事件屋ウィステル   作:フッ軽布教女サッチ

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五十四話 天罰を運ぶ者

1204/8/31 14:17 ────ガレリア要塞

 

 

 

ドン、と一発の銃声が響き渡る。

 

「っだぁ!! 多すぎるっつの!!」

 

自身の背丈よりも大きな長銃を次の標的に向けて構え、そう吐き捨てるイクス。

引き金を引いた瞬間、その銃身に見合った巨大な銃弾が敵の人形兵器を文字通り吹き飛ばした。

 

「ウダウダ言うなイクス!! 次来るぞ、構えろ!!」

「わかってるっつーの、姉ちゃん!!」

 

イクスを叱り飛ばしたラフィは、長剣で機械人形の関節部分を切り飛ばした。

続けて流れるように周囲の人形を斬り飛ばし、叩きつけ、壊してゆく。

異形のダガーを握ったメルキオルも、大盤振る舞いと言わんばかりに古代遺物である爆弾をばら撒き、次々と小爆発を起こしている。

 

「っだー!! 爆弾危ねェな!?」

「アハハ、ごめんごめん! 巻き込まれないように注意してね?」

「無理難題言いやがってこの野郎!!」

 

すれ違い様にパーカーをたなびかせながらメルキオルの頭にゲンコツを落とすラフィ。

狙われた列車砲に向かったリィン達を邪魔する、テロリストの放った人形兵器を破壊する。それが役割分担で決めた、事件屋四人の役目だった。

 

「もう、キリがないな……三人とも、こっち集めて……!」

「オーケー! オラっ喰らいな!!」

「わかった!! 飛んで……けッッ!!」

「いいよ♡ はい、ドッカーン!」

 

外から雪崩れ込んできた小型の人形兵器たち。

女はロングソードを大きく振り剣圧を発生させ、少年は導力魔法を付与した銃弾で人形たちをひとまとめにし、青年の爆弾が起こした爆風で軽い人形兵器が吹き飛んでいく。

そうして一方向に飛んでいった人形たちを、黒い“手”が全て切り裂いた。

 

「ん……集めてもやっぱ柔らかいね」

「そりゃここに来てンの、チビばっかだろ? あーあ、デケェの一匹の方が絶対楽だったって」

「僕らの本分は1対1だからね」

「いやそっちはそっちで大変だろうけどな」

 

先ほどの波で襲撃は一旦落ち着いたらしい。

演習場の中では無人戦車と第四機甲師団が争っている。先程彼らのトップが指揮に入ったおかげで、こちらは任せていても決着がつきそうだ。

 

「あたしたちも乗り込むぞ。もう空砲は鳴った、時間が無い。オリビエさん達を助けるのもそうだけど、鉄血宰相が死ねばクソ親父が暴走しやがる」

「それはそれで面白そうだけどなー」

「こらイクス。ラフィのワガママを聞くんだろう」

「わかってるって! うるさいな」

「ふふ、お姉ちゃんが嫌ならしょうがないね。転移でいい?」

 

頼んだ、と頷く姉に向かってにこりと小さく微笑み、ヨルダは自身の影を広げる。

四人の足元が黒に飲み込まれ────事件屋たちは、影の中へ落ちた。

次に視界が周囲の景色を映したとき、そこはガレリア要塞の内部……暗殺者三人が立ち入り禁止と止められた場所だった。

 

「この先は行ったことがないから転移できない。ごめん」

「ここまで来りゃ上等だ。ありがとな、ヨルダ」

「ん」

 

妹の頭を撫で、女は開きっぱなしになった扉の奥へと足を踏み入れる。

こちらに向かって走ってきた哨戒用の人形兵器を叩き割るように切った。破壊の衝撃で人形兵器から警報音が飛び出し、奥から次々と機械独特のやかましい足音が聞こえてきた。

 

「管理人、アレ弱点どこ?」

「基本的には関節部だね。カメラを割ると暴れ出すから気をつけて」

「りょーかい────そんじゃ、ダンスといくかよ!」

 

