問題児たちが異世界から来るようですよ?-時間神の恩恵を持つ男- 作:大禍時悪
日が暮れたころ逆廻さんを捕まえた、木の苗のようなものを抱いた黒ウサギさんと合流した際に嵐のような説教と質問を受けた。それに対して俺と春日部さんと久遠さんとジン少年は。
「「「「腹が立ったから後先考えずに喧嘩を売った。反省はしていない」」」」
「このお馬鹿様! お馬鹿様! お馬……鹿様!!」
四人同時にまったく同じ言い訳をしたら俺たち三人だけ黒ウサギさんにどこからともなく出したハリセンで引っ叩かれた。一発目の縦ふりを軽く上体を反らせて回避したが、次に来るフルスイングはよけられなかった。
「まあまあ、落ち着いて。いいじゃない勝てない喧嘩を売ったわけじゃないんだからさ」
「黒瓜さんは楽観視しすぎです! それに今回のゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ? この”
黒ウサギは羊皮紙を手に持ってウサ耳をシャキン! とまっすぐにのばして憤慨する。
「”参加者が勝利した場合、主催者は参加者の言及する罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する”――――まあ、確かに自己満足だ。時間をかければ立証できるものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだからな」
ちなみに俺らのチップは”罪を黙認する”だ。これは今後一切このことに対して口を閉ざすってことになるんだけど……。
「あー黒ウサギさん二つくらい訂正してもいい?」
「はい? なんでございましょう? あと呼び捨てで結構ですよ」
「アッハイ。じゃあまず一つ目、今回手に入るのは自己満足だけじゃないよ。敵意しかない相手の組んだギフトゲームの経験を積めること。二つ目は戦う前に事前にこういう連中を裁くための機関に通報しておけばいいのさ。仮に負けたとして、あくまで”ノーネーム”として口を閉ざしますとチップにかけた。そしてさっきあのトラ公が言ってたけど、箱庭に来てからは三十日の自由が約束されているって。つまり”ノーネーム”に所属してない三十日以内の段階ならだれにばらしても問題もないはずじゃないかな?」
「確かにギフトゲームでの経験が入るのは当然としても二つ目はちょっと黒ウサギにはわかりかねます」
自分で言っては何だが、俺の無理やりすぎるあくどい発想に黒ウサギは頬を引き攣らせウサ耳をへにょらせ項垂れる。すると久遠さんがまた冷ややかな目でこちらを見てきた。
「あら、でも貴方、ジン君の”ノーネーム”に入ろうかなと言ってなかったかしら?」
「うん言ったよ。でも入ろうかなと意思を表明しただけで、まだ正式に入っていいと許可をもらった覚えは無いよ?」
「でも、あのゲームは”ノーネーム”として受けたゲームよ? ”ノーネーム”に入っていないのならば参加資格もないのではなくて?」
「そうだね、でもガルド=ガスパーはそうとは考えてない。意思を表明した時点で”ノーネーム”の一人としてカウントしてる。こちらの今の状態がどうであれ、ね。あのトラ公が勝手にそう思い込んだだけで責められるいわれはないと思うよ」
あっさりと肯定し、そしてニコリと笑顔を浮かべた。この時黒瓜自身は普通に笑顔ができたと思っているが、ほかの五人にはとても邪悪な笑みに見えていた。その笑顔を見て久遠さんは引き攣った笑みを浮かべてため息をついていた。
「……貴方って詐欺師の方が向いているんじゃなくて?」
「そんなことないよ本当の詐欺師ならもうちょいと先を読んで策を巡らせると思うよ、このくらいで本業の人と比べられたら本業の人たちに失礼だよ」
ハッハッハと大げさに笑う黒瓜であった。
「黒瓜さんも、やっぱり問題児なのですよ……。まあ、いいです。”フォレス・ガロ”程度の相手なら十六夜さんだけでも楽勝でしょう」
黒ウサギは笑いながら振り返ると逆廻さんが怪訝そうな顔で黒ウサギを見ていた。
「俺は出ねえぞ?」
「……HA?」
「HA? じゃねえよ。いいか? この喧嘩は、こいつらが売って、やつらが買った。なのにその場にいないかった俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」
