某所の【虹夏と喜多が男の結束バンド】に投下した妄想ネタのまとめと加筆分です。
ぼっちが恋する乙女してるので、苦手な方はブラウザバック。
小説っぽいナニかを書くのは初めてなので、読みにくいでしょうけど、ご容赦ください。


※pixivにも置くことにしました。

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伊地知と喜多が男の結束バンドの四角関係

【ぼっち編】

 陰キャなりに頑張ったと思う。

 恥ずかしかったけど、ピンクジャージはやめて制服を着るようにした。前髪も切った。怖かったけど、今も怖いけど、なるべく視線を上げるようにした。

 そうしたら、クラスの女の子たちが協力してくれるようになった。後藤さん可愛いって言ってくれて、お化粧とか、スキンケアとか、私じゃ想像もつかないようなことを教えてくれた。

 本当に頑張ったと思う。中学の頃の私が今の私を見たら目を丸くするんじゃないかな?

 でも、喜多君は振り向いてくれない。

 ギター練習の時も、スターリーに行く道すがらも、話すことはリョウさんのことばっかり。

 落ち込む私を、さっつー君が慰めてくれる。後藤は頑張ってるよって。

 バンドのみんなに心配をかけたくないから、私が泣くのはさっつー君の前でだけ。優しく抱きしめて、ちょっと乱暴な手つきで頭を撫でてくれる。そうすると、あともうちょっとだけ頑張ろうって勇気が湧いてくるんだ。

 でも最近、思っちゃうんだ。

 あともうちょっとって、どれくらいだろう?って。

 

 

 

【虹夏編】

 最近のぼっちちゃんがヤバい。

 ピンクジャージをやめて制服を着るようになった。前髪が短くなって、俯かなくなった。ナチュラルメイクもしているのか、顔色も良いし、目の下のクマもなくなった。猫背が矯正されて胸を張るようになった。

 つまり、ぼっちちゃんにかかっていた外見デバフが解除されて、正統派清楚美少女に超進化したってこと。

 これヤバない?ヤバいよな?

 最近じゃ野郎のファンが急増中なんだよ。怖くて受付なんて担当させらんないって。ぜってー絡まれるもん。

 いっそのこと裏方に回ってくんねーかな?ねーちゃんに相談するか。

 にしてもなー。ぼっちちゃんも成長したよ。前は接客なんて絶対無理だったのに、今はちゃんとお客さんの顔を見て、笑顔で対応してんだもん。

 しかも制服の上にエプロンした巨乳美少女だ。そりゃ鼻の下も長くなるわな。

 そう、巨乳。今までピンクジャージと猫背で隠されてた、あのお胸様が解禁されたんだ。はじめて制服姿を見た時は二度見どころか三度見した上に視線が固定されちまった。

 しかもこれ、ドラムのポジションからも見えるんだよ。ぼっちちゃんってゾーンに入ると前屈みになるからさ。今もそう。汗ばんでるせいか白いブラウスの下にピンクのブラが透けて見えててエロいったらもう……

 だがしかし。この伊地知虹夏を舐めてもらっては困る。

 演奏中に劣情にかられるなど言語道断。しっかりリズムキープに努めるのだ。

 大体、ぼっちちゃんが好きなのは喜多君だしね。

 分かってんだよ、そんなこと。チラチラと喜多君のこと見てるし、喜多君に優しくされると嬉しそうにはにかむし、何かってーと喜多君の横にいたがるし。

 あーあって感じだ。僕だってぼっちちゃんのこと、好きなんだけどな。

 でも、この気持ちは墓まで持ってくって決めたんだ。ねーちゃんの分までバンドで有名になる、スターリーを有名にする、天国の母さんに胸を張って自慢出来るように生きる、それが僕の目標だ。だから恋愛なんかにかまけてる場合じゃないんだ。

 それに、今の結束バンドは爆弾を抱えてる。

 ぼっちちゃんは喜多君が好きで、喜多君はリョウが好き。所謂三角関係。そんな地雷原に足を突っ込むワケにはいかないよ。恋愛問題でバンド解散なんて絶対やだ。だから我慢。我慢だぞ僕。

 大体さ、喜多君も喜多君なんだよ。さっさとリョウを諦めてぼっちちゃんとくっつけよ。リョウの態度見てれば脈ナシだって分かんだろ。ぼっちちゃんのことメチャクチャ過保護にしてるくせにさ。何が大切な親友だよ。んなこと誰も信じねーよ。ふざけんなよホント。喜多君がリョウを誉めたりデートに誘ったりする度にぼっちちゃんが切なそうにしてるの、見てるこっちのほうがキツくなるんだよ。せめてぼっちちゃんがいないとこでやれよ。

 あーあ、僕だったらぼっちちゃんにそんな顔させないのにな。小さくて柔らかなカラダを抱きして慰めて、あのおっぱいに顔を埋めたり、キスしちゃったりしてさ。そしたら顔を真っ赤にするんだろうな。

 なんか色々ぶちまけたい。ジーパンきつい。取り敢えずこの演奏終わったら休憩してトイレ行こう。

 

 あ、リョウ?

 ドラムが走りすぎだったのは謝るからさ。

 白い目で睨みつけるのやめてくんない?

