召喚されたら使い魔だったので魔法を調べて帰ります 作:魔術馬鹿
シエスタの家には、祖母の家系に伝わる剣術があった。
しかしこの世界において、そんなものを鍛える平民など極少数。メイジ殺しと呼ばれる剣士などはいるが、大抵の平民は剣でメイジに勝てると思わないからだ。
シエスタの家の剣術を記された書も同様の理由で埃を被っていた。ただ祖父母の言葉に従い文字を覚えさせていた子供に見せていたが。
そして、剣に興味を持ったのは男ではなく、女のシエスタ。記された剣術を覚え、近隣のオーク鬼、時折現れる貴族崩れの盗賊メイジ、果ては迷い竜すら斬り伏せた彼女は、正真正銘トリステイン最強の女剣士だ。
「くっ!!」
フーケは慌てて石の槍を生み出す。だが、遅い。全て斬られる。あんな実用性のない儀礼用の剣で。
一瞬で接近され、咄嗟に鉄を錬金できたのは最早反射に近い。半分ほど鉄が切られ、吹き飛ばされるが。
盗賊業で何度かメイジ殺しに出会ったことはある。だが、その誰とも格が違う。このままでは、斬られる!
さて、場所は代わり宝物庫。フーケが狙ったお宝は、
一つは破壊の杖。そしてもう一つは、魔人の棺。
実は、フーケは少し前から学院に潜入していた。何度か宝物庫に入ったこともある。もちろん一人ではなかったが………。それでも片付けのフリをして盗むに値する獲物を物色できたし、盗みやすくする細工をすることも出来た。
ゴーレムが壁を叩く衝撃で、それが倒れるのはある意味必然だったのかもしれない。巻かれていた鎖は長い年月により劣化していた。倒れた衝撃が決め手となり、砕ける。
「!?」
フーケの首に剣の腹を当て気絶させようとしたシエスタだったが、突如塔の一部が吹き飛んだ。場所は、宝物庫。宝がバラバラと落ちてくる。
「くっ!」
これ幸いと、フーケは地面を泥に変えシエスタの態勢を崩させかける。落ちてくる宝物の中に目当てのものを見つけ、離脱する。
「にが………!」
「ふむ、封印を解くきぅかけは貴様だな?」
すぐさま追おうとしたシエスタだったが、突如割り込む影。
「礼をしよう。殺すのは、千日後だ」
人の形に似た影は、拳を振るう。咄嗟に防御したシエスタだったが吹き飛ばされた。良くわからないが、逃走を手伝ってくれるようだ。フーケはその隙に逃げる。
「クク、クックックッ! クァハハハハハ! 漸く、漸く封印が解けたぞ!」
それは人のような形に、獣の如き体毛。獅子のような鬣を持つ異形はルイズ、キュルケ、タバサを見てにたりと笑う。
「あの男の守ろうとしていたマギ族か………皆殺しだ!!」
「っ!!」
シエスタは咄嗟に首を切る。だが、感覚が妙だ。生物の首を切った感触ではない。これは、土嚢を斬ったような………。
「クヒヒ!」
切り口からは血の代わりに砂埃が吹き出し、首がザラリと崩れ体に集まり頭を形作る。
「無駄だ無駄だ。我が砂の体に剣など通じぬ………」
と、炎が襲う。放ったのはキュルケだ。
「なら、魔法ならどうかしら?」
「愚かな、魔人に魔法など効かぬ」
ケラケラと嘲笑う異形。魔人………そう名乗った異形に、誰もが顔色を変える。
「ま、魔人って………ブリミル建国神話に出てくる……?」
魔人。それは異界よりの最悪。その昔何処からともなくこの世界に現れ、破壊の限りを尽くしブリミルに封じられた筈の存在。
「我が名はマンティコア、砂漠の幻楼。ブリミルが何故我を封じたか教えてやろうか? 我が、不死だからだ!!」
放たれる魔力は途轍もなく。それを感じ取れてしまうルイズ達は思わず身が竦む。
「さあ貴様等の恐怖を見せてみろ」
砂嵐が吹き荒れる。シエスタは咄嗟に上に飛び、砂嵐はルイズ達3人を通り抜け、形を変える。
「っ!!」
現れたのは青い髭の男と男装の麗人、巨大な竜。
「ふむ、最後のは面白みがないな」
「っ! 所詮、幻覚よ!」
と、キュルケが炎をドラゴンに向かい放つ。巨大な火柱が上がる。だが、無傷。
タバサとルイズの恐怖とやらも、男装の麗人は杖を構え男は片手を向ける。2人は吹き飛ばされ、キュルケはドラゴンの尾に弾かれる。
「っ!!」
「無駄だと学んばかね?」
シエスタがマンティコアを頭部から股にかけて切り裂くも、マンティコアの左半身がシエスタを蹴りつける。剣で防ぐが、砕ける。
「凄い音がしたけど大丈夫か!? うわぁ、ドラゴン!?」
「お、面白そうな魔術………ん、魔人?」
ギーシュとエインもやってくる。シエスタは思わず叫んだ。
「逃げてください! 此奴は、不死身! こいつには、勝てない!!」
かつて単体で国を脅かしていたという天災級の怪物。始祖ブリミルと使い魔が封じたという神話の存在。
せめて逃げてくれて叫ぶシエスタを煩わしそうにマンティコアが拳を振るい………
「ほうほう、不死身?」
シエスタの前に立つ影。何時の間に移動したのか、エインがシエスタの前に立ち球状の障壁を張っていた。その硬度はシエスタの振るっていた鈍らとはいえ鉄の剣を超えるのか罅一つ入らず逆に魔人の拳が砕けた。
