答える。

 

 

「言葉通りの意味です。精霊(ジン)の眷属、つまり眷属器に宿る力と自身の肉体が同化し、人でも魔物でも無い、新たな生命として生まれ変わったのです」

 

「ん? ちょっと待て。お前はロクサーヌと違って、眷属器を持っていなかったはずだ。それがどうやって眷属と同化出来ると言うのだ」

 

「持ってましたよ。これがそうです」

 

 

 レオニスがそう問い掛けると、バウキスは左手の薬指に嵌められた、二匹の蛇を模して指輪をレオニスに見せた。

 

 

「いつの間に.............」

 

「正妃様が眷属器を披露なされた時から、毎夜こっそり身に付けていたのです。私もシンさんとの繋がりが欲しかったので...............そのおかげで、私は〝キマリス〟の眷属と同化を果たせました。尤も、この同化も()()()な物ですが」

 

「どう言うことだ?」

 

「それに関しては俺から説明する」

 

 

 バウキスが放った〝同化も不完全〟と言う言葉にレオニスが顔を顰める。そこでシンが、バウキスの言葉に補足を付け加えた。

 

 一つ、眷属との同化は強力ではあるがリスクを伴う。

 

 一つ、完全な同化を果たせば、理性を失い、言葉も話せず、完全な獣になってしまう。

 

 一つ、同化には、力に対する強い渇望、もしくは激しい感情の発露が必要で、バウキスが人の姿に留まることが出来たのは、彼女が保有する魔力操作の派生技能[性質変化]と強い精神力があってのものらしい。そして完全な同化にならずに済んだのは、彼女の卓越した魔力操作が大きな要因だったそうだ。

 

 それらの情報をシンは今朝、〝キマリス〟とバウキスの口から直接聞いた。規格外の魔力量を誇るシンは精霊(ジン)の顕現化も可能とする。しかし魔力消費が尋常では無いので滅多に使用しないが、今回は特例だ。

 

 そして、先程補足にあった[性質変化]とは読んで字の如く、自身の魔力性質を変化させる魔力操作の派生技能。感知した魔力に自身の魔力を同質の物へと変化させたり、大気中の魔力と同化させる事で魔力感知をすり抜ける事も出来る。ちなみに、バウキスが[性質変化]を会得したのは、カルロー村に行く前、シン達と別れ、ヴィーネと行動を共にしていた時だったらしい。過去、シンが全身魔装をする度にバウキスはシンの懐から弾かれていた。それがバウキスには我慢ならなかったらしく、ヴィーネと行動を共にし、彼女の全身魔装に意地でも張り付き続けた結果、バウキスは全身魔装時に弾かれずに済む[性質変化]を会得した。つまり[性質変化]で魔装した相手の魔力に合わせて、自身の魔力を同化させたのだ。そうすれば、同化した相手の一部と判断され、全身魔装から弾かれる事も無い。シンの懐を離れずに済むと言うわけだ。

 

 それを聞いたヴィーネは、まさか自分に着いて来てくれた動機が、〝シンの懐から弾かれるのが嫌だったから〟と言う理由だとは思っていなかったらしい。

 

 シンが補足を終えたタイミングで、注文していた人数分の朝食と飲み物が女性ウェイトレスによって卓上に並べられた。一応言っておくが、女性ウェイトレスにシン達の会話は聞かれていない。シンが[認識阻害]を施して居るため、話し声が聞こえていても、その内容を後ウェイトレスが思い出すことは出来ない。もちろん通行人や、テラス席に座っている他の客も。

 

 目の前に置かれたティーカップをシンは手に取り、カップに注がれた紅茶に口につける。その動作に一切の淀みは無い。

 

 口内と喉を潤したシンはカップをソーサーに置き、再び口を開いた。

 

 

「今回バウキスは眷属との同化をある意味成功させたが、他の者がそれを可能に出来るとは限らない。同化にはリスクがある。それが分かった以上、俺の許可無く眷属と同化する事は許さない。分かったな、ロクサーヌ?」

 

「はい、分かりました」

 

「レオニスもだ。お前はまだ眷属の力に目覚めていないが、今後発現しないとは限らない。バウキスも、これ以上の同化は認めない。いいな?」

 

「ああ、心得た」

 

「分かりました」

 

 

 三人はシンの言葉に従った。

 

