ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

51 / 53

最近忙しすぎて作品に集中出来てない(泣)

あと外と部屋が暑すぎて頭が全然回らない、扇風機は回ってるのに............。




グリューエン大火山

 

 アンカジに来て三日目の朝。

 

 シン達一行は予定通りアンカジを出立し、大砂漠を越え、三つ目の大迷宮、〝グリューエン大火山〟にやって来ていた。

 

 砂漠を越える際、シン達はアンカジに行く時と同様に赤獅子の姿に戻ったレオニスの背に乗り、吹き荒れる砂塵をシンが[力魔法]でガードする。と言っても、アンカジに赴いた時とは状況が異なり、いつもはシンの懐に居る筈のバウキスは、和服美人となってシンの隣で鎮座していた。愛しい男性の片腕を嬉しそうに抱き締めながら。もう片方の腕はロクサーヌが抱き締めていた。シンに甘々なバウキスと張り合うように。布越しからでも伝わる二人の豊満な乳房の柔らかさ。湧き上がる煩悩を払拭しようと、菩薩の様に悟りを開くシン。我無也、我空也、おっぱいは二也.............これっぽっちも煩悩を捨て切れていなかった。

 

 そんな煩悩まみれのシンは、昨日の事を振り返り、頭の中で独り言ちる。

 

 

(しっかし........成り行きとは言え、あのスーシーが俺の妻になるとはな〜。まあ、あいつは“現地妻”って形で収まったけど)

 

 

 話は遡り、昨日の事だ。

 

 バウキスとシンが昼夜を問わず肉欲を満たし合い、そこにスーシーも巻き込まれ、最後にロクサーヌも参戦した昨日。話し合いの結果、シンはバウキスを三番目の妻に迎え入れる事にした。そしてもう一人、理性が吹っ飛んだシンの獣欲に呑み込まれたスーシー。ロクサーヌはスーシーもシンの妻として迎え入れるべきだと提案したが、スーシーは“自分には荷が重い”と言って断った。だがシンに対して本気になってしまった自分が居るのは事実。他の男性と恋をする事はもう出来ないと、スーシーは自覚していた。そこでスーシーは自分を“ロクサーヌ達公認のシンの愛人”にして欲しいと願った。ロクサーヌの様に魔物と戦う力も、()()()()()()()()()()()()()も無いスーシーには、シンの提案を受け入れる資格が無いと、そう自覚していた。ならせめてロクサーヌ達の二の次で良いから、シンが自分の元に訪れた際、一時の安らぎと幸せを得るため、彼の時間を少しだけ分けて欲しいと切実に願ったのだ。責任を取るつもりで居たシンは渋い顔をしたが、ロクサーヌの許可が下りた事で、スーシーを四番目の妻(現地妻)という形に収まった。正式には妻では無いスーシーを“四番目の妻”と言い表しているのは、シンなりの気持ちの現れである。

 

 そして今朝、シン達一行はスーシー、アズィール、ヴィオラの三人に見送られながら、大火山へと出立した。ちなみにスーシーは予定されていた公国支部での仕事を昨日終えたらしく、今日中にはアンカジを出立し王都に戻るそうだ。

 

 そんな昨日と今朝の出来事を思い出していると、シン達一行は、巨大積乱雲の如く、舞い上がり、大火山をすっぽりと覆い隠す砂嵐を潜り抜け、グリューエン大火山に到着した。砂嵐を越える途中、何度かサンドワームに襲われたが、シンとレオニスが苦も無くあっさり屠って行った。

 

 そしてシン達は大迷宮の入り口である大火山の頂上を目指す。入り口へと続く道は頂上に向かうほど道幅が細くなり、大火山の中腹部でレオニスは[人化]し、シン達一行は徒歩で登って行く。

 

 

「ぅぅっ、蒸し暑いです.............」

 

「これぐらいで根を上げてどうするバウキス。お前はシンに[環境耐性]を付与して貰っているだろう?」

 

「それは、そうですけど..........」

 

