問題児たちが異世界から来るようですよ?-時間神の恩恵を持つ男-   作:大禍時悪

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第四章-問題児たち、ノーネームの惨状を知るとのこと-

 

「して、おんしはゲームの始まる前なら、ルールに縛られないと踏んだということか?」

 

「はい、すいません」

 

 某声優の真似をする某声優の真似をしながら平謝りをする黒瓜。そんな彼は今、雪の上で正座させられている。あの追いかけっこの直後、旗を立てた場所に倒れて動けなくなってしまった黒瓜を、白夜叉が担いで元の場所に戻ってきた後雪の上に強制的に正座させたのだ。

 

「しっかしよくもまあこんな恥も外聞もない方法を思いつくものだ」

 

「いや~ゲームが始まる前の不調や準備不足はあくまで参加者(プレイヤー)主催者(ホスト)のせいですし」

 

「ああん?」

 

「はい、すみません」

 

 言い訳を言った瞬間にドスの利いた声で白夜叉に恫喝され、また平謝りをする。

 

「まあよい。あれがルール違反ならゲームが始まった時点で、おんしが敗北になるはずだろうしの。しかし最後のあれはなんだ? 山脈を丸ごと吹っ飛ばすつもりで放ったのだが、おんしが居たところだけがなんともなかったのだ?」

 

「あれは単純にあの場所の空間の時間を止めただけですよ。時間を止めた空間は外部からの干渉を一切遮断しますから」

 

 たはは~と笑いながら、あっけらかんととんでもない事を言う黒瓜。

 

「で、俺はいつまで正座してなきゃいけないの?」

 

「ところで、聞きたかったのだが、おんしのギフトは先天性か?」

 

 黒瓜の質問を無視して、白夜叉が耀の方へと向き直り少し前の耀のギフトについて聞く。そのあと木彫りのようなペンダントを見せて何やら話していたが、系統樹だとか輪廻の流転だとかさっぱり訳が分からず、いつの間にかいろいろと話が進んでいた。

 

「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだがの」

 

 いつの間にか当初の目的のギフト鑑定の話になっていた、白夜叉を見ると和服の裾で困ったように口元を隠していた。

 

「どれどれ……ふむふむ……四人とも素養が高いのはわかる。だがこれだけでは何とも言えん。おんしらは自分のギフトの力をどれくらい把握している?」

 

「企業秘密」

「右に同じ」

「以下同文」

「一応六割がたは」

 

「うおおおおい? 仮にも対戦相手にギフトを教えるのが嫌なのは分かるが、それでは話が進まんだろうに。後おんしはなんで急に素直になっておるのだ」

 

「おじいちゃんが目上の人の言うことは素直に聞きなさいって言ってたものですから」

 

「おんしの中でのおじいちゃんはどれだけの優先度を持っておるのだ」

 

 ん~一番かな~と適当に答えてケラケラと笑う黒瓜。

 

「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札張られるのは趣味じゃない」

 

 きっぱりと鑑定を嫌がる十六夜とそれに同意するように頷くほか二人。それを聞いてぐぬぬ唸り困り果てて頭を掻く白夜叉は突如ひらめいたかのようにポンと手をたたいた。

 

「よかろう、では主催者(ホスト)として、星霊の端くれとしてちょいと贅沢な代物だが試練をクリアしたおんしらに”恩恵(ギフト)”を与える。コミュニティ復興の前祝いとしてはちょうどいいだろう」

 

 白夜叉がパンパンと柏手を打つ。すると四人の前に光り輝くカードが現れそれぞれが手に取ると別々の色へと染まる。そのカードには各々の名前と自らに宿るギフトが記されていた。

 

 十六夜のコバルトブルーのカードには”正体不明(コード・アンノウン)”。

 

 飛鳥のワインレッドのカードには”威光(いこう)”。

 

 耀のパールエメラルドのカードには”生命の目録(ゲノム・ツリー)””ノーフォーマー”。

 

