偉大なるハリー・ポッター   作:幽玄の鬼

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ホグワーツ特急

「魔法というのは、つくづく便利だな。こんなことが出来る、とは」

 9と4/3番線のホグワーツ特急を見て、バーノンはそう呟いた。

 キングス・クロス駅に、誰にも知られず存在するプラットフォームに、バーノンはずっと感心していた。

 そして、何やらハリーと同級生らしい一家の保護者と熱心に話し込んでいた。

 

「僕もスメルティングスでトップになるから、勝負だハリー」

 筋肉質なダドリーは、ハリーにそう言った。ハンサムになり、なかなかに好青年になった。彼は立派なもので、少し喧嘩っ早いが、すでにファンクラブがあるのだ。

 ハリーはマグルに見切りをつけて、魔法省が出張らない程度に仕返しをしている。

 

「その勝負受けて立つよ、ダッダー」

 ハリーはダドリーにそう意気込む。

 黒い新品のデニムに、革靴。白いシャツを着ている。ボダンは第2から緩めるのが、バーノン流のファッションだ。丸眼鏡はペチュニア曰く、ポッターの伝統らしいので、そのまま。パリッと卸したての、グレーのフロックコートはダイアゴン横丁で購入したものだ。

 黒い癖っ毛をハリーは伸ばすことに決めた。魔法使いっぽいし、ハリーは格好いいし髪の毛を伸ばして損はないだろうとのことでバーノンとペチュニアはハリーのロン毛化に賛成なのだ。伸ばした黒い癖っ毛は、今は肩より長い。

 ナーガの、ヘラを首に巻き、チュパカブラのスポイルを隣に侍らせている。

 

 ダドリーは、反対にショートヘアで、ハリーとダドリーのペアはかなり目立っていた。

 

「頑張れよ」

 ダドリーは、拳を突き出し「おうとも」ハリーはその拳に自分の拳を打ち付けた。

 

 

「ハリー、さっきウィーズリーさんたちと話をつけてきた。何でも代々ホグワーツに通う由緒正しい魔法使いだそうだ。格好も、我々の社会に溶け込もうとする努力が出来とるし、人格者だ」

 

 バーノンは、ハリーに紹介する。ダース単位でいる、赤毛の魔法使いの家族で、ダーズリー家より賑やかそうだ。母親と思しき女性は、ハリーと目が合うなり綻び笑顔を見せ、何やらハリーより幼い少女は母親の陰に隠れ、ちらちら赤い顔のままこちらを見ている。

 ハリーごニコッと笑いかけると顔を赤くして、母親の服に顔を埋める。悪い気がしないハリーは、にこにこ顔だ。

 

「身なりは、そのぱっとせんがロンくんがお前さんの同級生になるそうだ。歳の割にしっかりしとる。ダッダーちゃんやハリーほどじゃないが……。学校での生活で困らんだろう仲良くしなさい。彼がいるなら安心だ」

 そばかすの多い少年がロンくんだそう。

 他人に厳しいバーノンが、しっかりしてると評するのは実は珍しいことで、ハリーはまじまじとロンを見た。見られたロンはモジモジしている。魔法界では、ハリーは国際的な英雄らしいし、有名人にあった一般人的な感じなのだろう、ロンからしたら。

 

「おーけい、バーノン叔父さん」

 

「ご兄弟も多いし、困ったことが頼りなさい。儂は人脈構築とか、上流階級のあしらい方なら得意なのだが、魔法はてんでわからんからな、これでハリーに関する心配が1つなくなった」

 バーノンの顔は、穏やかで晴れやかだ。

 バーノンは、そっとハリーの頭に手をやると、伸ばしている途中の頭をわしゃわしゃと力いっぱい撫でた。

 

「頑張るんだぞ、ハリー。産みの両親が霞んじまうくらい、立派な魔法使いになりなさい」

 

「うんっ」

 ハリーは、バーノン叔父さんに抱き着いた。善良とは言い難い父親だけど、ハリーにとっては、とても大好きな叔父さんなのだ。

 

「リリーは、初年度から男の同級生から手紙が来ていたわ。そこまでなさい、とは言わないけど、同級生を家に呼んでもかまわないんだからね? だから、楽しく過ごしなさい。ホグワーツの学生でいられるのは、一生に一度きりなのだから」

 バーノンに抱きつくハリーを、バーノンごと優しく抱擁する。ペチュニアのきりっと厳しい眦には、確かに水滴が溜まっていた。ダドリーは何も言わなかったけど、ハリーの裾を掴む手だけは離さなかった。

 

 

「僕、ハリー・ポッター。よろしくね、ロン」

 

「えっと、僕ロン・ウィーズリー。よろしく」

 

 ハリーは朗らかに言って、手を差し伸べ、ロンは照れながらも笑ってハリーと握手する。

 

