ありふれた職業で世界最強〜付与魔術師、七界の覇王になる〜 作:つばめ勘九郎
あの惨劇から二日が経ち、天之河達はすでに王宮に戻ってきていた。
王宮内では勇者一行に犠牲者が出たという話が広まっていた。その犠牲者が無能な錬成師、南雲ハジメだと知るや貴族や教会関係の人間達は「死んだのが無能で良かった」「無能でも死んで勇者達の役に立った」などと話していた。それに対して勇者一行と共にいた兵士達、それと天之河が抗議し、その話は今後表立って話されることは無くなった。そして無能にも心を痛める慈悲深い勇者だと何故か天之河の株が上がっていた。
一方、要はいま王宮の地下にある石造りの小さな部屋で監禁されていた。鉄格子の扉と相まって、まさに牢屋と言った感じの一室だった。その中でただ一人壁にもたれ、静かに座り込んでいた。
すると牢屋の外から石造りの階段を誰かが降りてくる足音が響いてきた。そしてその足音の主が要のいる部屋の鉄格子の前で立ち止まり、こちらを向いた。
「シンさん...」
「リリィか。どうした、顔色が悪いぞ?」
「シンさんこそ、目の下のクマが酷いですよ?全然寝てないみたいですけど」
「こんなところで満足に寝られるわけがないだろ?」
「.....申し訳ありません」
「なんでお前が謝る?これは俺の失態からの理解できる措置だ」
「ですが!......このような仕打ちを....それに王宮内での噂も....」
要がこのような状況に陥っている原因は、あの時檜山を殴ったことである。と言っても、ただ殴っただけならこんな重い罰にはならない。
要には今、三つの嫌疑がかけられている。
一つ、檜山大介を迷宮内で殺そうとしたこと。
一つ、南雲ハジメを殺したという疑い。
一つ、座学もサボってばかり、ステータスにある謎の技能、勇者をも越える実力、これらと上記の前文を踏まえ要には魔人族のスパイと噂されていた。
実に馬鹿馬鹿しい話だ。
檜山大介を殺そうとした、というのはあながち間違っていない。あの時の要は檜山に確かな殺気を放っていたから反論するつもりもない。だが二つ目を飛ばして、魔人族側のスパイというのは飛躍しすぎている。スパイがそんなに目立っていいはずないのだから。だが、王宮内ではそれすらも作戦で、教会が召喚した勇者達を裏切り者扱いへと仕立て上げる罠だともっぱらの噂らしい。そしてあわよくば勇者を殺そうと、とのことだ。
そして、飛ばした二つ目の嫌疑。
ハジメを殺したというのは絶対にあり得ないとリリィを始め、多くのクラスメイト達が否定していた。
だが、それに対して王宮内では「勇者に匹敵するほどの者が誤作動を起こした魔法一つ避けられないのはおかしい」とのことだった。そんな無茶苦茶な、と誰もが思った。
そもそもハジメを橋から落ちた原因はその魔法なのだから、その魔法を繰り出した相手を探せばいい。そう思う者もいたが、今はそれに触れないようにされていた。クラスメイト達ももし自分の魔法だったらと思うと、犯人を探そうとは思えなかった。
それらのこともあって要はいま、この地下の牢屋に閉じ込められていた。
「気にするな。それにリリィ達が必死になってその噂を無くそうとしてるんだろ?」
「そうなのですが.....教会側からある提案がされました」
「......どんな?」
「シンさんを国外追放するという提案です」
「それはまた、神の使徒の一人で貴重な戦力だから殺せない、ならば国外に追い出そうってことか。くく、笑えるな」
「笑えません、こんなこと!一体、誰がこんな噂を.....!」
リリィやメルド、八重樫に園部達がいま必死になって方々を駆け回り、要を解放するために働いてた。そして出鱈目な噂を蒔いた犯人を突き止めようとしていた。
要はなんとなく噂の出所に心当たりがあった。