 黒瓜の下半分が純白で上半分が漆黒のカードには”時間神の世界””ホワイト・ブラッド””恩師トノ誓イ(オジイチャントノヤクソク)”。

 

 全員が全員しげしげとカードを見ていると黒ウサギがハイテンションで驚く。

 

「ギフトカード!」

 

「お中元?」

「お歳暮?」

「お年玉?」

「商品券? それとも相手のライフポイントを三千回復してくれるの?」

 

「違います! なんですかライフポイントって!? それに息が合いすぎです!? このギフトカードは顕現しているギフトを収納できていつでも取り出せる超高価なカードなんですよ!」

 

「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」

 

「ドラクエ的にいえば大きな袋みたいなもんか」

 

「それならシレン的にいえば保存の壺だな」

 

「だからなんで聞き流すんですか!? そうです超素敵アイテムなんです! あとどらくえ? がなんだかわかりませんが袋や壺なんかと一緒にしないでください!」

 

「本来ならコミュニティの名前と旗印も記されるのだが……おんしらは”ノーネーム”だからの。少々味気ない絵になってしまっているが、文句は黒ウサギに言ってくれ」

 

「まあいいんじゃない? 俺たちがコミュニティ復興を達成した暁には、ここに旗印と名前が刻まれるんだ。そう思うとその瞬間が楽しみで仕方ない」

 

 とニコニコしながらカードを眺める黒瓜。すると恩師トノ誓イ(オジイチャントノヤクソク)と書かれた文字が次第に薄れ師トノ誓(ヤクソク)までに減ってしまった。黒瓜は慌てて白夜叉に詰め寄る。

 

「白夜叉さん!? 白夜叉=サン! 大変!? ギフトネームの文字が一部消えたんだけど!?」

 

「なんじゃと?」

 

 怪訝そうな顔で黒瓜のギフトカードを覗き込む。その際黒瓜はこれが消えたと指を指して示す。

 

「ふむふむ。これは制約系のギフトだの」

 

「制約系?」

 

 黒瓜は軽く首を傾げて白夜叉に問う。

 

「うむ、その名の通り与えた者の力や霊格を抑えたり封印したりするギフトのことだ。見たところ神格を得ていたおんしの力なり霊格なりを、こちらに来る前の世界にある程度適合させるために与えられたものだ。それを約束という形でおんしに制約をかけたのだろう、少しでも生きやすいようにとな」

 

「そっかやっぱりおじいちゃんの仕業だったのか。文字が消えたってことはその制約が消えつつあるってこと?」

 

「どちらかといえば内に秘められていた力を、少しずつ引き出せるようになっておるようだ。おそらくこのギフトの文字が完全に消えてしまえば、おんしの本来の力と霊格を扱えるようになるはずだ。しかしおんしの言うおじいちゃんとは何者なのだ?」

 

「さぁ? 近所でちょっと変わり者で、ほら吹きが有名なおじいちゃんだよ。小さな一軒家に住んでて力に目覚めた俺にいろいろ教えてくれた人。力のある人間はかくあるべしってね、他にも武勇伝とか話してくれてたなあ……今思うとおじいちゃんって箱庭の関係者だったんだね」

 

 おじいちゃんのことを思い出し一度クスリと笑う。決して後ろで十六夜が黒ウサギを追いかけ回して、水樹を収納したギフトカードから水を出して黒ウサギを濡れネズミならぬ濡れウサギにしようとしている光景に笑ったわけではない。

 

 その後、ギフトカードの正式名称や十六夜のギフトがある意味特殊なものであることを知り、ようやく白夜の雪原から解放されてサウザンドアイズの支店から出る。もちろんロビーに出てから店の暖簾を潜って外に出るまで女性店員さんにずっと睨まれていた。

 

「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい」

 

「あら、駄目よ春日部さん。次に挑むときは対等な条件で挑むのだもの」

 

「ああ、吐いた唾を飲み込むなんて、恰好付かねえからな次は渾身の大舞台で挑むぜ」

 

「それじゃ、次の挑戦は俺も混ぜてもらおうかな、白夜叉さんとのゲームは楽しかったし……死ぬかと思ったけど」

 

