澄み渡るように青い海と空。
俺は今日、結婚したばかりの妻と二人で海水浴場に来ていた。
「海はやっぱり良いな。……ここに来て正解だった」
「アスランと一緒に海に行くの、結婚してから初めてね! 嬉しいですけどドキドキです!」
海水浴場は他にも大勢の人がいた。そして俺のすぐ隣には、はにかみ顔を向ける水着姿の可憐な妻の姿。
「俺だってドキドキだ。それに、ミーアが着ている新しい水着も──似合っていて素敵だ」
「ふふっ、せっかく新しく用意した水着ですから。褒めてもらえて嬉しいです」
俺の妻、歌姫のミーア・キャンベル。彼女はライブの衣装のデザインを模した競泳水着を身に着けて傍にいた。結婚前に海にデートに行った時にはビキニの水着だったが、これはこれで良いと思う。
「二人で海水浴を楽しみましょう! あたしはもう──待ち切れないです!」
はしゃぐミーアは早速海へと駆け出す。
「……っと、そう急がなくても」
砂浜にいくつも出来る彼女の足跡。俺は駆けるミーアの繋いだ手に引っ張られて後からついてゆく。
海水浴場には俺たちの他にも大勢の人がいる。
何しろ今日は世間で言う所の休日。休みに遊びに来ている人間が多い。……俺もまた軍の仕事が休暇で、海に来た一人だ。
ちなみにミーアも歌姫の活動は続けてはいる。近いうちに俺たちの間に子どもが出来ればしばらくの休止は考えているものの……彼女は歌うことが好きで、何よりミーア自身が輝ける場所だ。夫として歌姫としてのミーアも支えたい。
もちろん息抜きもその一環だ。ミーアも今日は休みで、二人で海を満喫すると決めていた。
「──ぷはっ」
海を潜って泳いでいたミーアが海面から姿を現した。俺は少し泳ぎ疲れて、海水浴場で貸し出されていたゴムボートに横になっていた。ボートの縁に両腕を置いて半身を乗り出し、彼女はきらきらした視線を投げかける
「とっても楽しいっ! 海の中も透き通って泳いで気持ち良かったですし、つい遠くまで泳ぎすぎてしまいました」
「ふふ。楽しんでいるようで何よりだけれど、遊び過ぎて疲れは大丈夫か?
少し休んで、ゆっくりしてもバチは当たらないと思う」
俺からの一言にミーアははっとした表情を見せた。
「言われてみると、ちょっとはしゃぎ過ぎたかもです。なら、アスランの言うとおりに……」
丁度ボートは二人乗れるくらいの大きさがある。俺は少し後ろに下がって重心を調整し、彼女が海から上がりやすいようにする。……ボートがバランスを崩して転覆しないように。
「ちょっと……上りにくいかも」
「ゴムボートだからな、そこはまたご愛嬌だ。俺が手を貸そう」
それでもボートに上がりづらそうなミーアに俺は手を貸し、力一杯に引っ張り上げる。
「!!」
力を入れすぎてしまった。彼女を一気に引っ張りた拍子に俺は後ろに倒れてしまう。そして、その上にミーアが覆いかぶさり……。
「あっ……ごめんなさい。重くない……ですか?」
見ればすぐ間近で赤面する彼女の顔と、俺の顔にまでかかるくらいの濡れた桃色の髪。
「いや、俺は全然大丈夫だ。ただ……その……」
上に乗っかった彼女の柔らかな肢体、その感覚が直に伝わる。とりわけ俺の胸筋に乗っかっている二つの……とりわけに弾力のあるミーアの大きな胸の感触。
「……」
言葉に困ってつい視線を少し逸らしてしまう。この変な空気にミーアも恥じらうようにして、顔をうつむけて呟く。
「……とりあえず、降りますね」
彼女は何事もなかったかのように俺の上から降りて、ボートの上に膝座りになる。……赤面して顔を俯けたまま。
「ミーア……その……すまない」
「……アスランは悪くないのに、謝らなくても。なんだか……変な気持ちですね」
「……だな」
互いに良い大人で、それに結婚までしたと言うのに、これだとまるで……思春期の子どもみたいだな。
────
海を泳ぐのも良ものだけれど、海水浴場には他にも楽しみがある。
「准将! ボールをお願いします!」
「了解した!」
こっちに飛んで来たバレーボールを、俺は思いっきり相手チームのコートに打ち込む。放ったボールは向こうには防ぎきれずにコート内に入り点が入る。
「これで同点ですね。次に点が入れば我々の勝利です」
「ビーチバレー、やってみると結構楽しいものだな。ミーアもだろう?」
「はいっ! バレーするのも楽しいです!
