ストグリ世界を全力で楽しむ 作:ストグリメンバーその0
「さて、どうやって行くか……」
見事に日が落ち、朧月夜となった今。こんな夜に宝物殿に行くなんて割と頭おかしいが、行かなければならない。ここで、『白狼の巣』まで行く方法はいくつかある。
まず、普通に走っていく。シンプルだが当たり前の方法だ。なんの面白みも無いが、ハンターなら誰でも出来るだろう方法。距離が遠いし、普通ならクライどころか誰にもに追いつけないという話は置いておく。参考までに、普通のハンターなら最低でも1時間は掛かるだろう。
2つ目は空を飛ぶ。優秀な
さっきクライが使って飛んで行ったものも、宝具の一つだ。『夜天の暗翼』は、外套型のレアな飛行型宝具。ただし欠陥品である。
理由は単純で、あまりにも速すぎた。大体の飛行型宝具にある『浮遊』は出来ず、まともに制御出来ないレベルの加速と速度によって生み出されるその飛行は、既に1人の命を奪っている。かの有名な『人間ミサイル』事件だ。
名前にそぐわず凄惨な事件となり、廃棄寸前だったものを引き取ったのがクライだが、
3つ目は転移魔法だ。この世界の魔法は大抵理論的なもので出来ていて、転移魔法は実用化レベルで確かに存在している。
最早人間では不可能に近い魔力量と、膨大な術式をしっかりと活用できれば、誰でも転移可能である。理論上は。
現実には、既に描かれている魔法陣を使用してもなお、トップレベルの
これらを述べた上でどれで行くか。既にクライは『白狼の巣』までの道を半分以上過ぎているだろう。転移が1番楽だが、人目に付く可能性が高い。目に付いたら騒がれること間違いなしだからな。
「……走るか」
§
『白狼の巣』は、この辺では唯一の洞窟型宝物殿だ。開けた場所に大穴が開いていて、まさに洞窟といった形。
雑に飛び上がって空を見渡すと、少し遠くにクライが高速でこちらに向かっているのが見えた。来るのが早かったかもしれないが、尾行するなら丁度いいだろう。
隠密モードに意識を切りかえ、クライを待つ。今の所、本気の隠密モード状態で誰かに気づかれたことはほぼ無い。あって数例だ。……数例のレベルが高すぎる気はしているが。
隠密と言えば、クライは隠密にも弱い。弱いという表現が的確かは分からないが、あまりにも気づかない。今のクライが普通に生活するには、感知系の宝具か、パーティーメンバーの誰かは必須だろう。そうしなければ度々の襲撃は退けられないし、反撃手段がない。
まあ、気づかないからといって襲撃の度にハテナを浮かべまくるのは勘弁して欲しいが。場違い感で笑ってしまう。
そんな事を考えている内に、クライが必死な形相で飛んできた。突入の時間だ。
§
……やっぱりクライは凄いな。あのトンデモ速度の宝具をこんな狭い所で操作してるわ。
『白狼の巣』は洞窟型の宝物殿ということもあり、内部は全体的に狭い。建築物のように直角に曲がる所もある。高速で動いてたら、壁や天井に激突し、そのまま動かなくなること請け合いだろう。
だがクライはどうだろうか。見事に壁や天井に身体をうちつけながらも進んでいる。しかも地図通りに。まさに神業(笑)だが、なんとかボス部屋には辿り着けそうだ。
「……ぶつかった幻影が死んだんだが」
ふらっふらになりつつあるクライの移動先にたまたまいた狼の騎士の幻影が巻き込まれて死んだ。一応『進化』して適正レベル上がってるはずなのだが。
§ § §
時は少し遡り、何とか無事に『白狼の巣』に辿り着いたティノ一行。無事とは言いつつ、進化した幻影との戦闘、『始まりの足跡』というクランの世界、救助対象、宝具の魔力切れ……悪化していく状況にティノ以外の面々は、精神的に消耗していた。
「……ここの幻影は、いつからこんな化け物になったのよ?」
「さっきのは剣だったが、こっちは弓や火器も持ってる。あいつだけじゃないのかよ」
「……マナ・マテリアルの過剰供給でもあったか? この辺りで何があった?」
『白狼の巣』の入口。洞穴型という事もあり、下へと続く大きな穴のあるその場所には、まるで衛兵のように警戒を行っているシルバームーンと思われる幻影が居た。
グレッグが発した『進化』とは、ハンター達の間で恐れられる現象である。
元々宝物殿と幻影は、世界に満ちるマナ・マテリアルが一定以上の濃度になったときに生み出される。そして、それらはマナ・マテリアルの濃度が高まった時、より多くのマナ・マテリアルを取り込み、一段上の存在となる。