「よかろう、楽しみにしておけ。……ところで」

 

 白夜叉の表情がおちゃらけた幼女の顔から真剣な表情に変わる。

 

「改めて聞かせてくれ。おんしらは自分たちのコミュニティがどういう状況であるか、はっきり理解しているか?」

 

「ああ、名前とか旗の話か? それなら聞いたぜ」

 

「もちろんそのために旧ノーネームを下した魔王と戦わなければならないことも、ね」

 

「では、おんしらはそれを理解した上で、黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」

 

「ええそうよ。打倒魔王なんてカッコいいじゃない」

 

 飛鳥はフフンっと胸を張って答えるその解答には十六夜も、耀も、黒瓜も同調している。その様子に白夜叉は軽くため息を漏らす。

 

「”カッコいい”で済む話ではないのだがの……全く、若さゆえなのか。無謀というか、勇敢というか。まあ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰ればわかるだろ。それでも魔王と戦う事を望むというなら止めんが………そこの娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ」

 

 白夜叉の助言という名の死の宣告を受け、飛鳥も耀も何か反論しようと言葉を探すが白夜叉の威圧感がそれを許さない。そして今度は黒瓜の方を見る。

 

「おんしに一つ聞いておきたいことがある。おんしは時間の遡行ができるといったな?」

 

「うん、言った」

 

「ならば、()()()()()()()()()()()ことは可能か?」

 

「可能だ、だけどそんなことはしない。おじいちゃんから絶対にやっちゃいけないって念押しされてる」

 

「そうだ、それでいい。その言葉を忘れるな? この際だから言っておく。世界の時間を戻してしまったらおんしは、おんしと同じ時間を司る神々に魔王の烙印を押される。主催者権限(ホストマスター)を手にすることはできるが、魔王としていずれ何某かに討たれる事となる。そうならぬようゆめゆめ忘れるでないぞ?」

 

「当然、わかっている。魔王になったのなら、ノーネームの彼らにでもゲームを吹っ掛けて華々しく散ってやるさ」

 

「ふふ、何かあればいつでも遊びに来るがよい、私は三三四五外門に本拠を構えておるでの」

 

 わかった、その時はよろしく頼む、と礼を言いサウザンドアイズの支店を後にした。

 

 

 

 

「これはひどい」

 

 サウザンドアイズの支店を後にした黒瓜たち問題児一行は”ノーネーム”本拠にある居住区に足を運んでいた。その光景は紛れもなく廃墟だ、しかも明らかに自然で不自然だった。まるでこの居住区だけが外界から切り離されているかのように、時間の進みが明らかにおかしかった。十六夜は一つの廃屋に近づき、木材で作られた囲いの破片を拾い上げる。するとボロボロと乾いた音を立てて崩れ落ちる。十六夜は乾いた笑いを浮かべて黒ウサギに問う。

 

「おい、黒ウサギ。魔王との戦いがあったのは――――()()()()のことだ?」

 

 黒ウサギはその質問に顔を伏せ静かに答える。

 

「僅か三年前にございます」

 

「おかしいな。この寂れ方はどう見ても戦いによって発生した寂れ方じゃない。どれだけ少なく見積もっても三百年近くは放置されて自然風化したような寂れ方だ」

 

 黒ウサギの回答にしかめっ面で答える黒瓜。少し進むとベランダに放置されたティーセットを見て飛鳥が悲痛な感想を言う。

 

「まるで、生活していた人が突然姿を消したみたいね」

 

「……生き物の気配が全くない。整備されていない人家なのに獣が寄り付かないなんて」

 

 耀もまた悲痛な感想を述べる。黒ウサギは廃屋から目を背けて黒瓜たちに向き直る。

 

「………魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ………コミュニティから、箱庭から去って行きました」

 

「なあ、黒継。この廃墟を元に戻すのにどれだけ時間がかかる?」

 

 十六夜は黒瓜に問う。少し顎に手を当て考え込み、やがて答える。

 

