ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜 作:つばめ勘九郎
翌日、要達クラスメイトはオルクス大迷宮がある宿場町ホルアドにやってきていた。
そして訓練の間は、王国の兵士達が訓練のためよく使う宿屋に要やハジメ、他クラスメイトが寝泊まりすることになっている。今日はここで一泊し、明日早朝からオルクス大迷宮へと潜ることになっている。
要の同室はやっぱりハジメだった。まあ要自身、ハジメ以外と同室になるのは気が休まらないので辞退したい、と思っていたがメルドの計らいで同室にしてくれた。
「まさかオルクス大迷宮でハジメの実戦デビューになるとはな〜。できればその前に実戦を積ませたかったんだけど」
「今回は二十階層までしか降りないから心配ないし、これもいい経験になるよ」
「.....ま、そうだな。師匠として、弟子の成長がどんなものか楽しみだ」
「誰が弟子だよ、まあ鍛錬に付き合ってくれたのはありがたいけど。変にプレッシャーかけるのはやめてよね?」
「わかってるって。お互い明日は頑張ろうぜ、相棒」
「うん、頼りにしてるよ、相棒」
そう言って二人は拳を合わせた。なんだかんだ言ってこれが二人の挨拶みたいになっている。最初こそ恥ずかしそうにしていた要だったが、今では自然とそれが二人の挨拶だという風にカッコつけている。
すると誰かが訪ねてきたのか、部屋の扉をノックする音が室内に響いた。二人は顔を見合わせ、「今開ける」と言っても要が扉を開けると、そこには白崎が立っていた。純白のネグリジュにカーディガンを羽織った姿をしていた。
「
「なんでやねん....」
「え?」
二人はそれぞれ違うリアクションをとる。要は白崎のなんとも無防備な姿に、ハジメはそんな姿で何故ここに?という気持ちで漏れた発言だった。そんな二人のリアクションにキョトンとする白崎。だが、そこで気を取り直してハジメが白崎に尋ねた。
「えっと、白崎さん。こんな時間にどうしたの?」
「.....その、ちょっと、南雲くんと話がしたくて」
「OK、了解だ。俺は席を外す、あとは若い者達でご自由に」
「ちょ、シン!?」
「俺は一時間、いや二時間ぐらい席を外すからその間にちゃんと済ませとけよ。あと換気もしといてくれよぉ?」
「おいシン!?笑いながら何言っちゃってくれてるの!?」
「じゃ、ごゆっくり〜ぐふふ...」
「おい待て!」
わざとらしく気を利かせた要がそんな事を言いながら白崎に部屋に迎え入れ、自分はそそくさと部屋を出ていった。まあ要の意味深な発言の意図に気付いたのはハジメだけで、白崎はずっと頭に疑問符を浮かべていたので、要が思うようなことにはならないだろうと考えていた。
そして、部屋の扉を閉め、要は暇つぶしにちょっと鍛錬でもしようと宿屋の屋外広間に向かって歩いて行った。
屋外広間に到着するとすでに先客がいた。
その人物はこの世界に来てずっと使っている愛用の剣を振り続け、長い黒髪を揺らし、一心不乱に剣を振り続けていた。
「よお、八重樫」
「ん?要、くん.....」
「自主練か?」
「ええ、同室の子がこんな夜更けに男の子のところに行っちゃったもんで手持ち無沙汰なの」
「奇遇だな、俺も同室の男子が女子を連れ込んだから気まずくて逃げてきた」
「「ふふっ、あはは」」
そんな冗談を言い、二人は笑い合った。
「なんだか久しぶりね、こういうの。一年生の頃以来かしら?」
「そうだな。二年になってからは、まあ色々あったから、なかなか話す機会がなかった」
「......ねぇ、要、くん」
「みずくせぇよ八重樫、昔みたいに要でいい」
「じゃあ要、今までごめんなさい」
「何がだ?」
「
頭を深々と下げる八重樫の言葉は震えていた。まるで償えきれない罪を断罪してほしいように、八重樫を言葉を振り絞っていた。
「八重樫、頭を上げてくれ。あれは全部俺が蒔いた種が原因だ、それは前にも言っただろ?だからお前が謝る必要はない」
「でも!!」
「なら聞かせてくれ、
「.............」
それを聞いた八重樫は数秒を沈黙した後、頭を上げた。そして意を決したように、また頭を下げた。
「ごめんなさい、貴方とは付き合えないわ」
「理由を聞いても?」
「今は、誰とも付き合う気にはなれないの。貴方の気持ちはすごく嬉しいけど、私にとって貴方は、友達だから」
「........................そうか」
八重樫の言葉を受け止め、要は大きく深呼吸した。そして気持ちを切り替え、豪快に笑って見せた。
「ならしょうがない、ようやくスッキリしたぜ!ちゃんと返事を返してくれてありがとな、八重樫」
「ううん、私こそ今まで放置してて本当にごめんなさい」
