ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜   作:つばめ勘九郎

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 新年 明けまして、おめでとうございます。
2026年の新年早々にようやくここに帰ってくる事が出来ました。
投稿スピードは相変わらず亀以下のノロマでしょうが末永くお付き合いして頂けると幸いです。




泡沫の夢

 

 

 

 ロクサーヌが神の使徒の首を切り落とす数刻前。ロクサーヌ(彼女)が神の使徒と戦っている一方でバウキスとヴィーネ、そしてレオニスもまた神の使徒との死闘を繰り広げていた。

 

 

「バウキスさんッ!!」

 

「はいッ!」

 

 

ヴィーネの呼び声に反応したバウキスが瞬時に人ひとり分はあろうサイズの氷柱を空中に発生させる。その数、十二本。そしてバウキスが片手を目(・)標(・)目掛けて振るうと十二本の氷柱が列をなすように順番に発射された。その氷柱が向かう先は、今まさに神の使徒に向かって噴水を彷彿とさせる大剣を振りかぶっているヴ(・)ィ(・)ー(・)ネ(・)の(・)背(・)中(・)である。

 

 何も知らない者がその光景を見れば「味方同士で何をしているんだ⁉」とバウキスの行動を非難すること間違いなしだろう。実際この光景をほんの数瞬前に見た神の使徒達もお粗末な連携だと達観し、自滅してくれるのならばと油断していたのだ。

 

 だが今は違う。この自滅とも思える行為こそ二人だからこそ成し得る連携であり、それを知ったばかりの神の使徒達に油断も隙も無かった。

 

 氷柱がヴィーネの背中に突き刺さろうとする直前、ヴィーネが手にする大剣が水色に輝き出し、背後に迫っていた氷柱が氷解。と同時にヴィーネの大剣へと吸収されていく。連続で氷柱十二本分を氷解させ吸収したヴィーネの大剣には溢れんばかりの水が宿っていた。そして―――――――

 

 

「〝水神槍!(ヴァイネル・アロス)〟」

 

 

―――――大剣に宿っていた水はうねるように激流の槍と化し、目の前の敵を食い破らんと螺旋を描く。

 

 激流の槍を携えたヴィーネが神の使徒に突撃するが数瞬前にそれを見ていた神の使徒の一体はヴィーネの攻撃に対し、分解の魔力を纏わせた双大剣で迎撃し銀と水色の光が互いを削り合う。

 

 

「はああああッ!!」

 

「くッぅぅッ!」

 

 

 空中で競り合うヴィーネと神の使徒。今まで見たこと無い程に気迫に満ちているヴィーネの突撃に神の使徒が押されかけていた。しかしヴィーネとバウキスが相手にしている神の使徒は全部で三体。残りの二体が同胞のやられる様を黙って見ているはずが無かった。

 

 

「「〝雷槍〟」」

 

 

 ヴィーネと競り合っている神の使徒の上空で待機していた神の使徒二体が天に掲げた片腕から極太の雷の槍を作り出し、それをヴィーネに向かって投擲した。否、正確にはヴィーネと今まさにヴィーネと競り合っている味方に向けてだ。シン(異端者)と同じ力を持っているヴィーネを危険視している神の使徒達は異端者を確実に屠るべく味方ごと攻撃することを選択した。目的の為ならば躊躇わず味方を切り捨てる。それが神の使徒…いや、神エヒトのやり方なのだとヴィーネは改めて自分が敵対する存在の理不尽さと邪悪さに嫌悪感を抱く。

 

 そして今まさに自分を殺そうと迫る雷の槍はまさに理不尽なまでに凶悪で、ヴィーネに回避を許さない程速く、避けようとすればその瞬間に目の前の神の使徒との競り合いに押し負け即座に切り捨てられる。だがヴィーネは不敵に笑みをこぼし確信していた。

 

 神という人が決して抗えない理不尽に対し、それを超える理不尽が邪悪な存在の思惑を打ち砕くことを。

 

 

「ゼィヤッ!!」

 

 