 

 

 

【リョウ編】

 最近ぼっちが差し入れを持ってくるようになった。

 最初は手作りクッキー。みんなでバンドミーティングしながら美味しくいただいた。

 それが何度かあった後、休日の合わせ練習の時に弁当を持って来た。

 しかも、ただの弁当じゃない。バンドメンバー全員で摘めるようにと、二段の重箱だ。ぼっちの本気が伺える。

 主食は一口サイズの俵むすびや稲荷寿司。おかずには唐揚げやミニハンバーグの肉類の他に筑前煮やほうれん草のお浸しにコールスローの野菜類と、そこそこバランスが取れている。

 味にしても、個人的には虹夏のご飯の方が好みだけど、ぼっちの弁当も悪くない。絶賛するような味じゃなくて、普通の、飽きのこない味付けって言うのかな。お袋の味ってヤツなのかも。

 正直言ってぼっちがここまでやれるとは思ってなかった。感服だ。

 ふふふ、ぼっちよ、分かってるぞ。これは女子力アピールと同時に郁三の胃袋を掴もうと言う恋愛戦術!更に私が腹を空かせてるところを突いて郁三が一緒にメシ食いにいきませんか?と誘ってくるのを防止する二段構え!更に更に、郁三のイソスタ中毒を利用した自爆をも想定しているな?

 ほら見ろ、ぼっちの弁当を写真に撮って「バンド仲間の女の子が弁当作ってきてくれた!」とイソスタに投稿してる。

 案の定、「家庭的なカノジョさんですね!」「裏山○ネ」「爆破しろ」とか炎上が始まった。焦って否定のコメントしてるけど、そんなので消火出来るワケないだろ。郁三は本当にうかつだね。

 それにしても、ぼっちがこんな手を使ってくるとは思わなかった。と言うか、ここまで自分を変えられるのが凄い。だって、自分なんかがって思考がデフォルトのぼっちが、手作りのお菓子や弁当を差し入れするなんて、一体どれだけの努力と勇気がいるだろう?少なくとも私には真似出来る気がしない。

 ぼっち、本当に郁三が好きなんだね。その小さい体には、どれだけの“好き”が詰まってるんだろうね。

 あぁ、眩しいな。自分の在り方さえ変えるほどの想いが眩しい。

 虹夏のことが好きなのに、ただそばにいることしかしてこなかった自分が惨めに思える。私、ダサいなぁ。

 でも、ごめんよ、ぼっち。私は郁三にぼっちを好きになるようにっては言えないし、言ってはいけないと思うんだ。

 だって恋は自分のものだから。私が虹夏に向ける恋を誰かに捻じ曲げられたくないように、郁三だって同じだと思うんだ。

 だから、直接の応援は出来ない。ホント、ごめんよ。

 だけどまぁ、安心して欲しい。私が郁三に靡くことは絶対ない。私が虹夏に片恋してる年数を舐めないで欲しい。言い方は悪いけど、ぽっと出の郁三に持っていかれるほど私の恋は軽くないぞ。

 だから安心して、そのまま攻略を進めてくれ。

 それに、私もそろそろ、動かないとな。後輩があれだけ頑張ってるんだ。こんなの見せつけられて、それでもまだ動けないなんて、先輩としてのメンツが立たないよ。

 大丈夫。私だって、虹夏を好きなことにかけては誰にも負けやしない。

 

 ところで虹夏?

 最近スターリーのトイレが生臭いって苦情が来てるらしいんだけど、心当たりない?

 そっかー、ないかー。ふーん。

 まぁ、ぼっちっぱいは大きいもんね?

 おや、どうしたのかな?

 いや、気付かないワケないでしょ。

 いくらなんでも私が泊まってる日まで自家発……え、ぼっちには言うな?借金はチャラにする?

 いやいや、そんな。それじゃまるで私が脅迫してるみたいじゃないか。

 それよりさ、今度古着屋巡りするの付き合ってよ。

 え?郁三?

 やれやれ、分かってないな。

 私はね、虹夏が良いんだよ。

 

 

 

【モブ編】

 秀華高校に人知れず存在する、後藤さんの非公式ファンクラブ。その名は「後藤さんを愛でる会」と言う。

 ちょっとハイソなネーミングよね。まぁ、小動物的な後藤さんを可愛がる私たちにはピッタリだと思うけど。

 後藤さんの人気は去年の文化祭ライブからじわじわと上がっていたけど、流石にファンクラブになるほどじゃなかった。

 決定的だったのは、2年に進級した最初の登校日だ。なんとその日、後藤さんは制服姿だったんだよね。

 しかも目にかかるくらい長かった前髪もちょうどいいくらいに切ってたの。そう、後藤さんは高校デビューならぬ進級デビューを決めてきた。

 あまりにも変わり果てたその姿に、誰一人として後藤さんだと気付かなかった。だって後藤さんと言えばピンクジャージ、ピンクジャージと言えば後藤さんって固定観念がびっしり焼きついてたんだもの。

 アイドル顔負けの美少女が教室に入ってきたことで、クラスメイトたちはシンとなった。こんな綺麗な子とクラスメイトになれるのかって喜びとか興奮とか、そんなのを通り越して、ホントにこの子はここにいて良いの?って困惑が来てたのよね。ぶっちゃけた話、場違い感が凄かったのよ。

 そんな空気を敏感に感じとった後藤さんはオロオロしちゃって、涙目になっちゃった。そのままハイライトが消えた目でボソボソ呟き始めたのを見ても、誰も動けなかった。

 そんなところに現れた勇者が喜多君だ。

 ひとりちゃん、制服着てきたんだ!似合ってるよ、可愛い!って。

 この空気の読めない鈍感なとこが喜多君の持ち味なんだけど、それはさて置き、教室内に激震が沸き起こった。

 は!?その子、後藤さんなの!?