 

 蒸し蒸しとした火山の熱気に当てられ、愚痴をこぼすバウキス。そんな彼女に喝を入れる様にと促すレオニス。

 

 レオニスの言う通り、シンはバウキスに[環境耐性]を付与しおり、それはロクサーヌとヴィーネも同じであった。レオニスは平気らしいので、魔力を温存する為、シンの付与無しで歩いている。

 

 

「確かバウキスは、昔師匠と一緒に大火山の大迷宮を攻略したはずでは?」

 

「いえ、あの時私と亡き夫は大火山の大迷宮に挑戦していません。雪蛇ではある私達ではこの大火山の熱気に耐えられませんから、大砂漠の手前で待機していたのです」

 

 

 バウキスは、ロクサーヌに説明し始めた。

 

 バウキスが持っている[異袋]と言う固有魔法は、グリューエン大火山で手に入る神代魔法〝空間魔法〟の付与によって獲得した物。バウキスはロバートとガイルが大火山を攻略し終えた後に彼等と合流し、ガイルの〝変成魔法〟と〝空間魔法〟によって固有魔法[異袋]を手に入れたそうだ。

 

 つまり、今回挑む大火山の大迷宮は彼女にとっても初見なのである。

 

 

「今は眷属と同化した事で耐性も上がり、シンさんが[環境耐性]を付与してくれているおかげで、なんとか暑さに耐える事が出来ていますが..................まさかここまで暑いとは思ってもいませんでした」

 

 

 シンに[環境耐性]を付与して貰っているにも関わらず、肌で感じる熱気が頬から首筋へと汗を伝わせ、バウキスは吐息混じりの呼吸をし、項垂れながら歩みを進める。眷属と同化したことで耐性は上がってるみたいだが、元々暑さに弱い体質であるのは変わらないらしい。シンが[環境耐性]を付与していなかったら、まともに歩けていなかったかも知れない。カルロー村の温泉は平気そうだったが、温泉と外気では感じる暑さが違うようだ。

 

 

「一応バウキスには[環境耐性]を重ねて付与しておこう。ロクサーヌとヴィーネも無理そうなら遠慮無く言ってくれ」

 

「「分かりました」」

 

 

 シンはバウキスに[環境耐性]を重複付与しながら二人にそう伝えた。[環境耐性]×[重複付与]のお陰で、バウキスの顔色は良くなり、足取りが軽くなった。どうやら[環境耐性]の重複付与が効いたみたいだ。これなら問題無く進めるだろう。

 

 

「レオニスは............大丈夫そうだな」

 

「ああ。この程度の暑さはどうって事も無い。カタルゴ(故郷)の熱帯林と比べたら涼しいものだ」

 

「フッ、そいつは頼もしい限りだ」

 

 

 そうしてシン達一行は大迷宮の入り口へと続く道を進み、ついに頂上へと到達した。そして目の前には火山の中へと続く大迷宮の入り口がある。

 

 

「よし、お前達、気を引き締めて行くぞ」

 

「はいっ!」

 

「ああっ!」

 

「分かりました!」

 

「ええっ!」

 

 

 シンの号令に、ロクサーヌ、レオニス、ヴィーネ、バウキスが返事をする。

 

 三つ目の大迷宮 “グリューエン大火山”、ここで得られる神代魔法はすでに把握している。それを得るため、シン達は攻略を開始した。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 大迷宮の入り口から下り、下の階層へと進んでいくシン達。

 

 まるで幾本も走る川の様に赤熱するマグマが宙を流れ、そこから滴るマグマの雫や、地面から噴き出すマグマを避けながら、シン達は下層を目指す。[環境耐性]付与のお陰で大火山内でも彼らは自由に行動が出来ていた。

 

 すると八階層に到着したシン達は、第一村人ならぬ第一魔物を発見!

 

 あ!野生の“マグマ牛”がとびだしてきた!