 同化の力は強力だ。〝キマリス〟から聞いた限りでは、カタルゴ大陸で生息する魔物以上の力を発揮するらしい。エヒトと戦う際に戦力は多いに越した事はない。しかし、仲間を理性の無い獣に変えて得る勝利などシンにとっては意味が無く、それ以上にとても悲しい結末だ。そんな物をシンは望まない。もし力が足りないと言うのなら、その分自身が力を付ければ良いだけのこと。

 

 シンは心の中で、〝ゼパル〟と〝クローセル〟の全身魔装を早々に完成させようと思い至った。

 

 

「さて、今朝起きた事に関しては粗方話し終えた。何か質問がある奴はいるか?」

 

 

 シンはロクサーヌ達にそう問い掛けた。

 

 するとシンの隣に座っているロクサーヌが「はい、シン様」と口にして、ビシッと手を挙げた。まるで教室に一人は居そうな優等生キャラ風な挙手の仕方である。

 

 

「はい、ロクサーヌくん」

 

「バウキスをシン様の側室に加えたいと思います!」

 

「..............え? 今それ関係ある?」

 

「大いにあります!シン様は、バウキスが自身の側室に加わる事を拒むのですか?」

 

「そうなのですか、シンさん? 私のこの姿は、シンさんのお気に召しませんか?」

 

「いや、そう言うわけでは...............」

 

 

 ロクサーヌとバウキスがシンに詰め寄る。二人の美女に迫られ、シンは困り顔を浮かべていた。しかもバウキスがシンの左腕を先程より強く抱き寄せた事で、彼女の豊満で柔らかい立派なお胸が押し潰されている。その感触がシンの判断力を鈍らせる。くっ! バウキスめっ、ロクサーヌに負けず劣らずのモノを身につけたな..............!

 

 

「ではシン様、バウキスを貴方の側室に加える事をお認めになるのですね?」

 

「みと.............ぅぐっ...............はい」

 

 

 シンはあっさり認めた。バウキスに好意を向けられていた事は以前から気付いていたし、今更彼女を手放すつもりは無い。しかし––––––––

 

 

「––––––––好きか嫌いかと訊かれれば好きだと断言出来る。手放す気も毛頭無い。だが、ロクサーヌや優花に向ける様な愛情があるかと問われたら...........正直、答えるのは難しい。今までバウキスに向けていた感情は、そういう物じゃなかったらな」

 

「確かに、それは当然の事でしょう。なので今日一日、シン様とバウキスには愛を深めていただきます。私とレオニス、ヴィーネは席を外しますので、その間お二人が、どこで何をしていようと............そう! ドコでナニをしていようと! 私は全てを容認します.............チラッ」

 

 

 えらく後半の方を強調するロクサーヌ。彼女はバウキスに目配せをし、何かを訴え掛けていた。するとバウキスは、ハッ!とした表情を浮かべ、ロクサーヌの意図に気付いたらしい。

 

 

「分かりました正妃様。今日中にシンさんの心を射止めて来ます!」

 

「頼みましたよバウキス。 後程、結果を報告してください。それ次第で今後の方針が変わりますので」

 

「はい。お任せ下さい!」

 

「お前ら一体なんの話をしてんだ?」

 

 

 二人の会話の意味が全く読めないシン。ヴィーネもシンと同様に、ロクサーヌとバウキスのやり取りに疑問符を浮かべていた。しかしレオニスはなんとなく察しがついた。

 

 レオニスとバウキスは、ロクサーヌの “とある悩み” を知っている。いや、“悩み”と言うより“計画”と呼ぶべきだろう。ロクサーヌはその“計画”にバウキスを加え、彼女の戦力を測ろうとしている。なんの戦力かって? 決まってるだろ...............夜の! アレ的な意味での戦力をさ!

 

 そしてロクサーヌの脳内にはある考えが浮かんでいた。

 

 

(確か蛇の交尾は長い時間行われると聞いた事があります。つまり長期戦にも耐えうる体力があると言うこと...............私と優花、トレイシー、そこにバウキスも加われば、シン様の無尽蔵とも言える性欲を抑えることがきっと出来る筈です...............!)

