問題児たちが異世界から来るようですよ?-時間神の恩恵を持つ男- 作:大禍時悪
「ジン坊っちゃーン! 新しい方を連れてきましたよー!」
大量の巨大な天幕に覆われた都市の根元にある、石造りの門の階段に座っていたダボダボのローブを着た跳ねた髪の毛が特徴的な少年が、黒ウサギの呼び声で顔を上げ小走りで駆け寄ってきた。
「お帰り、黒ウサギ。そちらの三人が?」
ん? 三人? ああ、また俺のことをナチュラルスルーですかそうですか。この世界はまず俺の精神を削るんですね。
「はいな、こちらの御四人様が――――」
こちらをクルリと振り返る黒ウサギ。
そしてカチンと固まる黒ウサギ。
「……え、あれ? もう一人いませんでしたっけ? ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から”俺問題児!”ってオーラを放っている殿方が……ってなんでまた黒瓜さんがダメージを受けてるんですか!?」
「ああ、十六夜君のこと? 彼なら”ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”と言って駆け出していったわ。あっちの方に」
あっちの方に、と久遠さんが指差す方向は上空から落ちてくるときに見えた断崖絶壁の方だった。そういえば途中から逆廻さんの気配がなくなってたな。あまりに自然に気配がなくなったから忘れてた。てことは、先ほどのジン少年の三人、といった発言は別に俺をスルーしていたわけではなかったようだ。もうそろそろこの被害妄想癖直さないと。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」
「”止めてくれるなよ”と言われたなそういえば」
なんとなく乗ってみる。
「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」
「”黒ウサギには言うなよ”と言われたから」
「嘘です、絶対嘘です! 実は面倒くさかっただけでしょう皆さん!」
「「「うん」」」
三人同時に肯定の意を表すと黒ウサギはがっくりとうなだれた。するとジン少年が黒ウサギに慌てて駆け寄った。
「大変です! ”世界の果て”にはキフトゲームのために野放しにされている幻獣が」
「幻獣?」
「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に”世界の果て”付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわしたら最後、とても人間では太刀打ちできません!」
「え? マジで!? 楽しそうだからちょっくら俺も世界の果てに行ってくる」
と言って目にやる気を灯し回れ右をした後、全力で地面を蹴りだそうとした瞬間に、いつの間にか背後に立っていた笑顔の黒ウサギに万力のような力で両肩をつかまれた。ギチギチと肩が軋む音をたてる、地味に痛い。
「急にやる気に満ちた目に戻っても、危ないと言っている場所に素直に行かせるとお思いですか?」
「デスヨネー」
足に込めた力を抜いて振り返ろうとしたが万力のような力が解かれることがない、仕方なく自らの能力を発動させる。とたんに世界の色がモノクロに代わり世界の全てが停滞する。万力のような両手の束縛から逃れ黒ウサギの横に移動する。その動作が終わった瞬間に世界が元に戻る。
「……へ? あれ? 黒瓜さんいつの間に黒ウサギの手から逃れてそこに?」
急に俺がいなくなったことで、地面の方へ押さえつけていた力のやり場を失い少し前につんのめる黒ウサギ。そしてそこにいた全員が驚いたように黒瓜を見ていた。
「0.8秒くらい前よ」
ニコリと笑って答えてあげた。だが、ほかのみんなの頭上にはクエスチョンマークがういている。まあいずれわかるよ。
「はあ……ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、皆様の御案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかった。黒ウサギはどうする?」