昔少し暑かったことがあるというメルキオルに弱点を聞き、イクスの弾丸がたった一発だけ放たれる。

まずまっすぐ、中型人形兵器の足の付け根を正確に撃ち抜く。配線を焼き切ったのか、一体目はそのまま崩れ落ちて沈黙する。

通常ならばそれで終わりだが、イクスの銃弾は特別製。異能でくい、と跳ねるように曲げられたそれは、次の人形兵器めがけてまっすぐ飛んでいく。

イクスの銃弾を逃れた小型人形兵器が銃口を一行に向けるも、その本体ごと青色をしたロングソードが叩き潰した。

 

「チッ、無駄に放ちやがって」

「リィンおにーさん達が結構片付けたっぽいけどね」

「討ち漏らしもあるだろうね。警戒して進もうか」

 

メルキオルの言葉に頷き、ラフィはさらに奥から湧き出してくる人形兵器へと駆け出していく。

イクスが撃ち抜いた人形兵器を握って鉄塊にして遊んでいたヨルダと次の銃弾を装填したイクスもその後を追う。

そして最後に、殿を務めるようにメルキオルがゆったりと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

──── 14:30 ガレリア要塞・クロスベル側回廊

 

「っと、まぶし……」

 

突如視界を塗りつぶした太陽の光に思わず眉を顰める。

慣れてきた目が映したのは、ゴツゴツとした岩で出来たら渓谷を繋ぐ無骨な鉄筋と、はるか遠くに聳え立つオルキスタワーの姿だった。

 

「クロスベル側に出たみたいだね」

「へー、アレがオルキスタワーってヤツ? 意外とイケてんじゃん」

 

呑気に観光客のような感想を言ったイクスに苦笑いをしつつ、女は列車砲を見上げた。

鈍く輝く苔色の砲身は、まっすぐオルキスタワーの方向へと向かっている。

すでに空砲が放たれたことを知らせる黒煙は消えており、いつ実弾が放たれてもおかしくはない状況だ。

 

「……戦闘音が聞こえる。おにーさん達、もう交戦してるみたい」

 

ヨルダの指摘通り、列車砲の脇からは時折アーツの光や戦技の余波が漏れ出ていた。

Ⅶ組が破壊したらしい大型人形兵器を蹴り飛ばし、剣を肩に担ぐ。

 

「助太刀、いらなさそうかな」

「かもしれないね。頼りになるじゃない、彼ら」

「今更気づいたのかよ」

 

女は小さく笑い声を漏らし、背の鞘へ長剣を戻す。

やがて戦闘音は収まり、周囲が静まり返った。どうやら一区切りついたらしい。

 

「は〜、マジでビビった〜……」

「ホント……一気に精神削った……」

 

双子は互いに体重を支え合うように体の力を抜き、へなへなと座り込む。

幼い子供には少し辛かったらしい。よく頑張ったなと、二人の頭を撫でようとした────その時。

 

「ラフィ!! まずいよ、まだ終わってない!!」

「え……」

 

メルキオルの叫び声で再び空を見上げる。

大きく、鈍い音を立てて動き出す列車砲。テロリストの最後っ屁がどうやら作動してしまったらしい。

オルキスタワーをまっすぐ見つめる二つの砲身。導力器の駆動音がどんどん高まっていく。

 

 

 

────それはどうかな。ボクは宰相閣下にとっても貴族派にとっても邪魔な存在……向こうでテロリストに襲われて、これが今生の別れかもしれないよ

 

オリビエさん。

 

 

────もう、決めましたから。お祖母様の後を継いで、この国を背負うと。ふふ、最後に背中を押してくれたのはラフィちゃんの言葉なんですよ?

 

クローゼさん。

 

 

────ラフィ、君は優しすぎるんだよ。僕もニナも、君のそんなところに惹かれはしたけど、同時にとても心配していることをわかっていてほしい

 

ワジ。

 

 

────ありがとー、ラフィ。⬛︎⬛︎⬛︎のこと、信じてくれて。⬛︎⬛︎⬛︎、ガンバるから。ゼッタイに見ててね!