 突然、雷槍の射線上に割って入ってきたレオニス。溶岩の海に浮かぶ岩場から一息で跳躍して来たレオニスはそのまま雷槍に回し蹴りを打ち込んだ。その一蹴りは豪快に空を裂き雷槍をあっさりとかき消してしまう。と同時に氷で出来た二匹の大蛇がレオニスの方に突っ込んでくるが、レオニスは軽く身を翻し氷の大蛇を躱すと今度は氷の大蛇を足場にしてその場を離脱していく。するとレオニスは視線だけを背後の下方に向け、その視線の先に居る白い女に声をかけた。

 

 

「おいバウキスッ!俺を氷付けにするつもりかッ⁈足が少し凍ったぞ!」

 

「なッ!勝手に割り込んできてその言い分は何ですか!氷付けになりたくないなら自分の相手に集中したらどうですッ⁈」

 

「言われなくてもそのつもりだッ!」

 

 

 そう言うとレオニスはバウキス達から少し離れた岩壁に一瞬だけ張り付き、まるで壁に打ち付けられたゴムボールが反射するかのように岩壁を凄まじい脚力で蹴りつけ、弾丸の如き速度で自身が相手取っている神の使徒達の元へ一直線に跳んでいく。そしてレオニスが受け持っている神の使徒二体は自分達に突っ込んでくるレオニスを迎撃するべく分解の魔力が込められた魔力砲を放った。対するレオニスは不敵な笑みを浮かべ、真正面から分解砲とぶつかりに行った。

 

 分解の魔力を一身に受けるレオニス。皮膚は徐々に赤みを帯び、全身に身を焼かれるような痛みが駆け巡る。いくら赤獅子のレオニスと言っても今は[人化]による影響で本来の高い魔力耐性は落ちている。そのうえ相手は神の使徒。並の相手ならまだしも神の使徒相手に無謀とも思える正面突破は自殺行為に等しいだろう。

 

 だが―――――

 

 

「ぬるいわッ!!」

 

 

―――――レオニスは咆哮と共に両腕を振り払う動作のみで分解砲をいとも容易くかき消して見せた。

 

 その光景に流石の神の使徒達も戦慄したのか一貫して無表情だった鉄面皮に困惑と焦りの色を見せ、そのまま突っ込んでくレオニスを警戒してなのか一瞬にして距離を取った。その様子を横目で見ていたバウキスは「相変わらず出鱈目ね…」と半ば呆れ気味に独りごちり、視線を元に戻す。

 

 バウキスが視線を戻した先には彼女が生み出した氷の大蛇と斬り結ぶ神の使徒二体が居た。その二体はレオニスに向かって放ったものと同じ分解砲を幾度となく二匹の氷の大蛇に浴びせていたが、大蛇はその体を幾度となく再生させ、何度でも神の使徒に喰らい付く。そして神の使徒が手にする双大剣は氷の大蛇を斬り付ける度に刀身を凍らせられ、神の使徒自身も氷の大蛇が放つ冷気に当てられ徐々に動きが鈍っていた。火山の、それも溶岩の直上だというに一切冷気が衰えることが無いのはそれだけ氷の大蛇に込められた魔力が濃密であり、魔法の扱いに長けているのが窺える。

 

 するとバウキスはそんな神の使徒達を見てクスリと笑い、ゆっくりと片腕を頭上に掲げながら口を開く。

 

 

「レオニスに言った手前、私も目の前の獲物に集中しませんと......さて、貴方達神の使徒には昔随分とお世話になっていますからねぇ、サービスであと六体追加しましょう」

 

 

 その言葉通りバウキスは片腕の動きと共に六体の氷の大蛇を生み出した。既に生み出されている氷の大蛇と同じく殺意の高い冷気を放つ大蛇だ。

 

 

「私の主人も以前お世話になったそうですから…どうか存分に私からのお礼を受け取ってください、ね?」

 

 

 そう口にしたバウキスは口角を上げ、実に落ち着き払った笑顔を浮かべていた。しかし彼女の体から溢れ出す魔力とオーラ、そして笑っていない目から察するに極まった殺意で顔が歪むのを隠していることが簡単に伺えた。さらに言えば彼女の空色の瞳は瞳孔が大きく開いており、その様はまさに絶対に獲物を逃がさない捕食者然とした意思が見て取れるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

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 これは、とある幼子が見た輝かしい日々の記憶。

 

 その一幕である。

 