 

 するとバウキスが、あまりの暑さで醜態を晒した事を帳消しにし、シンに良いところを見せようと開幕速攻を仕掛けた!眷属と同化した事でより一層強力になったバウキスの氷魔法、それによって生み出された巨大な氷の大蛇。それを見たシン達が「おお〜!」と感嘆の声を漏らす。そして氷の大蛇は溶岩を纏い赤熱するマグマ牛を飲み込まんと、大きな口を開き、一直線に向かって行く。そこでシンは次に起こるであろう現象をいち早く察知し、[力魔法]で生み出した透明な壁を彼女達の前に展開した。

 

 何が起こるかって?

 

 超高温に熱せられた溶岩の塊に超低温の氷塊。それらがぶつかれば––––––––––

 

〝ドガーーーーーッン!!!!〟

 

––––––––––爆発が起こるのは必然であった。

 

 バウキスが生み出した氷の大蛇がマグマ牛を飲み込んだ瞬間、マグマ牛に触れている部分の氷が一気に気化し、マグマ牛諸共木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

 効果は抜群だ!

 

 爆音を轟かせる大爆発の余波がシン達にも届くが、あらかじめシンが[力魔法]の防護壁を張っていたおかげで被害は一切無い。

 

 水蒸気爆発なんて物を知らないロクサーヌ達には、バウキスの魔法の威力が途轍もない物に見えたらしく、彼女達はその爆発を目の当たりにして唖然としている。魔法を放ったバウキス本人ですら「うそ.........」と驚いている始末だ。

 

 眷属との同化後初の実戦をあっさり終えたバウキス。そんな彼女にシンは、何故あれ程の爆発が起きたのかを説明し、次からは手加減するようバウキスに注意を促した。

 

 張り切っていたバウキスは途端に落ち込み、「次からは気をつけます..........」と十分に反省の色を見せた。表情をコロコロと変える彼女を見て、シンは「しょうがない奴だ」と眉を下げながら微笑み、バウキスの頭を撫でる。

 

 

「同化して初の戦闘なんだから、力をセーブ出来ないのは仕方ない。それに、こういう事もあるって学べたんだから、次から気をつければ良いだけの事さ。だからそう気を落とすな」

 

「シンさん...............ありがとうございます」

 

 

 シンに頭を撫でられながら励まされるバウキス。そんな彼女は、シンに頭を撫でられて嬉しそうにしている。

 

 ちなみにヴィーネの金属器もまた、バウキスの体質と同様に大火山内の環境によって影響を受けていた。ヴィーネの金属器〝ヴィネア〟の能力は水を操るもの。このグリューエン大火山では、大気中から水を集めることもままならず、集まったとしても、その途端に蒸発してしまう。勿論、魔力で水を生成する事も可能だが、魔力の消費量が馬鹿にならないので、それは極力控えたいらしい。と言っても、ヴィーネには〝武器化魔装〟があるため、水に頼らなくても十分戦えるそうだ。

 

 その後、シン達はどんどん下層へと降りて行き、その都度魔物と会敵し、あっさりと倒して行く。

 

 シンの直感のおかげで、一行は一度も行き止まりにぶち当たる事無く進めていた。ロクサーヌ、レオニス、バウキスの三人は彼の直感を信じて進む。ヴィーネはシンが当てずっぽでどんどん進む事に何か言いたそうにしていたが、シンの直感力が埒外の力であると悟り、感心しているのか、それとも呆れているのか分からない溜息を漏らす。

 

 そしてシン達は二十五階層に到達し、マグマに襲われない安全地帯を発見したところで一度休憩を挟む事にした。魔物に襲撃されないようシンが[認識阻害]の結界を張り、一行は軽い食事と水分補給を行う。レオニス以外のメンバーに施した[環境耐性]も、効力が切れる前に再度付与し直していく。

 

 するとレオニスが水を頭から被り、体を冷ましたながら口を開いた。

 

 

「だいぶ進んだと思うが、あとどれくらい階層を下るんだ?」

 