「気にすんな、俺が避けてたってのもあるから、悪いのは俺の方だ。それよりフったからって友達やめてくれるなよ?流石にそれは寂しいからよ」
「もちろん、友達やめないわよ。むしろ貴方が私を避けないか、そっちが不安だわ」
なんて軽口を言い合い、二人はまた笑って見せた。
「それじゃあ私はもう戻るは、多分香織も戻ってきてるだろうし」
「ああ、俺はここで鍛錬して戻るからお先にどうぞ」
そう言って八重樫は親友のところへ駆けて行った。それを見届けた要は、壁に背を預けながら、ずるずると座り込んだ。
「はぁ〜、これで俺の初恋は終わったな。まったく、片想いの時間が長いとその分心にダメージがくるなぁ〜」
誰もいない中、消え入りそうな声でそんな事を独り言ちる。すると頬が何かに濡れたのを感じそれを拭ってみると、視界がぼやけ始めていた。
「まったく、かっこつかねぇなぁ〜俺ぇ.......さてと!さっさと鍛錬済ませて、風呂に入ったら、寝ちまわねぇとな!明日はオルクス大迷宮なんだ、切り替えねぇと」
要は目元を雑に擦り、頬を叩き、立ち上がる。
そして筋力トレーニングを一心不乱に行い、精神を整えた。
そんな要の様子を見ていた者がいた。
壁の影に隠れ、結局声をかけるタイミングが掴めず、ずっとそこで要と八重樫のやりとりを聞いていた園部。
園部は一心不乱に鍛錬に精を出す要を見て、そして先程までの二人のやりとりを思い出し、何かを決意したような顔でその場を後にした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ー
場所は変わってオルクス大迷宮十九階層。
メルドの声が洞窟内で響き渡れば、今度は剣撃の音、硬い何かに金属を打ち付けるような音、または小さな爆発音といったものが忙しなく聞こえてくる。
現在、要達“勇者一行”は騎士団の兵士達、そしてメルド団長と共に迷宮内を進んでいた。
そして迷宮に入って何度も繰り広げられる魔物との本物の実戦に、クラスメイト達はそれほど苦戦もせず楽々ここ十九階層までやってきていたのだ。
異世界人のほとんどがチート持ちの集団なうえ、勇者といった格別チート能力の天之河に彼を中心として坂上、八重樫、中村、谷口、そして白崎のパーティーは見事な連携プレイであっという間に魔物を討伐してしまう。
そんな優秀な生徒達に苦笑するメルド。だが、驚くという意味でメルドがさらに苦笑いしてしまうパーティーが他にもいた。それはーーー
「いくぞ、ハジメ、遠藤!ーー“剛力付与”!」
「ーー錬成!ーー」
「お、おう!」
要 進率いる南雲ハジメ、遠藤浩介、園部優花、菅原妙子、宮崎奈々の六人だ。
まず要が自身と遠藤に身体強化を施す。そしてハジメが遠距離から錬成で洞窟内の岩の形状を操作し、敵を分断する。分断した魔物達を要と遠藤、園部が各個撃破していく。そのサポートを操鞭師の菅原が魔物の足止めや中距離から攻撃をし、氷術師の宮崎が遠距離で魔法を放つ。
即席パーティーでありながらかなりの連携を見せている。
その要因となるのが、やはり要とハジメだろう。全体的にパーティーに指示を飛ばすのは要だが、要は前線で魔物を屠っている。なので副官として臨機応変に一人一人に指示を出し動かしているのはハジメだった。さらに戦いでの反省点や考慮すべき点などを逐一話し合い情報交換を念蜜に行っていた。それももちろん要とハジメが中心となって。
(まったく、この二人。俺の出る幕がないじゃねぇか)
なんて思いつつ、もはや呆れ気味に肩をすくめるメルドだった。
すると園部が倒したはずの魔物が急に動き出し、園部に襲いかかった。驚いた園部が尻餅をつき、「危ない!」と誰かが言った。
だが園部は無事だった。
「大丈夫か、園部」
「か、要....」
「こういう奴は割と頭の骨が硬いから、仕留めるなら首を切り飛ばすか、心臓をぶっ刺すぐらいじゃないと」
襲い掛かろうとしていた魔物は要の錫杖で腹部を貫かれ、地面に磔にされていた。要が園部に説明する間も魔物は痛みで暴れるが錫杖は抜けない。そして説明が終わるとあっさり要の刀剣で首を刎ねられた。
「助けてくれて、ありがとう」
「おう、どういたしまして」
「でもアンタ、その錫杖でボコスカ魔物を殴るのはどうかと思うわよ?」
「え?便利だぞ、棍棒みたいに使えるから」
「いや、アンタの使い方間違ってるから。香織を見なさいよ、ちゃんと杖として使ってるじゃない。ほら、南雲もなんか言ってやりなよ」
「え?シンは杖を強化してるから、棍棒とか槍代わりに使えて物凄い便利だと思うけど?」
「ダメだ、聞いた相手間違えた」
「もぉ〜優花っちは〜、要が心配なのはわかるけど、そんなツンケンしないの♪」
「そうそう、要くん私たちなんかよりよっぽど強いんだからさ。それにいざとなったら優花がその指輪の力で守ってあげればいいじゃん」