 そうして、ハリーとロンは、2人仲良くホグワーツ特急に乗り込んだのであった。

 

 

―――――

 

 

「うへぇ、このコンパーメントも空いてないやぁ」

 

 ハリーとロンによるコンパーメント探しは通算3度目となるが、またもや失敗に終えていた。まだ見ぬウィーズリーの兄たちは既に列車に乗り込んだそうで、合流はおろかお目にすら描かれていない。

 

「ごめんね、その、あまり長く離れ離れになるのは初めてだから。ほら、育ての親はどちらともマグル? だから、僕一人でホグワーツに通うのは不安なんだよ」

「ま、それは仕方ないぜ。僕たちは何回も何回も同じことをしてるから慣れたけど、普通はそうだもんな」

 

「すいません、ここ空いてませんか?」

 今度は、ハリーがコンパーメントを開ける番だった。有名人効果で、席を開けてくれるかも。それにハリーは愛嬌とカッコ良さが合わさった見てくれをしている。打算である。

 

 コンパーメントの中は、本でいっぱいだった。出っ歯の栗毛の女の子が、ひたすら読書をしてるようだ。

 相席しているのは、少し太り気味の少年で、自信なさそうにソワソワしている。

 

「空いているけど、どうするネビル?」

「ぼ、ぼくはハーマイオニーに任せるよ」

「そう。いいわよ。入っても」

 

 少女の方は、ハーマイオニーと言うらしい。気がだいぶ強い女性のようだ。で、少年の方はネビル。見るからにハリーの保護欲が掻き立てられる。

 

「ありがとう」

 ハリーは優しく笑うと、中に入った。

 

「僕はハリーだよ。入れてくれてありがとう! ハーマイオニー。ネビル。僕もうずっと汽車の中をウロウロするはめになるんじゃないかって心配してたんだ」

「僕、ロン・ウィーズリー。ハリーのパパとウチのパパが仲良くなっちゃったから。友達にさせられたんだ」

「そんな言い方はないよロン」

 ハリーは大袈裟に傷付いた振りをする。

「ごめんごめん、冗談さ」

 

「ぼくネビル。ネビル・ロングボトム」

「私はハーマイオニー・グレンジャー。あなたハリー・ポッターなのね。アタシ本で読んだわ」

 

「僕も、『近代魔法史』と、『黒魔術の栄枯盛衰』、『二十世紀の魔法大事件』は読んだよ。自分が出てる本を読むのは変な気分だったけど、パパとママのことは調べなくちゃって思ったから。『魔法史』読んだ? それと『ホグワーツの歴史』! 魔法史の方は、少し眠くなっちゃうけどホグワーツの歴史は最高!」

 

 唐突に始まった読書談義にロンとネビル・ロングボトムは辟易する。

 マグル育ちあるあるに話が移ったとき、車内販売の魔女がやって来た。ハリーは、全部買うと、友達みんなに分かち合った。友とは分かち合うもの。バーノンの教えである。

 ハーマイオニーは賢い、ロンは魔法使いの由緒正しい家柄。ネビルは、まだパットしないがあくまで『まだ』。3人のことをハリーは、友達だと思っていた。

 

 

 

「どうしよう! 僕のトレバーがいない! おばあちゃんからもらった大切なヒキガエルなんだ。僕、おばあちゃんに殺されちゃう」

 口周りにカエルチョコレートをつけたままのネビルは、トレバーが消えたことに気付き、泣きそうになる。

「落ち着いてネビル。探しに行きましょう。ロンもハリーも手伝って」

「おーけい、ハーマイオニー」

 

 ロンは立ち上がった。ロンにとってハリーもネビルもハーマイオニーももう友達だ。友達のペットを探さなければ。

 

「ねえ、ネビル。トレバーって名前なんだよね?」

「え? そうだけど」

 

 ハリーは、指を横に動かす。

 コンパーメントの扉が開き、ハリーはくねくね曲がったニワトコの杖を腰のホルスターから取り出した。

 

アクシオ(来い)、トレバー

 そう唱えてハリーは、杖を振る。失敗したとは考えない。

 ハリーは、もともと杖を使わないで魔法を使っていた。それをハリーのニワトコの杖を取り出して唱えたのだ失敗する筈がない。

 

 杖無しで扉を、開けたハリーにロンとネビルは、信じられない、という顔をする。

 だが、ハーマイオニーだけは初めて聞いた呪文に目を輝かせていた。

 数秒と待たずヒキガエルが飛んで来る。ヒキガエルはすっと、ハリーの掲げられた手の平にすとんと落ちた。

 

「ハリー、すごいや君! 杖無しで魔法が使えるんだ」

 

「杖無しで魔法を使いこなせるのは一流の魔法使いだけっておばあちゃんが言ってた」

 