「そうだなぁ、大火山の標高から考えて半分近くは降りた筈だから、残りの階層は大体“三十”ってところだろう。ロンさんの話によると、麓辺りで神代魔法を獲得したらしいからな」

 

 

 レオニスの問われたシンがそう答えた。

 

 ロバートが亡くなる前、シンはロバートからグリューエン大火山にある大迷宮について話を聞いていた。そこで得られる〝空間魔法〟の詳細や、魔物の傾向、そして大迷宮内の大雑把な地形と規模を。何階層あるのかは具体的に明言されなかった。「数える余裕が無かった」とロバートは言っていたが、大体麓辺りに解放者の隠れ家があると聞かされていたので、それを元にシンは大雑把な予想を立てる。

 

 それを聞いていたヴィーネがシンの予想に同意しながら口を開いた。

 

 

「進さんの予想通り、グリューエン大火山は全部で五十五階層に区分されています。そして五十五階層目に在る溶岩の海、そこに〝ナイズ・グリューエン〟の住処があり、この大迷宮の最終試練が行われます」

 

「試練の内容は?」

 

「そこまではミレディから聞かされていないので分かりません。ですが“大迷宮のコンセプト”を考えるなら、その内容も多少は予想がつきます」

 

「コンセプト、ですか?」

 

 

 ヴィーネの言葉を聞き、ロクサーヌが訊き返す。するとヴィーネが答える前に、食事を終えたシンが彼女に代わって説明し始めた。

 

 

「ロクサーヌ、大迷宮は神に挑む為の試練として存在している..........それは分かるよな?」

 

「はい。ミレディを筆頭に、解放者達がこの世界をエヒトの支配から解放するべく後世に残して物だと理解しています」

 

「その解放者側からすれば、他の大迷宮と試練の内容が被るようじゃ試す意味が無いだろ? なら、それぞれの大迷宮には意図、つまり神に挑む為、挑戦者を試す基本理念(コンセプト)があるわけだ。 例えば“ライセン大迷宮”、あそこは魔法を封じて適応能力や状況判断を問う場所で、“氷雪洞窟”は厳しい環境下で己を見つめ直す場所だった。そして今回の“グリューエン大火山”は、忍耐力と思考を鈍らせない臨機応変な対応力、その是非を問う、もしくは鍛える場所って事だ」

 

「なるほど、言われてみれば確かにその通りでしたね」

 

「では、今回の最終試練の内容とは一体............」

 

 

 バウキスがシンに問い掛けた。自然とロクサーヌとレオニス、そしてヴィーネの視線がシンに集まり、彼の答えを神妙な面持ちで待ち構える。そんな彼女達の視線を一身に受け、シンは腕を組みながら不敵に笑みを浮かべ––––––––

 

 

「分からん!」

 

「「「「..........................」」」」

 

 

––––––––清々しい程にえらくあっさりした様子でシンは答えた。そんな彼を見てロクサーヌ達は固まっている。

 

 

「考えたところで、所詮は予想に過ぎない! なら実際にそこまで行って確かめれば良いだけのこと! 未知を堪能するのもまた冒険の醍醐味ってことさ!」

 

「つまり、進さんが言いたい事は..........?」

 

「分かんないけど、なんとかなる!ってことだっ!」

 

「ちなみに、その根拠は..........」

 

「〝勘〟だ!」

 

 

 ヴィーネの問い掛けに快活に笑って答えるシン。そんな彼を見て、ヴィーネは唖然としていた。しかし、ロクサーヌ達は違う。

 

 

「.................フッ、クククっ..........そうだな、お前はそういう奴だった。未知を堪能、か..........良い言葉だ」

 

「まったく、貴方って人は..............ふふっ」

 

「それで今までなんとかして来たんですから、流石は私達の〝王〟ってことですね」

 

 

 レオニス、ロクサーヌ、バウキスがくすくすと笑いながら納得の表情を見せていた。彼女達にとって、シンの〝なんとかなる〟と〝勘〟はどんな言葉や振る舞いより信頼に値し、彼と、その臣下である自分達の強さを示す言葉。そんな言葉を聞かされたら、彼女達は応えずにはいられないのだ。まあ、それに振り回されてる節は否めないが............それもシンが持つ魅力の一つでもある。

 

 ヴィーネはそんなシン達を見て、仮面の下で細く笑んだ。

 

 

(そうでしたね。要進(この人)はそういう人でした............だからこそ私は––––––––!)