「あら、わかってるじゃない」
一瞬ポカンと呆けた黒ウサギにさも当然のように言う逆廻さん。そして、元からそうさせる気のなかった久遠さん。
「……もう、好きにしてください」
疲れ切った黒ウサギはもう言い返す気力も残っていないようで、がっくりと肩を落とすのだった。
黒ウサギはジンを先にコミュニティに帰らせて、黒瓜たちを引き連れて”サウザンドアイズ”という所にギフト鑑定に行こうという話になった。
「”サウザンドアイズ”ってのはコミュニティの名前か?」
「YES。”サウザンドアイズ”は特殊な”瞳”のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」
「ギフト鑑定というのは?」
「勿論、ギフトの秘められた力や起源などを鑑定することデス。自分の力の正しい形で把握していた方が、引き出せる力は大きくなります。皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」
黒ウサギは同意を求めるように問いかけるが、黒瓜以外の三人は複雑な表情を浮かべる。各々思う所があるのだろう。反面黒瓜は興味なさげにキョロキョロと周りを眺めている。謎の街路樹から桃色の花びらが散りほのかに甘い香りを漂わせている。
「桜の花……ではないわよね? 花弁の形が違うし、真夏なっても咲き続けているはずがないもの」
「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合の入った桜が残っていてもおかしくはないだろ」
「……? 今は秋だったと思うけど」
「春じゃないのか? 桜満開、春爛漫って感じの? 一週間前に花見をしたばかりだし?」
四人の季節が全く噛み合わないのを聞いていた黒ウサギが、笑いながら説明する。
「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」
「へぇ? パラレルワールドってやつか?」
「近しいですね、詳しくは立体交差並行世界論というものなのですけれども……今からコレを説明を始めると一日二日では説明しきれないと思うので、また別の機会にということで」
話が長くなりそうなので適当に切り上げる黒ウサギ。お目当ての支店について様で蒼い生地に二人の女神が向かい合った旗が掲げられている。入口付近に看板を下ろそうとしていた女性店員に黒ウサギは待ったを、
「待っ」
「待ったなしです御客様。うちは時間外営業はやっていません」
待ったをかけられなかった、黒ウサギは女性店員を睨みつける。その表情は大層悔しそうだった。
「なんて商売っ気の無い店なのかしら」
「まあ、しょうがないんじゃない? あちらさんも閉店前なんだし閉店の準備もあるんでしょうよ。帰ろう」
「で、でも閉店五分前なのですよ? それでも客を締め出すなんて……」
「しょうがないよ、決定権は向こうにあるし諦めようよ。そんでもって帰ろうよ」
「さっきから黒瓜さんはなんでそんなに帰りたそうなんですか!? 黒ウサギの拘束を抜けた瞬間移動でお店の中に入ってくださいな」
「いや、あれは瞬間移動じゃ――――」
「いぃぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ! 久しぶりだ黒ウサギィィィィィ!」
黒瓜の言葉を遮るように感極まった叫び声が突如として聞こえ、飛来した謎の白い影が黒ウサギに抱き付くようにタックルを仕掛け、街路樹の向こう側にある水路に突っ込んでいった。水柱は立たないものの盛大な落下音がした。
「・・・・・・おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか? なら俺も別バージョンで是非」
「ありません」
「なんなら有料でも」
「やりません」
十六夜が真剣に店員に問い、そしてそれを真剣な表情できっぱりと言い切る店員。水路の方ではなんやかんやと話し声が聞こえるが、距離があるせいで何を話しているのか黒瓜には聞き取ることができない。するとおそらく黒ウサギにタックルを仕掛けた白い影の正体が水路から飛んできた。白い髪に和装の少女が十六夜の方へと飛んでいき……。