「な!?私は別に要を心配して言ったんじゃないし!」
「またまたぁ〜、素直になれって優花っち!」
「もぉー!ほんとにそんなんじゃないって!」
などと実戦の場にしてはえらく気の抜けた会話をする要パーティーの面々。ちなみに遠藤は影が薄すぎて会話に参加できていなかったりする。哀れ、遠藤。
そんな要と園部のやりとりを遠目で見ていた八重樫。以前より確実に仲を深めている二人を見て八重樫は、少し自分の中でモヤっとしたものが芽生えたが、それがなんなのか分からず不思議に感じていた。
すると要達を見ている八重樫に対して声をかけてくる男がいた。
「どうしたんだ雫、要達を見て。まさかまた要が何かやったのか?」
「そうじゃないわよ光輝。ていうかいい加減、何でもかんでも要が悪いみたいな捉え方やめた方がいいわよ?」
「何を言ってるんだ雫。要は危ない奴だ、また雫に何をしでかすか分からないからな。俺がちゃんと見張ってるから雫は要のことなんか気にしなくていい」
「はぁ〜、もういいわよ。ほら、早く行くわよ、勇者様」
天之河の発言に胸がチクリとした八重樫。これ以上彼に対する幼馴染の変な勘違いを加速させないために、八重樫は話を打ち切り、洞窟を進んだ。そして親友の白崎が南雲のところに駆け寄り、何か話している姿を見て微笑ましそうにしつつ、そんな二人にちょっぴり羨ましいと思ってしまうのだった。
さらに迷宮内を進み、二十階層に到着。
到着早々、魔物に襲われるクラスメイト達だが天之河や坂上、八重樫に要が率先して道を切り開く。
何故要が八重樫達と同じように率先して魔物退治をしているかというと、単純に要の暴走である。
つい冒険者稼業で体に刻まれた“魔物、即、殺”というイワンの教えが反応し、天之河達よりも早く魔物の中に飛び出してしまったのだ。
錫杖と刀剣、そして要自身の肉体に攻撃力、耐久力上昇の効果を付与し、さらに軽量化という付与したものの重さを軽くするという付与を施し、魔物を蹂躙する。
ちなみにこの暴走はオルクス大迷宮に来て、すでに二度三度はみんなが見ている現象だ。
そんな要の姿に呆気にとられる他のクラスメイト達、要に負けじて天之河達が参戦、そしてハジメが錬成で強制的に要を回収。勝手に行動した要に呆れるハジメ、要を叱る園部、それを嗜めようとするもまったく反応されない遠藤、園部を茶化す菅原、宮崎達と、もはや恒例と化している彼らのやり取りに兵士達も思わず苦笑していた。
「うわ、アンタまた魔物の血でベトベトじゃん!汚いって!」
「え?これくらいーー」
「ばっ!袖で拭おうとしないの!あぁ〜もう、こんなに汚して〜....て、コラ!ズボンに擦るなぁ!」
「なんていうか、優花っち.....ママみたいになってるね.....」
「うん、なんか思ってたのと違う.....」
もはや慣れた手つきで園部が持ってきていたタオルで要の顔や手をゴシゴシと拭く。別に魔物との戦闘なのだから汚れて当然なのだろうが、要の場合それが酷すぎるので園部が仕方なく文句を言いながら要の世話をしていた。
「ぷふっ、シンが....くく、小学生みたいに、くく、なってる....」
「おいコラ、ハジメ!何笑ってんだ!」
「もぉー!動かない!」
「はい.....」
「「ぶふーっ」」
「遠藤、あとで覚えてろ....」
「なんで俺だけーー!?」
まるで外で泥だらけになって帰ってきた小学生の息子のように甲斐甲斐しく世話を焼かれる要。そんな光景にハジメや遠藤が必死で笑わないように堪えていた。
そんなやり取りを白崎や八重樫も遠目で笑って見ていた。まるで学校で要が諦めていた友人との笑い合う日常が、ここにきてようやく取り戻せたかのように、八重樫はそう感じていた。
「お前達、緩みすぎだぞ。今日はこの階層で終わりだが最後まで気を抜くなよ!」
メルドが気を引き締めるようにと注意する言葉を発した。
それに同調するように天之河が要を睨んでいた。注意勧告のつもりなのだろう、まあ騒ぎすぎたのは事実なので甘んじて受け入れた。
そして何度目かの魔物との戦闘の後、それは起きた。
檜山がメルドの制止を振り切り、立派なグランツ鉱石を掴んだその時、要達はこの世界に来て二度目の転移を体験するのだった。
補足
・現状において要の戦闘スタイルは、ステッキを掲げて「エ○スペリ○ームス」と言って戦うような魔法使いではなく、物理特化魔法使いとなってます。錫杖と刀剣を強化し、切って、殴って、突いてをします。薩摩ホグワーツ生よろしく杖を武器にしてます。現状脳筋です。(※手心はあります、あくまで薩摩ホグワーツ生“みたい”ということですので悪しからず)
・南雲ハジメの戦闘力がこの時点で割と高めです。派生技能[魔力消費減少]を獲得しているので中規模の錬成が可能です。具体的なイメージでいうとハガレンみたいな感じです。