指定された学用品の店をペチュニアと一緒に買って回る。
本当はハリーは、実のご両親のお金を使おうとしたのだが、それはハリーが好きなものを買うのに使うべきと言って、学用品は全てダーズリー家のお金から支払われた。
しかも、どうせ買うのなら良いものを、と指定された学用品の中でも一等値が張り長持ちしそうなものをペチュニアが選んでいった。どれも新品で、ピカピカに光り輝いている。
制服は揃えたし、魔法界での私服も、ペチュニア監修のもとスタイリッシュで格好良いものが買い揃えられた。
フローリシュ・アンド・ブロッツ書店では、ペチュニアはまたもや親バカを発揮し、指定された教科書以外の書物もハリーに買い与えたのだ。魔法史関連の書物やら、使えそうな参考書や指南書までも。
魔法を教えることの出来ないダーズリー家に代わり、ハリーが魔法を学ぶ上で困ることのないようにと、使えそうな書は片っ端から揃えた。バーノンは、大手ドリル製造会社の社長で所謂金持ちに部類される。バーノンはハリーの為にと、相当額な貯蓄を用意していたのだ。
ハリーが、何を買ってのかと言えばハリーは書店では主に魔法界の娯楽書籍を買い漁った。目に付いた面白そうな本は全部。
荷物持ちは、途中から合流したハグリッドが手伝ってくれた。それでも持ちきれないものは、ハリーが魔法で浮かせることで対処した。おかけで、年端もいかない子供が杖無しで魔法を使い熟していると騒ぎになったのだが。
―――――
『オリバンダー杖店』
ハリーは、杖を買う為にその店を訪れた。歴史あふれる店で、何と紀元前382年創業とある。
ハリーは歴史ある高級店なのだろうとウキウキして中に入った。
重厚そうな扉を押し開け3人は杖店の中に入ると店の奥の方でチリンチリンとベルの音が鳴った。埃塗れた空間に、ペチュニアは目眩がしたが声を出せなかった。黙らせる魔力が秘められているようだった。
天井近くまで積み上げられた何千もの細長い箱は、そのどれもがきっと魔法使いの杖なのだろう。魔力というか、言いしれぬ迫力を、ハリーはヒシヒシ感じている。
「これはこれはハリー・ポッターさん。そろそろおいでなさると思っておりましたよ」
ぬっと現れた老人にハリーはたいそう驚いた。注意散漫になっていなかった筈なのに、まるで気付かなかったのだ。
「お母さまと同じ目をしていなさる。あの子がここに来て、最初の杖を買った日がつい昨日の事のようじゃ。あの杖は26cmの長さ、柳の杖じゃった。振りやすい、妖精の呪文にはぴったりの杖じゃ」
ハリーは単純に凄いと思った。
目の前の老人は、今まで売った杖のことを全部覚えているに違いない。プロの職人なのだ。
「お父さまの杖も当然覚えておりますよ。マカボニーの杖に気に入られての。28cmとてもしなり杖じゃった。どんな杖よりも力があって変身術には最高じゃ。ご存知、杖の方が持ち主の魔法使いを選ぶのじゃが」
「杖に差があるの?」
オリバンダーの言い様からすると、同じ杖でも材質とかで大きく性能が変わるようだ。
「さよう。杖は材と、魔力を持った芯が重要なのです。オリバンダーの杖は、一本一本そのどれもが強力な魔力を持った物の芯を使うのですじゃ。
「利き腕のことなら右利きです」
魔法が掛けられたメジャーが勝手にハリーの腕の長さを測る。
そして、それから長い長い杖探しが始まった。
アカシアの杖は、振っただけでオリバンダーの店を破壊した。
イチイの杖は振っても、何も起きなかったし、カエデの杖に至っては振る以前に取り上げられた。
どんどん積み上がる杖の山に、オリバンダーは実に難しい客じゃのと舌を巻く。何が何でも、ハリーに合う相応しい杖を見繕おうと躍起になった。
一番自身のあった、ヒイラギ28cm、芯に不死鳥の羽を使った杖もイマイチしっくり来ず。オリバンダーは、ある可能性に至る。
「もしや、あるいは……」
オリバンダーはぶつくさ呟きながら店の奥に消え、鍵の付いた木箱を持ってきた。他の杖とは一線を画す扱いに、ハリーの期待は否応なしに高まる。
「
オリバンダーは、杖を箱に向けて呪文を唱える。
すると錠が幾つも開き、大切に保管されている杖が顕になった。
くねくね折り曲がった純白の杖。
ハリーが振って取り上げられたどの杖よりも、節くれだっていた。
「この杖は?」
ハリーは、唾を飲み込んだ。
目が離せない。