「てい」
彼はその少女を
「ゴバァ! お、おんし、初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」
少なくとも美少女は吹っ飛んでこないだろうし、足で受け止められてゴバァ! で済むほどの超耐久を持ってるとは思わないんですけど。
「十六夜様だ。以後よろしく和装ロリ」
ヤハハと笑いながら自己紹介を済ませる逆廻さんをポカンとした表情で見ていた久遠さんは、思い出したかのように逆廻さん曰く和装ロリに話しかける。
「貴女はこの店の人?」
「おお、そうだとも。この”サウザンドアイズ”の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしの年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」
なんだこのド変態。と素直な感想を口に出してしまいそうになった黒瓜だが、すんでのところで飲み込む。仮にも相手は超大型商業コミュニティ”サウザンドアイズ”の幹部なのだ、下手なことを言うと出禁にされかねない。黒ウサギがミニスカートや自らの服を絞りながら水路から這い上がってくるなり複雑そうに愚痴る。
「うう……まさか私まで濡れる事になるなんて」
「因果応報……かな」
耀の鋭いツッコミを受け、悲しげに服を絞る黒ウサギに黒瓜は近づいてき肩にポンと手を置く。
「まあまあ
黒ウサギはえ? と首をかしげるといつの間にか自分の服に先ほどまでまとわりついていた湿り気が無くなっていることに気付く。黒瓜に何をしたのか問おうとしたが。
「ふふん、お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の元まで来たということは………遂に黒ウサギが私のペットに」
「なりません! どういう起承転結があったんですか!」
白夜叉のボケに対するツッコミで機会を逃してしまった。
「まあいい。話があるなら店内で聞こう」
「いいのか? 営業時間外なんだろ?」
「かまわんよ。だが営業時間外だから、私の私室で勘弁してくれ」
といい白夜叉が歩き出し五人と一匹は後ろについてく。すれ違いざま女性店員に睨まれた気がした。なので後ろにいた黒ウサギに黒瓜は隣に移動して小声で問いかける。
「ねえ、さっき店員さんにすっごい睨まれたんだけど、どうして?」
「じ、実は”サウザンドアイズ”では”ノーネーム”をお断りされているのです」
「それは身元が分からないし信用できないから?」
「……はい」
黒ウサギは俯き申し訳なさそうに返事をする。反面黒瓜は。
「そっか、じゃあ仕方ないね」
特に気にした風もなくニコリと笑って改めて前を向き元の位置へと戻っていった。
白夜叉さんが障子を開けるとそこは個室というにはやや広めの和室だった。
「もう一度自己紹介をしておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えておる”サウザンドアイズ”の幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女だと認識しておいてくれ」
「その外門、って何?」
「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど中心に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいます。私たちの住む”ノーネーム”は一番外側の七桁の外門です」
傍らに木の苗を置いた黒ウサギが耀の疑問に答えた。
「……超巨大タマネギ?」
「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら」
「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」
「んー。俺的にはタマネギの方に一票入れたいかな。中心があるわけだし」
四人の身も蓋もない感想に黒ウサギがまた項垂れる。