 声にならない叫びが教室中に溢れたけど、これは余震に過ぎなかった。

 喜多君の声で我に返った後藤さんはぱっと顔を上げて、たたたって駆け寄って、そのまま抱きついちゃったりするのかなと思いきや、直前で急ブレーキ。そこから喜多君の袖をちょこんと摘んで、何やらゴニョゴニョ呟いてた。

 これさ、マンガかアニメだったら絶対背景に花びら舞ってるよね。自然にそう思えるくらい絵になる2人だった。

 ここで終わればまだ大人しく済んだんだろうけど、まぁ、喜多君だしね、やるワケよ。写真撮ろう、写真!ってパシャパシャやり始めて、果ては肩を抱き寄せてツーショットまで。

 

 ひとりちゃん、顔上げてー。

 むむむムリですぅ……

 

 そしたら後藤さん、顔を真っ赤にして気を失って、喜多君にもたれながら倒れちゃったの。

 

 やっべぇ!俺、ひとりちゃん保健室に連れてくわ!さっつー、後は頼んだ!

 

 ここで喜多君、なんの躊躇いもなく後藤さんをお姫様抱っこして駆け出してっちゃった。

 ……いやー、もー、ね?ムリでしょ。

 キャー!って黄色い悲鳴がクラスの女子ほぼ全員が上げてさ、凄い騒ぎになっちゃったわ。これが本震。

 だってねぇ?女子高生なんて多かれ少なかれ恋話に飢えてる生き物なんだからさ、リアルで少女マンガか乙女ゲーみたいなシチュエーション見せられたら叫ぶしかないわよ。

 その後はもう様式美かしら。佐々木君を尋問したり、クラスの女子でグループチャット作ったり、それがそのままファンクラブになったりした。

 登校時間帯で廊下に人が結構いる中をお姫様抱っこで全力疾走したんだもんだから、2人の噂が広まるのはあっという間だった。当然よね?

 頭抱えてる喜多君には悪いけど、後藤さんは喜んでるし、そろそろ腹を括ってくれないかしら。

 

 あら、また喜多君が無自覚にイソスタで匂わせてるわね。

 みなさん、準備は宜しくて?

 

 

 

【喜多編】

 最近、学校でギター練習する場所を教室に変えた。

 これはリョウ先輩の提案で、路上ライブと似たような効果を狙っているらしい。

 流石リョウ先輩だ。ミステリアスでいて実はなにも考えていないと思いきや、やっぱり結束バンドのことをしっかり考えてくれている。

 まぁ、教室でギター練習して良いかって交渉は俺がしたんだけどな。ひとりちゃんには荷が重いし。

 で、先生に話したところ、時間帯は昼休みと放課後、アンプの音量を小さめにするって条件で許可をもらえた。

 教室で練習出来るのは確かに効果的だ。空き教室や階段下にまで移動する手間が省けるし、人前で練習するのは適度な緊張感があって、励みになる。ついでにバンドの宣伝効果も期待……するのは、ちょっと欲張りすぎかな?

 昼休みの練習は、ひとりちゃんから貰った弁当を食ってからやる。

 いつの間にか、ひとりちゃんが弁当を作ってくれることになってた。確か最初は俺の体重が軽過ぎて心配とかなんとかだったか?

 別に不健康ってほどじゃないんだけどな。早朝にやってる新聞配達のバイトのせいか、きっちり贅肉を落とせてるだけだと思う。

 とは言え、心配してくれてるひとりちゃんの厚意を無駄にするような野暮なことは出来ないから、ありがたく頂戴してるんだ。恥ずいけど、下手に断るとひとりちゃんのネガティヴ思考が暴走しちゃうからさ。

 大丈夫、ひとりちゃんの笑顔のためなら、クラスメイトの生暖かい視線なんかスルーしてみせる。

 さーて、今日のおかずはなんだろな?お、唐揚げと白身フライだ。この黄色と赤のはパプリカの浅漬けなの?へー、彩り良いね。出汁巻き卵とポテサラも良い感じ。ジャガイモがゴロゴロしてるの、好きなんだよね。

 いやー、美味かった、ごちそうさまです!ひとりちゃんは良いお嫁さんになるね!

 さて練習練習っと。……あれ、ひとりちゃん、顔が赤、え、大丈夫?風邪でも体調不良でもない?まぁ、ひとりちゃんがそう言うなら、良いけどさ。辛かったら言ってくれよ?

 じゃあ、気を取り直して、と。

 あー、このフレーズだ。ここのコードチェンジがもたつくんだよな。ひとりちゃん、ちょっとお手本見せてくんない?

 ……やっぱスゲーわ。なんだろうな、余計な力が入ってないのか?難しいことをあっさりやってるせいで簡単に見えちゃうんだよな。残念だけど参考にならねーわ。ごめん。もっと頑張って練習するしかないか。

 え、そのまま構えててって?

 うひゃ!?

 いや、なんでもない、なんでもないから!あ、ネックの持ち方ね。へー、ちょっと変えるだけで大分変わるね。これなら出来るかも。

 お、出来た出来た!

 やっぱ、ひとりちゃん凄いよ!