だが、この現象はそう簡単に起きるものでは無い。
マナ・マテリアルは普段、世界を縦横無尽に奔る地脈に沿って循環する形で動いている。それ故に一つの場所で濃度が上がることはあまり無く、地脈の変動や環境の変化など、外的要因が無ければ『進化』は起こりえないとされていた。
仮に何らかの要因が発生したとして、高い国力を宝物殿によって得ている帝国ぜプルディアが気づかないとは考えにくい。もしそのような兆候があれば、ハンター達に知らせが届くだろう。
どちらにせよ、なんの情報も無く、しかし、幻影は間違いなく『進化』している。まずは目の前の敵を倒さねばならない。
ティノが息を整え、非我の戦力を分析する。結果として、まずは敵を無視して宝物殿に入り、有利な環境を作ることを決めた。そして、警戒班と思われるこの五体を倒す。
その理由は、この幻影の『進化』にある。元々存在していたレッドムーンに対して、その大きさは二回り以上大きく、四足歩行ではなく、二足歩行。
ここの宝物殿の大きさを考えると、今の幻影は宝物殿に対して明らかに大きすぎる。どんなに強靭な肉体を持とうとも、それを十全に動かせなければ意味が失われる。
環境の有利を取った後、これらを殲滅する。無視して奥へ進むことこそ可能であるが、挟み撃ちに会う可能性がある。それを防ぐのであれば、まずここにいる五体の幻影を倒すしかない。
「取り敢えず、方針はーー」
ティノはこれらを伝えた後、バランスの悪いこのパーティでどう実行するかを思考する。有効な遠距離攻撃の手段がない以上、牽制すら難しい。
ティノが取れる手段が減っていくことを実感する中、ギルベルトが立ち上がるそぶりを見せる。
「しょうがないな、俺が切り込む。弓と銃さえ先制で倒せば後はなんとかなるだろ」
「……は? 馬鹿?」
「魔力がなくたって、煉獄剣は普通の剣よりも強い。大丈夫だ。こういうのは、慣れてる」
「そういえばお前、ワンマンパーティだったって言っていたか」
この状況下において、平時と変わらないギルベルトの言動は、このような状況に慣れていることを示唆していた。明らかな実力差と戦力差が見えている中であってもそれが出来てしまうのは、今、この瞬間においては間違いなく大きくプラスに働くだろう。このパーティでなければ、だが。
「勝手なことしないで。死にたいなら別だけど、臨時のものとはいえ、私にはこのパーティのリーダーとして全員を生きて帰す義務がある」
「……はぁ?」
ティノの発言に、ギルベルトがどことなく驚いた声を出す。このパーティは寄せ集めであることを考えれば、ギルベルトの反応はあながち間違いではない。
縁もゆかりも無い上に、ギルベルトはあれだけやらかしている。本人からすれば、盾にされるのは織り込み済みと言っても過言では無かった。
「見捨てたりはしない。私は今回、マスターにリーダーとしての行動を期待されている。貴方達を一人も欠くことなく生きて帰ることはいわば、最低条件」
もちろん、リーダーというものは綺麗事では早々成り立たない。非情な判断を下さなければならない場面はあるだろう。だが、今回はそうでは無い。
クライ・アンドリヒという人物は、そのような事をしない。仲間を見捨てるなど以ての外だ。それこそが、彼の流儀にして、『始まりの足跡』の絶対の掟。
なればこそ、そのような判断を下すことも、そんな結果になってしまうことも許されない。
「身軽な私とルーダが先に出て相手を引きつける。遠距離武器の回避の訓練は受けている……その隙に、グレッグとギルベルトが後ろから後衛組を強襲する。近づけば火器や矢は、怖くない」
その言葉を皮切りに、戦いの幕は切って落とされた。目的の地まで、まだ遠い。
アニメが楽しみで待ちきれませんが、原作12巻&コミック10巻発売にWeb版コード編完結と色々盛りだくさんでお腹いっぱいです。
アニメもWeb版も各種書籍も間違いなく面白いのでまだ知らない人は(そんな人ここにはいないと思いますが……)是非触れてみて下さい。というか読んでください見てください。
原作通りの別キャラ視点って
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別にいらない
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いる
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