「そうだな今の力でいけば、不眠不休で三年と半年ってところか。土壌だけなら一年と少しだな。しかし十六夜よ、なぜそんなことを聞く? それは興味本位か? それとも……」

 

 黒瓜は真剣な表情に変えて十六夜に問う。しかし十六夜はいつもと変わぬ楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「魔王に対する一種の宣戦布告か、か? 反抗意識は潰えていないと誇示するってか? いいなそれ。もっともその魔王様が今もつぶしたコミュニティを監視してるとは思わないが」

 

「そうだな。遊び終えて飽きたおもちゃは、物置の奥底にしまわれるのが世の常だしな」

 

 黒瓜も十六夜の意見に同意した。しかもその眼は十六夜と同様で、爛々と輝かせ今までにないほどのやる気を灯した目であった。

 

 

 

 

 ところ変わって”ノーネーム”のある程度整備された居住区画、水門前。黒ウサギの言っていた。貯水池に水樹の苗を設置するために貯水池に足運んだ。そこにはサウザンドアイズに行く前に分かれたジンとブラシやら箒やらを持った子供たちが水路をきれいに掃除していた。

 

「あ、みなさん水路と貯水池の準備はできてますよ」

 

 ジンが額の汗を拭い子供達とともに黒ウサギ達の元に歩いてくる。皆ワイワイガヤガヤと同時に話しかけてくる。

 

「黒ウサのねーちゃんお帰り!」

「眠たいけどお掃除手伝ったよ!」

「ねえねえ、新しい人達って誰!?」

「強いの!? カッコいい!?」

 

「YES! とても強くて可愛い人達ですよ! 皆に紹介するから一列に並んでくださいね」

 

 黒ウサギの一言で一列に迅速に並ぶ子供達、意外に統率されている動きであった。数はおおよそ二十人前後、中には猫耳や狐耳の少年少女もいた。もう一度言おう。猫耳や狐耳の少年少女もいた。黒瓜は目に入った瞬間にモフりたいという衝動に駆られるが少し我慢する。

 

「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、黒瓜黒継さんです。皆も知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるゲームプレイヤーです。ギフトゲームに参加できない者達はプレイヤーの私生活を支え、励まし、時には身を粉にして尽くさなければなりません」

 

「あら、そんなのは必要ないわよ。もっとフランクにしてくれても」

 

「駄目です。それでは組織は成り立ちません」

 

 きっぱりと黒ウサギは断言する。おそらくは今まで黒ウサギ一人でやりくりしていたが故の厳しさなのだろう。

 

「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で初めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭の世界で生きてく以上、避けることができない掟。子供のうちから甘やかせば子供の将来のためになりません」

 

「……そう」

 

「まあ、子供ってのはそういうもんさ。甘やかしすぎたり厳しすぎたりしたら俺みたいなひねくれ者が出来上がっちまうぞ」

 

 黒ウサギも十六夜も飛鳥も耀も黒瓜の俺みたいなひねくれ者といった瞬間に、黒瓜のように育った子供達を思い浮かべ背中にゾワリと悪寒が走ったのは言うまでもない。

 

「ここにいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから、何か用事を言いつける時はこの子達を使ってくださいな。みんなも、それでいいですね?」

 

「「「「「よろしくお願いします!」」」」」

 

 二十人前後の子供達が同時に一斉に声を張り上げて叫ぶ。

 

「ハハ、元気がいいじゃねえか」

 

「そ、そうね」

 

「ハッハッハよろしくなーとりあえずモフらせろー」

 

 黒瓜が適当になお投げ槍に言うと猫耳、狐耳の少年少女がわーっと笑いながら散り散りにばらけて逃げる。それを軽く追いかける黒瓜。それを傍からから見る十六夜たち。

 

「これから子供関係は黒瓜に任せるか?」

 

「そうね、それもいいわね」

 

「……うん」

 

 黒瓜の聞いていないところで担当のようなものが決まっている瞬間でもあった。

 