ハリーの目を、この新雪よりも白い杖は魅了して止まない。
「ニワトコの木はとても強大な魔力を秘めておるのですじゃ。加工にはより繊細な技術と厳選された素材が求められる。大抵は杖に加工するときに失敗して単なる棒切に成り下るのじゃが、儂が若かりし頃運良く成功しましてのう。ニワトコの材に、セストラルの尾羽。杖作りなら誰もが一度は試みて失敗するモノを儂は作り上げてしもうた」
オリバンダーは、固唾を飲んで見守っていたペチュニアに声を掛けた。オリバンダーの目はなつかしむように揺れている。
ペチュニアを通じて、誰かを見ているのだ。
「リリーの姉さんですな? 佇まいと雰囲気がよう似ておる。ニワトコの杖の伝説をご存知かな?」
リリーに、似ている。そう言われたペチュニアはビクリと肩を震わせる。
「史上最強の杖……あの人が一度そういうのを耳にしたわ。良くない話はセブルスから。まさかそれと同じ杖なの?」
「杖作りならば、杖の術を学んだ者ならば一度は夢見るはずじゃ。あのニワトコの杖を超える杖を作らんと」
オリバンダーは熱意に浮かされていた。
若い杖作りなら、誰もが憧れ挑戦し失敗する試みをオリバンダーは、なんと奇跡を起こし成功してしまった。
結果として、強大な杖が誕生したのだ。今世紀、世界最高峰の杖作りギャリック・オリバンダーの手によって、伝説のニワトコの杖と同じ構成の杖が生み出された。通常、杖による性能の差はないのだが、この杖は見るだけで格の違いが分からされる。
相応しい主人の手で振るわれれば、きっと何よりも偉大で素晴らしいことになるとオリバンダーは確信していたのだ。
そして。自身の最高傑作が相応しい主人を見出す、その瞬間を目にすると。
「ニワトコの木で作られた杖は総じてどれもが気難しい。己の魔力に相応しき強大な魔法使いにのみ従い忠誠心を抱く。あの杖は、如何なる手法を用いたのか、条件を満たせば誰にでも従います。しかし、この杖は作って以後100年あまり、未だに主人に出会えておりません。もしかしたら、貴方ならこの杖の主になれるやも」
恭しく、それはもう恭しくオリバンダーは、ハリーの手にその杖を手渡した。
きっと凄い光景が見れるに違いない。そう思うと震えが止まらないのだ。
ハリーの手に、杖が握られた瞬間。指先から、体の隅々へと。凄まじい力が吹き荒び、ハリーの髪の毛はふわっと舞い上がり、そして店中のガラスというガラスが一斉に粉々に砕け散った。
暖かなそよ風が吹き、ハリーの私服を揺らす。
「こいつはすげえ。振ってすらいねえのに」
ハグリッドは歓声を上げる。
ハリーが杖に選ばれて、心から祝福をしている。
「おめでとう、ハリー」
ペチュニアも、祝っていた。
ハリーは手のひらの中の杖を見下ろした。
節くれだった杖の柄が、ハリーの手に驚くほど馴染んだ。杖の脈動が伝わってくる。
今までより、スムーズに魔法が使えそうな気がしてくる。
ハリーは、確信していた。
「僕はこの杖に選ばれたみたいです」
「そのようじゃの。めでたい。実にめでたい。この杖は長年待ち望んでいた主人に巡り会えたのじゃ」
オリバンダーは、穏やかなそれでもゾッとする雰囲気を放ちながら、ハリーに近付いた。前髪を退けて、稲妻の傷をなぞる。
大病院でも直せなかった傷。
バーノンやペチュニアは、ハリーが偉大なことをした勲章。とある闇の魔法使いの呪いだから消えないのだと説明した傷跡を、オリバンダーはなぞった。
「貴方にこの傷を作った杖も儂が作ったものじゃ。あの人も偉大な魔法使いであることには違いない。悪の道じゃが、あれはあれで偉大じゃった。しかし、この杖が相応しいようには思えなんだ。貴方だけじゃよ、この1世紀で貴方だけがこの杖を手にした。
貴方様はきっと偉大なことを成し遂げるに違いありませんぞ。オリバンダーのニワトコの杖は貴方様の生涯の良き友として貴方様に仕え、忠実であり続けるでしょう」
しきりに偉大なことを成し遂げるに違いないとハリーを讃えるオリバンダーに、ハリーはとても気を良くし晴れ晴れとした気分でお代を払った。ハリーは、オリバンダー杖店のことがとても気に入った。
ポケットの中で、ハリーは杖を転がしながら、店を出る間際のことを思い出す。
『ひとつ老婆心ながら忠告を。然る時が来るまで、その杖がニワトコで出来ていると周囲に吹聴しないが宜しい。心のおける人くらいならば良いでしょうが、それ以外には黙っておくのです』