檜山大介だ。だが、あの檜山が噂を広めた犯人ならすぐに突き止められそうなものだが、と要は考える。そして、もし檜山が犯人でないなら、この騒動は行くところまで行くだろうと要は直感した。
「......とにかく、一刻も早く噂を広めた犯人を見つけますので、どうかお待ちください」
「ああ、だがくれぐれも気をつけてくれよ?」
「はい、わかっています。ではシンさん、また来ます」
そう言ってリリィは要に頭を下げ、来た道を戻って行った。
ハジメがいなくなって気落ちしているだろうに。リリィや八重樫、それに園部達が要のために必死になって動いている。八重樫や園部もそうだが、クラスメイト達はハジメが死んだことにショックを受けていた。中には部屋から出てこないほど塞ぎ込んでいる者もいるが、そんな中でも今できることを必死にやろうとしている者達がいる。
そんな彼らを思い、いつまでもこんなところにいられないな、と思う要だったが、今はリリィ達を信じることに決めた。
「そう言えば、園部達、元気にしてってかな............ハジメ、お前今何してんだ.....生きてんだよな?」
不意にそんな言葉が漏れた要は楽しかったこともあったなと思い出す。そして早く牢屋を出て、オルクスに向かいたい気持ちを抱いていた。
だが、事態はかなり深刻だったらしく、後日要の処遇が決まった。
要 進の疑惑を晴らすことができず、王都の混乱を避けるため、“王都追放”の処分となった。
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それから数日後、ようやく牢屋から解放された要だったが、即座に玉座の間に連れていかれエリヒド王から直々に王都追放を言い渡される。
リリィや八重樫、園部達が何度もエリヒド王やイシュタル教皇に抗議していたが、これ以上王宮内で騒ぎを大きくさせないために、それに王都に広まることを恐れて決定は覆らなかった。最初は国外追放だったのをリリィとメルドの強引な説得でなんとか王都追放に止まったが、それでも二人は歯痒そうにしていた。
玉座での出来事からその後の流れはあっという間だった。
簡単に荷物を纏めた要、せめてもの情けとして王宮から馬車を用意してもらい、目的地まで運んでもらう手筈となっていた。
そして王都の門にやってきた要、それを見送りにきたリリィやメルド、クラスメイト数人達がなんとも言えない面持ちでいた。
「シンさん....」
「なんだよリリィ、そんな辛そうな顔して。それにお前達も、別に最後の別れってわけじゃねぇんだからそんな悲痛な顔するなよ」
「シン....本当に申し訳ない、私の力不足だ。お前も、ハジメも....救うことができなかった!」
「メルド団長....あなたのせいじゃないです。俺にも至らないことがあったのでお互い様ですよ。また会いましょう」
「!.....フッ、そうか。お前なら一人でもやっていけるか、頑張れよシン!」
「ええ」
要が差し出した手をメルドが握り、固く握手をした。
「要くん...」
「要....」
「白崎、八重樫....俺は先に行ってるぞ」
「先にって?」
「ホルアドだ。白崎もハジメがまだ生きてるって信じてるんだろ?」
「も、もちろん!」
「なら俺はひと足先にオルクスでハジメを探してくる。早く来ないと俺がさっさとハジメを見つけて感動の再会を独り占めしちまうぞ?」
「も、もぉ〜!」
「あっはははっ!八重樫、またな」
「.....ええ、またね」
白崎、八重樫の二人と冗談を交えて手早く挨拶を済ませる。
「要、その....元気でね」
「ああ、園部もな」
「.......ねぇ、要。次会う時に、ちょっと伝えたいことがあるんだけど、その時は聞いてくれる?」
「ん?今じゃダメなのか?」
「今は.....いい。もっと強くなって、アンタに少しでも追いついたら....ッ〜〜、話すから!」
「お、おう。まあのんびり待ってるよ」