こんな風に大勢でスポーツするのも……いつぶりかしら」
彼女もウキウキでバレーボールを楽しんでいる様子だった。
そして一緒にバレーをしているのは、俺と同じく休暇で海に来ていた仕事の部下──オーブの軍人達だ。少し前にバレーをしている彼らと出会い、せっかくと言う事で俺たち二人もチームに入れてくれたわけだ。
「……えいっ!」
飛んで来たボールをサーブするミーア。あまり慣れていない割に、彼女もかなりバレーが上手い。ライブで歌と踊りをしていたからか、身体を動かすことは割と何でも出来るからな。
バレーボールもそろそろ終わりが見えて来た。
最後は俺の方に来たボールを、ミーアへとパスして……。
「最後は頼む、ミーア!」
「任せてくださいっ! これで──決めてみせます!」
俺からのパスを受け取った彼女は渾身のシュートを放った。
ボールは見事に相手のコートに入って得点……俺たちの勝利だ。
「──やった! アスラン! 見ていてくれたっ!?」
自分のシュートが決まって無邪気に跳ねて嬉しがっているミーア。
「ああ。もちろん見ていたとも。良いシュートだった」
俺はそんな彼女の元に駆け寄って、ハイタッチを交わす。
両手同士が打ち合わさる音。目の前のミーアの顔も凄く喜んでいて……
「こんなに嬉しい気持ちになれるなんて……ふふっ!」
「お疲れさまです、准将。それにミーアさんも。
歌姫の貴方ともバレーボールが出来て光栄です」
「あたしの方こそ、誘ってくれてありがとうございます。
バレーが楽しめたのも──皆さんのおかげですから」
俺たち二人をバレーに誘ってくれたのは彼らだった。こう言う体験は互いに新鮮で良い体験だったから俺も感謝している。
別の若い部下もカメラを片手に俺たちの所に来て……。
「准将、そしてミーアさん、良ければ全員で記念写真を撮らせてもか大丈夫でしょうか?
実は自分……貴方のファンでして。後でサインもお願いしても構わないですか?」
「ハクノ少尉! せっかく准将と海を満喫しているのに、さすがにそのお願いは──」
「くすくすっ。サインですね、あたしは大歓迎ですよ♡」
「やったっ! ありがとうございます!」
ミーアは彼に可憐なウィンクを向けてこたえた。
さすがは歌姫、とっさのファンサービスもお手の物だ。
────
部下たちとの記念写真とサインも済ませた後、俺たちはまた二人で浜辺を歩く。
手にはかき氷。彼らが奢ってくれたものだ。
「うーん! 冷たくて爽やかな味! 海にはやっぱりかき氷ですねっ!」
美味しそうにかき氷を頬張るミーア。しかし、途中で頭を抑えて痛そうに……。
「……いたた」
「一気にかき氷を食べるから……大丈夫か?」
「少しだけ頭がキーンってなっちゃって。もう大丈夫。
それにやっぱり……美味しいから!」
そう言ってまたかき氷を一口。俺はそんな彼女を側で眺めて、つい口元を緩める。
「ミーアの笑顔を見ると幸せな気持ちになれる。本当にそんな感じだ」
俺もかき氷を口にする。彼女の言うように冷たくて、美味しい。
「ふっ、美味しいな」
「ですよねっ! あたしが誰より愛している、素敵な旦那さんと二人でのかき氷……夢みたいです」
「旦那さん──か、悪くない響きだ」
ミーアからそう呼ばれて、まだ慣れていないこそばゆい感覚ではあった。
彼女はにこやかな表情で右腕を絡ませて身体を寄せる。
「ふふ、あたしのアスラン♡」
満ち足りた気持ち。きっと傍のミーアも同じ気持ちだと、表情を見れば分かる。
何だか、とても……良いものだな。