 その後黒瓜がめんどくさくなって諦めた後、狐耳の少女のリリが黒瓜の元に歩いてきたので軽く名前を聞いたのちに、頭と尻尾を撫でて満足した。水樹を台座に設置した時に、屋敷への門を開いた十六夜が勢いよく流れてきた水にさらされて、今日一日で三度目のずぶ濡れになった。もともと台座には龍の瞳とやらが置いてあったそうで、十六夜も黒瓜も欲しがり黒ウサギにどこにあるのかと問い詰めたが適当にはぐらかされてしまった。

 

 屋敷についたころにはもう夜中になってしまった。どこに泊まるのかと質問したところ、コミュニティの伝統としてギフトゲームに参加できる人に序列を与えて、上の者から最上階に住むそうなのだそうだ。飛鳥が屋敷の脇に建つ建物のことを聞くと子供たちが泊まっている館だそうだ、それを聞いたとき十六夜が悪い笑顔を浮かべた。

 

「そういや、黒継の立場はどうなるんだ」

 

「黒瓜さんの立場、でございますか?」

 

 黒ウサギが十六夜にオウム返しをする。すると飛鳥が細かい補足をする。

 

「そういえば、黒瓜君は”ノーネーム”に加入したいって意思があるだけで、まだ正式に加入したわけではなかったわね」

 

「ああ、それなら一時的に宿を借りてるって扱いでいい」

 

「なら黒継は母屋じゃなくて別館な」

 

 と十六夜はニヤッっと笑って親指で別館を指しながら言った。それに何故か黒ウサギが猛反論する。

 

「”別館な”じゃありません! ノーネームのためにフォレス・ガロとのギフトゲームのプレイヤーになってくれた黒瓜さんに別「いいぞ別に」いいんですか!?」

 

「かまわんかまわん。だけど正式に加入するときになったら、ちゃんと母屋に住ませろよ?」

 

 十六夜はもちろんだとも、と言いながら黒ウサギ達とともに母屋の方に入って行き、黒瓜は別館の方に向かった。どうせ黒ウサギ達女性陣が先に風呂に入るであろうと思ったからだ、だからせめて先に別館に行ってとりあえず眠れそうな場所を確保しておこうと目論んだ。

 

 別館のロビーにある窓から朝日が直接当たらない場所のソファーを寝床として確保した後、少しくつろぎ外に出る。さっき別館に入る少し前から何者かの視線を感じたからだ。別館の裏手に回ると退屈そうにしゃがみこんでいる十六夜を発見した。

 

「よう、どうした? 星でも見に外に出てきたのか?」

 

「ん? 黒継か。お前も気づいたのか」

 

(ひと)がせっかく気づいてない風を装って、今こっち見てる連中を出やすくしてやったのに。配慮の読めないやつだな」

 

「ヤハハ何言ってやがる。気づいてない風とか言って、視線のある方をガンガン警戒してんじゃねえか」

 

「出会った時に行ったはずだぞ? いじめられっ子は視線に敏感なんだ。誰かに見られてると思うとそれが何であろうと警戒しちゃうんだよ。まあいいや、そろそろ出てきてくれよ。こちとら結構長い間起きてて眠たいんだよ」

 

 十六夜との会話を打ち切り、黒瓜は視線の方に声をかける。しかし視線の主は揺らぐことなく反応もない。はぁ……とため息をついて足元にあるピンポン玉くらいの大きさの石を拾い上げ、振りかぶり見事なオーバースローで投擲した。

 

 その石は音の壁を軽々と突き抜けて第一宇宙速度に到達し、木々を薙ぎ倒し地面を抉り轟音を立てて視線の主たちを吹き飛ばし、抉られた地面の上にバタリバタリと落ちてきた。

 

「なんですか今のは!?」

 

「あ、ごめん力加減を間違えた。あと無礼なお客様への粗茶みたいなものを提供してあげてた」

 

 別館から慌てたジンが出てきて黒瓜達に問い、黒瓜がさらりと答える。

 

「ふーん、ただの人じゃないみたいだな」

 