『どうして? ニワトコの杖は優れた杖なんでしょう?』
『ニワトコの杖は、魔法界にとって大変特別な意味を持つのじゃよ。伝説にある杖を求めて、血で血を洗う争いが起きるほどに。だから、貴方様が何者にも負けない強さを得るか、あるいは杖が導く然る日までは黙っておくが賢明かと。ニワトコの木は運命の木。貴方様が精進なされば、きっと杖が運命を整えてくれる。儂は貴方様が何者でもない偉大な魔法使いになることを祈っておりますぞ』
ハリーの杖を作った、尊敬に値する大人の言葉だ。ハリーは、オリバンダーの忠告を反芻し頭の中に仕舞い込んだ。
「ハリー、凄いこっちゃぞ。ニワトコの木で杖作りに成功するオリバンダーも凄いが、ニワトコで出来た杖に選ばれるのはもっとすげえ。オレの知る限り、ここ3世紀はおらんはずだ。ダンブルドア先生がお聞きになれば――」
ハグリッドも心あらずだった。
ぺぺベル三兄弟の物語を知ってる身からすれば、少し不安になるが、ハリーの持つ杖はオリバンダーの手自らによる謹製、死に呪われた品じゃない。
興奮して、早速外でぺちゃくちゃ漏らすハグリッドを、ペチュニアは鋭く諌めた。
「んんっ、ハグリッド。それ以上は、ここは外よ」
「おっと、すまねえ! つい、な。よし、杖も買ったし後はペットだな。ダーズリーからプレゼントを貰うかもしんねえが、オレの分はまだだ。遅れたぶん11年分のプレゼントを渡さにゃならん」
「いいよ、ハグリッド。そんな気を遣わなくても。それにペットならもういるし……」
「いんや、こればっかしはオレの気持ちの問題だ。ハリーの誕生日プレゼントほ絶対に渡すぞ。ヒキガエルはダメだな、流行遅れになっちょる。ハリーが笑い草になっちまう。ネズミもええが……そうだふくろうはどうか? ふくろうはええぞ、手紙を届けてくれるからな。便利だぞ」
「そこまで言うのなら、ありがとうハグリッド」
どうしてもというのなら、仕方ない。
ハリーは、ハグリッドに白い雌ふくろうを買ってもらい、『ヘドウィグ』と名付けた。魔法史の教科書を流し読みしたときに目に付いた名前だ。
そして、ハグリッドの行為に対抗したペチュニアが、ハリーの入学祝いにペットを飼いたいと言い出し、ハリーとハグリッドは、魔法動物ペットショップに向かう羽目になった。ハリーが、ホグワーツに3匹のペットを連れて行くことが決まった瞬間である。
ハグリッドに興味のある動物を聞かれ、ハリーは咄嗟に蛇と答えた。動物の中で、スポイルを除き親しみを覚えるのが蛇だからだ。
ダドリーの誕生日を祝うために一緒に動物園に行った時に、ハリーは蛇の声を耳にしたのだ。そして僅かだが会話し、故郷を知らないブラジルニシキヘビを哀れに思ったハリーは、こっそり窓ガラスを消して逃してあげた。
ちょっとした騒ぎになったのだが、バーノン叔父さんにきちんと事情を説明し、うまいこと誤魔化してくれた。蛇にまで気を使えるとは何と優しい少年だ、とその日ハリーは、ダーズリー家のヒーローだった。主役を奪われてしょげたダドリーと格闘ゲームをしてご機嫌をとったのは良い思い出である。
それはさておき。
ハリーは蛇を飼ってみたいと常々思っていたのだ。
普通のふりをする上で、蛇を飼う人間はなかなか居ないので渋々、甘えん坊なスポイルを可愛がることで誤魔化していたのだが、やはりハリーは蛇を飼いたい。
だから、ハリーは爬虫類コーナーに足を運んだ。
『やあ、おチビさんたち。調子はどうかな?』
ハリーは、ゲージの中で世間話に耽る蛇たちに目線を合わせて、気さくに話しかける。蛇の口から漏れたのは、隙間風のようなシューシューした音で、だが蛇にはしっかり通じる。
蛇と話せることを知っているペチュニアは驚かなかったが、ハグリッドは羨ましそうな顔を、他の周りにいた客、店員は驚いた顔をする。
『なあ、今こいつ俺たちの言葉を喋らなかった?』
『バカね、そんなことあるわけないじゃない!』
『いいや、僕は今君たちに話しかけてるつもりなんだけど』
そう言って、ハリーは蛇か、蛇に類する動物が入れられたゲージを物色して回った。彼らと世間話をしつつ、これだと思うペットをハリーは吟味する。
ハリーは特別なのだ。甘えん坊スポイルは普段は甘えん坊だが賢く勤勉であるように、ヘドウィグがとても美しい雌ふくろうであるように。ハリーの連れるペットは特別でなくてはならない。