 

 ……うん、教え方がちょっと、だけど。一瞬バックハグされたかと思った。

 はは、ひとりちゃんがそんなことするはず、ないよな。うん。勘違いすんなよ、俺。ひとりちゃんは純粋にギターを教えてくれてるだけなんだからな。

 

 

 

【さっつー編】

 後藤が保健室でダウンしてる。昼休みになっても帰ってこない。

 いつもなら喜多が付き添ってるところだけど、今日は例外的にハブられた。珍しく愛でる会の連中が出張ってきたからだ。

 あいつらが擬態を解いてガチな介抱にまわるくらいだから、相当なんだろうな。

 2時間目の授業中に真っ青な顔で椅子から転げ落ちたときは結構ビビった。そんなに体調が悪いなら休めばいいのによ。そこまでして喜多に会いたかったのか?電車で2時間もかけて?

 まったく、普段は小動物っぽく震えてるくせして、喜多が絡むと別人みたいになりやがる。恋ってのは、ここまで人を突き動かすもんなのか。俺にはサッパリだ。

 ちらりと喜多の顔を盗み見る。朝イチで後藤から渡された弁当――サンドイッチを黙々と食ってるけど、いつもと違って不機嫌顔だ。

 そうもなるよなぁ。あんなに体調がボロボロなくせに、後藤は喜多の弁当をしっかり用意してきてたんだよ。ここまでくると逆に怖い。

 喜多を好きだって言うなら、こうやって不機嫌になるほど心配かけるより、ちゃんと休んでた方が良かったのにな。

 後藤のこういうところは、頑固と言うか、融通が効かないと言うか……いや、余裕がないのかもな。また思考が最悪の斜め上あたりに飛んでったのかも知れない。

 そろそろ慰めてやった方が良いのかね。正直言ってあれは俺も恥ずいから勘弁して欲しいんだけど。

 

 ひとりちゃん、大丈夫かな。

 

 弁当を食い終わって、喜多が呟く。俺に向けて、じゃない。心配事がポロリと口から溢れた感じ。こいつも拗らせてんなぁ。

 結局、その日後藤は保健室から帰ってくることはなくて、そのまま病院に運ばれた。マジか。あいつにもそんな人間ぽいところが……って、幾らなんでも不謹慎だったな。

 後から聞いた話だと、睡眠障害と胃腸炎なんだとか。おいおい、どっちもストレスじゃねーか。これもうアカン奴だ。

 もうこの辺りが潮時なのか?

 あーあ、喜多と後藤と俺の3人で駄弁るの、結構気に入ってたんだけどなー。

 

 なぁ、喜多。その後藤の気持ちに気付いてないムーブっていつまで続けるんだ?

 正直言ってそろそろ付き合い切れねーんだけど?

 

 

 

【ぼっち編】

 お腹痛い。キリキリする。お医者さんはストレス性胃腸炎だって言ってた。

 ストレスかぁ。言われてみれば原因はアレだよねって納得する。

 でも、マンガとかドラマとかのヒロインならともかく、自分がそうなるなんて想像もつかなかった。去年は見向きもされなかったのにね。

 承認欲求が満たされて嬉しくなるよりも先に困惑が来て、なんで自分なんかにって思う。ピンクジャージを制服に変えただけなのに。

 そりゃ自分としては頑張りはしてるけど、私は“普通”を真似てるだけで、中身はあんまり変わってない。相変わらずコミュ障だし、根暗なまま。

 だから思うんだ。あの人たちが見てるのは、私じゃなくて制服なんじゃないか?って。

 後藤ひとりと言う存在が制服に乗っ取られたような感覚。こんなこと、他の子は考えないよね。やっぱり私は変なんだ。

 まぁ、良いんだけど。別に。例え真似っこでも、普通にならなきゃスタートラインにも立てやしないんだから。

 1号さんと2号さんが言うには、恋とは戦争なんだとか。だから、普通になりたいなら、まずは制服を着るところから始めなさいと諭された。

 流石は大人の女性だ。説得力が違う。

 ピンクジャージをゴミ箱に捨てて、制服を着て、いざ迎えた2年生。

 まさかの告白攻撃が始まった。

 いや、なんで?訳わかんない。

 こっちは恋愛初心者なんだから、壁ドンして顎クイとかするのやめて欲しい。頭の中真っ白になる。

 こんな時に限って溶けたりしない私の体、ホント、なんなの?ここはドロっと溶けて、うわ気持ち悪い!ってなるんじゃないの?約束が違うんですけど?

 もう少しでキスされそうってところでクラスの子たちに助けてもらったから無事だったけど、あれはもしかして貞操の危機だったのかもしれない。学校怖い。

 あと本気で私に好きだって言ってくれる人。こう言うタイプが辛い。だって気持ちが分かっちゃうから。共感しちゃうから。ごめんなさいって断るの、ホント辛い。

 こんな時は、いつもよりずっと強く、喜多君に会いたくなる。

 出来れば抱きしめて、キスして、あの綺麗な琥珀色の瞳で見つめて、お前は俺のものだ、とか言って欲しい。

 でも現実にはそんなことお願い出来ないし、告白されたなんてのも言えやしない。

 だからさっつー君に慰めてもらう。

 さっつー君、いつもありがとう。でも喜多君にはナイショだよ?

