主人公キャラに敗北した俺、別世界にて結婚します   作:蓮太郎

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第24話

 

 カチャカチャと食器がぶつかる音が聞こえる。ガツガツと肉を喰らう咀嚼音が聞こえる。

 

 今は食事の時間、お行儀よくとはいかないが黙々と肉を喰らい続ける。激しく動いた後は腹が減るのだろう、見ているだけで胸やけしそうな勢いである。

 

「もうなくなりそうだな。もうちょっと食べるか?」

 

「え、ええわ。これ以上は財布に悪そうやし」

 

「まあ俺の分まで食べてるから注文はするけど」

 

「あああああごめんんんんんん!」

 

 ついつい俺の分まで取ってしまったことに気づいたナツメさんは頭を抱えた。俺よりも15㎝以上差があり筋肉質な彼女にとって食事は非常に大切なことだろう。健全な肉体を保つためには健全な食事から、俺は笑いながら黒電話の受話器を取る。

 

 まだ小遣いには余裕がある。今まで使ってなかったからもう少し使っても罰はないだろう。

 

「なんやかんやで初の黒星回避じゃないか。お祝いにこれくらいさせてくれよ」

 

「お、贈り物やて…………で、でも白星はつかんかったし、こんなに豪勢にせんでも」

 

「負けなかったことに意味がある」

 

 もじもじしながら謙遜するナツメさんに俺はそう言った。そりゃあ無難に勝った方がいい。だが負けてしまうということは時と場合によって全て失う、俺の時のように多くのモノを巻き込んで。

 

 完全に負けがないことを今回の件で証明した。そもそも前の事件で勝てることは証明されている。今回は本番でも負けないことを証明しただけだ。

 

 だからこそここからだ。彼女にとって負けだけでないことをこれからも示し続けなければならない。

 

「ここからが正念場だぞ~?オファーだって最近よく来てるんじゃないか?」

 

「あー、確かにCMとか呼ばれるようになったわ。背景の爆発に似合うとか何とかで、まあうちの『異能』まんまやし当然かなぁ?」

 

「人気が出始めた証拠だよ」

 

 仕事の方も軌道に乗ったようだ。これは喜ばしいこと、素直に祝福しなきゃいけないことだ。

 

 さて、雑談もここまでにして本題に入らなければならない。

 

「ちょっと真面目な話をしていいか?」

 

「ん?なんや?」

 

「ちょっとこの書類を読んでくれ」

 

 茶色の封筒に仕舞っていた書類を取り出してナツメさんに渡した。

 

「なんやこれ?ふむふむ…………」

 

 特に何も疑わずに受け取って書類に目を通していく。文字を読んでいるため目がキョロキョロと動いている。この世界の美醜の感覚は俺の常識と変わりはないが、なんだか美形が多いのは印象に残る。

 

 じっくり見ればナツメさんも十分に整っている方だ。CMで起用される程だから前の世界基準だとそこらの人間では成し遂げられないことをしているほどだ。

 

 その綺麗な顔がサッと青くなったと思ったらじわじわと赤みを取り戻していく。それどころか赤さが絵の具を濃くして煮詰めて極限まで絞ったような極まったような赤色に染まっていく。

 

 あわあわと口が開いては閉じ、何かを喋ろうとしても謎の空気だけが漏れ出ている。

 

「そう言う事だ。ナツメさんが良ければサインを」

 

「ほ、ほほほほほほんまに?」

 

「本当だ」

 

「ま、ままままままマジで?」

 

「本気だ」

 

 何故かガタガタと震えて何度も書類と俺を確認して見つめる。

 

「ほんまにええんか!?この感じうちが初めての妻になるんやろ?」

 

「そうだな」

 

「最初はもっと格式の高いとこがええんとちゃうん?うち、出身は一般やし企業のええとこからの縁談も来とるんちゃうんか?」

 

「なーんかそういう所からの人は心の琴線に引っかかる人がいなくてね。ナツメさんなら色々といいかなーと」

 

「何やその選出基準!?」

 

 実際、こうしてまともに相手してくれるのがナツメさんくらいしか思いつかないんだよな。

 

 遊園地の一件で良くも悪くも目立ってしまった。噂とは広まるのがとても早い早い。写真は誰も撮らなかったらしく出回らなかったものの、SNSでこういう男がいたという話が広まっていった。

 

 傷だらけの男、そして病院でお見合いしている男も傷だらけ。結びつけられるのは時間の問題だった。

 

 だからこそ変わらず接してくれたナツメさんが良かった。安心できたからだ(・・・・・・・・)

 

 理由が気持悪いと思うが、そう思ったから一緒になりたいと思うのだろう。俺が考えている結婚はそういうものなんだろう。

 

 俺が知らないだけで何か別の要因があるのかもしれないが知った事か。俺が良いッ!と言ったらいいんだ、それくらいのわがままを通さなければ負ける、ナニにとは言わないが精神面ではこれくらいでないと知った。

 

 誘拐事件で攫われた彼もそうだった。怯えて泣いていたが、救助隊が来てから心の余裕を取り戻したのか、服をたくし上げて涙と鼻水をふき取って気丈にふるまっていた。

 

『君!誰にも言うなよ』

 

 いつから泣いてたのか分からないが、目が赤くはれていたので一目瞭然だったが誰も指摘していなかった。

 

 この世界の男というのはそういう生物なんだ。力がないから精神だけで立ち向かう、そんな感じだった。

 

「さて、返事はどうだ?」

 

 まだ返事が出来ず慌てているナツメさんに返事を促した。

 

 答えは聞くまでもなかった。





一応、第一部完?
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