 

 

 臆せず進もうとするシン達に倣い、ヴィーネもまた、“自身の願い”を成就させるべく、より強固に決意を固めた。だがこの瞬間だけは、この頼もしい仲間達と共に冒険出来る幸せを噛み締めるのだった。

 

 休憩を終えたシン達は再び最下層に向かって進み始めた。

 

 下層に降りて行くほど熱気は増し、流石のレオニスも汗を掻き始めるが、シンの[環境耐性]が必要な程では無いらしい。

 

 魔物の出現頻度も増して行く。その上、魔物のバリエーションも多彩になり、溶岩を泳ぐ大蛇や、マグマを翼に纏わせた蝙蝠、溶岩に擬態する巨大なカメレオンモドキ、火を吐く大蜥蜴などが単体から複数体と襲ってきた。と言っても、それらに突出した強さは無く、マグマに逃げようとしてもシンが[力魔法]で捕え、レオニスやロクサーヌ、ヴィーネがトドメを刺す。バウキスも積極的に戦闘に参加し、氷魔法の練度を高め、力加減もだいぶ上手くなっていた。正直に言って、シン達が苦戦を強いられる様な相手では無かった。

 

 そして、シン達がグリューエン大火山の最深部、五十五階層に続く下り階段の前に到着し、その階段を降りる直前でシンの足が止まった。

 

 

「どうされましたか?」

 

「..........................」

 

「シン様?」

 

 

 ロクサーヌの言葉に反応を示さないシン。そんな彼を怪訝そうに見つめるロクサーヌとレオニス達。

 

 するとシンは自身の鳩尾部分に当たる服を片手で握り込んだ。

 

 

()()()()()............まさかとは思うが、()()()()()()()............?)

 

「シン様、大丈夫ですか?」

 

「胸が痛むのですか.........?」

 

 

 シンが思考がそんな事を考えていると、ロクサーヌとバウキスが心配そうに彼の顔を覗き込んだ。二人の目には、シンが胸を押さえ苦しんでいる様に見えたらしい。

 

 そんな二人の様子を見て、シンは笑って見せた。

 

 

「心配しなくても大丈夫だ、別に体の調子が悪いわけじゃ無い。ただ、“気合を入れ直すべき”だと思っただけだ」

 

「シン、何か感じたのか?」

 

「............ああ、おそらくこの先に“何か”が居る。そしてそれは間違い無く俺達の“敵”だ。–––––––––〝傷跡が疼く〟」

 

「「「––––––––ッ!!」」」

 

 

 レオニスの問いに答えたシン。そして彼が口にした〝傷跡が疼く〟という言葉。それが何を意味しているのかロクサーヌ、レオニス、バウキスはすぐに理解した。そして、殺気混じりの闘気を鋭く研ぎ澄ませながら、表情を険しくさせるロクサーヌ達。そんなロクサーヌ達の殺気を感じ取ったヴィーネもシンの言葉の意味に気付き、思わず生唾を飲み下す。人外級の隔絶した強さを誇る〝王の臣下達〟が放つ殺気。それを間近で感じ取れば、流石のヴィーネとて緊張で体を強張らせてしまう。

 

 

「落ち着けお前達。まだ居ると決まった訳じゃないぞ?」

 

「ですがシン様の〝勘〟が外れるとは思えません」

 

「だな。お前がそう言うのだから、間違いなく居るだろう」

 

「では、加減は不要と言う事ですね」

 

 