 ねぇ、喜多君。喜多君は制服を可愛い、似合ってるとは言ってくれたけど、態度そのものは前と全然変わってないよね。外見じゃなくて、私自身を見てくれる。ギターヒーローじゃなくて、後藤ひとりを見てくれる。そう言うところ、好き。

 貴方が、私の想い気付いてない振りをしてるのは知ってる。リョウさんを好きなことも知ってる。

 けど、それでも好きは止められない。

 応えてくれなくても良い。そんな贅沢は望まない。ただ、好きでいることだけは、許してください。告白なんか、絶対にしないから。

 

 

 

【喜多編】

 さっつーに気付かれてたのは、意外でもなんでもなかった。

 もう5年目になる腐れ縁だしな。中学の頃から俺が何回か告白されて、その度に速攻で断ってたのは知ってるし、少しは相手を思いやってやれよと苦笑混じりに言われたもんだ。

 こんな馬鹿なことをしでかしてる俺を、これまで何を言うでもなく見守ってくれてたコイツは、間違いなく親友なんだと思う。

 そんな親友が、もうここまでだって言うんだから、確かにそうなんだろう。言われるまでもないけど。

 ひとりちゃんに悪いことをしてるって自覚はもちろんある。罪悪感もある。

 でもさ、俺はリョウ先輩が好きなんだよ。

 俺がリョウ先輩を好きになったのは、最初は顔だった。メンクイなのは認める。次に雰囲気。ミステリアスなオーラっての?そう言うの、カッコいいなって。

 まぁ、そーゆーのはバンドに本格的に入ってからしばらくして幻想だって分かっちゃったんだけどさ。それでも、音楽に向ける直向きさとか、クールに見えて実はバンドメンバーを凄く大事に思ってる優しいとことか、仲良くなるに連れて段々と見えてきた新しい魅力に惹かれたんだ。

 それだけなら良かったんだけど。好きになればなるほど分かっちゃうこともあるんだよな。

 伊地知先輩に向ける目が、やっぱ他とは違うんだ。詳しくは言いたくない。勘弁してくれ。

 リョウ先輩からすれば、俺から向けられる想いなんて迷惑で、鬱陶しいだろうと思う。そりゃそうだ。好きな相手がいるんだから、他の男から想われたって邪魔なだけだもんな。だから、諦めなくちゃなっては、常々思ってたんだ。

 諦めるきっかけは色々あったけど、決定的なのはベースだった。俺が始めて買った、ギターと勘違いした多弦ベース。

 今の俺にはリョウ先輩から借りたギターがあるから、いらないって言えばそうなんだけど。一番最初に、自分に絶望しながら、泣きながら練習してた相棒なんだ。金が貯まったらリョウ先輩から買い戻そうって密かに決めて、バイトのシフトも多めに入れてもらって頑張ってたんだよ。

 まぁ、手遅れだったんだけど。あのベースはもうリョウ先輩の手元にはなくて、あぁ、リョウ先輩にとってはその程度だったんだって思ったら、なんかポッキリ折れちまった。

 その時はそれどころじゃなかったし、そもそもリョウ先輩に文句を言うのは筋違いだからスルーしたけど、やっぱショックだったんだよな。

 そんなワケで、リョウ先輩のことはちゃんと諦めた。それに、惚れた人の幸せを願って諦めるって、なんかロックじゃん?

 

 話は戻って、ひとりちゃんな。

 俺があの子に持ってる感情って、割とドロドロしてんだよ。さっきの、リョウ先輩にしたら俺は迷惑だよなっての。あれってまんま、俺とひとりちゃんの関係なんだわ。

 ……最悪だろ?

 表面上は友達面して、過保護に構い倒してるけど、心の一番深い場所ではうざいって、迷惑だって思ってる。

 陰キャのコミュ症で面倒くさいし、ゲロ吐いて汚ねぇし、顔が溶けたり胞子になったりするキモい人外だし、普通だったら絶対関わりたくないような、ほんっとーにマジでヤベー奴なんだよ。こんなこと考えたって、不思議じゃないだろ。当然だよな。

 まぁ、だったら冷たくして突き放せばいいだろって話なんだけど。

 出来ないんだよなぁ、何故か。

 

 ギターがめちゃくちゃ上手い天才だから?

 バンドに引き戻してくれた恩人だから?

 同じバンドのメンバーだから?

 ギターを教えてくれる先生だから?

 初めてのライブで辛かったときに助けてくれたから?

 実は可愛くてスタイル抜群だから?

 

 理由なんて、何個でもでっち上げられるかもしれない。

 でもそんなの薄っぺらだ。

 全部違う。全然違う。そんなんじゃないんだよ。

 ただ、どうしようもなく、放っておけないんだ。

 泣いてるところなんて見たくないし、困ってたら助けたいし、笑っていて欲しいし、一緒に笑っていたい。

 なにが理由かなんて知ったことか。

 ただ幸せでいて欲しいって、それだけなんだ。

 

 まったく、頭の中ぐちゃぐちゃだよ。

 アイツは俺を狂わせる、どこまでも憎たらしい女だ。

 

 

 喜多、お前さぁ。

 なんの理由もなく幸せになって欲しいのに憎らしいって、拗らせ過ぎじゃね?

 

 

 

【ぼっち編】

 自分の体の状態に戸惑っていた。

 青春を連想する様々な事柄への過剰な拒絶反応。

 羞恥心と自己否定とコミュニケーション経験不足からくる対人恐怖症の発作。

 外界との接触を極限まで否定する身体反応。

 つまり、顔のパーツがポロリと落ちたり体が溶けたり爆発したり胞子になって飛び散ったりするギャグマンガのようなそれが、このところまるっきり発動しない。

 精神的に成長したから?いやそれはない。ネガティヴ思考は相変わらずだし、コミュ障だって――あ、これは少しマシになったかも?最近はクラスの子たちがゆっくり話してくれるので。えへへ。

 大丈夫だよ。慌てなくていいよ。ちゃんと聞いてるよ。そんな、ぬるま湯のような、真綿で優しく包んでくれるような、優しい子たちなんだ。好き。私、ちょっとチョロいかもしれない。

 それはともかく。うん。現実逃避してる場合じゃない。いま問題になっているのは、緊急避難ができないってこと。

 満員電車の中で、胸に手が当たってる。まさか自分の身にこんなことが起こるなんて想定してなかった。

 ギグバックのお陰で後ろはガードできてるんだけど、前の方はちょっと心許ない。

 いまのところ、手が当たってるだけ。偶然とか、触ってるつもりはなかったとか、私の勘違いかもしれない。

 でも、なんかこう、鼻息が荒い!怖い!

