俺がアイツと戦えないのはどう考えてもお前らが悪い 作:魔法使い候補
不死川心
川神学園2年S組所属
不死川家のご令嬢。川神学園のヘタレクイーンにしてドSホイホイ。可愛い、泣かせたい。小柄で華奢な体格だが、柔道の腕前は全国区で関節技も使える等、意外とインファイターである。得意技は華麗なる内股と高貴なる跳び関節。…ぐうかわ。
2009年4月27日(月) 昼
島津寮102
「ヨンパチがS組の生徒と揉めた?」
病院でレントゲンとエコー検査を終え、寮で遅めの昼食を取っていると忠勝から電話が掛かってきた。どうやらS組の生徒相手に賭場で大敗した奴がいて相当揉めたようだ。
『ああ、明日辺りお前に仕返しを頼みに来るんじゃねえか?』
(正直面倒だ、早いとこ組手の相手を見つけたいところなのに…)
「分かった、悪いんだけど一応相手の情報を集めてくれない?報酬は寮に帰ったら払うから」
面倒だが断っても角が立つだろうし、組手の方も候補すら上げられていない。それならまだ貸しを作っておいた方がマシだ。
『分かった、それで怪我の方はどうだった?病院に行ったんだろ』
「痛みも引いてるし、骨は折れてないってさ。痣は暫く残るだろうけど」
『そうか、あまり無茶はするなよ』
「分かってるよ~。それより情報収集の方ヨロシクね」
『了解だ』
プチッ
さて、俺は組手の候補でもリストアップするとしますかね。
2009年4月27日(月) 夜
島津寮
夕食時、この時間帯は基本的に寮生の全員が集まる。バイト等で揃わない時もあるが、基本は時間を合わせて食事をする。
「そういえば大和、暴漢に絡まれて怪我したんだって?」
そう尋ねたのは、大和と一番付き合いの長い風間翔一。風間ファミリーと呼ばれるグループのリーダーで、大和や忠勝をファミリーに誘った事がある。
「怪我って程じゃねえよ、骨は折れてねえし痛みも引いてきてる」
「ふーん、まあ大事にならなくて良かったね」
相槌を打ったのが椎名京。風間ファミリーの一人で、大和や風間とは同じ小学校だったが大和とは同じ寮に入るまで話した事は無かった。母親が他所の父親に手を出してイジメの対象にされていたが、元々椎名は武術を教わっていたので直接暴力を振るわれる事は無く、ネチネチした嫌がらせも当時の大和が気に入らない奴を片っ端からボコっていたので、徐々に沈静化していった。
「ふむ、バイトとはいえあまり治安の悪い場所には出向かない事だな」
大和に忠告したのがクリスティアーネ・フリードリヒ。先日ドイツから留学生として川神学園に編入してきた。風間が気に入り、ファミリーに入れようとしたが様子見に落ち着いた。皆にはクリスと呼ばれる事が多い。
「大和さんはかなり喧嘩慣れされてると聞きましたけど、そんなに強い相手だったんですか?」
質問してきたのが黛由紀江。ここの寮生唯一の一年生で、此方も風間ファミリーに入ったとの事。父親は『剣聖』と呼ばれる程の人物で、いつも帯刀している刀も父親が国に掛け合って許可を得ているそうだ。また、松風という黒馬の携帯ストラップを身に付けており、腹話術を使って会話する。……九十九神?無えよンなモン。
『ば、ちょ、まゆっちそれ訊いたらイケナイ話題だろ。ボーイのプライド考えてやれよー』
(…中々毒吐くな、この一年)
「そうだね、今度組手に付き合ってくれないかな?まゆっち」
気を取り直して黛後輩を組手に誘う。組手の候補として真っ先に上がったのがこの娘だ。帯刀を許可される程の腕前と、何より人格に問題が無いのが大きい。組手に付き合ってくれる可能性が一番高く、実力も申し分無い。九鬼家のメイドも考えたが仕事を優先されるだろうし、余程メリットがないと取り合ってもらえないだろう。
「ええ!?わ、私がですか?」
「そう、護身用の練習って感じでさ」
会ってからまだ日が浅いが、人の良い性格なのは見てとれた。あくまで護身の為の鍛練なら付き合ってくれると判断した。剣術が主なんだろうが素手の体術も使えると見て間違いないだろう。
「私で良ければいくらでも付き合います!!」
「…?何で自分には頼まないんだ?」
クリスが不思議そうに訊いてくる。
「手加減が下手そうだから」
「ナニー!?」
憤慨するクリス。それを意に介さず大和は話題を変える。
「それより、今日S組の生徒と揉めたって聞いたんだけど。どーなん?」
話題を昼に聞いた賭場の一件へ移す。少しでも役に立つ情報を手に入れる為に。
「ああ、そういえばヨンパチが何か騒いでたな」
「賭場でS組の生徒にボロ負けしたと聞いた。明日辺り仕返しを頼まれるかもね」
「賭場…ですか?川神学園にはそんなモノもあるんですね」
「うん。たまに開かれるんだけど、イカサマとかもバレなきゃ黙認されるから。自信が無いなら行かない方が良いよ」