「問題児を捕まえに参ります。事のついでに――――”箱庭の貴族”と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」
先ほど黒瓜の肩を締め上げていた時のいい笑顔をして、黒い髪を淡い緋色に染め上げると地面にひびが入るほどの力を足に込めて弾丸めいた速さで飛び去って行った。その際に皆さんはゆっくりと箱庭ライフをご堪能ございませー! と聞こえてきた。
「うっへえ……超はえー箱庭のウサギってあんなに早く飛べるんだ」
「ウサギたちは箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが……」
飛鳥は空返事をして心配そうに黒ウサギの消えて行った方向を見るジンに向き直り。
「黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」
「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。皆さんの名前は?」
「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱き抱えているのが」
「春日部耀」
「で、異様なまでにやる気のない目に戻ったのが」
「黒瓜黒継だ、よろしくジン少年」
「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」
久遠さんがとてもいい笑顔でジン少年の腕を引いて、俺と春日部さんはその二歩後ろを歩き石造りの門の中に足を踏み入れた。
少し長い石畳の門の中を歩き天幕に覆われた都市の中に入る。
「うおっ……眩しっ……天幕に覆われてる割にはクッソ明るいじゃねえかよ」
「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんですよ。そもそもあの巨大な天幕は太陽の光を直接受けられない種族のために設置されていますから」
ジンはさも当然といった感じで説明した。しかし飛鳥は今の説明の中に気になる部分を見つけた。
「それは何とも気になる話ね。この都市には吸血鬼でも住んでいるのかしら?」
「え? いますけど」
「……そう」
「ハッハッハ、さすが修羅神仏が跋扈する箱庭の世界だ。吸血鬼がいるんならほかの神話生物がいてもおかしくはなさそうだ。ドラゴンとか鵺とかニンジャとかいないの?」
黒瓜は冗談めかしてジンに聞いてみた。こちらの疑問もさも当然かのように答えてくれる。
「いますよ。ニンジャはともかくとして、鵺は北側の方にいます。ドラゴン……というより龍の純血は箱庭の最強種の一種として、恐れられています」
「なるほど、純血ってことは龍が別の生物との子を産んだら親よりも確実に弱くなるってことか、親を超えられない子ってのも悲しいもんがあるな」
もちろん早くに超えるってのも悲しいけどな、と小さな声でつぶやく。ほかの人たちは聞こえていたのか聞こえていないのかあいまいな表情をしていた。
「お勧めの店はあるのかしら?」
「す、すいません。段取りは黒ウサギに任せていたので……よかったらお好きな店を選んでください」
「それは太っ腹なことね」
久遠さんがそういうと一瞬だけ春日部さんが笑った気がした。だが本当に一瞬の出来事ですぐに無表情に戻る。
四人と一匹は六本の傷が刻まれた旗を掲げたカフェテラスに座る。するとすぐに店の奥から猫耳の生えた店員が注文を取りに来た。
「いらっしゃいませー。御注文はどうしますか?」
飛鳥が飲み物と軽食をあれやこれやと多量に注文する。途中で耀の抱いていたニャンコがニャーゴと鳴いた。
「はいはーい。ティーセット四つにネコマンマですね」
「……? 猫の言葉がわかるのか?」
久遠さんやジン少年が、え? と頭にクエスチョンマークを浮かべ小首をかしげている間に、つい疑問を口に出す癖が出てしまった。春日部さんはかなり驚いた様子で俺と店員さんを見て。
「三毛猫の言葉、わかるの?」
と再度尋ねる。おそらくその言葉は、店員だけでなく黒瓜にも向いているのだろうと判断できたが、再度聞かれるだろうと思い無視をした。