 ちょ、ダメ!動かさないで!ヤダ!

 怖くて体、動かない、溶けて逃げられない、声も出ない、スカートがモゾって言った、気持ち悪い、ヤダヤダヤダ!

 

 おねーちゃん、こわいことあったら、これつかって!ぜったいだよ!

 

 あ、そうだ。ふたりがくれた防犯ブザー、このピンを引っ張るくらいなら!

 ビー!と大音響が鳴り響いた。

 それからは記憶が朧げ。近くにいたらしいクラスの子たちが駆けつけてくれて、チカンは無事逮捕された。

 なんか、あんなの押し付けられたら誘ってると思うじゃない!って言ってたんだって。勘弁して欲しい。

 まさか女性専用車両でチカンに遭うとは思わなかったよ。

 

 

 

【リョウ編】

 愛でる会のグループチャットが紛糾している。

 どうもぼっちがチカンに遭ったらしい。幸い今回はGPS付き防犯ブザーで撃退できたらしいけど、今後同じような輩が現れないとも限らない。そもそも通学に2時間かかるぼっちが下北のライブハウスでバイトをしているのは防犯上宜しくないんじゃないかと、心配するコメントがつらつら上がっている。

 確かにその通りだけど、バンドをやる以上金がかかるのは仕方ないし、Starry以外でぼっちがバイトできるとも思えない。これは中々難しい問題だ。

 いや、ギターヒーローの収入を使えばいけるのか?

 残念ながら私はオーチューブの広告収入がどの程度なのかは知らないけど、バイトする時間を動画アップに当てれば、意外となんとかなるのかもしれない。

 虹夏や店長はぼっちと会える機会が減る!とか残念がりそうだけど、ぼっちの身の安全と天秤にかけたりはしないだろう――しないよね?

 Starryでのシフトを土日限定にして、夜遅くなる前に帰るように調整するって手もあるな。

 なんにせよ、今までと同じというワケにはいかない。グループチャットでも、愛でる会とぼっちの親御さんとの間で協議がアレコレ進んでいる。本人の知らないところでエライ騒ぎだ。

 ぼっちの妹なんか、“家から一歩も出さないのが一番いい”とかとんでもないこと言ってるし。

 ……この子確か5歳だよな?大丈夫か?病んでない?シスコンのヤンデレ?ヤバいな。ぼっち、強く生きろよ。

 それにしても、チカンか。確かに着飾るようになったぼっちは可愛いしな。今まで無事だったのが不思議なくらいだし。まぁ、女性のチカンは予想外だったけど。

 ぼっちの奴、なんかフェロモンでも出してんのかね。溶けたりしなくなって、急にモテ始めたあたり、あり得ないとも……いや流石に考えすぎか。

 思考が逸れたな。ぼっちのバイト問題は私だけじゃどうにもならない。私が考えるべきはバンド内の人間関係だ。

 虹夏は大丈夫。ちゃんと自制できる責任感の強いリーダーだ。偉い。好き。まだ意識はぼっちに向いてるけど、私だってぼっちを見て学んだんだ。恥ずかしがってる場合じゃないんだって。覚悟しろ。

 郁三の方は、オモシロげふん、状況が動くことになるかもしれないな。

 私が気付かないとでも思ったか?君がぼっちに歪んだ感情を向けてるなんて、全部まるっとお見通しなんだよ。

 存分に足掻くと良い。

 

 

 

【虹夏編】

 バンドミーティングの時の席順は、僕、リョウ、喜多君、ぼっちちゃんになるのが暗黙の了解だ。丸テーブルなので、僕の隣にぼっちちゃんが来る。とは言え、いまは空席だ。今日の議題はそのことについてなんだよね。

 結論から言うと、ぼっちちゃんはバイトを辞めることになった。

 本人は喜んでるのか寂しがってるのか、よく分からない感じだったけど、まぁ、親から帰りが夜遅くなるようなバイトは許可できないとキッチリ言われたらしいし、仕方ない。

 ぼっちちゃんの親父さんがわざわざねーちゃんのところに挨拶に来て、こっちの都合で申し訳ないと頭を下げてたのは、なんか、胸の奥がチクチクした。

 そうだよなー、人見知りでコミュ障なぼっちちゃんがバイトしてるの、嬉しそうにしてたんだもんな。

 でもぼっちちゃんに何かあったらって思ったら、やっぱバイトで帰りが遅くなるのはダメだよね。

 僕だって心配になるよ。ぼっちちゃんがチカンに遭ったって聞いたときは、スティック片手で折っちゃったからな。左右両方とも。

 それはさて置いて、問題はバンドの運営資金とこれからの活動方針だ。

 大変だけど、みんな結束して頑張ってこう!

 ……反応悪いぞー。なんだよもー。僕だってぼっちちゃんに会えなくて寂しいんだからな!?