「僕はずっと杖無しで魔法を使っていたから僕にとってこれくらい朝飯前さ。マグル育ちだから、遅れるといけないって叔父さんと叔母さんが何かにつけて魔法を使わせてくれてたんだ」

 

「ハリー、今の呪文なに? 私、教科書は全部暗記したけどそんな呪文どこにもなかったわ」

 

「ユーラリー・ヒックス著『呪文学』」

 杖を仕舞いながら、ハリーは喋る。

「難しいけど、実践的な本だった。後で貸してあげようか?」

 

「是非とも貸してほしいわ」

 

 そこからは魔法談義に移る。

 ネビル・ロングボトムは所謂おそまきで、授業についていける自信がないことまで話す。そして、ロンが兄弟たちから教わった魔法を披露することに。

 ロンはポケットから、ネズミを取り出した。名前は、スキャバーズというらしい。スキャバーズは、何十年もロンの家にいて、代々おさがりで愛されてきた。ねずみ色で、大した魔力はない。欠けた二本の指が特徴的なのである。

 

「あれ?」

 ハリーは疑問を抱く。ネズミを見て、膝の上で丸くなっているスポイルが反応しないのが、気になったのだ。スポイルは生き血啜るチュパカブラで、中でもネズミの血は大好物。血を吸おうと暴れない。

 暴れるスポイルをどう宥めようか身構えていたのに、ハリーは肩透かしを食らった気分だ。

 

『……甘ったれ(・・・・)は、鼻が利くのよ。貴方が人間を襲うのを許可しないから、弁えてるだけ』

 ハリーの体温で暖を取り、マフラーが如く動かずにいたナーガのヘラが、ハリーだけに聞こえる小さな声で囁く。甘ったれっとは、ヘラがスポイルを呼ぶときのあだ名だ。ヘラからすれば蔑称なのだろうが、ハリーはそんなことを認めない。許可しないときにヒトを襲わないように、ハリーは良く躾けてある。

 だから、ネズミを襲わないのか。

「へえ」

 

 目の前のネズミが人間なのか。

 ハリーは、考えを張り巡らせる。

 変身術の教科書で読んだ、動物もどき(アニメ―ガス)なのだろう。ちょろっとしか触れられてないが、なんでも変身術の極致で、自由に動物に変身できるのだとか。ただし、習得できるのは一部の秀才だけ。

 

 

「チャーリー兄さんはルーマニアでドラゴンの研究。ビルは、アフリカでグリンゴッツの仕事をしてるんだ。で、今から使う呪文はジョージから習ったやつ。うまくいくと、スキャバーズを黄色に変えてくれんだ」

 んんっと咳ばらいをし、ロンが勿体ぶって取り出した杖は、先っぽから銀色の筋が飛び出している。

「芯が飛び出しちゃってるけど、まぁいっか。

 

お日さま、雛菊(ひなぎく)。とろけたバター。この太ったデブネズミを黄色に変えよ

 

 ……。なにも起きない。

 

「あー。その呪文、間違ってない? 私も、家で簡単な呪文をいくつか試したけど全部うまくいったわ」

 

 言いにくそうに言うのはハーマイオニーだ。

 成功しないならば、呪文の方に問題があるのでは、とハーマイオニーはロンをフォローする。

 

「ジョージのやつわざとへぼ呪文を教えたな。失敗するってわかってて教えたな!」

 

「ねえ、ロン。ちょっとスキャバーズを借りるね」

 いままで会話に入らなかったハリーは、スキャバーズをじっと見てロンに言う。目はスキャバーズから一切離していない。

「いいけど」

 そんなハリーに、ロンはスキャバーズを手渡した。ちょっぴり不安そうだ。

「どうすつもり?」

 

「ちょっとね」

 ちょっと、とハリーは言いながらスキャバーズをじっくり観察する。つぶらな瞳は、くりっくりしていてスポイルに似ている。だが、よく見れば理知的に過ぎる気もしなくもなかった。

 目で見て魔法を読み取れる境地に、ハリーはまだ達していないが、直に触れれば力を感じ取れるレベルにはいた。それが、どれだけ凄いことか、他者と比較して正当な評価を下してくれる他人がいなかったハリーにはわからない。とにかく、ハリーはスキャバーズを愛でる様に優しく撫で、スキャバーズは体の力を抜くことでそれを受け入れた。

 極めて高度な魔法が掛けられている。

 検知不能拡大呪文に似た、高度で強力な魔法。おそらく、これが動物もどき(アニメ―ガス)状態なのだ。

 ハリーは怪しまれないために、スキャバーズの頭を撫でる。

 すると、スキャバーズはどういうことか眠ってしまった。

 

「おい!」

 

「――大事な相談事があるんだ」

 

 声を荒げるロンを遮るハリー、ハリーの声には言い知れぬ迫力があった。

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