 懐かしい部屋の中。幼子の前には広々としたソファにうつ伏せで横たわり背中に無数の針を刺されている男が居た。背中に一本、また一本と細い針を刺される男は低く響きのある声を漏らし、苦痛で喘いでいるというより何処か気持ち良さそうにしていた。そんな男の横には彼の背中を針山にした女性が立っており、彼女は男の背中を労わる様に慣れた手つきで処置を行う。

 

 だが、幼子は男の姿が痛々しく見え、拷問を受けているように思えて止まなかった。男が声を漏らす度、幼子がビクッと体を震わせる。そんな幼子の頭にポンっと大きくて暖かい手のひらが乗せられ、幼子の頭を撫でながら目の前の針地獄が一種の治療であると事説明してくれる。

 

 そして治療を終えた男はいつも以上に元気になり、頭を撫でてくれたその主は幼子を抱きかかえ、元気になった男と談笑していた。すると彼らの周りに次々と人が集まり、またいつものように賑やかな風景になる。

 

 笑顔の輪が広がり、幼子はその輪の中で一際輝く笑顔を見せるのだった。

 

 心躍る毎日を過ごした日々。目に映るもの、教わる事全てが新鮮で、そんな日々の積み重ねは幼子にとって忘れられない思い出であった。

 

 幼いながらにこんな日々がずっと続けばいいのにと幼子は願う。

 

 だが、そんな幼子のささやかな願いが叶うことは.........二度と訪れなかった。

 

 

 

 

 

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 魔力の使いすぎで疲弊しているのか、今の現状とはかけ離れた穏やかな思い出がふと蘇るヴィーネ。

 

 そんな思い出に浸れるほど目の前の敵は生優しく無い。しかしヴィーネは頼もしい仲間達の支援と戦いぶりにえも言えぬ安心感を覚えつつ、その反面で僅かな焦りを感じていた。

 

 現状ヴィーネはバウキスの支援が無ければまともに戦う事が出来ない状態だった。水場の無い火山の中ではヴィーネが保有する精霊(ジン)〝ヴィネア〟の力を十分に発揮することも出来ない。大気中から水分を集めようとしてもこの大火山の、それも最深部となれば水を集めた先から沸騰し蒸発してしまう。そしてヴィーネは魔法の才能が無い為、魔力によって水を生み出すことが出来ない。つまりこの大迷宮とヴィーネの相性は最悪なのだ。

 

 シンやロクサーヌ達から過大な評価を受けているヴィーネだが本人の自己評価は低い。実際ヴィーネの実力の大半が精霊(ジン)の能力に頼った戦法であり、彼女単体の能力では異世界からの召喚者達、つまり天ノ河達と同等ぐらいの強さしかない。尤も、それだけでもこの世界でなら相当な実力者として数えられるべき人物であるのだが、エヒトとの戦いに参加するのならばそれは今一歩足りないのだ。それをヴィーネは十分理解していた。

 

 バウキスやシン程の魔力保有量も無ければ、魔法を行使する才能も無いため魔力量に物言わせたゴリ押し戦法や自身で水を補うことも出来ない。全身魔装も日に何度も行使できるわけでもない。戦闘技術の面でも神の使徒相手に遅れを取ることは無いが、現状では今一歩届いていない。ヴィーネは歯痒い思いをしていた。

 

 そしてヴィーネは今、競り合っていた神の使徒から一度距離を置き、相手の様子を伺いながら足元に透明な波紋を広げ空中に留まっていた。ヴィーネ(彼女)が手に持つ大剣にはバウキスから供給された残り僅かの水はとぐろを巻いた蛇のように纏わせている。対する神の使徒は相手の出方を俯瞰して見れるように少し離れた上空から無表情にヴィーネを見下ろしていた。

 

 そんな神の使徒の視線から自分の底を見透かしたような圧迫感を感じたヴィーネは内心で独白する。

 

 

「(あれは気付いていますね。私自身が魔法で水を生み出せないことを.........。他の二体はバウキスさんが相手をしているから手一杯のようですが、恐らく次は全力で水の供給を阻止しに来るでしょうね。ロクサーヌさんは既に使徒を一体倒しているようですし、レオニスさんや進さんに至っては心配など無用。いえ、私以外のみなさんにはこれぐらいの逆境など大したことないのでしょう............やはり、私には才能が無い)」