 まぁ、僕の場合は、最近リョウが慰めてくれてるっていうか?直接言葉でなんか言ってくるワケじゃないけど、気が付くと側にいてくれる感じ?泊まりに来たときも、前はダラダラしてるだけだったけど、最近はご飯の準備を手伝ってくれたり、洗い物してるときに食器を拭くのやってくれたりして。僕のベッドにパンツ置くのはどうかと思うけど。大体、伊地知家の洗濯は僕がやってんだからさ、女の下着なんてねーちゃんので見慣れてんだよ。中身ならともかく布切れ如きで動揺したりしねーの。そう言ってやったらリョウの奴、顔真っ赤にして怒ってさ。あ、コイツも女の子らしいとこあったんだーって。なんか新鮮だったっけ。

 で、なんか喜多君がめっちゃ機嫌悪いんだけど。

 悩んでることあるなら相談のるよ?

 ほらほら、頼りになる先輩が愚痴聞いてやるからさ!ぶちまけちゃえ!

 

 

 

【ぼっち編】

 後藤ひとりの朝は早い。

 通学に2時間かかる上、弁当の支度もあるので、まだ日が上る前から布団を抜け出す。

 毎日欠かさずに続けているギター練習と、前日からの弁当の仕込みがあるので、就寝は遅く、起床は早い。当然、寝不足にもなる。が、負けない。恋する乙女は無敵なので。

 歯を磨き、顔を洗う。スキンケアは弁当を作った後だ。匂いが移るとダメなので。

 制服に着替えてから姿見の前に立つ。さぁ、今日も始めよう。

 

 喜多君が褒めてくれたらから大丈夫、喜多君が似合うって言ってくれたから大丈夫、喜多君が可愛いって言ってくれたから大丈夫、喜多君が、喜多君が、喜多君が……

 

 繰り返す。繰り返す。延々と繰り返す。

 胸の内にある恋心に燃料を投下し続ける。

 側から見れば不気味なことこの上ないだろうけど、こうでもしないと制服を着て学校に通うなんてことはできないのが、後藤ひとりと言う少女である。

 やがてイマジナリー喜多君が降臨して、ひとりちゃん可愛いよ、と微笑みかけてくれたあたりで、ようやく落ち着いた。

 誰もいない空間に向かって、ありがとう喜多君、と微笑む。

 その表情だけを見れば完全無欠の美少女だけど、部屋には彼女1人しかいないので、軽くホラーだ。

 だがしかし、これは必要なこと。闘いに赴くための儀式なのだ!

 さぁ、お弁当を作ろう、スキンケアしてメイクしよう。喜多君に美味しいって言ってもらえるように。可愛いって言ってもらえるように。ただ、それだけのために。

 

 

 

【喜多編】

 ひとりちゃん、と呼ぶ声がする。俺ではない、別の誰かの。

 頭に血が上る。胸がムカムカする。どの口がほざいてんだと暴れたくなる。

 でも、俺にその資格はない。だからなにも言えずに見送るしかない。

 一歩、二歩と遠ざかる。俺の隣から、奴のところへ。くそ、なに能天気にヘラヘラしてんだよ。

 五歩。俺とアイツの距離。3メートルも離れていない所で、俺以外の男と話すアイツ。相手は軽音部のリードギターをしている3年の先輩だ。

 なんでも去年の文化祭ライブで衝撃を受けたとか、それまで遊び半分だったけど、いまはかなり頑張ってるとか。

 確かに去年より上手くなってるのは分かった。

 高校の軽音部なんて、言っちゃなんだけどポイズンさんが前に言ってた“ガチじゃない勢”だ。なのに文化祭ライブのときの俺よりちょい下レベルまで上がってきたんだから、相当練習したんだろう。だからなんだって話だけど。

 まぁ?確かにギターは上手くなったけど?俺はギターの他にボーカルもやってるワケだから?総合力では俺のが全然上だよな。

 で、なんの話かってーと。結束バンドの曲を練習して、ある程度カタチになったから、感想を聞かせて欲しいってことらしい。

 と言ってもギターボーカルをこなせるほどの力量はないから、リズムギターとボーカルは2人に分けてるんだけど。

 感想としては、ボーカルが女性になると随分と印象が変わるんだなって思った。

 演奏はちゃんと聞けるレベルにはなってるけど、一番上手いリードギターで俺に及ばないくらいだからな、Starryのオーディションをクリアできるかってーと、ちょっと難しいかもしれない。

 頑張ってはいるけど、まだまだ練習が足りてないな。

 それと、誰かの前で弾く経験が浅いのか、演奏が固い感じがする。これは緊張のせいかな。まぁ、部室での演奏ばっかりで、ライブと言えば文化祭くらいしか機会がない軽音部じゃ、仕方ないのかもしれない。

 Starryでのライブや路上ライブ、更には未確認ライオットを経験した結束バンドと比べるのは酷ってもんだ。

 俺が内心で上から目線でいる間も、アイツの話は続いてた。いつもは口下手なくせして、音楽の音になるとマシンガントーク始めるんだよな。得意分野になると調子に乗るのは相変わらずだ。

 相手を傷付けないように頭を捻りながらオブラートに包んでアドバイスするから、遠回りすぎてワケ分かんない内容になってる。

 でも一生懸命なとこは分かるから、ちっさい子供が頑張ってるように見えて微笑まゲフン。おいこらボーカル、ハグなんかしてんじゃねーよ。女だからってやっていい理由にはならねーんだからな?