『やぁ君は? 君はどうして、そこに横になってじっとしてるの?』
ハリーが目をつけたのは、赤みがかった鱗を持つ美しい蛇だった。
金の角が2対生えた蛇。美しい鱗には、黒い縞がある。
ゲージを、見れば『ナーガ インド原産』とあった。ハリーは、この蛇に一目惚れした。この蛇しか居ないと感じた。
『……何の用なの?』
不機嫌そうに、鎌首をもたげる。
『僕はハリー。君たちが欲しくて、今こうして声をかけてる。君ってナーガなんだね』
『……ニンゲンが決めた名前に興味がないわ』
このナーガは、雌のようらしい。そして、妖艶でクールだ。ハリーは益々彼女らが欲しくなる。
『用がないのなら帰って頂戴。アタシは眠いの』
『ごめんね、君と仲良くしたくて。一緒に来てくれないかな?』
『なんでアタシが……!』
そう唸るナーガ、ポンと弾ける音がしてナーガの首が2つに増えた。そして、増えた頭はシューっと威嚇をし、会話する方の頭を不機嫌そうにハリーを見る。ハリーは慌てて、ナーガを宥める。
『君は美しい蛇だから、欲しくなったんだ。僕は特別な魔法使いなんだ。そんな僕には君みたいな特別な蛇が相応しい。僕と一緒に来れば後悔はさせないよ。だから僕を選べ』
自信満々な語り口調に、ナーガは毒気が抜かれた様子だ、鎌首を下ろした。いつの間にか3つに増えていた頭は1つになり、ナーガはハリーの目をマジマジと見つめる。
ナーガは産まれてから半年しか経っていない。だが、ハリーが偉大になるであろう、ことはナーガの魔力で分かった。
よく見ると、どこか愛らしいし、同じ言葉を話せるハリーは最高の飼い主になるかも知れない。
『いいわ、ハリー。貴方のパートナーになってあげる』
ハリーに負けず劣らずの我の強さに、ハリーは思わず苦笑いだ。
『ありがとう』――店員さん、僕この子が欲しい!」
ハリーはナーガをペットにしたくて、店員を呼びかけた。だが、店員は何故かおどおどしていた。
「あ、あなたは蛇と話しが出来るのですか?」
「うん、そうだけど。魔法使いなら、当たり前のことじゃないの? それよりも、ナーガの娘が欲しいって言ってるの、早くしてよ」
ハリーは苛立って少し語尾が遅くなった。
ハリーは忍耐強いが、それは一部の人間に限定され、ハリーは基本的に激情家で短気なのだ。
「は、はい! 直ちに!」
「ハリー。
見かねたハグリッドが、ハリーに声をかける。ハリーは、何を感じているのか内心の感情が、ハリーが思っている以上に分かりやすい。
「例のあの人のせいで、最近は蛇語が闇の魔法使いの象徴だと誤解されちょる。気を悪くせんでな、ハリー。あの店員は、お前さんに怯えとったんだ」
「見ず知らずのやつに怯えられたからって、それをどうして僕が気にするのさ。それより、早くあの娘が欲しいなぁ。ハグリッドも、叔母さんも気にいるよ! 綺麗で気の強い女の子なんだ!」
ハリーは待ち切れないといった様子で、ナーガを待っていた。店員は、ナーガを檻に入れて持って来た。
ハリーはナーガを檻から出して上げると、腕を差し出した。ナーガは、ハリーを億劫そうに見上げ、見つめる。
ハリーの目は期待に、輝いていた。
ナーガは、フンと鼻を鳴らすとハリーの腕に絡み付いた。ナーガはひんやりとしていて、とても心地よい。
「あら? 本当に綺麗な蛇ね」
「本当って、どういう意味?」
「貴方の美的センスが時折ズレていることを忘れたのかしら? これいくらかしら?」
「2ガリオンになります、はいぃ」
「そう、高いのね。珍しいのかしら?」
「インド原産の大変希少な生き物でして、その」
「いいわ。2ガリオンなのでしょう?」
おどおどする店員に見切りをつけたペチュニアは、さっさっと代金を押し付けるとハリーの手を引いて店を出た。
杖を買う前とは異なり、魔法のトランクケースを購入したハリーの手持ちは少ない。検知不可能呪文なる魔法で、中が何倍にも拡張されている。すでに目当てのものを自在に取り寄せることのできるハリーにとって便利なアイテムだった。
「ナーガ良いぞハリー。なにんせよ賢いからな。ナーガは偉大な魔法使いにしか懐かん。ニワトコの杖といい、ナーガといい、ハリーお前さんは偉大な魔法使いにならにゃあな」
「任せてよ。僕は、ハリー・ポッターだからね!」
ハリーは、ホグワーツが待ちきれない。