「そりゃわかりますよー私は猫族なんですから。お歳の割に随分と綺麗な毛並みの旦那さんですし、ここはちょっぴりサービスさせてもらいますよー」
店員さんの言葉に反応するようにニャゴニャゴニャンニャンと鳴く。おそらく会話しているんだろう。
「やだもーお客さんお上手なんだから♪」
店員は嬉しそうに尻尾をフリフリしながら店の奥へと帰っていく。
「あなたも、三毛猫の言葉わかるの?」
嬉しそうな顔で膝に抱いた三毛猫を撫でて再度、黒瓜に問う春日部さん。だが黒瓜は手を振って否定する。
「いや、全くわからん。ただ鳴いてるだけにしか聞こえなかった」
「え? でもさっき……」
「あれは、単純に推測しただけよ。注文をしている間に声を出したのは久遠さんと三毛猫君だけ、久遠さんがそこの三毛猫君に気をまわしてネコマンマを注文した、って可能性もあったけど。さっき注文を繰り返したときに久遠さんが驚いたような顔をしてたから、その可能性を排除した結果、その推測に至ったのよ」
すまないね。と一言謝ると残念そうに耀は頷く。
「しかし、動物と会話か。それはそれでとても楽しそうだ」
「ちょ、ちょっと待って。貴女、猫と会話できるの!?」
ワンテンポ遅れて飛鳥が動揺した声音を出す。耀もコクリと肯定する。
「もしかして猫以外にも意思疎通は可能ですか?」
「うん。生きているなら誰とでも話はできる」
「それは素敵ね。じゃあそこを飛び交う野鳥とも会話が?」
「うん、きっと出来……る? ええと、鳥で試したことがあるのは雀や鷺や不如帰ぐらいだけど……ペンギンがいけたからきっとだいじょうぶ」
「し、しかし全ての種と会話が可能なら心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言葉の壁と言うのはとても大きいですから」
「そうなんだ」
「一部の猫族や黒ウサギのような神仏の眷属として言語中枢を与えられていれば意思疎通は可能ですけど、幻獣達はそれそのものが独立した種の一つです。同一種か相応のギフトがなければ意思疎通は難しいと言うのが一般です。箱庭の創始者の眷属に当たる黒ウサギでも全ての種とコミュニケーションをとることはできないはずですし」
「そう……春日部さんは素敵な力があるのね。羨ましいわ」
久遠さんが憂鬱そうな声と表情で呟いた。そういえばここに呼ばれた4人は皆、超常の力を持っているんだった、前の世界ではあんまり面白くなかったんだろうね。
「久遠さんは」
「飛鳥でいいわ。よろしくね春日部さん」
「う、うん。飛鳥はどんな力を持ってるの?」
「私? 私の力は……まあ、ひどいものよ。貴方はどうなの? 黒瓜くん」
「んーまあ、酷いもんだね。前の世界じゃ」
「おんやぁ? 誰かと思えば東区画の最底辺コミュ”名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですかぁ?」
顔を上げるとそこにはおそらく2m近くはある巨体に、パッツンパッツンの今にもボタンがはじけ飛びそうなタキシードを着たおかしな男がいた。その男は黒瓜の対面の空席にドスンと勢いよく腰かける。
「ちょい、あんた誰? 相席を許可した覚えは無いんだが?」
「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ“六百六十六の獣”の傘下である」
「烏合の衆の」
「コミュニティのリーダーをしている・・・・・・ってマテやゴラァ!! 誰が烏合の衆だ小僧オォ!」
ジンに余計な横槍を入れられ、おかしな男の気に触れたのか怒鳴り声とともに顔が獰猛なトラに変化した。
「ハッハッハッうるさい。早く自己紹介の続きをしてくれトラ公」
「ト……失礼いたしました。改めて”フォレス・ガロ”のリーダーをしているガルド=ガスパーと申します」
トラ公、という言葉に一瞬ピクリと反応したがトラ顔を元の人の姿に戻し、紳士めいた態度を崩さずに自己紹介をするおかしなトラ公改めガルド=ガスパー。
「んで? そのガルド=ガスパーさんが最底辺だと嘲笑する”