 

 それにしても。これがリョウ先輩が言ってた作戦の成果か。

 はいはい、見事にハマりましたよ。流石です。

 

 伊地知先輩の無自覚ノロケを聞いたあの日、俺は全部ぶちまけちまった。

 目の前で元片恋相手のアレコレを聞かされて、もうどうにでもなれ!ってヤケクソだったのもあるし、最近アイツのことでむしゃくしゃしてたのもあるけど、正直言ってどうかしてたな。反省してます。

 伊地知先輩は、なんかゴメンね?ってシュンとするし。リョウ先輩はそんな伊地知先輩の頭をナデナデするし。そう言うとこだぞチクショー!

 まぁ、なんやかんやで暴露大会になったんだけど、やっぱ伊地知先輩ってスゲー人だよ。この時、伊地知先輩はアイツに片想いしてたことを打ち明けてくれた。片想いしてるけど、気持ちを打ち明けるつもりもモーションかけるつもりもない、バンド内の不和になるような気持ちなんていらない、友情だけで良いって。

 そもそもぼっちちゃんは君に恋してるんだしね?なんて、よく笑って言えるなと思う。

 リョウ先輩リョウ先輩って騒いでた俺とは根本的に違う。好きになった相手が自分じゃない誰かを好きなのを見て辛いのは、俺だって経験してる。なのにこの人は言うんだ。ぼっちちゃんが幸せなら、僕はそれで良いんだって。強がってる俺とは違って、心の底から。

 あー、すげーな、なんて懐のデカい人なんだって思ったよ。人間としてのレベルが全然違うんだ。歳なんか一個しか違わないのに、ここまで違うもんなのか。下北の聖天使は伊達じゃない。

 いまならリョウ先輩がどうしてこの人を好きになったのかがよく分かる。こりゃ勝負にもなりゃしない。完敗だ。

 やっと、本当に、諦めることができた。

 

 リョウ先輩、いままで済みませんでした。どうか伊地知先輩とお幸せに。

 いや僕とリョウはそんなんじゃないからね!?

 伊地知先輩、諦めてください!

 

 ここで終わればスッキリしたんだけど、リョウ先輩がモヤモヤするようなことを言ってきた。

 

 次は郁三の番だね。

 は?いや俺はもう当分恋愛とか勘弁したいっつーか。お腹いっぱいなんですけど?

 そう?話は変わってぼっちのことなんどけど。

 変わってねぇ……!

 

 なに言われるのかと身構えちまったけど、割と真面目な話だった。曰く、ぼっち強化作戦。ネーミングはともかく内容は的を射ていた。

 アイツは精神状態がモロに演奏に出るタイプだ。緊張するとヘロヘロになる。

 これは元来の人見知りと、中学まで友達が1人もいなかったことによるコミュニケーション不足、それとネガティヴ思考が原因だ。

 なら、それを解決するのは無理でも、緩和してやれば、演奏が安定するだろうとリョウ先輩は考えた。最近のアイツはポジティブになろうと努力しているから、更に拍車をかけてやろうと。

 それがつまり、放課後にやっていたギター練習の場所を教室に変えることだった。

 路上ライブでも良かったけど、流石に毎日やるわけにもいかないし、時間もそう長くはできない。なら、もっとコンスタントに人目に触れる機会を増やしてやればいい。

 幸い、クラスの女子連中はアイツに協力的だったから、観客からヤジが飛ぶこともなかったし、むしろギターを弾いてるアイツがカッコいいと好評だ。

 そして、効果は出た。演奏のレベルが段違いに上がった。いや、元々あった実力を発揮できるようになったのか。

 このことに気をよくしたからなのか、素の実力も上がったんだろう、ギターヒーローの登録者数もどんどん増えているようだった。

 ただでさえ遠かった背中が、地平線の先に消えてしまったような気さえした。

 

 もちろん、副次効果もある。いまのぼっち、モテモテなんじゃない?

 あ、はい。そっすね。

 

 いやもう、ほんとそれ。

 学校では俺だけが知ってた“ギターを弾いてるときはカッコいい”アイツのことが、みんなにバレた。

 なんか俺がついてて守ってやらんとガチでヤバい気がする。で、それをアイツが嬉しそうにするのがムカつく。

 違うからな?いくらなんでも身内に危険がありそうなのに、変にごちゃごちゃ悩んでる場合じゃないってだけだから。

 だから、腕にしがみついてくるのとか、上目遣いで見つめてお礼言うとか、ホント、やめてくれ。

 俺はお前が思ってるような“優しい喜多君”じゃねーんだよ。

 頭の中じゃお前のこと面倒くせーって思ってる、普通の、健全な、男子高校生なんだよ。

 

 

 

【モブ編】

 本人が言うには、喜多君と後藤さんは付き合ってないらしい。往生際が悪い。

 でもねぇ……

 四六時中一緒にいるし、無自覚にイチャつくし、後藤さんが他の男子と話してると凄い目で睨みつけるし、挙げ句の果てには後藤さんを家まで送り届けて、なんとそのまま泊まってるらしいのよね。

 喜多君、分かってるのかな。それって同棲って言うんだよ、親公認の。

 1人で帰すと誘拐とかされそうで心配だからって言い張ってるけど、そんな言い訳を信じる方が無理よね。みんな生暖かい目で見守ってるわ。後藤さんの方はもちろん、喜多君の親御さんも同じ気持ちだと思う。

 既に外堀も内堀も埋まりきってて、あとは本人が降参するだけなんだけどね?

 いつになったら観念するのかしら。

 





書きたかったことは大体出せたので、これにて完了です。

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