 黒瓜は地面に倒れている人影を見て感想を述べた。そのうちの何人かがフラフラと立ち上がり黒瓜の方を見る。

 

「な、なんという力だ……蛇神を倒したという噂は本当だったのか!?」

 

「いや、やったの俺じゃねえから。つか箱庭って噂が広まんの早いのな、数時間前だろ? 蛇神さんぶっ飛ばしたの」

 

 黒瓜はこいつこいつと十六夜を指差しながら無礼なお客様の元へと歩いていく。先ほどのただの人じゃないといった通り、犬の耳が生えていたり、長い体毛と爪を持っていたりと様々だった。十六夜は彼らを興味深く見ていた。

 

「我々は人をベースにさまざまな”獣”のギフトを持つ者。しかしギフトの格が低いため、このような半端な変幻しかできないのだ」

 

「へえ……で、何か話をしたくて出てこなかったんだろ? ほれ、さっさと話せ」

 

 話の主導権を握りにこやかに話しかける十六夜、無礼なお客様方は俯き沈黙する。そして幾何かの間の後に目配せをした後、意を決して頭を下げた。

 

「恥を忍んで頼む! 我々の……いえ、魔王の傘下であるコミュニティ”フォレス・ガロ”を、完膚なきまでに叩きつぶしてはいただけないでしょうか!!」

 

「嫌だね」

「嫌だよ」

 

 十六夜も黒瓜も同時に一蹴する。お客様方ことフォレス・ガロのメンバーたちは、絶句しその場にいたジンもあっけにとられて軽く放心していた。十六夜は先ほどのにこやかな顔から真逆のつまらなそうな顔になり背を向ける。黒瓜は箱庭に来てから初めてムスッとした不愉快そうな表情を見せる。

 

「どうせお前らもガルドとかいうのに人質とられてる奴らだろ? 命令されてガキどもを拉致しに来たんだろ」

 

「は、はい。まさかそこまで……」

 

「あ? その人質全員あのトラ公の部下の胃袋ん中だからもういないぞ」

 

「なっ!?」

 

「黒瓜さん!?」

 

 ジンが驚き目をむいて黒瓜を見る。ジンの目には他の問題児達(ひとたち)に比べて比較的良識人であると認識していた黒瓜が、何の躊躇もなく無残な真実を暴露した。今までの行動や言動を見ても、少なくとももう少しオブラートに包んだ言い方をする人だとジンは認識していた。

 

「なんだ? 秘密を暴露(バラ)しちゃいけないのはゲームに負けたらだ。ゲーム開始前の秘密の漏洩は何にも触れられてないはずだろ。それにもう少し言い方を考えろ。とでも言いたそうだな。嫌だね元の原因がガルドにあるにせよ、人質を攫って同じ境遇のやつを増やしてきたのはこいつらだろう? それならこいつらもガルドと同罪だ」

 

 ギロリとジンを睨む黒瓜。箱庭に来て黒ウサギを睨みつけても怖い顔と判別されなかった黒瓜の顔が、睨むだけにジンやフォレス・ガロのメンバーさえも怯ませるほどの形相になり、今までの温和で穏やかな黒瓜の言動とは百八十度変わって暴言が混じり口調が荒々しくなる。

 

「それに明日、ゲームをする相手のメンバーに”自分のコミュを潰してくれ”なんて言われて、はいそうですかと信じると思ってるのか? 思う訳ねえだろうが。それにテメエらもテメエらだ、あのクソ外道が人質を残しておくと思ってんのか? そもそも人質とって脅迫するような奴が素直にを人質を返してくれるわけねえだろうが、ちっとは考えろ」

 

 クソがと吐き捨てて舌打ち交じりに息をつく。フォレス・ガロのメンバー達は全員項垂れる。黒瓜に指摘されたこともあるが人質がもうこの世にいないことのショックは計り知れない。

 

 その時、十六夜が妙にいい笑顔でフォレス・ガロのメンバーの方へと歩みより、やさしく肩を叩いた。

 

「お前らは”フォレス・ガロ”のガルドが憎いか? 叩き潰してほしいか?」

 