「黒瓜さん、僕らのコミュニティの名前は”ノーネーム”です。けして”名無しの権兵衛”でも”ジョン・ドゥ”でもありません」
「あ、そうなの? ごめん。訂正しよう”ノーネーム”になんの用なのだガルド=ガスパーさん?」
「いえ、用があるのはそこの名無し風情ではなく、新たに箱庭に来られたあなた方にあるのです。単刀直入に申しあげましょう。我々のコミュニティに来ませんか?」
「な、何を言い出すんです! ガルド=ガスパー!?」
「黙れ、小僧。てめぇは自分のコミュニティの惨状を説明もせず、新たに来た方々を迎え入れようってのか?」
「ハイ、ちょっとストップ」
ガルドがジン少年を睨めつけ、なお威嚇するように語尾を強くしたあたりで久遠さんが遮るように手を上げた。
「事情はよくわからないけど、貴方達二人の仲が悪いことは承知したわ。それを踏まえた上で質問したいのだけど―――」
久遠さんはガルドの方ではなく、ジン少年を睨んで問うた。
「ねえ、ジン君。ガルドさんが指摘している、私たちのコミュニティが置かれている状況……というものを説明していただける?」
「それは……」
ジンは言葉に詰まった。さっきガルドが言っていた通り、ジンのコミュニティは何か大変なことに直面していることを隠しているようにも見えた。外門の中に入ってからも自らのコミュニティの話題が出なかった、もしくは出さなかったことも、ひとえに酷い惨状にあるコミュニティの状況を説明してしまったら新たな人材である黒瓜たちに、見限られてしまうと思ったのだろう。
「貴方は自分のことをコミュニティのリーダーと名乗ったわ。なら黒ウサギと同様に、新たな同士として呼び出した私たちにコミュニティとはどういうものかを説明する義務があるはずよ。違うかしら?」
問い詰める声はとても冷ややかで、鋭い声音でもあった。その追求する声を聴いていたガルドが好機と言わんばかりに似非紳士のような声音で言った。
「レディ、貴女の言うとおりだ。コミュニティの長として新たな同士に箱庭の世界のルールを教えるのは当然の義務。しかし、先ほども言ったように、彼はそれをしたがらないでしょう。よろしければ”フォレス・ガロ”のリーダーであるこの私が、コミュニティの重要性と小僧――――ではなく、ジン=ラッセル率いる”ノーネーム”のコミュニティを客観的に説明させていただきますが」
久遠さんはうつむいたままのジン少年を一度見てから。
「……そうね。お願いするわ」
コミュニティの重要性を語る中にコミュニティに属さずとも三十日の自由が約束されていること、そして旗印は縄張りを主張する大事なものであると語っていた。その後ガルドはジンのコミュニティのことをベラベラと語りだした。正直言ってしまうと、他人の過去は本人から聞く、それを信条としている黒瓜にとっては鬱陶しい以外の何物でもなかったが。
要約するとジン少年のコミュニティはもともと東側で最大手のコミュニティだった、しかし箱庭における天災、”
「私のコミュニティ”フォレス・ガロ”は旗印をかけたギフトゲームに連戦連勝し、今やこの地域を治めるほどになりました。ジン=ラッセルの”ノーネーム”に比べどちらが裕福かなど説明するまでもないでしょう」
ジン少年のコミュニティの過去話が終り、今度はガルドの自慢話が始まった。
「改めて、もう一度言います。是非黒ウサギともども私のコミュニティに――――」
「結構よ、だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの」
ジン少年とガルドはえ? と聞こえた言葉の意味がわからずに呆けていた。そういやなんで黒ウサギさんがいつの間にか勧誘の対象に混ざってるのだろうか。そして久遠さんはガルドの勧誘を拒否し何事もなかったかのようにガルドがしゃべくってる間に運ばれてきた紅茶を飲み春日部さんに笑顔を向ける。
「春日部さんは今の話をどう思う?」
「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りにきただけだもの」
「あら意外。じゃあ私が友達一号に立候補していいかしら? 私達って正反対だけど、意外に仲良くやっていけそうな気がするの」