 

 

 改めて実感する己の無力さ。ロクサーヌのような剣技も速力も無ければ、バウキス程の魔法の才能も無い。レオニスのような強靭な肉体もシンのように精霊(ジン)を使い熟せているわけでもない。

 

 

「(奥の手を使えば話は変わりますが、ここで使うのは論外。ええ分かっていました。私に才能が無いことなど。それはあ(・)の(・)時(・)か(・)ら(・)何(・)も(・)変(・)わ(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)..........)」

 

 

 戦場に立つ資格すら持ち合わせていなかったあ(・)の(・)頃(・)と今の自分はいつだって凡人。だが、せめて戦場に立つ資格だけでもと必死に足掻き、何度も死線を潜り抜け獲得した力も強大な敵の前では通用しない。

 

 ならばどうすればいいのか?

 

 

「(.........そんなものは決まっている。今もあの頃も変わらない......勝てるまで何度でも喰らい付く!足りない物は知恵と勇気で補う!それも私があ(・)の(・)人(・)達(・)から受け継いだ理不尽に抗う術なのだから!!)」

 

 

 決意の炎を再燃させ、ヴィーネは状況を整理する。相対している神の使徒はこちらの様子を伺いながら隙を突こうとしている。未だに攻撃を仕掛けてこないのは恐らく奴らにとって理外の力である精霊(ジン)の能力を警戒しているからだろう。そしてバウキスの氷柱から供給した水は残り僅か。先程の神の使徒との衝突で七割近く水が霧散しているので次の一撃のみにしか使用できない。ならば再びバウキスから水を供給して貰えば良いのかもしれないが―――――

 

 

「............それはあ(・)の(・)人(・)達(・)のやり方じゃないわよね」

 

 

―――――今自分の力でこの逆境を超えなければ、一体何の為に自分で戦う事を選んだのか分からない!実力不足は百も承知、だけど乗り越えるための知恵、技術、意思、経験、それら全てはもう自分自身の中に刻まれている!

 

 

〝ひねり出せ!今の私だからこそ出来る最善の一手をッ!!〟

 

 

 数瞬後、何かを閃いたヴィーネは空中を蹴り相対する神の使徒に向かって一直線に駆け出した。すると神の使徒の方もヴィーネが駆け出したと同時に銀翼をはためかせヴィーネに向かって直進してきた。

 

 

「性懲りも無く真正面からですか。既に貴方のその力が水に依存していることは把握しています。味方から水を補給せず、残り僅かとなった水で向かってくるとわ。実に愚かなことです」

 

 

 そう口にした神の使徒は全身から銀色の魔力を立ち昇らせ加速する。神の使徒は奥の手である〝禁域解放〟を発動させ自身のステータスを飛躍的に強化し、次の瞬間にはヴィーネを確実に殺そうとしていた。するとヴィーネは向かってくる神の使徒に大剣の矛先を向ける。

 

 

「〝水神散弾槍!(ヴァイネル・アルサーロス)〟」

 

「ッ⁉」

 

 

 それは神の使徒の意表を突いた牽制。直進していたヴィーネは突然バックステップを踏み、残りの水を全て使い三本の水の槍を撃ち放って来たのだ。大きさは比較的小さい水の槍。細剣程の細く鋭い水の槍だが〝ヴィネア〟の卓越した水の操作力をフルに活用したことで水の槍は高速で螺旋回転し、回転によって水が霧散しないよう形状維持の為にいつのより割増しで魔力が込められている。その結果、疑似的な限界突破状態である神の使徒ですら無視できない程にスピードと貫通力に特化した攻撃となった。

 

 神の使徒は急停止し、それを分解の魔力を纏わせた双大剣で強引に打ち払う。下手に避けて後々不意を突かれるより確実に相手の手札を潰すことに重点を置いた判断であった。打ち払われた水の槍は激しく飛沫を上げながら散っていく。

 

 

「血迷いましたか?これで貴方の手元に水は一滴もありません。牽制の為に手札を使い切るなど本当に愚、か....ッ⁉」

 

 

 神の使徒は目の前で起こっている異常な現状に気付き、ヴィーネに対する批判の言葉を中断する。

 