「ふふ、うまいこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分にあたるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は”世界の果て”と向かい合う場所になる。あそこはコミュニティに属してはいないものの、強力なギフトを持ったもの達が住んでおるぞ――――その水樹の持ち主などな」
白夜叉が黒ウサギの持っている木の苗に目を向ける。すると黒瓜が珍しそうに木の苗を見ながら黒ウサギに問う。
「そういえばさっきから気になってたけどその苗って何なの?」
「これですか? この苗は水樹と言って、水を生み出す摩訶不思議な木なのですよ。箱庭では水も立派な商品。水を手に入れるには他のコミュニティから買うか、もしくは外門から数キロ離れた大河から汲んでくる必要があるのです」
「そっか~。向こうでは当たり前のように使ってた水が、こっちではそんなに苦労していたとは……文化の違いってやっぱあるもんだな」
しみじみとした表情で感慨にふける黒瓜に横目に話を戻す白夜叉。
「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ? 知恵比べか? 勇気を試したのか?」
「いえいえ、この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」
胸を張り自慢げに黒ウサギが言うと。ひどく驚く白夜叉。
「なんと!? クリアではなく直接的に倒したとな!? ではその童は神格持ちの神童かの?」
「いえ、黒ウサギはそうは思えません。神格なら一目見たら分かるはずですし、現に神格を持っているのは御四人様の中では黒瓜さんだけです」
その場にいた全員が黒瓜の方に目を向ける。呆けながら話を聞いていた黒瓜は急に視線を向けられたことに驚き。おどおどしながら聞く。
「え? オレェ? てか神格って何よ? そんなにすごいもんなの?」
「神格というのは生来の神そのものではなく、種の最高ランクに体を変幻させるギフトのことだ。更に言えば神格を持つことで他のギフトも強化される。ここ箱庭の住人は己の目的のために神格を得ることを第一目標としているのだ」
「てことは……」
とつぶやいた瞬間に十六夜の隣に胡坐をかいていた黒瓜がいなくなり。
「これが神格の力だってことかい?」
反対側の耀の隣で胡坐をかいていた。先ほど黒ウサギが瞬間移動と言っていた能力だ。
「そうだ、それが神格の宿ったギフトの力。しかし今何を……」
「時間を操ったんだろ? 黒継」
「おや、バレてた?」
白夜叉の疑問にわかっていたかの様に十六夜が答える。そしてそれをよくわかったね、とおどけるように答える黒瓜。
「最初に会ったときあたりをつけていたが、店の前での会話で確信した。お前、黒ウサギの服を乾かす前に言っただろ
あちゃーぬかったわーと言い笑いながら額に右手を当てる黒瓜。笑っているのはほかでもない、この場にいる十六夜以外の全員が驚いてはいるものの、奇異の目で見ているものがひとりもいなかったからだ。
「ハッハッハ。逆廻さんの言う通り、俺の力は時間を操る力。まあ、操るって言っても停止、遡行、加速、減速ができるくらいだよ」
そして耀の隣にいた黒瓜がまた消え、元の位置に戻ってくる。
「十六夜でいいぜ、お互い呼び捨ての方が呼びやすいだろ?」
「ん、わかった十六夜」
「話は戻しますが、白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いなのですか?」
明らかに無理やり話を元の方向に修正し、十六夜が殴り倒したとされる蛇神について聞く黒ウサギ。
「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」
先ほどの黒ウサギと同じように胸を張りながら豪快に笑う白夜叉。それを聞いた十六夜は目を光らせて白夜叉に問う。
「へえ? じゃあオマエはあのヘビより強いのか?」
「ふふん、当然だ。私は東側の”
白夜叉が最強の主催者と口走った瞬間、十六夜と同じよう物騒な光を瞳に輝かせた飛鳥と耀が、十六夜と同時に立ち上がる。
「ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私たちのコミュニティは東側で最強のコミュニティということになるのかしら?」
「無論、そうなるのう」
久遠さんがかなり物騒なことを言い、そして白夜叉さんもそれを肯定する。いやな予感がしてきた。
「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」
十六夜たちが闘争心を剥き出しにして白夜叉さんを見る。すると白夜叉さんは高らかに笑いだす。
「抜け目のない童達だ。依頼しておきながら、私にゲームを挑むと?」
「え? ちょ、ちょっと皆様!?」
「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている。おんしは参加せんのか?」
驚き焦っている黒ウサギを片手で制し、黒瓜の方へと目を向ける白夜叉。黒瓜は相変わらずやる気のない瞳に鈍い光を灯しながら答えた。
「やめとくよ。三人に勝負を挑まれてなおも余裕を崩さない、よくある相場じゃこういう人は例外なく強いし。さっきの黒ウサギの焦り方を見るに大手コミュニティの幹部って理由だけでもなさそうだ。おじいちゃんが言ってた、何事も見た目に騙されちゃいけないって」
「ふふ、そうか。――――さておんしら三人にはゲームの前に確認しておく事がある」
「なんだ?」
十六夜が怪訝そうな瞳で問い返すと、白夜叉は背筋が凍るような笑みを浮かべて、袂から”サウザンドアイズ”の旗印である向かい合う二人の女神が描かれた、白いカードのようなものを取り出す。
「おんしらが望むのは”挑戦”か?――――もしくは”
瞬間、視界が爆発的に変化する。視覚が意味をなさず様々な光景が脳裏をよぎる。記憶にない光景がいくつもを廻ったのちに、一つの場所に収束し投げ出される。
「な……!?」
「冷たっ!?」
投げ出されたのは広大な雪原と凍り付いた湖畔、そして何より異常なのは太陽と思しき白い星が
「今一度名乗り直し、問おうかの。私は”白き夜の魔王”――――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは試練への”挑戦”か? それとも対等な”決闘”か?」
魔王・白夜叉。先ほどの背筋が凍るような笑みにとてつもないほどの凄味を感じ、息を飲む黒瓜を含めた四人。
「なるほど白夜に夜叉で白夜叉か。太陽であり鬼神でもあるってか……面白い。さしずめこの場はあんたを表してるってことか?」
やる気のない鈍い輝きしか放っていなかった黒瓜の目が、まるでスイッチを入れたかのように爛々とやる気に輝きだした。
「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」
「これだけの莫大な土地が、ただのゲーム盤……!?」
「如何にも。して、おんしらの返答は? “挑戦”であるならば、手慰み程度に遊んでやる。――――だがしかし“決闘”を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」
「……っ」
飛鳥と耀、そして自信家である十六夜でさえ即答できなかった。白夜叉がいかようなギフトを持っているのかはわからないが、勝ち目がないことだけは一目瞭然だった。しかし自分たちで売った喧嘩を自分から取り下げるのはプライドが邪魔をした。
「気が変わった、手慰み程度に遊んでくれよ」
だが黒瓜は即答した。犬歯を剥き出しにして獰猛な表情で笑う。すると諦めたかのように笑いゆっくりと十六夜が挙手をする。
「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」
「ふむ? それは決闘ではなく、そこの童と同じで試練を受けるという事かの?」
「ああ、これだけのゲーム盤が用意出来るんだからな。アンタには資格がある。――――いいぜ今回は黙って
吐き捨てるように言う十六夜に対して白夜叉は吹き出し腹を抱えて笑い出した。
「く……くく……して、他の童達も同じか?」
「……ええ。私も、試されてあげてもいいわ」