「………………」
剣を極めたシエスタにとって、世界とは常に斬れるか斬れないかの二通りしかなかった。メイジが集まるという学園に来てみても、全員斬れるとしか思えなかった。
学園長と頭がさみしい人は斬れるが少しはやるという印象。シエスタの視線にも気付いていた。
そしてある日、斬れない者に出会った。貴族の使い魔だというその少年。自分の剣が届かぬ強者。
魔法という存在に目を輝かせる少年に、シエスタは……。
「あれ、貰って良い」
「…………はい」
今、なんと言ったか良くわからなかった。ただ、思わず従ってしまった。
エインはよし、とマンティコアに向き直る。
「殺せえ!!」
マンティコアの言葉に幻影達は標的をエインに変える。男装の麗人が風の刃を、青髭が不気味な波動を、ドラゴンが炎を………。
「ふーん、ドラゴンは兎も角、他の二人は? 系統魔法ににてるが、別物だな。3人の様子もおかしいし」
「や、奴は恐怖と…………」
「恐怖?」
「!!」
と、マンティコアが再び砂嵐を巻き起こす。エインはふむ、とあえて魔法を受ける。
「げぇー! モ、モンモランシー!? ひぃぃ、許してくれえ!」
ギーシュの下に現れたのは怒りに顔を赤く染めるモンモランシー。そして………
「…………?」
エインの下には何も現れなかった。
「は? ば、馬鹿な!? 何故貴様の中に入り込めぬ!?」
「ん? なるほど、魔力の波長から記憶を読み取って再現するのか。あっちの青いのは明らかに系統魔法じゃないし、実は亜人か………恐怖の形だからそもそも本物を再現してるわけじゃない?」
と、腕についた砂をジャリジャリと指でこすりながら解析するエイン。
「砂粒で自分の体を作ってるのか。グリモや人に憑く魔人ともまた別………お前が特別なのか?」
「!!」
マンティコアは顔を歪める。そう、この特性は魔人の中でも自分だけが編み出せた特殊な肉体構成。
「霧に代わる吸血鬼と変わらないな」
それを、何だつまらないというような顔で呆れるエインにプライドが刺激される。
「なめるな! 人間風情が!」
「来るぞ、相棒!」
「ん? ああ………」
魔人に興味を持たず恐怖の再現体を観察していたエインは魔人を障壁に閉じ込める。馬鹿正直に向かってくるから捕まえやすかった。
「おのれだせぇ! 何をしようと貴様に我は殺せぬ! 時間の無駄、早々に首を差し出せ!」
「無駄でもないさ。お前等魔人は、精神体を器に入れたままだと器を壊されれば死ぬ」
「その器を壊せぬだろうが!」
物理的な破壊は無意味であり、魔術に対しても耐性を持つ。なるほど、確かに最強に見える。
「だから、お前の不死なんてどうでも良い。圧縮した魔力を開放してやるから、これで少しはお前の魔力通せるだろ。ほら………」
と、結界内に腕を突っ込み、普段体内にとどめている魔力を開放する。魔力圧縮、魔力孔操作、魔力を隠すために毎秒馬鹿げた魔力を消費し体内にとどめていた魔力が開放され………魔人はその魔力を至近距離で浴びる。
おぇ、と吐いた。あまりに膨大な魔力に酔ったのだ。魔力の濃度を下げた? 馬鹿か、下げたところだ吹き出す魔力でマンティコアのちっぽけな魔力など流し込めるはずがない。
「くそがああ! ふざけるな化け物が! 今すぐ私を開放しろ!!」
「え、じゃああの恐怖再現ってやつ俺にもやってみろよ」
「出来るか馬鹿が! 出せ、出せえ! 我は、ブリミルの子孫を、マギ族を皆殺しに………!!」
「………出来ないのか。じゃ良いや………この国の拠点も滅ぼされると困るし」
「………なあ相棒、でもこいつの魔法体験できてたら逃がしてたよな?」
「!? それは、錆びているがブリミルの嫁のエルフの剣か! 貴様、ブリミルの子孫!!」
「悪いが歴史はどうでも良い」
ハルケギニアの、ブリミル教の歴史を大きく揺さぶることを言っていたマンティコアだが、エインにとってはどうでもいいので殺すことにした。
右掌にキメラ技術を使い埋め込んだ口が現れる。
「「■■■■■」」
2つの口から紡がれる詠唱。城壁内に現れる砲身の如き魔法陣。刹那の間に放たれた魔法は、マンティコアの魔力を消し去った。
「さて、ルイズ達を起こすか」
魔人を消滅させたエインは眠そうにあくびをしながらルイズ達の傷を癒やしていく。シエスタの傷も治っていた。
シエスタは逃げたフーケを追うべきだとか、色々言わなくてはいけない立場なのだが、それを忘れぽ〜っとエインを見つめる。
「シエスタ、運ぶの手伝って…………いや、教師達が来たな」
轟音か、或いは魔力の本流に起こされたのか慌てる人の声が複数聞こえる。まずは彼等にも説明しなくてはならないだろう。
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