 先程双大剣で打ち払い、霧散したはずの水の槍。それが小さな雫となって神の使徒の周囲で無数に漂っていたのだ。雨粒程の極小の雫が神の使徒を囲うよう四方八方に散らばり空中で留まっていおり、その全てに微弱ながらと(・)あ(・)る(・)固(・)有(・)魔(・)法(・)が込められていた。そして、それらは突然形状を小さな針のように変化させ一斉に神の使徒に向かって飛来して来た。

 

 ヴィーネの攻撃手段を潰した、というほんの僅かな油断が神の使徒の判断を遅らせ、四方八方から降り注ぐ水の針を全て防ぐことが出来なかった神の使徒。だがそれでも大半の水の針は分解の魔力を纏わせた銀翼で薙ぎ払らわれ、被弾したといっても雨粒程の小さな針では大したダメージにもなりえなかった。

 

 

「何をするか思えば.....無意味な抵抗ですね。あの程度で私に傷を負わせられるとお思いですか?」

 

「まさか。貴方達神の使徒相手にこの程度の攻撃が通用するとは思っていません。ですが.....狙(・)い(・)通(・)り(・)で(・)す(・)」

 

「何を言って.....ッ!これはッ⁉」

 

 

 ヴィーネの言葉を聞き終えて、ようやく神の使徒は自身が置かれている現状に気付いた。

 

 

「体が.....動けない.....」

 

 

 神の使徒は自身の体が思うように動かせないことに驚愕していた。全く動かせない訳では無い、ただ手足に全く力が入らないのだ。まるで軽い電気ショックを浴びて手足の感覚が麻痺しているかのように。

 

 それを察知したヴィーネの行動は早かった。

 

 羽織っていたローブを脱ぎ、背後に投げ捨てた後、一直線に神の使徒に大剣を突き立てるように突撃する。

 

 突然の麻痺に理解が追いつかない神の使徒。しかし神の使徒もヴィーネの突撃を簡単に受けるつもりは無い。手足が麻痺していると言っても体感的にこの痺れがそう長く続かないと判断し、麻痺していない銀翼をはためかせ、ヴィーネの突進を回避しようとする。

 

 だが、そうはさせまいとヴィーネは突撃しながら力一杯に吠えた。

 

「〝我が身に宿れ!–––––ヴィネアァッ‼︎〟」

 

 

 途端ヴィーネの全身が発光するとその光の奥から水色の鱗と髪、そして羽衣を纏った姿のヴィーネが現れる。あの要 進(イレギュラー)と同様に異質な魔力と姿をしたヴィーネを見た神の使徒は目を見開く。だがそんな神の使徒に驚く暇すら与えないと言わんばかりにヴィーネは加速する。

 

 全身魔装によって全ステータスが一気に上昇したヴィーネのスピードは先程のまでのものとは比べものにならない。

 

 回避は間に合わないと踏んだ神の使徒は現状唯一動かせる白銀の両翼を眼前でクロスさせ防御体勢を取る。と同時にヴィーネの大剣が神の使徒の両翼に突き立てられた。

 

 大剣と銀翼がせめぎ合い、まるでヂリヂリと硬い物を削り合うように両者の魔力が接する箇所から散っていく。

 

 現状は互角。全身魔装によるステータスアップとスピードを乗せた渾身の一撃も分解の魔力による強固な壁に阻まれ押し切ることが出来ない。それどころか徐々に押し返されつつあった。そのうえ残りの魔力も少なく、この一撃の後ヴィーネの魔装は直ぐに剥がれ落ち、完全に勝機の芽は潰えてしまうだろう。

 

 やはりあと一歩及ばない。

 

 だがそんな事は百も承知であるヴィーネは不適な笑みを浮かべる。

 

 その笑みを訝しむ神の使徒だったがヴィーネの背後に見えたそ(・)れ(・)に驚き、再び目を見開く。

 

 それは巨大な水の槍だった。

 

 

「(いつッ!?いえ、そもそも何処から............ッ!?)」

 

 

 その水の槍はヴィーネが神の使徒に突撃する直前脱ぎ捨てたローブに仕込まれた魔法陣によって召喚された物。ヴィーネが事前にヴィネアの水神槍(ヴァイネル・アロス)をロバートに協力してもらい、ローブに封じ込めていたのだ。自身のみの力ではどうしようもない状況に陥った時に使えるたった一度きりの打開策、それこそ大火山攻略の際の水を補給する一つの策として............。