「あ、当たり前だ……だがあいつは魔王の配下だ。ギフトの格もはるかに上。ゲームを挑んでも勝てるわけがない……!」

 

 チッと舌打ちをして文句を言おうとした黒瓜を十六夜が片手で少し待てと制する。少しムッとしながらも何か策があるのだろうと黒瓜は黙って従う。

 

「それにそんなことをして、もし魔王に目をつけられたら……」

 

「その”魔王”を倒すコミュニティがあるとしたら?」

 

 黒瓜以外の全員がえ? という間抜けな声とともに顔を上げて十六夜を見る。そして十六夜はジンを引き寄せる。

 

「このジン坊ちゃんが、魔王を潰すためのコミュニティを作るといってるんだ」

 

 この瞬間、黒瓜は十六夜の考えたこと、実行しようとしていることが大体理解できた。だから十六夜の横にいるジンの隣に立つ。十六夜が黒瓜を見てアイコンタクトを送ってきた。御チビの口をふさげ、と。素早くジンの口を塞ぎ、なおかつ自分の手の周りの時間を止めジンの出す声を完全に遮断する。

 

「人質の件は残念だった! だが安心していい。明日ジン=ラッセル率いるメンバーがお前たちの仇を! 無念を晴らしてくれる! その後のことも心配しなくてもいい! なぜなら俺達のジン=ラッセルが”魔王”と倒すために立ち上がったのだから!!」

 

 十六夜は演説をするように大仰に語る。そしてその演説に希望を見るフォレス・ガロのメンバー達。黒瓜が指摘した少しは他人を疑えと言ったのをもう忘れている。

 

「さぁ! コミュニティへ帰り仲間たちや仲間のコミュニティに伝えるんだ! 俺達のジン=ラッセルが”魔王”を倒してくれると!!」

 

「わかった!! 明日は頑張ってくれ! ジン坊ちゃん!」

 

 もごもごとジンが叫んでいるがジンの発した声はフォレス・ガロのメンバー達どころか十六夜にすら届くことなく、あっという間いなくなり少し前までの静寂が戻った。

 

 

 

 

「どういうつもりですか!?」

 

 本拠の最上階にある大広間に、十六夜と黒瓜を引っ張って連れてきたジンは開口一番に怒鳴った。

 

「”打倒魔王”が”打倒全ての魔王とその関係者”なっただけだろ。”魔王にお困りの方、ジン=ラッセルまでご連絡ください”っとキャッチフレーズはこんな感じか?」

 

「うん、いい感じじゃないか? 少しインパクトが足りないが、シンプルでいい」

 

「全然笑えませんし笑い事じゃありません! コミュニティの入り口を見て魔王の力を理解したでしょう!?」

 

「勿論。あんな面白そうな力を持った奴とゲームで戦えるなんて最高じゃねえか」

 

「面白いかはさておき、魔王打倒を掲げるんだ多少危険な橋を渡ることになっても、実行しておきたい作戦ではある」

 

 黒瓜はおそらく十六夜が思い付いたであろう考えを作戦として口に出す。

 

「作戦……ですか?」

 

「ああ。先に聞いておくが御チビは俺達を呼び出して、どうやって戦うつもりだ? コミュニティの廃墟や白夜叉みたいな力を持っているのが、魔王なんだよな?」

 

 十六夜が問い、少しジンが考え込みぽつりぽつりと方針を答える。

 

「まず……水源を確保するつもりでした。水神クラスは無理でも水を確保する方法はありました。これに関しては十六夜さんが、想像以上の成果を上げてくれたのは素直に感謝しています」

 

「おう、感謝しつくせ」

 

 笑う十六夜を無視して続けるジン。

 

「ギフトゲームを堅実にクリアしていけばコミュニティは必ず強くなります。しかもこれだけ才有る方々が揃えば……どんなギフトゲームにも対抗できたはず」

 

「期待一杯、胸一杯だったってわけか」

 

「まあ、堅実な手ではあるな。ところでジン君」

 