久遠さんは自分の髪を触りながら春日部さんに問う。口にしておきながら恥ずかしかったのだろう。
「うん。飛鳥は今までの人たちと違う気がする」
女性陣が友情をはぐくんでいる間にニャンコがニャンニャン鳴いていた、たぶんなんか言ってるんだろう。
「黒瓜君はどう思う?」
「……」
「黒瓜君?」
「……組織としては悪くはなさそうだな。バックに上層コミュ、潤沢な資金と縄張り」
黒瓜はあえて聞こえるように呟くとそれを聞いた飛鳥はぎょっとしつつも冷たい視線を送ってきた、耀は相も変わらず無関心、ジンに至ってはやはり駄目かと目を伏せていた。
「では――――」
ガタリと音を立てて椅子から立ち上がり、気色悪いほどの満面の笑みで黒瓜を見て、何か言おうとしていたみたいだがそれを遮って言う。
「まあでも俺もジン少年の”ノーネーム”に入ろうかね」
「……し、失礼ですが、理由を教えてもらっても」
ガルドは立ち上がった状態のまま気持ちの悪い満面の笑みをひきつらせていた。
「だから、間に合ってるのよ。春日部さんは友達を作りに来ただけだから、ジン君でもガルドさんでもどちらでもでも構わない。そうよね?」
「うん」
「それで、黒瓜君は? さっきはあんな思わせぶりなこと言ったのだから、それ相応の理由があるのよね?」
「や、とくには。単純に俺、このトラ公嫌いだし。老い先短いのはどちらもそう大して変わらない。何より後ろ盾がいるからって偉そうにしてるのが気に食わないから。久遠さんは?」
「私、久遠飛鳥は――――裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払って、この箱庭に来たのよ。それを小さな小さな一地域を支配しているだけの組織の末端として迎え入れてやる、などと慇懃無礼に言われて魅力的に感じるとでも思ったのかしら。だとしたら自身の身の丈を知った上で出直してほしいものね、このエセ虎紳士」
あら、言っちゃった。俺も言いたくて仕方なかったけど言わなかった言葉をはっきりきっぱりと言っちゃうのかこの子は、よくやった。トラ公を見るとおそらくは怒りで体を震わせているが、できる限りの上品ぶった言葉を探すのにギョロギョロと瞳を蠢かせている。
「お……お言葉ですが――――」
「
言葉を探し終えたガルドが久遠さんに反論しようとした瞬間に久遠さんがそれを一喝すると。ガルドの口が不自然に閉じる。ガルド自身も困惑しているようだ。そして畳みかけるようにさらに久遠さんが命令するように言葉を発する。
「私の話はまだ終わってないわ。貴方からはまだまだ聞き出さなければいけないことがあるのだもの。貴方は
立ち上がっていたガルドが椅子にヒビが入りそうな勢いで座り込む。ほんの少しだけ椅子が沈んだ、おそらく椅子にヒビは入らなかったが床にはヒビが入ってしまったようだ。修理費はこっち持ちなのかな。しかし久遠さんの言っていた酷い力、見た感じ発した言葉通りに他人を動かす力の様だ。なるほど酷い力だ、ただ一言命令すれば仰せのままにと反ってくるわけだ。きっと俺よりも前の世界は退屈だっただろう。
「お、お客さん! 当店で揉め事は控えてくだ――――」
ただならぬ雰囲気に気付いた猫耳の店員が急いでこちらに駆け寄る。
「ちょうどいいわ。猫の店員さんも第三者として話を聞いてほしいの。たぶん、面白い話が聞けると思うわ」
当たり前に状況の理解できていない店員さんは小首を傾げて困惑している。ごめんね。
「貴方はこの地域のコミュニティに”両者合意”で勝負を挑み、そして勝利したと言っていたわ。だけど私が聞いたギフトゲームの内容は少し違うの。コミュニティのゲームとは”
「や、やむを得ない状況なら稀に。しかし、これはコミュニティの存続を賭けたかなりのレアケースです」
猫の店員さんもうんうんと頷いて肯定する。
「だろうね、自分らの象徴をそう簡単に賭けるなんて、負けの可能性が皆無な場合かよっぽどの阿呆か、もしくは脅迫でもされなきゃ賭けたりしないだろう」
「魔王には”主催者権限”があるからこそ恐れられているのに、なぜあなたはそんな大勝負を続けることができたのかしら?