 ロクサーヌが魔剣の柄に手を置き、手の甲からバチバチッと青白い雷を僅かに放電させる。針の様に瞳孔を細めるレオニスは指をポキポキと鳴らし、バウキスの全身から冷気を漏れ出していた。

 

 

「まったく、頼もしい奴らだ............なら、準備はいいか?お前達」

 

「はいっ!」

 

「ああ!」

 

「ええ!」

 

「いつでも!」

 

 

 シンの問い掛けに、ロクサーヌ、レオニス、バウキス、ヴィーネが応える。

 

 そして彼等は五十五階層へと続く階段を降りて行った。

 

 階段を降り切った先には、一面溶岩で埋め尽くされた広大な空間があった。ライセン大迷宮の最終試練の間よりも空間全体が広々としており、溶岩で削り取られたのか、この空間を囲う岩壁は歪な形をしていた。埋め尽くされた溶岩は、先にヴィーネが伝えていた通り、“溶岩の海”と例えて申し分無い光景である。

  

 そんな赤熱する海には()()()()()()。在るのは溶岩の海から突き出た小さな岩の山で、それが複数点在しているのみ。ヴィーネの話によれば、溶岩の海に〝ナイズ・グリューエン〟の住処があるそうだが、それらしき物は全く見当たらない。

 

 だが、そんな事よりもシン達が一番に視線を向けるべきモノがある。

 

 シン達が立っている岩場より遥か頭上、そこには銀髪に白い衣と銀の鎧を纏い、()()()()を広げて佇む〝十人〟の女達が居た。彼女達は体型から服装、顔の形まで全てが同じである。

 

 そんな彼女達のたった“一人”を真っ直ぐ見つめ、シンは口を開いた。

 

 

「久しいなぁ。“あの時”は随分と世話になったが、まさかこんな所で再会するとは思っても見なかった。–––––––お前もそう思うだろ?〝()()()()〟」

 

 

 シンに声を掛けられた銀髪の戦乙女(ワルキューレ)の一人〝ノイント〟は、苦々しそうに眉の間に皺を作り、シンを見下ろす。どうやらシンの皮肉が効いたみたいだ。

 

 するとノイントの横に居る同じ顔の女が口を開いた。

 

 

「まさか本当にあの“異端者(イレギュラー)”が生きていたとは............失態ですね、“九番(ノイント)”。主の命を真っ当出来ない道具など、存在する価値がありません。あの者の生存を報告して来た()()()()の方がまだ道具として使えますよ?」

 

「..............申し訳ありません、“七番(ズィープト)”」

 

 

 どうやら、ノイントの隣に居る同じ顔の女の名前は〝ズィープト〟と言うらしい。

 

 現在ノイント顔の“神の使徒”は彼女達を合わせて十人居るが、おそらくそれぞれで個体番号が違うのだろう。そして番号が若い順で何かしらの序列があるのかも知れない。先程から会話しているのはノイントとズィープトだけで、残りの八人は微動だにしていない。まるで命令が下るのを待っている機械兵の様である。その様子から察するに、おそらくズィープトが指揮官であり、ノイントが副官と言ったところ。エヒトがノイント顔の兵隊をどれだけ作ったかは知らないが、最低でもあと六体は同じ様な存在が居ると仮定して良いだろう。尤も、その程度の数で収まりがつくとは思えないが..............。

 

 現状得られる情報で簡単に考察するシン。そんな彼にはもう一つ気になる事があった。

 

 

(“駒”、ねぇ..............ズィープトの口振りから察するに、俺達の事をノイントに報告した“誰か”が居るって事だよなぁ。それも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()..............てことは、俺の事を知らなかったカルロー村やアンカジの住人じゃあ無いな...........あまり考えたくは無いが、先生達(アイツら)の中にスパイが居る可能性もあるって事か.............)

 

 

 ズィープトが発言した“駒”と言う言葉。それについてシンは考えを巡らせていた。

 

 そのスパイが“洗脳”されているのか、或いは自分の意思でノイントに従っているかは定かでは無いが、放置する訳にはいかない。しかし、それが誰なのか分からない現状では手の尽くし様も無いし、ノイント達が簡単に口を割るとも思えない。

 

 ではどうするか?