「はい?」

 

「君はその手を()()()続けるつもりだい?」

 

「……え?」

 

 黒瓜の質問に呆気にとられるジン。そのまま続ける黒瓜。

 

「確かに悪く無い方針ではある、だが相手も魔王である前に一つのコミュニティでもあるわけだ。俺達がギフトゲームをクリアしている最中、その魔王も勢力を広げ力をつけていくはずだ。ともなれば追いつくことはほぼ不可能に近いだろう。更に言えば強力なギフト以上に俺達に足りないものがあるそれは……」

 

「人材だ、俺達には圧倒的に人材が足りていない。ましてや相手が先代を潰した魔王なんだ、必然的に先代を超えることになる。そのためには今以上に人材が必要だ、だが名も旗も無い俺たちが売り出せるものと言ったら……もうリーダの名前しかないよな?」

 

 黒瓜の言葉を引き継ぎ、その続きを十六夜が答える。

 

「僕を担ぎ上げて、コミュニティの存在をアピールするってことですか?」

 

「そう。それに俺たちが”ノーネーム(その他大勢)”の扱いでも、リーダーの名の知れた”ノーネーム”つまりは”ジン=ラッセルが率いるノーネーム”であれば、それは名や旗印にも匹敵するレベルになりうるわけだ」

 

「だがそれだけじゃインパクトが足りない。だから”打倒魔王”を掲げたジン=ラッセルという少年が、一度でも魔王やその一味に勝利したという事実があれば、魔王だけじゃなく御チビ達と同じ目に合い同じく”打倒魔王”を胸に秘めた連中にも伝わるはずだ」

 

「まあ、その同じ目標を持つ人たちが俺達に賛同して、手を貸してくれるかどうかは別問題なんだけどね。それに俺も含め歩兵()がたくさんいるに越したことはないけど、十六夜のお眼鏡にかなうかどうか……」

 

()()()とまでは言わねえよ。せめて俺の()()()()か黒継と同等ぐらいだ」

 

 ヤハハとケラケラ笑う十六夜。その十六夜をジンは見つめ直し改めて舌を巻く。あの短時間でここまでの策を思い付き、筋の通っている。だがしかしそれに賛成するには大きな不安要素があった。

 

「わかりました。ですがこの作戦を受けるには一つ条件があります。今度開かれる”サウザンドアイズ”のゲームに十六夜さんと黒瓜さんで参加してもらいます」

 

「なんだ? 俺に力を見せろってか?」

 

「俺は別に構わないんだけど、実力なら明日のゲームでわかるんじゃないのかな?」

 

「箱庭には、単独ではクリアできないゲームが多々あります、なので黒瓜さんには仮にそのゲームに当たってしまった場合のサポートをしてもらいたいんです。もちろん単独でクリア可能なゲームなら、十六夜さん一人で攻略に臨んでいただきます」

 

 そして少し間を置き付け足すようにジンが口を開く。

 

「そしてもう一つ、理由があります。そのゲームには僕らが取り戻さなければならない仲間が出品されます。その仲間は、十六夜さんや黒瓜さんのお眼鏡にかなう元・魔王の仲間です」

 

「いいな。その元・魔王の仲間が取り戻せれば、触れ込みに真実味が増す。そしてその魔王が所属していたコミュニティすら滅ぼせる、魔王もいると」

 

「とにかく俺達はそのゲームで元・魔王様の仲間を取り戻せばいいんだな?」

 

「はい。それができれは対魔王の準備も可能になります、十六夜さんたちの作戦も支持します。ですから黒ウサギには内密に」

 

 十六夜はあいよ、と軽く返事をして大広間から出て行こうとする、そして扉を開けたあたりで振り返り。

 

「あ、そうだ。明日のゲーム、負けたら黒継連れてコミュニティ抜けるから」

 

「え?」

 

 十六夜の爆弾発言にジンは本日三度目の、あいた口が塞がらない状態になっている間にボソリとつぶやく。

 

「なんで俺も連れて行かれるんだよ」

 


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