「右に同じ」
ほかの二人も不愉快そうな顔をして返答する。それを見て白夜叉も満足そうに声を上げる。
「も、もう! 黒瓜さんまでなんで喧嘩を売ってるんですか!? ”階層支配者”と新人が喧嘩をその場で売り買いするなんて冗談にしては寒すぎます! それに白夜叉様が魔王だったのは、何千年も前の話じゃないですか!!」
「なんだと? じゃあ元・魔王様ってことなのか?」
「はてさて、どうじゃったかの」
ケラケラと笑い十六夜の質問をはぐらかす。その時、遠くの山から甲高い鳴き声が聞こえた。それは鳥とも、獣とも聞こえる叫び声に反応したのは耀であった。
「何? 今の鳴き声。初めて聞いた」
「ふむ……あやつか。おんしら三人を試すには打って付けかもしれんの」
鳴き声が聞こえた山の方へ白夜叉が手招きをする。すると巨大な獣が翼を広げて滑空し黒瓜たちの前に舞い降りた。
「グリフォン……嘘、本物!?」
耀が感極まったように声を上げる。
「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。”力” ”知恵” ”勇気”の全てを備えた、
ギフトゲームを代表する獣だ」
グリフォンが白夜叉さんの隣へ行き深く頭を下げ、そして俺たちををまっすぐ見る。
「さて、肝心の試練だがの。おんしらとこのグリフォンで”力” ”知恵” ”勇気”の何れかを
比べ合い、背に跨って湖畔を舞う事が出来ればクリア、ということにしようか」
そう言いながら白夜叉は先程のカードを取り出す。すると虚空から”
『ギフトゲーム名 ”鷲獅子の手綱”
・プレイヤー一覧
逆廻 十六夜
久遠 飛鳥
春日部 耀
・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。
・クリア方法 ”力” ”知恵” ”勇気”の何れかでグリフォンに認められる。
・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
”サウンドアイズ”印』
「ちょっと待て、俺の名前が無いぞ」
一通り”契約書類”を呼んだあと黒瓜が不機嫌そうな顔で白夜叉に文句を言う。すると白夜叉はさっきの背筋が凍る笑みを浮かべ、答えた。
「おんしは、私が直々に相手をする。安心せい手加減はしてやるでの」
「了承した、ちなみに理由を聞いても?」
「そうじゃのう……ひとえに言えば面白いからかの。あれだけの力の差を見せつけられておいてなお、遊んでくれとのたまったのだ。それ相応の報酬を用意してやらねば」
「お心遣い痛み入ります、元・魔王様」
と黒瓜と白夜叉が話し終えると、もうすでに挑戦者が決定していたらしい。指先までしっかり伸ばして耀が「私がやる」と言い十六夜たちからもGOサインをもらっていた。
グリフォンもいつの間にか黒瓜たちの目の前から数メートル離れた場所にたたずんでいた。耀は抱いていた三毛猫を降ろして小走りで近寄る。一呼吸置きそして話しかけた。
「え、と……初めまして春日部耀です」
ビクリとグリフォンの体が跳ねる。おそらく春日部さんのギフトがグリフォンにも通じた証しだろう。
「私を貴方の背に乗せ……誇りをかけて勝負しませんか?」
春日部さんの言葉を聞いた瞬間にグリフォンの目に闘志が宿った気がした。グルルル、と威嚇をするような唸り声を上げる。
「貴方が飛んできたあの山脈。あそこを白夜の地平から時計回りに大きく迂回し、この湖畔を終着点と定めます。貴方は強靭な翼と四肢で空を駆け、湖畔までに私を振るい落とせば勝ち。私が背に乗っていられたら私の勝ち。・・・・・・どうかな?」
春日部さんはそのまま勝負の細かい内容を提案し小首を傾げる。するとグリフォンはグルと唸る。
「命を賭けます」
おそらくはグリフォンの誇りと引き換えに何を賭けるのか、問われたのだろう。それを聞いて慌てる久遠さんと黒ウサギ。
「だ、駄目です!」
「か、春日部さん本気なの!?」
「貴方は誇りを賭ける。私は命を賭ける。もし転落して生きていても、私は貴方の晩御飯になります。……それじゃ駄目かな?」
春日部さんの提案にさらに動揺する黒ウサギと久遠さん。それを俺と十六夜がきつめの声で二人を制する。