そんな園部と要のやりとりに後ろで見ていた宮崎と菅原が何やらニマニマしていた。八重樫は視線を晒していた。そして宮崎と菅原、あと遠藤にも簡単に挨拶を済ませる。
「シンさん、これを」
するとリリィが要に近寄り、短剣を手渡してきた。
「これは?」
「アーティファクトです。王宮に伝わる不破の短剣で、手に入れるのに苦労しました」
「おいおい、そんな大事な物もらっていいのか?ん、苦労したって?」
「いえ、少しだけ父上をおど...ゴホン、説得して手に入れただけですから」
今一瞬、脅してと言いかけたリリィ。王女らしくニッコリと笑っていうあたり腹黒いが、要の王都追放には相当腹に据えかねていたらしい。その意趣返しだろう。
「まあ、お前が言うなら遠慮なく貰っておく。役に立ちそうだしな」
「ええ、存分に使い潰してください!」
そうして各々と挨拶を済ませ、馬車に乗り込む要。
「カイル!ベイル!イヴァン!くれぐれも道中は気をつけて要をホルアドまで送り届けろ、いいな!」
「「「ハッ!!」」」
護衛はメルドの部下三人。ベヒモス戦で要達と共に戦った兵士達だ。メルドの過保護っぷりもますます増しているらしい。
そして馬車が出発する。
要は馬車の窓から手を振り、しばしの別れを告げたのだった。
それから数時間が経ち、ホルアドまであと少しならところまで来ていた要達一行。
馬の手綱を握っているのはイヴァン。
そして馬車の中で要、カイル、ベイルは話を弾ませていた。途中イヴァンも話に混じり、三人との馬車に揺られての語らいはとても和やかだった。
カイルは要と同年代の好青年。体格が要と似ており、話が意外と合う優しい顔をした男。ベイルはそんなカイルより先輩の兵士で、ガタイのいい髭面のお兄さん。メルドに憧れて兵士になったらしく、メルドを真似て髭まで生やしたらしいが周りから似合わないと言われているそうだ。そしてイヴァンは、そんな二人よりさらに年上のおじさん。メルドよりも年上で今度子供が生まれるそうだ。
他にもベヒモス戦での要の活躍を振り返ったり、今回の王と教皇の決定に不満を漏らしたり、実はこんな魔道具を持ってるんです自慢とか、女の好みやフェチについて語ったりと実に有意義な時間だった。
そんな三人と楽しく話していたら、事態は急変した。
「前方!魔物の群れが接近中!狼型の魔物、その数十!」
イヴァンの張り詰めた声が馬車の中に届き、要、カイル、ベイルも戦闘の準備に入った。
「ちっ!もうすぐホルアドだってのについてないぜ」
「無駄口叩かないでください先輩!数はこっちが不利ですが、こちらには要様がいるので大丈夫ですよ!」
「おいおい、護衛対象を当てにしてたら団長にどやされるぞ。だが、確かにそうだな。負ける要因が一つもねぇ」
「あんまり過大評価しないでくださいよ....」
などと緊張感を持ちつつ、そんな軽口を叩き合っていると、いきなり馬車が大きく揺れた。そしてーーー
ゴオオオォォォォォッンッッ!!!
大きな爆発音のようなものが聞こえたと思ったら、馬車が激しく揺り動かされ、そのまま横転してしまう。
突然のことで馬車の中にいた要達は呻き声を上げる。
そして、横転した馬車の中から這いずって出てくるとーーー
ーーーーそれはいた。
馬車から出てきたカイルとベイルが頭上を見上げ、膝を折り、小さく呟いた。
「......神よ」
ーーーーはい、なんでしょうか?ーーーー
その呟きはカイルとベイル、どちらのものだったのかはわからない。
だが、その小さく消え入りそうな呟きに、凛として女の声が返事をする。
「まじかよ.....!」
要も頭上で佇むそれを見て言葉を失う。
修道女の服装を纏う、銀髪の美しい顔をした女性。
その女は神々しく、空を浮遊していた。
現実離れした光景に唖然とするなか、要はあることにきづいた。
(ハッ!!イヴァンさんは!!)