 

 そこでシンはある考えを思いついた。相手が“洗脳”を使うのなら、こちらも“洗脳”を使えば良いではないか、と。

 

 だがそれを成すためには、未だ完成していない二つの〝魔装〟の内、一つを完成させなければならない。それも、今この場で。

 

 

(まあ、なんとかなるか..............)

 

 

 楽観的な考えかもしれないが、シンには自信があった。

 

 するとロクサーヌがシンに[念話]を繋げてきた。

 

 

(シン様、どうなさいますか?)

 

(とりあえず、“ノイント”と“ズィープト”の相手は俺がする。お前達も好きに暴れろ)

 

(分かりました。––––––––レオニス、バウキス、ヴィーネ、各自二体ずつ“あの神の使徒達(木偶人形)”の相手をしましょう。環境的にヴィーネが多少不利かも知れませんが、そこは我々がカバーします。それで構いませんね?)

 

(了解だ)

((分かりました))

 

 

 ロクサーヌはレオニス、バウキス、ヴィーネの三人にも念話を繋ぎ、的確な指示を下す。それに対してレオニス達は異を唱えず力強く了承した。指揮官として、ロクサーヌの能力は高いのかも知れない。

 

 するとロクサーヌは再度シンに問い掛けて来た。

 

 

(シン様、アレらを相手するのは構わないのですが、大迷宮の最終試練も同時にとなると..............)

 

(その心配は必要無いんじゃないか? 俺達がここに入ってからある程度時間が経っているが、試練が始まる様子は一向に無い。大方、ノイント達がこの場に居るせいで試練が始められないんじゃないかと思うが..............ヴィーネ、そこら辺の事情について何か知っていたりするか?)

 

(はい。ミレディの話によれば、それぞれの大迷宮にはエヒトの手先に力が渡らないようにする“防御機能”と“記憶の精査”があります。その全容は聞かされていませんが、おそらくグリューエン大火山の“防御機能”によって試練は一時中断され、〝ナイズ・グリューエン〟の住処は溶岩の海に隠されたのだと思います)

 

(なるほど、つまりアイツらを倒せば試練は再開されるって事か)

 

(おそらくは)

 

 

 それを聞いて細く笑んだシン。

 

 つまり今から始まる“神の使徒”との戦闘は、最終試練の前哨戦という事だ。

 

 

「なら、さっさと終わらせてしまおう。––––––––〝我が身に纏え、バアル!〟」

 

 

 瞬間、シンが抜いた刀剣が強い光を放ち、彼の体は青白い雷光を包まれた。

 

 その異変に気付いたノイント達が、シンに視線を向け直す。するとそこには〝青い鱗に包まれた人型の竜〟が居た。

 

 シンの姿が変わった事に驚くノイントとズィープトは、明らかに動揺していた。

 

 

「へぇ、少しは人間らしい表情をするようになったじゃないか、ノイント」

 

「私に感情などありません」

 

「その割には俺達がここに来た時、随分と不機嫌そうな顔だったが?」

 

「..........................」

 

「挑発に乗っては駄目ですよ九番(ノイント)。–––––––口を慎みなさい異端者(イレギュラー)。その姿にどんな力があるかは知りませんが、我々はただ、貴方とその仲間達を排除するだけです。潔く首を差し出すのであれば..............」

 

「〝雷光よ(バララーク)〟」

 

 

 ズィープトが喋っている最中だと言うのに、お構い無しにシンはノイント達に向けて雷撃を放った。

 

 シンが手に持つ刀剣の切先から放たれた青白い雷撃が一直線にノイント達を狙う。それを間一髪で避けたノイントとズィープトだったが、後ろで控えていたノイント顔の一体は避け切れず直撃した。雷撃をまともに受けたその一体は全身黒焦げになり、力無く溶岩の海へと落ちて行った。