「本気だろう、冗談であんなこと言ったらあのグリフォンに失礼だろ。それに春日部さんの提案したことだ、俺たちが口を挟んでいい事じゃない」
「ああ、無粋な事はやめとけ」
「でも……」
「大丈夫だよ」
春日部さんはこちらに振り向きニコリを笑って頷く。そしてグリフォンに向き直るとグリフォンが春日部さんが跨がれるように姿勢を落とす。春日部さんは手綱を握りグリフォンの背に跨る。
「準備はよいな?」
白夜叉さんが問いかけると春日部さんは頷く。そして始まる前に何やら口が動いていたが聞き取ることはできなかった。
「よぉぉぉぉぉい、スタート!!」
白夜叉が合図を出した瞬間、グリフォンが旋風を巻き上げて空へと飛び立った。
「すげえな、グリフォンってのは。空を踏みしめて飛んでいやがる」
黒瓜が驚嘆の声を上げている間に、グリフォンがぐんぐんと加速し瞬く間に森林を越えて飛んできた山の陰へと姿を消す。間もなく頂上よりさらに上へと急上昇し、そこからさらに急降下するように速度を上げ、なおも振り落さんと旋回と回転を繰り返し地平ギリギリまで高度を落とす。勢いを落とさぬままスタート地点でありゴール地点でもある湖畔の元へ疾走するグリフォン。そして耀の勝利が確定した瞬間に耀の体が空中へと投げ出された。助けに入ろうとした黒ウサギを十六夜が止める。
「待て! まだ終わってない!」
黙って耀の動きを見ていると真っ逆さまに落ちていた耀の体がを少しずつ整い始め、最後にはまっすぐふわふわと飛翔していた。そのままさっきのグリフォンのように空中を踏みしめて雪原に降り立った。
「やっぱりな。お前のギフトって、他の生き物の特性を手に入れる類だったんだな」
降りてきた春日部さんにみんなが近づき十六夜が春日部さんのギフトの正体を看破した。しかし春日部さんはムスッっとした声音で返答した。
「違う、これは友達になった証。けど、いつから知ってたの?」
「ただの推測。お前黒ウサギと出会った時に”風上に立たれたら分かる”とか言ってたろ。そんな芸当は人間にはできない。だから春日部のギフトは他種とコミュニケーションをとるわけじゃなく、他種のギフトを何らかの形で手に入れたんじゃないか……と推察したんだが、それだけじゃなさそうだな。あの速度で耐えられる生物は地球上にいないだろうし?」
興味津々な十六夜の視線をよけて、駆け寄ってきた三毛猫を抱き寄せる。その向こうで拍手を送る白夜叉と、じっと耀を見つめ唸るグリフォン。
「うん。大事にする」
「いやはや大したものだ。このゲームはおんしの勝利だ。……いろいろと聞いてみたいところではあるが、次はおんしの番だ」
輝く羊皮紙が黒瓜の前に舞い降り、それを受け取る。
『ギフトゲーム名”黒い亀との徒競走”
・プレイヤー一覧
黒瓜 黒継
・クリア条件 山を登り支給された旗を頂上に立てる
・敗北条件 降参か、主催者が先の到達し旗を立てた場合
・禁止事項
飛行系のギフトの使用
参加者、主催者へ直接危害を加える行為
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します
”サウザンドアイズ”印』
”契約書類”を三度四度しっかりと読み込む。そして少々考えると頼みごとをすべく飛鳥の方に近づく。
「久遠さんちょっと頼みごとがあるんだけどいい? 実は……」
頼みごとをこしょこしょと耳打ちすると、予想通りすごく嫌そうな顔をしたが渋々了解してくれる久遠さん。一応理解はしてくれたようだ。また今度何か埋め合わせしないと。
「審判は黒ウサギにしてもらう。よいな?」
白夜叉が黒ウサギに問うと、わかりましたと快諾する。そして白夜叉が柏手を打つと二本の旗が雪原に突き刺さる。大きさはおよそ百五十センチほど、白夜叉の方には”サウザンドアイズ”のシンボルである双女神の旗が、黒瓜の方には無地に黒い時計塔のようなものが描かれた旗が靡く。旗を立てるギフトゲームに旗のない”ノーネーム”ではいささか寂しいのでは? というい白夜叉なりの気遣いなのだろうか。
「ゴールはあの光の根元としよう」