馬の手綱を引いていたイヴァンがどこにも見当たらないことに気づき、あたりを見回す要。
それに気づいたのか銀翼の修道女が指を差した。
「あそこに、
彼女が指した方向に視線を向ける要。その要が見たのは狼型の魔物の大群。
その群れの中心部、グチャグチャと咀嚼音を奏でる魔物達。一体、何を食べているのか。決まっている、イヴァンだった肉の塊だ。
すでにそこは血溜まりとなり、魔物の群れの隙間から見えた光景に要は顔を引き攣った。はらわたを引き摺りだされ、骨も噛み砕かれ、四肢は引きちぎられ、片目だけとなった虚な瞳をしたイヴァンの頭をグシャリと噛み砕かれる、その光景。
「ウッ!?ボゲェェェェェッ!!....うぇッ、がはッ!」
要は過去最高量の嘔吐をした。あり得ないくらい吐いたゲロ、要は涙目になり、荒く口で呼吸する。口の臭さで余計に吐きそうになるが、口元を拭い、頭上の女を睨んだ。
「汚いですね。こんな矮小な人間が主の障害と、本当になりえるのか疑問ですが主のご意志は絶対。ここで死んでください、イレギュラー」
「イッ...イレギュラーだと....?なんのことだ....!」
「あなたが知る必要はありません」
要は心を落ち着かせ、冷静に思考を巡らせる。
今も脳裏にイヴァンの死の光景が思い浮かぶが、ここはそう言う世界。現実に生と死が隣り合わせの世界なんだと自身に理解させる。その覚悟は王宮のバルコニーでハジメと誓った時から決めていた。なら、やることはただ一つ。
ーーー生きてここを乗り切り、ハジメに会いに行く!ーーー
強い闘志を心に宿し、要は立ち上がる。
錫杖と刀剣を構え、強化の付与を行う。
「あんた....一体何者だ。」
「私は神エヒト様に仕える使徒、ノイント」
「!?....エヒト神の使徒さまがなんでこんなことする?」
「先ほども言いました。主があなたの死を望んでいるからです」
(ふざけろっ!!)
「質問は以上ですか?では、死んでください」
「舐めんな、こっちはまだやらなきゃならなぁことが山積みなんだよ!あと、俺のことイレギュラーって言ったよな?」
「それが何か?」
「訂正しろ。俺はイレギュラーなんて名前じゃねぇ、南雲ハジメの友、付与魔術師の“要 進”だ」
「その必要があれば訂正します」
「可愛くねぇ奴、綺麗な顔の癖につまらねぇな」
「なんとでも言ってください、ではーー」
銀翼の修道女が片手に大きな銀の剣を構えた。それに合わせて、要も的を絞るように刀剣を構え直す。
(ここでやらなきゃ男じゃない。そうだろ、ハジメ.....!だから、俺はーー)
「死んでください」
(生きてやる!!)
要とノイントと名乗る銀翼の修道女が激突する。
それは奇しくもオルクス大迷宮、奈落の底で宿敵“爪熊”と戦おうとする、変貌した南雲ハジメと同じ時間だったことは、誰も知らない。
補足
・奈落に落ちた南雲ハジメがドンナーを生み出す時間は地上での時間で五日〜七日程度としました。ちょうど要達がホルアドから王宮に帰り、要が王都を追放された時間と被ります。追放系なろう作品の主人公みたいになりましたが、もうちょっと主人公くんには苦しんで貰います。
『不破の魔剣』
・リリアーナから貰ったアーティファクトの短剣。王族伝来の絶対に壊れない短剣だが、その真価は“あるべき姿に戻す”という再生魔法の効果が付与されたものです。その副次的効果の“絶対に壊れない”という性能のせいで王族に間違って言い伝えられてきた代物。使い方次第でその超有用性能を発揮する。今後の活躍に期待。
イヴァン
・メルドより少し年上な朗らかで優しいおじさん兵士。妻と二人で仲睦まじく暮らしており、妻のお腹の中には子供がいる。どんな父親になろうか真剣に考え「威厳のある父親と優しい父親、どっちが子供のためになりますかね!?」とメルドに相談し、「俺なら両方兼ね備えた、頼れる父親が望ましいな」と言われそれを目指していた。妻と子供の三人で明るく楽しく暮らすはずだった.......
ベイル
・似合わない髭面のお兄ちゃん兵士。元冒険者でガタイもよく、メルドに憧れて兵士になった。カイルを本当の弟のように可愛がっており、明るく豪快に振る舞っている。だが女運がなく、女に振られるたびにイヴァンやカイル、メルドに泣きついて相談に乗ってもらっていた。
カイル
・要と同い年のまだまだヒヨっ子の新米兵士。背丈や肌の色、髪色も要と同じだが、顔は要に比べると見劣りする優しそうな元貴族の好青年。ベイルと同じでメルドに憧れて兵士になった。新米の中でも腕が立ち、努力とベイル直伝の根性で憧れのメルドに認められた。幼馴染の恋人がおり、名前はニア。王宮でメイドをしているらしい。いつも実家の父から貰った魔道具を所持している。