ガルドに問いかける。引き攣った顔に脂汗を浮かべポツリポツリと言葉を紡いでいく。
「き、強制させる方法は様々だ。一番簡単なのは、相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫すること。これに動じない相手は後回しにして、徐々に他のコミュニティを取り込んだ後、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった」
「まあ、そんなところでしょう」
「なんだよ、ほんとに単なる脅迫かよ。どうせ吸収した奴らを従わせるために子供なり女性なりを人質に取ってるんだろ?」
「その通りだ」
「………そう。ますます外道ね。それで、その人達は何処に幽閉されているの?」
「もう殺した」
その場の空気が凍りついた。ジン少年も、店員さんも、春日部さんも、久遠さんや予測していた俺でさえ一瞬耳を疑って思考を停止させた。だがガルドは命令されたまま言葉を紡ぎ続ける。
「初めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭にきて思わず殺した。それ以降は自重しようと思ったが、父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降、連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。けど、身内のコミュニティの人間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食
「
またもやガルドの口が勢いよく閉じ最後の言葉を紡がせないようにした。最後はお察し通り部下に食わせた、か。死体の隠し場所にはうってつけってやつだ、外道だなー。
「素晴らしいわ。ここまで絵にかいたような外道とはそうそう出会えなくてよ。流石は人外魔境の箱庭の世界といったところかしら……ねえジン君?」
久遠さんはとても冷ややかな目でジン少年を見ていた。しかしジン少年は慌てて否定する。
「彼のような悪党は箱庭でもそうそういません」
「そう? それはそれで残念。────ところで、今の証言で箱庭の法がこの外道を裁くことはできるかしら?」
「厳しいです。吸収したコミュニティから人質を取ったり、身内の仲間を殺すのは勿論違法ではありますが……裁かれるまでに彼が箱庭の外に逃げ出してしまえば、それまでです」
ガルドがいなくなり事態が明るみに出れば、人質で従わされていた連中が従わなくなりジン少年よろしく烏合の衆である”フォレス・ガロ”が瓦解するのは見えているだろう、しかし久遠さんはどうも満足していない様子。
「そう。なら仕方ないわ」
久遠さんが指をパチリと鳴らすと、急にガルドが動き出しテーブルを砕き激昂する。
「この……小娘がァァァァァァァ!!」
切れたガルドが全身をトラに変化させ、パッツンパッツンのタキシードを自らの筋肉で弾け飛ばし、久遠さんに腕を振りかぶって襲い掛かる。
「おい、トラ公。店で暴れるなや、ほかのお客の迷惑でしょう? おじいちゃんに教わらなかったのか?」
黒瓜は振りかぶったガルドの腕を掴み骨を砕く位の力で握りしめる。腕の太さが黒瓜の掌よりも二回りほど大きかったので指を少し腕に食い込ませている。片手を封じられたので反対の腕を振り上げるといつの間にか春日部さんが居て反対側の腕を止めた。
「っ! テ、テメェら、どういうつもりか知らねえが……俺の上に誰が居るかわかってんだろうなぁ!? 箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!! 俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ! その意味が分かってんのか!?」
ガルドがベラベラと後ろにいる魔王の存在をちらつかせる。箱庭第六六六外門か、黙示録の獣か何かかねこいつもトラ公だし。そんなとき久遠さんがガルドに話しかける。
「さて、ガルドさん私は貴方の上に誰が居ようと気にしません。それはきっとジン君も同じでしょう。だって彼の最終目標は、コミュニティを潰した”打倒魔王”だもの」
「……はい。僕達の最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間達を取り戻すこと。今さらそんな脅しに屈しません」
「そういうこと。つまり貴方には破滅以外のどんな道も残されていないのよ」
久遠さんは少々機嫌を直したようで、とてもいい笑顔でガルドの顎を細い指で持ち上げる。
「だけどね。私は貴方のコミュニティが瓦解する程度では満足できないの。貴方のような外道はズタボロになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ。――――そこで皆に提案なのだけれど……」
本当に楽しそうな笑みを浮かべて久遠さんは言った。
「私達と『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の”フォレス・ガロ”存続と”ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、ね」