 

 

「つくづく人を見下すのが好きみたいだな、お前らは」

 

「「ッ!!」」

 

 

 ノイントとズィープトが視線をシンから外した一瞬で、彼はノイント達と同じ高度の宙に移動し、腕を組んだ姿勢で宙に浮いていた。

 

 

「俺が“あの時”と同じ、力の無い矮小な人間だとでも思ってるのか? この姿を見て危機感を抱かないとは、お前達や、お前達を作ったエヒトもよっぽど頭がお花畑なんだろうな」

 

「..............なるほど、これも“特異点”の力と言うわけですか。ですが、我々の同胞を一人倒した程度で良い気にならないでください。此方には七番()も含めた九人の使徒がいます。数で劣る貴方達が我々に勝てる道理などありません」

 

「フッ、その程度の発想しか出来ないから頭がお花畑だって言ったんだよ。お前達は俺らを狩るつもりで居るんだろうが...........生憎、今回は“お前達が狩られる番だ”。あまり俺達を舐めてると–––––––––〝一瞬で終わるぞ?〟」

 

 

 シンの力強い瞳がノイントとズィープトの瞳を射抜き、シンの体から青白い雷光が溢れて出していた。そんな彼の姿を見て、ノイントとズィープトは静かに二振りの大剣を構え、残りの七体をロクサーヌ達の方に差し向ける。

 

 向かってくる七体の使徒達を見て、ロクサーヌ達は各自散開し、使徒達を引きつけていた。シンとノイント、そしてズィープトの下方ではすでにロクサーヌ達と使徒達の戦いが始まっている。

 

 するとシンは腕組みを解き、挑発的な笑みをズィープトとノイントに向けながら人差し指と中指をクイクイッと曲げ「かかって来い」とジェスチャーした。

 

 

「さあ、こっちも始めようか。“あの時”の借りを返させて貰う」

 

 

 亡きカイル達の無念を晴らすべく、今この瞬間、“神の使徒達” VS “付与魔術師の王とその臣下達”によるリベンジマッチの戦端が開かれたのだった。

 

 





と言うわけで、スーシーの扱いについてと、同化したバウキスの初陣と、グリューエン大火山の大迷宮攻略と見せかけて新たな神の使徒“ズィープト”の登場と、ノイント達“神の使徒”との再戦の回でした。

ズィープトが言う“ノイントの駒”とは一体誰なのか?それは近いうちに明かされるでしょうから、今後の展開に乞うご期待。


補足


『新しく登場した人物』

「ズィープト」
・ノイント顔の真の神の使徒。ノイントが九番で、ズィープトは七番目。ノイントと同様に白銀の翼を持ち、修道服ではなく、白い服と銀のプレートアーマーを着用し、まさに戦乙女と言った姿をしている。えろ可愛い姿。



『再登場したキャラ』

「ノイント」
・かつてシンが戦った真の神の使徒。以前と修道服とは違い、服装はズィープトと同じ戦乙女の様な格好をしている。シンに深傷を負わせ、カイル、ベイル、イヴァンを殺したい張本人。詳しくは本作の第七話と第八話をご覧ください。


【眷属の力について】


「バウキスの場合」
・バウキスが同化を果たしたのは〝キマリス〟の眷属。キマリスの能力は“氷を生み出し、操るもの”で、眷属もそれに準ずる能力である。元々氷魔法に特化していた雪蛇のバウキスとは相性が良く、同化した現在は魔法の規模と強度が段違いに上がっている。しかし、元々の体質である“熱さに弱い”というのはあまり改善されていない。大火山の中ではシンの[環境耐性]が無いとロクに活動出来ず、ステータスもダウンする。



『オリジナル設定』

「グリューエン大火山」
・エヒトに関わる存在が強襲して来た場合の“防御機能”として、〝ナイズ・グリューエン〟の住処は溶岩内に隠れるようになっている。ノイント達が大火山の最下層に現れた時点で住処は隠されていた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。