 

 それを今の今までヴィーネは神の使徒にそれを悟られぬよう背後に隠していたのだ。

 

 万全の状況下で限界まで威力を高めて生み出しておいた水神槍(ヴァイネル・アロス)。それが今、ヴィーネの後方でドリルのように高速で螺旋回転をし敵を食い破る瞬間を今か今からと待ち望んでいた。

 

 

「貫けェェェッ‼︎」

 

 

 ヴィーネの後方で待機状態だった水の槍が射出され、ヴィーネが構えている剣と重なるように纏い、神の使徒の銀翼とぶつかる。僅かに拮抗したかのように見えたがそれも一瞬のこと。水の槍の威力を押し殺さなかった神の使徒はその体に大きな風穴を開け、僅かに静寂な時間が流れる。

 

 そんな中、神の使徒は霞む視界でヴィーネを睨みつける。それに対してヴィーネは満足そうに不敵な笑みを溢す。だが力の全てを出し切った為か空宙に留まる事が出来ず、ほぼ同じタイミングで両者は力果てた様子で落下していく。案の定、ヴィーネは魔力切れを起こし魔装も完全に解けてしまう。

 

 このまま落ちて行けばヴィーネは溶岩の海に沈んでいくだろうが、そんな事はバウキスがさせなかった。ギリギリのところでバウキスがヴィーネを抱きかかえ、彼女を安全な岩礁に横たわらせる。一方で神の使徒は、薄れゆく意識の中で自身の主人に謝罪をしながら溶岩の海に沈み、その身を劫火に焼かれながら朽ちていったのだった。

 

 その様子をしかと見届けたバウキスは柔和な笑みを浮かべヴィーネを労った。

 

 

「お疲れ様ですヴィーネ」

 

「あ....ありがとう、ございます........です」

 

 

 魔力を使い切ったヴィーネはかなり疲弊しているらしく、仮面越しではあるがその声から彼女の疲労感が読み取れた。

 

「かなり無茶をしたみたいですね。ここはもう大丈夫ですから今はゆっくり休んでください」

 

「で、ですが.....まだ、他の使徒達が.....」

 

「ご心配なく。すでに私の方は片付いております」

 

 

 そう口にしたバウキスが視線を後方に向けた先には物言わぬ氷の彫像と化した神の使徒二体があった。それもマグマの一部ごと凍らされており、凍っていないマグマの熱で徐々に溶けつつあるがその一箇所だけ明らかに別世界となっていた。まるで赤い絵の具の一箇所に白色の絵の具を垂らしたような。

 

 バウキスにとって環境的に不利であるはずの火山。その一部とはいえ確実に凍らせるほどの魔法。朦朧とする意識の中でヴィーネはバウキスの底知れない力に戦慄した。

 

 

「あと数分もすれば辺りの氷は完全に溶け切るでしょうが、使徒達は身体の芯まで凍らせておりますので大丈夫でしょう」

 

「流石、ですね.....それに比べて私は.....自分が不甲斐なく思います」

 

「そんなことありませんよ。あれは単に魔力量で力押ししたに過ぎないせん。力の制御が出来ていない証拠に辺りの溶岩を凍らせてしまっています。それに比べてヴィーネが使った先程の水の針。精霊(ジン)の力をあれほど緻密に扱えるとは流石です........ん?ヴィーネ?」

 

 

 返ってくる筈の返事がない事に訝しんだバウキスだったが、ヴィーネが既に眠りについている事を確認しバウキスは安堵の息を漏らしそっとヴィーネの前髪を優しく撫でた。

 

 するとヴィーネは小さく寝言で『ママ....』と漏らし、その寝言を聞いたバウキスはクスッと微笑みを浮かべるのだった。

 

 

「お疲れ様です。どうか今だけは、この子に安らかな安息と優しい夢の続きを........」

 

 





如何だったでしょうか。
久しぶり過ぎる投稿なので拙い面が多くあると思いますが、そこはご指摘頂けると幸いです。
といってもそこは元からとツッコまれると耳の痛い話です(苦笑)

それでは皆さん、また近いうちにお会い出来る日を楽しみにしております。
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