 

⬛︎⬛︎⬛︎。

 

 

 

 

 

このままだと、みんな死ぬ。

 

 

『そんなのダメ。でしょう?』

 

 

うん。絶対に駄目。

まだみんなに会いたい。もう一度会って、話をしたい。

これで終わりなんて────絶対に嫌だ。

 

 

『ふふっ。ワタシ、あなたのそういう優しいところが本当に好きよ』

 

 

ああ、そう。お気に召したなら幸いだよ。

 

 

『ええ、大好きだから力を貸してあげる。

ワタシの使い方(枷の外し方)はもうわかるでしょう?』

 

 

……まァ、一応。つかアンタが無理やり脳に捩じ込んできたんだろ。

ホント、やり口が最悪だと思うけど。

 

 

『まあ、せっかく幻の子がくれた出会いなのよ? ワタシだって久々にピュアな恋を見られてワクワクしているんだから!』

 

 

チッ、マジでふざけんなよ……良いからさっさと行かせろ。

 

 

『もう、わかったわ。弄り甲斐のない子ね!生きる意思はあるみたいだからそれで勘弁してあげるわ。

 

さあ、お行きなさい。ラファエラ────ワタシの最後の愛し子(ウィステリア)

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨルダ、此処からなら転移も使えるかい!?」

「もう転移使っても意味ないでしょ!!イクス、操れない!?」

「無理だよ、あんなデカい銃弾2発も!!ボクの方が持ってかれちまうって!!」

 

あれやこれやと少ない時間で解決策を必死に見出そうとする三人。

出会った時はこれでもかというほど自分本位だったのに。人とは変われるものらしい。

……さて。

 

「メル。こっち向け」

「ラフィ? 何か案が────ぇ……」

 

うるさい口を塞ぐ。

 

視界が真っ青に染まり、背の皮膚を何か突き破るような感覚がした。

 

目を開けば、綺麗なカーネリアが驚いたという感情を体現するかのように見開かれている。

列車砲が轟音を立てて発射される風景をバックに、ああ、そんな顔初めて見たかも。やっぱり可愛いじゃん、なんてどうでも良いことを思いながら、女は微笑んだ。

 

あの天使の思い通りになるのは腹が立つが────確かに、己は心の奥底では、自分なりにこの男を愛しているらしい。

 

「ありがと。行ってくる」

「あ、え、あ、あぁ……え?」

「お姉ちゃん!!」

「行くってどこに!?」

 

惚けるメルキオルの後ろから双子がぴょこりと顔を出す。

二人の頭を撫でてから、バサリと翼を羽ばたかせ、天使は宙へと浮き上がる。

 

 

「決まってるだろ。列車砲を止めにだよ!」

 

 

グッと体にチカラを込め、弾丸の飛んでいった先へと一気に飛び立つ。

枷の外れた体は列車砲の大きく遅い弾丸よりも速くオルキスタワーの前に辿り着き、世界最高の高さを誇る塔を守るように翼を大きく広げた。

 

 

「ホントの使い方がこっちなんて、知ってたよ」

 

 

でも言われた通りにやるなんて癪だから、物理的に剣の雨を降らせていたんだ。

 

光る剣を飛んでくる弾丸へと向け、チカラをめいいっぱい込める。

 

が外れた体は痛みも感じず、後のことなど気にせずに全てを賭けることができた。

 

後ろで待つ、大切な人たちのために。魂も、肉体も、全てを捧げよう。

 

 

「天より顕れ、闇を祓い給へ」

 

 

力が剣の切先に集まる。

 

周囲に無数の剣が召喚され、同じように蒼い光をまるで溜め込むかのように留めていた。

 

 

あとは、放つだけだ。

 

 

 

 

「穿て────ネメシス=ブリンガー!!!!」

 

 

 

 

 

二対の砲弾が蒸発するのを見届けた後。

あっさりと消えた翼と、えげつない勢いの筋肉痛。背中からぼたぼた垂れた血液。

 

(あ、これ死んだかも)

 

すでに血を失ったせいで朦朧とする意識の中。

ふら、と宙から落ちる瞬間、オルキスタワーを構成するガラスを必死な表情で叩く、オリビエとクローゼが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、相変わらず無茶をするのね。ケビンといい勝負」

 

 

 

オルキスタワー、東側。

地に落ちた真っ赤な天使を拾い上げたのは、食いしん坊のシスターだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっとした短編集を拵えました。チラ裏で不定期にコソコソ投稿していきます
https://syosetu.org/novel/392536/
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