「賭け事もそうだが、イカサマ等
「まあ、負けた連中は自業自得だし。それも社会勉強って事で先生達も積極的には取り締まらないからね」
中々思うように話題が進まない為、大和はそれまで黙々と食事をしていた忠勝に視線を向け、話題を強引に進める事にした。
「ゲンさんは相手の生徒について何か知ってる?」
忠勝は大和が相手の情報を得たがっているのを知っている。大和の意を察した忠勝が返答する。
「不死川って女子生徒だと聞いたぜ。いつも着物を着ているから目立つ奴だ」
「不死川ねえ、誰か聞いた事ある?」
「ン~?……俺は知らねえな。京は何か知ってるか?」
「確か…良いトコのお嬢様だって聞いた事あるかも」
「いつも着物着てるなら、それなりに学園に寄付してるだろうしな。S組に入ってるのに、内申点捨てたりはしないだろ」
「キャップは内申点捨ててバンダナを巻いてるけどな」
「アレお気に入りなんだよ。冒険家になるなら内申点必要無いしな」
(…ア~、また逸れてきた。これ以上は無理に聞き出せないな)
川神百代と親しい奴にはあまり動いている事を知られたくない。向こうはもう俺に興味は無いだろうが、何が原因で目を付けられるか分からない。ここ最近はかなり動いているし、今まで以上に慎重に動こう。
その後は和やかな雰囲気で夕食を終えた。
夕食後 島津寮102
忠勝が今日集められた情報を大和に報告に来ていた。
「不死川家のご令嬢ってのはさっきも話に出た通りだ。後は柔道を嗜んでいるらしく、腕前は全国区らしいな。…悪いが今日はこれくらいしか集まらなかった。すまねえ」
バツが悪そうに忠勝が謝る。短い時間とはいえ思ったより集まらなかった為、気にしているようだ。
「いや、柔道をやっていると分かったのは大きいよ。決闘で戦うのもアリかな」
昨日負傷したとはいえ骨は折れていなかったし、学園の決闘なら勝負が決まったと判断されれば川神鉄心が止めに入る。ルール次第では無傷で勝つのも難しくないだろう。
「………まあイケるだろ。不死川には決闘で勝って組手の相手になってもらおう」
「仮にも全国区の柔道家だぞ。勝算はあるのか?」
「当然あるさ。楽しみに待っていろよ♪」
2009年4月28日(火) 早朝
川神学園 学長室
翌日、大和は板垣姉弟の件を直接確認する為に学長室に来ていた。
「昨日釈迦堂の意識が回復しての、まあやはりというか板垣姉妹に武術を教えておったらしい。明日の祝日にワシとルー師範代で身柄を確保するから安心せい」
「ありがとうございます」
「それにしてもお主、相当無茶苦茶な戦い方をしたらしいのう。釈迦堂の怪我もそうじゃが、お主の怪我も普通の喧嘩の範疇を超えておる」
「まあ、負けたら最悪死ぬと思って戦ってましたから」
(何か探っているのか?それとも世間話のつもりで言っているのか?)
判別できなかった大和は、話題を変える為強引に本題に入る事にした。
「それより学長に頼みたい…いや、相談したい事があるんですけど」
川神院の総代として負い目を感じている間に可能な限り利用させてもらう。釈迦堂が意識を取り戻した以上、間違いなくどう戦ったか吐かせるだろう。俺の戦い方を知れば、俺に不信感を抱く可能性は高い。ガラスや空き缶が俺に都合が良い形であったんだ、釈迦堂も薄々感付いていた筈。
(板垣竜兵は此方に喧嘩を売らされたという事に!!)
俺がタクシーで廃ビルに向かってから、釈迦堂が来るまでに用意するのは難しいと考える筈。前もって準備していた、もしくはさせていたと気付いていただろう。これがバレると俺の立場が被害者から加害者に移る可能性がある。確固たる証拠が無い以上、断定はされないだろうが不信感を持たれるだけで動き辛くなる。事が露見する前に利用する。
「今日決闘でS組の不死川って生徒と戦おうと思っているんですけど、向こうが決闘を受けたら戦闘による決闘を許可してもらえませんか?」
「…相手が受けたなら構わんが、お主怪我の具合はどうなんじゃ?」
「骨は折れてませんし、昨日一日休んだので大丈夫ですよ」
「……分かった。許可しよう」
「ありがとうございます!!」
大和は頭を下げ、自分の教室へ戻っていった。
「………ルーよ、お主はどう思った?」
2009年4月28日(火)
川神学園2-F教室
「大和ぉ、助けてくれえぇ!?」
(予定通りに泣き付いて来たな)
どんな用件か見当がついているが、態度には出さずに対応する。
「どうしたんだ?ヨンパチ」
大和は情報収集をした!
大和は決闘の許可を得た!
大和はヨンパチに知らないフリをした!
不死川心が絡みだすと書いたな、アレは誤報だ!!
すみません。次回からちゃんと書きます。