白夜叉が扇子を最も高い山の山頂へ向けるとそこから白い光が柱のようにまっすぐと伸びる、距離にしておおよそ二十キロ程度だろう。明確なゴールが設定されたことにより、”どの山の山頂なんて決まってない”という屁理屈を封じられ、黒瓜はチッと舌打ちする。それを見て白夜叉はフフンと笑う、まるでその程度の事お見通しだと言わんばかりに。お互いが丁度光の柱と一直線になるよう横に並ぶ、そして黒ウサギが黒瓜たちより一歩半前に出て手を上げる。
「ではよーい……」
「ねえ白夜叉?」
小さく白夜叉にだけ聞こえるように飛鳥が声をかけるそして。
「そこを
「な……!?」
「スタート!」
飛鳥のギフトが白夜叉に作用し体を硬直させて表情が変わる。そして黒瓜だけがロケットめいたスピードで走りだし、雪原に刺さった旗を
「黒瓜さん!? 飛行系のギフトは――――」
「違うぞ黒ウサギ。あれは飛行しているわけじゃない。あれは時間を止めた空間を足場にしてその上を走っているだけだ」
禁止されているのは空を飛行するギフトだ、黒瓜が行っているのはあくまで空中に足場を作ってその上を走っているだけでルールには抵触しない。数秒後、白夜叉は飛鳥のギフトの拘束を解き黒瓜によって投げ飛ばされた旗を回収すべく、投げ飛ばされた方へと走り出す。一方黒瓜は、時間を止めた空間を思い切り踏みしめて跳躍する。しかしその跳躍は黒瓜本人が想像したよりも高く飛び上がった。
おかしい、トラ公の腕を掴んだ時もそうだが、前の世界にいた時よりも肉体のスペックが上昇している。前の世界なら跳べてせいぜい五メートル近くが限界だったのに、今ではおよそ三倍近く跳躍力が上がっている。いや、そんなこと考えている余裕はない。そろそろ投げた旗を白夜叉さんが回収する頃だろう。
現在森林区間に入って半分ほど経過した場所、距離にしておよそ八キロ地点、さらに黒瓜はスピードを上げさらに高く飛び上がる。その瞬間背筋がゾクリと粟立つ、とっさに世界の時間を停止させ背後を見ると額に青筋を浮かべ、まさに悪鬼のような形相で黒瓜と同じよう空に足場を作りその上を走り、こちらを猛追する白夜叉の姿が。白夜叉の姿を視認した瞬間、黒瓜の背中から多量の冷汗が噴き出した。
やばい、勝つためとはいえやり過ぎたと黒瓜は歯噛みした。もう出し惜しみしている場合ではない、このままでのスピードでは間違いなく追い抜かれる。世界を時間を四分の一に減速し、自らの体とその周りの時間を四倍に加速する。その瞬間世界の停止が解除され白夜叉の猛追が始まる。通常時間のおよそ十六倍で走っているにも関わらずじりじりと距離が詰まりお互いの間はおよそだが四百メートルを切っている、ゴールまで残りおよそ三分の一程度。このスピードなら二分も経たずに勝敗は決定する、だがここまで白夜叉が何もアクションを起こしてこないのが黒瓜にとって気がかりだった。
単純にアクションを起こそうにも、追いつかない限り行動を起こせない。という可能性も捨てきれない、旗を投げ山頂に立てるという方法もありそうだが、それを弾かれて別の場所に飛んで行ってしまったらかなりのロスになる、それどころか最悪敗北までありうるからアイデアとしてはまだあまい。もしかしたらゴール地点に旗を立てる直前、もしくはその瞬間に山の頂上もしくは山自体を吹っ飛ばす、なんて暴挙に出るのも最終手段で思い付きはしたが流石にそんなことまではしてこないだろう。と思いたい。
ゴール地点までもう目と鼻の先、数秒もしたら勝負がつく。白夜叉との距離はおおよそ百メートル程度、最後の足場を思い切り跳躍した時、フッと嫌な予感が脳裏をよぎり振り返ると右半身を半歩後ろに下げ右腕を腰だめに構え弓のように引き絞る白夜叉の姿が。その口元はニヤリと口角を吊り上げ笑って、否、嗤っていた。
吹っ飛ばす気だ、ゴール地点ごと山脈を。やると言ったらやる凄味を感じた。あくまで黒瓜に触れることなく、山脈を吹っ飛ばそうとしているため、おそらくではあるが禁止事項に抵触しない。なぜなら、
「む、ちとやりすぎたかの?」
土埃が完全に晴れると山脈の大部分が削り取られ、大きくごっそりと抉られていた。しかし光の柱とその根元は不自然なほど、綺麗に残っておりそこには地面に手をつき旗を支えている黒瓜と無地に黒い時計塔が描かれた旗が悠然と靡いていた。こうして白夜叉との追いかけっこは黒瓜の勝利に終わった。