 

 

 なんて事をロクサーヌは考えていた。

 

 ロクサーヌを筆頭に、強大な力を持つ巨竜に立ち向かう女勇者達が着々と集まっている。ロクサーヌ一人では歯が立たず、優花と二人がかりでも力及ばなかったシンの性欲化物っぷり。トレイシーは未参戦だが、その前に強力な助っ人バウキスが参戦してくれた。

 

 これなら勝てるっ!と勝機を見出したロクサーヌ。

 

 しかし、残念ながらロクサーヌの考えは甘かった。

 

 朝食を終えた後、バウキスに連れられてシンは宿に戻って行く。二人が宿に戻っている間、ロクサーヌはレオニスとヴィーネの三人で買い物をしたり、優雅に喫茶店でお茶を飲んでいたのだが..............ロクサーヌが宿に戻りシンの部屋を訪ねた時、ロクサーヌは問答無用でシンに部屋の中へと引き摺り込まれ身ぐるみを剥がされる。バウキスは既にダウンしており、何故かスーシーも疲れ果てていた。そして部屋の中には空になった火酒の瓶があった。どうやらスーシーが火酒を持ち込み、それを飲んだシンは歯止めが利かなくなったらしい。

 

 まあ結果だけを言えば、まだまだ巨竜を制圧するには戦力が足りず、ロクサーヌも二人と同様に撃沈したのであった。

 

 という事で、シンは〝バウキス〟を三番目の妻として迎え入れ、〝スーシー〟は四番目の妻(現地妻)となった。

 

 一日で二人も妻をゲットしたシン。バウキスは兎も角、スーシーまで抱いてしまった事には流石のシンも頭を抱えた。まあ、やってしまった事はどうしようも無い。とうとうスーシーまでも虜にしてしまったシンは責任を取ると誓った。

 

 やはりシンにとって鬼門となるのは酒と女であった..............。

 

 




ということで、着々と嫁を増やしていくシンでした。眷属と同化を果たしたバウキスまで嫁をしたシン。そしてスーシーを本気にしてしまったシン。ロクサーヌの巨竜討伐はまだまだ遠い道のりとなりそうです。


補足


『登場した人物』

「バウキス(眷属同化状態)」
・〝キマリス〟の眷属と同化し、人の姿となったバウキス。身長はロクサーヌに若干劣るが、スタイルは良く、綺麗な青みがかった銀髪と空色の宝石の様に輝く瞳、そして整った顔立ちをしている。白を基調とし、水色の雪の結晶模様が衽に施された着物と、水色の半衿、ピンク色の帯、水色の帯締めを身につけた美しい和服姿。その佇まいと整った容姿、そして纏う雰囲気は、まるで熟れた人妻感を演出している。
(イメージは“ぷぅ崎ぷぅ奈”先生作、「未亡人の雪女」に登場する“雪乃深冬”です。※注:R18作品のキャラですので、あしからず..............)


『登場した天職』


「剣聖」
・アズィールの天職。特殊な天職で、歴史上この天職になった者はアズィールただ一人。聖剣を扱える事にも多少は関係がある。剣に関わる事全てに適性を持ち、[勇者]の下位互換として存在する。


『登場した技能』


「聖剣適性」
・文字通り聖剣を扱える適正を示す技能。勇者が聖剣で出来ることの大半が可能となる。先代勇者の末裔としての才能が色濃く写った技能である。


「性質変化」
・バウキスが保有する魔力操作の派生技能。魔力の性質を自在に変化させられる技能で、ヴィーネと行動を共にしていた際に発現した物。[魔力感知]とその派生である[特定感知]を持つバウキスは、感知した魔力に合わせて自身の魔力を変化させることが出来る。大気中の魔力を感知し、それと同化することで、他者の魔力感知をすり抜ける事ができる。


『登場したジン、または眷属』


【アシュタロス】
・アズィールの仕込み杖に宿り、青い火を操る精霊。現状アズィールは〝アシュタロス〟の力を十全には振るえおらず、武器化魔装が限界らしい。


【キマリスの眷属】
・バウキスの左手の薬指に宿っている。眷属同化をした現状、指輪を外す事は出来ず、二度と白蛇には戻れないが、彼女が元々持っていた「蛇竜化]という技能のおかげで蛇に近しい姿を取る事は出来る。同化の証として、バウキスの両足には蛇の鱗の様な模様があり、青みがかった銀髪は蛇の様に自在に動かす事が出来る。そして、その気になれば..............。



『登場した用語』


【眷属同化】
・ジンの眷属と同化する事によって強力な力を得る事ができる、眷属器使いの最終奥義。長い年月で培ったバウキスの卓越した魔力操作と[性質変化]、そして強靭な精神力によって人の姿になれたが、他の者だとそうは行かない。肉体は獣に近しい物へと変貌し、同化の深度が深まる程、理性は失われていく。その分強大な力を発揮する。
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